説明

筒状部材の製造方法および製造装置

【課題】筒状部材を構成する樹脂の材質によらず、筒状部材の寸法や物性を適切に制御することができる筒状部材の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂材料を、環状ダイスを介して筒状に押出して筒状押出物10を得る押出工程と、押出された筒状押出物10の内周面をマンドレル12の外周面に接触させて冷却する冷却工程と、を含む筒状部材の製造方法である。マンドレル12として、冷却媒体を循環させる冷却部13と、冷却部の外周に配置されたヒータ14と、ヒータの外周に配置された熱媒体層15と、を備えるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筒状部材の製造方法および製造装置(以下、単に「製造方法」および「製造装置」とも称する)に関し、詳しくは、樹脂材料からなるシームレス筒状部材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂材料からなるシームレス筒状部材の成形方法としては、インフレーション成形やデフレーション成形、ブロー成形などがある。これら成形方法により得られる筒状部材の寸法(周長)や物性は、成形後の筒状部材を、成形方法に応じて、マンドレルの内側または外側に接触させることによって、制御される。
【0003】
上記のうちデフレーション成形を用いる場合には、押出された高温状態の筒状部材を、マンドレルの外側に接触させて冷却し、収縮させることで、その寸法および物性の制御を行っている。この際、筒状部材の寸法および物性は、マンドレルの表面温度により制御されるので、マンドレルの表面温度を調節するために、マンドレル内には冷却媒体を循環させる必要がある。
【0004】
樹脂材料からなる筒状部材をマンドレルを用いて製造する技術としては、例えば、特許文献1に、溶融状態のチューブの内側面を90度Cに温度設定したマンドレルに接触させて急速に冷却する一方、260度Cに温度設定した外部加熱装置を用いて外側面を徐冷して内側面と外側面の結晶化度を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−63902号公報(段落[0055]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図2に、デフレーション成形を用いた従来のシームレス筒状部材の製造装置の構造を示す説明図を示す。図示するように、従来の製造装置においては、金型21から押出された筒状部材10をマンドレル22の外側に接触させて冷却するために、循環冷却水wが金型21を通ってマンドレル22内に入り、マンドレル22内を巡って、再度金型21に戻っていく構成となっている。
【0007】
しかしながら、図示するような構成の製造装置においてシームレス筒状部材を成型する場合、装置の構造上、マンドレル22に対し外部から動力ないし電源を供給することができず、冷却媒体が水であるために、マンドレル22の温度は、高温側については100℃程度までしか制御できない。筒状部材を構成する樹脂の種類によっては、特に、耐熱温度の高い、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックについては、マンドレル22の温度を100℃より高温に制御しなければ、耐久性や機械的強度などにおいて十分な物性が得られないものがあるため、問題となっていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、マンドレルの改良により上記問題を解消して、押出された筒状部材を、より広い温度範囲で冷却可能とすることで、筒状部材を構成する樹脂の材質によらず、筒状部材の寸法や物性を適切に制御することができる筒状部材の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、下記構成とすることにより上記課題が解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の筒状部材の製造方法は、樹脂材料を、環状ダイスを介して筒状に押出して筒状押出物を得る押出工程と、押出された筒状押出物の内周面をマンドレルの外周面に接触させて冷却する冷却工程と、を含む筒状部材の製造方法であって、
前記マンドレルとして、冷却媒体を循環させる冷却部と、該冷却部の外周に配置されたヒータと、該ヒータの外周に配置された水よりも沸点の高い熱媒体層と、を備えるものを用いることを特徴とするものである。本発明の製造方法においては、前記マンドレルの表面温度を、100℃以上に制御することができる。
【0011】
また、本発明の筒状部材の製造装置は、樹脂材料を筒状に押出すための環状ダイスを備える金型と、該環状ダイスから押出された筒状押出物の内周面に接触して該筒状押出物を冷却するマンドレルと、を備える筒状部材の製造装置であって、
前記マンドレルが、冷却媒体を循環させる冷却部と、該冷却部の外周に配置されたヒータと、該ヒータの外周に配置された水よりも沸点の高い熱媒体層と、を備えることを特徴とするものである。本発明の製造装置においては、前記マンドレルの表面温度を100℃以上に制御可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記構成としたことにより、押出された筒状部材を、より広い温度範囲で冷却することが可能となり、これにより、筒状部材を構成する樹脂の材質によらず、筒状部材の寸法や物性を適切に制御することができる筒状部材の製造方法および製造装置を実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の筒状部材の製造装置の一例の構造を示す説明図である。
【図2】従来の筒状部材の製造装置の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の筒状部材の製造装置の一例の構造を示す説明図を示す。図示するように、本発明の筒状部材の製造装置は、樹脂材料を筒状に押出すための環状ダイスを備える金型11と、環状ダイスから押出された筒状押出物10の内周面に接触して筒状押出物10を冷却するマンドレル12とを備えている。
【0015】
本発明の製造装置においては、マンドレル12が、冷却媒体wを循環させる冷却部13と、その外周に配置されたヒータ14と、さらにその外周に配置された熱媒体層15と、を備える点に特徴を有する。かかるマンドレル12においては、冷却媒体wを循環させる冷却部13の外周に熱媒体層15を配置して、ヒータ14により加熱する構造としたことで、冷却水の循環のみにより温度調節していた従来のマンドレルよりも広い温度領域で温度を調節することが可能となった。すなわち、低い温度領域については冷却媒体wのみで調節することができる一方、高い温度に設定したい場合には、ヒータ14により外側の熱媒体層15を加熱することで、マンドレル12の温度を均一に調節することができる。これにより、押出された筒状部材を、より広い温度範囲で、かつ、均一に冷却することができるので、筒状部材を構成する樹脂の材質によらず、筒状部材の寸法や物性を適切に制御することが可能となった。
【0016】
より具体的には、本発明においては、マンドレルのシリンダを、従来の1層式から2層式に変更して、内層側に冷却媒体を循環させる冷却部13を、外層側に熱媒体層15を、それぞれ配置し、さらに、電気的に温度を制御するためのヒータ14を、熱媒体層15の内周側に配置したものである。本発明の装置は、このような構成としたことで、外層側のシリンダのみの変更により、種々のサイズの筒状部材に容易に対応可能であるとのメリットも有する。なお、図中の符号16は、ヒータ電源を示す。
【0017】
本発明において用いる冷却媒体wとしては、従来と同様の冷却水を好適に用いることができる。本発明の製造装置においては、構造上、冷却媒体wは金型11を通じてマンドレル12内に導入、排出される。金型11内は、押出時には通常300℃以上の高温となるので、媒体として油などを通過させると、漏出による引火などが懸念され、安全性に問題が生ずるが、冷却媒体wとして水を用いることで、このような問題の発生を避け、高い安全性を確保することができる。
【0018】
また、本発明において熱媒体層15に用いる熱媒体としては、水よりも沸点の高いもの(水を除く、沸点100℃以上のもの)を用いることが必要であり、好適には、常圧使用温度範囲が0〜320℃程度のものを用いる。かかる熱媒体としては、具体的には、汎用の媒体油を用いることができ、市販品としては、例えば、松村石油(株)製のバーレルサームシリーズなどが挙げられる。本発明において熱媒体はマンドレル12内に封入して用いられるので、上記冷却媒体wの場合のような循環使用に伴う高熱化の危険がない。よって、熱媒体として媒体油を用いても、安全性を損なうことがない。
【0019】
本発明の製造装置においては、上記のような構成としたことで、マンドレル12の表面温度を、従来の製造装置では達成できなかった100℃以上に制御することが可能となり、低温度領域については冷却部13のみによって、また、高温度領域については冷却部13と熱媒体層15との併用によって、マンドレル12の表面温度を、例えば、30〜200℃の範囲で調整することができるものとなる。よって、従来よりも幅広い様々な樹脂、具体的には例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)等を用いた筒状部材の製造に対応することが可能となる。
【0020】
次に、本発明の製造装置を用いた筒状部材の製造方法について説明する。
本発明においては、まず、所望の物性に対応する配合からなる樹脂材料を、金型11に設けられた環状ダイスを介して筒状に溶融押出しすることにより、筒状押出物10を得る(押出工程)。押出された筒状押出物10は、外気により徐冷されて収縮しながらマンドレル12方向に送られて、その内周面でマンドレル12の外周面に接触して冷却され、これにより、筒状押出物10の周長および物性の制御が行われる(冷却工程)。
【0021】
本発明の製造方法においては、筒状押出物10の冷却に際して本発明に係る上記マンドレル12を用いることで、筒状押出物10を構成する樹脂材料の種類に応じた幅広い温度範囲で筒状押出物10の冷却を行うことができる。具体的には、低い温度としたい場合には内層側の冷却媒体wを循環させ、より高い温度に昇温したい場合には外層側の熱媒体層をヒータを介して電気制御により加熱することで、筒状押出物10を適切な温度で均一に冷却することが可能となる。
【0022】
本発明の製造方法および製造装置においては、筒状押出物の冷却に上記構造のマンドレルを用いた点のみが重要であり、これにより本発明の所期の効果を得ることができるものである。本発明においては、樹脂材料の押出しに用いる金型の具体的構造や樹脂材料の具体的配合、押出条件の他、押出工程および冷却工程以外の筒状部材の製造工程等については、常法に従い適宜実施することができ、特に制限されるものではない。
【0023】
本発明が適用される筒状部材とは、樹脂材料からなるシームレス筒状部材であれば、いかなるものであってもよく、具体的には例えば、各種OA機器において使用される感光体ベルトや転写、搬送用のエンドレスベルト、各種樹脂パイプ等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0024】
10 筒状押出物
11,21 金型
12,22 マンドレル
13 冷却部
14 ヒータ
15 熱媒体層
16 ヒータ電源
w 冷却媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を、環状ダイスを介して筒状に押出して筒状押出物を得る押出工程と、押出された筒状押出物の内周面をマンドレルの外周面に接触させて冷却する冷却工程と、を含む筒状部材の製造方法であって、
前記マンドレルとして、冷却媒体を循環させる冷却部と、該冷却部の外周に配置されたヒータと、該ヒータの外周に配置された水よりも沸点の高い熱媒体層と、を備えるものを用いることを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項2】
前記マンドレルの表面温度を100℃以上に制御する請求項1記載の筒状部材の製造方法。
【請求項3】
樹脂材料を筒状に押出すための環状ダイスを備える金型と、該環状ダイスから押出された筒状押出物の内周面に接触して該筒状押出物を冷却するマンドレルと、を備える筒状部材の製造装置であって、
前記マンドレルが、冷却媒体を循環させる冷却部と、該冷却部の外周に配置されたヒータと、該ヒータの外周に配置された水よりも沸点の高い熱媒体層と、を備えることを特徴とする筒状部材の製造装置。
【請求項4】
前記マンドレルの表面温度が100℃以上に制御可能である請求項3記載の筒状部材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−52653(P2013−52653A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194031(P2011−194031)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】