説明

筒状石英ガラス成形用型材及びそれを使用した成形方法

【課題】成形体の中央に形成される凹部の中心軸がずれないようにした石英ガラスの成形体を得る型材を提供する。
【解決手段】石英ガラス材16を加熱溶融して筒形のガラス製品の概形を成形する型材10において、ガイド部材20の外径を外筒14の内径よりも2mm〜10mm小さくして、ガイド部材20と外筒14の間に間隙を形成すると共に、ガイド部材20の厚さを30mm以上とすることによって局所的に高温となって石英ガラス材16の上面に傾斜が発生しても、ガイド部材20が外筒14の内壁面に引っ掛からないようにし、石英ガラス成形体16の中央に形成される凹部の中心軸がずれないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型材及び型材を用いた石英ガラス材料の成形方法に関し、更に詳細には、石英ガラス材料を加熱溶融しながら筒型の形状に成形する際に用いる型材及びその型材を用いた石英ガラス成形体の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石英ガラスは、光学レンズなどの光学機器に限らず、その耐久性や化学的安定性などの利点を生かし、半導体製造用治具、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)パネル製造用フォトマスクあるいは光通信用の精密部品などに広く用いられている。
【0003】
石英ガラス製品の製造は、エッチングや研削加工などのような、加工対象物から不要な領域を除去する除去工程を主に用いるプロセスが採用されていたが、エッチングプロセスは、加工対象物の表面の比較的微細な加工に限定され、得られる石英ガラス製品が限定されていた。
【0004】
そこで、特許文献1(特開2009−234858号公報)に示されるように、円筒状部材を成形するに当たり、石英ガラス材料を加熱溶融する際に、材料の中央部を押圧して中央部に凹部を有する最終石英ガラス製品の概形を成形する型材及び成形方法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−234858号公報
【0006】
その内容について簡単に説明すると、図1には石英ガラス材16が載置された型材10の概略構成が示されており、図2には図1のA−A断面図が示されており、図3には石英ガラス材16の加熱溶融後の石英ガラス材(成形体)と型材10のA−A断面図が示されている。
【0007】
この石英ガラス材16の成形に用いる型材10は、底板12と、この底板12の上面12aに配置される所望の内径を有する円筒形状の外筒14と、外筒14の内側中央に載置される下型52と、外筒14の内周面14a内を上下方向に摺動自在に移動可能なガイド部材20と、ガイド部材20の上面20aに載置される溶融された石英ガラス材16に荷重をかけて成形するための荷重板22と、ガイド部材20の下面20bに配置され、下型52の上面52aに載置された加工対象物の石英ガラス材16を上方から押圧する略円柱形上の押圧治具18で構成されている。外筒14は、円筒形の場合もあるが、円周方向に3〜4分割の部材を組立てて円筒形とする場合もある。
【0008】
下型52、石英ガラス材16、押圧治具18、ガイド部材20、及び荷重板22の中心軸は、外筒14の中心軸(X−X)上に位置するように配設される。また、これらの型材10の材料は熱的安定性、化学的安定性、加工性及びコストの面からカーボンが採用されており、更には、底板12の上面12a、外筒14の内周面14a、押圧治具18の下面18b、側面18c、下型52の上面52a、及び、側面52cには離型剤が被覆されている。
【0009】
この型材10を使用して石英ガラス材16を石英ガラス製品の概形に溶融成形するには、石英ガラス材16が載置された型材10を電気炉などの加熱装置(図示せず)を使用し、例えば、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下において、加熱温度1500℃ないし2000℃で加熱する。加熱された石英ガラス材16は、加熱溶融され、図3に示すように、外筒14の内径と同一寸法で上下面に凹部のある石英ガラス成形体として成形される。
【0010】
こうして成形された石英ガラス材16は、研削などの機械加工を経て所望の形状の石英ガラス製品となるのである。
【0011】
なお、上記の説明においては、下型52を使用して上下に凹部を形成する場合について説明したが、下型52を使用せずに上部にだけ凹部を形成する場合も同様な方法によって製造される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1に示す型材10を用いて石英ガラス材料16を溶融成形すると、成形体の上下面で凹部の中心軸がずれるという問題があった。中心軸のずれが大きくなると所望の形状の筒状体とするための加工代が大きくなり、加工時間の増大や材料のロスが多くなり、型材を使用するというメリットが減少する。更に中心軸のずれが大きくなると加工による修正が不可能となり、溶融成形した石英ガラス成形体が無駄になることがある。
【0013】
更に、分割型の外筒を使用する場合、使用回数が増加するに伴って変形し、外筒の部材を組立てて筒状とした外筒の内周円が変形し、外筒の内径と同一の外径のガイド部材を外筒内部に設置できなくなるという問題があった。
【0014】
凹部の中心軸がずれる原因を探求したところ、石英ガラス材16を加熱溶融する際、熱伝導が均一におこなわれないため、石英ガラス材16の溶融が局所的に始まり、石英ガラス材16の上面と底板との平行性が失われ、ガイド部材の外周側面が外筒の内面に引っ掛かって摺動が円滑におこなわれなくなり、傾くためであることが判明した。
【0015】
本発明は、ガイド部材が外筒の内壁面に引っ掛かることなくスムーズに摺動できるようにし、また、傾斜してもガイド部材が水平に復元することによって石英ガラス成形体の凹部の中心軸がずれないようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ガイド部材の外径を外筒の内径よりも2mm〜10mm小さくすると共に、ガイド部材の厚さを30mm以上とすることによって局所的に高温になって溶融が始まり、石英ガラス材の上面に傾斜が発生しても、ガイド部材が外筒の内壁面に引っ掛からないようにし、石英ガラス成形体の中央の凹部の中心軸がずれないようにしたものである。
【0017】
また、ガイド部材の外周にカーボン製のフェルト等の柔軟で変形し易い材料を巻きつけ、局所的に高温となって傾斜が発生しても、ガイド部材が外筒の内壁面に引っ掛からないようにし、石英ガラス成形体の中央の凹部の中心軸がずれないようにしたものである。
【0018】
ガイド部材の外径と外筒の内径の差が2mm未満であると、ガイド部材の厚さを薄くしなければならず、型材の繰り返し使用によって型材が変形し、ガイド部材が外筒に接触することがあり、また、ガイド部材が大きく変形した場合、外筒内に設置できなくなるので、ガイド部材の外径と外筒の内径の差を2mm以上としたものである。
【0019】
ガイド部材の外径と外筒の内径の差が10mmより大きいと、ガイド部材の遊びが大きすぎ、溶融成形の際に押圧治具と成形体の中心軸のずれが生じるので、材料の無駄が生じるだけでなく、中心軸のずれは溶融成形作業ごとに変化するので所望の形状の成形体を得ることができない場合がある。
【0020】
ガイド部材の厚さについては、厚さを大きくするとガイド部材の中心軸のずれが小さいうちにガイド部材の外周壁が外筒内面に接触してずれの矯正がなされるので、ガイド部材の厚さは30mm以上とするのが好ましい。ガイド部材の厚さは外筒の高さ、下型、石英ガラス材、加熱装置の大きさに応じて適宜定めることができる。厚さが大きくなると重量の増大によって作業性が低下するので、作業効率を考慮して厚さを定める。
【0021】
厚さが30mm未満の場合、ガイド部材の中心軸のずれが十分矯正されず、押圧治具と成形体の中心軸がずれたものとなり、成形体を所望の形状に加工する手間がかかり好ましくない。
【0022】
ガイド部材の外周側面にカーボン製のフェルトを巻きつけることによって、ガイド部材の外径を大きくすることができ、ガイド部材の厚さを薄くすることができる。このフェルトの厚さを変更することによってガイド部材を異なる直径の外筒にも使用することができる。また、フェルトは柔軟性を有しているので、ガイド部材の摺動性が高くなるという利点がある。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、石英ガラス材の溶融成形の際に用いる型材の構成要素であるガイド部材の外径を、外筒の内径より2mmないし10mm小さくすることにより、溶融成形の際のガイド部材の摺動がスムーズになり、所望とする形状の成形体を得る際の歩留まりが向上した。また、筒形の石英ガラス製品を製作する際において使用する石英ガラス材料の重量を低減し、これにより製造コストの低減を図ることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】型材の概略構成を説明する斜視図。
【図2】加熱溶融前の図1のA−A断面図。
【図3】加熱溶融後の図1のA−A断面図。
【符号の説明】
【0025】
10 型材
12 底板
12a 底板上面
14 外筒
14a 外筒内周面
16 石英ガラス材
18 押圧治具
18b 押圧治具下面
18c 押圧治具側面
20 ガイド部材
20a ガイド部材上面
20b ガイド部材下面
22 荷重板
52 下型
52a 下型上面
52c 下型側面
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン製の底板12の中央に目的に応じ外径200mm、高さ30mmの下型52を置き、その上に外径270mm、高さ170mmの石英ガラス材16を両者の中心軸を揃えて載置した上に中心軸を一致させて外径220mm、高さ150mmの押圧治具18とガイド部材20及び荷重板22を設置した。
【0027】
また、外筒14は3分割された内径420mm、厚さ30mm、高さ550mmのものを用いており、その中心軸が石英ガラス材16等のそれと一致するように組み上げた。
【0028】
溶融成形は、上記のようにして組み上げられた型材10を電気炉内に移し、窒素ガス雰囲気下で1900℃で2時間加熱することにより実施した。
冷却後、型材10から成形体を取出し、成形体と成形体の上下面の凹みの中心軸のずれを測定した。
【0029】
実施例及び比較例の試験結果が表1及び表2に示されている。ここで表1は、ガイド部材の外径を変えることにより間隙を変えると共にガイド部材の厚さを変えることによる成形体とその上下面の凹みの中心軸のずれの程度を調べた実施例についての試験結果である。
【0030】
また、表2は、上と同様にガイド部材の外径や厚みを変えたことによる比較例の中心軸のずれの程度を調べた試験結果である。
これらの試験において、表1及び表2に示されていない条件はすべて同じとした。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
この表1と表2の試験結果に示されているように、ガイドと外筒の間隙が5mm以下であり、かつガイドの厚さが30mm以上の場合は、成形体と成形体上下面の凹みの中心軸のずれが2mm以下であり、所望とする形状の筒状体とするための加工代が小さく、加工時間の増大や材料のロスが少ないことが判明した。
【0034】
ここで、表1の実施例7において、ガイド外径を(400+14)mmと表記しているが、これは外径400mmのガイドの外周に厚さ7mmのカーボン製のフェルトを巻いたためである。
また、表2の比較例5の中心軸のずれの欄が測定不能となっているが、これは押圧治具18が成形体に斜めに食い込んだために、成形体の上面の凹みの中心軸が決定できなかったためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス材料を加熱溶融して筒型形状の石英ガラス製品の概形成形する型材であって、底板と、前記底板と一方の開口部を接して前記底板上に配設される外筒と、前記外筒内を上下方向に摺動自在に移動可能なガイド部材と、前記ガイド部材の下面に配設されると共に、前記外筒内の底板上に載置される石英ガラス材料の上面を押圧する押圧治具と、前記押圧治具に荷重を付与する荷重板とを有する型材において、ガイド部材の外径が、外筒の内径よりも2mmないし10mm小さく、厚さが30mm以上であることを特徴とする石英ガラス成形用型材。
【請求項2】
石英ガラス材料を加熱溶融して筒型形状の石英ガラス製品の概形成形する型材であって、底板と、前記底板と一方の開口部を接して前記底板上に配設される外筒と、前記外筒内の前記底板上に配設される下型と、前記外筒の内周面上を上下方向に摺動自在に移動可能なガイド部材と、前記ガイド部材の下面に配設されるとともに、前記外筒内の前記下型上に載置される石英ガラス材料の上面を押圧する押圧治具と、前記押圧治具に荷重を付与する荷重板とを有する型材において、ガイド部材の外径が、外筒の内径よりも2mmないし10mm小さく、厚さが30mm以上であることを特徴とする石英ガラス成形用型材。
【請求項3】
請求項1または2において、ガイド部材の外周にカーボン製のフェルトを巻きつけて直径を調整した石英ガラス成形用型材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の石英ガラス成形用型材を用いて石英ガラス材を溶融して上面中央部、もしくは上下面中央部に凹部を有する石英ガラス成形体を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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