説明

筋タンパク質増強剤及びこれを含む医薬品または食品

【課題】
近年の高齢者増加により寝たきりの患者が増えており、それにともない褥瘡が社会問題となっている。本発明は、褥瘡の予防、病状の改善に際し、筋肉組織に注目し、筋タンパク質を増強し、良質な筋肉を維持または回復する筋タンパク質増強剤を提供するものである。
【解決方法】
構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を15質量%以上含むリン脂質を有効成分とする筋タンパク質増強剤。前記リン脂質が魚卵由来である筋タンパク質増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋タンパク質増強剤及びこれを含む医薬品または食品に関する。さらに詳細には、構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を含むリン脂質を有効成分として含む筋タンパク質増強剤及びこれを含む医薬品または食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢者増加により寝たきりの患者が増えており、それにともない褥瘡が社会問題となっている。褥瘡とは、持続的に皮膚を圧迫することで血流障害が生じ、皮膚の発赤から皮下組織を超えて、筋肉、骨に及ぶ潰瘍まで様々な重症度を示す創傷の1つである。入院・入所者における褥瘡有症率は4.2%、在宅者は7.0%となっており、また入院・入所者の発症例の7割以上は70歳以上であったと報告している。褥瘡の好発部位は仙骨部が約半数で、足部と足関節部、大転子部の順となっている(非特許文献1)。臨床現場では2時間ごとに体位変換がなされ、圧力が一箇所に集中しないような処置がされている。
【0003】
褥瘡の発生因子として、低栄養、貧血、体圧、摩擦、汚染などが挙げられるが、このなかでも低栄養と体圧が特に重要な因子である。体圧による圧迫では、骨突部付近の筋組織で虚血などの血流障害が生じ、虚血再還流で発生するフリーラジカルや壊死によって組織障害がおこり潰瘍となる。また、組織障害が起こると炎症状態となることが容易に想像がつくが、最近では褥瘡による変化自体が、筋肉での好中球の集積による炎症によって始まるといわれている(非特許文献2)。例えば、1998年にGoldsteinとSandersが、ブタのstage1の褥瘡で形態学的に炎症所見を報告している(非特許文献3)。また皮膚細胞に圧力を加えて、24時間培養すると、培養液中へのIL−1α、TNF−α、IL−8などのサイトカイン産生が増加したと報告されている(非特許文献4)。よって褥瘡は血流障害による炎症が重要な因子となる。
【0004】
一方、低栄養状態も褥瘡の重要な発生因子であるが、特に栄養源としての蛋白質の不足に大きな影響を受ける。蛋白質が不足すると生体の蛋白合成能が低下し、褥瘡の治癒能力が低下するばかりでなく、骨格筋の組織耐久性が低下し、上記の血流障害に対する抵抗性が低くなる。高たんぱく食を給付し栄養状態を改善しても、骨格筋の組織耐久性など筋肉の質を改善できなければ、褥瘡の予防や治癒促進には繋がらない。
【0005】
これまでにも褥瘡に効果が認められる栄養組成物として以下のものが公知である。例えば、特定組成のアミノ酸を有する栄養剤(特許文献1)、特定の植物粉末もしくは抽出物を含む生体コラーゲン合成促進剤(特許文献2)、亜鉛と銅を特定の処方で含む流動食(特許文献3)、クロム、亜鉛、銅、セレンおよびポリフェノールなどのSOD様活性物質を含む栄養組成物(特許文献4)、キチンもしくはキトサンの分解物を含む栄養剤(特許文献5)、特定のビタミンとミネラルと蛋白質の組成からなる栄養組成物(特許文献6)、特定のミネラルとビタミンの組成からなる栄養組成物(特許文献7)が知られている。
ここで、特許文献1、3、4、6、7は適切なバランスでの栄養成分の補給を目的とするものであり特殊な生理活性素材に言及した発明ではなく、また特許文献1は筋タンパク質組織の構成物質そのものを補給することを目的とし、更には腎機能が低下した高齢者に対しては、血液尿素(BUN)値の上昇が推測され使用しにくい栄養組成であると言える。特許文献3、4、6、7は筋タンパク質増強による筋肉の組織耐久性向上は期待できない。特許文献2、5は植物粉末および動物性食物繊維による方法であるが、体組織成分そのものを補給することを目的としたものであり、筋タンパク質増強による筋肉の組織耐久性向上を目的としたものではない。
【0006】
【非特許文献1】臨床栄養 Vol.99 No.1 2001.7 22−27 豊永敏宏
【非特許文献2】Salcido R, Popescu A, Ahn C: Animal modes in pressure ulcer reseach. J Spinal Cord Med, 30, 107−116, 2007
【非特許文献3】Goldstein B, Sanders J: Skin response to repetitive mechanical stress: a new experimental model in pig. Aech Phys Med Rehabil, 79, 265−272, 1998
【非特許文献4】Bronneberg D, Spiekstra S W, Coenelissen L H, Oomens C W, Gibbs S, Baaijens F P, Bouten C V: Cytokine and chemokine release upon prolonged mechanical loading of the epidermis. Exp Dermatol, 16, 567−573, 2007
【特許文献1】特開平11−130669号公報
【特許文献2】特開2003−277286号公報
【特許文献3】特開2004−41006号公報
【特許文献4】特開2005−213234号公報
【特許文献5】特開2006−50935号公報
【特許文献6】特開2006−131611号公報
【特許文献7】WO2006/033349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、褥瘡の予防、病状の改善に際し、筋肉組織に注目し、組織耐久性向上のため筋タンパク質を増強し、良質な筋肉を維持または回復させることを検討した。そして、本発明において、構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を含むリン脂質に、筋タンパク質増強効果があることが見出されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の第1〜4の発明である。本発明の第1の発明は、構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を15質量%以上含むリン脂質を有効成分とする筋タンパク質増強剤。
【0009】
本発明の第2の発明は、第1の発明のリン脂質が魚卵由来である筋タンパク質増強剤。
【0010】
本発明の第3の発明は、第1の発明または第2の発明の筋タンパク質増強剤を含む医薬品。
【0011】
本発明の第4の発明は、第1の発明または第2の発明の筋タンパク質増強剤を含む食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の発明または第2の発明によれば、筋タンパク質の増強剤を提供できる。特に褥瘡患者など、蛋白質を主とした栄養状態が低下し筋タンパク質が損失している場合に、炎症が生じている場合においても、筋肉中の筋タンパク質を増加させ良質な筋肉を維持または回復し、筋肉の組織耐久性を向上させることができる。筋肉の組織耐久性が向上することにより、褥瘡の予防、病状の改善が期待できる。本発明の第3の発明または第4の発明より、筋タンパク質の増強効果のある医薬品または食品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、筋タンパク質増強剤とは、筋肉中の筋タンパク質量を増加させるものであり、特に、褥瘡患者など、蛋白質を主とした栄養状態が低下し筋タンパク質が損失している場合に、これを増加させるのに効果があるものである。
【0014】
本発明において、構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を15質量%以上含むリン脂質を使用する。リン脂質中のドコサヘキサエン酸含量は15質量%以上含むリン脂質は、後述するように天然由来の魚卵から容易に抽出できる。リン脂質中のドコサヘキサエン酸含量は高いほどが好ましく、20質量%以上がより好ましく、更には25質量%以上が好ましい。一般的なリン脂質の構造式を下記式(1)に示す。
【0015】
【化1】

【0016】
式中のR及びRは、炭素数6〜24の脂肪酸残基より選ばれる基を示し、RとRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Rは、種々の極性基を有するリン酸が脱水結合した構造をとる。極性基は主にコリン基、エタノールアミン基、セリン基、イノシトール基、グリセロール基または単に水素であり、その種類によりホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸と分類される。
【0017】
本発明に使用する構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を15質量%以上含むリン脂質とは、R及びRで表される炭素数6〜24の脂肪酸残基の総量において、ドコサヘキサエン酸残基が15質量%以上であるリン脂質である。本発明において、R及びRは、すべてドコサヘキサエン酸残基であることが好ましいが、Rがドコサヘキサエン酸残基であり、Rがパルミチン酸残基、オレイン酸残基またはステアリン残基のリン脂質も好ましく使用できる。
【0018】
本発明に使用するリン脂質について、その極性基の種類及び割合は、ホスファチジルコリンが50質量%以上であることが好ましく、更には70%質量%以上がより好ましい。
【0019】
本発明に使用するリン脂質は、合成化合物でも天然物でもかまわない。合成化合物の場合は、グリセロホスファチジルコリンと遊離脂肪酸もしくはエチルエステルであるドコサヘキサエン酸を用いて合成したリン脂質が挙げられる。また、天然物から抽出したものとしては、頭足類の皮(特開平6−321970号公報)、魚卵(特公平7−595869号公報)、水産餌料で育てた鶏卵黄、オキアミ、鮭肉、ホタテなどの貝類(特開平11−123052号公報)、青魚(特開昭64−50890号公報)、ドコサヘキサエン酸産生微細藻類(特開平7−95875号公報)、ドコサヘキサエン酸産生微生物(特開平1−199588号公報)、魚類の生殖腺油などの内臓(特開2006−96674号公報)などが挙げられる。この中でも工業的な規模で原料入手が可能な鰹、鮪、鯖、鰯、鱈、鯛、鰈、平目、鮫、鮭、鱒などの魚卵が好ましく、特に鮭や鱒の塩漬け卵である筋子、筋子を解したイクラ等の抽出物が、入手が容易であることや、リン脂質を構成する脂肪酸組成や極性基の観点から、最も好ましい。
【0020】
例えば、イクラからエタノールを溶剤として抽出した魚卵油は、リン脂質が20〜50質量%含まれ、リン脂質の構成脂肪酸中のドコサヘキサエン酸が20〜35質量%であり、本発明の筋タンパク質増強剤としての使用に適している。なお、リン脂質画分中には、ホスファチジルコリンが60〜95質量%、ホスファチジルエタノールアミンが5〜25質量%含まれている。
【0021】
このようなリン脂質の生理効果として以下のものが公知である。例えば、アディポネクチン上昇剤(特開2006−306866号公報)、内臓脂肪蓄積抑制食品(特開2006−304792号公報)、環境変化に順応する知能力の向上剤(特開2005−104893号公報)、サイトカイン抑制剤(特開2000−159667号公報)、経口用抗アレルギー性組成物(特開2000−86521号公報)、学習能向上剤(特開平06−256179号公報)、抗ストレス剤(特開2006−96674号公報)、血中脂質改善剤(特開2005−187476号公報)、視力向上剤(特開2004−115429号公報)、交感神経の興奮抑制剤(特開2004−67537号公報)、脳卒中予防剤およびこれを配合してなる組成物(特開2000−239168号公報)、血中脂質改善剤および食品添加物(特開平10−17475号公報)、アセチルコリン放出促進剤(特開平7−309773号公報)、脳機能改善効果を有する機能性食品(特開平7−143862号公報)、脳機能改善組成物、学習能力増強剤、記憶力増強剤、痴呆予防剤、痴呆治療剤、または脳機能改善効果を有する機能性食品(特開平7−17855号公報)、肝機能改善剤(特開平5−339154号公報)が知られている。しかし、これらで褥瘡に効果のあるものや、骨格筋の筋タンパク質に関する開示はない。
【0022】
なお、ドコサヘキサエン酸は化学式C2232で示され、分子量が328.50で、4,7,10,13,16,19位にシス二重結合を有する炭素数22、n−3系列の直鎖不飽和脂肪酸である。ドコサヘキサエン酸はイワシ、アジなど魚類に多く含まれるが、生体内では、脳や網膜に局在している。ドコサヘキサエン酸はいわゆるn−3系列の不飽和脂肪酸を前駆体として、α−リノレン酸(18:3、n−3)から2回の鎖長伸長、不飽和化、鎖長短縮の酵素系を経由して工業的に合成することができる。
【0023】
本発明において、本発明のリン脂質のヒトにおける適正摂取量は、本実施例の摂取量と「ラットでの体重1kgの有効量の約1/50がヒトでの適正摂取量である」との一般則から算定することができる。この一般則から導かれる本発明のリン脂質の1日の摂取量は、0.1〜25g、好ましくは0.5〜10質量g、更に好ましくは1〜5gである。
【0024】
本発明のリン脂質である筋タンパク質増強剤は、高タンパク質食とともに摂取するとより効果が高まる。低タンパク食を摂取しつづけ、低栄養状態となった場合、高タンパク質食単独に替えることでも栄養状態の改善がなされるが、骨格筋中の筋タンパク質量の増強効果は、高タンパク質食に本発明のリン脂質を加えることにより一層高まることになる。ここで高タンパク質食とは、ヒトの場合、一般的に100kcalに換算してタンパク質4g以上、望ましくは5g以上であり、ラットなどの動物実験を行う場合は、飼料固形分100gに換算してタンパク質15g以上である。
【0025】
本発明の筋タンパク質増強剤は、構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を15%以上含むリン脂質を有効成分として含むものであるが、他の成分を含んでもかまわない。他の成分には、ドコサヘキサエン酸以外の脂肪酸、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、エイコサペンタエン酸を含むトリグリセライドやリン脂質、脂溶性ビタミン等が挙げられる。またドコサヘキサエン酸が摂取後の生体内で酸化を受けやすいことから、脂溶性の抗酸化剤、トコフェロール、α−リポ酸、CoQ10、カロチノイド、ルテイン、アスタキサンチン、プラズマローゲン、セサミンなどや水溶性の抗酸化剤、アスコルビン酸、アントシアニジン、カテキン、グルタチオン、没食子酸等が挙げられる。これらの成分は、本発明の栄養組成物の形態に応じて上記の中から単独で、又は適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の筋タンパク質増強剤は医薬品に使用できる。本発明のリン脂質である筋タンパク質増強剤は、これを含ませて常法にしたがって製剤化することができ、製剤としては固体でも、液体でもよく、例えば錠剤、丸剤、顆粒剤、糖衣剤、カプセル、乳剤、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物があげられ、医薬的に許容されるキャリアーを含んでもよい。このようなキャリアーは添加物であってもよく、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。また、製剤化においては、賦形剤を加えることができる。賦形剤としては、目的によって、充填剤、結合剤、凝固剤、滑たく剤、崩壊剤、色素、甘味料、香料、コーティング剤等を単独もしくは、これらを組み合わせて使用することができる。さらに本発明のリン脂質を、乳化剤によって乳化し使用することもでき、またリン脂質そのものの乳化作用を利用し乳化することもできる。
【0027】
本発明の筋タンパク質増強剤を含む医薬品の投与経路は、経口を含む経腸投与が可能である。経口投与の場合は、上記したような適当な剤型であるカプセルなどによる投与が可能である。本発明の栄養組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なる。投与方法は、患者の年齢、症状により上記の方法から適宜選択する。
【0028】
本発明のリン脂質である筋タンパク質増強剤は、これを含ませて食品として加工してもよい。食品は、食品の形態に特に制限はなく、一般の加工食品のほかに、健康食品、機能性食品、濃厚流動食、栄養補助食品、飲料及び食品を含む飲食物、または、これらの添加物とすることができる。具体的には、サプリメント、清涼飲料に配合することができるが、特に限定をされるものではない。また本発明の食品の態様としては、本発明のリン脂質をそのまま食材に混合したり、又は、液状、ゲル状、粉末状あるいは固形状の食品、例えば、飲料、茶、スープ、ゼリー、ヨーグルト、アイスクリーム、シャーベット、フローズンヨーグルト、プリン、ドレッシング、マヨネーズ、ふりかけ、味噌、醤油、焼肉のたれ等の調味料、麺類、ハムやソーセージ等の畜肉魚肉加工食品、ジャム、牛乳、クリーム、バターやチーズ等の粉末状、固形状又は液状の乳製品、マーガリン、パン、菓子類の原材料として加工して用いたりすることが挙げられる。本発明の食品は極めて多種類の形態にわたり、前記の例示に限定されるものではない。また、本発明のリン脂質は単独では酸化に弱いため、カプセル形態なども好ましい。
【0029】
本発明のリン脂質である筋タンパク質増強剤を含む食品は、食品の形態に応じて他の添加物を含むものであってもよい。このような添加物として、賦形剤、増量剤、結合剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、甘味料、酸味料、食品添加物、調味料等を挙げることができる。食品添加物としてはビタミン類、ミネラル、キチン、キトサン、レシチン、ローヤルゼリーなどが挙げられる。調味料としては、グラニュー糖、蜂蜜、ソルビットなどの甘味料、アルコール、クエン酸、リンゴ酸、洒石酸などの酸味料、香料、色素などが挙げられ、本発明の食品を好みの味や色に調整するために用いることができる。また、本発明の目的と関連する公知の素材を併用してもよい。
【0030】
本発明の食品は、当業者が通常行う方法により製造することができる。例えば、粉末状の食品を得るには、本発明のリン脂質に、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、マルトースなどの賦形剤を必要に応じて添加して、凍結乾燥、噴霧乾燥などの乾燥方法により粉末とすることにより得ることができる。また、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉又はその加工素材、セルロース末等の賦形剤、ビタミン、ミネラル、動植物や魚介類の油脂、タンパク質、糖質、色素、香料、その他の食用添加剤等と共に、当業者が通常行う方法により、粉末、顆粒、ペレット、丸剤、錠剤等に加工したり、ゼラチン等で被覆して、ハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセルに成形したり、あるいはドリンク類にして、栄養補助食品や健康食品として利用できる。本発明の筋タンパク質増強剤であるリン脂質を水不溶性カプセル中に封入したものを飲料に混ぜることにより飲料とすることもできる。このような形態はリン脂質の空気酸化を防ぐことができるので好ましい。
【0031】
本発明の食品は他の生理活性物質または健康食品素材と組み合わせても構わない。例えば、青汁、健康酢、健康茶、ローヤルゼリー、アロエ、ブルーベリー、プロポリス、イソフラボン、ノニ、核酸、にんにく、ウコン、酵素、高麗ニンジン、雑穀、納豆、イチョウ葉、発芽玄米、マカ、メシマコブ、ブドウ種子、スピルリナ、明日葉、フコイダン、牡蠣、馬油、桑葉、サラシア、ハナビラタケ、田七ニンジン、カシス、シジミ、キクイモ、コラーゲン、クロレラ、グルコサミン、キトサン、カルニチン、CoQ10、セラミド、オクタコサノールなどが挙げられる。
【0032】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
<実験動物>
実験動物は、5週齢のSD系雄性ラット(日本SLC株式会社)を用いた。温度22±2℃、12時間の明暗サイクル(8:00〜20:00)に点灯した飼育室でラットを1匹ずつ金網ケージに入れて管理した。それぞれの食事、水は自由摂取とした。また定時に体重、摂食量を測定した。
【0034】
<リン脂質>
実験に用いたリン脂質は、イクラから抽出した脂質含有魚卵油(商品名:サンオメガPC−DHA(日油株式会社製)、以下PC−DHAと記載する)を用いた。この組成を分析したところ、リン脂質含量は27.8%であり、リン脂質を構成する脂肪酸組成のうちドコサヘキサエン酸の割合は28.1%であり、リン脂質を構成する極性基の種類は、73.7%がホスファチジルコリンであった。
リン脂質の分析は、PC−DHA100gを−80℃で冷却した1Lのアセトン中に滴下し不溶成分として沈殿したリン脂質画分を濾過して溶媒を留去して再抽出し、脂肪酸組成分析はガスクロマトグラフィーにより、極性基の種類は薄層クロマトグラフィーに脂質をスポットし、展開溶媒をクロロホルム−メタノール−水(65:25:4(v/v))で分離し、50%硫酸で検出を行い、デンシトメータのシグナル比で定量することにより求めた。なお脂肪酸組成の詳細なデータを表1、極性基組成の詳細なデータを表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
<実験食>
実験食の組成を表3に示した。5%カゼイン食を5N及び5L、20%カゼイン食を20L、20%カゼイン食にPC−DHAを11.8g添加したものを20LDと表示した。
【0038】
【表3】

【0039】
<結紮術>
ラットはネンブタール麻酔下で、左脚の大腿動脈および大腿神経後枝を結紮した。
【0040】
<予備実験>
ラットを2群に分け、一方の群のみ結紮を行った。実験開始から4週間にわたり両群とも5%カゼイン食を自由摂取させ、結紮をしない群を5N群(n=6)、結紮する群を5L群(n=6)とした。4週間後に解剖を行い、ヒフク筋におけるTNF−αのmRNA発現量を測定した。その結果を図1に示す。5N群に比べ5L群は有意に発現量が増加しており、低カゼイン食および結紮することにより、充分に炎症状態となっていることを確認した。
【0041】
<実験群>
すべてのラットについて結紮を行った。実験開始から3週間はすべて5%カゼイン食を自由摂取させ低タンパク質状態にした。3週間後、ラットを群間の平均体重が同じになるように2群に分け、回復食として、20%カゼイン食を与える20L群、20%カゼイン食にPC−DHAを加えた食事を与える20LD群を設けた。20L群(n=6)、20LD群(n=7)とした。プロトコールは図2に示す。
【0042】
<解剖>
回復食を1週間与えた後に、ジエチルエーテル麻酔下で開腹し、ヘパリン処理済の注射針とシリンジを用いて下大静脈より採血した。また、ヒフク筋を採取し、重量を測定した後、液体窒素で凍結後分析に用いるまで−80℃で保存した。
【0043】
<血液成分の測定項目および測定方法>
5%カゼイン食を開始する日を「pre」とし、毎週尾静脈よりヘマトクリット管を用いて採血した。ヘマトクリット用遠心分離機にて遠心分離(12,000rpm、10分)し、血漿を得た。得られた血漿は自動生化学分析装置(CL−8000、島津製作所製)を用いて血漿アルブミン(ALB)濃度を改良BCG法で測定した。なお分析試薬は株式会社セロテックのキットを用いた。
【0044】
<ヒフク筋タンパク質量測定>
ヒフク筋の1000倍希釈ホモジネート液をサンプルとして用いた。ヒフク筋タンパク質量は、ローリー法にて測定した。
【0045】
<統計学的処理>
結果は、平均値と標準偏差で表した。統計学的解析は、Student‘s t−testもしくはscheffe’s F−testを用いp<0.05のものを統計学的に有意とした。
【0046】
<エネルギー摂取量>
回復食を1週間与えた時のエネルギー摂取量を図3に示した。20L群(20%カゼイン食を与える群)と20LD群(20%カゼイン食にPC−DHAを加えた食事を与える群)でエネルギー摂取量の有意な差異はなかった。
【0047】
<タンパク質摂取量>
回復食を1週間与えた時のタンパク質摂取量を図4に示した。20L群(20%カゼイン食を与える群)と20LD群(20%カゼイン食にPC−DHAを加えた食事を与える群)でタンパク質摂取量の有意な差異はなかった。
【0048】
<体重増加量>
回復食を1週間与えた時の体重増加量を図5に示した。20L群(20%カゼイン食を与える群)に比べ20LD群(20%カゼイン食にPC−DHAを加えた食事を与える群)で、有意差はなかったものの大きい傾向にあった。
【0049】
<血漿アルブミン濃度>
実験開始前と回復食投与前(3週間後)の血漿アルブミン濃度を図6に示した。血漿アルブミン濃度が有意に低下し、低栄養状態を再現できた。また回復食投与前(3週間後)と投与後(4週間後)の血漿アルブミン濃度を図7に示した。20L群(20%カゼイン食を与える群)も20LD群(20%カゼイン食にPC−DHAを加えた食事を与える群)も、血漿アルブミン濃度が高くなり、20LD群では、有意差をともない高くなった。
【0050】
<ヒフク筋重量>
回復食を1週間与えた後のヒフク筋重量を図8に示した。20L群(20%カゼイン食を与える群)も20LD群(20%カゼイン食にPC−DHAを加えた食事を与える群)も結紮していない右脚と比較し、左脚で有意差をともなって小さかった。20L群と比べて20LD群では、有意差はなかったものの大きい傾向にあった。
【0051】
<ヒフク筋あたりの筋タンパク質量>
回復食を1週間与えた後のヒフク筋あたりの筋タンパク質量を図9に示した。20L群(20%カゼイン食を与える群)と比べて20LD群(20%カゼイン食にPC−DHAを加えた食事を与える群)では、左右のヒフク筋とも有意差をともなって多かった。
【0052】
以上より、PC−DHA群、すなわち本発明のタンパク質増強剤を加えた群では、エネルギー摂取量とタンパク質摂取量が同じであったにも関わらず、体重増加と血漿アルブミン濃度が多い傾向にあり、特にヒフク筋あたりの筋タンパク質量が有意に多いことが分かった。骨格筋の筋タンパク質量が多いことは、脂肪などを多く含むいわゆる霜降り状態ではなく、圧迫や皮膚部への摩擦・ずれなどで組織が破壊されることのない組織耐久性の高い筋肉であることを意味する。筋肉の組織耐久性が高まることにより、本発明のタンパク質増強剤褥瘡の発症抑制および症状改善に有効であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ヒフク筋におけるTNF−αのmRNA発現量を示す図。
【図2】ラットの食事のプロトコールを示す図。
【図3】ラットのエネルギー摂食量を示す図。
【図4】ラットのタンパク質を示す図。
【図5】ラットの体重増加量を示す図。
【図6】実験開始前(pre)と3週間後(3w)の血漿アルブミン濃度を示す図。
【図7】投与前(3w)と投与後(4w)の血漿アルブミン濃度を示す図。
【図8】ヒフク筋量を示す図。
【図9】ヒフク筋あたりのタンパク質量を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を15質量%以上含むリン脂質を有効成分とする筋タンパク質増強剤。
【請求項2】
請求項1に記載のリン脂質が魚卵由来である筋タンパク質増強剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の筋タンパク質増強剤を含む医薬品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の筋タンパク質増強剤を含む食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−105946(P2010−105946A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278649(P2008−278649)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月5日 特定非営利活動法人日本栄養改善学会発行の「第55回日本栄養改善学会学術総会講演要旨集(栄養学雑誌第66巻第5号特別付録)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月6日 特定非営利活動法人日本栄養改善学会開催の「平成20年度第55回日本栄養改善学会学術総会」において文書をもって発表
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】