説明

筆記具用水性黒色インキ組成物及び筆記具

【課題】カーボンブラックを着色剤として用い、充分な黒色度を有する筆記具用水性黒色インキ組成物を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が60〜150nmの自己分散型カーボンブラックを含み、前記自己分散型カーボンブラックの含有量が3〜16質量%である筆記具用水性黒色インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性黒色インキ組成物及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆ペンを含むマーキングペンやサインペン等のインキには、着色剤として染料や顔料が用いられている。特に黒色インキの着色剤としては、カーボンブラックがよく使用される。カーボンブラックのような顔料は、インキ中で粒子径50nm程度の顔料粒子として存在していることから、経時的に顔料粒子が沈降してしまう。そこで、顔料粒子を分散させるための分散助剤(界面活性剤、高分子化合物等)を添加したインキ組成物が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】川端克彦監修、ぺんてる株式会社編「筆記用具の化学と材料」有限会社グレースラボラトリ発行、1995年1月20日、p.77−86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンブラックのような顔料は、染料よりも耐光性に優れ、また筆記後の経時的な退色が少ないことから、着色剤として有利である。しかしながら、従来、カーボンブラックを含むインキ組成物では、筆ペン等の筆記具に要求されるような充分な黒色度を達成できていなかった。
【0005】
本発明は、カーボンブラックを着色剤として用い、充分な黒色度を有する筆記具用水性黒色インキ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、平均粒子径が60〜150nmの自己分散型カーボンブラックを含み、上記自己分散型カーボンブラックの含有量が3〜16質量%である筆記具用水性黒色インキ組成物を提供する。
【0007】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、上記のように特定の平均粒子径を有する自己分散型カーボンブラックを特定の含有量で含むことにより、充分な黒色度(筆記後の黒さ)を有するものとすることができる。
【0008】
上記筆記具用水性黒色インキ組成物は、表面張力調整剤を含むことが好ましい。
【0009】
表面張力調整剤を含むことにより、筆記具のペン先からの上記筆記具用水性黒色インキ組成物の流出が滑らかになり、より充分な黒色度を有するものとすることができる。さらに、優れた書き味や書き易さ等の筆記具の機能を向上させることができる。
【0010】
上記筆記具用水性黒色インキ組成物は、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系樹脂のエマルションを含有することが好ましい。
【0011】
上記特定のガラス転移温度を有するアクリル系樹脂のエマルションを配合することにより、より一層充分な黒色度を有するものとすることができ、加えて、上記筆記具用水性黒色インキ組成物の耐水性及び耐擦過性を向上させることができる。
【0012】
本発明はまた、毛細管現象によりインキが筆記対象物に供給される筆記具であって、当該インキとして、上記本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物を含有する筆記具を提供する。この筆記具を用いることで、充分な黒色度の筆記が可能になる。なお、「筆記対象物」とは、筆記具で筆記をする対象を意味し、紙、布、フィルム等が含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、カーボンブラックを着色剤として用い、充分な黒色度を有する筆記具用水性黒色インキ組成物を提供することができる。上記筆記具用水性黒色インキ組成物は、特に筆ペンの用途に適しており、筆ペンの要求性能である高度の黒色度を有することができ、墨による書に近い黒さを表現することができる。しかも、カーボンブラックの分散安定性も非常に高く、且つ、筆記具用インキとしての耐水性、耐擦過性の高い筆記具用水性黒色インキ組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る筆記具のペン先の正面図である。
【図2】図1の筆記具のペン先のII−II線に沿った断面図である。
【図3】他の実施形態に係る筆記具のペン先の正面図である。
【図4】図3の筆記具のペン先のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】表1のインキ組成物を筆記したケント紙を示す写真である。
【図6】表1のインキ組成物を筆記したコピー用紙を示す写真である。
【図7】表2のインキ組成物を筆記したケント紙を示す写真である。
【図8】表2のインキ組成物を筆記したコピー用紙を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、平均粒子径が60〜150nmの自己分散型カーボンブラックを含んでおり、自己分散型カーボンブラックの含有量は、3〜16質量%である。
【0017】
本明細書において、「自己分散型カーボンブラック」とは、界面活性剤や樹脂等の分散助剤が存在しなくても、単独で水媒体中で分散することのできるカーボンブラックを意味する。例えば、表面にカルボキシル基や水酸基等の極性基を有する粒子状のカーボンブラック、表面を硝酸、オゾン、過酸化水素等の酸化剤で処理した粒子状のカーボンブラック等である。このような自己分散型カーボンブラックは、自己分散型カーボンブラック分散液として入手可能である。具体的には、BONJET BLACK CW−1(オリヱント化学工業株式会社製)、BONJET BLACK CW−2(オリヱント化学工業株式会社製)、BONJET BLACK CW−3(オリヱント化学工業株式会社製)、FUJI JET Black(富士色素株式会社製)、Aqua−Black 162(東海カーボン株式会社製)、Aqua−Black 001(東海カーボン株式会社製)等が挙げられる。中でも、本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物に用いた際に、優れた黒色度を達成することが可能であるため、BONJET BLACK CW−2、Aqua−Black 162、Aqua−Black 001が好ましい。
【0018】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物に用いる自己分散型カーボンブラックは、平均粒子径が60〜150nmのものである。平均粒子径が60nmより小さいと充分な黒色度が得られず、150nmを超えるとカーボンブラックの分散安定性が低下し、沈降が生じ得る。また、より黒色度を向上させる観点から、上記平均粒子径は、60〜140nmであることが好ましく、60〜100nmであることがより好ましい。
【0019】
一般に、黒色度を向上させる場合には、色むらを少なくできることから、例えば50nm以下の小さな粒子径のカーボンブラックを多数加える方がよい。一方、本発明においては、自己分散型カーボンブラックの平均粒子径は60〜150nmであり、むしろ中〜大粒子径のカーボンブラックに相当する。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、意外なことに黒色度が顕著に向上する。これは本発明者らが今回初めて見出した知見である。
【0020】
なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、動的光散乱式粒径分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製、型番LB−550)を用いて、カーボン屈折率を1.500−0.400i(i=虚数)として測定したメジアン径をいう。
【0021】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物において、自己分散型カーボンブラックの含有量はインキ組成物全量に対して3〜16質量%である。含有量が3質量%より少ないと充分な黒さが得られない。一方、含有量が16質量%を超えると筆記具のペン先からインクが流出しにくくなる。また、充分な黒さを得る観点とペン先からのインクの流出し易さを確保する観点から、含有量は、5〜12質量%であることが好ましく、7〜10質量%であることがより好ましい。
【0022】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、特に、インキが毛細管現象によってペン先へと移動するタイプの筆記具に好適に用いることができる。例えば、アクリル繊維等を熱硬化樹脂で焼き固め砲弾状に形状を整えた繊維焼結体ペン先を有する筆記具、数百μm程度の合成高分子管の中心に貫通穴のパターンを形成することにより毛細管を形成した合成高分子細杆体ペン先を有する筆記具、ウレタン発泡体ペン先を有する筆記具、合成又は天然の毛を筆同様に束ねたペン先を有する筆記具等が挙げられる。
【0023】
このような筆記具用水性黒色インキ組成物は、毛細管現象によりインキが筆記対象物に供給される筆記具に適用することができる。すなわち、ペン先から筆記対象物に対して毛細管現象でインキが供給される筆記具に好適に用いることができる。図1は、一実施形態に係る筆記具のペン先の正面図である。このペン先は合成高分子細杆体ペン先に相当する。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。合成高分子管10の内部に貫通穴20が形成された合成高分子11からなる内部層が設けられており、当該内部層が微細なパターンを示す。貫通穴20の長径は150〜650μm程度、短径は10〜100μm程度であり、毛細管現象によりインキ組成物がこの貫通穴20を通って筆記対象物へと到達する。貫通穴20が形成された合成高分子11の微細なパターンは、図2に示したパターンに限られるものではなく、貫通穴20をインキ組成物が毛細管現象によって通ることができるようなパターンであればよい。例えば、円形状、直線形状、直線が交差した形状等の貫通穴20が形成されたパターンであってもよい。合成高分子菅10を構成する高分子と合成高分子11は異なる高分子であっても同一の高分子であってよい。また、合成高分子菅10と内部層(貫通穴20が形成された合成高分子11)が一体となっていてもよい。
【0024】
図3は、他の実施形態に係る筆記具のペン先の正面図である。このペン先は合成又は天然の毛を筆同様に束ねたペン先に相当する。図4は、図3中のIV−IV線に沿った断面図である。合成又は天然の毛からなる繊維30が密に束ねられており、インキ組成物は繊維30間を毛細管現象により筆記対象物へと到達する。繊維30間の距離は、20〜200μm程度である。
【0025】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、表面張力調整剤を含むことが好ましい。表面張力調整剤は、インキ組成物の表面張力を減少させるものであればよい。これにより、インキ組成物と筆記具本体及びペン先との濡れ性が改善され、インキ組成物がより滑らかにペン先から連続的に流出するようになり、より一層黒色度を向上させることができる。さらに、筆跡のかすれをより低減することができるため、優れた書き味や書き易さ等の機能がより向上した筆記具とすることができる。
【0026】
表面張力調整剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等を好ましく利用することができ、具体例として、三洋化成工業株式会社製非イオン界面活性剤ノニポールシリーズ、第一工業製薬株式会社製非イオン界面活性剤ノイゲンEA−142、ET−143等が挙げられる。
【0027】
表面張力調整剤の含有量は、インキ組成物全量に対して0.1〜0.5質量%であることが好ましい。0.1質量%以下であると、インキ組成物と筆記具本体との濡れ性が悪くなる傾向にある。また、0.5質量%以上であると、筆記後のインキ組成物が乾燥した際に表面張力調整剤が析出する傾向にあり、これによって黒色度が低下するおそれがある。より好ましくは0.2〜0.4質量%である。
【0028】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、製膜性のある有機樹脂からなる固着樹脂として、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系樹脂のエマルションを含有することが好ましい。また、アクリル系樹脂のガラス転移温度は、−10℃以下であることがより好ましい。このアクリル系樹脂は酸価が0〜100であるものとすることができる。また、アクリル系樹脂の酸価は10〜80であることが好ましく、20〜50であることがより好ましい。
【0029】
アクリル系樹脂エマルションを構成するアクリル系樹脂とは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(以下、「(メタ)アクリロイルモノマー」という。)を必須の単量体単位として含む樹脂をいう。なお(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基(CH=CHCOO−)又はメタクリロイル基(CH=CCHCOO−)を意味し、その他のモノマーについても同様に解釈する。アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリロイルモノマーの単独又は共重合体であっても、(メタ)アクリロイルモノマーと他のモノマー(エチレン、スチレン、酢酸ビニル、ビニルエーテル等のエチレン系不飽和モノマー等)との共重合体であってもよい。なお、本発明におけるアクリル系樹脂エマルションは、界面活性剤によりアクリル系樹脂を分散させたタイプ、保護コロイドによりアクリル系樹脂を分散させたタイプ、自己分散型アクリル系樹脂を界面活性剤や保護コロイドなしに(又はこれらと共に)分散させたタイプなど、アクリル系樹脂の分散物が水中に存在するものを広く含有する。
【0030】
アクリル系樹脂エマルションのガラス転移温度(Tg)は、FOX式により求めることができる。すなわち、モノマーiの単独重合物のTgがTgであり、モノマーiの質量分率がWであるとすると、アクリル系樹脂エマルションのTgは、1/Tg=W/Tg+W/Tg+…+W/Tgの式で算出できる(W+W+…+W=1)。Tgはまた、TMA法、DSC法、動的粘弾性測定等でも測定可能である。
【0031】
アクリル系樹脂エマルションの含有量は、筆記具用水性黒色インキ組成物全量に対して、アクリル系樹脂換算で1〜10質量%とすることができ、3〜8質量%とすることが好ましく、5質量%とすることがより好ましい。
【0032】
アクリル系樹脂エマルションとしては、具体的には、JSR株式会社製AE−986B、旭化成ケミカルズ株式会社製ポリトロンE559S、東洋インキ製造株式会社製TOCRYL W−168、DIC株式会社製ボンコートSA−6340、HY−364、東亜合成株式会社製ジュリマーAT−210、AT−510を例示することができる。これらは複数種を混合して用いてもよい。
【0033】
アクリル系樹脂エマルションにより、筆記後インキ組成物が筆記対象物により強固に固着(定着)するため、耐水性、耐擦過性により優れたものになる。
【0034】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、上述の各成分に加えて、防腐剤、遅乾剤、消泡剤等を含んでいてもよい。
【0035】
防腐剤としては、微生物の増殖を抑制する静菌作用を有する化合物を用いることができる。具体的には、住化エンビロサイエンス(株)製BC−450、大和化学工業株式会社製アモルデンFS−14D、日本エンバイロケミカルズ(株)製DT−33、DT−512等を例示できる。これらは複数種を混合して用いてもよい。防腐剤の添加量は、自己分散型カーボンブラックを100質量部とした場合に、0.6〜3.5質量部とすることができる。
【0036】
遅乾剤としては、沸点が室温(20℃)よりも高いアルコールを用いることができる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類及びグリセリン等を例示することができる。これらは複数種を混合して用いてもよい。遅乾剤の添加量は、インキ組成物全量に対して、10〜25質量%とすることができる。
【0037】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤(ジメチルシロキサン系消泡剤)や、有機系有機系消泡剤(界面活性剤、ポリエーテル、高級アルコール等)を用いることができる。具体的には、サンノプコ株式会社製ノプコ8034、第一工業製薬株式会社製アンチフロスF233、F102等を例示することができる。これらは複数種を混合して用いてもよい。消泡剤の添加量は、自己分散型カーボンブラックを100質量部とした場合に、0.06〜0.4質量部とすることができる。
【0038】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、例えば、所定量の水に、所定量の防腐剤、表面張力調整剤、消泡剤及び遅乾剤を添加し、プロペラ撹拌機又は高速ホモジナイザー(例えば、プライミクス株式会社製)で10〜60分間撹拌した後、所定量の自己分散型カーボンブラック分散体を除々に投入し、その後所定量の固着樹脂を配合し、更に10〜60分間撹拌することによって製造することができる。
【0039】
本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は、充分な黒色度を有していることから、黒色を目的とする筆記具に好適に用いることができる。筆記具としては、マーキングペンやサインペン、筆ペン、ボールペン等が挙げられ、中でも筆ペンが特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。
【0041】
〔インキ組成物の調製〕
表1及び表2に示したインキ組成物組成にしたがい、水、防腐剤(DT−512;日本エンバイロケミカルズ(株)製)、表面張力調整剤(ノイゲンEA−142;第一工業製薬株式会社製)及び遅乾剤(グリセリン)を高速ホモジナイザー(プライミクス株式会社製)で30分間撹拌した後、自己分散型カーボンブラック分散体(表2に示したインキ組成物ではAqua−Black 001;東海カーボン株式会社製)を除々に投入し、その後固着樹脂(TOCRYL W−168;東洋インキ製造株式会社製)を添加し、更に30分間撹拌してインキ組成物を得た。
【0042】
〔インキ組成物の評価〕
(1)コーター黒さ(目視)
表1及び表2に示した組成にしたがって調製したインキ組成物をINK塗布具(No.2バーコーター、膜厚:約4.58μm)を用いてケント紙(厚さ:0.17mm、重量:125kg/1000枚)に塗布し、塗布面を十分に乾燥させた。その後、塗布面を並べて5人のテスターによる比較目視を行い、◎(より黒い)、○(黒い)、△(黒さが少し足らない)、×(黒さが足らない)の4段階で評価した。
【0043】
(2)筆記黒さ(目視)
表1及び表2に示した組成にしたがって調製したインキ組成物を充填した筆記具(合成高分子細杆体ペン先を有するペン)を用い、筆記によりケント紙(厚さ:0.17mm、重量:125kg/1000枚)に塗布し、塗布面を十分に乾燥させた。その後、塗布面を並べて5人のテスターによる比較目視を行い、◎(より黒い)、○(黒い)、△(黒さが少し足らない)、×(黒さが足らない)の4段階で評価した。
【0044】
(3)L*値
コーター黒さを評価した試験片について、分光測色計(Minolta社製、型番CM−2600d)を用いて明度を測定した。3回測定を行い、測定値の算術平均値をL*値とした。
【0045】
(4)濃度(D)
コーター黒さを評価した試験片について、Densitometer(米国X−Rite社製、型番310TR)を用い、JIS K7654の幾何条件に従って反射濃度測定を行った。
【0046】
(5)平均粒子径(メジアン径)
動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、型番LB−550)を用い、カーボン屈折率を1.500−0.400i(i=虚数)として、自己分散型カーボンブラックの粒子径分布を測定した。得られた粒子径分布の中央値を平均粒子径(メジアン径)とした。
【0047】
(6)初期INK流出性
表1及び表2に示した組成にしたがって調製したインキ組成物を筆記具(合成高分子細杆体ペン先を有するペン)に充填し、ペン先が下向きになるように放置してインキがペンの芯先に滲んでいることを確認した後、コピー用紙に約5cm程度の直線を10本筆記し、書かれた筆記線の書き始めから書き終わりまでの筆記線の状態を「×=かすれる、△=薄い、○=問題なし」の3段階に評価した。
【0048】
(7)再筆記インク流出性
表1及び表2に示した組成にしたがって調製したインキ組成物を筆記具(合成高分子細杆体ペン先を有するペン)に充填し、ペン先が下向きになるように放置してインキがペンの芯先に滲んでいることを確認した後、コピー用紙に約5cm程度の直線を10本筆記した。その後、ペン先が上向きになるようにして48時間放置し、再度コピー用紙に筆記を行い、書かれた筆記線の書き始めから書き終わりまでの筆記線の状態を「×=かすれる、△=薄い、○=問題なし」の3段階に評価した。
【0049】
(8)再筆記乾燥性
表1及び表2に示した組成にしたがって調製したインキ組成物を筆記具(合成高分子細杆体ペン先を有するペン)に充填し、ペン先が下向きになるように放置してインキがペンの芯先に滲んでいることを確認した後、コピー用紙に約5cm程度の直線を10本筆記した。筆記後のペンを、キャップをせずに24時間の室内で放置した後、再度キャップを装着し24時間後、コピー用紙に筆記を行い、書かれた筆記線の書き始めから書き終わりまでの筆記線の状態を「×=かすれる、△=薄い、○=問題なし」の3段階に評価した。
【0050】
(9)粘度
表1及び表2に示した組成にしたがって調製したインキ組成物を20℃±1℃の状態に30分以上静置した後、粘度計(株式会社トキメック製、B型粘度計RB-80L)により、BLアダプター・BLローターを用いて、60rpm、5分で測定した値を粘度とした。
【0051】
〔自己分散型カーボンブラック平均粒子径の比較〕
平均粒子径の異なる自己分散型カーボンブラックを用いてインキ組成物を調製し、その物性を評価した結果を表1に示した(実施例1〜5及び比較例1)。
【表1】

【0052】
自己分散型カーボンブラックの平均粒子径が62nm以上のインキNo.2〜6では、コーター黒さ(目視)の評価において、十分な黒さを得た。一方、平均粒子径が54nmのインキNo.1では、コーター黒さ(目視)の評価において、黒さが足りなかった。
【0053】
また、濃度(D)は平均粒子径の増加に伴って増加した(表1)。本実施例における濃度(D)は反射濃度に対応しているため、反射率が低いほど濃度(D)は高い値を示す。すなわち、平均粒子径の増加に伴い、黒色が濃くなったことを示している。インキ組成物に含まれる自己分散型カーボンブラックの含有量は全て9.0質量%で一定であるため、平均粒子径が小さくなるほど、インキ組成物に含まれる自己分散型カーボンブラックの粒子数が多くなり、より黒さが濃くなるものと考えられるが、意外なことに、本実施例の結果は逆の結果を示した。
【0054】
さらに、L*値は平均粒子径の増加に伴って減少した(表1)。L*値は明度を示しているため、低いほど黒色が濃いことを示している。したがって、L*値の測定結果からも、平均粒子径の増加に伴って黒さが濃くなることが示された。
【0055】
図5は、No.2バーコーターを用いて表1に示したインキ組成物を塗布したケント紙の写真である。図5中、インキ1〜8は以下のものに対応する。
1:自己分散型ではないカーボンブラックを用いた従来のインキ組成物1
2:自己分散型ではないカーボンブラックを用いた従来のインキ組成物2
3:実施例4のインキ組成物
4:実施例1のインキ組成物
5:比較例1のインキ組成物
6:実施例2のインキ組成物
7:実施例3のインキ組成物
8:自己分散型ではないカーボンブラックを用いた従来のインキ組成物3
【0056】
図6は、No.2バーコーターを用いて表1に示したインキ組成物を塗布したコピー用紙の写真である。図6中のインキ1〜8は上述した通りである。
【0057】
インキ1及び2は、青みがかった黒色であった(図5及び6)。一方、インキ3、4、6及び7は、青みがかったり赤みがかったりすることなく、墨による書に近い黒さを有していた(図5及び6)。また、いずれも充分な黒色度を有しており、特にインキ3の黒色度は顕著なものであった(図5及び6)。
【0058】
〔自己分散型カーボンブラック含有量の比較〕
自己分散型カーボンブラックとしてAqua−Black 001(東海カーボン株式会社製)を用い、その含有量が異なるインキ組成物を調製し、物性を評価した(表2)。
【表2】

【0059】
自己分散型カーボンブラック含有量がインキ組成物全量に対して3質量%以上のとき、コーター黒さ(目視)及び筆記黒さ(目視)の評価において、いずれも充分な黒さを得た(表2)。一方、自己分散型カーボンブラック含有量がインキ組成物全量に対して3質量%より少ないと、コーター黒さ(目視)及び筆記黒さ(目視)の評価において、黒さが足りなかった(表2)。
【0060】
濃度(D)は自己分散型カーボンブラック含有量の増加に伴って増加し、L*値は自己分散型カーボンブラック含有量の増加に伴って減少した(表2)。図7及び8は、表2に示したインキ組成物をNo.2バーコーターを用いて塗布したケント紙及びコピー用紙の写真である。なお、図7及び8中、CB濃度とは自己分散型カーボンブラックの含有量を指し、%は全て質量%を意味する。ケント紙又はコピー用紙のいずれを用いたときでも、自己分散型カーボンブラック含有量が3質量%以上で優れた黒さが得られた(図7、8)。これらの結果は、目視による黒さ判定の結果とよく相関していた。
【0061】
一方、自己分散型カーボンブラック含有量がインキ組成物全量に対して16質量%を超えると、初期INK流出性、再筆記インク流出性の評価において、筆記線がかすれるか、又は薄いという結果が得られた(表2)。自己分散型カーボンブラック含有量の増加に伴って粘度も増加したことが原因であると考えられた(表2)。
【0062】
以上の実施例の結果より、本発明の筆記具用水性黒色インキ組成物は筆記具に用いられた際、黒色筆記具に要求される黒色度を有しており、筆記跡のかすれ等がないことが示された。
【符号の説明】
【0063】
10…合成高分子管、11…合成高分子、20…貫通穴、30…繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が60〜150nmの自己分散型カーボンブラックを含み、前記自己分散型カーボンブラックの含有量が3〜16質量%である筆記具用水性黒色インキ組成物。
【請求項2】
表面張力調整剤を含む、請求項1に記載の筆記具用水性黒色インキ組成物。
【請求項3】
ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系樹脂のエマルションを含有する、請求項1又は2に記載の筆記具用水性黒色インキ組成物。
【請求項4】
毛細管現象によりインキが筆記対象物に供給される筆記具であって、
前記インキとして、請求項1〜3のいずれか一項に記載の筆記具用水性黒色インキ組成物を含有する筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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