説明

箔圧延機におけるロールクーラントの制御方法及び制御装置

【課題】種々の圧延条件下においても、安定した圧延材の形状制御を行ない、板形状を目標形状に制御し得るロールクーラント制御方法を提供すること。
【解決手段】箔圧延機1のワークロール2a,2bにて箔圧延される圧延材3の圧延後の板形状を、形状検出器4にて板幅方向の所定の単位幅(ゾーン)毎に検出し、その検出形状が目標形状より伸び方向の場合に、当該伸び検出ゾーンに対応するクーラント噴射装置5a,5bのノズル6からワークロール2a,2bに対してクーラントを噴射せしめる第一の制御パラメータと、検出形状が目標形状より張り方向の場合に、当該張り検出ゾーンに対応する前記ノズル6からクーラントを噴射せしめる第二の制御パラメータとを予め設定し、圧延条件に応じて形状検出器4の検出形状に基づいて、第一及び第二の制御パラメータのうちの何れか一方を選択して、クーラントの噴射を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の圧延材を箔圧延する箔圧延機に係り、特に、箔圧延機における圧延ロールへのクーラントの噴射を制御することによって圧延材の形状制御を行なう、所謂ロールクーラント制御方法及び制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、上下のワークロール間に圧延材を通して圧延する圧延機において、特に、板厚が極めて薄い箔圧延を行なう際には、製品品質の確保や箔切れ防止など、操業安定性を高めるためにも、形状制御が極めて重要となっている。しかしながら、そのような箔圧延においては、形成される板厚(箔厚)が薄いため、圧延の際に上下のワークロール同士が接触した状態(ワークロールキスと言う)となることが多く、油圧ベンダ等によってワークロールの撓み状態をコントロールし、圧延材の形状を機械的に制御する方法では、本来の機能を発揮させることが困難なために、充分な形状制御をすることが出来ないものであった。
【0003】
そこで、そのような機械的制御に代わって、ワークロールの熱膨張を利用して形状制御を行なうロールクーラント制御が、行なわれてきている。このロールクーラント制御は、圧延を行なうワークロールに対してクーラント(冷却媒体)の吹き付けを制御することによって、ワークロールの熱膨張を調整するようにしたものである。即ち、形状検出器によって圧延材の幅方向の形状を検出し、その検出した形状偏差に応じて、形状検出器で検出した部位に対応するクーラントの噴射量を決定して、ワークロールの熱膨張によるロール径方向の変化を制御し、以て、圧延材の板形状を制御するのである。そして、このようなロールクーラント制御によれば、機械的制御では修正の難しい、局所的な伸びや張りの形状修正能力があり、ワークロールキス状態においても良好な形状修正能力があるところから、箔圧延において好適に採用されているのである。
【0004】
このように、ワークロールへ噴射されるクーラントは、形状制御アクチュエータとして大変有効となるものであるのであるが、ワークロールの熱膨張による形状への影響については、一般に、箔端部(板端部)で急峻な形状変動が発生し易くなるために、ロールクーラント制御も不安定になり易いという問題を内在するものであった。そこで、そのような箔端部におけるロールクーラント制御の改善を図るべく、従来より各種の方法が、提案されてきている。
【0005】
例えば、特公平3−033042号公報(特許文献1)においては、クーラントノズル毎に流量ゲインを設定出来るようにし、ワークロール内の軸方向熱流が大きい端部から、一定範囲内のクーラントノズルの流量ゲインを大きく設定し、それ以外のクーラントノズルでは流量ゲインを小さく設定することが可能とし、更に、上記板端部のノズルに温度の低い副系統を追加し、高温クーラントと低温クーラントを切り替えることにより、さらに冷却能力の範囲を広げることも可能にした、形状制御装置におけるロールクーラント制御方法が、明らかにされている。
【0006】
また、特許第2544003号公報(特許文献2)においては、ワークロールの圧延領域内であって、その所定幅に亘る両端部を除いた領域にワークロールの温度より低い温度に設定したクーラントを噴射せしめる一方、前記両端部と、これに隣接するワークロールの非圧延領域であって前記両端部に隣接する所定幅に亘る領域を除いた領域とに、ワークロールの温度よりも高い温度に設定したクーラントを噴射せしめるようにした圧延薄板の形状制御方法が、明らかにされている。
【0007】
このような制御方法によれば、板端部においても安定したワークロールの熱膨張の制御が可能となるため、箔端部における急峻な形状変動を抑制し、箔破断等の問題が発生する恐れを効果的に回避することが出来るのである。
【0008】
ところが、このような従来のロールクーラント制御においては、ノズルのクーラント噴射量を変化させたり、低温クーラントや高温クーラントをそれぞれ使い分けたりすることで、ワークロールの熱膨張量をコントロールするものであるが、本発明者らが、箔圧延機において、種々の調査検討を行なったところ、ある圧延条件においては、クーラント温度の高低に係わらず、クーラントを噴射することで、形状が常に伸び方向となるような場合があることが確認されたのである。
【0009】
このため、かかるクーラント温度の高低に係わらず、クーラントを噴射することで形状が常に伸び方向となるような圧延条件下においては、従来と同様なクーラント制御の考え方では、目標形状に対して板形状が伸び側となっている部分がある場合に、該当するワークロール部分に、ワークロール温度よりも低い温度のクーラントを噴射して熱膨張を抑制することで、板形状を張り側に変化させようとしても、結果として、板形状がさらに伸び側へと、逆側に変化してしまうこととなり、形状偏差を更に悪化させてしまうという問題が惹起されることとなる。
【0010】
【特許文献1】特公平3−033042号公報
【特許文献2】特許第2544003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、種々の異なる圧延条件下においても、安定した圧延材の形状制御を行ない、板形状(箔形状)を目標形状に制御することを可能とするロールクーラント制御方法及びそのための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明にあっては、上記した課題を解決するために、板状の圧延材を箔圧延する箔圧延機における圧延ロールの幅方向に複数のクーラント噴射ノズルを配置する一方、該圧延ロール出側において圧延材の幅方向に設定された複数のゾーンにおける板形状を形状検出器にて検出し、それら複数のゾーンにおける検出形状に基づいて、前記複数のノズルから前記圧延ロールへのクーラントの噴射を制御することによって圧延材の形状制御を行なうに際して、前記複数のゾーンにおける前記形状検出器による検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合に当該伸び検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第一の制御パラメータと、該検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合に当該張り検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第二の制御パラメータとを予め設定し、前記圧延ロールによる圧延条件に応じて前記形状検出器にて検出される板形状に基づいて、該第一及び第二の制御パラメータのうちの何れか一方を選択して、板幅内の全ノズルからのクーラントの噴射を制御するようにしたことを特徴とする箔圧延機におけるロールクーラントの制御方法を、その要旨とするものである。
【0013】
これにより、通常のクーラント噴射方法によって板形状(箔形状)を目標形状に制御することが可能な場合には、検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための第一の制御パラメータに、また、クーラント温度の高低によらず、クーラントを噴射することで形状が常に伸び方向となるような圧延条件の場合には、前記検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための第二の制御パラメータに切り替えて制御することにより、箔材の材質や目標厚さ、板幅、圧延速度、圧下率等といった種々の異なる圧延条件においても、箔形状を目標形状に制御することが可能となる。
【0014】
なお、かかる本発明に従う箔圧延機におけるロールクーラントの制御方法の望ましい態様の一つによれば、前記第一の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いと、前記第二の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いとを比較し、かかる形状偏差の度合いの小さい方の制御パラメータを選択して、前記箔圧延機により圧延材を箔圧延するようにされることとなる。
【0015】
これにより、例えば、クーラント温度の高低によらず、クーラントを噴射することで形状が常に伸び方向となるような圧延条件が明確でない場合においても、圧延中に、前記検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための第一の制御パラメータで制御を実施した際の板幅内における実際の形状偏差の度合いと、前記検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための第二の制御パラメータで制御を実施した際の板幅内における実際の形状偏差の度合いとを比較することによって、板幅内の全ノズルを一括して、前記形状偏差の度合いの小さい方の制御パラメータに切り替えてクーラント制御を実施することが出来、以て、実際の形状偏差の挙動に応じて、より適切なクーラント制御を行なうことが可能となる。
【0016】
また、本発明にあっては、板状の圧延材を箔圧延する箔圧延機における圧延ロールの幅方向に複数のクーラント噴射ノズルを配置する一方、該圧延ロール出側において圧延材の幅方向に設定された複数のゾーンにおける板形状を形状検出器にて検出し、それら複数のゾーンにおける検出形状に基づいて、前記複数のノズルから前記圧延ロールへのクーラントの噴射を制御することによって圧延材の形状制御を行なうための装置にして、前記複数のゾーンにおける前記形状検出器による検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合に当該伸び検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第一の制御パラメータを設定する第一の設定手段と、前記複数のゾーンにおける前記形状検出器による検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合に当該張り検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第二の制御パラメータを設定する第二の設定手段と、前記圧延ロールによる圧延条件に応じて前記形状検出器にて検出される板形状に基づいて、該第一及び第二の制御パラメータのうちの何れか一方を選択して、板幅内の全ノズルからのクーラントの噴射を制御する選択手段と、を有していることを特徴とする箔圧延機におけるロールクーラントの制御装置をも、その要旨とするものである。
【0017】
これにより、通常のクーラント噴射方法によって箔形状を目標形状に制御することが可能な場合には、検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための制御パラメータに切り替えて、または上述のようなクーラント温度の高低によらずクーラントを噴射することで形状が常に伸び方向となるような圧延条件の場合には、前記検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための制御パラメータに切り替えて制御することが出来、その切り替えについては、予め設定した圧延条件に応じて、又は第一の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いと、第二の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いとを比較することで得られる形状偏差の挙動に応じて、又は作業者の判断によって手動操作によって行なうことが出来るため、種々の圧延条件下においても、箔形状を目標形状へと有利に制御することが可能となる。
【0018】
さらに、そのような本発明に従う箔圧延機におけるロールクーラントの制御装置の望ましい態様の一つによれば、前記選択手段は、前記第一の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いと、前記第二の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いとを比較する機能を有し、かかる形状偏差の度合いの小さい方の制御パラメータを選択して、前記箔圧延機により圧延材が箔圧延されることとなる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明によれば、圧延条件に応じて形状検出器にて検出される板形状に基づいて、その形状検出器による検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合にクーラントを噴射せしめる第一の制御パラメータと、張り方向となっている場合にクーラントを噴射せしめる第二の制御パラメータの何れか一方を選択して、圧延ロールの幅方向に配置された複数のノズルのそれぞれからのクーラントの噴射を制御するようにしているところから、各種の圧延条件においても、板形状(箔形状)を容易に目標形状に制御することが可能となる。
【0020】
すなわち、クーラント温度の高低に係わらず、クーラントを噴射することで形状が常に伸び方向となるような圧延条件が存在するような場合においても、制御パラメータの切替によって、箔形状を目標形状に制御することが可能となり、形状制御精度を向上せしめることが出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0022】
先ず、図1には、本発明に従う箔圧延機におけるロールクーラントの制御方式を採用した箔圧延工程の一実施形態が、概略的に示されている。そこにおいて、箔圧延機1は、上ワークロール2aと下ワークロール2bの2つの圧延ロールからなる一般的なシングルスタンド形式の2段圧延機であって、それら上ワークロール2aと下ワークロール2bによって、圧延材3を箔圧延するようになっている。ここで、箔圧延とは、一般に、圧延材を100μm以下程度の厚さに圧延することを意味しているが、中でも、本発明の制御方式にあっては、30μm以下の特に薄い箔厚において、好適に採用されることとなる。また、圧延材3としては、各種の金属材料が対象とされ得るのであるが、好ましくは、アルミニウムやアルミニウム合金の薄箔圧延において、本発明が有利に適用される。
【0023】
そして、上ワークロール2aと下ワークロール2bによって箔圧延された圧延材3の形状が、箔圧延機1の出側において、形状検出器4によって検出されるようになっているのである。なお、この形状検出器4は、板幅方向に所定の単位幅をもって直接的に測定し得る公知のものであって、箔圧延される圧延材3の幅方向を所定の単位幅(ゾーン)の複数に分割して、それぞれのゾーンにおける板形状(張力)を検出するようになっている。
【0024】
また、上ワークロール2aと下ワークロール2bに対して圧延材3の入側となる方向には、それら上下のワークロール2a,2bに対して冷却媒体(クーラント)をそれぞれ吹き付けるクーラント噴射装置5a,5bが、圧延材3を挟んで上下方向に配置されている。即ち、上ワークロール2aに対してはクーラント噴射装置5aが、また下ワークロール2bに対してはクーラント噴射装置5bが、それぞれ1組ずつ配置されているのである。そして、それらクーラント噴射装置5a,5bには、それぞれに、複数のノズル6が、圧延材3の幅方向の所定間隔毎に、一般に、形状検出器4にて検出される圧延材3の幅方向の単位幅(ゾーン)と同様な間隔にて対応して設けられており、それら複数のノズル6から、上ワークロール2aと下ワークロール2bに対してクーラントが噴射されるようになっている。なお、それぞれのクーラント噴射装置5a,5bにおける各ノズル6は、それぞれに付設されたバルブ(図示せず)によって、クーラントの噴射が独立して制御されるようになっている。
【0025】
さらに、それらクーラント噴射装置5a,5bの各ノズル6からのクーラントの噴射は、前記形状検出器4による各ゾーンの板形状検出情報に基づいて、ロールクーラント制御装置10にて制御されるようになっている。即ち、このロールクーラント制御装置10は、形状検出器4による圧延材3の前記した複数のゾーンのそれぞれにおける検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合に当該伸び検出ゾーンに対応するノズル6からワークロール2a,2bに対してクーラントを噴射せしめる第一の制御パラメータを予め設定する第一の設定手段7と、かかる検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合に当該張り検出ゾーンに対応するノズル6からクーラントを噴射せしめる第二の制御パラメータを予め設定する第二の設定手段8と、それら設定手段7,8にて設定される制御パラメータのうちの何れか一方を、圧延される圧延材3の圧延条件と形状検出器4にて検出される板形状に基づいて選択する、選択手段であるパラメータ切替手段9とを含んで構成されているのである。
【0026】
そして、かかるロールクーラント制御装置10において選択される制御パラメータに従って、上下のワークロール2a,2bに対するクーラント噴射装置5a,5bの各ノズル6におけるクーラントの噴射が、クーラント制御器11によって一括して制御されるようになっている。即ち、第一の制御パラメータが選択された場合においては、それに対応した信号がクーラント制御器11からクーラント噴射装置5a,5bに出力され、そして各ノズル6に設けられたバルブの開閉や開度が制御されることによって、形状検出器4にて伸び方向となっていることが検出された伸び検出ゾーンに対応するクーラント噴射装置5a,5bのノズル6のみから、クーラントの噴射が行なわれるようになっているのである。また、第二の制御パラメータが選択された場合には、それに対応した信号がクーラント制御器11からクーラント噴射装置5a,5bに出力され、そして各ノズル6に設けられたバルブの開閉や開度が制御されることによって、上記とは逆に、形状検出器4にて張り方向となっていることが検出された張り検出ゾーンに対応するクーラント噴射装置5a,5bのノズル6のみから、クーラントの噴射が行なわれることとなる。
【0027】
なお、ここにおいて、制御パラメータとは、クーラント噴射装置5a,5bの各ノズル6から上下のワークロール2a,2bに対してクーラントを噴射した際に、それらワークロールによって箔圧延される圧延材3の圧延後の板形状が、どの程度変化するかの度合いを表す値であって、第一の制御パラメータと第二の制御パラメータとは、互いに符号が異なる値となっている。即ち、板形状が伸び方向となっている場合と、板形状が張り方向になっている場合とでは、クーラントの噴射による板形状の変化が逆方向となるために、第一の制御パラメータと第二の制御パラメータとは、符号が逆となる値となるのである。
【0028】
また、ここでは、パラメータ切替手段9による第一の制御パラメータと第二の制御パラメータの切り替えは、圧延中の任意時間内に、一般に圧延開始当初に、クーラント噴射装置5a,5bの各ノズル6位置に対応するゾーン(幅方向の所定の単位幅)における形状検出器4の検出形状が、目標形状に対して伸び方向となっている場合に、第一の制御パラメータでクーラント噴射の制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いと、圧延中の任意時間内の前記検出形状が、目標形状に対して張り方向となっている場合に、第二の制御パラメータでクーラント噴射の制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いとを比較して、かかる形状偏差の度合いの小さい方の制御パラメータに、板幅内の全てのノズル6のそれぞれに対して、自動的に切り替えを行う方法と、予め設定された圧延条件に応じて、蓄積された過去の制御パラメータの選択の経緯より、自動的に板幅内の全てのノズル6のそれぞれに対する制御パラメータの切り替えを行なう方法と、圧延条件に応じた制御パラメータの選択の経緯から、作業者の判断によって、板幅内の全てのノズル6のそれぞれに対する制御パラメータの切り替えを行なう方法のうちの何れか一つが選択され得るようになっている。
【0029】
さらに、圧延中においては、形状検出器4から検出される圧延材3の板幅方向における各ゾーンの形状と、各ゾーンの目標形状とを比較して、それぞれのゾーンの形状偏差が求められる。そして、そのような各ゾーンにおける形状偏差と、制御パラメータ切り替え手段9にて選択された第一又は第二の制御パラメータとに基づいて、クーラント制御器11が、クーラント噴射装置5a,5bのノズル6から噴射されるクーラントの噴射量や噴射時間を制御して、ロールクーラント制御が実施されることとなるのである。
【0030】
このように、本発明に従うロールクーラントの制御方式を採用した箔圧延機によれば、形状検出器4の検出する圧延材3の板形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合にクーラント制御を行なうための第一の制御パラメータを予め設定しておく第一の設定手段7と、前記検出した板形状が目標形状に対して張り方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための第二の制御パラメータを予め設定しておく第二の設定手段8とを備えると共に、各種の圧延条件に応じて、板幅内の全ノズル6を一括して前記2つの制御パラメータのうち何れか一方に切り替えを行なうパラメータ切替手段9とを備えているところから、上下のワークロール2a,2bの温度に対するクーラント温度の高低に係わらず、それらワークロールに対してクーラント噴射装置5a,5bのノズル6からクーラントを噴射することによって、上下のワークロール2a,2bの熱膨張を制御することが可能となり、その結果、それら上下のワークロール2a,2bにて箔圧延される圧延材3の板形状の形状制御を、より高い精度をもって行なうことが出来るのである。
【0031】
すなわち、通常のロールクーラント制御の際のクーラント噴射による圧延材の板形状の変化とは逆の変化となるような、ワークロールに対してクーラントを噴射することで板形状が常に延び方向となるような圧延条件が存在するような場合においても、箔形状を目標形状に容易に制御することが可能となり、以て、形状制御精度を効果的に向上することが出来ることとなるのである。
【0032】
ところで、かかる本発明の実施効果を実機にて検証するために、図1に示されるような構成とされた、本発明に従うロールクーラントの制御方式を採用した箔圧延機と圧延材とを用意し、箔圧延を行なった。この際、圧延に供した板材は、アルミニウム合金板材とし、圧延後の箔厚が13μm、板幅が1515mmとなるような圧延条件とした。
【0033】
そして、このように準備された箔圧延機と圧延材を用いて、先ず、従来のロールクーラント制御方式及び本発明によるロールクーラント制御の何れも実施しない初期状態で箔圧延を行ない、その圧延中の箔材の形状偏差を形状検出器4にて検出して、その結果を図2(a)のグラフに示した。なお、かかるグラフにおいて、横軸は板幅方向の位置をそれぞれのゾーン単位で示し、縦軸は圧延時の形状偏差を絶対値を省略した単位:I−unitで示している。かかる図2(a)のグラフより、幅方向の両端部分のゾーンが目標形状に対して伸び側の形状になっており、上記以外の部分では目標形状に対して張り側の形状となっていることがわかる。
【0034】
次いで、図2(a)と同様の圧延条件において、従来の手法によるロールクーラント制御方式にて箔圧延を実施した場合の、圧延中の箔材の形状偏差を形状検出器4にて検出した結果を、図2(b)のグラフに示した。従来のロールクーラントの制御方法においては、一般に、箔材(圧延材3)の形状偏差が伸び側となっている部分のゾーンに対応するノズル6から、上下のワークロール2a,2bに対してクーラントを噴射するのであるが、そのようなクーラントの噴射の結果、箔材の幅方向の形状偏差の分布が、初期状態よりも悪化していることが、かかる図2(b)に示した結果のグラフより判る。このことから、本圧延条件においては、クーラントを噴射することで、噴射された部分(ゾーン)の板形状がさらに伸び方向となってしまうような状態となっていたと考えられ、従来のロールクーラントの制御方式では対処出来ずに、形状偏差が初期状態に比べて悪化することが確認された。
【0035】
一方、図2(a)と同じ圧延条件において、本発明に従うロールクーラントの制御方式を用いて箔圧延を実施した場合の結果を、図2(c)に示した。ここにおいて、前記図2(b)の結果より、本圧延条件においては、クーラント噴射を行なうことで板形状がさらに伸び方向に変形するところから、検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための第二の制御パラメータを、板幅内の全ノズルに対して一括して選択して、圧延を行なった。その結果、幅方向の形状偏差の分布は、図2(c)に示されるように、初期状態よりも改善されることが確認された。
【0036】
なお、本圧延条件において、クーラントを噴射することで、噴射された部分の形状がさらに延び方向となってしまうような状態であることを再確認するため、図2(a)と同じ圧延条件において、本発明に従うロールクーラントの制御方式において、前記検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合にクーラント噴射を行なうための第一の制御パラメータを、板幅内の全ノズルに対して一括して選択しての、箔圧延も実施した。その結果、幅方向の形状偏差の分布は、図2(b)の結果と同様に、初期状態よりも悪化することが確認された。
【0037】
以上の結果から明らかなように、本圧延条件においては、ワークロールに対してクーラントを噴射することで、噴射された部分(ゾーン)に対応する圧延材3の板形状が、さらに伸び方向となってしまうような状態となっていたものと考えられ、このような圧延条件下においても、本発明に従うロールクーラントの制御方式を採用することで、効果的に板形状を目標形状となるように制御することが可能となることが確認された。
【0038】
以上、本発明の代表的な実施形態についてそれぞれ詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0039】
例えば、前記した実施の形態においては、本発明に従うロールクーラントの制御方式を適用する圧延機として、図1に示すようなシングルスタンド式の2段圧延機を例示したのであるが、その他にも、圧延において一般的に用いられている4段圧延機や6段圧延機、或いはそれら以外の種々の圧延機に対して実施することも、勿論可能である。
【0040】
そして、前述の実施形態に例示の2段圧延機においては、圧延材3と直接接触するワークロール2a,2bに対してクーラントを噴射することによって、本発明に従うロールクーラントの制御を行なっていたが、例えば、4段圧延機におけるワークロール又はバックアップロールや、6段圧延機におけるワークロール、中間ロール及びバックアップロールの何れかに対して、本発明に従うロールクーラントの制御方式を採用してクーラントを噴射するようにすることによって、効果的に圧延材3の形状制御を行なうことが出来ることとなる。
【0041】
また、ワークロールやバックアップロールに対してクーラントを噴射するクーラント噴射装置としても、前述の実施形態の如く、一つのワークロール2a,2bに対して一つのクーラント噴射装置5a,5bがそれぞれ配置されていたが、一つのワークロール或いはバックアップロールに対して複数のクーラント噴射装置を配置して、それぞれからクーラントを噴射させたり、一つのクーラント噴射装置にてワークロールとバックアップロールの両方に対してクーラントを噴射するようにすることも可能である。
【0042】
さらに、本発明では、圧延材3の箔圧延に際してのクーラント制御による目標形状に対する形状偏差が予測困難な場合においては、圧延開始当初から制御パラメータの選択が適宜に実行され、かかる形状偏差が最も少なくなる制御パラメータが決定された後は、当該制御パラメータによるクーラント制御の下に、定常的な箔圧延が続行せしめられることとなり、また、圧延材の種類や圧延条件等により、過去の制御パラメータによる制御情報から、第一又は第二の制御パラメータの選択が可能である場合には、当該選択された制御パラメータに、圧延開始当初から設定して、通常の箔圧延を実施することが可能である。
【0043】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施されるものであり、またそのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に従うロールクーラント制御方式を採用した箔圧延工程の一例を概略的に示す説明図である。
【図2】実機において箔圧延を行った際の圧延材の形状偏差の分布を示すグラフであって、(a)は、ロールクーラント制御を行わずに圧延を行った際の形状偏差の分布を示し、(b)は、従来の方式によるロールクーラント制御を行って圧延を行った際の形状偏差の分布を示し、(c)は、本発明に従うロールクーラント制御を行って圧延を行った際の形状偏差の分布を示している。
【符号の説明】
【0045】
1 圧延機
2a 上ワークロール
2b 下ワークロール
3 圧延材
4 形状検出器
5a,5b クーラント噴射装置
6 ノズル
7 第一の設定手段
8 第二の設定手段
9 パラメータ切替手段
10 ロールクーラント制御装置
11 クーラント制御器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の圧延材を箔圧延する箔圧延機における圧延ロールの幅方向に複数のクーラント噴射ノズルを配置する一方、該圧延ロール出側において圧延材の幅方向に設定された複数のゾーンにおける板形状を形状検出器にて検出し、それら複数のゾーンにおける検出形状に基づいて、前記複数のノズルから前記圧延ロールへのクーラントの噴射を制御することによって圧延材の形状制御を行なうに際して、
前記複数のゾーンにおける前記形状検出器による検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合に当該伸び検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第一の制御パラメータと、該検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合に当該張り検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第二の制御パラメータとを予め設定し、前記圧延ロールによる圧延条件に応じて前記形状検出器にて検出される板形状に基づいて、該第一及び第二の制御パラメータのうちの何れか一方を選択して、板幅内の全ノズルからのクーラントの噴射を制御するようにしたことを特徴とする箔圧延機におけるロールクーラントの制御方法。
【請求項2】
前記第一の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いと、前記第二の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いとを比較し、かかる形状偏差の度合いの小さい方の制御パラメータを選択して、前記箔圧延機により圧延材を箔圧延するようにした請求項1に記載の箔圧延機におけるロールクーラントの制御方法。
【請求項3】
板状の圧延材を箔圧延する箔圧延機における圧延ロールの幅方向に複数のクーラント噴射ノズルを配置する一方、該圧延ロール出側において圧延材の幅方向に設定された複数のゾーンにおける板形状を形状検出器にて検出し、それら複数のゾーンにおける検出形状に基づいて、前記複数のノズルから前記圧延ロールへのクーラントの噴射を制御することによって圧延材の形状制御を行なうための装置にして、
前記複数のゾーンにおける前記形状検出器による検出形状が目標形状に対して伸び方向となっている場合に当該伸び検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第一の制御パラメータを設定する第一の設定手段と、
前記複数のゾーンにおける前記形状検出器による検出形状が目標形状に対して張り方向となっている場合に当該張り検出ゾーンに対応する前記ノズルからクーラントを噴射せしめる第二の制御パラメータを設定する第二の設定手段と、
前記圧延ロールによる圧延条件に応じて前記形状検出器にて検出される板形状に基づいて、該第一及び第二の制御パラメータのうちの何れか一方を選択して、板幅内の全ノズルからのクーラントの噴射を制御する選択手段と、
を有していることを特徴とする箔圧延機におけるロールクーラントの制御装置。
【請求項4】
前記選択手段が、前記第一の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いと、前記第二の制御パラメータでクーラントの噴射制御を実施した際の板幅内における形状偏差の度合いとを比較する機能を有し、かかる形状偏差の度合いの小さい方の制御パラメータを選択して、前記箔圧延機により圧延材を箔圧延するようにする請求項3に記載の箔圧延機におけるロールクーラントの制御装置。


【図1】
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【図2】
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