説明

筒形非水電解液電池

【課題】 高容量で、かつパルス放電特性に優れた筒形非水電解液電池を提供する。
【解決手段】 シート状正極とシート状負極とをセパレータを介して巻回してなる電極巻回体を筒形の外装缶内に有する筒形の非水電解液電池であって、上記シート状正極は、2枚の正極合剤シートが、集電体を介して積層されてなるものであり、かつ上記正極合剤シートが、1枚当たり、上記外装缶内径の4〜9%に相当する厚みを有しており、上記シート状負極は、金属リチウム層と、該金属リチウム層の、セパレータを介して正極と対向する側の表面の少なくとも一部に、リチウム−アルミニウム合金を有していることを特徴とする筒形非水電解液電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒形の非水電解液電池に関し、さらに詳しくは、高容量で、パルス放電特性に優れた筒形非水電解液電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筒形の非水電解液電池には、メモリーバックアップなどの高容量ではあるが軽負荷用のボビンタイプの電池と、カメラの電源など重負荷対応の巻回式電池とが広く知られている。前者のボビンタイプの電池は、リチウムマンガン電池やリチウム塩化チオニル電池が製品化されているが、構造が簡単で低コストでの製造が可能であり、多くの活物質を充填することができる反面、電極面積が小さく負荷特性に劣ることから、大きな電流での放電を行おうとすると、容量が低下する不利がある。
【0003】
後者の重負荷特性の巻回式電池は、リチウムマンガン電池やリチウムフッ化黒鉛電池として製品化されている。この種の電池は、薄い長尺の電極を巻回してなる電極巻回体を電池要素とするため、大きな電極面積を確保でき、大電流で放電した場合でも大きな放電容量を取り出すことができる利点がある。ただし、電池特性向上に直接的に寄与しないセパレータや集電体を電極体内に多く備えるため、活物質の充填量が低くならざるを得ず、電池容量が低下することは避けられない。また、大電流が取り出せる反面、短絡などの異常が起こった場合には発熱が激しく、発火の危険性があり、種々の安全対策が必要で、電池構造が複雑で製造コストの上昇を招く不利もある。
【0004】
最近の応用機器の多様化により、メモリーバックアップなどの軽負荷用途、カメラ用などの重負荷用途だけでなく、データの発信、受信など中負荷での用途が増加しつつあり、中負荷で特徴を発揮する電池の開発が要望されていた。
【0005】
本発明者らは、こうした要望に応えるべく、中負荷放電特性を向上させた巻回式電池の開発を行い、既に特許出願を済ませている(特許文献1)。この特許文献1の技術では、正極合剤中の導電助剤に関する選択と、正極合剤シート密度の最適化により、中負荷放電特性の向上を達成している。
【0006】
【特許文献1】特開2005−38708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示されているような、主に中負荷用途に適用される電池においても、更なる高容量化の要求がある他、非常に短時間での放電を繰り返すことが可能な特性(パルス放電特性)も求められるようになっている。
【0008】
しかしながら、高容量化とパルス放電特性の向上を同時に達成することは、下記の理由から非常に困難である。
【0009】
非水電解液電池の高容量化は、例えば、正極合剤シートを厚くし、電池内での正極の占有体積率を増加させ、正極活物質の充填量を高めることで達成できる。ここで、電池の外装缶内に装填可能な電極の体積には限りがあるため、正極合剤シートの厚みを増加させて高容量化を図ると、正極の表面積自体は小さくなる。電池の放電反応は、正極と負極が対向している箇所で起こるため、正極合剤シートの厚みの増加による正極の表面積の減少に伴って、負極の表面積も小さくすることになる。
【0010】
ところが、非水電解液電池において、パルス放電特性の向上を図るには、正負極の対向面積を大きくする必要があるため、上記のように、正極合剤シートの厚みを増加させて高容量化を図った場合には、パルス放電特性を向上させることは極めて困難である。
【0011】
上記特許文献1に開示の非水電解液電池は、比較的高容量で、中負荷放電特性のみならず、パルス放電特性にも優れているが、今後更なる応用機器の開発が進むにつれて、電源としての非水電解液電池には、更なる高容量化とパルス放電特性の向上が求められると予測される。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高容量で且つパルス放電特性に優れた筒形非水電解液電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成し得た本発明の筒形非水電解液電池は、シート状正極とシート状負極とをセパレータを介して巻回してなる電極巻回体を筒形の外装缶内に有する筒形の非水電解液電池であって、上記シート状正極は、2枚の正極合剤シートが、集電体を介して積層されてなるものであり、かつ上記正極合剤シートが、1枚当たり、上記外装缶内径の4〜9%に相当する厚みを有しており、上記シート状負極は、金属リチウム層と、該金属リチウム層の、セパレータを介して正極と対向する側の表面の少なくとも一部に、リチウム−アルミニウム合金を有していることを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、上記の通り、シート状正極に係る正極合剤シートを、上記特定の厚みとして高容量化を図りつつ、金属リチウム層を有するシート状負極(例えば、負極集電体表面に負極活物質となる金属リチウムの層を有するシート状負極)において、金属リチウム層の正極と対向する側の表面の一部に、リチウム−アルミニウム合金を存在させて、パルス放電特性の向上も達成している。
【0014】
シート状負極に係るリチウム−アルミニウム合金は、例えば、金属リチウム層を構成するための金属リチウム箔の表面にアルミニウム箔を積層し、電池内で電気化学的に合金化することで形成できるが、このようなリチウム−アルミニウム合金は微粉化するため、シート状負極の表面積を増加させることができる。また、金属リチウムを負極活物質とした場合には、電解液との反応によって、負極表面に有機物被膜が形成され、これが負極の界面抵抗を増大させて、パルス放電特性などの電池特性の低下の一因となるが、上記のリチウム−アルミニウム合金は、リチウムよりも電解液との反応性が低いために、上記有機物被膜の形成が抑えられ、これによる電池特性の低下が抑制される。
【0015】
本発明の電池では、上記のように、負極の、正極との対向面におけるリチウム−アルミニウム合金の存在によって、負極の表面積の増加と、電池特性低下の要因となる有機物被膜の発生抑制を達成して、正極合剤シートの厚みの増加による高容量化を図りつつ、パルス放電特性の向上も可能としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高容量で、パルス放電特性に優れた筒形非水電解液電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、本発明の非水電解液電池の一実施形態を表す縦断側面図を示す。図1において、非水電解液電池1は、上方開口部を有する有底円筒状の外装缶2と、外装缶2内に装填されたシート状正極4とシート状負極5とをセパレータ6を介して巻回してなる電極巻回体3(図2参照)と、非水電解液(以下、単に「電解液」という)と、外装缶2の上方開口部を封止する封口構造を有している。言い換えれば、図1の非水電解液電池1は、外装缶2と外装缶2の上方開口部を封止する封口構造とで囲まれる空間内に、シート状正極4とシート状負極5とをセパレータ6を介して巻回してなる電極巻回体3や電解液といった発電要素を有するものである。上記外装缶2は、鉄やステンレス鋼などを素材とする。
【0018】
封口構造は、外装缶2の上方開口部の内周縁に固定された蓋板8と、蓋板8の中央部に開設された開口に、ポリプロピレンなどを素材とする絶縁パッキング9を介して装着された端子体10と、蓋板8の下部に配置された絶縁板11とを有している。絶縁板11は、円盤状のベース部12の周縁に環状の側壁13を立設した上向きに開口する丸皿形状に形成されており、ベース部12の中央にはガス通口14が開設されている。蓋板8は、側壁13の上端部に受け止められた状態で、外装缶2の上方開口部の内周縁に、レーザー溶接で固定するか、またはパッキングを介したクリンプシールで固定されている。電池内圧が急激に上昇したときの対策として、蓋板8または外装缶2の缶底2aには、薄肉部(ベント)を設けることができる。正極4と端子体10の下面とは、正極リード体15で接続されている。また、負極5に取り付けられた負極リード体16は、外装缶2の上部内面に溶接されている。
【0019】
図2には、図1に示した非水電解液電池の横断平面図を示している。図2に示すように、電極巻回体3は、正極4と負極5とを、セパレータ6を介して巻回してなるものであり、全体として略円柱形状に形成されている。図2に示す非水電解液電池では、正極4は、2枚の正極合剤シート20、21が、集電体22を介して積層されてなる構造を有している。また、負極5は、金属リチウム層25と集電体26が積層されてなる構造を有しており、図示していないが、金属リチウム層25は、セパレータ6を介して正極4と対向する側の面の少なくとも一部に、リチウム−アルミニウム合金を有している。ここで、図2中、Cは電極巻回体3の巻回中心部、Sは電極巻回体3における正極4の巻回始端部、Eは電極巻回体3の巻回終端部である(詳しくは、後述する)。なお、図1および図2では、本発明の電池が円筒形である場合を示している。
【0020】
図3には、本発明の非水電解液電池に係る電極巻回体の要部を拡大した断面図を示している。図3では、理解を容易にするために、電極巻回体の各構成要素が水平に積層されているように示している。また、図3においても、図2と同様に、金属リチウム層25の、セパレータ6を介して正極4と対向する側の表面に存在するリチウム−アルミニウム合金は図示していない。なお、図3で示すセパレータ6は、図1や図2に示す単層構造のものではなく、微孔性フィルム28と不織布29を構成要素として有しており、微孔性フィルム28が負極5と接するように、かつ不織布29が正極4と接するように配置されている。
【0021】
図1、図2および図3では、各構成要素の配置を概念的に示しており、これらの寸法(厚みや幅など)は実際と異なる(後記の図4および図5においても同じである)。
【0022】
本発明に係る正極は、2枚の正極合剤シートが集電体を介して積層されてなる構成のシート状正極である。このような構造のシート状正極は、例えば、集電体が、2枚の正極合剤シートよりも数mm内側にくるようにして三者を重ね合わせ、巻回始端部Sとなる長さ方向の端部から3〜10mmの部分をプレスすることで作製できる。なお、作業上の観点からは、電極巻回体の作製に先立って、2枚の正極合剤シートと正極集電体とを一体化しておくことが好ましいが、独立した2枚の正極合剤シートと集電体とを、電極巻回体の巻回時に一体化しても構わず、このような製法によっても特性上は特に問題はない。
【0023】
正極合剤シートとしては、例えば、正極活物質に、導電助剤やバインダーを配合し、必要に応じて水などを添加してなる正極合剤(スラリー)を、ロールなどを用いて圧延するなどして予備シート化し、これを乾燥・粉砕したものを再度ロール圧延などしてシート形状に成形したものが使用できる。正極活物質としては、例えば、二酸化マンガン、フッ化カーボン、リチウムコバルト複合酸化物、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物などが挙げられる。また、導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック(ケッチェンブラックなど)、アセチレンブラックなどが挙げられ、これらを1種単独で用いる他、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PVDF)、ゴム系バインダーなどが使用できる。なお、PVDFの場合、ディスパージョンタイプのものでもよいし、粉末状のものでもよいが、ディスパージョンタイプのものが特に好適である。
【0024】
正極合剤シートにおいては、例えば、正極活物質の含有量を92〜97質量%、導電助剤の含有量を2〜4質量%、およびバインダーの含有量を1〜4質量%とすることが好ましい。
【0025】
正極合剤シートは、1枚当たり、電池外装缶内径の4〜9%に相当する厚みを有している。このように厚い正極合剤シートを有する正極を備えることで、電池内での正極の占有体積率を高めて電池内の不要な隙間を減らし、正極活物質の充填量を増加させて電池の高容量化を達成することができる。なお、個々の正極合剤シートの具体的な厚みは、電池のサイズ(外装缶内径の大きさ)によって変動するが、通常は、0.5〜1.0mmである。
【0026】
また、正極合剤シートの密度は、例えば、2.1〜2.8g/cmであることが好ましい。なお、本明細書でいう正極合剤シートの密度は、乾燥状態の正極合剤シートの体積と重量によって求められる値である。
【0027】
なお、非水電解液電池の負荷特性(特に中負荷での放電特性)を向上させる観点からは、導電助剤に、BET比表面積が400〜2000m/gのカーボンブラック(特にケッチェンブラック)を用い、正極合剤シートにおける上記導電助剤の含有量を2.0〜4.0質量%とし、更に正極合剤シートの密度を2.2〜2.7g/cmとすることがより好ましい。なお、本明細書でいう導電助剤のBET比表面積は、多分子吸着の理論式であるBET式を用いて、表面積を測定、計算したもので、活物質の表面と微細孔の比表面積である。また、後記の実施例におけるカーボンブラックのBET比表面積の測定には、窒素吸着法による比表面積測定装置(Mountech社製「Macsorb HM model−1201」)を用いた。
【0028】
正極に用いる集電体としては、例えば、SUS316、SUS430、SUS444などのステンレス鋼を素材とするものが挙げられ、その形態としては、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル、箔(板)などが例示できる。集電体の厚みとしては、例えば、0.1〜0.4mmであることが好ましい。
【0029】
なお、正極集電体の表面には、ペースト状の導電材を塗布しておくことが望ましい。正極集電体として立体構造を有する網状のものを用いた場合も、金属箔やパンチングメタルなどの本質的に平板からなる材料を用いた場合と同様に、導電材の塗布により集電効果の著しい改善が認められる。これは、網状の集電体の金属部分が正極合剤シートと直接的に接触する経路のみならず、網目内に充填された導電材を介しての経路が有効に利用されていることによるものと推定される。
【0030】
導電材としては、例えば、銀ペーストやカーボンペーストなどを用いることができる。特にカーボンペーストは、銀ペーストに比べて材料費が安く済み、しかも銀ペーストと略同等の接触効果が得られるため、非水電解液電池の製造コストの低減化を図る上で好適である。導電材のバインダーとしては、水ガラスやイミド系のバインダーなどの耐熱性の材料を用いることが好ましい。これは正極合剤シート中の水分を除去する際に200℃を超える高温で乾燥処理するためである。
【0031】
本発明に係る負極は、金属リチウム層が、例えば集電体の表面に設けられたシート状負極であり、該金属リチウム層の、セパレータを介して正極と対向する側の面(集電体側とは反対の面)の少なくとも一部に、リチウム−アルミニウム合金を有している。
【0032】
上記のリチウム−アルミニウム合金は、例えば、金属リチウム層となる金属リチウム箔を、集電体と積層し、更に金属リチウム箔の集電体側と反対の面にアルミニウム箔を積層してシート状負極(負極前駆体)とし、このシート状負極、上記シート状正極、およびセパレータを用いて作製した電極巻回体を、電解液と共に外装缶内に収容し、電池内で、リチウムとアルミニウムを電気化学的に合金化させることにより、金属リチウム層表面に層状に形成される。
【0033】
上記のようにして形成されるリチウム−アルミニウム合金は微粉化しているため、シート状負極の表面積が増大する。また、リチウム−アルミニウム合金は、シート状負極表面での電解液との反応を抑えて電池特性低下の要因となる有機物被膜の形成を抑制する。これらの作用によって、本発明の電池では、パルス放電特性を向上させることができる。
【0034】
なお、上記のようにリチウム−アルミニウム合金を電池内で形成させる場合には、アルミニウム箔の幅が、金属リチウム箔の幅よりも小さいことが好ましい。なお、本明細書でいうシート状負極、シート状正極、セパレータ、それらの構成要素およびその原材料に関する「幅」とは、シート状負極、シート状正極およびセパレータの長尺方向に直交する幅方向の長さを意味している。
【0035】
金属リチウム箔よりも大きな幅を有するか、または同一の幅のアルミニウム箔を用いて、上記手法によりリチウム−アルミニウム合金を形成すると、金属リチウム層の幅方向の端部にまでリチウム−アルミニウム合金が形成されることになる。ところが、上記の通り、リチウム−アルミニウム合金は微粉化されているため、例えば、電池に外部から衝撃が加わったときなどに、金属リチウム層の幅方向端部付近から、微粉化したリチウム−アルミニウム合金が脱落して、電池の放電容量の低下を引き起こしたり、脱落したリチウム−アルミニウム合金粉末が正極と接触して、電池電圧を低下させて電圧不良を引き起こしたりすることがある。また、金属リチウム箔よりも幅の大きなアルミニウム箔を用いて、上記手法によりリチウム−アルミニウム合金を形成すると、アルミニウム箔が金属リチウム箔からはみ出した部分は、リチウム−アルミニウム合金の形成に関与しないため無駄になる。
【0036】
より具体的には、金属リチウム箔の幅方向の中央とアルミニウム箔の幅方向の中央とを合わせて両者を積層したときに、金属リチウム箔の幅方向の両端部とも、端から1mmまでの部分が露出するように、金属リチウム箔とアルミニウム箔の幅を設定することが好ましい。
【0037】
シート状負極に係る金属リチウム層を形成するための上記金属リチウム箔の厚みは、例えば、0.05〜0.4mmであることが好ましい。
【0038】
また、上記金属リチウム箔と積層してリチウム−アルミニウム合金を形成するために使用する上記アルミニウム箔の厚みは、例えば、3〜15μmであることが好ましい。アルミニウム箔が薄すぎると、形成されるリチウム−アルミニウム合金の量が少なくなって、電池のパルス放電特性向上効果が小さくなることがある。また、アルミニウム箔が薄すぎると、電極巻回体の巻回時に亀裂が生じることがあり、その場合には、アルミニウムの分布が不均一になるため、負極の箇所毎に放電反応の進行具合に差が生じ、これによっても、電池のパルス放電特性向上効果が小さくなることがある。他方、アルミニウム箔が厚すぎると、放電に寄与しないアルミニウム量が増加するため、電池の放電容量が減少する傾向にある。
【0039】
負極集電体の素材としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレスなどを挙げることができる。負極集電体の厚み分だけ外装缶の内部体積が減少するため、負極集電体の厚み寸法は可及的に小さいことが好ましく、具体的には、例えば、0.1mm以下とすることが推奨される。すなわち、負極集電体が厚すぎると、負極活物質である金属リチウム層(金属リチウム箔)などの仕込み量を少なくせざるを得ず、電池容量の低下を招く虞がある。また、負極集電体が薄すぎると、破れやすくなるため、負極集電体の厚みは、0.005mm以上とすることが望ましい。負極集電体は、その幅が金属リチウム箔の幅と同じか、それよりも広いことが好ましく、また、その面積が片面に配置される金属リチウム箔の面積の100〜130%であることが好ましい。負極集電体の面積を上記のようにすることによって、負極集電体の幅が金属リチウム箔の幅と同じかまたは広く、長さが長くなるため、負極集電体の周囲に沿って金属リチウム箔が切れて電気的接続が断たれることを防ぐことができる。
【0040】
本発明の電池に係るセパレータとしては、特に制限はなく、従来公知の非水電解液電池に採用されている微孔性フィルム製のセパレータや不織布製のセパレータが適用できる。
【0041】
なお、本発明の電池では、微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータを使用することが好ましい。微孔性フィルムと不織布を構成要素とし、これらが積層されている構造のセパレータであれば、電極巻回体において、正極表面の正極活物質によるセパレータの突き破れを抑制して、短絡の発生を防止することができ、更に、負極表面における微粉化したリチウム−アルミニウム合金の脱落に起因する電池特性の低下を防止することもできる。
【0042】
すなわち、微孔性フィルムと不織布とを併用すれば、微孔性フィルムのみでは容易に亀裂などが生じて短絡が発生してしまうような場合でも、亀裂などが容易には生じず貫通強度も大きい不織布の存在によって、短絡の発生を防止することができる。
【0043】
また、負極表面における微粉化したリチウム−アルミニウム合金は、例えば電池に外部から衝撃が加わったときなどに負極から脱落することがあるが、このような脱落したリチウム−アルミニウム合金がセパレータ中を通過して正極まで移動すると、正極活物質と反応して、電池の電圧が低下する電圧不良を引き起こしてしまう。上記の微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータを用いれば、その微孔性フィルムによって、負極から脱落したリチウム−アルミニウム合金の正極への移動を防止して、上記の電圧不良の発生を抑えて、電池特性の低下を抑制することができる。
【0044】
なお、セパレータに係る微孔性フィルムに亀裂などが生じている場合には、負極から脱落したリチウム−アルミニウム合金の正極への移動抑制作用が大きく損なわれてしまうが、微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータであれば、上記の通り、微孔性フィルムの突き破れが不織布の存在によって抑制されるため、例えば、微孔性フィルムのみで構成されるセパレータを用いた場合に比べて、上記の電圧不良の発生をより高度に抑制することができる。
【0045】
また、微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータでは、非水電解液電池において短絡などの急激な放電が生じた際に、これに伴って発生する熱によって微孔性フィルムを構成する樹脂が溶融し、セパレータの空孔を閉塞することにより電池の内部抵抗を上昇させて電池の安全性を確保するといったシャットダウン特性を確保することもできる。この他、不織布は、セパレータ中の電解液保持量を高めて電池の容量をより向上させるための電解液保持層としての作用も有している。
【0046】
本発明の電池において、微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータを用いる場合には、微孔性フィルムを負極と接するように配置し、不織布を正極と接するように配置することが好ましい。このような配置にすることで、正極表面の正極活物質による微孔性フィルムの突き破れを、正極と接する不織布の作用によって、より高度に抑制することができるため、負極から脱離したリチウム−アルミニウム合金の正極への移動をより良好に防止することができる。
【0047】
なお、上記の微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータにおける不織布の厚みは、例えば、10μm以上、より好ましくは20μm以上であって、80μm以下、より好ましくは60μm以下、特に好ましくは50μm以下であることが望ましい。不織布が薄すぎると、電極巻回体での微孔性フィルムの突き破れに起因する短絡や電圧不良の発生を防止する効果が小さくなることがある。また、不織布が薄すぎると、セパレータ中の電解液保持量も少なくなるため、電池の容量向上効果も小さくなることがある。他方、不織布が厚すぎると、電池容量が低下する傾向にある他、セパレータの抵抗値が上昇することで、負荷特性が低下したり、電池が本来有している容量分の電気を十分に放電することができなくなるといった容量が無駄になる現象が生じることがある。不織布が、上記厚みの中でも50μm以下(すなわち、10μm以上、より好ましくは20μm以上であって、50μm以下)の場合には、高容量化や負荷特性の向上を図り得ることから、特に好ましい。
【0048】
上記セパレータに係る不織布としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル;ポリフェニレンスルフィド(PPS);などを素材とし、公知の各種製法で製造されたものを用いることができる。
【0049】
また、微孔性フィルムの厚みは、10μm以上、より好ましくは20μm以上であって、40μm以下であることが望ましい。微孔性フィルムが薄すぎると、電極巻回体での微孔性フィルムの突き破れに起因する短絡が発生しやすくなることがあり、また、強度が小さいために電極巻回時にセパレータに破れが発生する虞がある。他方、微孔性フィルムが厚すぎると、電池容量の向上効果が小さくなることがある他、セパレータの抵抗値が上昇することで、負荷特性が低下したり、上述の容量が無駄になる現象が生じることがある。
【0050】
なお、本明細書でいう「微孔性フィルム」とは、樹脂で構成されるフィルム状体(所謂シート状体や板状体を含む)で、微小な空孔を多数内包しているものをいい、フィルム内部をイオンが通過できるものである。例えば、樹脂に微小な微粒子(無機微粒子)を配合し、成形してフィルム状体とし、これを一軸方向または二軸方向に延伸して微粒子近傍にクラックを発生させることで空孔を形成したものなどが使用できる。微孔性フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル;ポリフェニレンスルフィド(PPS);などが挙げられる。このような微孔性フィルムの市販品としては、例えば、旭化成株式会社製「ハイポア」(商品名)、東燃化学社製「セティーラ」(商品名)などが挙げられる。
【0051】
セパレータの幅は、シート状正極とシート状負極の接触を抑制できるように設定すればよいが、上記の微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータにおいては、微孔性フィルムの幅がシート状負極の幅よりも大きいことが好ましい。セパレータに係る微孔性フィルムの幅がシート状負極の幅よりも大きく、かつ、シート状正極、シート状負極、およびセパレータに係る微孔性フィルム並びに不織布の中で最も幅広い場合には、電極巻回体の幅方向の両端にはみ出した微孔性フィルムを内方に折り返すことで、負極から脱落したリチウム−アルミニウム合金の移動抑制を、より高度に達成することができる。
【0052】
他方、上記の微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータにおいて、不織布には、上記のような微孔性フィルムを幅広にすることによる効果はない。そのため、不織布の電池内占有体積をより小さくする観点から、微孔性フィルムと不織布を構成要素に有するセパレータでは、不織布の幅を微孔性フィルムよりも小さくすることが好ましく、例えば、不織布をシート状正極やシート状負極と同程度の幅にすることがより好ましい。
【0053】
なお、例えば、正極合剤シートの空隙率が35〜50%であるような正極を有する非水電解液電池の場合には、セパレータと接する正極表面の凹凸が大きいために、セパレータの突き破れが生じやすいが、このような場合でも、微孔性フィルムと不織布を構成要素に有する上記のセパレータを採用することにより、短絡の発生を抑制し得る。なお、正極合剤シートの空隙率は次のようにして求める。例えば、正極合剤シートが、二酸化マンガン、ケッチェンブラックおよびPVDFで構成されている場合、それぞれの真比重を、4.5g/cm、2.0g/cm 、および2.2g/cmとして、正極合剤シート単位体積あたりに含まれる各構成材料の計算上の質量の合計X(g/cm3)を求め、実際の正極合剤シートの密度Y(g/cm)との差から〔(X−Y)/X〕×100として、空隙率(%)を求める。
【0054】
また、正極表面における凹凸の最大値(すなわち、最も高い凸部の最高位置を通る水平線と、最も低い凹部の最低位置を通る水平線との間の垂直距離)が、微孔性フィルムの厚みよりも大きい場合(より具体的には、例えば、40μm以上の場合)にも、正極表面の凹凸が大きいために、セパレータの突き破れが生じやすいが、微孔性フィルムと不織布を構成要素に有する上記のセパレータは、このような場合の短絡抑制にも効果的である。
【0055】
本発明の電池に係る電解液としては、有機溶媒などの非水系溶媒に電解質としてLiPF、LiClO、LiCFSOなどを溶解して調製したものが挙げられる。
【0056】
上記の電解質の中でも、電池の安全性をより向上させる観点から、LiCFSOを用いることが好ましい。なお、負極に金属リチウムを用い、溶質にLiCFSOを用いた場合には、電池の保存中にLiCFSOからイオン化したフッ素が活性なリチウムと反応して、負極表面に不働態であるフッ化リチウムの被膜を生成し、電池の内部抵抗が増大するため、放電特性が低下する。しかし、本発明の電池では、負極の一部にリチウム−アルミニウム合金を有しており、このリチウム−アルミニウム合金はリチウム単独に比して活性度が低いため、保存中に存在するフッ素イオンとリチウム−アルミニウム合金とが反応し難く、負極表面における不働態被膜の生成が抑えられ、放電特性の低下を抑えることができる。
【0057】
電極巻回体3は、例えば、図4および図5に示すような手順で作製することができる。なお、図4(拡大図を除く)および図5では、セパレータ6は単層構造で示しているが、上記の通り、図3や図4の拡大図のように、微孔性フィルム29と不織布28とを有していることが好ましい。また、25aは、金属リチウム層25およびその表面のリチウム−アルミニウム合金を形成するための、金属リチウム箔25bとアルミニウム箔25cの積層体(以下、「Li箔−Al箔積層体」という)であり、図4の拡大図以外と図5では、図面の複雑化を避けるために、単層構造であるかのように示している。
【0058】
まず、図4に示すように、負極集電体26の長さ方向の中央部の上面に、熱溶融性のテープ31、次いでセパレータ6を載置する。このとき、セパレータ6が、微孔性フィルム28と不織布29で構成されている場合には、図4中円内の拡大図にあるように、微孔性フィルム28が負極5側となるように配することが好ましい。なお、微孔性フィルム28と不織布29で構成されるセパレータ6は、例えば、微孔性フィルム28と不織布29とを重ね合わせ、一部のみを熱溶着させるなどして形成することができる。
【0059】
次いで、この状態からテープ31を加熱して、該テープ31を介して負極集電体26にセパレータ6を不離一体的に溶融固着させる。テープ31には、片面または両面の粘着テープを用いることができる。次に、セパレータ6の固着部分を挟む負極集電体26の長さ方向の前後位置に、2枚のLi箔−Al箔積層体25a、25aを圧着固定する。換言すれば、負極集電体26の片側面に、負極活物質であるLi箔−Al箔積層体25aの無い負極集電体26が露出する部分を設け、この露出部分30にセパレータ6を固着する。このとき、負極集電体26と固着するセパレータ6の部分は、微孔性フィルムと不織布とを熱溶着させた部分を含むようにすることが好ましい。このようにして、負極集電体26とLi箔−Al箔積層体25a、およびセパレータ6とが不離一体的に結合された積層体32を得ることができる。
【0060】
次に図5(a)に示すように、巻回芯33の横割溝35の間に積層体32を挿入する。ここでは、先の露出部分30、つまりテープ31によるセパレータ6の固着部分が、巻回芯33の横割溝35の間に来るように位置合わせする。巻回芯33を一方向(図5では時計まわり方向)に半周程度回転させて、図5(b)に示すように積層体32を巻回芯33の外周面に巻き付ける。次に、正極合剤シート20、21と集電体22とからなる正極4を、巻回始端部S側(図2参照)が巻回芯33側となるようにセパレータ6上に載置して、積層体32と共に、巻回芯33で巻回する。積層体32と正極4とを巻回芯で巻き取ったのち、該巻回芯31を巻回中心部C(図2参照)から抜き取り、最後に金属箔26の巻回終端部E(図2参照)を固定テープで固定する。このようにして、図2に示すように、露出部分30を巻回中心部Cとして、正極4と負極5とをセパレータ6を介して巻回してなる電極巻回体3を得ることができる。
【0061】
なお、負極集電体を予め巻回芯に1周程度巻き込んだ後、負極を構成するLi箔−Al箔積層体とセパレータとを重ねて正極を包み込むようにして折り返した電極群を挿入し、巻回して電極巻回体としても構わない。この場合、負極集電体にはLi箔−Al箔積層体(その金属リチウム箔)は全く圧着されていないことになる。
【0062】
本発明の非水電解液電池は、高容量であり、かつパルス放電特性に優れていることから、特にデータ通信機器など、非常に短時間の放電が繰り返し要求されるような機器の駆動電源を始めとする各種機器の電源用途に好ましく適用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。この実施例においては、非水電解液電池として、外径:17mm、高さ:45mmの円筒形リチウム電池を例に挙げて説明する。なお、本実施例で使用する「%」は、特に断らない限り質量基準(質量%)である。
【0064】
実施例1
実施例1の非水電解液電池について、[正極の作製]、[負極の作製]、[電極巻回体の作製]、[電池組み立て]、[後処理(予備放電、エージング)]の順に説明する。
【0065】
[正極の作製]
まず、以下の手順で、正極合剤(質量比で、固形分:水分=100:30のもの)を調製した。BET比表面積が600m/gのカーボンブラック:3%と二酸化マンガン(東ソー社製):92%とを、プラネタリーミキサーを用いて乾式で5分間混合した後、水を固形分の20%(質量比)となるように添加して5分間混合した。PVDFディスパージョン(ダイキン工業社製「D−1」)を、固形分が、正極合剤の固形分で5%に当たる量だけ用意し、これを残りの水で希釈して、上記の混合物に添加し、5分間混合して正極合剤を得た。
【0066】
上記の正極合剤を、直径:250mmの2本ロールを用い、ロール温度を125±5℃に調整し、プレス圧:7トン/cm、ロール間隔:0.4mm、回転速度:10rpmの条件で、ロール圧延してシート化した。ロールを通過した正極合剤(予備シート)を105±5℃で残水分が2%以下になるまで乾燥した。次いで乾燥後の予備シートを粉砕機を用いて粉砕した。この際、上記予備シートが、元の見かけ体積の2倍以上になるまで粉砕した。粉砕後の粒子径は、大部分が1mm以下であり、バインダーとして添加したPVDFも1mm以下の長さの繊維状に切断されていた。粉砕後の材料について、再度ロールによるシート化を行った。ロールの間隔は0.6±0.05mmに調整し、ロール温度:125±10℃、プレス圧:7トン/cm、回転速度:10rpmの条件でシート化して正極合剤シートを得た。得られた正極合剤シートは、厚みが1.0mmで、外装缶内径の5.9%に相当する。また、正極合剤シートの密度は2.5g/cmであり、上記手法により求めた空隙率は、42%であった。この正極合剤シートを裁断して、幅:37mm、長さ:51mmの内周用の正極合剤シート(図2中、20)と、幅:37mm、長さ:62mmの外周用の正極合剤シート(図2中、21)を得た。
【0067】
正極集電体には、ステンレス鋼(SUS316)製のエキスパンドメタルを用いた。このエキスパンドメタルを、幅:34mm、長さ:56mmに切断し、長さ方向の中央部に、厚み:0.1mm、幅:3mmのステンレス鋼製のリボンを正極リード体として抵抗溶接により取り付けた。更にこのエキスパンドメタルに、カーボンペースト(日本黒鉛社製)を、網の目をつぶさない程度に塗布した後、105±5℃の温度で乾燥して正極集電体とした。なお、カーボンペーストの塗布量は、乾燥後の塗布量で5mg/cmとなるようにした。
【0068】
次に、内周用の正極合剤シートと外周用の正極合剤シートの間に正極集電体を介在させた状態で、長さ方向の片端部のみを固定して三者を一体化した。具体的には、内周用の正極合剤シートと外周用の正極合剤シートを、長さ方向の片端を揃えると共に、正極集電体の端部が、2枚の正極合剤シートの、両者を揃えた片端部からはみ出ないようにセットし、その状態で、2枚の正極合剤シートの、両者を揃えた片端部から5mmの箇所をプレスにより圧着することで、三者を一体化した。その後、2枚の正極合剤シートと正極集電体とを一体化したものを250±10℃で6時間熱風乾燥して、幅が37mmのシート状正極を得た。
【0069】
[負極(負極前駆体)の作製]
負極は、幅:39mm、長さ:170mm、厚み:10μmの銅箔(負極集電体)上に、幅:37mm、長さ:87mm、厚み:0.30mmの金属リチウム箔と、幅:37mm、長さ:50mm、厚み:0.30mmの金属リチウム箔を配置し、さらにその上に、それぞれ幅:35mm、長さ:85mm、厚み:6μmと、幅:35mm、長さ:48mm、厚み:6μmのアルミニウム箔を配置して構成した。まず、長さが50mmの方の金属リチウム箔に、幅:3mm、長さ:20mm、厚み:0.1mmのニッケル製の負極リード体を圧着した。その後、上記の2枚の金属リチウム箔を、図4に示すように、離間させた状態で上記銅箔上に配置し、これら2枚の金属リチウム箔の上に、上記のアルミニウム箔をそれぞれ配置して、シート状負極(リチウム−アルミニウム合金形成前のシート状負極前駆体、以下、便宜上「シート状負極」という)を作製した。
【0070】
[電極巻回体の作製]
幅:44mm、長さ:170mm、厚み:20μmの微孔性ポリエチレンフィルム[旭化成社製「ハイポア」(商品名)]と、幅:42mm、長さ:170mm、厚み:20μmの不織布とを積層し、微孔性ポリエチレンフィルムの長さ方向の片端から65mmの位置で、不織布と10mmずらして熱溶着してセパレータを作製した。
【0071】
図4に示すように、シート状負極の銅箔上に、接着テープを介してセパレータを貼り付けた。なお、セパレータを負極に貼り付ける際には、不織布面を正極側とし、また、セパレータの微孔性フィルムと不織布との熱溶着部分が、接着テープとの接着部分に含まれるようにした。次に、セパレータの微孔性フィルムと不織布との熱溶着部分を中心にして、2つ割の直径:3.5mmの巻回芯に挟み、1周巻いた[図5の(a)、(b)]。次いで、負極をセパレータと共に1周巻き込んだ後、シート状正極の固定した側を巻回芯側に載置して巻回した。巻回終了後は、銅箔が最外周を覆う形となった。以上により、図2に示すような電極巻回体を得た。
【0072】
[電池組み立て]
非水電解液電池の組み立て工程を、図1を参照して説明する。ニッケルメッキした鉄缶からなる有底円筒形の外装缶2の内底部2aに、厚み:0.2mmのポリプロピレン製の絶縁板を挿入し、その上に電極巻回体3を、正極リード体15が上側を向く姿勢で挿入した。電極巻回体3の負極リード体16を外装缶2の内面に抵抗溶接し、正極リード体15は、絶縁板11を挿入した後に、端子板10の下面に抵抗溶接した。この時点で絶縁抵抗を測定し、短絡がないことを確認した。
【0073】
電解液には、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合溶媒(体積比で1:2)に、LiClOを0.5mol/lの濃度で溶解させた非水系の溶液を用意し、これを外装缶2内に3.5ml注入した。注入は3回に分け、最終工程で減圧しつつ全量を注入した。電解液の注入後、蓋板8を外装缶2の上方開口部に嵌合し、レーザー溶接により外装缶2の開口端部の内周部と蓋板8の外周部とを溶接して外装缶2の開口部を封口した。
【0074】
[後処理(予備放電、エージング)]
封口した電池を、1Ωの抵抗で30秒間予備放電し、70℃で6時間保管した後、1Ωの定抵抗で1分間、2次予備放電を行い、シート状負極のセパレータ側表面にリチウム−アルミニウム合金を形成させた。予備放電後の電池を、室温で7日間エージングし、開路電圧を測定して安定電圧が得られていることを確認して、外径:17.0mm、総高:45.0mmの非水電解液電池を得た。この非水電解液電池の負極容量と正極容量との比は、1.00であった。
【0075】
実施例2
シート状負極の作製において、使用した2枚のアルミニウム箔を、厚みが2μmのものに変更した他は、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0076】
実施例3
シート状負極の作製において、使用した2枚のアルミニウム箔を、厚みが15μmのものに変更した他は、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0077】
実施例4
シート状負極の作製において、使用した2枚のアルミニウム箔を、厚みが30μmのものに変更した他は、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0078】
実施例5
電極巻回体の作製時において、セパレータを負極に貼り付ける際に、微孔性フィルム面を正極側に変更した他は、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0079】
比較例1
シート状負極の作製において、2枚のアルミニウム箔を使用しなかった他は、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0080】
実施例1〜4および比較例1の非水電解液電池について、下記の放電容量測定、およびパルス放電特性評価を行った。結果を表1および表2に示す。
[放電容量]
各非水電解液電池について、23℃で、40mAの電流値で連続放電し、電池電圧が2.0Vになるまでの放電容量を測定した。なお、各電池の試料数は5個とし、その平均値を各実施例、比較例の電池の放電容量とした。
【0081】
[パルス放電特性]
各非水電解液電池について、−40℃で、所定の電流値で100msパルス放電した後の電圧を測定した。実施例1および比較例1の非水電解液電池については、放電させていないもの(未放電電池)と、理論容量の50%に当たる1300mAh分の電流を放電した後のもの(50%放電電池)について、パルス放電の電流値を100mA、300mAまたは500mAした。また、実施例2〜4の非水電解液電池については、理論容量の50%に当たる1300mAh分の電流を放電した後のものについて、パルス放電の電流値を300mAとした。
【0082】
また、実施例1〜4の非水電解液電池各100個について、電極巻回体作製時の不良発生数を調べた。ここでいう電極巻回体作製時の不良とは、巻回時に発生したアルミニウム箔の亀裂を意味している。結果を表1に併記する。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表1および表2に示すように、実施例1〜4の非水電解液電池は、放電容量が大きく、300mAで100msのパルス放電後における電圧も高く、良好なパルス放電特性を有している。なお、薄いアルミニウム箔を負極に用いた実施例2の非水電解液電池では、電極巻回体の作製時に若干の不良が生じているが、これよりも厚いアルミニウム箔を負極に用いた実施例1、3、4の各電池では、こうした電極巻回体の不良が発生していない。これに対して、アルミニウム箔を用いずに作製した負極を有する(すなわち、リチウム−アルミニウム合金を有していない)比較例1の非水電解液電池では、実施例の電池に比べて、パルス放電後の電圧が低く、パルス放電特性が劣っている。
【0086】
また、セパレータの微孔性フィルムを負極側に、不織布を正極側に配置した実施例1の非水電解液電池と、セパレータの微孔性フィルムを正極側に、不織布を負極側に配置した実施例5の非水電解液電池について、下記の振動試験を行った。
【0087】
振動試験は、次のようにして行った。上記の予備放電、エージングを経て安定電圧が得られている各非水電解液電池について開路電圧を測定した(これを、初期電圧とする)。これらの電池に、振動回数範囲10〜55Hz、片振幅0.5mmで1分間のサイクルをX方向、同様にY方向、Z方向にそれぞれ2時間の合計6時間の条件で振動を付加した後、再度開路電圧を測定し、該電圧が初期電圧よりも20mV以上低下しているものをソフトショート品と判定した。各電池の試料数は100個とし、そのうちのソフトショート品の個数を調べた。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
表3から分かるように、セパレータの微孔性フィルムを負極側に、不織布を正極側に配置した実施例1の非水電解液電池では、振動試験によってもソフトショートが生じていないのに対して、セパレータの微孔性フィルムを正極側に、不織布を負極側に配置した実施例5の非水電解液電池では、振動試験によりソフトショートが若干生じている。よって、電池の振動による電池特性の低下をより高度に抑制するには、実施例1の電池のようにセパレータを配置することが好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の非水電解液電池の一例を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の非水電解液電池の一例を示す横断平面図である。
【図3】図2の非水電解液電池に係る電極巻回体の要部断面図である。
【図4】本発明の非水電解液電池に係る電極巻回体の作製方法を説明するための図である。
【図5】本発明の非水電解液電池に係る電極巻回体の作製方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0091】
1 非水電解液電池
2 外装缶
3 電極巻回体
4 シート状正極
5 シート状負極
6 セパレータ
20、21 正極合剤シート
22 正極集電体
25 金属リチウム層
25a 金属リチウム箔−アルミニウム箔積層体
25b 金属リチウム箔
25c アルミニウム箔
26 負極集電体
28 微孔性フィルム
29 不織布
31 テープ
33 巻回芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状正極とシート状負極とをセパレータを介して巻回してなる電極巻回体を筒形の外装缶内に有する筒形の非水電解液電池であって、
上記シート状正極は、2枚の正極合剤シートが、集電体を介して積層されてなるものであり、かつ上記正極合剤シートが、1枚当たり、上記外装缶内径の4〜9%に相当する厚みを有しており、
上記シート状負極は、金属リチウム層と、該金属リチウム層の、セパレータを介して正極と対向する側の表面の少なくとも一部に、リチウム−アルミニウム合金を有していることを特徴とする筒形非水電解液電池。
【請求項2】
シート状負極におけるリチウム−アルミニウム合金は、金属リチウム層を形成するための金属リチウム箔の表面にアルミニウム箔を積層し、電池内で電気化学的に合金化することで形成したものである請求項1に記載の筒形非水電解液電池。
【請求項3】
シート状負極におけるリチウム−アルミニウム合金は、金属リチウム箔よりも幅の小さなアルミニウム箔を用いて形成したものである請求項2に記載の筒形非水電解液電池。
【請求項4】
セパレータは、微孔性フィルムと不織布とを構成要素として有しており、上記微孔性フィルムが負極と接するように配置され、上記不織布が正極と接するように配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の筒形非水電解液電池。
【請求項5】
正極合剤シートの空隙率が、35〜50%である請求項4に記載の筒形非水電解液電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−250414(P2007−250414A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74220(P2006−74220)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】