説明

筋萎縮性側索硬化症に関するバイオマーカー及びそれらを使用する方法

本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の種々のバイオマーカーを提供する。本発明はまた、ALSを診断する方法、ALSへの罹患しやすさを判定する方法、ALSの進行/後退をモニターする方法、ALSを処置するための組成物の有効性を評価する方法、ALSのバイオマーカーを調節する活性に関して組成物をスクリーニングする方法、ALSを処置する方法、並びにALSのバイオマーカーに基づく他の方法など、該バイオマーカーを用いる種々の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年2月28日出願の米国仮特許出願第60/777,338号,2006年4月5日出願の米国仮特許出願第60/789,392号、2006年10月12日出願の米国仮特許出願第60/851,144号に対する利益を主張する。これらの出願の全内容は、参照として本明細書に組み込まれている。
【0002】
連邦委託研究に関する記述
本発明は、一部、国立衛生研究所からの補助金第1R43ES013646−01号の下、政府後援によりなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
本発明は全般的に、筋萎縮性側索硬化症に関するバイオマーカー及びそれらバイオマーカーに基づく方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ルーゲーリック病としても知られている筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、随意運動を担う神経細胞を急速に攻撃し破壊する致死的な神経系疾患である。運動を制御している脳及び脊髄におけるニューロンの破壊は、最終的には、全ての随意運動の制御が失われる点まで進行する。死亡は典型的には、疾患発症の3〜5年以内に呼吸器不全から生じる。
【0005】
米国では、およそ20,000人がALSに罹患しており、毎年、5,000人がALSと診断されている。ALSは、世界的によく見られ、全ての人種及び民族背景の人々が罹患している。ALS発症の平均年齢は、40才と60才との間であるが、それより若年の男性及び女性もALSに罹患し得る。ALSの症例の90〜95%において、該疾患は明らかにランダムである(散発性ALS(SALS)として知られる)。このようなSALSの症例では、該疾患の家族歴はなく、明確に関連づけられた危険要因もない。ALSの5〜10%には、遺伝的な関連がある(家族性ALS(FALS)として知られる)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、対象が筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患しているかどうかを診断する方法が提供される。該方法は、
対象からの生体試料を分析して、該試料中の、(a)表3、4、5、6、7及び8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症に罹患しているかどうかを診断すること
を含む。
【0007】
他の態様において、
対象が筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症しやすいかどうかを判定する方法であって、
対象からの生体試料を分析して、該試料中の、(a)表3、4、5、6、7及び8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症を発現しやすいかどうかを判定すること
を含む方法が提供される。
【0008】
さらに他の態様において、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行/後退をモニターする方法が提供される。該方法は、
第1の時点で対象から得られた、対象からの第1の生体試料を分析して、該試料中の、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
第2の時点で対象から得られた、対象からの第2の生体試料を分析して、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を判定すること、及び
該第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、対象のALSの進行/後退をモニターすること
を含む。
【0009】
さらなる態様において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための組成物の有効性を評価する方法が提供される。該方法は、
筋萎縮性側索硬化症に罹患しており、現在又は以前に組成物で処置されている対象からの生体試料を分析して、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、(a)該組成物で処置される前に対象から得られた、対象からの事前採取生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル、(b)1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性参照レベル、(c)1つ又は複数のバイオマーカーのALS陰性参照レベル、(d)1つ又は複数のバイオマーカーのALS進行陽性参照レベル、及び/又は(e)1つ又は複数のバイオマーカーのALS後退陽性参照レベルと比較すること
を含む。
【0010】
さらに他の態様において、
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置における組成物の有効性を評価する方法であって、
第1の時点で対象から得られた、対象からの第1の生体試料を分析して、該第1の試料中の、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に掲げた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
対象に該組成物を投与すること、
該組成物の投与後、第2の時点で対象から得られた、対象からの第2の生体試料を分析して、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
該第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、筋萎縮性側索硬化症を処置するための組成物の有効性を評価すること
を含む方法が提供される。
【0011】
他の態様において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための2つ以上の組成物の相対的有効性を評価する方法が提供される。該方法は、
筋萎縮性側索硬化症に罹患しており、現在又は以前に第1の組成物で処置されている第1の対象からの第1の生体試料を分析して、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
ALSに罹患しており、現在又は以前に第2の組成物で処置されている第2の対象からの第2の生体試料を分析して、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
該第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、筋萎縮性側索硬化症を処置するための第1及び第2の組成物の相対的有効性を評価すること
を含む。
【0012】
さらに他の態様において、
筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカーの調節における活性に関して組成物をスクリーニングする方法であって、
1つ又は複数の細胞を組成物と接触させること、
1つ又は複数の細胞又は該細胞に関連する生体試料の少なくとも一部を分析して、(a)表3、4、5、6、7及び8に掲げた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該バイオマーカーに関する予め決められた標準的なレベルと比較して、該組成物が該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を調節したかどうかを判定すること
を含む方法が提供される。
【0013】
さらなる態様において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する可能性のある標的薬剤を同定する方法が提供される。該方法は、
(a)表3、4、5、6、7及び8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーに関連する1つ又は複数の生化学的経路を同定すること、及び
該1つ又は複数の同定された生化学的経路の少なくとも1つに影響を及ぼす、筋萎縮性側索硬化症に対する可能性のある標的薬剤であるタンパク質を同定すること
を含む。
【0014】
他の態様において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している対象を処置するための方法が提供される。該方法は、ALSに罹患していない対象と比較してALSに罹患している対象で減少する、表3、4、5、6、7及び8から選択される1つ又は複数のバイオマーカーの有効量を投与することを含む。
【0015】
さらに他の態様において、対象が筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患しているか、又は末梢ニューロパシー若しくはミオパシーに罹患しているかどうかを識別する方法が提供される。該方法は、
対象からの生体試料を分析して、該試料中の、1つ又は複数の生体異物、生体異物の代謝物、及び/又は表14及び15に挙げられたバイオマーカーを含む、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が、ALSに罹患しているか、又は末梢ニューロパシー若しくはミオパシーに罹患しているかどうかを判定すること
を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症のバイオマーカー、ALSを診断するための方法、ALSへの罹患しやすさを判定する方法、ALSの進行/後退をモニターする方法、ALSを処置するための組成物の有効性を評価する方法、ALSのバイオマーカーの調節における活性に関して組成物をスクリーニングする方法、ALSを処置する方法、並びにALSのバイオマーカーに基づく他の方法に関する。しかし、さらに詳細に本発明を記述する前に、以下の用語を先ず定義する。
【0017】
定義:
「バイオマーカー」とは、第1の表現型を有する(例えば、疾患に罹患している)対象又は対象群からの生体試料において、第2の表現型を有する(例えば、疾患に罹患していない)対象又は対象群からの生体試料と比較して差異的に存在(増加又は減少)している化合物、好ましくは、生体異物又は代謝物を意味する。バイオマーカーは、任意のレベルで差異的に存在し得るが、一般に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、又はそれ以上増加したレベルで存在しているか;又は一般に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%(すなわち、存在しない)減少したレベルで存在する。バイオマーカーは、統計的に有意なレベルで(すなわち、ウェルシュT検定又はウィルコクソン順位和検定を用いて判定した際に、0.05未満のp値及び/又は0.10未満のq値)差異的に存在することが好ましい。
【0018】
1つ又は複数のバイオマーカーの「レベル」とは、試料中のバイオマーカーの絶対的又は相対的な量又は濃度を意味する。
【0019】
「試料」又は「生体試料」とは、対象から単離された生物学的材料を意味する。生体試料は、所望のバイオマーカーを検出するために好適な任意の生物学的材料を含有し得、対象からの細胞材料及び/又は非細胞材料を含み得る。試料は、例えば、血液、血漿、尿、又は脳脊髄液(CSF)などの任意の好適な生体組織又は体液から単離することができる。
【0020】
「対象」とは、任意の動物を意味するが、例えば、ヒト、サル、マウス、又はウサギなどの哺乳動物であることが好ましい。
【0021】
バイオマーカーの「参照レベル」とは、特定の疾患状態、表現型、又はそれらの欠如、並びに疾患状態、表現型、又はそれらの欠如の組合せを示すバイオマーカーのレベルを意味する。バイオマーカーの「陽性」参照レベルとは、特定の疾患状態又は表現型を示すレベルを意味する。バイオマーカーの「陰性」参照レベルとは、特定の疾患状態又は表現型の欠如を示すレベルを意味する。例えば、バイオマーカーの「ALS陽性参照レベル」とは、対象におけるALSの陽性診断を示すバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「ALS陰性参照レベル」とは、対象におけるALSの陰性診断を示すバイオマーカーのレベルを意味する。他の例として、バイオマーカーの「ALS進行陽性参照レベル」とは、対象におけるALSの進行を示すバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「ALS後退陽性参照レベル」とは、対象におけるALSの後退を示すバイオマーカーのレベルを意味する。バイオマーカーの「参照レベル」とは、該バイオマーカーの絶対的又は相対的な量又は濃度、該バイオマーカーの存在又は非存在、該バイオマーカーの量又は濃度の範囲、該バイオマーカーの量又は濃度の最小値及び/又は最大値、該バイオマーカーの量又は濃度の平均値、及び/又は該バイオマーカーの量又は濃度の中央値;さらに、バイオマーカーの組合せの「参照レベル」は、2種以上のバイオマーカーの絶対的又は相対的な量又は濃度の互いに関する比率でもあり得る。特定の疾患状態、表現型、又はそれらの欠如に関するバイオマーカーの適切な陽性及び陰性参照レベルは、1つ又は複数の適切な対象における所望のバイオマーカーのレベルを測定することによって決定することができ、このような参照レベルは、対象の特定の集団に対して調整できる(例えば、参照レベルを年齢整合させて、一定の年齢の対象からの試料中のバイオマーカーのレベルと一定の年齢群における特定の疾患状態、表現型、又はそれらの欠如に関する参照レベルとの間の比較を行うことができる)。このような参照レベルはまた、使用される特定の技法に基づいてバイオマーカーのレベルが異なり得る、生体試料中のバイオマーカーのレベルを測定するために使用される特定の技法に対しても調整できる(例えば、LC−MS、GC−MSなど)。
【0022】
「代謝物」又は「小型分子」とは、細胞内に存在する有機又は無機の分子を意味する。この用語は、大型タンパク質(例えば、2,000、3,000、4,000,5,000、6,000,7,000、8,000,9,000、又は10,000以上の分子量を有するタンパク質)、大型核酸(例えば、2,000、3,000、4,000,5,000、6,000,7,000、8,000,9,000、又は10,000以上の分子量を有する核酸)、又は大型多糖類(例えば、2,000、3,000、4,000,5,000、6,000,7,000、8,000,9,000、又は10,000以上の分子量を有する多糖類)などの大型高分子を含まない。細胞の小型分子は一般に、細胞質内又はミトコンドリアなどの他の細胞小器官内の溶液中に遊離状態で見られるが、そこでそれらはさらに代謝され得るか、又は高分子と呼ばれる大型分子を作出するために使用され得る中間体のプールを形成する。用語「小型分子」は、シグナル伝達分子及び食物から誘導されるエネルギーを使用可能な形態へと変換する化学反応における中間体を含む。小型分子の例としては、糖類、脂肪酸、アミノ酸、ヌクレオチド、細胞過程の間に形成される中間体、及び細胞内に見られる他の小型分子が挙げられる。
【0023】
「生体異物」とは、所与の生物に対する化学的異物(すなわち、インビボで産生されない)を意味する。生体異物としては、限定はしないが、薬剤、殺虫剤、及び発癌物質が挙げられる。生体異物の代謝は2段階で生じる。第1相の酵素としては、シトクロムP450酵素が挙げられ、第2相の酵素としては、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ及びグルタチオンSトランスフェラーゼが挙げられる。
【0024】
「生体異物の第1相代謝物」とは、生体異物の第1相代謝の産物を意味する。例えば、パラキサンチン(すなわち、1−7−ジメチルキサンチン)、テオフィリン、及びテオブロミンは、カフェインの第1相代謝物である。
【0025】
「代謝プロファイル」、又は「小型分子プロファイル」とは、標的の細胞、組織、器官、生物、又はそれらの部分(例えば、細胞区画)内の小型分子の完全な、又は部分的なインベントリーを意味する。該インベントリーは、存在する小型分子の量及び/又はタイプを含み得る。「小型分子プロファイル」は、単一の技法又は複数の異なる技法を用いて決定することができる。
【0026】
「非バイオマーカー化合物」とは、第2の表現型を有する(例えば、第1の疾患に罹患していない)対象又は対象群からの生体試料と比較して、第1の表現型を有する(例えば、第1の疾患に罹患している)対象又は対象群からの生体試料中に差異的には存在していない化合物を意味する。しかし、このような非バイオマーカー化合物は、第1の表現型(例えば、第1の疾患に罹患している)又は第2の表現型(例えば、第1の疾患に罹患していない)と比較して、第3の表現型(例えば、第2の疾患に罹患している)を有する対象又は対象群からの生体試料中のバイオマーカーであり得る。
【0027】
「メタボローム」とは、所与の生物内に存在する全ての小型分子を意味する。
【0028】
「神経変性疾患」としては、限定はしないが、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病、アルツハイマー病、及びパーキンソン病が挙げられる。
【0029】
I.バイオマーカー
本明細書に記載されているALSバイオマーカーは、メタボロームプロファイリング法を用いて発見された。このようなメタボロームプロファイリング法は、下記の実施例、並びに全内容が参照として本明細書に組み込まれている、米国特許第7,005,255号及び米国特許出願第11/357,732号、第10/695,265号(公開第2005/0014132号)、米国特許出願第11/301,077号(公開第2006/0134676号)、米国特許出願第11/301,078号(公開第2006/0134677号)、米国特許出願第11/301,079号(公開第2006/0134678号)、及び米国特許出願第11/405,033号に、より詳細に記載されている。
【0030】
一般に、代謝プロファイルは、ALSと診断されたヒト対象からの生体試料並びに1つ又は複数の他のヒト対象群(例えば、ALSと診断されていない健常な対照対象)からの生体試料に関して決定された。ALSに関する代謝プロファイルを、1つ又は複数の他の対象群からの生体試料に関する代謝プロファイルと比較した。他の群(例えば、ALSと診断されていない健常な対照対象)と比較して、ALS試料の代謝プロファイルにおいて、統計的に有意なレベルで差異的に存在している分子などの差異的に存在している分子を、それらの群を識別するためのバイオマーカーとして同定した。
【0031】
バイオマーカーは、本明細書においてより詳細に考察される。発見されたバイオマーカーは、以下の群に相当する:
ALS対象対ALSと診断されていない対象を識別するためのバイオマーカー(表3、4、5、6、7、8、及び9を参照);
ALSに罹患している対象対末梢ニューロパシーに罹患している対象を識別するためのバイオマーカー(表14を参照);
ALSに罹患している対象対ミオパシーに罹患している対象を識別するためのバイオマーカー(表15を参照);
早期ALS対後期ALSを識別するためのバイオマーカー(すなわち、ALSの進行/後退を識別するためのバイオマーカー)(表16、17、及び18を参照)。
【0032】
比較群に関連した非バイオマーカー化合物もまた同定された。発見された非バイオマーカー化合物は、以下の群に相当する:
ALS対象とALSとは診断されていない対照対象との間で同じレベルで存在している非バイオマーカー化合物(表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18を参照)。
【0033】
この時点で、バイオマーカー化合物及び非バイオマーカー化合物のいくつかの身元は不明であるが、これら「無名」化合物は、このような同定を可能にする分析法によって十分に特性化されているため、対象からの生体試料中のバイオマーカー化合物又は非バイオマーカー化合物の同定にとって、そのような身元は必要ない。このような全ての「無名」化合物の分析特性化は実施例に記載されている。このような「無名」バイオマーカー化合物及び非バイオマーカー化合物は、本明細書において、「代謝物」の後に特定の代謝物番号の名称を用いて称されている。
【0034】
また、以前「無名」の代謝物の身元が決定された場合、実際の代謝物の身元の後に、「以前の代謝物−xxxx」(例えば、ラクテート(以前:代謝物−2694)−35)の名称を付けるか、又は「代謝物」番号の後に、「廃棄」と称して、実際の代謝物の身元を付ける(例えば、代謝物−1713を廃棄:n−アセチル−L−アスパラギン酸)。
【0035】
最後に、「無名」の代謝物に対して、化合物の身元として可能性のあるものが提案されているが、このような身元が確認されていない場合、「代謝物」番号の後に「可能な」と称される(可能性のある化合物の身元と共に)。このような提案された身元は、そうでない場合に「無名」である化合物の分析特性化を限定するものとして考えるべきではない。
【0036】
II.バイオマーカーとしての生体異物及び生体異物代謝物
上記のバイオマーカーに加えて、生体異物(限定はしないが、カフェインを含む)及び生体異物の代謝物は、ALSに関するバイオマーカーであることが決定されている。
【0037】
理論に拘束されないが、ALS(特に、散発性ALS)の病因における少なくとも1つの要因は、第2相の酵素活性に対して、第1相の酵素活性がより高いこと(すなわち、(1)第2相の正常な酵素活性と第1相の正常より高い酵素活性との共役、(2)第1相の正常な酵素活性と第2相の低い酵素活性との共役、又は(3)第1相の正常より高い酵素活性と第2相の低い酵素活性との共役)による、体内の生体異物の代謝不均衡であると考えられている。このような不均衡により、体内により多くの毒素及びフリーラジカルが存在することとなり(第1相の酵素によって産生される)ALS、特にSALSの発症及び進行へと至り得る。したがって、生体異物及びそれらの対応する代謝物が、本明細書に記載されている種々の方法(例えば、ALS対象対正常対象の識別、並びにALS対象対ALSに類似した神経変性疾患に罹患している対象の識別を含む)のためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0038】
ALSに関するバイオマーカーとして使用できる生体異物及び対応する代謝物の一例はカフェイン及びその対応する代謝物である。実施例4〜7に示されるように、ALSに罹患している対象を、ALSに罹患していない正常な対象から識別するために、また、ALSに罹患している対象を、ALSに類似した症状を有する他の神経変性疾患(例えば、ミオパシー、ニューロパシー)に罹患している対象から識別するためのバイオマーカーとして、カフェイン及び第1相のカフェイン代謝物(例えば、パラキサンチン(すなわち、1−7−ジメチルキサンチン)、テオフィリン、及びテオブロミン)を使用できる。下記に説明されるように、カフェイン及びカフェイン代謝物(すなわち、パラキサンチン/1,7−ジメチルキサンチン、テオフィリン、テオロミン)のレベルは、健常対象と比較して、ALS患者の血漿中ではより低いことが示されており、ALSとALSに類似した症状を有する疾患(例えば、ミオパシー、PN)との間を識別するために、カフェイン及びパラキサンチンのレベルを使用することができる。したがって、このようなバイオマーカーはALSの診断に有用である。
【0039】
対照対象の血漿中レベルと比較して、ALS患者の血漿中ではより低レベルのカフェイン及びカフェイン代謝物(すなわち、パラキサンチン/1,7−ジメチルキサンチン、テオブロミン、テオフィリン)が測定された(表9及び実施例4を参照)。ALS対象において、カフェイン及びカフェイン代謝物がより低レベルなのは、カフェインを代謝する酵素(例えば、毒素、薬剤、アルコール、塗料ヒュームと反応する肝臓の第1相シトクロムP450酵素並びに肝臓における第2相の反応によって毒性のより低い水溶性の物質に変換され得る化合物を形成する他の多くの物質)の活性の増加によるものであり、これらの対象が低量のカフェインを摂取していることによるわけではないと考えられる。
【0040】
CYPIA2、誘導性のシトクロムP450の活性は、カフェインが身体からどれだけ速く除去されるかを反映する。カフェインの高速クリアランス(すなわち、高比率のカフェイン代謝物/カフェイン)は、毒性物質を除去するために肝臓が高速で働いていることを示す。きわめて高いカフェインクリアランス速度を有する個体は、第1相のシトクロムP450活性によるこれらの生体異物及び毒素の代謝によってさらなる毒性物質及びフリーラジカルが生じるため、環境毒素、殺虫剤、さらには車の排気ガスに影響を受けやすい。第2相の系の活性もまた高ければ、この系の均衡はとれている。しかし、第2相の系の活性が第1相の活性との均衡から外れていれば、第1相の毒素及びフリーラジカルは蓄積し得る。
【0041】
肝臓の迅速な第1相の代謝による毒素及びフリーラジカルの生成は、散発性ALSの発症に寄与し得る可能性がある。カフェイン及びカフェイン代謝物のレベルは、対照対象と比較して、ALS対象でははるかに低い(表9及び実施例4を参照)。しかし、カフェインに対するカフェイン代謝物の比率は、対照対象と比較して、ALSでより高く(表10及び実施例5を参照)、ALS患者における第1相の肝臓解毒系が正常レベルよりも高く働いている可能性を示している。これは年齢効果によるという可能性は低い。種々の年齢の個体の人口統計学的試験で、カフェインとカフェイン代謝物であるパラキサンチンの双方のレベルが、年齢によって増加するからである(表11及び実施例5を参照)。さらに、表11に示されているように、パラキサンチン/カフェイン比は、ALSが典型的に診断される年齢である高齢者群で最も低い。したがって、カフェイン、カフェイン代謝物のレベル及び/又はカフェイン/カフェイン代謝物の比率(すなわち、カフェイン代謝/クリアランス)を測定することにより、ALSに罹患している個体の診断、並びにALSの危険性にある個体の同定のために有用な貴重な情報が提供でき、また、散発性ALSのいくつかの場合の病因において、過剰活性のシトクロムP450系及び/又は生体異物代謝の他の機序との関係が示唆される。これらの酵素系を標的にし、毒性物質の形成速度を低下させる療法は、ALSの発症を防止又は相当に遅延できると考えられる。
【0042】
カフェインのレベルは、ミオパシーに罹患している個体からの血漿並びに末梢ニューロパシー(PN)患者からの血漿と比較して、ALSに罹患している患者からの血漿中で有意により低い(表12及び実施例6を参照)。したがって、カフェイン及び/又はカフェイン代謝物は、ミオパシー又はPNなどの、ALSに類似した症状を有する疾患からALSを識別するためにも有用なバイオマーカー(複数可)である。さらにカフェインに対するパラキサンチンの比率は、ミオパシー又はPNにおける比率よりもALSにおいてより高い。このことは、カフェインクリアランスが、ALSに類似した疾患よりもALSにおいてより高いことを裏付けており、ALSに対する可能性のある有用な治療標的を提供する。また、カフェイン、カフェイン代謝物のレベル及び/又はカフェイン代謝物/カフェインの比率は、ALSをこれらALS「模倣体」から識別するための診断試験において有用である。
【0043】
本明細書に記載された方法のいくつかの実施形態において、使用されるバイオマーカーの少なくとも1つは、例えば、カフェイン及び/又はカフェイン代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及び/又はテオブロミン)などの生体異物及び/又は生体異物の代謝物(好ましくは、生体異物及び生体異物の第1相の代謝物)を含む。
【0044】
III.ALSの診断
ALSに関するバイオマーカーの同定によって、ALSの1つ又は複数の症状を呈している対象におけるALSの診断(又は診断の補助)が可能になる。対象がALSに罹患しているかどうかを診断する(又は診断を補助する)方法は、(1)対象からの生体試料を分析して、該試料中の筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び(2)該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベル(複数可)と比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症に罹患しているかどうかを診断する(又は診断を補助する)ことを含む。使用される1つ又は複数のバイオマーカーは、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7及び/又は8、並びにそれらの組合せから選択される。ALSの診断の補助にこのような方法が使用される場合は、該方法の結果は、対象がALSに罹患しているかどうかの臨床的判定に有用な他の方法(又はその結果)と共に使用できる。
【0045】
任意の好適な方法を使用することにより、該試料を分析して、生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定することができる。好適な方法としては、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)質量分析(例えば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体結合、他の免疫化学的方法、及びそれらの組合せが挙げられる。さらに、例えば、測定が望まれているバイオマーカーのレベル(複数可)に相関している1つ又は複数の化合物のレベルが測定されるアッセイを用いて、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を間接的に測定することができる。
【0046】
対象がALSに罹患しているかどうかを診断する方法及び診断を補助する方法において、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7及び/又は8から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを決定できる。例えば、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、及び/又は8又はそれらの任意の部分から選択される全てのバイオマーカーの組合せを含む、1つのバイオマーカー、2つ以上のバイオマーカー、3つ以上のバイオマーカー、4つ以上のバイオマーカー、5つ以上のバイオマーカー、6つ以上のバイオマーカー、7つ以上のバイオマーカー、8つ以上のバイオマーカー、9つ以上のバイオマーカー、10以上のバイオマーカーなどのレベル(複数可)を決定でき、そのような方法に使用できる。バイオマーカーの組合せのレベルを決定することにより、ALSの診断及びALSの診断の補助において、より高い感受性及び特異性を可能にすることができ、また、ALSに類似した、又は重複したバイオマーカーを有し得る他の神経変性疾患からALSをより良好に識別すること(神経変性疾患に罹患していない対象と比較して)を可能にし得る。例えば、生体試料中の一定のバイオマーカー(及び非バイオマーカー化合物)のレベルの比率は、ALSの診断及びALSの診断の補助において、より高い感受性及び特異性を可能にすることができ、また、ALSに類似した、又は重複したバイオマーカーを有し得る他の神経変性疾患からALSをより良好に識別すること(神経変性疾患に罹患していない対象と比較して)を可能にし得る。
【0047】
一定のタイプの試料(例えば、CSF試料又は血漿試料)中のALS診断(又はALS診断の補助)に関して特異的な1つ又は複数のバイオマーカーもまた使用できる。例えば、生体試料が脳脊髄液である場合、対象がALSに罹患しているかどうかを診断する(又は診断を補助する)ために、表3及び/又は4に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカーが使用できる。生体試料が血漿である場合、対象がALSに罹患しているかどうかを診断する(又は診断を補助する)ために、表5、6、7及び/又は8から選択される1つ又は複数のバイオマーカーが使用できる。
【0048】
試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定した後、該レベル(複数可)は、ALS陽性参照及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象がALSに罹患しているかどうかの診断を補助する又は診断する。ALS陽性参照レベルに相当する試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(例えば、参照レベルと同じレベル、参照レベルと実質的に同じレベル、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内)は、対象におけるALSの診断を示す。ALS陰性参照レベルに相当する試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(例えば、参照レベルと同じレベル、参照レベルと実質的に同じレベル、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内)は、対象における非ALSの診断を示す。また、ALS陰性参照レベルと比較して、試料中に差異的に存在している(特に、統計的に有意なレベルで)1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、対象におけるALSの診断を示す。ALS陽性参照レベルと比較して、試料中に差異的に存在している(特に、統計的に有意なレベルで)1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、対象における非ALSの診断を示す。一実施形態において、試料中のカフェイン及びパラキサンチン及び/又はテオフィリンのレベルが決定され、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルは、表10に挙げられたパラキサンチン/カフェイン比及び/又はテオフィリン/カフェイン比を含み得る。
【0049】
ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルに対する生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)の単純な比較(例えば、マニュアル比較)を含む種々の技法を用いて、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較できる。また、1つ又は複数の統計解析(例えば、t検定、ウェルシュT検定、ウィルコクソン順位和検定、ランダムフォレスト)を用いて、生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較できる。
【0050】
また、生体試料を分析して、1つ又は複数の非バイオマーカー化合物のレベル(複数可)を決定できる。このような非バイオマーカー化合物のレベル(複数可)はまた、ALSに類似した、又は重複したバイオマーカーを有し得る他の神経変性疾患からALSを識別すること(神経変性疾患に罹患していない対象と比較して)を可能にし得る。例えば、ALSに罹患している対象及びALSに罹患していない対象の生体試料に存在する既知の非バイオマーカー化合物をモニターして、他の神経変性疾患に罹患している患者からの生体試料が非バイオマーカー化合物を有しない場合、他の神経変性疾患の診断と比較して、ALSの診断を検証し得ると考えられる。
【0051】
IV.ALSへの罹患しやすさを判定する方法
ALSに関するバイオマーカーの同定により、ALSの症状を有していない対象がALSを発現しやすいかどうかの判定も可能になる。ALSの症状を有していない対象が筋萎縮性側索硬化症を発現しやすいかどうかを判定する方法は、(1)対象からの生体試料を分析して、該試料中の生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7及び/又は8から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び(2)該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症発現を発現しやすいかどうかを判定することを含む。この方法の結果は、対象がALSを発現しやすいかどうかの臨床的判定に有用な他の方法(又はそれらの結果)と共に使用できる。
【0052】
上記のようにALSを診断する(又は診断を補助する)方法に関連して、任意の好適な方法を使用することにより、生体試料を分析して、試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを決定することができる。
【0053】
上記のALSを診断する(又はその診断を補助する)方法では、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、及び/又は8又はそれらの任意の部分から選択される全てのバイオマーカーの組合せを含む、1つのバイオマーカー、2つ以上のバイオマーカー、3つ以上のバイオマーカー、4つ以上のバイオマーカー、5つ以上のバイオマーカー、6つ以上のバイオマーカー、7つ以上のバイオマーカー、8つ以上のバイオマーカー、9つ以上のバイオマーカー、10以上のバイオマーカーなどのレベル(複数可)を決定でき、ALSの症状を有さない対象がALSを発現しやすいかどうかを判定する方法に使用できる。
【0054】
試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定した後、前記レベル(複数可)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症を発現しやすいかどうかを予測する。ALS陽性参照レベルに相当する試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(例えば、参照レベルと同じレベル、参照レベルと実質的に同じレベル、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内)は、対象がALSを発現しやすいことを示す。ALS陰性参照レベルに相当する試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(例えば、参照レベルと同じレベル、参照レベルと実質的に同じレベル、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内)は、対象がALSを発現しやすくないことを示す。また、ALS陰性参照レベルと比較して、試料中に差異的に存在している(特に、統計的に有意なレベルで)1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、対象がALSを発現しやすいことを示す。ALS陽性参照レベルと比較して、試料中に差異的に存在している(特に、統計的に有意なレベルで)1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、対象がALSを発現しやすくないことを示す。
【0055】
さらに、ALSに罹患していない対象が、ALSを発現しやすいかどうかの評価に特異的な参照レベルを決定することも可能であり得る。例えば、ALS発現に関して、対象における異なる危険度(例えば、低い、中等度、高い)を評価するために、バイオマーカーの参照レベルを決定することが可能であり得る。このような参照レベルを、対象からの生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルとの比較に使用できると考えられる。
【0056】
上記の方法では、単純な比較、1つ又は複数の統計解析及びそれらの組合せを含む種々の技法を用いて、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較できる。
【0057】
対象がALSに罹患しているかどうかを診断する(又は診断を補助する)方法では、ALSの症状を有していない対象が、筋萎縮性側索硬化症を発現しやすいかどうかを判定する方法は、生体試料を分析して、1つ又は複数の非バイオマーカー化合物のレベル(複数可)を決定することをさらに含み得る。
【0058】
V.ALSの進行/後退をモニターする方法
ALSに関するバイオマーカーの同定によって、対象におけるALSの進行/後退をモニターすることも可能になる。対象における筋萎縮性側索硬化症の進行/後退をモニターする方法は、(1)第1の時点で得られた、対象からの第1の生体試料を分析して、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、8、16、17及び/又は18から選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、(2)第2の時点で得られた、対象からの第2の生体試料を分析して、1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを決定すること、及び(3)該第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、対象におけるALSの進行/後退をモニターすることを含む。該方法の結果は、対象におけるALSの経過(すなわち、何らかの変化がある場合は、進行又は後退)を示す。
【0059】
経時的な1つ又は複数のバイオマーカーのレベルの変化(存在する場合)は、対象におけるALSの進行又は後退を示し得る。対象におけるALSの経過を特性化するために、第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、及び/又は第1と第2の試料中のバイオマーカーのレベル(複数可)の比較の結果を、1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較できる。前記比較によって、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)が、経時的に増加又は減少して(例えば、第1の試料と比較して、第2の試料において)、ALS陽性参照レベルとの類似性が高く(又は、ALS陰性参照レベルとの類似性が低く)なることが示されれば、その結果は、ALSの進行を示す。前記比較によって、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)が、経時的に増加又は減少して、ALS陰性参照レベルとの類似性が高く(又は、ALS陽性参照レベルとの類似性が低く)なることが示されれば、その結果は、ALSの後退を示す。
【0060】
対象における経過は、第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、及び/又は第1と第2の試料中のバイオマーカーのレベル(複数可)の比較の結果を、ALS進行陽性及び/又はALS後退陽性参照レベル(例えば、下記の実施例11は、ALSの進行につれて一定のバイオマーカーが増加するか減少するかを示す早期のALS対後期のALSを識別するためのバイオマーカーを記述しており;このようなALSの後期対早期におけるバイオマーカーの傾向及び/又はレベルは、ALS進行の陽性参照レベルの一例である)と比較することによっても特性化できる。前記比較によって、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)が、経時的に増加又は減少して(例えば、第1の試料と比較して、第2の試料において)、ALS進行陽性参照レベルとの類似性が高く(又は、ALS後退陽性参照レベルとの類似性が低く)なることが示されれば、その結果は、ALSの進行を示す。前記比較によって、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)が、経時的に増加又は減少して、ALS後退陽性参照レベルとの類似性が高く(又は、ALS進行陽性参照レベルとの類似性が低く)なることが示されれば、その結果は、ALSの後退を示す。
【0061】
本明細書に記載された他の方法で、対象におけるALSの進行/後退をモニターする方法でなされる比較は、単純な比較、1つ又は複数の統計解析、及びそれらの組合せを含む種々の技法を用いて実施できる。
【0062】
前記方法の結果は、対象におけるALSの進行/後退の臨床的モニタリングに有用な他の方法(又はそれらの結果)と共に使用できる。
【0063】
ALSを診断する(又は診断を補助する)方法に関連して上記のように、任意の好適な方法を使用することにより、生体試料を分析して、試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを決定することができる。また、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、8、16、17、及び/又は18又はそれらの任意の部分から選択される全てのバイオマーカーの組合せを含む1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを決定して、対象におけるALSの進行/後退をモニターする方法に使用できる。
【0064】
このような方法は、ALSに罹患している対象におけるALSの経過をモニターするために実施できるか、又はALSへの罹患しやすさのレベルをモニターするために、ALSに罹患していない対象(例えば、ALSを発現しやすいことが疑われる対象)において使用できる。
【0065】
VI.ALSを処置するための組成物の有効性を評価する方法
また、ALSに関するバイオマーカーの同定により、ALSを処置するための組成物の有効性の評価並びにALSを処置するための2種以上の組成物の相対的有効性の評価も可能になる。例えば、このような評価は、有効性試験並びにALSを処置するための組成物の優位選択に使用できる。
【0066】
筋萎縮性側索硬化症を処置するための組成物の有効性を評価する方法は、(1)筋萎縮性側索硬化症に罹患しており、現在又は以前に組成物で処置されている対象(又は対象群)からの生体試料(又は試料群)を分析して、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、8、16、17、及び/又は18から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び(2)該試料(又は試料群)中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、(a)該組成物で処置される前に対象(又は対象群)から得られた、対象(又は対象群)からの事前採取生体試料(又は試料群)中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、(b)1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性参照レベル、(c)1つ又は複数のバイオマーカーのALS陰性参照レベル、(d)1つ又は複数のバイオマーカーのALS進行陽性参照レベル、及び/又は(e)1つ又は複数のバイオマーカーのALS後退陽性参照レベルと比較することを含む。この比較の結果は、ALSを処置するための組成物の有効性を示す。
【0067】
したがって、ALSを処置するための組成物の有効性を特性化するために、生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、(1)ALS陽性参照レベル、(2)ALS陰性参照レベル、(3)ALS進行陽性参照レベル、(4)ALS後退陽性参照レベル、及び/又は(5)該組成物による処置前の対象(又は対象群)における1つ又は複数のバイオマーカーの以前のレベルと比較する。
【0068】
生体試料(筋萎縮性側索硬化症に罹患していて、現在又は以前に組成物によって処置されている対象又は対象群からの)中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、ALS陽性参照レベル、ALS陰性参照レベル、ALS進行陽性参照レベル、ALS後退陽性参照レベルと比較する場合、ALS陰性参照レベル又はALS後退陽性参照レベルに相当する試料(複数可)中のレベル(複数可)(例えば、参照レベルと同じ、参照レベルと実質的に同じ、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内のレベル)は、該組成物がALS処置に関して有効性を有していることを示す。ALS陽性参照レベル又はALS進行陽性参照レベルに相当する試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)(例えば、参照レベルと同じ、参照レベルと実質的に同じ、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内のレベル)は、該組成物がALS処置に関して有効性を有さないことを示す。前記比較はまた、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)に基づいて、ALS処置に関する有効性の程度も示し得る。
【0069】
生体試料(ALSに罹患していて、現在又は以前に組成物によって処置されている対象又は対象群からの)中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該組成物による処置前に、対象(又は対象群)からの事前採取生体試料(複数可)中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較する場合、該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)の変化は、ALSを処置するための組成物の有効性を示す。すなわち、該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)が該組成物による処置の後に増加又は減少して、ALS陰性又はALS後退陽性参照レベルとの類似性がより高くなった(又は、ALS陽性又はALS進行陽性参照レベルとの類似性がより低くなった)ことが前記比較によって示されるならば、その結果は、該組成物がALS処置に関して有効性を有することを示す。該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)が該組成物による処置の後に増加又は減少せず、ALS陰性又はALS後退陽性参照レベルとの類似性がより高くなった(又は、ALS陽性又はALS進行陽性参照レベルとの類似性がより低くなった)ことが前記比較によって示されるならば、その結果は、該組成物がALS処置に関して有効性を有さないことを示す。前記比較はまた、処置後の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)に見られる変化の量に基づいて、ALS処置に関する有効性の程度も示し得る。このような比較の特性化を補助するために、該組成物によって現在又は以前に処置されている対象における1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)の変化、処置前の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、及び/又は1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性、ALS陰性、ALS進行陽性、及び/又はALS後退陽性参照レベルと比較できる。
【0070】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置における組成物の有効性を評価するための他の方法は、(1)第1の時点で対象(又は対象群)から得られた、対象からの第1の生体試料(又は試料群)を分析して、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、8、16、17、及び/又は18から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、(2)対象に該組成物を投与すること、(3)該組成物の投与後、第2の時点で対象から得られた、対象からの第2の生体試料を分析して、該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び(4)該第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、筋萎縮性側索硬化症の処置用組成物の有効性を評価することを含む。上記に示されたように、該試料の比較によって、該1つ又は複数のバイオマーカーのレベルが、該組成物の投与後に増加又は減少して、ALS陰性又はALS後退陽性参照レベルとの類似性がより高くなった(又はALS陽性又はALS進行陽性参照レベルとの類似性がより低くなった)ことが示されるならば、その結果は、該組成物がALS処置に関して有効性を有することを示す。該比較によって、該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)が、該組成物の投与後に増加又は減少せず、ALS陰性又はALS後退陽性参照レベルとの類似性がより高くなった(又はALS陽性又はALS進行陽性参照レベルとの類似性がより低くなった)ことが示されるならば、その結果は、該組成物がALS処置に関して有効性を有さないことを示す。該比較はまた、該組成物の投与後に、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)において見られた変化の量に基づいた、ALS処置に関する有効性の程度も示す。このような比較の特性化を補助するために、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)の変化、該組成物の投与前の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、及び/又は該組成物の投与後の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、2つの組成物の1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性、ALS陰性、ALS進行陽性、及び/又はALS後退陽性参照レベルと比較することができる。
【0071】
筋萎縮性側索硬化症を処置するための2種以上の組成物の相対的有効性を評価する方法は、(1)現在又は以前に第1の組成物で処置されている、ALSに罹患している第1の対象からの第1の生体試料を分析して、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、8、16、17、及び/又は18から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、(2)現在又は以前に第2の組成物で処置されている、ALSに罹患している第2の対象からの第2の生体試料を分析して、該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、(3)該第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、筋萎縮性側索硬化症の処置に関する第1及び第2の組成物の相対的有効性を評価することを含む。その結果は、これら2種の組成物の相対的有効性を示し、相対的有効性の特性化を補助するために、該結果(又は第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル及び/又は第2の試料中の該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可))を、ALS陽性、ALS陰性、ALS進行陽性、及び/又はALS後退陽性参照レベルと比較することができる。
【0072】
有効性を評価する方法の各々は、1人又は複数の対象又は1つ又は複数の対象群に対して実施できる(例えば、第1の群は第1の組成物によって処置し、第2の群は第2の組成物によって処置する)。
【0073】
本明細書に記載された他の方法で、ALSを処置するための組成物の有効性(又は相対的有効性)を評価する方法において行われる比較は、単純な比較、1つ又は複数の統計的解析、及びそれらの組合せを含む種々の技法を用いて実施できる。任意の好適な方法を用いて該生体試料を分析して、試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定することができる。また、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、8、16、17、及び/又は18、又はそれらの任意の部分から選択される全てのバイオマーカーの組合せを含めて、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定することができ、ALSを処置するための組成物の有効性(又は相対的有効性)を評価する方法に使用できる。
【0074】
最後に、ALSを処置するための1つ又は複数の組成物の有効性(又は相対的有効性)を評価する方法は、該生体試料を分析して、1つ又は複数の非バイオマーカー化合物のレベル(複数可)を決定することをさらに含む。次いで、該非バイオマーカー化合物を、ALSに罹患している(又は罹患していない)対象に関する非バイオマーカー化合物の参照レベルと比較することができる。
【0075】
VII.ALS関連バイオマーカーの調節における活性に関して組成物をスクリーニングする方法
ALSに関するバイオマーカーの同定はまた、ALSの処置において有用であり得る、ALS関連バイオマーカーの調節における活性に関する組成物のスクリーニングも可能にする。ALSの処置に有用な組成物をスクリーニングする方法は、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7、及び/又は8から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベルの調節における活性に関して試験組成物をアッセイすることを含む。このようなスクリーニングアッセイは、インビトロ及び/又はインビボで実施でき、例えば、細胞培養アッセイ、臓器培養アッセイ、及びインビボアッセイ(例えば、動物モデルを含むアッセイ)など、試験組成物の存在下、このようなバイオマーカーの調節をアッセイすることに関して有用な、当業界に知られている任意の形態で実施できる。
【0076】
一実施形態において、筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカー調節における活性に関して組成物をスクリーニングする方法は、(1)1つ又は複数の細胞を組成物と接触させること、(2)1つ又は複数の細胞又は該細胞に関連する生体試料の少なくとも一部を分析して、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7及び/又は8から選択される、筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び(3)1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーに関する予め決められた標準的なレベルと比較して、該組成物が該1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を調節したかどうかを判定することを含む。上記で考察したように、該細胞は、インビトロ及び/又はインビボで該組成物に接触させることができる。1つ又は複数のバイオマーカーの予め決められた標準的レベルは、該組成物の非存在下、1つ又は複数の細胞における1つ又は複数のバイオマーカーのレベルであり得る。1つ又は複数のバイオマーカーの予め決められた標準的レベルはまた、該組成物に接触させなかった対照細胞における1つ又は複数のバイオマーカーのレベルでもあり得る。
【0077】
また、前記方法はまた、1つ又は複数の細胞又は該細胞に関連した生体試料の少なくとも一部を分析して、筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数の非バイオマーカー化合物のレベル(複数可)を決定することをさらに含み得る。次いで、非バイオマーカー化合物のレベルを、1つ又は複数の非バイオマーカー化合物の予め決められた標準的レベルと比較することができる。
【0078】
任意の好適な方法を使用することにより、1つ又は複数の細胞又は該細胞に関連した生体試料の少なくとも一部を分析して1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)(又は非バイオマーカー化合物のレベル)を決定することができる。好適な方法としては、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(例えば、MS、MS−MS)、ELISA、抗体結合、他の免疫化学的技法、及びそれらの組合せが挙げられる。さらに、例えば、測定が望まれるバイオマーカー(複数可)(又は非バイオマーカー化合物)のレベルに関連している化合物(1つ又は複数)のレベルを測定するアッセイを用いることにより、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)(又は非バイオマーカー化合物のレベル)を間接的に測定できる。
【0079】
VIII.可能性のある薬剤標的を同定する方法
ALSに関するバイオマーカーの同定により、ALSに対する可能性のある薬剤標的の同定も可能になる。筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する可能性のある薬剤標的を同定する方法は、(1)生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7及び/又は8から選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーに関連する1つ又は複数の生化学的経路を同定すること、及び(2)該1つ又は複数の同定された生化学的経路の少なくとも1つに影響を及ぼす、筋萎縮性側索硬化症に対する可能性のある薬剤標的であるタンパク質(例えば、酵素)を同定することを含む。
【0080】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する可能性のある薬剤標的を同定する他の方法は、(1)生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表3、4、5、6、7及び/又は8から選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカー、並びに表3、4、5、6、7及び/又は8から選択される、ALSの1つ又は複数の非バイオマーカー化合物に関連した1つ又は複数の生化学的経路を同定すること、及び(2)該1つ又は複数の同定された生化学的経路の少なくとも1つに影響を及ぼす、筋萎縮性側索硬化症に対する可能性のある薬剤標的であるタンパク質を同定することを含む。
【0081】
1つ又は複数のバイオマーカー(又は非バイオマーカー化合物)に関連する1つ又は複数の生化学的経路(例えば、生合成及び/又は代謝(異化)経路)が同定される。該生化学的経路が同定された後、少なくとも1つの該経路に影響を及ぼす1つ又は複数のタンパク質が同定される。複数の経路に影響を及ぼしているタンパク質が同定されることが好ましい。
【0082】
1つの代謝物(例えば、経路中間体)の増加は、該代謝物の「ブロック」下流の存在を示していることが考えられ、該ブロックは、下流代謝物(例えば、生合成経路の産物)の低/非存在レベルをもたらし得る。同様な様式で、代謝物の非存在は、非活性又は非機能的な酵素(複数可)から、又は該産物を産生する上で必要な物質である生化学的中間体が利用できないことから生じる該代謝物の上流の経路における「ブロック」の存在を示していると考えることができる。或いは、代謝物レベルの増加は、異常タンパク質を生じさせる遺伝子変異によって代謝物の過剰産生及び/又は蓄積がもたらされ、次いで、他の関連した生化学的経路の変化が導かれ、その経路を介した正常な流動の調節不全がもたらされること;さらに、生化学的中間代謝物の増加が毒性であり得るか、又は関連経路にとって必要な中間体の産生を損ない得ることを示していると考えることができる。現在、経路間の関連性が不明であっても、本データがこのような関連性を解明し得ることが可能である。
【0083】
例えば、ALSにおける高グルタメートレベルにより、グルタメート受容体の過剰興奮性に至り、神経毒性を生じさせることが提案されている。薬剤リルゾール(Riluzole)は、中枢神経系におけるグルタメート放出をシナプス前阻害することによるグルタメートレベルの低下によって作用すると考えられる。しかし、この薬剤は、体内の総グルタメートレベルは低下させない。正常対象と比較して、ALSにおいて上昇するバイオマーカーとしてのグルタメートの本性により、可能性のある薬剤標的は、グルタメート産生を導く経路内にあり得ることが示唆されるであろう。グルタメート合成の阻害により機能すると考えられる組成物は、グルタメートのレベルを抑制し得る。このような酵素の一例は、グルタミンをグルタメートへと変換するグルタミナーゼ2である。何らかの上昇バイオマーカーの産生を導く経路は、薬剤発見のための多数の可能性のある標的を提供すると考えられる。
【0084】
次いで、可能性のある薬剤標的として同定されたタンパク質を用いて、遺伝子療法のための組成物を含むALS治療に関する可能性のある候補であり得る組成物を同定できる。
【0085】
IX.ALSを処置する方法
ALSに関するバイオマーカーの同定により、ALSの処置も可能になる。例えば、ALSに罹患している対象を処置するために、ALSに罹患していない健常対象と比較してALSにおいて減少する1つ又は複数のALSバイオマーカーの有効量を該対象に投与できる。投与できるバイオマーカーは、ALSに罹患していない対象と比較してALSにおいて減少する、表3、4、5、6、7、及び/又は8における1つ又は複数のバイオマーカーを含み得る。このようなバイオマーカーは、バイオマーカー化合物の身元(すなわち、化合物名)に基づいて単離できるであろう。現在名づけられていない代謝物であるバイオマーカーは、下記の実施例に挙げられたバイオマーカーに関する分析的特性化に基づいて単離できるであろう。いくつかの実施形態において、投与されるバイオマーカーは、ALSにおいて低下し、0.05未満のp値及び/又は0.10未満のq値を有する、表3、4、5、6、7、及び/又は8に挙げられた1つ又は複数バイオマーカーである。他の実施形態において、投与されるバイオマーカーは、ALSにおいて、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%(すなわち、非存在)減少している、表3、4、5、6、7、及び/又は8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカーである。
【0086】
X.他の神経変性疾患に対してALSバイオマーカーを用いる方法
本明細書に記載されたALSに関するバイオマーカーのいくつかは、神経変性疾患一般に関するバイオマーカーでもあり得ると考えられる。したがって、ALSのバイオマーカーの少なくともいくつかは、神経変性疾患一般に関して、本明細書に記載された方法において使用できると考えられる。すなわち、ALSに関して本明細書に記載された方法は、神経変性疾患の診断(又は診断の補助)、神経変性疾患の進行/後退をモニターする方法、神経変性疾患を処置するための組成物の有効性を評価する方法、神経変性疾患に関連するバイオマーカー調節における活性に関して組成物をスクリーニングする方法、神経変性疾患に対して可能性のある薬剤標的を同定する方法、神経変性疾患を処置する方法にも使用できる。このような方法は、ALSに関して本明細書に記載されたとおりに実施できるであろう。
【0087】
XI.ALSを他の神経変性疾患から識別する方法
ALSに関するバイオマーカーの同定により、対象が筋萎縮性側索硬化症に罹患しているか、又はALSに類似した症状を有する他の神経変性疾患(例えば、末梢ニューロパシー又はミオパシー)に罹患しているかを識別することが可能になる。対象がALSに罹患しているか、又はALSに類似した症状を有する他の神経変性疾患(例えば、末梢ニューロパシー又はミオパシー)に罹患しているかを識別する方法は、(1)対象からの生体試料を分析して、該試料中の筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び(2)該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症に罹患しているか、又は他の神経変性疾患(例えば、末梢ニューロパシー又はミオパシー)に罹患しているかを判定することを含む。ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルは、他の特定の神経変性疾患との比較にとって特定のレベル(例えば、末梢ニューロパシー又はミオパシーとの間を識別する、ALSに関するバイオマーカーの参照レベル)であり得る。
【0088】
使用される1つ又は複数のバイオマーカーは、生体異物(例えば、カフェイン)、生体異物の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミン)、及び/又は表14及び/又は15から選択される。例えば、他の態様において、対象が筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患しているか、又は末梢ニューロパシー若しくはミオパシーに罹患しているかを識別する方法は、(1)対象からの生体試料を分析して、該試料中の、1つ又は複数の生体異物、生体異物の代謝物、及び/又は表14及び15に挙げられたバイオマーカーを含む、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び(2)該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、該1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象がALSに罹患しているか、又は末梢ニューロパシー若しくはミオパシーに罹患しているかを判定することを含む。
【0089】
任意の好適な方法を使用することにより、該試料を分析して、該生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定することができる。好適な方法としては、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)質量分析(例えば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体結合、他の免疫化学的方法、及びそれらの組合せが挙げられる。さらに、例えば、測定が望まれているバイオマーカー(複数可)のレベルに相関している1つ又は複数の化合物のレベルが測定されるアッセイを用いて、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を間接的に測定できる。
【0090】
該試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定した後、該レベル(複数可)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象がALSに罹患しているか、又はALSに関する症状を呈す他の疾患(例えば、PN又はミオパシー)に罹患しているかを識別する。ALS陽性参照レベルに相当する試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(例えば、参照レベルと同じ、参照レベルと実質的に同じ、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内のレベル)は、対象におけるALSの診断を示す。ALS陰性参照レベルに相当する試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(例えば、参照レベルと同じ、参照レベルと実質的に同じ、参照レベルの最小及び/又は最大以上及び/又は以下、及び/又は参照レベルの範囲内のレベル)は、対象における非ALSの診断を示す。また、ALS陰性参照レベルと比較して、該試料中に差異的に存在する(特に、統計的に有意なレベルで)1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、対象におけるALSに診断を示す。ALS陽性参照レベルと比較して、該試料中に差異的に存在する(特に、統計的に有意なレベルで)1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、対象における非ALSに診断を示す。本明細書に記載されるように、バイオマーカーの比率(例えば、カフェインに対するパラキサンチン比率)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルとして使用できる。
【0091】
ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルに対する該生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)の単純な比較(例えば、マニュアル比較)などの種々の技法を用いて、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較することができる。また、1つ又は複数の統計的解析(例えば、t検定、ウェルシュT検定、ウィルコクソン順位和検定、ランダムフォレスト)を用いて、該生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、ALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較することもできる。
【0092】
XII.他の方法
本明細書において考察されたバイオマーカーを用いる他の方法もまた考慮されている。例えば、本明細書に開示された1つ又は複数のバイオマーカー及び/又は本明細書に開示された1つ又は複数の非バイオマーカーを含む小型分子プロファイルを用いて、米国特許第7,005,255号及び米国特許出願第10/695,265号に開示された方法が実施できる。
【0093】
本明細書に挙げられた方法のいずれかにおいて、使用されるバイオマーカーは、0.05未満のp値を有する、表3、4、5、6、7、8、14、15、16、17、及び/又は18中のバイオマーカー、及び/又は0.10未満のq値を有する表3、4、5、6、7、8、14、15、16、17、及び/又は18中のバイオマーカーから選択できる。本明細書に記載された方法のいずれかにおいて使用されるバイオマーカーはまた、対照群(例えば、ALSに罹患していない対象、早期のALSに罹患している対象など)と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%(すなわち、非存在)減少している、表3、4、5、6、7、8、14、15、16、17、及び/又は18中のバイオマーカー;及び/又は対照群と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、又はそれ以上増加している、表3、4、5、6、7、8、14、15、16、17、及び/又は18中のバイオマーカーからも選択できる。
【0094】
また、本明細書に記載された方法のいずれかにおいて、使用されるバイオマーカーは、例えば、カフェイン、及び/又はカフェインの1つ又は複数の代謝物(例えば、パラキサンチン、テオフィリン、及び/又はテオブロミン)などの、1つ又は複数の生体異物及び/又は生体異物の1つ又は複数の代謝物(生体異物及び/又は生体異物の1つ又は複数の第1相の代謝物など)から選択できる。
【実施例】
【0095】
本発明を、限定は意図されていない以下の例示的実施例によってさらに説明する。
【0096】
I.一般的方法
A.ALSに関する代謝プロファイルの同定
数百種の代謝物の濃度を決定するために、各試料を分析した。代謝物を分析するために、GC−MS(ガスクロマトグラフィー−質量分析)及びLC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析)などの分析技法を用いた。複数のアリコートを同時に、並行して分析し、適切な品質管理(QC)の後、各分析から誘導された情報を再び合わせた。各試料を数千の特徴によって特性化すると、最終的に数百の化学種になる。使用された技法は、新規で化学的に無名の化合物を同定することができた。
【0097】
B.統計的解析
いくつかの統計的方法を用いてデータを解析し、限定可能な集団間(例えば、ALSと対照;ALSとミオパシー又は末梢ニューロパシー)の識別に有用な、限定可能な集団又は亜集団において差異的レベルで存在する分子(既知の命名されている代謝物又は無名の代謝物のいずれか)(例えば、対照の生体試料と比較したALSの生体試料に関するバイオマーカー;ALSに類似した症状を有する他の疾患と比較したALSに関するバイオマーカー)を同定した。限定可能な集団又は亜集団における他の分子(既知の命名されている代謝物又は無名の代謝物のいずれか)もまた同定された。
【0098】
C.バイオマーカーの同定
統計的に有意であるとして同定されたものを含めて、分析(例えば、GC−MS、LC−MS、MS−MS)において同定された種々のピークを、化学的同定法に基づいた質量分析に供した。
【0099】
(実施例1)
一実施例において、(1)ヒト対象の種々の群からのCSF試料を分析して、該試料中の代謝物のレベルを決定すること、次いで(2)前記結果を統計的に解析して、2つの群に差異的に存在する代謝物を判定することにより、バイオマーカーを発見した。
【0100】
該分析に使用されたCSF試料は、99人のALS対象(14人のFALS対象及び85人のSALS対象)及びALSと診断されなかった36人の対照対象からのものであった。代謝物のレベルを決定後、一変量のT検定(すなわち、ウェルシュT検定)(表3)、ウィルコクソン順位和検定(表4)、及びランダムフォレスト解析を用いて、該データを解析した。
【0101】
2つの集団(例えば、ALS対対照)の未知の平均値の差異を判定するために、T検定を用いた。ウィルコクソン順位和検定は、2つの集団の中心値を比較するために用いられた非パラメーター検定である。Q値を用いて、複数の比較を説明した。Q値は、偽発見率の予測を提供する(例えば、q値<0.10を有する全てが有意であると示されれば、そのリスト中のもののおよそ10%は偽発見物である)。ランダムフォレスト解析解析は、個体の分類に用いられた。「オアウトオブバッグ」(OOB)誤差率は、ランダムフォレストモデルを用いて、どのくらい正確に新観察が予測できるか(例えば、試料がALS対象からのものか、それとも対照対象からのものか)の予想を提供する。
【0102】
ランダムフォレストモデル
CSF試料からのGC−MSデータを回収して、該データを部分的に非盲検化した。その非盲検化データに基づいて、ランダムフォレストモデルを構築した。このランダムフォレストからのOOB誤差はおよそ31%であり、このモデルにより、対照対象の本性は、その時の71%正しく予測でき、ALS対象は、その時の68%予測できたことが予想された。次いでそのモデルを、GC−MSデータの盲検部分に適用した。予測が提供された後、該データを非盲検化した。該データの盲検化部分に対する予測の結果は、表1に示されている。最初のランダムフォレストモデルからのOOB誤差は、該データの盲検化部分に対するモデルを用いた場合に判定された実際の誤差(およそ29%)にきわめて類似していた。
【0103】
表1:メタボロミック予測の結果
【表1】

【0104】
最後に、ランダムフォレストモデルを用いて、完全GC−MS及びLC−MSデータを分類した。ランダムフォレストに関するコンフュージョンマトリックスを表2に示す。どの化合物がより重要であるかを見るために、予測に関する化合物の重要性に基づいて、それらを順位付けし、重要性プロットを構成した(図1に示す)。
【0105】
表2:ランダムフォレストCSFの結果:対照対ALS、完全データセット
【表2】

【0106】
バイオマーカー
下表3〜4に挙げたように、ALS対象とALSと診断されなかった対照対象からの試料間に差異的に存在するバイオマーカーが発見された。
【0107】
表3及び表4は、挙げられた各バイオマーカー及び非バイオマーカー化合物に関して、該バイオマーカーに関するデータの統計的解析において判定されたp値及びq値、特定の化合物の平均値がより高いのは、ALS試料においてか、それとも対照試料においてか、の表示(「+」は、対照試料と比較して、ALS試料においてより高い平均値を示し、「−」は、対照試料と比較して、ALS試料においてより低い平均値を示す)、及び対照の平均値と比較して、ALSの平均値における差異パーセンテージの表示を含む。これらの表を通して、記号「−35」で終わっている代謝物の名称は、これらの化合物のレベルがLC−MSを用いて測定されたことを示し、記号「−9」で終わっている名称は、これらの化合物のレベルがGC−MSを用いて測定されたことを示す。表中に用いられている用語「同重体」は、解析に用いられた分析プラットフォーム上で、互いに識別できなかった化合物を示す(すなわち、同重体の化合物は、ほぼ同時に溶出し、同様の(時には正確に)量子イオンを有し、したがって、識別することができない)。
【0108】
また、該解析で同定された非バイオマーカー化合物は、0%のALSの変化率を有する化合物として下表3及び4に挙げられている。
【0109】
表3:CSF試料からのALSバイオマーカー−ALS対対照のT検定
【表3−1】


【表3−2】


【表3−3】


【表3−4】


【表3−5】


【表3−6】


【表3−7】


【表3−8】

【0110】
表4.CSFからのALSバイオマーカー:ウィルコクソンの順位和検定ALS対対照
【表4−1】


【表4−2】


【表4−3】


【表4−4】


【表4−5】


【表4−6】


【表4−7】


【表4−8】

【0111】
(実施例2)
別の実施例において、バイオマーカーは、(1)ヒト対象の種々の群からの血漿試料を分析して、該試料中の代謝物のレベルを決定すること、次いで(2)この結果を統計的に解析して、2つの群に差異的に存在するこれらの代謝物を判定することにより発見された。下記の表5〜6に挙げられたように、ALS対象とALSと診断されなかった対照対象からの試料間に差異的に存在したバイオマーカーが発見された。
【0112】
解析に用いられた血漿試料は、199人のALS対象及びALSと診断されなかった94人の対照対象に由来した。代謝物のレベルが決定された後、データは、T検定(表5)及びウィルコクソンの順位和検定(表6)を用いて解析された。
【0113】
挙げられた各々のバイオマーカー及び非バイオマーカー化合物に関して、表5及び表6は、該バイオマーカーに関するデータの統計解析で決定されたp値及びq値、特定の化合物の平均値がより高かったのは、ALS試料においてか、それとも対照試料においてかの表示(「+」は、対照試料と比較して、ALS試料においてより高い平均値を示し、「−」は、対照試料と比較して、ALS試料においてより低い平均値を示す)、及び対照の平均値と比較して、ALS平均値における差異パーセンテージの表示を含む。これらの表を通して、「−35」の記号で終わっている代謝物の名称は、これらの化合物のレベルがLC−MSを用いて測定されたことを示し、「−9」の記号で終わっている名称は、これらの化合物のレベルがGC−MSを用いて測定されたことを示す。表中に用いられている用語「同重体」とは、解析に用いられた分析プラットフォーム上で互いに識別できなかった化合物を示す(すなわち、同重体の化合物は、ほぼ同時に溶出され、同様の(時には正確に)量子イオンを有し、したがって識別することができない)。
【0114】
分析で同定された非バイオマーカー化合物はまた、0%のALSの変化率を有する化合物として下表に記載される。
【0115】
表5:血漿試料からのALSバイオマーカー−対照対ALSからの血漿のT検定解析
【表5−1】


【表5−2】


【表5−3】


【表5−4】


【表5−5】


【表5−6】


【表5−7】


【表5−8】


【表5−9】

【0116】
表6.血漿試料からのALSバイオマーカー−ウィルコクソンの順位和検定ALS対対照
【表6−1】


【表6−2】


【表6−3】


【表6−4】


【表6−5】


【表6−6】


【表6−7】


【表6−8】


【表6−9】

【0117】
(実施例3)
バイオマーカーは、(1)ヒト対象の種々の群からの血漿試料を分析して、該試料中の代謝物のレベルを決定すること、次いで(2)この結果を統計的に解析して、2つの群に差異的に存在する代謝物を判定することにより発見された。下表7〜8に挙げられたように、ALS対象とALSと診断されなかった対照の対象からの試料間に差異的に存在したバイオマーカーが発見された。また、解析で同定された非バイオマーカー化合物は、0%のALSの変化率を有する化合物として下表に挙げられている。
【0118】
解析に用いられた血漿試料は、62人のALS対象及びALSと診断されなかった62人の対照の対象に由来した。代謝物のレベルが決定された後、データは、T検定(表7)及びウィルコクソンの順位和検定(表8)を用いて解析された。
【0119】
挙げられた各々もバイオマーカー及び非バイオマーカー化合物に関して、表7及び表8は、化合物を判定するのに使用した分析方法、該バイオマーカーに関するデータの統計解析で決定されたp値及びq値、及び対照の平均値と比較してALS平均値における差異パーセンテージの表示を含む。陽性の変化パーセンテージは、対照と比較してALSにおける増加を示し、陰性の変化パーセンテージは、対照と比較してALSにおける減少を示している。表中に用いられる用語の「同重体」とは、解析に用いられた分析プラットフォーム上で互いに識別できなかった化合物を示す(すなわち、同重体の化合物は、ほぼ同時に溶出され、同様の(時には正確に)量子イオンを有し、したがって識別することはできない)。
【0120】
表7:血漿試料からのALSバイオマーカー−対照からの血漿対ALSからの血漿のT検定解析
【表7−1】


【表7−2】


【表7−3】


【表7−4】


【表7−5】


【表7−6】


【表7−7】


【表7−8】


【表7−9】

【0121】
表8:血漿試料からのALSバイオマーカー−ウィルコクソンの順位和検定ALS対対照
【表8−1】


【表8−2】


【表8−3】


【表8−4】


【表8−5】


【表8−6】


【表8−7】


【表8−8】


【表8−9】

【0122】
(実施例4)
ALS患者及び健常な対象個体におけるカフェイン及びカフェイン代謝物
健常な対照の対象と比較してALS患者からの血漿中代謝物濃度の変化を評価するために2つの独立したALS試験の代謝物分析を実施した。31人の健常な対照志願者及び31人のALSに罹患している参加者を試験1に登録した。試験2は、99人のALSに罹患している参加者及び94人の健常志願者を含んだ。全ての調査参加者は、インフォームドコンセントを提供した。委員会公認の神経科医が審査し、全ての参加者に対する診断を確認した。性別、年齢、体重、及び薬物治療に関するデータを集めた。ALSに罹患している参加者に関しては、症状発症の日付及び部位、診断日、及びALSの家族歴を記録した。健常対照の対象は、既知の神経学的障害がないこととして定義された。
【0123】
表9は、健常な対照の対象からの血漿試料と比較して、ALS患者からの血漿試料中のカフェイン及びカフェイン代謝物(すなわち、1,7−ジメチルキサンチン、テオブロミン、及びテオフィリン)のレベル間のT検定解析結果を挙げている。カフェイン及びカフェイン代謝物の平均レベルは、健常な対照志願者と比較してALS患者においてより低かった(表9)。
【0124】
レベル差は、p値が0.0591であるテオブロミンを除いて、0.001以下のp値で統計的に有意性が高い。さらに、偽発見率の目安であるq値もまた、0.3478のq値であるテオブロミンを除いて、全て0.1以下の値で有意である。
【0125】
表9.対照の対象と比較してALS患者におけるカフェイン及びカフェイン代謝物のレベル
【表9】

【0126】
(実施例5)
ALS患者における生体異物代謝
表9に示されるとおり、ALS患者は、カフェインレベルが対照の対象よりも低い。これは、ALS患者においてカフェインの取込みがより低いためという可能性が考えられる。或いは、生体異物を代謝する酵素(例えば、CYP1A2)の活性増加を示していると考えられる。
【0127】
カフェインに対するカフェイン代謝物の比率にはカフェインクリアランス率の測定値が反映される。より高い比率は、対照の個体よりもALS患者に関してP/C及びT/C双方の比率に見られる(表10)。これは、ALS患者が、健常な対照の対象よりも迅速にカフェインを代謝し得ることを示している(ALS患者のより低いカフェイン取込みを示しているのではなく)。さらに、ALS対象は一般に、健常な個体又はALS症状と同様の症状を有する病気を罹患している個体とは差異的に生体異物を代謝し得る。
【0128】
例えば、カフェインクリアランス率を用いて、カフェインを含む生体異物を代謝する肝臓におけるCYP1A2、誘導性チトクロームP450酵素の活性が測定される。P450類の産物は毒素及びフリーラジカルを含むため、カフェインの迅速な代謝は、「病理学的解毒剤」に関連する。第2相の抱合反応は、これらの産物をさらに代謝して排泄可能で毒性が低い水溶性の化合物へと変化させる。活性過剰な生体異物代謝過程(例えば、肝臓P450酵素系)及び/又は活性過少な第2相の解毒過程が、ALSの病因に寄与し、薬物発見及び治療処置に対する標的を提供し得る可能性がある。
【0129】
表10.対照対象及びALS対象からの血漿中のカフェインに対するカフェイン代謝物の比率
【表10】

【0130】
270人の健常志願者からの血漿のメタボロミック人口統計試験において、カフェイン及びその代謝物パラキサンチン双方のレベルは、年齢と共に増加する(表11)。しかしながら、P/C比率は、2つの若年群と事実上同じであり、高齢者群においてはより低い(表11)。この高齢者群は、ALS患者及びALS試験の対照対象と同様の年齢群である。
【0131】
表11.種々の年齢の正常な成人からの血漿中カフェインに対するカフェイン代謝物の比率
【表11】

【0132】
(実施例6)
ALS患者及びALSと同様の症状を有する患者におけるカフェイン及びカフェイン代謝物
ALS症状と同様の症状を有する2つの神経変性疾患、末梢ニューロパシー又はミオパシーに罹患している患者と比較して、ALS患者からの血漿中代謝物レベルの変化を評価するためにメタボロミック分析を実施した。この試験は、ALSに罹患している99人の参加者、ミオパシーに罹患している36人の参加者、及び末梢ニューロパシーに罹患している52人の参加者を含んだ。全ての調査参加者は、インフォームドコンセントを提供した。委員会公認の神経科医が審査し、全ての参加者に対する診断を確認した。性別、年齢、体重、及び薬物治療に関するデータを集めた。ALS参加者に関しては、症状発症の日付及び部位、診断日、及びALSの家族歴を記録した。
【0133】
表12は、(1)末梢ニューロパシー患者からの血漿試料と比較したALS患者から、並びに(2)ミオパシー患者からの血漿試料と比較したALS患者からの血漿試料中のカフェイン及びパラキサンチンのレベル間のT検定解析結果を記載している。カフェイン及びカフェイン代謝物の平均レベル(表12)は、末梢ニューロパシー(PN)患者又はミオパシー患者と比較してALS患者において低下することが示された。レベル差は、0.05のp値により統計的に有意である。さらに、偽発見率の目安であるq値もまた、PNに罹患している個体にとって特に有意である。
【0134】
表12.ミオパシー患者又は末梢ニューロパシー患者からの血漿と比較して、ALS患者からのより低い血漿中カフェインレベル及びパラキサンチンレベル
【表12】

【0135】
(実施例7)
ALS症状と同様の症状を有する神経変性疾患における生体異物代謝
ミオパシー又はPNよりもALSにおいてより低いカフェイン及びカフェイン代謝物レベルは、可能性としてカフェイン摂取を低下させることによるが、カフェイン代謝物のより高い比率の結果であるとも考えられる。カフェイン代謝物に対する1つの十分に特性化された系は、チトクロームP450酵素により肝臓中で実施された第1相の解毒系である。
【0136】
表13は、ALSに罹患している対象、末梢ニューロパシーに罹患している対象、及びミオパシーに罹患している対象からの血漿中のパラキサンチン及びカフェインの平均レベル並びにパラキサンチン/カフェイン率を挙げている。カフェインに対するカフェイン代謝物の比率は、同様の症状を有する疾患対象(すなわち、PN及びミオパシー)と比較して、ALS患者において高い(表13)。この比率差は、ALSがPNと比較される場合により明白である。このように、このデータにより、関連症状を有する疾患に罹患している患者におけるCYP1A2及び/又は同様の生体異物代謝酵素の正常なレベル及び/又は活性と比較して、ALS患者におけるCYP1A2及び/又は同様の生体異物代謝酵素のより高いレベル及び/又はより高い活性が示されている(カフェインのより低い取込みよりもむしろ)。この結果は、カフェイン及び/又は生体異物の代謝(例えば、CYP1A2及び/又は他の同様の酵素系の酵素レベル及び/又は活性)が、ALSにおいて変化しているという考えを裏付けている。このように、カフェインの代謝は、ALS患者とALSと同様の症状を有する患者とを識別するための有用な方法を提供する。
【0137】
表13.ALS患者、ミオパシー患者又は末梢ニューロパシー患者からの血漿中カフェインに対するカフェイン代謝物パラキサンチンの比率
【表13】

【0138】
(実施例8)
ALSと他の神経変性疾患とを識別するためのバイオマーカー
ALSと同様の症状を有する2つの神経変性疾患、末梢ニューロパシー又はミオパシーに罹患している患者と比較してALS患者の代謝物レベルの変化を評価するために、メタボロミック分析を実施した。
【0139】
下表14は、ALS対象と末梢ニューロパシー対象とを識別する、発見されたバイオマーカーを挙げている。
【0140】
下表15は、ALS対象とミオパシー対象とを識別する、発見されたバイオマーカーを挙げている。
【0141】
記載された各々のバイオマーカーに関して、表14及び15は、該バイオマーカーに関するデータの統計解析で決定されたp値及びq値、並びに対照、ALS、末梢ニューロパシー(表14)、及びミオパシー(表15)試料中の各バイオマーカーのレベルの中央値の表示を含む。表中に用いられる用語の「同重体」とは、解析に用いられた分析プラットフォーム上で互いに識別できなかった化合物を示す(すなわち、同重体の化合物は、ほぼ同時に溶出され、同様の(時には正確に)量子イオンを有し、したがって識別することができない)。
【0142】
表14.ALS対象と末梢ニューロパシー対象(PN)とを識別するバイオマーカー
【表14−1】


【表14−2】

【0143】
表15:ALSとミオパシーとを識別するバイオマーカー
【表15】

【0144】
(実施例9)
疾患進行に関するバイオマーカー
下表16、17及び18に挙げられているように、疾患過程に亘ってALS対象からの試料間に差異的に存在する、疾患進行を示すバイオマーカーを発見した。挙げられた各々のバイオマーカー及び非バイオマーカー化合物の各々に関して、表16、17及び18は、バイオマーカーに関するデータの統計解析で決定されたp値及びq値を含む。これらの表を通して、欄の見出しの「LIB_ID」は、化合物のレベルを測定するために用いられた分析プラットフォームを示している。数字の「61」は、これらの化合物のレベルがLC−MSを用いて測定されたことを示し、数字の「50」は、これらの化合物のレベルがGC−MSを用いて測定されたことを示している。表中に用いられる用語の「同重体」とは、分析に用いられた分析プラットフォーム上で互いに識別できなかった化合物を示す(すなわち、同重体の化合物は、ほぼ同時に溶出され、同様の(時には正確に)量子イオンを有し、したがって識別することができない)。
【0145】
分析で同定された非バイオマーカー化合物もまた、0の勾配及び/又は経時的に0%のパーセンテージ変化を有する化合物として下表16、17及び18に挙げられている。
【0146】
バイオマーカーは、(1)種々の時間でヒトALS対象からの血漿試料を分析して該試料中の代謝物レベルを決定すること、次いで(2)この結果を統計解析して種々の時点で差異的に存在するこれらの代謝物を判定すること、によって発見された。下表16〜18に挙げられているように、疾患の重症度が進んでいた場合、後期に採取された試料と比較して、疾患早期のALS対象からの試料に差異的に存在するバイオマーカーを発見した。この代謝物の変化はまた、疾患重症度を示す臨床測定値である努力性肺活量(FVC)の変化とを比較して評価された。疾患が進行するにつれてFVC測定値は減少する。最も重症に冒されたALS患者は、最低のFVCスコアを有する。
【0147】
解析に用いられた血漿試料は、疾患過程時に数回、40人のALS対象から採取した。試料は、早期(スクリーニング/0カ月及び/又は1カ月)と、スクリーニング後6カ月目と、スクリーニング後12カ月目とに採取した。代謝物レベルが決定されたら、対象からのデータは、無作為係数回帰解析及びT検定を用いて解析された。
【0148】
初発の無作為係数回帰解析に関して、無作為係数回帰(Little,R.、Milliken G.、Stroup,W.、Wolfinger,R.(1996)混合モデルに関するSASシステム(SAS System for Mixed Models)、7章、SAS(登録商標)Institute、キャリー、ノースカロライナ州)を、各化合物に関して最初に実施した。このモデルにより、全ての対象と交差する共通の切片及び勾配を有する各対象に関して、種々の切片及び種々の勾配が可能になる。この解析は、共通の勾配がゼロであるかどうかを検定する。x変数は、0、1、6、及び12カ月目の可能な値を有した月数であった。この解析の結果は、表16に示されている。この勾配が正である場合、該化合物のレベルが経時的に増加したことを意味し;同様に、この勾配が負である場合、該化合物のレベルが経時的に減少したことを意味する。
【0149】
別の無作為係数回帰を、FVC(努力性肺活量)について、各化合物に関して実施した。元のFVC値を1時点当り三重に測定したことから、x値は平均FVC値であった。初発の分析に用いられた40人の患者もまた、この無作為係数回帰解析に用いられた。この結果は表17に示されている。正の勾配は、その化合物がFVCと陽性に相関したことを意味する(すなわち、FVCが増加するにつれてその化合物が増加し、又はFVCが減少するにつれてその化合物が減少する)。負の勾配は、FVCが増加すると、その化合物が減ることを示している(又は、その逆もまた同様)。
【0150】
1カ月目に採取された試料中の該化合物のレベルを、12カ月目に採取された試料中の該化合物のレベルと比較することによって、T検定を実施した。1カ月目と12カ月目の双方の時点での全患者を解析に含めた(合計37人の患者)。標準マッチドペア検定を用いて、この解析を実施した。結果は表18に示されている。挙げられたバイオマーカー及び非バイオマーカー化合物の各々に関して、この表は、スクリーニング後の12カ月目の平均レベルと比較して、スクリーニング後の1カ月目の平均レベルにおける差異パーセンテージの表示を含み、正のパーセンテージ変化は、疾患の進行につれて該代謝物レベルの増加があったことを示し、負のパーセンテージ変化は、疾患の進行につれて該代謝物レベルの減少があったことを示す。
【0151】
表16.経時的無作為係数回帰解析
【表16−1】


【表16−2】


【表16−3】


【表16−4】


【表16−5】


【表16−6】


【表16−7】

【0152】
表17.努力性肺活量に関する無作為係数回帰解析
【表17−1】


【表17−2】


【表17−3】


【表17−4】


【表17−5】


【表17−6】


【表17−7】


【表17−8】

【0153】
表18.1カ月目と12カ月目のT検定比較
【表18−1】


【表18−2】


【表18−3】


【表18−4】


【表18−5】


【表18−6】


【表18−7】


【表18−8】

【0154】
(実施例10)
同重体、無名バイオマーカー、及び無名非バイオマーカー化合物の分析的特性化
下表19は、上記表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に記載された各同重体及び無名代謝物の分析的特徴を含んでいる。この表は、各々記載された同重体及び代謝物に関して、上記の分析法を用いて得られた保持時間(RT)、保持指標(RI)、質量、量子質量、及び極性を含む。「質量」とは、化合物の定量化に使用される親イオンのC12同位元素の質量のことである。「量子質量」に関する値は、定量化に使用された分析法の表示を与え:「Y」はGC−MSを示し、「l」はLC−MSを示す。「極性」は、陽性(+)又は陰性(−)のいずれかである量的イオンの極性を示す。
【0155】
表19.同重体及び無名代謝物の分析的特徴
【表19−1】


【表19−2】


【表19−3】


【表19−4】


【表19−5】


【表19−6】


【表19−7】


【表19−8】


【表19−9】


【表19−10】


【表19−11】


【表19−12】


【表19−13】


【表19−14】


【表19−15】


【表19−16】

【0156】
本発明は、その具体的な実施形態を参照にして詳細に記載されているが、種々の変更及び修飾が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなくなされ得ることは当業者にとって明白である。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】実施例1で説明されたランダムフォレスト解析に関する重要性プロットを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患しているかどうかを診断する方法であって、
対象からの生体試料を分析して、前記試料中の、(a)表3、4、5、6、7及び8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
前記試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症に罹患しているかどうかを診断すること
を含む上記方法。
【請求項2】
前記1つ又は複数のバイオマーカーのALS陰性参照レベルが、ALSに罹患していない1人又は複数の対象からの1つ又は複数の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを含み、前記1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性参照レベルが、ALSと診断された1人又は複数の対象からの1つ又は複数の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料レベルとALS陰性参照レベルとの間の1つ又は複数のバイオマーカーの差異的レベルが、対象におけるALSの診断を示す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料レベルとALS陽性参照レベルとの間の1つ又は複数のバイオマーカーの差異的レベルが、対象における非ALSの診断を示す、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ALS陽性参照レベルに相当する前記試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルが、対象におけるALSの診断を示す、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ALS陰性参照レベルに相当する前記試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルが、対象における非ALSの診断を示す、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、0.05未満のp値を有する表3、4、5、6、7及び8におけるバイオマーカー、及び/又は0.10未満のq値を有する表3、4、5、6、7及び8におけるバイオマーカーから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生体試料を分析して、表3、4、5、6、7及び8から選択される2種以上のバイオマーカーのレベルを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生体試料を分析して、表3、4、5、6、7及び8から選択される3種以上のバイオマーカーのレベルを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記生体試料を分析して、表3、4、5、6、7及び8から選択される4種以上のバイオマーカーのレベルを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生体試料を分析して、表3、4、5、6、8及び9から選択される5種以上のバイオマーカーのレベルを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記生体試料を分析して、表3、4、5、6、7及び8から選択される10種以上のバイオマーカーのレベルを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記生体試料を分析して、表3、4、5、6、7及び8から選択される15種以上のバイオマーカーのレベルを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記生体試料が脳脊髄液であり、前記1つ又は複数のバイオマーカーが、表3及び4に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記生体試料が血漿であり、前記1つ又は複数のバイオマーカーが、表5、6、7及び8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記試料が、質量分析、ELISA、及び抗体結合からなる群から選択される1つ又は複数の技法を用いて分析される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、1つ又は複数の生体異物及び/又は生体異物の第1相代謝物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、カフェイン及び/又は1つ又は複数のカフェイン代謝物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ又は複数のカフェイン代謝物が、パラキサンチン、テオフィリン、及びテオブロミンからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、カフェイン及び1つ又は複数のカフェイン代謝物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルが、カフェイン及びカフェイン代謝物のレベルのALS陽性及び/又はALS陰性参照比率を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、表3、4、5、6、7及び8から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、0.05未満のp値を有し、及び/又は0.10未満のq値を有する、表3、4、5、6、7及び8から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
対象が筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症しやすいかどうかを判定する方法であって、
対象からの生体試料を分析して、前記試料中の、(a)表3、4、5、6、7及び8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
前記試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、前記1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が筋萎縮性側索硬化症を発現しやすいかどうかを判定すること
を含む上記方法。
【請求項25】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行/後退をモニターする方法であって、
第1の時点で対象から得られた、対象からの第1の生体試料を分析して、前記試料中の、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
第2の時点で対象から得られた、対象からの第2の生体試料を分析して、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を判定すること、及び
前記第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、前記第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、対象のALSの進行/後退をモニターすること
を含む上記方法。
【請求項26】
前記第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、前記第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)、及び/又は前記第1と第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)の比較の結果を、前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルであるALS陽性参照レベル、ALS陰性参照レベル、ALS進行陽性参照レベル、及び/又はALS後退陽性参照レベルと比較することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが表16、17、及び18から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、0.05未満のp値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカー、及び/又は0.10未満のq値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカーから選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための組成物の有効性を評価する方法であって、
筋萎縮性側索硬化症に罹患しており、現在又は以前に組成物で処置されている対象からの生体試料を分析して、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
前記試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、(a)前記組成物で処置される前に対象から得られた、対象からの事前採取生体試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル、(b)1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性参照レベル、(c)1つ又は複数のバイオマーカーのALS陰性参照レベル、(d)1つ又は複数のバイオマーカーのALS進行陽性参照レベル、及び/又は(e)1つ又は複数のバイオマーカーのALS後退陽性参照レベルと比較すること
を含む上記方法。
【請求項30】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが表16、17、及び18から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、0.05未満のp値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカー、及び/又は0.10未満のq値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカーから選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置における組成物の有効性を評価する方法であって、
第1の時点で対象から得られた、対象からの第1の生体試料を分析して、前記第1の試料中の、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に掲げた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
対象に前記組成物を投与すること、
前記組成物の投与後、第2の時点で対象から得られた、対象からの第2の生体試料を分析して、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
前記第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、前記第2の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、筋萎縮性側索硬化症を処置するための組成物の有効性を評価すること
を含む上記方法。
【請求項33】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが表16、17、及び18から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、0.05未満のp値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカー、及び/又は0.10未満のq値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカーから選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための2つ以上の組成物の相対的有効性を評価する方法であって、
筋萎縮性側索硬化症に罹患しており、現在又は以前に第1の組成物で処置されている第1の対象からの第1の生体試料を分析して、(a)表3、4、5、6、7、8、16、17、及び18に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、
ALSに罹患しており、現在又は以前に第2の組成物で処置されている第2の対象からの第2の生体試料を分析して、前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
前記第1の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、前記第2の試料中の前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、筋萎縮性側索硬化症を処置するための第1及び第2の組成物の相対的有効性を評価すること
を含む上記方法。
【請求項36】
ALSに罹患しており、現在又は以前に第3の組成物で処置されている第3の対象からの第3の生体試料を分析して、前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
第3の試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、第1及び第2の試料中の前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)と比較して、筋萎縮性側索硬化症を処置するための第1、第2、及び第3の組成物の相対的有効性を評価すること
をさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが表16、17、及び18から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記1つ又は複数のバイオマーカーが、0.05未満のp値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカー、及び/又は0.10未満のq値を有する表16、17、及び18中のバイオマーカーから選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカーの調節における活性に関して組成物をスクリーニングする方法であって、
1つ又は複数の細胞を組成物と接触させること、
1つ又は複数の細胞又は前記細胞に関連する生体試料の少なくとも一部を分析して、(a)表3、4、5、6、7及び8に掲げた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、筋萎縮性側索硬化症の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、そのバイオマーカーに関する予め決められた標準的なレベルと比較して、前記組成物が前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を調節したかどうかを判定すること
を含む上記方法。
【請求項40】
前記バイオマーカーに関する予め決められた標準レベルが、前記組成物の非存在下での1つ又は複数の細胞における1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記バイオマーカーに関する予め決められた標準レベルが、前記組成物と接触しなかった1つ又は複数の対照細胞における1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
インビボで実施される、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
インビトロで実施される、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する可能性のある標的薬剤を同定する方法であって、
(a)表3、4、5、6、7及び8に挙げられた1つ又は複数のバイオマーカー、(b)1つ又は複数の生体異物、(c)生体異物の1つ又は複数の代謝物、及び(d)それらの組合せから選択される、ALSに関する1つ又は複数のバイオマーカーに関連する1つ又は複数の生化学的経路を同定すること、及び
前記1つ又は複数の同定された生化学的経路の少なくとも1つに影響を及ぼす、筋萎縮性側索硬化症に対する可能性のある標的薬剤であるタンパク質を同定すること
を含む上記方法。
【請求項45】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している対象を処置するための方法であって、前記対象に、ALSに罹患していない対象と比較してALSに罹患している対象で減少する、表3、4、5、6、7及び8から選択される1つ又は複数のバイオマーカーの有効量を投与することを含む方法。
【請求項46】
対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患しているか、又は末梢ニューロパシー若しくはミオパシーに罹患しているかどうかを識別する方法であって、
対象からの生体試料を分析して、前記試料中の、1つ又は複数の生体異物、生体異物の代謝物、及び/又は表14及び15に挙げられたバイオマーカーを含む、筋萎縮性側索硬化症に関する1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を決定すること、及び
前記試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベル(複数可)を、前記1つ又は複数のバイオマーカーのALS陽性及び/又はALS陰性参照レベルと比較して、対象が、ALSに罹患しているか、又は末梢ニューロパシー若しくはミオパシーに罹患しているかどうかを判定すること
を含む上記方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−528059(P2009−528059A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557335(P2008−557335)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/004998
【国際公開番号】WO2007/100782
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(508038677)メタボロン インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】METABOLON INC.
【住所又は居所原語表記】800 Capitola Drive, Suite 1, Durham, NC 27612 (US)
【出願人】(501421557)
【Fターム(参考)】