説明

筒形非水電解液一次電池

【課題】長期信頼性の優れた筒形非水電解液一次電池を提供する。
【解決手段】正極4、リチウムまたはリチウム合金を含有する負極5、セパレータ6、および非水電解液を、筒形の外装缶2と外装缶の開口部を封止するための電池蓋7で形成された空間内に有する筒形の非水電解液一次電池1であって、少なくとも、電池蓋内面の金属露出部のうち負極の電位を有する箇所に、絶縁被膜17を有する。絶縁被膜としては、ポリフッ化ビニリデン、水ガラスまたはゴム系材料により形成された被膜が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒形の非水電解液一次電池に関し、さらに詳しくは、長期信頼性に優れた筒形非水電解液一次電池に関するものである。なお、本発明には、円筒形のもの以外の筒形(例えば、角筒形)も含まれるが、本明細書では、本発明の電池の代表的な形態である円筒形を中心に説明する。
【背景技術】
【0002】
一般に、筒形非水電解液一次電池は、リチウムなどを活物質とする負極と、正極とを、セパレータを介して積層したり、更にこれを巻回したりして形成された電極体を、外装缶に挿入し、電池蓋により外装缶の開口部を封止することにより構成されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この種の電池は、負極活物質にリチウムなどを用いていることから、例えばアルカリ電解液を有する電池に比べて高エネルギー密度であり、かつ長期間の使用に適用し得ることもあって、種々の用途に用いられている。
【0004】
こうした筒形非水電解液一次電池の用途の一つに、メモリーバックアップ用の電源用途がある。これは、メモリーバックアップ機能を有する機器において、その主たる駆動電源ではなく、メモリーバックアップのみの電源として、筒形非水電解液一次電池を適用するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平3−122970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のようなメモリーバックアップ機能を有する機器において、メモリーバックアップ用の電源に筒形非水電解液一次電池を用いた場合には、当該機器の駆動電源からの漏れ電流などによって、筒形非水電解液一次電池が充電されてしまうことがある。そして、メモリーバックアップ用電源としての使用が長期にわたった場合、上記の充電により、筒形非水電解液一次電池の電圧低下が生じる場合のあることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期信頼性の優れた筒形非水電解液一次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得た本発明の筒形非水電解液一次電池は、正極、リチウムまたはリチウム合金を含有する負極、セパレータ、および非水電解液を、筒形の外装缶と該外装缶の開口部を封止するための電池蓋で形成された空間内に有しており、少なくとも、上記電池蓋内面の金属露出部のうち負極の電位を有する箇所に、絶縁被膜を有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明者らは、筒形非水電解液一次電池において、例えばメモリーバックアップ用途などに長期間適用した場合に生じる電圧低下のメカニズムにつき検討した結果、電池が充電されることで、主に電池蓋内面の金属露出部のうち、負極の電位を有する箇所においてリチウムが析出し、これが電池蓋の正極の電位を有する箇所に接触することによって微短絡が生じて、電池の電圧低下を引き起こしていることを見出した。
【0010】
そこで本発明では、上記の微短絡の原因となっているリチウムが析出し得る箇所、すなわち、電池蓋内面の金属露出部のうち負極の電位を有する箇所に、絶縁被膜を設けた。これにより、上記箇所では導電性が失われるため、電池が充電された場合でも、非水電解液中に溶解しているリチウムイオンの上記箇所での析出を防止できることから、上記の微短絡による電圧低下の発生を抑えて、電池の長期信頼性の向上を可能とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期信頼性の優れた筒形非水電解液一次電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に、本発明の電池の一実施形態を表す縦断側面図を示す。図1に示す筒形非水電解液電池1は、上方開口部を有する有底円筒状の外装缶2と、外装缶2内に装填された帯状正極4と帯状負極5とをセパレータ6を介して巻回してなる電極巻回体3と、非水電解液(以下、単に「電解液」という場合がある)と、外装缶2の上方開口部を封止する封口構造を有している。言い換えれば、図1の非水電解液一次電池1は、外装缶2と外装缶2の上方開口部を封止する封口構造とで囲まれる空間内に、帯状正極4と帯状負極5とをセパレータ6を介して巻回してなる巻回構造の電極体3や電解液といった発電要素を有するものである。
【0013】
なお、図1の電池に係る帯状正極4は、正極活物質、導電助剤およびバインダーなどを含有する2つの正極合剤層20、21が、正極集電体22の両面に設けられた構造を有している。また、帯状負極5は、金属リチウム箔23が、負極集電体24の片面に貼り合わされた構造を有している。上記外装缶2は、鉄やステンレス鋼などを素材としている。
【0014】
封口構造は、外装缶2の上方開口部の内周縁に固定された電池蓋7により構成されている。電池蓋7は、金属(鉄、ステンレス鋼など)製の蓋板8と、蓋板8の中央部に開設された開口に、ポリプロピレンなどを素材とする絶縁パッキング9を介して装着された金属(鉄、ステンレス鋼など)製の端子体10とを有している。そして、電池蓋7の蓋板8の下部には、絶縁板11が配置されている。絶縁板11は、円盤状のベース部12の周縁に環状の側壁13を立設した上向きに開口する丸皿形状に形成されており、ベース部12の中央にはガス通口14が開設されている。電池蓋7の蓋板8は、側壁13の上端部に受け止められた状態で、外装缶2の上方開口部の内周縁に、レーザー溶接で固定するか、またはパッキングを介したクリンプシールで固定されている。電池内圧が急激に上昇したときの対策として、蓋板8または外装缶2の缶底2aには、薄肉部(ベント)を設けることができる。正極4と端子体10の下面とは、正極リード体15で接続されている。また、負極5に取り付けられた負極リード体16は、外装缶2の上部内面に溶接されている。
【0015】
すなわち、図1に示す電池では、負極5に取り付けられた負極リード体16が溶接されている外装缶2が負極の電位を有しており、更に、外装缶2に溶接されている電池蓋7内面の金属露出部のうち、蓋板8も負極の電位を有している。他方、電池蓋7内面の金属露出部のうち、正極4に取りけられた正極リード体15と接続されている端子体10が正極の電位を有している。
【0016】
筒形非水電解液一次電池が、長期にわたって使用され、その間に充電されてしまうと、電解液中に溶解しているリチウムイオンが、電池蓋7内面の金属露出部のうち、負極の電位を有している蓋板8の表面にリチウムとして析出し、このリチウムが電池蓋内面の金属露出部のうち、正極の電位を有している端子体10の表面と接触すると、微短絡が生じて電池の電圧低下が起こる。図1に示す電池では、電池蓋7内面の金属露出部のうち、負極の電位を有している蓋板8の表面に、絶縁被膜17を設けて、蓋板8の表面でのリチウムの析出を防止することにより、上記の微短絡による電圧低下の発生を抑えている。
【0017】
なお、図1では、巻回構造の電極体3を有する態様の電池を示したが、本発明の電池では、電極体が、正極と負極とを、セパレータを介して積層した積層構造を有するものであってもよい。また、巻回構造の電極体を有する電池であっても、正極や負極の構造は、図1に示すものに限定されず、例えば、正極は、正極集電体の片面にのみ正極合剤層を設けたものでもよく、負極は、負極集電体の両面に金属リチウム箔やリチウム合金箔などで構成される負極剤層を有するものであっても構わない。
【0018】
更に、図1の電池では、電池蓋7内面の金属露出部のうち、蓋板8が負極の電位を有しており、端子体10が正極の電位を有している態様を示しているが、本発明の電池は、蓋板8が正極の電位を有し、端子体10が負極の電位を有する態様のものであってもよく、かかる態様の場合には、端子体10の内面に絶縁被膜を設ければよい。
【0019】
また、図1では示していないが、外装缶内面の金属露出部が負極の電位を有する電池の場合には、外装缶内面の金属露出部にも、絶縁被膜を設けることも好ましい。このような態様の電池の場合には、長期間にわたる使用の際に充電がされることにより、外装缶内面の金属露出部にもリチウムが析出する虞があるが、この外装缶内面の金属露出部に絶縁被膜を設けることで、かかるリチウムの析出が抑制できるため、上記の微短絡の発生をより高度に防止することができる。
【0020】
本発明の電池において、上記絶縁被膜としては、絶縁被膜を設ける箇所の導電性を失わせることができ且つ電解液に溶解せず、電池特性に悪影響を及ぼさない素材で構成されるものであれば特に限定されない。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ゴム系材料[ブチルゴム、ポリイソブチレンゴムまたはその混合物など]、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)などにより形成された被膜が好ましい。
【0021】
絶縁被膜を有する電池蓋や外装缶の作製にあたっては、電池蓋または外装缶を構成するための材料(鋼板などの金属板など)に対し、電池蓋や外装缶の形状に加工する前に予め絶縁被膜を形成しておくことが好ましい。このような形成方法を採用することで、被膜形成がより容易となるからである。具体的には、片面に絶縁被膜を形成しておいた鋼板などの金属板を用いて、絶縁被膜形成面が電池内側となるように電池蓋や外装缶を作製すればよい。
【0022】
電池蓋や外装缶、またはこれらの材料となる金属板に絶縁被膜を形成する方法についても特に制限はなく、例えば、PVDFや上記ゴム系材料で絶縁被膜を形成する場合には、これらの有機溶媒溶液を、絶縁被膜形成予定箇所に塗布し、乾燥して溶媒を除去する方法が、また、水ガラスで絶縁被膜を形成する場合には、水ガラスを絶縁被膜形成予定箇所に塗布し、乾燥して水を除去する方法が採用できる。なお、PVDFの有機溶媒溶液に用いる有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが好適であり、また、上記ゴム系材料の有機溶媒溶液に用いる有機溶媒としては、例えば、トルエンなどが好適である。
【0023】
絶縁被膜の厚みについては、リチウムデンドライトの析出が抑制できれば特に制限はないが、例えば、3〜100μmであることが好ましい。絶縁被膜が薄すぎると、リチウムデンドライト析出の抑制作用が小さくなることがあり、厚すぎると、絶縁被膜による電池内占有体積が大きくなり、他の構成要素(電極や電解液など)を収容できる体積が小さくなることがあり、また、絶縁被膜を形成し難くなる。
【0024】
本発明の筒形非水電解液一次電池では、上記の絶縁被膜を有する他は、その構成要素について特に制限はなく、従来公知の各種構成要素が採用できる。
【0025】
正極としては、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダーなどを配合してなる正極合剤で構成される正極合剤層を、正極集電体の片面または両面に形成した構造のものが挙げられる。
【0026】
正極活物質としては、例えば、二酸化マンガン、フッ化カーボン、リチウムコバルト複合酸化物、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物などが挙げられる。また、導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられ、これらを1種単独で用いる他、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしては、PVDF、ゴム系材料(上記の絶縁被膜を形成するためのゴム系材料として例示したものなど)などが使用できる。なお、PVDFの場合、ディスパージョンタイプのものでもよいし、粉末状のものでもよいが、ディスパージョンタイプのものが特に好適である。
【0027】
正極合剤層としては、例えば、正極活物質に、導電助剤やバインダーを配合し、必要に応じて水などを添加してなる正極合剤(スラリー)を、ロールなどを用いて圧延するなどして予備シート化し、これを乾燥・粉砕したものを再度ロール圧延などして層状(シート形状)に成形したものが使用できる。正極合剤層の厚みとしては、例えば、0.5〜1.0mmであることが望ましい。
【0028】
正極に用いる集電体としては、例えば、SUS316、SUS430、SUS444などのステンレス鋼を素材とするものが挙げられ、その形態としては、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル、箔(板)などが例示できる。集電体の厚みとしては、例えば、0.1〜0.4mmであることが好ましい。
【0029】
なお、正極集電体の表面には、ペースト状の導電材を塗布しておくことが望ましい。正極集電体として立体構造を有する網状のものを用いた場合も、金属箔やパンチングメタルなどの本質的に平板からなる材料を用いた場合と同様に、導電材の塗布により集電効果の著しい改善が認められる。これは、網状の集電体の金属部分が正極合剤層と直接的に接触する経路のみならず、網目内に充填された導電材を介しての経路が有効に利用されていることによるものと推定される。
【0030】
導電材としては、例えば、銀ペーストやカーボンペーストなどを用いることができる。特にカーボンペーストは、銀ペーストに比べて材料費が安く済み、しかも銀ペーストと略同等の接触効果が得られるため、非水電解液電池の製造コストの低減化を図る上で好適である。導電材のバインダーとしては、水ガラスやイミド系のバインダーなどの耐熱性の材料を用いることが好ましい。これは正極合剤層中の水分を除去する際に200℃を超える高温で乾燥処理するためである。
【0031】
負極としては、例えば、負極活物質であるリチウムまたはリチウム合金(リチウム−アルミニウム合金など)で構成される負極剤層と、負極集電体である金属箔とで構成されたものが挙げられる。負極剤層は、例えば、リチウム(金属リチウム)箔、リチウム合金箔などが使用できる。負極剤層とするためのリチウム箔やリチウム合金箔の厚みとしては、例えば、0.15〜0.4mmであることが好ましい。
【0032】
負極集電体の素材としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレスなどを挙げることができる。負極集電体の厚み分だけ外装缶の内部体積が減少するため、負極集電体の厚み寸法は可及的に小さいことが好ましく、具体的には、例えば、0.1mm以下とすることが推奨される。すなわち、負極集電体が厚すぎると、負極活物質であるリチウム箔やリチウム合金箔などの仕込み量を少なくせざるを得ず、電池容量の低下を招く虞がある。また、負極集電体が薄すぎると、破れやすくなるため、負極集電体の厚みは、0.005mm以上とすることが望ましい。また、負極集電体は、その幅がリチウム箔やリチウム合金箔の幅と同じか、それよりも広いことが好ましく、また、その面積が片面に配置されるリチウム箔またはリチウム合金箔の面積の100〜130%であることが好ましい。負極集電体の面積を上記のようにすることによって、負極集電体の幅がリチウム箔またはリチウム合金箔の幅と同じかまたは広く、長さが長くなるため、負極集電体の周囲に沿ってリチウム箔またはリチウム合金箔が切れて電気的接続が断たれることを防ぐことができる。
【0033】
セパレータとしては、従来公知の非水電解液一次電池に採用されている微孔性フィルム製のセパレータや不織布製のセパレータが適用できる。
【0034】
セパレータとなる微孔性フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル;ポリフェニレンスルフィド(PPS);などが挙げられる。このような微孔性フィルムの市販品としては、例えば、旭化成株式会社製「ハイポア」(商品名)、東燃化学社製「セティーラ」(商品名)などが挙げられる。
【0035】
また、セパレータとなる不織布としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル;ポリフェニレンスルフィド(PPS);などを素材とし、公知の各種製法で製造されたものを用いることができる。
【0036】
更に、上記微孔性フィルムと上記不織布とを積層した構造のセパレータを用いてもよい。
【0037】
セパレータの厚みは、例えば、15〜50μmであることが好ましい。
【0038】
電池を構成するにあたっては、例えば、正極と負極とを、セパレータを介して積層して積層構造の電極体としたり、帯状正極と帯状負極とを、セパレータを介在させた状態で巻回して巻回構造の電極体として用いることが好ましい。
【0039】
電解液としては、有機溶媒などの非水系溶媒に電解質としてLiPF、LiClO、LiCFSOなどを溶解して調製したものが挙げられる。その溶媒としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状エステルにジメトキシエタンなどの鎖状エーテル、ジメチルカーボネートなどの鎖状エステルを混合したものが例示できる。電解液中の電解質の濃度としては0.3〜1.5mol/lが好ましい。
【0040】
本発明の筒形非水電解液一次電池は、長期間にわたって使用され、その間に充電されてしまうような用途に用いても、電圧低下の発生が抑えられており、長期信頼性に優れている。よって、本発明の電池は、このような特性を生かして、メモリーバックアップ用の電源用途などの各種用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。この実施例においては、非水電解液一次電池として、外径:17mm、高さ:45mmの円筒形非水電解液一次電池を例に挙げて説明する。なお、本実施例で使用する「%」は、特に断らない限り質量基準(質量%)である。
【0042】
実施例1
実施例1の非水電解液一次電池について、[正極の作製]、[負極の作製]、[電極巻回体の作製]、[電池組み立て]、[後処理(予備放電、エージング)]の順に説明する。
【0043】
[正極の作製]
まず、以下の手順で、正極合剤(質量比で、固形分:水分=100:30のもの)を調製した。カーボンブラック:3%と二酸化マンガン(東ソー社製):92%とを、プラネタリーミキサーを用いて乾式で5分間混合した後、水を固形分の20%(質量比)となるように添加して5分間混合した。PVDFディスパージョン(ダイキン工業社製「D−1」)を、固形分が、正極合剤の固形分で5%に当たる量だけ用意し、これを残りの水で希釈して、上記の混合物に添加し、5分間混合して正極合剤を得た。
【0044】
上記の正極合剤を、直径:250mmの2本ロールを用い、ロール温度を125±5℃に調整し、プレス圧:7トン/cm、ロール間隔:0.4mm、回転速度:10rpmの条件で、ロール圧延してシート化した。ロールを通過した正極合剤(予備シート)を105±5℃で残水分が2%以下になるまで乾燥した。次いで乾燥後の予備シートを粉砕機を用いて粉砕した。この際、上記予備シートが、元の見かけ体積の2倍以上になるまで粉砕した。粉砕後の粒子径は、大部分が1mm以下であり、バインダーとして添加したPVDFも1mm以下の長さの繊維状に切断されていた。粉砕後の材料について、再度ロールによるシート化を行った。ロールの間隔は0.6±0.05mmに調整し、ロール温度:125±10℃、プレス圧:7トン/cm、回転速度:10rpmの条件でシート化して正極合剤層とするための正極合剤シートを得た。得られた正極合剤シートは、厚みが1.0mmで、外装缶内径の5.9%に相当する。また、正極合剤シートの密度は2.5g/cmであり、上記手法により求めた空隙率は、42%であった。この正極合剤シートを裁断して、幅:37mm、長さ:51mmの内周用の正極合剤シートと、幅:37mm、長さ:62mmの外周用の正極合剤シートを得た。
【0045】
正極集電体には、ステンレス鋼(SUS316)製のエキスパンドメタルを用いた。このエキスパンドメタルを、幅:34mm、長さ:56mmに切断し、長さ方向の中央部に、厚み:0.1mm、幅;3mmのステンレス鋼製のリボンを正極リード体として抵抗溶接により取り付けた。更にこのエキスパンドメタルに、カーボンペースト(日本黒鉛社製)を、網の目をつぶさない程度に塗布した後、105±5℃の温度で乾燥して正極集電体とした。なお、カーボンペーストの塗布量は、乾燥後の塗布量で5mg/cmとなるようにした。
【0046】
次に、内周用の正極合剤シートと外周用の正極合剤シートの間に正極集電体を介在させた状態で、長さ方向の片端部のみを固定して三者を一体化した。具体的には、内周用の正極合剤シートと外周用の正極合剤シートを、長さ方向の片端を揃えると共に、正極集電体の端部が、2枚の正極合剤シートの、両者を揃えた片端部からはみ出ないようにセットし、その状態で、2枚の正極合剤シートの、両者を揃えた片端部から5mmの箇所をプレスにより圧着することで、三者を一体化した。その後、2枚の正極合剤シートと正極集電体とを一体化したものを250±10℃で6時間熱風乾燥して、幅が37mmの帯状正極を得た。
【0047】
[負極の作製]
負極は、幅:39mm、長さ:170mm、厚み:10μmの銅箔(負極集電体)上に、幅:37mm、長さ:87mm、厚み:0.30mmの金属リチウム箔と、幅:37mm、長さ:50mm、厚み:0.30mmの金属リチウム箔を配置して構成した。まず、長さが50mmの方の金属リチウム箔に、幅:3mm、長さ:20mm、厚み:0.1mmのニッケル製の負極リード体を圧着した。その後、上記の2枚の金属リチウム箔を、離間させた状態で上記銅箔上に配置し、帯状負極を作製した。
【0048】
[巻回構造の電極体の作製]
セパレータとして、幅:44mm、長さ:170mm、厚み:25μmの微孔性ポリエチレンフィルム[旭化成社製「ハイポア」(商品名)]を用意した。
【0049】
シート状負極の銅箔上に接着テープを貼り付け、この接着テープにセパレータを熱溶着によって貼り付けた。次に、セパレータの上記熱溶着部分を、2つ割の直径:3.5mmの巻回芯に挟み、1周巻いた。次いで、負極をセパレータと共に1周巻き込んだ後、帯状正極の固定した側を巻回芯側に載置して巻回した。巻回終了後は、銅箔が最外周を覆う形となった。以上により、巻回構造の電極体を得た。
【0050】
[電池組み立て]
非水電解液電池の組み立て工程を、図1を参照して説明する。ニッケルメッキした鉄缶からなる有底円筒形の外装缶2の内底部2aに、厚み:0.2mmのポリプロピレン製の絶縁板を挿入し、その上に電極体3を、正極リード体15が上側を向く姿勢で挿入した。電極体3の負極リード体16を外装缶2の内面に抵抗溶接し、正極リード体15は、絶縁板11を挿入した後に、電池蓋7の端子板10の下面に抵抗溶接した。この時点で絶縁抵抗を測定し、短絡がないことを確認した。
【0051】
なお、電池蓋7には、厚みが10μmのPVDF製絶縁被膜を設けた鋼板を、被膜形成面が電池内側となるように加工した蓋板8を用いたものを使用した。この絶縁被膜は、呉羽化学社製「KFポリマー #1120(商品名)」をNMPに溶解させた溶液(濃度12%)を、鋼板の片面に塗布し乾燥することにより形成した。
【0052】
電解液には、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合溶媒(体積比で1:2)に、LiClOを0.5mol/lの濃度で溶解させた非水系の溶液を用意し、これを外装缶2内に3.5ml注入した。注入は3回に分け、最終工程で減圧しつつ全量を注入した。電解液の注入後、電池蓋7を外装缶2の上方開口部に嵌合し、レーザー溶接により外装缶2の開口端部の内周部と電池蓋7の蓋板8の外周部とを溶接して外装缶2の開口部を封口した。
【0053】
[後処理(予備放電、エージング)]
封口した電池を、1Ωの抵抗で30秒間予備放電し、70℃で6時間保管した後、1Ωの定抵抗で1分間、2次予備放電を行った。予備放電後の電池を、室温で7日間エージングし、開路電圧を測定して安定電圧が得られていることを確認して、外径:17.0mm、総高:45.0mmの非水電解液一次電池を得た。この非水電解液一次電池の負極容量と正極容量との比は、1.00であった。
【0054】
実施例2
電池蓋7として、厚みが10μmの絶縁被膜を設けた鋼板を、被膜形成面が電池内側となるように加工した蓋板8を用いたものを使用した以外は、実施例1と同様にして非水電解液一次電池を作製した。この絶縁被膜は、日東シンコー社製「エレップコート LSS−810(商品名)」をトルエンに溶解させた溶液(濃度10%)を、鋼板の片面に塗布し乾燥することにより形成した。
【0055】
比較例1
電池蓋7として、蓋板8の内面に絶縁被膜を設けていないものを用いた以外は、実施例1と同様にして非水電解液一次電池を作製した。
【0056】
実施例1、2および比較例1の電池について、下記の長期信頼性試験を行った。上記の予備放電、エージングを経て安定電圧が得られている各電池について開路電圧を測定した(これを、初期電圧とする)。これらの電池を、10μAの電流値で充電しつつ60℃で50日間保管した後、再度開路電圧を測定し、該電圧が初期電圧よりも20mV以上低下しているものを微短絡の発生しているソフトショート品と判定した。各電池の試料数は20個とし、そのうちのソフトショート品の個数を調べた。すなわち、ソフトショート品の個数が少ないほど、長期信頼性が良好であることを意味している。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から分かるように、実施例1、2の非水電解液一次電池では、充電しつつ高温で長期間にわたって保管しても、ソフトショートの発生がなく、長期信頼性に優れている。これら非水電解液一次電池について、長期信頼性試験後に分解しても、蓋板8の内面にリチウムの析出は見られなかった。
【0059】
これに対し、上記の長期信頼性試験によって、ソフトショート品と判定された比較例1の電池について、試験後に分解してみると、蓋板8の内面にリチウムが析出しており、これが端子体10と接触することで、微短絡が発生したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の筒形非水電解液一次電池の一例を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 筒形非水電解液一次電池
2 外装缶
3 巻回構造の電極体
4 帯状正極
5 帯状負極
6 セパレータ
7 電池蓋
8 蓋板
9 絶縁パッキング
10 端子体
17 絶縁被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、リチウムまたはリチウム合金を含有する負極、セパレータ、および非水電解液を、筒形の外装缶と該外装缶の開口部を封止するための電池蓋で形成された空間内に有する筒形の非水電解液一次電池であって、
少なくとも、上記電池蓋内面の金属露出部のうち負極の電位を有する箇所に、絶縁被膜を有することを特徴とする筒形非水電解液一次電池。
【請求項2】
電池蓋は、蓋板、端子体、および該蓋板と該端子体との間に介在する絶縁パッキングを有しており、
上記蓋板および上記端子体のうち、いずれか一方が負極の電位を有しており、他方が正極の電位を有している請求項1に記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項3】
外装缶が負極の電位を有しており、かつ上記外装缶内面にも絶縁被膜を有している請求項1または2に記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項4】
絶縁被膜が、ポリフッ化ビニリデン、水ガラスまたはゴム系材料により形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項5】
ゴム系材料が、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、またはこれらの混合物である請求項4に記載の筒形非水電解液一次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−207639(P2007−207639A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26557(P2006−26557)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】