説明

筒状部材、転写装置、及び画像形成装置

【課題】線膨張率が異なる複数の層を含んで厚さ方向に積層された筒状部材を温度降下させて脱型した後の幅方向端部の変形を抑制することができる筒状部材、転写装置、及び画像形成装置を得る。
【解決手段】中間転写ベルト102は、可撓性を有し、線膨張率が異なる下層膜102Aと上層膜102Bが厚さ方向Dに積層されて筒状とされている。そして、線膨張率が最も大きい上層膜102Bには、周方向を長手方向とする溝103が形成されている。ここで、中間転写ベルト102を加熱後に温度降下させたとき、上層膜102Bに溝103が形成されているので、上層膜102Bを縮めさせようとする内部応力の伝達は、溝103によって遮断される。これにより、中間転写ベルト102の幅方向端部が上層膜102B側に変形するのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状部材、転写装置、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の無端ベルトは、ポリアミドイミド樹脂を溶媒に溶かした溶液を用いて遠心成形で成形されており、遠心成形後、脱型前に酸素遮断雰囲気下で乾燥される。そして、熱処理を行ったときの反り量が20mm以下に規定されている。
【0003】
特許文献2の半導電性ベルトは、ポリイミド系樹脂を主体とする外層と内層とを有し、線膨張係数は、内層の方が外層よりも大きくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−330539号公報
【特許文献2】特開2002−365927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、線膨張率が異なる複数の層を含んで厚さ方向に積層された筒状部材を温度降下させて脱型した後の幅方向端部の変形を抑制することができる筒状部材、転写装置、及び画像形成装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る筒状部材は、可撓性を有し、線膨張率が異なる複数の層を含んで厚さ方向に積層されて筒状とされ、線膨張率が最も大きい層の幅方向の端部に周方向を長手方向とする溝が形成されている。
【0007】
本発明の請求項2に係る筒状部材は、線膨張率が最も大きい層が最内層又は最外層とされ、前記溝が、前記最内層の表面又は前記最外層の表面に形成されている。
【0008】
本発明の請求項3に係る転写装置は、請求項1又は請求項2に記載の筒状部材と、現像剤像を保持する像保持体と前記筒状部材とが接触するように前記筒状部材を回転可能に支持する複数の回転部材と、前記筒状部材の内側に設けられ、電位差により前記像保持体の現像剤像を前記筒状部材の外周面に転写させる転写手段と、を有する。
【0009】
本発明の請求項4に係る画像形成装置は、前記像保持体に現像剤像を形成する現像剤像形成手段と、前記現像剤像形成手段で形成された前記像保持体の現像剤像を前記筒状部材に転写する請求項3に記載の転写装置と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明は、線膨張率が最も大きい層の幅方向の端部に周方向を長手方向とする溝が形成されていない構成に比べて、線膨張率が異なる複数の層を含んで厚さ方向に積層された筒状部材を温度降下させて脱型した後の幅方向端部の変形を抑制することができる。
【0011】
請求項2の発明は、溝の周縁部が他の層に拘束される構成に比べて、筒状部材の変形を抑制することができる。
【0012】
請求項3の発明は、線膨張率が最も大きい層の幅方向の端部に周方向を長手方向とする溝が形成されていない筒状部材を有する構成に比べて、筒状部材に転写された現像剤像の転写むらを抑制することができる。
【0013】
請求項4の発明は、線膨張率が最も大きい層の幅方向の端部に周方向を長手方向とする溝が形成されていない筒状部材を有する構成に比べて、画像濃度むらを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る画像形成ユニットの構成図である。
【図3】(A)本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの縦断面図である。(B)本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの端部の縦断面図である。
【図4】(A)本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの製造方法の一例として、円筒成形管の外周面にポリイミド溶液を塗布する状態を示す概略図である。(B)本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの端部に溝を形成した状態を示す縦断面図である。
【図5】(A)、(B)、(C)本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの成形、溝形成、及び脱型工程を示す説明図である。
【図6】(A)比較例の中間転写ベルトの端部に反りが生じた状態を示す模式図である。(B)本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの端部で反りが抑制された状態を示す模式図である。
【図7】(A)、(B)本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの平面度の測定方法を示す模式図である。
【図8】本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの変形例として、内側に溝を形成した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る筒状部材、転写装置、及び画像形成装置の一例について説明する。
【0016】
図1には、本実施形態の一例としての画像形成装置10が示されている。画像形成装置10は、カラー画像又は白黒画像を形成するものであり、正面視で左側に配置された第1処理部10Aと、第1処理部10Aと着脱可能とされ右側に配置された第2処理部10Bとを有している。第1処理部10A及び第2処理部10Bの筐体は、複数のフレーム材で構成されている。なお、以下の説明では、画像形成装置10の長さ方向(媒体の一例としての記録用紙Pの搬送方向である副走査方向)をX方向、装置の高さ方向をY方向、装置の奥行き方向(主走査方向)をZ方向ということとする。
【0017】
第1処理部10Aの上部には、第1特別色(V)、第2特別色(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各トナーを収容するトナーカートリッジ14V、14W、14Y、14M、14C、14KがX方向に沿って交換可能に設けられている。
【0018】
第1特別色(V)及び第2特別色(W)としては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック以外の色(透明を含む)から適宜選択される。また、以後の説明では、各構成部品について第1特別色(V)、第2特別色(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を区別する場合は、数字の後にV、W、Y、M、C、Kのいずれかの英字を付して説明し、第1特別色(V)、第2特別色(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を区別しない場合は、V、W、Y、M、C、Kを省略する。
【0019】
さらに、トナーカートリッジ14の下側には、各色のトナーに対応する6つの現像剤像形成手段の一例としての画像形成ユニット16が、各トナーカートリッジ14と対応するようにX方向に沿って設けられている。そして、画像形成ユニット16毎に設けられた露光装置40は、第2処理部10Bの上部に設けられた画像信号処理部13によって画像処理を施された画像データを受け取り、この画像データに応じて変調した光ビームLを後述の感光体18(図2参照)へ照射するように構成されている。
【0020】
図2に示すように、各画像形成ユニット16は、矢印R方向(図示の時計回り方向)に回転駆動される像保持体の一例としての感光体18を有している。各感光体18では、各露光装置40から光ビームLが照射されることにより静電潜像が形成されるようになっている。ここで、露光装置40は、光源(図示省略)から出射された光をポリゴンミラー43で主走査方向に走査すると共に、fθレンズ及び反射ミラーを含む複数の光学部品45によって感光体18の外周面に光ビームLを照射し、露光を行っている。
【0021】
各感光体18の周囲には、感光体18を帯電するコロナ放電方式(非接触帯電方式)のスコロトロン帯電器20と、露光装置40によって感光体18に形成された静電潜像を現像剤(トナー)で現像する現像装置22と、一次転写後の感光体18に残留する現像剤を除去するブレード24と、ブレード24による現像剤の除去後の感光体18に光を照射して除電を行う除電装置26とが設けられている。そして、スコロトロン帯電器20、現像装置22、ブレード24、及び除電装置26は、感光体18の表面と対向して、感光体18の回転方向の上流側から下流側へ向けてこの順番で配置されている。
【0022】
現像装置22は、トナーを含んだ現像剤Gを収容する現像剤収容部材22Aと、現像剤収容部材22Aに収容された現像剤Gを感光体18に供給する現像ロール22Bとを含んで構成されている。現像剤収容部材22Aは、トナー供給路(図示省略)を介してトナーカートリッジ14(図1参照)と接続されており、トナーカートリッジ14からトナーが供給されるようになっている。
【0023】
一方、図1に示すように、各画像形成ユニット16の下側には、転写装置の一例としての転写ユニット100が設けられている。転写ユニット100は、外周面が各感光体18の外周面と接触する筒状部材の一例としての中間転写ベルト102と、中間転写ベルト102を回転可能に支持する複数の回転部材の一例としての駆動ロール104、張力付与ロール106、対向ロール108、及び巻掛ロール110と、中間転写ベルト102の内側に設けられ、電位差により感光体18(図2参照)の現像剤像(トナー画像)を中間転写ベルト102の外周面に転写させる転写手段の一例としての一次転写ロール112とを含んで構成されている。
【0024】
駆動ロール104は、モータ(図示省略)で駆動されるようになっており、張力付与ロール106は、軸方向の両端部がバネ(図示省略)で付勢され、中間転写ベルト102に張力を付与している。また、対向ロール108は、中間転写ベルト102を挟んで後述する二次転写ロール62と対向する位置に回転可能に設けられており、巻掛ロール110は、中間転写ベルト102の移動方向(矢印A方向)に間隔をあけて回転可能に複数設けられている。そして、中間転写ベルト102は、駆動ロール104、張力付与ロール106、対向ロール108、及び複数の巻掛ロール110に巻き掛けられており、駆動ロール104により、矢印A方向(図示の反時計回り方向)に循環移動されるようになっている。
【0025】
図2に示すように、各一次転写ロール112は、中間転写ベルト102を挟んでそれぞれの各画像形成ユニット16の感光体18と対向配置されている。また、一次転写ロール112は、転写手段の一例としての給電ユニット114によって、トナー極性とは逆極性の転写バイアス電圧が印加されるようになっている。この構成により、感光体18に形成されたトナー画像が中間転写ベルト102に転写されるようになっている。
【0026】
図1に示すように、中間転写ベルト102を挟んで駆動ロール104の反対側には、中間転写ベルト102上の残留トナーや紙粉等を除去する除去装置46が設けられている。除去装置46は、ブレードを中間転写ベルト102の外周面に接触させた構成となっている。また、転写ユニット100の下方には、記録用紙Pが収容される用紙収容部48がX方向に沿って2個設けられている。
【0027】
各用紙収容部48は、第1処理部10AからZ方向手前側に引き出し自在とされている。また、各用紙収容部48の一端側(図1における右側)の上方には、各用紙収容部48から記録用紙Pを搬送経路60へ送り出す送出ロール52が設けられている。さらに、各用紙収容部48内には、記録用紙Pが載せられる底板50が設けられている。この底板50は、用紙収容部48が第1処理部10Aから引き出されると、制御手段(図示省略)の指示によって下降するようになっている。そして、底板50が下降することで、ユーザーが記録用紙Pを補充する空間が用紙収容部48内に形成される。
【0028】
一方、第1処理部10Aから引き出された用紙収容部48を第1処理部10Aに装着すると、底板50が制御手段の指示によって上昇するようになっている。そして、底板50が上昇することで、底板50に載せられた最上位の記録用紙Pと送出ロール52とが当るようになっている。また、記録用紙Pの搬送方向における送出ロール52よりも下流側(以下、単に「下流側」という場合がある)には、用紙収容部48から重なって送り出された記録用紙Pを1枚ずつに分離する分離ロール56が設けられている。分離ロール56の下流側には、記録用紙Pを搬送方向下流側に搬送する複数の搬送ロール54が設けられている。
【0029】
用紙収容部48と転写ユニット30との間に設けられている搬送経路60は、第1折返部60Aと第2折返部60Bとを有している。そして、用紙収容部48から送り出された記録用紙Pは、第1折返部60Aで図1における左側に折り返して搬送され、さらに、第2折返部60Bで図1における右側に折り返されて、二次転写ロール62と対向ロール108との間の転写位置Tへ搬送されるようになっている。
【0030】
二次転写ロール62は、給電部(図示省略)によって、トナー極性とは逆極性の転写バイアス電圧が印加されるようになっている。そして、中間転写ベルト102に多重転写(一次転写)された各色のトナー画像は、二次転写ロール62によって、搬送経路60に沿って搬送されてきた記録用紙Pに二次転写される構成となっている。
【0031】
また、搬送経路60の第2折返部60Bへ合流するようにして、第1処理部10Aの左側面から延びる予備経路66が設けられている。そして、第1処理部10Aの左側に隣接して配置される別の記録媒体収容部(図示省略)から送り出された記録用紙Pが、予備経路66を通って搬送経路60に入り込めるようになっている。
【0032】
一方、第1処理部10Aの搬送経路60における転写位置Tの下流側には、トナー画像が転写された記録用紙Pを第2処理部10Bに向けて搬送する複数の搬送ベルト70が設けられている。また、第2処理部10Bには、搬送ベルト70で搬送された記録用紙Pを下流側に搬送する搬送ベルト80が設けられている。
【0033】
複数の搬送ベルト70及び搬送ベルト80のそれぞれは、環状(筒状)に形成されており、一対の巻掛ロール72に巻き掛けられている。一対の巻掛ロール72は、記録用紙Pの搬送方向上流側と下流側とにそれぞれ配置されており、一方が回転駆動することにより、搬送ベルト70、搬送ベルト80を一方向(図1における時計回り方向)に循環移動させる。また、搬送ベルト80の下流側には、記録用紙Pの表面に転写された(画像形成された)トナー画像を記録用紙Pに熱と圧力の作用により定着させる定着ユニット82が設けられている。
【0034】
定着ユニット82は、搬送経路60の上側(記録用紙Pの画像形成面側)に配置された定着ベルト84と、搬送経路60を挟んで定着ベルト84に対して下側から接触するように配置された加圧ロール88と、を有している。そして、定着ベルト84と加圧ロール88との間には、記録用紙Pを加圧及び加熱してトナー画像を定着させる定着部Nが形成されている。
【0035】
定着ベルト84は、環状に形成されており、上下に配置された駆動ロール89及び従動ロール90に巻き掛けられている。駆動ロール89は、加圧ロール88に対して上側から対向しており、従動ロール90は、駆動ロール89よりも上側に配置されている。また、駆動ロール89及び従動ロール90は、それぞれに、ハロゲンヒータ等の加熱部が内蔵されている。これにより、定着ベルト84が加熱されるようになっている。
【0036】
定着ユニット82の下流側には、定着ユニット82から送り出された記録用紙Pを下流側へ搬送する搬送ベルト152が設けられている。搬送ベルト152は、搬送ベルト70と同様の構成となっている。また、搬送ベルト152の下流側には、定着ユニット82によって加熱された記録用紙Pを冷却する冷却ユニット160が設けられている。
【0037】
冷却ユニット160は、記録用紙Pの熱を吸収する吸収装置162と、記録用紙Pを吸収装置162に押し付ける押付装置164とを含んで構成されている。吸収装置162は、搬送経路60に対する一方側(図1における上側)に配置され、押付装置164は、他方側(図1における下側)に配置されている。
【0038】
吸収装置162は、記録用紙Pと接触し、記録用紙Pの熱を吸収する環状の吸収ベルト166を備えている。吸収ベルト166は、吸収ベルト166へ駆動力を伝達する駆動ロール170と、複数の巻掛ロール168とに巻き掛けられている。また、吸収ベルト166の内周側には、吸収ベルト166と面状に接触して吸収ベルト166が吸収した熱を放熱させるアルミニウム材料で形成されたヒートシンク172が設けられている。さらに、第2処理部10Bの裏側(図1の紙面奥側)には、ヒートシンク172の放熱により生じた熱気を外部へ排出させるためのファン174が設けられている。
【0039】
押付装置164は、記録用紙Pを吸収ベルト166へ押し付けながら記録用紙Pを搬送する環状の押付ベルト180を備えている。押付ベルト180は、複数の巻掛ロール182に巻き掛けられている。
【0040】
また、搬送経路60上で冷却ユニット160の下流側には、記録用紙Pを挟んで搬送し、記録用紙Pの湾曲(カール)を矯正する矯正装置190が設けられている。さらに、搬送経路60上で矯正装置190の下流側には、片面に画像が形成された記録用紙Pを第2処理部10Bの側面に取り付けられた排出部196に排出する排出ロール198が設けられている。一方、記録用紙Pの両面に画像を形成する場合は、矯正装置190から送出された記録用紙Pが、反転経路194に搬送されるようになっている。
【0041】
反転経路194には、搬送経路60から分岐する分岐パス194Aと、分岐パス194Aに沿って搬送される記録用紙Pを第1処理部10A側に向けて搬送する用紙搬送パス194Bと、用紙搬送パス194Bに沿って搬送される記録用紙Pを逆方向に向けて折返してスイッチバック搬送させて表裏を反転させる反転パス194Cが設けられている。この構成により、反転パス194Cでスイッチバック搬送された記録用紙Pは、第1処理部10Aに向けて搬送され、さらに、用紙収容部48の上方に設けられた搬送経路60に入り込み、転写位置Tへ再度送り込まれるようになっている。
【0042】
次に、画像形成装置10の画像形成工程について説明する。
【0043】
図1に示すように、まず、画像信号処理部13で画像処理が施された画像データが各露光装置40に送られる。そして、図2に示すように、各露光装置40では、画像データに応じて各光ビームLを出射して、スコロトロン帯電器20によって帯電した各感光体18の外周面に露光し、静電潜像が形成される。さらに、感光体18に形成された静電潜像は、現像装置22によって現像され、第1特別色(V)、第2特別色(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナー画像が形成される。
【0044】
続いて、図1に示すように、各画像形成ユニット16V、16W、16Y、16M、16C、16Kの感光体18(図2参照)に形成された各色のトナー画像は、6つの一次転写ロール36V、36W、36Y、36M、36C、36Kによって中間転写ベルト34に順次多重転写される。そして、中間転写ベルト34に多重転写された各色のトナー画像は、用紙収容部48から搬送されてきた記録用紙P上に二次転写ロール62によって二次転写される。さらに、トナー画像が転写された記録用紙Pは、搬送ベルト70によって第2処理部10Bの内部に設けられた定着ユニット82に向けて搬送される。
【0045】
続いて、定着ユニット82では、記録用紙P上の各色のトナー画像が加熱及び加圧されることで記録用紙Pに定着される。そして、トナー画像が定着された記録用紙Pは、冷却ユニット160を通過して冷却された後、矯正装置190に送り込まれ、記録用紙Pに生じた湾曲が矯正される。さらに、湾曲が矯正された記録用紙Pは、排出ロール198によって排出部196に排出される。
【0046】
一方、記録用紙Pの画像が形成されていない側の非画像面に画像を形成させる場合(両面印刷の場合)は、矯正装置190を通過した後に、記録用紙Pが、反転経路194で表裏を反転され、さらに用紙収容部48の上方に設けられた搬送経路60に送り込まれて、前述した手順で裏面にトナー画像が形成される。
【0047】
なお、本実施形態に係る画像形成装置10では、第1特別色及び第2特別色の画像を形成するための部品(画像形成ユニット16V、16W、露光装置40V、40W、トナーカートリッジ14V、14W、一次転写ロール36V、36W)は、ユーザーの選択により、追加部品として第1処理部10Aに装着又は離脱可能に構成されている。従って、画像形成装置10としては、第1特別色及び第2特別色の画像を形成するための部品を有さない構成、第1特別色及び第2特別色のうちいずれか1色の画像を形成するための部品のみを有する構成としてもよい。
【0048】
次に、中間転写ベルト102について説明する。
【0049】
図3(A)、(B)に示すように、中間転写ベルト102は、下層膜102A上に上層膜102Bが積層された2層構造の筒状体となっている。下層膜102Aは、内層であり、一例として、ポリイミド樹脂にカーボンブラックが添加されている。一方、上層膜102Bは、外層であり、一例として、ポリイミド樹脂にカーボンブラック及びフッ素系樹脂が添加されている。そして、フッ素樹脂が添加されていることで、上層膜102Bの線膨張率は、下層膜102Aの線膨張率よりも大きくなっている。また、上層膜102Bの幅方向Wの端部には、周方向rを長手方向とする複数の溝103が形成されている。なお、線膨張率の測定は、JIS K7197に準じて行われる。
【0050】
ここで、中間転写ベルト102の製造方法の一例として、ポリイミド樹脂(溶剤はn−メチル−2−ピロリドン)にカーボンブラック(スペシャルブラック4)を添加し、分散及び調液を行って塗液A(図4(A)参照)を得る。また、塗液Aにフッ素系樹脂(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン))を添加し、分散及び調液を行って塗液B(図4(A)参照)を得る。
【0051】
続いて、図4(A)に示すように、金型であるアルミ製のパイプ140(芯金)を周方向である矢印r方向に回転させた状態で、ノズル144をパイプ140の軸方向(矢印W方向に相当)に相対移動させながら、加圧装置146によって塗液Aを加圧すると共に、容器142からノズル144を通してパイプ140の外周面に塗液Aを流下させ、らせん状に塗布する。なお、パイプ140の外周面と対向する位置には、パイプ140との間隔が予め設定された間隔となるように塗布ブレード148が配置されている。ここで、パイプ140の外周面と塗布ブレード148の先端との間を塗液Aが通過することで、塗液Aの塗布厚さが調整されている。そして、塗液Aの塗布後、一例として、150℃で30分、パイプ140を回転しながら塗液Aを乾燥させる。
【0052】
続いて、乾燥によって得られた下層膜102A上に、塗液Aの塗布と同様の方法で塗液Bを塗布する。そして、一例として、150℃で30分、パイプ140を回転しながら塗液Bを乾燥させる。この乾燥後、一例として、315℃のオーブン(図示省略)に1時間入れて焼成してからパイプ140を取り出す。これにより、厚さ方向Dにおいて、下層膜102A上に上層膜102B(図3(A)参照)が積層されて筒状とされ、可撓性を有する中間転写ベルト102が、図5(A)に示すように形成される。
【0053】
続いて、パイプ140から中間転写ベルト102を脱型する前に、図4(B)に示すように、上層膜102Bの幅方向Wの両端部(それぞれ端から幅W1の範囲)の外周面にサンドペーパー149を接触させ、パイプ140を回転させて周方向(矢印r方向)に研磨する。これにより、図3(A)、(B)及び図5(B)に示すように、全体の幅がW3の中間転写ベルト102の両端部におけるそれぞれ幅W1の範囲において、周方向Rを長手方向とする複数の溝103が形成される。中間転写ベルト102の溝103が形成された部位は、他の部位に比べて表面が荒れており、薄肉部となっている。
【0054】
ここで、中間転写ベルト102において、記録用紙P(図1参照)と接触する範囲の幅はW2となっており、W3=2×W1+W2となっている。即ち、中間転写ベルト102の幅方向の研磨される範囲(2×W1)は、記録用紙Pと接触しない範囲となっている。なお、図4(B)では、一例として、サンドペーパー149の表面形状を、縦断面が三角形の複数の凸部149Aで構成された形状としており、中間転写ベルト102の溝103をV字状の溝で示している。また、複数の溝103の深さは、一例として、中間転写ベルト102の総膜厚dを100%として15%から25%までの深さとなっており、幅W1を40mmに設定している。なお、一例として、下層膜102Aの厚さを33μm、上層膜102Bの厚さを67μmとしており、全体の膜厚を100μmとしている。
【0055】
続いて、図5(C)に示すように、パイプ140から中間転写ベルト102を抜き取り、中間転写ベルト102が完成する。完成した中間転写ベルト102は、ラック(図示省略)に掛けられ、保管される。
【0056】
次に、比較例の中間転写ベルト105について説明する。
【0057】
図6(A)には、本実施形態との比較例として、中間転写ベルト105の断面が示されている。中間転写ベルト105は、中間転写ベルト102の外周に溝103(図3(B)参照)を形成していないものであり、塗液A、Bをパイプ140(図4(A)参照)の外周面に塗布して焼成するまでの製造方法は、本実施形態の中間転写ベルト102と同じ方法となっている。
【0058】
中間転写ベルト105において、ポリイミド樹脂にカーボンブラックが添加され、さらにフッ素樹脂が添加されて形成された上層膜102Bの線膨張率は、ポリイミド樹脂にカーボンブラックが添加された下層膜102Aの線膨張率に比べて大きくなっている。このため、製造時に加熱された中間転写ベルト105では、線膨張率が大きい上層膜102Bの方が下層膜102Aよりも膨張している。
【0059】
ここで、中間転写ベルト105を加熱後(焼成後)に温度降下させたとき、線膨張率が大きい上層膜102Bの方が下層膜102Aよりも幅方向に縮む。このため、中間転写ベルト105の端部は、脱型後(パイプ140から中間転写ベルト105を抜き取った後)に上層膜102B側に湾曲する。このようにして、比較例の中間転写ベルト105の端部には反りが生じる。なお、図6(A)において、中間転写ベルト105の端部の反り量は、下層膜102Aの下面を基準平面Mとして、基準平面Mから上方へ反った(離れた)距離Δh1で表している。
【0060】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0061】
図6(B)に示す中間転写ベルト102において、上層膜102Bの線膨張率は、フッ素樹脂が分散されているため、下層膜102Aの線膨張率に比べて大きくなっている(最も線膨張率が大きくなっている)。このため、製造時に加熱された中間転写ベルト102では、線膨張率が大きい上層膜102Bの方が下層膜102Aよりも膨張している。
【0062】
ここで、上層膜102Bには、幅方向Wと交差する周方向rを長手方向とする複数の溝103が形成されているので、上層膜102Bの軸方向(幅方向r)成分の剛性が弱くなっている。即ち、中間転写ベルト102を加熱後(焼成後)に温度降下させたとき、上層膜102Bを縮めさせようとする内部応力の伝達は、溝103によって遮断されるので、上層膜102Bの内部応力が緩和される。これにより、中間転写ベルト102の端部が上層膜102B側に湾曲(変形(カール))することが抑制され、中間転写ベルト102の端部の反り量はΔh2(<Δh1)となる。なお、図6(B)において、中間転写ベルト102の端部の反り量は、下層膜102Aの下面を基準平面Mとして、基準平面Mから上方へ反った(離れた)距離Δh2で表している。
【0063】
次に、本実施形態の中間転写ベルト102と比較例の中間転写ベルト105との差異を確認するために行った平面度測定について説明する。
【0064】
図7(A)に示すように、測定対象の中間転写ベルト102を2本の平行に配置された軸212A、212Bで張架し、中間転写ベルト102に対して規定の張力F(一例としてF=19.6N)を作用させた状態で停止させる。この状態で、張架している軸212Bと対になっている軸212Aの中心から距離L1(一例としてL1=200mm)の位置において、レーザ変位計214(キーエンス社製LK−030)を幅方向Wにスキャンさせる。
【0065】
これにより、中間転写ベルト102の外周面とレーザ変位計214との距離が測定され、図7(B)に示す幅方向Wにおける中間転写ベルト102の凹凸量が得られる。なお、平面度の測定は、中間転写ベルト102の周方向8箇所で行う。そして、幅方向Wの両端からそれぞれ15mmを除いた幅W4の範囲、又は全ての幅である幅W3の範囲について、得られた凹凸量の最大値Maxと最小値Minの差分Δhを平面度とする。また、同様の手順で、比較例の中間転写ベルト105(図6(A)参照)の平面度を測定する。
【0066】
ここで、本実施形態の中間転写ベルト102の平面度は0.25mmであり、比較例の中間転写ベルト105の平面度は0.61mmであった。これにより、本実施形態の中間転写ベルト102の方が、比較例の中間転写ベルト105よりも平面度が低い(反り量が小さく変形が抑制されている)ことが確認された。
【0067】
また、本実施形態の中間転写ベルト102は、図3(A)、(B)に示すように、線膨張率が最も大きい上層膜102Bが最外層に形成され、上層膜102Bの表面に溝103が形成されているので、溝103の周縁部が他の下層膜102Aに拘束されていない。このため、溝103が上層膜102Bの下層膜102A側に形成された構成(溝103の周縁部が下層膜102Aに拘束された構成)に比べて、中間転写ベルト102の変形が抑制される。そして、中間転写ベルト102を脱型してラックに掛けておいても変形が抑制されるので、中間転写ベルト102の端部の折れが抑制される。
【0068】
さらに、図2において、本実施形態の転写ユニット100では、中間転写ベルト102の幅方向両端部の変形が抑制されるため、中間転写ベルト102の幅方向における中間転写ベルト102と感光体18との距離のばらつきが小さくなる。これにより、給電ユニット114を用いて感光体18から中間転写ベルト102へトナー画像を転写したとき、中間転写ベルト102の幅方向で電界の強さのばらつきが小さくなるので、トナー画像の転写むらが抑制される。
【0069】
加えて、図1において、本実施形態の画像形成装置10では、転写ユニット100においてトナー画像の転写むらが抑制されるので、最終的に排出部196に排出された記録用紙Pのトナー画像の濃度むらが抑制される。
【0070】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0071】
図8(A)に示す内面塗布方式を用いて、図8(B)に示す筒状部材の一例としてのベルト部材202を形成してもよい。ベルト部材202は、下層膜202Bと上層膜202Aを有しており、下層膜202Bの方が上層膜202Aよりも線膨張率が大きいものとする。
【0072】
図8(A)に示すように、ベルト部材202の製造では、パイプ140を矢印R方向に回転させながら、一例として、前述の塗液Aを、容器204からノズル205を通して流下させる。このとき、加圧装置206によって塗液Aに吐出圧力が掛けられている。そして、パイプ140の内周面に塗液Aを塗布した後、乾燥させることで、図8(B)に示す上層膜202Aが形成される。
【0073】
続いて、同様の手順により上層膜202Aの内側に前述の塗液Bを塗布した後、乾燥させることで下層膜202Bが形成され、ベルト部材202が形成される。そして、ベルト部材202を焼成した後、複数の凸部208Aを有するサンドペーパー208を下層膜202Bに接触させた状態でパイプ140を回転させることにより、ベルト部材202の下層膜202Bに、周方向Rを長手方向とする複数の溝209が形成される。
【0074】
溝209は、ベルト部材202の幅方向Wと交差する方向に形成されているので、ベルト部材202の冷却時に、内部応力が蓄積されるが、この下層膜202Bを縮めさせようとする内部応力の伝達は、溝209によって遮断される。これにより、ベルト部材202の端部が下層膜202B側に湾曲(変形)することが抑制される。このように、ベルト部材202の内周面側に溝209を形成してもよい。
【0075】
また、変形例として、中間転写ベルト102、ベルト部材202の他に、定着ベルト84の両端部に溝を形成してもよい。これは、定着ユニット82において、熱源による加熱状態と、記録用紙P及びトナーによって熱が奪われる冷却状態とが繰り返し行われるため、定着ベルト84の両端部に変形が生じる場合があるからである。定着ベルト84の両端部の変形を抑制すれば、定着ベルト84の蛇行が抑制される。
【0076】
さらに、中間転写ベルト102やベルト部材202の層構成は、2層のものに限らず、3層以上の複数層であってもよい。3層以上の複数層の場合は、厚さ方向で最内周に位置している層の線膨張率と、最外周に位置している層の線膨張率とを比較して、線膨張率が大きい方の層の表面に溝を形成すればよい。
【0077】
加えて、溝103、209は、少なくとも中間転写ベルト102、ベルト部材202の周方向Rを長手方向とする溝が含まれていればよく、他に周方向Rと交差する斜め方向の溝が形成されていてもよい。また、溝の形状は、V字形に限らず、縦断面が半円形の曲面を有するや矩形状のものであってもよい。さらに、複数の溝103、209の形状及び深さは、全て同じでなくともよく、形状及び深さがそれぞれ異なっていてもよい。加えて、溝は、周方向に断続的に形成されるだけでなく、連続的に形成されていてもよい。
【0078】
また、パイプ140の材質として、アルミの他にニッケルやステンレス鋼を用いてもよい。さらに、パイプ140の外周面をクロムやニッケルでメッキしたり、フッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆してもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 画像形成装置
16 画像形成ユニット(現像剤像形成手段の一例)
18 感光体(像保持体の一例)
100 転写ユニット(転写装置の一例)
102 中間転写ベルト(筒状部材の一例)
103 溝
104 駆動ロール(回転部材の一例)
106 張力付与ロール(回転部材の一例)
108 対向ロール(回転部材の一例)
110 巻掛ロール(回転部材の一例)
112 一次転写ロール(転写手段の一例)
114 給電ユニット(転写手段の一例)
202 ベルト部材(筒状部材の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有し、線膨張率が異なる複数の層を含んで厚さ方向に積層されて筒状とされ、線膨張率が最も大きい層の幅方向の端部に周方向を長手方向とする溝が形成された筒状部材。
【請求項2】
線膨張率が最も大きい層が最内層又は最外層とされ、前記溝が、前記最内層の表面又は前記最外層の表面に形成されている請求項1に記載の筒状部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の筒状部材と、
現像剤像を保持する像保持体と前記筒状部材とが接触するように前記筒状部材を回転可能に支持する複数の回転部材と、
前記筒状部材の内側に設けられ、電位差により前記像保持体の現像剤像を前記筒状部材の外周面に転写させる転写手段と、
を有する転写装置。
【請求項4】
前記像保持体に現像剤像を形成する現像剤像形成手段と、
前記現像剤像形成手段で形成された前記像保持体の現像剤像を前記筒状部材に転写する請求項3に記載の転写装置と、
を有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−41121(P2013−41121A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178052(P2011−178052)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】