説明

筒状編成物の編成方法及び筒状編成物

【課題】 所望の部分を所望の緊締力に調整することが容易な筒状編成物の提供を目的とする。
【解決手段】 ダブルラッシェル編機によって編成される筒状編成物の編成方法において、少なくとも一つの弾性糸挿入筬を準備し、地筬によって編成された基布に前記弾性糸挿入筬によって弾性糸を編み込むに際し、ウェルを横断する方向に前記弾性糸を振るとともに、この振幅を部分的に変化させて、緊締力の異なる複数の緊締力付与部分を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルラッシェル編機によって編成される筒状編成物の編成方法に関し、特に、弾性糸を編み込んで部分的に異なる緊締力付与部分を形成した筒状編成物の編成方法及び筒状編成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツウエアや靴下、手袋などの筒状編成物では、テーピング効果やウオーミングアップ効果,疲労の軽減効果等を目的として、部分的に緊締力を高めて、筋肉あるいは筋肉の周りを適度に圧迫できるようにしたものがある。また、ストッキング等の下着においても、足のむくみ軽減や体型維持のために、各部分で緊締力を変化させたものが知られている(例えば、特許文献1,2)。
しかし、従来のこれら筒状編成物においては、特に高い緊締力を付与する部分は、当て布を縫製しており、縫製工程が増え、かつ、当て布の部分の通気性が悪くなるという問題がある。
【0003】
一方、ジャカード編によって部分的に編み目を変化させたり、弾性糸を編み込むことで、緊締力を部分的に変化させた製品も市販されてはいるが、ジャカード筬の機械的性質上、通すことのできる弾性糸の太さや弾性力には限界があった。例えば、弾性糸としてスパンテックスを用いた靴下では、概ね120デニール程度が限界で、かつ、最大でも15hPa程度の緊締力を付与するのが限界であった。
【0004】
また、従来の編成方法では、緊締力を部分ごとに大きく変化させつつ調整することは容易ではなかった。
例えば、特許文献1には、緊締力の大きい部分と小さい部分の差が、1.2〜3.0倍のものが開示されているが、従来の編成方法では概ねこの程度の緊締力の差を設けるのが限界であった。なお、緊締力を高めるには、繊維径が大きい弾性糸又は弾性力の大きい弾性糸を使用するか、多数本の弾性糸を基布に編み込むようにすればよいが、この場合も、一部の緊締力を大きくしようとすれば他の部分の緊締力も相対的に大きくなってしまい、結果としてそれほど大きな緊締力の差は得られず、2倍〜3倍程度が限界であった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−290625号公報
【特許文献2】特開2007−23427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、緊締力の異なる複数の部分を一体に編み込んでなる筒状編成物の編成方法であって、弾性力の大きい弾性糸を編み込むことで緊締力を大きくすることができ、かつ、緊締力の大小の差を数倍から10倍以上に大きくすることができるとともに、既存のダブルラッシェル編機を用いて低コストで実施することのできる筒状編成物の編成方法及び筒状編成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、ジャカード筬よりも剛性の高い他の筬を弾性糸挿入用の筬として利用することで、上記目的を達成できることに想到した。弾性糸挿入筬としては、既存の地筬や柄筬を用いることができる。そして、弾性糸の編組織を部分的に種々に変更することで、部分的に大きな緊締力の差を有する筒状編成物を得ることができた。
【0008】
具体的に請求項1に記載の発明は、ダブルラッシェル編機によって編成される筒状編成物の編成方法において、少なくとも一つの弾性糸挿入筬を準備し、地筬によって編成された基布に前記弾性糸挿入筬によって弾性糸を編み込むに際し、ウェルを横断する方向に前記弾性糸を振るとともに、この振幅と弾性糸密度とを部分的に変化させて、緊締力の異なる複数の緊締力付与部分を形成した編成方法である。
前記弾性糸挿入筬としては、請求項2に記載するように、前記ダブルラッシュル機に予め備えられた地筬及び/又は柄筬を用いることができる。
【0009】
また、本発明では、請求項3に記載するように、離間した二つの緊締力付与部分の間で、前記弾性糸の振幅を0にして、前記弾性糸による緊締力が実質的に0となる部分を形成することも可能である。緊締力0の緊締力付与部分では、弾性糸をジャンプさせるか、ウェルに沿って実質的に振幅0で弾性糸を編み込むとよい。
本発明で好適に用いることのできる弾性糸は、請求項4に記載するように、繊維径で120デニール以上420デニール以下のものである。又は、弾性糸をスパンテックスとした場合の前記の繊維径に対応した弾性力の範囲内のものである。
【0010】
本発明では、請求項5に記載するように、ジャカード機構を備えたダブルラッシェル編機を準備し、前記弾性糸挿入筬による弾性糸の組織の編成とは別に、ジャカード筬を用いて弾性糸の組織を編成するようにしてもよい。
このようにすることで、より変化に富んだ緊締力付与部分を筒状編成品に形成することができる。
本発明の筒状編成物は、上記の方法によって編成することができ、請求項6に記載するように、ダブルラッシェル編機によって編成される筒状編成物において、繊維径で140デニール以上420デニール以下の弾性糸を、各部の緊締力の最大差が三倍以上になるように、ウェル方向の振り幅を前記各部で変化させた構成としてある。
本発明の筒状編成物は、請求項7に記載するように、ジャカード筬を用いて編成した弾性糸の組織を含んでいてもよい。
さらに、本発明の筒状編成物の具体的な緊締力配置としては、請求項8に記載するように、前記弾性糸による緊締力が、最小部で8hpa、中間部で15hpa、最大部で29hpaのものを得ることができる。例えば、筒状編成物が靴下である場合は、ふくらはぎ部分を8hpa、足首部分を29hpa、足の甲部分を15hpaとした製品を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ジャカード筬よりも剛性の高い他の筬を弾性糸挿入筬として利用することで、繊維径の大きい弾性糸又は弾性力の大きい弾性糸を、既存のダブルラッシェル編機をほとんど改良することなく、種々の組織で編み込むことが可能になる。そのため、より大きい緊締力付与部分を簡単に編成することができるほか、部分的な緊締力の差が大きい筒状編成物を簡単かつ低コストで得ることができる。なお、本発明では、部分的に10倍以上の緊締力の差を有する筒状編成物も実現が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の筒状編成物の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、弾性糸を編み込んでなる筒状編成物の一実施形態にかかり、(a)は当該筒状編成物における緊締力付与部分の配置を示す前面図、(b)は、(a)の緊締力付与部分の配置にかかる弾性糸の編み込み形態の一例を示す図、図2は、(a)の緊締力付与部分の配置にかかる弾性糸の編成を説明する図、図3は本発明の編成方法に用いられるダブルラッセル経編機の基本構成を説明する主要部の概略図である。
【0013】
この実施形態の筒状編成物は、図1に示すような靴下1である。図1(a)に示すように、この靴下1では、足首部分(緊締力付与部分C1)を最も大きな緊締力で締め付け、次いで、足の甲部分(緊締力付与部分C2),ふくらはぎ部分(緊締力付与部分C3)の順で緊締力を順次小さくする。
図1(b)は、図1(a)の緊締力付与部分C1,C2,C3における弾性糸の編組織の一例を示す図である。図1(b)に示すように、緊締力付与部分C3では、弾性糸2のウェル方向の振幅を最小にして低密度で編み込んでいる。次に、緊締力付与部分C1では、弾性糸2をウェル方向の振幅を最大にして高密度で編み込んでいる。また、緊締力付与部分C2では、振幅最大の組織と振幅最小の組織を交互に組み合わせることで、弾性糸2の密度を緊締力付与部分C1よりも若干小さくしている。
【0014】
本発明で用いることのできる弾性糸としては、伸縮性に優れるポリウレタン系のもの(例えばスパンテックス)を用いることができる。弾性糸としてスパンテックスを用いる場合は繊維径120デニール以上420デニール以下のものを用いることができるが、靴下等の通常の筒状編成品で一般的に用いることができるのは、繊維径140デニール〜280デニールの範囲内のものである。また、スパンテックス以外の弾性糸を用いる場合は、弾性力において上記繊維径の範囲内のスパンテックスに対応する弾性力を有するものを用いるとよい。
【0015】
上記の弾性糸を周方向に一定間隔で複数本編み込むことで、例えば、緊締力付与部分C3(ふくらはぎ部分)で8hPa(従来は8hPa)、緊締力付与部分C1(足首部分)で29hPa(同15hPa)、緊締力付与部分C2(足の甲部分)で15hPa(同15hPa)の緊締力を得ることができる。これは、ふくらはぎ部分及び足の甲部分の緊締力を従来とほぼ同じに維持したまま、足首部分の緊締力だけをふくらはぎ部分の3.6倍以上に高めることができることを意味している。
【0016】
このような靴下1は、例えば、図2に示すような筬配置の経編機によって編成することができる。図2に示す経編機は、フロント側の三つの筬F1,F2,F3と、バック側の三つの筬B1,B2,B3と、前後二列のニードル13a,13bとを備えたジャカード機構付ダブルラッシェル経編機(このような構成を持つものとして、例えば日本マイヤー株式会社が市販している“RDPJ6/2”がある)である。
筬F2,B2は地筬で、この地筬F2,B2により、従来と同様に、図3(c)に示すような鎖編み状の組織が非弾性糸4で編成される。
筬F3,B3はジャカード筬で、このジャカード筬F3,B3により、従来と同様に、図3(b)に示すような組織が弾性糸又は非弾性糸3で編成される。
【0017】
繊維径420デニール以上の弾性糸は、残りの筬F1,B1によって編み込まれ、図3(a)に示すような組織がこの弾性糸2で編成される。すなわち、この実施形態では、筬F1,B1が弾性糸挿入筬を構成する。
弾性糸挿入筬F1,B1は、スパンテックスの繊維径で140デニール以上420デニール以下の(又はこれに対応する弾性力を有する)弾性糸2を通糸してもガイドが変形せず、かつ、多数本の弾性糸2を通糸してもその動きを損なわないものであればよく、既存の地筬を用いることができる。この実施形態では、弾性糸挿入筬F1,B1は地筬である。また、上記条件を満たすのであれば、柄筬も使用することができる。柄筬を用いることで、弾性糸による多様な柄を編成することができ、これによってより変化に富んだ締力付与部分を得ることができる。
【0018】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
例えば、図4に示すような組織では、緊締力大の部分と緊締力中の部分との間を、緊締力0の部分で連結している。緊締力0の部分では、ウェル方向の振幅を実質的に0として弾性糸を編み込んでもよいし、緊締力0の部分で弾性糸を編み込むことなくジャンプさせてもよい。この場合は、弾性糸のジャンプさせた部分を、後行程で切断・除去するとよい。
【0019】
また、本発明では、ジャカード筬によって従来と同様に弾性糸を編み込むようにしてもよい。ジャカード筬によって編み込まれた弾性糸と弾性糸挿入筬によって編み込まれた弾性糸との相乗効果により、より変化に富んだ緊締力付与部分を得ることができる。まや、各部分の緊締力調整も容易になる。
さらに、上記の説明ではジャカード機構付のダブルラッシェル編機を例に挙げたが、本発明においてジャカード機構は必ずしも必要ではなく、従って、ジャカード機構を備えないダブルラッシェル編機を使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、靴下やストッキングに限らず、シャツや手袋等の他の筒状編成物の編成にも広範に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】弾性糸を編み込んでなる筒状編成物の一実施形態にかかり、(a)は当該筒状編成物における緊締力付与部分の配置を説明する概略図、(b)は、(a)の緊締力付与部分における弾性糸の編組織の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の編成方法に用いられるダブルラッセル経編機の基本構成を説明する主要部の概略図である。
【図3】図2の経編機によって編成される組織図の一例にかかり、(a)は弾性糸挿入筬によって編成される組織、(b)はジャカード筬によって編成される組織、(c)は地筬によって編成される組織である。
【図4】弾性糸の組織の他の実施形態で、二つの緊締力付与部分の間に、緊締力0の部分を形成した組織の一例である。
【符号の説明】
【0022】
1 靴下(筒状編成物)
2 弾性糸
F1〜F3 前方側の筬
B1〜B3 後方側の筬
13a,13b ニードル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダブルラッシェル編機によって編成される筒状編成物の編成方法において、
少なくとも一つの弾性糸挿入筬を準備し、
地筬によって編成された基布に前記弾性糸挿入筬によって弾性糸を編み込むに際し、ウェルを横断する方向に前記弾性糸を振るとともに、この振幅と弾性糸密度とを部分的に変化させて、緊締力の異なる複数の緊締力付与部分を形成したこと、
を特徴とする筒状編成物の編成方法。
【請求項2】
前記弾性糸挿入筬が、前記ダブルラッシュル機に予め備えられた地筬及び/又は柄筬であることを特徴とする請求項1に記載の筒状編成物の編成方法。
【請求項3】
離間した二つの前記緊締力付与部分の間で前記弾性糸の振幅を0にして、前記弾性糸による緊締力が実質的0となる部分を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の筒状編成物の編成方法。
【請求項4】
前記弾性糸が、繊維径で140デニール以上420デニール以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の筒状編成物の編成方法。
【請求項5】
ジャカード機構を備えたダブルラッシェル編機を準備し、前記弾性糸挿入筬による弾性糸の組織の編成とは別に、ジャカード筬を用いて弾性糸の組織を編成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の筒状編成物の編成方法。
【請求項6】
ダブルラッシェル編機によって編成される筒状編成物において、繊維径で140デニール以上420デニール以下の弾性糸を、各部の緊締力の最大差が三倍以上になるように、ウェル方向の振り幅を前記各部で変化させたことを特徴とする筒状編成物。
【請求項7】
請求項6に記載の筒状編成物において、ジャカード筬を用いて編成した弾性糸の組織を少なくとも一部に含むことを特徴とする筒状編成物。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の筒状編成物において、前記弾性糸による緊締力が、最小部で8hpa、中間部で15hpa、最大部で29hpaであることを特徴とする筒状編成物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−102757(P2009−102757A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273350(P2007−273350)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(396021645)吉田産業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】