説明

筋萎縮性側索硬化症に対するバイオマーカー

【課題】本発明は、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を診断するための方法、ALSの治療における薬物の有効性を評価するための方法、および対象におけるALSの発症部位を決定するための方法を提供する。
【解決手段】各方法は、(a)対象から試料を得る工程、(b)質量分析により試料のタンパク質を分析する工程、および(c)試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程を含む。幾つかの実施態様において、該方法は、試料の質量スペクトルプロファイルを陽性または陰性標品の質量スペクトルプロファイルと比較する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府委託研究および開発に関する陳述)
本発明は、国立環境衛生科学研究所によって選定された認可番号ES013469のもと政府支援で部分的になされた。政府は本発明において一定の権利を有するであろう。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、筋萎縮性側索硬化症のバイオマーカーおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ルー・ゲーリック病または運動ニューロン疾患(MND)としても知られている筋萎縮性側索硬化症 (ALS)は、中枢神経系の数種の神経変性疾患のうちの一つである。ALSは、20,000人に1人が冒されており、発症平均年齢が50−55歳である、最も一般的な成人発症運動ニューロン疾患である。ALSは、脳、脳幹、および脊髄における運動ニューロンの急速な進行性変性により特徴付けられる(Cleveland et al., Nat. Rev. Neurosci., 2, 806-19 (2001))。診断時からの患者の生存期間中央値は5年である。
【0004】
ALSは、散発性および家族性型の両方が存在する。家族性ALS(FALS)は、全ALS症例のわずか5−10%である。過去10年間で、多くの基礎および治験研究が疾患の家族性型の理解に重点をおき、FALSに関連する8つの遺伝子変異体の同定につながった。Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ−1(SOD1)遺伝子の点突然変異体を発現しているトランスジェニックマウスは、毒性機能獲得によりヒトALSと同様な年齢依存的進行性運動麻痺を発現する(Rosen et al., Nature, 362, 59-62 (1993)、Rosen et al. Hum Mol Genet, 3, 981-987 (1994)、およびBorchelt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 8292-8296 (1994))。
【0005】
これらの遺伝子変異は、しかしながら、散発性ALS (SALS)を説明しない。SALSの病因は多因子性である。SOD1トランスジェニックマウス、インビトロ初代運動ニューロン培養または脊髄スライス培養、インビボ画像研究、および組織試料の死後調査を含む多くの異なるモデル系が、ALSの病因を理解するために利用されている (Subramaniam et al., Nat. Neurosci., 5, 301-307 (2002)、Nagai et al., J. Neurosci., 21, 9246-9254 (2001)、Menzies et al. Brain, 125, 1522-1533 (2002)、Kim et al. J. Neuropathol. Exp. Neurol., 62, 88-103 (2003)、およびRanganathan et al., Am. J. Pathol., 162, 823-835 (2003))。これらの研究が治療標的およびいくつもの臨床試験をもたらしてきたとはいえ、疾患の発症を遅らせるまたはALS患者の長期生存を長引かせる薬物はない。グルタミン酸アンタゴニストであるリルゾール(リルテック(Rilutek)(登録商標)、Aventis)は現在のところ、ALSを治療するために入手可能である唯一のFDA認可薬物である。リルゾールは、しかしながら、平均余命をほんの2〜3ヶ月しか伸ばさない(Miller et al., Amyotrophic Lateral Sclerosis & Other Motor Neuron Disorders, 4, 191-206 (2003))。クレアチンおよびα−トコフェノールは、SOD1トランスジェニックマウスにおいてALSの症状を緩和するのにいくばくかの効力が示されたが、ヒトALS患者においてはわずかな効力を示す(Groeneveld et al., Annals of Neurology, 53, 437-45 (2003)、およびDesnuelle et al., Amyotrophic Lateral Sclerosis & Other Motor Neuron Disorders, 2, 9-18 (2001))。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ALSの治療標的を同定するための改良された方法、および該疾患を診断するための改良された方法が依然として必要である。本発明はそのような方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を診断するための方法を提供する。該方法は、(a)対象から試料を得る工程、(b)質量分析により試料中のタンパク質を分析する工程、(c)試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、および(d)試料の質量スペクトルプロファイルを陽性または陰性標品の質量スペクトルプロファイルと比較する工程を含む。
【0008】
本発明はまた、筋萎縮性側索硬化症の治療における薬物の有効性を評価するための方法を提供する。該方法は、(a)筋萎縮性側索硬化症を患っている対象から第1の試料を得る工程、(b)質量分析により第1の試料中のタンパク質を分析する工程、(c)第1の試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、(d)対象に薬物を投与する工程、(e)工程(d)の完了後、対象から第2の試料を得る工程、(f)質量分析により第2の試料中のタンパク質を分析する工程、(g)第2の試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、および(h)第1の試料の質量スペクトルプロファイルを第2の試料の質量スペクトルプロファイルと比較する工程を含む。
【0009】
さらに提供されるのは、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症部位を決定するための方法である。該方法は、(a)対象から試料を得る工程、(b)質量分析により試料中のタンパク質を分析する工程、(c)試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程であって、ここで(i)3.26 kDaタンパク質ピーク、3.44 kDaタンパク質ピーク、および7.5 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む質量スペクトルプロファイルが対象の四肢におけるALSの発症を示し、ならびに(ii)2.4 kDaタンパク質ピーク、6.4 kDaタンパク質ピーク、12.1タンパク質ピーク、12.2 kDaタンパク質ピーク、12.2 kDaタンパク質ピーク、14.1 kDaタンパク質ピーク、および15.9 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む質量スペクトルプロファイルが対象の延髄部位におけるALSの発症を示す工程、を含む。
【0010】
本発明のこれらおよび他の長所、並びにさらなる発明の特性は、ここに示された本発明の説明から明白となるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明は、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を診断するための方法を提供する。該方法は、(a)対象から試料を得る工程、(b)質量分析により試料中のタンパク質を分析する工程、(c)試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、および(d)試料の質量スペクトルプロファイルを陽性または陰性標品の質量スペクトルプロファイルと比較する工程を含む。
【0012】
本明細書中で用いられる場合、用語「試料」は、対象から単離された生体材料を示す。対象は、任意の適切な動物であり得るが、好ましくは、マウス、ラット、サル、またはヒトなどの哺乳類である。前述の発明の方法は、対象が非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、サル、イヌなど)の場合に、疾患の動物モデルにおけるALSを診断するのに用いることができることが意図される。好ましい実施態様において、対象はヒトである。該試料は、任意の適切な生体材料を含み得るが、好ましくは特定の組織または生体液から得られた細胞を含む。試料は、任意の適切な組織または生体液から単離され得る。この点において、試料は、血液、血清、血漿、または尿であり得る。ALSは中枢神経系に影響を及ぼすので、試料は好ましくは、中枢神経系(CNS)(すなわち、脳および脊髄)の組織または生体液から単離される。本発明の特に好ましい実施態様において、試料は脳脊髄液(CSF)から単離される。CSFは、脳および脊髄の衝撃を和らげ、脳細胞外液を調節し、向神経活性物質の分布を可能とし、そして脳により生じた老廃物を回収する。CSFは、くも膜の内側の領域であるくも膜下腔内の頭蓋および脊椎を流れている。CNSからのニューロンおよびグリア細胞由来の多くの代謝産物が、CSFに分泌される。このように、CSFは脳の代謝状態を反映している。さらに、ALS患者由来のCSFは、グルタミン酸、グルタミン合成酵素、トランスグルタミナーゼ活性、γ−アミノ酪酸、および酸化損傷の様々なマーカーのレベルの変化を同定する生化学的アッセイに用いられてきた(例えば、Spreux-Varoquaux et al., Journal of the Neurological Sciences, 193, 73-78 (2002)、Shaw et al., Amyotrophic Lateral Sclerosis & Other Motor Neruon Disorders, 1, Suppl. 2, S61-67 (2000)、およびSmith et al., Ann. Neurol., 44, 696-699 (1998)参照)。
【0013】
試料は、例えば、生検、採血、採尿、腰椎穿刺(すなわち、脊椎穿刺)、脳室穿刺、および大槽穿刺によるなどの、当技術分野で公知の任意の適切な方法で得ることができる。本発明の好ましい実施態様において、試料は、脊椎穿刺または脳脊髄液採取とも呼ばれる、腰椎穿刺により得られる。腰椎穿刺は、通常は3番目と4番目の腰椎骨の間の、CSFが採取されるくも膜下腔への脊椎針の挿入を含む。腰椎穿刺を不可能または不確実にするであろう腰椎の奇形または感染がある場合、試料は脳室穿刺または大槽穿刺により採取され得る。脳室穿刺は典型的には、切迫脳ヘルニア形成の可能性のあるヒト対象においてなされる。脳室穿刺は、頭蓋内に穴を開け、そしてCSFを採取するために脳の側脳室内に直接針を挿入することを含む。大槽穿刺は、後頭骨(頭蓋の後ろ)の下方への針の挿入を含み、そして針が脳幹に接近するために危険である。
【0014】
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、およびALSのような多くの神経変性疾患は、疾患の表現型に寄与するタンパク質異常の蓄積または存在により特徴付けられ、ゆえに当技術分野で「タンパク質病(proteinopathies)」とも呼ばれる(Jellinger, Movement Disorders, 18, Suppl 6, S2-12 (2003)、およびPaulson, American Journal of Human Genetics, 64, 339-45 (1999))。生体試料中に存在する全てのタンパク質およびペプチド配列を一時に採取することは、当技術分野で「プロテオーム」と呼ばれることが多い。このように、本発明の方法は、特定の試料のプロテオームを分析する手段を提供する。当業者は、生体試料に存在するタンパク質のプロテオミクス解析は、試料中の全てのペプチド配列の系統的な分離、同定、および特徴付けを含むことを理解するであろう。試料中のタンパク質は、当技術分野で公知の任意の適切な方法により分離され得る。適切な方法には、例えば、遠心分離、イオン交換クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー、およびゲル電気泳動が挙げられる。好ましくは、試料中のタンパク質は、ゲル電気泳動(例えば、一次元または二次元ゲル電気泳動)を用いて分離される。最も好ましくは、試料中のタンパク質は、試料を二次元ゲル電気泳動(2DGE)に供することによって分離される。2DGEは典型的には、等電点分離法(IEF)を用いた電荷による一次元でのタンパク質の分離を含む。電荷で絞ったタンパク質は、その後SDS−ポリアクリルアミドゲルを用いてサイズにより二次元で分離される(例えば、Lin et al., Biochimica et Biophysica Acta, 1646, 1-10 (2003)、およびOng et al., Biomol. Eng., 18, 195-205 (2001)参照)。
【0015】
試料中のタンパク質の分離に続いて、各々のタンパク質は分離媒体から単離され得る。タンパク質は、ゲルからタンパク質「スポット」を抽出するなどの、任意の適切な手法を用いて単離され得る。ゲルからのタンパク質スポットの抽出は典型的には、ゲルからのスポットの物理的切除が挙げられる。
【0016】
一旦試料中のタンパク質が分離されると、本発明の方法は、質量分析により試料中のタンパク質を分析することを含む。質量分析において、物質は、分子をフラグメント化するのに充分なエネルギーを有する電子ビームで照射される。生じた陽性フラグメント(陽イオンおよびラジカル陽イオン)は、磁場を経て真空で加速され、質量電荷比 (m/z)に基づいて選別される。質量分析計において生じるイオンの多くは単位正電荷を保有するので、値m/zは典型的には、フラグメントの分子量に等しい。任意の適切な質量分析法が、本発明の方法と一緒に用いられ得る。適切な質量分析法の例には、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI)、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析、プラズマ脱離/イオン化質量分析(PDI)、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI)、および表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間型(SELDI−TOF)質量分析が挙げられる。質量分析の飛行時間型(TOF)法において、荷電(イオン化)分子が真空で生じ、イオン光学アセンブリーにより生じた電場により自由飛行チューブに、またはドリフト時間により加速される。分子が加速されるであろう速度は、加速電位の平方根、分子の電荷の平方根に比例し、分子の質量の平方根に反比例する。荷電分子は、TOFチューブの下方に移動し、検出器に至る。質量分析法はさらに、例えば、国際特許出願公開第WO 93/24834号、米国特許第5,792,664号、米国特許出願公開第2004/0033530Al、およびHillenkamp et al., Matrix Assisted UV-Laser Desorption/Ionization: A New Approach to Mass Spectroscopy of Large Biomolecules, Biological Mass Spectroscopy, Burlingame and McCloskey, eds., Elsevier Science Publ., pp. 49-60 (1990) に記載されている。
【0017】
本発明の好ましい実施態様において、試料中のタンパク質はSELDI−TOF質量分析により分析される。表面増強脱離/イオン化過程とは、基板(この上で試料がエネルギー源に提示される)が脱離/イオン化過程において能動的な役割を果たすこれらの過程をいう。この点において、基板(例えば、プローブ)は、試料提示のための単なる受台ではない。幾つかのタイプの表面増強基板が、表面増強脱離/イオン化過程で使用され得る。一実施態様において、表面は、所定のクラスの分子に優先的に結合する、陰イオン交換基または親水基(例えば、酸化ケイ素)のような親和性材料を含む。このような親和性材料の例には、例えば、シラノール (親水性)、CまたはC16アルキル(疎水性)、固定化金属キレート(配位共有)、陰イオンまたは陽イオン交換体(イオン性)あるいは抗体(生体特異性)が挙げられる。試料は、誘引力の特定の原則に従って被検分子に結合するために担体結合吸着体にさらされる。被検物が生体分子(例えば、タンパク質)の場合、エネルギー吸収物質(例えば、マトリクス)は典型的には、結合した試料に会合する。レーザーは、その後被検物を脱離およびイオン化するのに用いられ、それは検出器で検出される。SELDI−TOF質量分析について、各タンパク質ピークに対する質量精度は、+/−0.2%である。SELDI−TOF質量分析システムは、例えば、Ciphergen Biosystems, Inc.(Fremont, CA)から市販されている。表面増強脱離/イオン化法は、例えば、米国特許第5,719,060号、同第6,294,790号、および同第6,675,104号、および国際特許出願公開第WO 98/59360号に記載されている。
【0018】
当業者は、質量分析解析の出力結果が、「質量スペクトルプロファイル」または「質量スペクトル」と称される、試料中のタンパク質の質量電荷比 (m/z)の関数としての相対強度のプロットであると理解するであろう。タンパク質「ピーク」を示すヒストグラムとして典型的に表される質量スペクトルプロファイルは、分子量の確定に役立ち、そして化合物の構造が解析される。このように、本発明の方法はさらに、試料の質量スペクトルプロファイルを測定することを含む。スペクトルにおける最も強いピークは、基準ピークといわれ、そして全ての他のピークは、基準ピークの強度と比較して記録される。ピーク自体は、典型的には非常に鋭く、そして単に垂直線として表されることが多い。
【0019】
質量分析の間に試料中のタンパク質のフラグメント化により形成されるイオンは、タンパク質分子により形成される最も安定な陽イオンおよびラジカル陽イオンである。スペクトルにおいて観察される最も高い分子量ピークは典型的には、電子を差し引いた親分子を表し、そして分子イオン (M+)と呼ばれる。一般的に、13C、Hなどの天然同位体の存在度により計算された分子量を超える小さなピークもまた観察される。特に不安定なプロトンを有する多くの分子は、分子イオンを提示しない。例えば、アルコールの質量スペクトル中の最も高い分子量ピークは分子イオンより1つ少ないm/z(m−1)で生じる。フラグメントは、それらの質量電荷比により同定され得るが、失った質量によりそれらを同定することがより有益である場合がある。例えば、メチル基の消失はm−15にピークを発生させるであろうし、一方エチルの消失はm−29にピークを発生させるであろう。
【0020】
本発明の方法はさらに、試料の質量スペクトルプロファイルを陽性または陰性標品の質量スペクトルプロファイルと比較することを含む。「標品」により、他の分子(例えば、タンパク質)の同定、定量、および/または特徴付けを可能にする試料を意味する。疾患を診断する方法に関して、標品は、特定の疾患または疾患の進行の指標である分子を含む場合「陽性」である。このような指標分子もまた「バイオマーカー」といわれ、そして典型的には、タンパク質またはタンパク質フラグメントである。標品は、特定の疾患または疾患の進行の指標である分子を欠いているか、または対象が特定の疾患を有しない指標となる分子を含む場合、「陰性」である。本発明の方法において、標品はALSの陽性または陰性診断を容易にする。標品は、本発明の方法に従って、ALSに対する特定の診断に到達するように試料と標品が有効に比較され得る限り、任意の陽性または陰性標品であり得る。本発明の好ましい態様において、陽性標品は、ALSを患っている対象から得られた試料を含む。一方、陰性標品は好ましくは、ALSを患っていない対象から得られた試料(例えば、ヒト)を含む。
【0021】
標品がALSを患っている対象から得られた陽性標品の場合、標品の質量スペクトルプロファイルは、臨床医が信頼できる診断をするのを可能とするであろう、任意の適切な数のバイオマーカーを含み得る。陽性標品の質量スペクトルプロファイルは好ましくは、2.01キロダルトン(kDa)タンパク質ピーク、2.16 kDaタンパク質ピーク、2.2 kDaタンパク質ピーク、2.4 kDaタンパク質ピーク、2.46 kDaタンパク質ピーク、2.66 kDaタンパク質ピーク、2.7 kDaタンパク質ピーク、3.01 kDaタンパク質ピーク、3.3 kDaタンパク質ピーク、3.42 kDaタンパク質ピーク、3.7 kDaタンパク質ピーク、3.8 kDaタンパク質ピーク、4.4 kDaタンパク質ピーク、4.8 kDaタンパク質ピーク、4.9 kDaタンパク質ピーク、5.1 kDaタンパク質ピーク、5.4 kDaタンパク質ピーク、5.8 kDaタンパク質ピーク、6.2 kDaタンパク質ピーク、6.5 kDaタンパク質ピーク、6.7 kDaタンパク質ピーク、6.86 kDaタンパク質ピーク、6.88 kDaタンパク質ピーク、7.02 kDaタンパク質ピーク、7.74 kDaタンパク質ピーク、7.77 kDaタンパク質ピーク、8.2 kDaタンパク質ピーク、8.6 kDaタンパク質ピーク、8.93 kDaタンパク質ピーク、9.1 kDaタンパク質ピーク、10.15 kDaタンパク質ピーク、10.64 kDaタンパク質ピーク、10.9 kDa タンパク質ピーク、11.5 kDaタンパク質ピーク、12.05 kDaタンパク質ピーク、12.09 kDaタンパク質ピーク、12.28 kDaタンパク質ピーク、12.8 kDaタンパク質ピーク、13.1 kDaタンパク質ピーク、13.3 kDaタンパク質ピーク、13.65 kDaタンパク質ピーク、13.68 kDaタンパク質ピーク、13.7 kDaタンパク質ピーク、14.6 kDaタンパク質ピーク、15.2 kDaタンパク質ピーク、15.6 kDaタンパク質ピーク、16.7 kDaタンパク質ピーク、および17.1 kDaタンパク質ピークからなる群から選択される1以上のバイオマーカーを含む。前述のバイオマーカーの存在は、タンパク質発現レベルにおける異常性(例えば、タンパク質過剰発現の結果として)、異常なタンパク質分解過程、およびタンパク質の異常な翻訳後修飾(例えば、グリコシル化または酸化)と関連し得る。
【0022】
このように、本発明の方法に従って、目的の対象(例えば、ヒト)から得られた試料の質量スペクトルプロファイルが、上述のような陽性標品の質量スペクトルプロファイルにおいて観察されるバイオマーカーの1つまたは任意の組合せを含む場合、ALSのポジティブ診断が生じる。この点において、ALSのポジティブ診断は、対象から得られた試料の質量スペクトルプロファイルが、2以上、3以上、4以上、またはさらに5以上(例えば、6、7、8、9、10、または15)の上記記載の陽性標品と異なるタンパク質ピークを含む場合になされ得る。実際、上記記載のタンパク質ピークの特定のサブセットは、ALSに関して診断的意義を有し得る。このようなサブセットは、好ましくは2.4 kDaタンパク質ピーク、2.46 kDaタンパク質ピーク、3.01 kDaタンパク質ピーク、6.88 kDaタンパク質ピーク、7.77 kDaタンパク質ピーク、8.9 kDaタンパク質ピーク、および13.65 kDaタンパク質ピークを含み、そのサブセットはALSを診断する100%の精度を提供する。あるいは、サブセットは、2.4 kDaタンパク質ピーク、3.01 kDaタンパク質ピーク、4.8 kDaタンパク質ピーク、6.86 kDaタンパク質ピーク、7.74 kDaタンパク質ピーク、8.93 kDaタンパク質ピーク、および13.1 kDaタンパク質ピークを含み、そのサブセットはALSを診断する100%の精度を提供する。これらのサブセットは、しかしながら、単なる例であり、そしてここで同定したバイオマーカーの任意の適切なサブセットがALSを診断するのに用いられ得る。加えて、ALSのポジティブ診断は、試料の質量スペクトルプロファイルを陰性標品の質量スペクトルプロファイルと比較することにより確認され得る。この点において、ポジティブ診断は、陰性標品の質量スペクトルプロファイルが対象 (例えば、ヒト)の試料の質量スペクトルプロファイル中に観察された如何なるバイオマーカーも含まない場合に確認される。
【0023】
同じく、ALSのネガティブ診断(すなわち、対象はALSを有しない)は、目的の対象(例えば、ヒト)から得られた試料の質量スペクトルプロファイルが上述の陰性標品の質量スペクトルプロファイルと実質的に同じ場合に生じる。ALSのネガティブ診断は、試料の質量スペクトルプロファイルを陽性標品の質量スペクトルプロファイルと比較することにより確認され得る。この点において、ALSのネガティブ診断は、目的の対象の試料の質量スペクトルプロファイルが上述のような陽性標品の質量スペクトルプロファイル中に観察された如何なるバイオマーカーも含まない場合に確認される。あるいは、ALSのネガティブ診断は、陰性標品と異なるバイオマーカーの特定のサブセットを用いて確認され得る。
【0024】
当業者は、目的の対象から得られた試料で同定されたタンパク質ピークの任意の1つまたは組合せ(すなわち、サブセット)は、陽性または陰性標品を限定し得ることを理解するであろう。あるいは、試料中のタンパク質ピークの強度値は、陽性および/または陰性標品と比較した場合に診断情報を提供し得る。換言すると、平均タンパク質ピーク強度値は、ALSを有する患者とALSを有しない患者とを識別することができる。一実施態様において、如何なる対象も陽性標品におけるALSの診断用タンパク質ピークの全てまたは陰性標品に特異的なタンパク質ピークの全てを含まないが、本発明の方法に従ってALSを有するか、またはALSを有しないとなお診断され得る。例えば、ヒトから得られた試料は、ALSの指標となる1つのタンパク質ピークを含むが、陰性標品の指標となる4つのタンパク質ピークを含み得、したがって陰性と診断され得る(すなわち、該個体はALSを有しない)。
【0025】
上述の通り、対象におけるALSの診断は、目的の患者から得られた試料中に陽性標品のバイオマーカーの全てが存在することを必要としない。実際、ALSの診断は、患者から得られた試料が任意の1つ、陽性標品のバイオマーカーの組合せ、または陽性標品と異なるバイオマーカーの特定のサブセットを含むのであればなされ得る。加えて、ALSの診断は、対象から得られた試料が陽性標品のバイオマーカーの1以上のフラグメントまたは全長アミノ酸配列を含むのであればなされ得る。さらに、タンパク質の翻訳後修飾の結果として、ALSの診断は、対象から得られた試料が陽性標品のバイオマーカーの1以上の修飾型 (例えば、グリコシル化型)を含む場合、なされ得ることもまた意図される。
【0026】
タンパク質質量分析の目標の一つはタンパク質同定である。このように、本発明の方法はまた、特定の試料由来のタンパク質バイオマーカーの同定も包含する。この点において、タンパク質は当技術分野で公知の任意の適切なタンパク質同定法を用いて同定され得る。適切なタンパク質同定法には、例えば、タンパク質エレクトロブロッティング(protein electroblotting)、エドマン配列決定(例えば、Gevaert et al., Electrophoresis, 21, 1145-1154 (2000)参照)、および質量分析による配列決定(例えば、Kinter and Sherman, Protein Sequencing and Identification Using Tandem Mass Spectroscopy, Wiley-Interscience (2000)、および米国特許第6,632,339号および同第6,706,529号参照)が挙げられる。質量分析に基づくタンパク質同定法には、例えば、MALDI−MSペプチドマスフィンガープリント法(MALDI−MS−PMF)およびMALDI−MSポストソース分解分析法(MALDI−MS−PSD)が挙げられる。MALDI−MS−PMFにおいて、典型的には2−Dゲル電気泳動により精製した目的のタンパク質は、酵素的または化学的のいずれかで切断されそして得られたペプチド混合物のアリコートが質量分析手法により分析され、それによってタンパク質の質量「フィンガープリント」を生じさせる。質量フィンガープリントは、引き続いてデーターベース(例えば、MOWSE、ProFound、PeptIdent、およびPeptideSearch)に蓄積されたタンパク質配列の理論上の切断により得られた「仮想」フィンガープリントと比較され、そしてトップスコアのタンパク質が可能性のある候補タンパク質として回収される(例えば、Gevaert et al., 上述, 参照)。PSDフラグメントは、MALDIの後にフィールドフリードリフト領域において生じる。PSDはそもそも、アミド結合切断の結果と仮定されている。しかしながら、PSDスペクトルの高い複雑性ゆえに、MALDI−MS−PSDは当技術分野においてタンパク質を同定するのに汎用されない(例えば、Gevaert et al., 上述, 参照)。本発明の好ましい実施態様において、試料中のタンパク質はMALDI−MS−PMFにより同定される。試料中のタンパク質の予備的な同定の際、タンパク質の同定は、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ウエスタンブロット分析、免疫沈降法、および2−Dゲル電気泳動が続く等電点分離法などの当技術分野で公知の様々なタンパク質検出法により確認され得る。
【0027】
本発明の一実施態様において、陽性標品の3.42 kDa、13.3 kDa、および13.7 kDaタンパク質ピークはそれぞれ、7B2タンパク質、シスタチンCタンパク質、およびトランスサイレチンタンパク質、あるいはそれらのフラグメントまたはバリアント(例えば;7B2タンパク質のC末端フラグメント)に相当する。7B2タンパク質は、神経内分泌下垂体タンパク質であり、そしてMartens, FEBS Lett., 234, 160-164 (1988)にさらに記載されている。シスタチンCは、ヒトシステインプロテアーゼインヒビターであり、遺伝性アミロイド血管症に関連している(例えば、Levy et al., J. Exp. Med., 169, 1771-1778 (1989)参照)。ヒトシスタチンCの前駆体をコードしているcDNA配列は、Abrahamson et al., FEBS Lett., 216, 229-233 (1987) に開示されている。トランスサイレチン(プレアルブミンとも呼ばれている)は、チロキシンおよびレチノールを輸送することが知られている四量体ヒト血漿タンパク質である。それは家族性アミロイド多発神経障害(familial amyloidotic plyneuropathy)(FAP) アミロイド原線維の主な構成成分であり、そしておよそ60のアミロイド形成的突然変異バリアントを有する。トランスサイレチンをコードしているヌクレオチド配列は、Tsuzuki et al., J. Biol. Chem., 260, 12224-7 (1985)に開示されており、一方トランスサイレチンのアミノ酸配列は、例えば、Mita et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 124, 558-64 (1984)に開示されている。
【0028】
本発明はさらに、対象において筋萎縮性側索硬化症の治療における薬物の有効性を評価するための方法を提供する。該方法は、(a)筋萎縮性側索硬化症を患っている対象から第1の試料を得る工程、(b)質量分析により第1の試料中のタンパク質を分析する工程、(c)第1の試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、(d)対象に薬物を投与する工程、(e)それに薬物を投与した後、対象から第2の試料を得る工程、(f)質量分析により第2の試料中のタンパク質を分析する工程、(g)第2の試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、および(h)第1の試料の質量スペクトルプロファイルを第2の試料の質量スペクトルプロファイルと比較する工程であって、ここで薬物の有効性が評価される工程、を含む。本発明の他の実施態様に関する上記記載の試料、質量分析解析、および試料の質量スペクトルプロファイルの説明もまた、薬物の有効性を評価するための前述の発明の方法のその同じ局面に適用できる。ALSに加えて、薬物の有効性を評価するための本発明の方法は、対象において任意の適切な運動ニューロン疾患の治療における薬物の有効性を評価するのに用いられ得る。適切な運動ニューロン疾患には、例えば、進行性球麻痺、進行性筋萎縮、原発性側索硬化症、およびポリオ後症候群が挙げられる。
【0029】
薬物は、局部的または全身性の治療が所望されるのか、および治療される部位に応じて任意の適切な方法で対象に投与され得る。投与は、局所(眼、膣、直腸、鼻腔内、経皮などを含む)、経口、吸入により、あるいは非経口(静脈内点滴または皮下、腔内、腹腔内、または筋肉注射によることを含む)であり得る。送達はまた、挿菅を介して呼吸器系(例えば、肺)の任意の部位に直接できる。薬物は好ましくは、経口的に対象に投与される。経口投与のための組成物には、粉末または顆粒、水または非水性媒体中の懸濁液または溶液、カプセル、サシェ、またはタブレットが挙げられる。
【0030】
本発明の方法は、ALSの治療に適切な任意の薬物の有効性を評価するのに用いることができる。適切な薬物には、リルゾール(Rilutek(登録商標)、Aventis)のような現在市販されているもの、およびこれから開発されるものが挙げられる。ALSに対して活性である薬物は、おそらくは正常なタンパク質発現レベル、正常な翻訳後タンパク質修飾、および/または正常なタンパク質プロセシングを回復することにより、ALSの症状を改善または解消するであろうことは当業者に明らかであろう。このように、ALSを患っている対象から単離された第1の試料の質量スペクトルプロファイルは、薬物投与の結果として変化するであろう。それゆえ、対象から単離された第2の試料の質量スペクトルプロファイルが第1の試料の質量スペクトルプロファイル中に存在する1以上のバイオマーカーまたはバイオマーカーのサブセットを含まない、あるいは疾患の進行に特徴的な如何なる新しいタンパク質ピークも示さない場合、薬物はALS、または他の運動ニューロン疾患の治療において有効であるとみなされる。例えば、第1の試料の質量スペクトルプロファイルがここで記載されたバイオマーカータンパク質ピークの3つを含む場合、ALSの治療において有効な薬物は、第2の試料の質量スペクトルプロファイルが第1の試料中に存在するバイオマーカーの1つ、2つを含む、または何れも含まないように、第1の試料の質量スペクトルプロファイルを変化させ得る。一方、ALSに対して有効でない薬物は、おそらく正常なタンパク質発現レベル、正常な翻訳後修飾、および/または正常なタンパク質プロセシングを回復しないであろう。このように、本発明の文脈において、対象から単離された第2の試料の質量スペクトルプロファイルが第1の試料中に存在する全てのバイオマーカーを含む場合、薬物はALSの治療において効果がないとみなされる。
【0031】
第1の試料の質量スペクトルプロファイルは、ここに記載した任意の適切な数のALSのバイオマーカーを含み得る。第1の試料の質量スペクトルプロファイルは好ましくは、2.01キロダルトン(kDa)タンパク質ピーク、2.16 kDaタンパク質ピーク、2.2 kDaタンパク質ピーク、2.4 kDaタンパク質ピーク、2.46 kDaタンパク質ピーク、2.66 kDaタンパク質ピーク、2.7 kDaタンパク質ピーク、3.01 kDaタンパク質ピーク、3.3 kDaタンパク質ピーク、3.42 kDaタンパク質ピーク、3.7 kDaタンパク質ピーク、3.8 kDaタンパク質ピーク、4.4 kDaタンパク質ピーク、4.8 kDaタンパク質ピーク、4.9 kDaタンパク質ピーク、5.1 kDaタンパク質ピーク、5.4 kDaタンパク質ピーク、5.8 kDaタンパク質ピーク、6.2 kDaタンパク質ピーク、6.5 kDaタンパク質ピーク、6.7 kDaタンパク質ピーク、6.86 kDaタンパク質ピーク、6.88 kDaタンパク質ピーク、7.02 kDaタンパク質ピーク、7.74 kDaタンパク質ピーク、7.77 kDaタンパク質ピーク、8.2 kDaタンパク質ピーク、8.6 kDaタンパク質ピーク、8.93 kDaタンパク質ピーク、9.1 kDaタンパク質ピーク、10.15 kDaタンパク質ピーク、10.64 kDaタンパク質ピーク、10.9 kDaタンパク質ピーク、11.5 kDaタンパク質ピーク、12.05 kDaタンパク質ピーク、12.09 kDaタンパク質ピーク、12.28 kDaタンパク質ピーク、12.8 kDaタンパク質ピーク、13.1 kDaタンパク質ピーク、13.3 kDaタンパク質ピーク、13.65 kDaタンパク質ピーク、13.68 kDaタンパク質ピーク、13.7 kDaタンパク質ピーク、14.6 kDaタンパク質ピーク、15.2 kDaタンパク質ピーク、15.6 kDaタンパク質ピーク、16.7 kDaタンパク質ピーク、および17.1 kDaタンパク質ピークからなる群より選ばれる1以上のバイオマーカーを含む。目的の対象から得られた第1の試料の質量スペクトルプロファイルは、ここに記載した陽性標品の質量スペクトルプロファイル中に観察されたバイオマーカーの1つのバイオマーカー、バイオマーカーの組合せ、またはバイオマーカーのサブセット(またはサブセットの組合せ)を含み得る。
【0032】
本発明はさらに、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症部位を決定するための方法を提供する。該方法は、(a)対象から試料を得る工程、(b)質量分析により試料中のタンパク質を分析する工程、および(c)試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程を含む。3.26 kDaタンパク質ピーク、3.44 kDaタンパク質ピーク、および7.5 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む質量スペクトルプロファイルは、対象の四肢におけるALSの発症を示し、一方2.4 kDaタンパク質ピーク、6.4 kDaタンパク質ピーク、12.1 タンパク質ピーク、12.2 kDaタンパク質ピーク、14.1 kDaタンパク質ピーク、および15.9 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む質量スペクトルプロファイルは、対象の延髄部位におけるALSの発症を示す。本発明の他の実施態様に関する上記記載の試料、試料の質量分析解析、および試料の質量スペクトルプロファイルの説明もまた、ALSの発症部位を決定するための前述の発明の方法のその同じ局面に適用できる。四肢発症ALSは、ヒトにおけるALSの最初の症状が腕または脚で生じる場合に起こり、ALS患者の大多数において起こる。延髄発症ALSは、ヒトにおけるALSの最初の症状が小脳、髄質、および脳橋を含む脳幹の部位を含む延髄部位で生じるときに起り、典型的に嚥下または会話困難として現れる。
【0033】
先に議論した、対象におけるALSの発症部位の決定は、上述のバイオマーカーの全てが目的の対象から得られた試料中に存在することを必要としない。実際、ALSの発症部位の決定は、患者から得られた試料が上述のバイオマーカーの任意の1つ、組合せ、またはサブセットを含むのであればなされ得る。加えて、ALSの発症部位の決定は、患者から得られた試料が陽性標品におけるバイオマーカーの1以上のフラグメントまたは全長アミノ酸配列を含むのであればなされ得る。さらに、タンパク質の翻訳後修飾の結果として、ALSの発症部位の決定は、患者から得られた試料がバイオマーカーの1以上の修飾型(例えば、グリコシル化型)を含む場合になされ得ることもまた意図される。
【0034】
以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するが、当然のことながら、その範囲の如何なる様式にも限定をするものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0035】
(実施例)
基本手順
対象
運動ニューロン疾患を専門とする有資格の神経内科医により行われたALSの臨床診断を最近うけた15人の対象を含む調査集団を集めた。14人の患者は散発性ALSの症例であったが、1人の患者はSOD1遺伝子に変異のない家族性の症例であった。これらの患者の平均年齢は、49.6±3.4歳(n=15)であった。幾人かのALS患者は、リルゾール、クレアチン、抗酸化剤、またはそれらの化合物の組合せにより治療されていた。コントロール群には、平均年齢46.7±3.8歳(n=24)の24人の対象が含まれていた。コントロール患者は、ALS群と年齢が同様であり、独立(unpaired)スチューデントt検定を用いて解析した場合、統計学的に有意ではなかった(p=0.44)。20患者の盲検集団もまた、本研究に用いた。
【0036】
試料調製
ヒトCSFを、腰椎穿刺を介して入手し、任意の細胞片を除去するために即座に4℃にて1500rpmで5分間遠心分離した。上清を等分し、−80℃で凍結した。試料は使用前に氷上で融解した。CSF試料中のタンパク質濃度はBradford assay(Bradford, Anal. Biochem, 72, 248 (1976))を用いて測定した。タンパク質濃度は、0.15 μg/μlから0.8 μg/μlまで変化した。全ての実験において、10 μgのタンパク質をチップアレイ上にスポットするのに利用した(以下に記述)。
【0037】
質量分析
質量分析を、SELDI ProteinChip(登録商標)技術(Ciphergen Biosystems, Inc., Fremont, CA)を用いて行った。全部で4つのチップタイプを、ヒトCSF試料をアッセイするのに用いた:H4(疎水性表面)、SAX2(強陰イオン交換表面)、WCX2(弱陽イオン交換表面)、ならびにIMAC3(固定化金属結合表面)および複数のpH結合条件。2つのプロテインチップアレイ、SAX2(強陰イオン性交換)およびIMAC3(固定化金属親和性チップ)は、CSFに対する最高のスペクトルデータを示し、さらなる分析に利用した。SAX2チップ上のスポットを100 mM Tris-HCl pH 8.5で平衡化し、そして分画した試料をスポットに添加した。IMAC3アレイを、100 mM 硫酸亜鉛または100 mM 硫酸銅で処理し、その後50 mM 酢酸ナトリウムで洗浄した。次いで、それらをHPLCグレード水およびリン酸緩衝生理食塩水で繰り返し洗浄した。10 μgのCSF試料を、トリフルオロ酢酸(TFA)の最終濃度が0.1%となるように1%のTFAに希釈した。試料を、製造業者の使用説明書に従ってC4 ZipTip pipette tips(Millipore)を用いて分画した。次いで、試料を、SELDIターゲットチップ表面上で4−ヒドロキシ−α−ケイ皮酸(シナピン酸)の飽和マトリクス溶液と混合した。マトリクスを、HPLCグレード水(Sigma, St. Louis, MO)中の50%(v/v)アセトニトリル Can)および0.3%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)を含む飽和水溶液として調製した。試料を、SELDI-TOF(Ciphergen Biosystems, Inc., Fremont, CA)を用いてprotein−pro充填スペクトルを獲得する前に室温でエバポレートした。個別の実験毎に、全CSF試料を、結果の再現性を実証するために2連(すなわち、2つの異なるProteinChips上の2つの別々のウェル)で分析した。
【0038】
また、ProteinChip毎に3つの別々の実験実行を行った。したがって、各試料を各実験内で2連で分析し、そして各実験を3回繰り返した。実験毎に、1つのCSF試料を、4つの選択したm/zピークからのピーク強度と比較するために内部標品として用いて、質量スペクトルの変動を測定した。これらの選択されたピークに対する分散係数(CV)は、25%未満であった。
【0039】
Protein Chip Readerの外部較正を、1000 Daから20 kDaまでの範囲のペプチドを含むCiphergen All−in−One peptide/protein standard mixを用いて行った。乾燥したチップを、最適なレーザー強度および低質量範囲(2−20 kDa)に対して1000 Da、高質量範囲(20 kDa−80 kDa)に対して10,000 kDaの設定の質量偏向器を有する検出器感度を用いて、較正したChip Readerに即座にロードした。これらの設定を、全ての実験の全てのチップで一定に保った。質量/電荷(m/z)比は、飛行時間型(TOF)分析を用いて決定した。これらのスペクトルを、Protein Chipシステム(PBS II series; Ciphergen Biosystems Inc., Palo Alto)を用いて収集した。
【0040】
データ分析
タンパク質ピークを、Ciphergen BiosystemsによりライセンスされたCiphergen Biomarker Patterns Software(BPS)package version 3.1、およびルール学習(Rules Learning)(RL)パラメーターアルゴリズムで分析した。BPSは、パターン認識アプローチを規定し、かつ分類ツリーを構築する分類アルゴリズムである。各ツリーは、親ノードおよび枝ノードまたは終端ノードを含む。これらのツリーの各々と関連する、相対的コスト値(relative cost value)がある。アルゴリズムはまた、ピークの感度および特異性に対する値を計算する。感度は、疾患症例の総数に対する正確に分類された疾患症例数の比として定義される。特異性は、コントロール症例の総数に対する正確に分類されたコントロール症例数の比として定義される。低コスト値を規定する短いツリーサイズは、2つのデータ群のよりよい分類を表す。これはまた、分類ツリーがALSおよびコントロール群を識別する能力を説明するピークのより高い感度および特異性も表す。最終的なツリーのサイズをクロス検証法を用いて測定し、ここで該ツリーをデータの画分上に構築し、次いでデータの残りを該ツリーの誤差率を評価するのに利用する。このツリー構築過程は、データの2つのセット(すなわち、ALS対コントロール)の描写に関して最も価値のあるスペクトルを決定する。
【0041】
ルール学習(Rules Learning)(RL)パラメーターアルゴリズムを、複雑な有機分子の質量スペクトルを予測するためのルール(例えば、Feigenbaum et al., Artificial Intelligence, 59, 233-240 (1993)参照)および発見的検索パラダイム(heuristic search paradigm)において実行され得る知識ベース問題解決活動としての帰納的学習を検分するために最初に用いた。RLは原始的には、訓練セット内のデータにより、およびデータについての事前知識(例えば、臨床診断または症状、対象の薬物療法)により導かれる、逐次限定(successive specialization)により可能性のあるルールを検索し、診断的バイオマーカーを規定する。
【0042】
RLは、多くの科学上、商業上、および医療上のデータセットに適用されている(例えば、Lee et al., Environ Health Perspect., 104 Suppl 5, 1059-63 (1996)参照)。RLに採用されている主な方法は、仮説の生成を介して試験し、かつ証拠収集により試験する仮説である。いくつかの異なる種類の統計が、証拠収集の間に用いられる。それらは、その陽性予測値およびp値とともに、ルール毎の確信度係数(cf)の評価を含む。RLプログラムは、データセット内の試料の3分の2から予測的ルールを生成し、最高のルールセットを開発するためにこのルール生成フェーズを3回反復し、そしてその後、ルールが適当な予測をする能力を試験するためにこれらのルールを試料の残りの3分の1に適用するであろう。
【0043】
実施例1
本実施例は、ALS患者から単離された脳脊髄液(CSF)中のタンパク質の質量スペクトルプロファイルの同定を実証する。
【0044】
Ciphergen Bio Wizard Software version 3.1を用いて、SAX2およびZn−IMAC3データセットの両方の一変量分析を行って、コントロールとALS対象との間で統計学的に有意なピーク強度を示すCSFスペクトルのピークを同定した。CSF試料において全部で366個のピーク(SAX2チップ上で207およびZn−IMAC3チップ上で159)を観察し、上述のデータ分析によりひき続き調べた。表1に示すように、51個のタンパク質ピークを、コントロールとALS対象との間のピーク強度において統計学的有意差(発現レベルの増加または減少のいずれか)を示したSAX2データセットから同定した。これらのスペクトルのピークの多くは、極めて有意なp値を示した(p<0.001)。43個のスペクトルのピークもまた、コントロールとALS対象との間の発現レベルにおいて統計学的有意差を示したZn−IMAC3データセットから同定した(表2)。全部で、94個のタンパク質ピーク(25%)が、コントロールとALS対象との間のピーク強度において有意な変化を示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
本実施例は、ALSを患っていないヒトから単離された試料の質量スペクトルプロファイルと比較した、ヒトALS患者から単離された試料の質量スペクトルプロファイルを実証する。
【0048】
実施例2
本実施例は、ALSの診断のためのバイオマーカーパターンの同定を実証する。
【0049】
先に議論したように、2つの異なるコンピューター支援アルゴリズムを用いて、コントロールおよびALS対象由来のCSFのプロテオミクス特徴から潜在的な診断バイオマーカーを同定した。第1のアルゴリズムは、Ciphergen Biomarker Patterns Software(BPS)package version 3.1であった。BPSは、疾患の状態を予測するのに用いられる1以上のタンパク質ピークを含む分類ツリーを作成する。SAX2データセットについてこのような分類ツリーの例を図1に示す。使用された第1のピークは6254 Daであった。カットオフ未満のピーク値を有する11人の患者は左ノードに属し、そのうちの100%がALS患者である。右ノードは、6881 Daピークでさらに分けられた23人の対象を含む。左ノードの3人の対象の全ては、コントロールであった。次いで、20人の対象を、9939 Daピークで、左ノードに1人の対象、右ノードに19人の対象に分けた。この分類ツリーは、学習フェーズの間、100%の感度および特異性でALSを予測することができた。次いで、BPSソフトウェアは、データセットをランダム化し、そして分類ツリーを使用して、試験フェーズの間、既知の診断と比較され得る予測を行う。次いで、SAX2分類ツリーは、74%の感度および95%の特異性でALSの対象を予測することができた。
【0050】
BPSをまた、Zn−IMAC3 ProteinChipデータセットから潜在的なバイオマーカーを同定するために用いた(図2)。この分類ツリーにおいて、13779 Daの単一のタンパク質ピークを、学習フェーズの間、100%の感度および89%の特異性でALSを予測するのに用いた。この同じ分類ツリーは、クロス検証試験フェーズの間、87%の感度および89%の特異性でALSを予測できた。
【0051】
CSFから潜在的なバイオマーカーを同定するのに用いられる第2の分析ツールは、ルール学習(Rules Learning)(RL)プログラムであった。該プログラムは、対象の疾患の状態を予測し得る一連の学習ルールを作成する。該ルールを、学習フェーズの間、データセット対象の3分の2を用いて生成する。生成したルールの3重検証を、最後のルールセットを生成するために実行する。残りのデータセット対象(全体の3分の1)を、分離瓶(separate bin)中に保持し、ランダム化し、次いで、ルールをこの試験フェーズにおける疾患の状態を予測するのに適用する。次いで、予測を対象毎に既知の臨床診断と比較し、RL生成ルールの感度および特異性を決定した。SAX2データセットについては、RLは、7つのタンパク質ピークを用いて9つのルールを同定した。ルール毎に、各予測診断的尺度を表すタンパク質ピークスペクトル強度の絶対値を提供した。例えば、6828 Daタンパク質ピークのスペクトル強度値(x)が0.103より大きいか、またはそれと同じであり、かつ0.856未満である場合、試料はコントロール対象であった。これらのルールは、試験データセットにおいて100%の感度および81%の特異性でALSの疾患の状態を正確に予測した。RLプログラムもまた、Zn−IMAC3データセットに適用した。このProteinChipは、CSF中の亜鉛結合タンパク質を認識する。RLプログラムは、6546、6860、7530、13380、15160、および15870 Daの6つのタンパク質ピークを用いて7つのルールを作成した。これらのルールは、試験データセットにおいて100%の精度および90%の特異性でALS疾患の状態を予測した。
【0052】
BPSおよびRL分析ツールにより生成した結果を比較し、対象の診断の予測を作成するのに一般に用いられる一連のタンパク質ピークを発見した。一般的な予測バイオマーカーは、6250、5860、13779、13958、および15160 Daのタンパク質を含んでいた。これらのタンパクのうち2つ(13779および15160 Da)を、Zn−IMAC3チップから同定し、ALS患者において異なる発現を示す亜鉛結合タンパク質を表しているらしい。これらの5つのタンパク質ピークは、2つの異なるアルゴリズムによる同定により実証されるように最高の予測値を有するバイオマーカーを表している。BPSはまた、SAX2およびZn−IMAC3チップから診断指標として4つの独特のタンパク質ピークを同定し、そしてRLプログラムは診断指標としてさらなる8つのタンパク質ピークを同定した。したがって、2つのProteinChipsおよび2つのアルゴリズムから、全部で17個のタンパク質ピークをALSの診断指標として同定した。全部で9つの誤った対象分類がBPSを用いて見出され、そして如何なる誤った分類もRLプログラムを用いて見出されなかった。
【0053】
実施例3
本実施例は、ALSを患っているヒトから得られた試料の質量スペクトルプロファイルに存在するタンパク質バイオマーカーの同定を実証する。
【0054】
CSFを、上述のように 腰椎穿刺を介してALS患者から採取した。バイオマーカーの同定のために試料を高めるために、500 μlのCSF試料を、Q HyperDカラム(Ciphergen Biosystems, Inc., Fremont, CA)を用いた陰イオン交換分画により分画した。画分を、段階溶出を介して分離し、pH9、pH7、pH5、pH4、およびpH3で収集した。各画分を上述のように質量分析により分析し、目的のバイオマーカーピークを同定した。3つのバイオマーカーピークを、pH4画分において同定した:6.2 kDaピーク、13.3 kDaピーク、および13.7 kDaピーク。この画分を、YM−30 Microcon遠心濾過機(Millipore Corp, Billerica, MA)を用いて濃縮した。フロースルー(flow-through)を、SpeedVacを用いて乾燥し、SDS− PAGEサンプルバッファー(Invitrogen, Carlsbad, CA)中に再懸濁し、そして12% Bis−Trisゲル上で分離した。
【0055】
ゲルの銀染色に続いて、13.3 kDaおよび13.7 kDaタンパク質ピークに対応する4つのバンドを、pH4画分から切り出し、精製した。具体的には、3つのゲルプラグを、パスツールピペットを用いて各バンドから切り出した。ゲル断片を、200 μl 50% MeOH/10% 酢酸にて室温で30分間洗浄した。次いで、ゲル断片を、100 μlアセトニトリル(ACN)にて室温で15分間脱水した。
【0056】
タンパク質を、70 μl 50% ギ酸/25% ACN/15% イソプロパノール/10% 水にて室温で2時間激しく振盪してゲル断片から抽出した。2 μlの抽出物をNP20 ProteinChip Array(Ciphergen Biosystems, Inc., Fremont, CA)に適用し、そして乾燥させた。1 μlのエネルギー吸収分子シナピン酸(SPA)を、各タンパク質スポットに2回添加した。アレイを、PBSIIc質量分析器プロテインチップリーダー(Ciphergen Biosystems, Inc., Fremont, CA)上で解析した。
【0057】
13.3 kDaおよび13.7 kDaピークの結果として生じた質量分光学的「フィンガープリント」を、ProFoundデータベース(Version 4.10.5, The Rockefeller University)にペプチド質量情報を持つ既知のタンパク質配列と比較した。これらの比較に基づき、シスタチンCおよびトランスサイレチンを、それぞれ13.3 kDaタンパク質ピークおよび13.7 kDaタンパク質ピークに対応する候補タンパク質として同定した。
【0058】
本実施例は、ALSを患っているヒトから単離された試料に存在する13.3. kDaおよび13.7 kDaバイオマーカーに対応するタンパク質の同定を実証する。
【0059】
実施例4
本実施例は、患者におけるALSの診断に使用され得るタンパク質バイオマーカーのサブセットの同定を実証する。
【0060】
上述のようなSAX2データセットおよびZn−IMAC3についてのRLアルゴリズムを用いて、ALSの診断に用いられ得るバイオマーカーのサブセットを同定した。このようなサブセットの1つは、盲検試験の対象から92%の感度および86%の精度でALSを診断する10個のバイオマーカーを含んでいた(表3参照)。これらのバイオマーカーは、「初期」段階の疾患に対して最も予測的であった。つまり、このパネルは、症状の発症時の後1100日間を超えるALS患者に対しては予測的でなかった。
【0061】
第2のサブセットは、100%の精度でALSを診断する7つのバイオマーカーを含んでおり(表4参照)、一方、第3のサブセットもまた、100%の精度でALSを診断する7つのバイオマーカーを含んでいた(表5参照)。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
本明細書中で引用した刊行物、特許出願、および特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、参照により援用されることが個別におよび具体的に示され、かつ本明細書中にその全体が示されているのと同じ程度に、本明細書中で参考として援用される。
【0066】
本発明を記載する文脈において(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)、用語「a」および「an」および「the」および同様の指示語の使用は、本明細書中で他に示されない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含するように解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含む(containing)」は、他に注釈がない限り、オープンエンドの用語(即ち、「〜を含むが、限定されない」ことを意味する)として解釈されるべきである。本明細書中での値の範囲の記載は、本明細書中で他に示されない限り、その範囲内にある各々の別々の値を個々に言及する略記方法として働くことが単に意図され、そして各々の別々の値は、それが本明細書中で個々に列挙されているかのように本明細書中に含まれるものである。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中で他に示されない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行われ得る。本明細書中で提供される任意および全ての例、または例示的な言葉(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより良く例証することが単に意図され、そして他に特許請求の範囲に記載されない限り、本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中の如何なる言葉も、本発明の実施に必須なものとして特許請求の範囲の要件を示すと解釈されるべきではない。
【0067】
本発明の実施に関して、本発明者らが知る最良の形態を含む、本発明の「好適な実施態様」を本明細書中に記載する。それらの好適な実施態様のバリエーションは、上記の説明を読むと、当業者に明白となるであろう。本発明者らは、当業者が適宜このようなバリエーションを用いることを予想し、そして本発明者らは、本発明が本明細書中に具体的に記載されたものとは別の状態で実施されることを意図する。従って、本発明は、適用法によって許されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題の全ての改変物および均等物を含む。更に、その全ての可能なバリエーションにおける上記要件の任意の組合わせは、本明細書中で他に示されない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、SAX2 ProteinChip(登録商標)を用いて、ALSの診断のためにCiphergen Biomarker Patterns Softwareにより作成した分類ツリーを記述する図である。
【図2】図2は、Zn−IMAC3 ProteinChip(登録商標)を用いて、ALSの診断のためにCiphergen Biomarker Patterns Softwareにより作成した分類ツリーを記述する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を診断するための方法であって:
(a)対象から試料を得る工程、
(b)試料中のタンパク質を質量分析により分析する工程、
(c)試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、および
(d)試料の質量スペクトルプロファイルを陽性または陰性標品の質量スペクトルプロファイルと比較する工程であって、ここで対象におけるALSが診断される工程
を含む方法。
【請求項2】
標品が陽性標品である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標品が、筋萎縮性側索硬化症を患っている対象から得られた試料を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
標品の質量スペクトルプロファイルが、2.01キロダルトン(kDa)タンパク質ピーク、2.16 kDaタンパク質ピーク、2.2 kDaタンパク質ピーク、2.4 kDaタンパク質ピーク、2.46 kDaタンパク質ピーク、2.66 kDaタンパク質ピーク、2.7 kDaタンパク質ピーク、3.01 kDaタンパク質ピーク、3.3 kDaタンパク質ピーク、3.42 kDaタンパク質ピーク、3.7 kDaタンパク質ピーク、3.8 kDaタンパク質ピーク、4.4 kDaタンパク質ピーク、4.8 kDaタンパク質ピーク、4.9 kDaタンパク質ピーク、5.1 kDaタンパク質ピーク、5.4 kDaタンパク質ピーク、5.8 kDaタンパク質ピーク、6.2 kDaタンパク質ピーク、6.5 kDaタンパク質ピーク、6.7 kDaタンパク質ピーク、6.86 kDaタンパク質ピーク、6.88 kDaタンパク質ピーク、7.02 kDaタンパク質ピーク、7.74 kDaタンパク質ピーク、7.77 kDaタンパク質ピーク、8.2 kDaタンパク質ピーク、8.6 kDaタンパク質ピーク、8.93 kDaタンパク質ピーク、9.1 kDaタンパク質ピーク、10.15 kDaタンパク質ピーク、10.64 kDaタンパク質ピーク、10.9 kDaタンパク質ピーク、11.5 kDaタンパク質ピーク、12.05 kDaタンパク質ピーク、12.09 kDaタンパク質ピーク、12.28 kDaタンパク質ピーク、12.8 kDaタンパク質ピーク、13.1 kDaタンパク質ピーク、13.3 kDaタンパク質ピーク、13.65 kDaタンパク質ピーク、13.68 kDaタンパク質ピーク、13.7 kDaタンパク質ピーク、14.6 kDaタンパク質ピーク、15.2 kDaタンパク質ピーク、15.6 kDaタンパク質ピーク、16.7 kDaタンパク質ピーク、および17.1 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
標品が7B2タンパク質、シスタチンCタンパク質、および/またはトランスサイレチンタンパク質、あるいはそれらの治療的フラグメントを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
標品が陰性標品である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
標品が、ALSを患っていない対象から得られた試料を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
試料が、ヒトから得られた脳脊髄液、血清、血漿、尿、および組織からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の治療における薬物の有効性を評価するための方法であって:
(a)筋萎縮性側索硬化症を患っている対象から第1の試料を得る工程、
(b)質量分析により第1の試料中のタンパク質を分析する工程、
(c)第1の試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程、
(d)対象に薬物を投与する工程、
(e)工程(d)の完了後、対象から第2の試料を得る工程、
(f)質量分析により第2の試料中のタンパク質を分析する工程、
(g)第2の試料の質量スペクトルプロファイル測定する工程、および
(h)第1の試料の質量スペクトルプロファイルを第2の試料の質量スペクトルプロファイルと比較する工程であって、ここで薬物の有効性が評価される工程
を含む方法。
【請求項11】
薬物の有効性が、第1の試料の質量スペクトルプロファイルと比べた、第2の試料の質量スペクトルプロファイルの変化として測定される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
第1の試料の質量スペクトルプロファイルが、2.01キロダルトン(kDa)タンパク質ピーク、2.16 kDaタンパク質ピーク、2.2 kDaタンパク質ピーク、2.4 kDaタンパク質ピーク、2.46 kDaタンパク質ピーク、2.66 kDaタンパク質ピーク、2.7 kDaタンパク質ピーク、3.01 kDaタンパク質ピーク、3.3 kDaタンパク質ピーク、3.42 kDaタンパク質ピーク、3.7 kDaタンパク質ピーク、3.8 kDaタンパク質ピーク、4.4 kDaタンパク質ピーク、4.8 kDaタンパク質ピーク、4.9 kDaタンパク質ピーク、5.1 kDaタンパク質ピーク、5.4 kDaタンパク質ピーク、5.8 kDaタンパク質ピーク、6.2 kDaタンパク質ピーク、6.5 kDaタンパク質ピーク、6.7 kDaタンパク質ピーク、6.86 kDaタンパク質ピーク、6.88 kDaタンパク質ピーク、7.02 kDaタンパク質ピーク、7.74 kDaタンパク質ピーク、7.77 kDaタンパク質ピーク、8.2 kDaタンパク質ピーク、8.6 kDaタンパク質ピーク、8.93 kDaタンパク質ピーク、9.1 kDaタンパク質ピーク、10.15 kDaタンパク質ピーク、10.64 kDaタンパク質ピーク、10.9 kDaタンパク質ピーク、11.5 kDaタンパク質ピーク、12.05 kDaタンパク質ピーク、12.09 kDaタンパク質ピーク、12.28 kDaタンパク質ピーク、12.8 kDaタンパク質ピーク、13.1 kDaタンパク質ピーク、13.3 kDaタンパク質ピーク、13.65 kDaタンパク質ピーク、13.68 kDaタンパク質ピーク、13.7 kDaタンパク質ピーク、14.6 kDaタンパク質ピーク、15.2 kDaタンパク質ピーク、15.6 kDaタンパク質ピーク、16.7 kDaタンパク質ピーク、および17.1 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
第1の試料が7B2タンパク質、シスタチンCタンパク質、および/またはトランスサイレチンタンパク質、あるいはそれらの治療的フラグメントを含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
対象がヒトである、請求項10記載の方法。
【請求項15】
第1および第2の試料が、ヒトから得られた脳脊髄液、血清、血漿、尿、および組織からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症部位を決定するための方法であって:
(a)対象から試料を得る工程、
(b)質量分析により試料中のタンパク質を分析する工程、
(c)試料の質量スペクトルプロファイルを測定する工程であって、ここで(i)3.26 kDaタンパク質ピーク、3.44 kDaタンパク質ピーク、および7.5 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む質量スペクトルプロファイルが対象の四肢におけるALSの発症を示し、ならびに(ii)2.4 kDaタンパク質ピーク、6.4 kDaタンパク質ピーク、12.1 タンパク質ピーク、12.2 kDaタンパク質ピーク、14.1 kDaタンパク質ピーク、および15.9 kDaタンパク質ピークからなる群より選択される1以上のバイオマーカーを含む質量スペクトルプロファイルが対象の延髄部位におけるALSの発症を示す工程
を含む方法。
【請求項17】
試料が、ヒトから得られた脳脊髄液、血清、血漿、尿、および組織からなる群より選択される、請求項16記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−528487(P2007−528487A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536838(P2006−536838)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/035094
【国際公開番号】WO2005/042761
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(500091313)ユニヴァーシティ オヴ ピッツバーグ オヴ ザ コモンウェルス システム オヴ ハイアー エデュケーション (10)
【Fターム(参考)】