説明

管内夾雑物の移送具

【課題】前部からでも後部からでも容易に回収できる管内夾雑物の移送装置を提供する。
【解決手段】拡縮するフレーム1にキャノピー2を取り付け、管路内でフレーム1が拡開して、キャノピー2が管路を内壁付近に隙間を残して部分的に閉塞し、隙間の通過時に高速化した流れにより夾雑物を下流側へ移送するようにした管内夾雑物の移送具において、前記フレーム1は、弾性を有する複数本の枝骨3を前端側と後端側とで収束するように結合して、枝骨3の撓みに伴い拡縮する構成とし、枝骨3にキャノピー2を上流側となる後端が開口するように張設し、キャノピー2の後部に開口縁に沿って周回紐材8を環状に挿通すると共に、周回紐材8のキャノピー2から露出した部分に絞り紐材9の一端部を結び付け、絞り紐材9の他端部をフレーム1の後端側に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道管等の管路に混入した錆や砂等の夾雑物を排出のため移送する器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、地中に埋設された水道管には、経年劣化や敷設替え工事に起因して、錆や砂等の夾雑物が混入してしまうことがある。この夾雑物を排出するため、一般には、水道管の本管から立ち上がる枝管に接続された消火栓を開いて、水道水と共に夾雑物を押し出す方法が採用されている。
【0003】
この方法によると、本管の内部を浮遊して流れる比重の小さい夾雑物は、消火栓から比較的容易に排出することができるが、流速が得られにくい大口径の管路などでは、塊状となった錆や砂礫などの比重の大きな夾雑物が本管の底部に堆積して、消火栓から排出されない場合がある。
【0004】
このため、本出願人は、下記特許文献1において、図10に示すように、複数本の枝骨52を前端部で収束するように結合して拡縮するフレーム51を形成し、枝骨52にキャノピー53を後端で開口するように取り付けた夾雑物の移送具を提案している。
【0005】
この移送具は、フレーム51が縮閉した状態で枝管54から本管55へ挿入すると、本管55内でフレーム51が拡開して、キャノピー53が本管55の管路を内壁付近に隙間を残して部分的に閉塞し、その隙間で流速を増大させ、夾雑物を下流側へ移送した後、下流側の枝管を介して前部から回収しようとするものである。
【0006】
また、下記特許文献2において、図11に示すように、ホース61の先端に取り付けた袋体62を、枝管63を介して本管64に挿入し、ホース61から空気等を送り込んで袋体62を膨らませ、本管64の管内流路の断面積を減少させて流速を増大させることにより、夾雑物を下流側へ移送し、ホース61を押し込みつつ袋体62を下流側へ順次移動させて、夾雑物を排出する夾雑物の移送具を提案している。
【0007】
【特許文献1】特開2003−1210号公報
【特許文献2】特開2004−283740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の移送具は、管路条件により、下流側の枝管から回収できない場合、上流側の枝管まで引き戻して後部から回収しようとしても、フレームの枝骨が本管から枝管への分岐部に引っかかって回収できないという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の移送具は、膨張して管路内壁に摺接する袋体が破裂しないように、袋体を強度及び耐摩耗性に優れた厚手の布引ゴム等の材質で製作すると、収縮時に袋体があまり小さくならず、消火栓設備の枝管を介して本管に挿入したり、引き出したりすることができなくなるという問題がある。
【0010】
そこで、この発明は、管路に容易に挿入して、夾雑物を移送でき、その後、下流側に向いた前部からだけでなく、上流側に向いた後部からでも容易に回収できる管内夾雑物の移送装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するため、この発明は、拡縮するフレームにキャノピーを取り付け、管路内でフレームが拡開して、キャノピーが管路を内壁付近に隙間を残して部分的に閉塞し、隙間の通過時に高速化した流れにより夾雑物を下流側へ移送するようにした管内夾雑物の移送具において、前記フレームは、弾性を有する複数本の枝骨を前端側と後端側とで収束するように結合して、枝骨の撓みに伴い拡縮する構成とし、枝骨にキャノピーを上流側となる後端が開口するように張設し、キャノピーの後部に開口縁に沿って周回紐材を環状に挿通すると共に、周回紐材のキャノピーから露出した部分に絞り紐材の一端部を結び付け、絞り紐材の他端部をフレームの後端側に結合したのである。
【0012】
なお、この移送具において、前記フレームの枝骨は、ヒンジを介して回動自在に結合部材に結合するとよい。
【0013】
また、前記キャノピーは、複数枚のシート材を周方向に縫い合わせて形成し、フレームの枝骨をシート材の縫合部に沿ってキャノピーに係止するとよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る移送具では、管路に挿入した状態で流速を受けると、キャノピーが後端の開口から流入する流れによりパラシュートのように開き、上流側の後部から下流側の前部へかけて、キャノピーと管路内壁との隙間が小さくなり、隙間の流れが高速化し、夾雑物が下流側へ移送される。
【0015】
このとき、絞り紐材により周回紐材がキャノピーから引き出されて、周回紐材によりキャノピーが巾着状に絞られ、キャノピーの捲れ上がりが防止されると共に、移送具の全体形状が安定するので、流速の向上効果が確実に得られる。
【0016】
そして、フレームの枝骨を前端側と後端側とで結合しているので、下流側に向いた前部からだけでなく、上流側に向いた後部からでも、枝骨が本管から枝管への分岐部に引っ掛かることなく、容易に回収できる。
【0017】
また、前記フレームの枝骨を、ヒンジを介して回動自在に結合部材に結合すると、枝骨に無理な力が作用せずにフレームが拡縮し、枝骨の折損が防止される。
【0018】
また、前記キャノピーを、複数枚のシート材を周方向に縫い合わせて形成し、枝骨をシート材の縫合部に沿ってキャノピーに係止すると、キャノピーがフレームの拡縮に追随し易くなり、フレームの過度の拡開も防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
この管内夾雑物の移送具は、図1乃至図3に示すように、拡縮するフレーム1にキャノピー2を取り付け、管路内でフレーム1が拡開して、キャノピー2が管路を内壁付近に隙間を残して部分的に閉塞し、隙間の通過時に高速化した流れにより夾雑物Sを下流側へ移送するものである。
【0021】
フレーム1は、弾性を有する複数本の枝骨3を前端側の結合部材4と後端側の結合部材5とで収束するように結合して、枝骨3の撓みに伴い拡縮する構成とされ、通常時には縮閉した状態となっている。枝骨3の材質には、Ni−Ti合金やステンレス(SUS)の帯鋼等、湾曲の繰り返しに強く、塑性変形及び破壊を生じにくいものを使用する。結合部材4,5の材質には、ポリアセタール樹脂等を使用する。
【0022】
キャノピー2は、複数枚のシート材6を周方向に縫い合わせて形成され、上流側となる後端が開口するようにフレーム1の枝骨3に張設されている。シート材6の材質には、管路を閉塞する必要上、通水性がないか、通水性の乏しい材料を用いる必要があり、また、枝管を介した挿入・取出のため、薄手で柔軟なものが好ましい。ここでは、ナイロン繊維を使用しているが、流速を受けても破れないものであれば、他のものであってもよい。
【0023】
また、枝骨3は、図4に示すように、シート材6同士をポリエチレン等の糸により縫着した2本の縫い目6aの間に挿通されて、キャノピー2に係止されている。これにより、キャノピー2がフレーム1の拡縮にスムーズに追随し、フレーム1の過度の拡開が防止されるようになっている。
【0024】
枝骨3の前後両端部は、それぞれ図5及び図6に示すように、ヒンジ7を介して回動自在に結合部材4,5に結合されている。これにより、枝骨3に無理な力が作用せずにフレーム1が拡縮し、枝骨3の折損が防止される。結合部材5には、ストッパー5aが設けられ、枝骨3がキャノピー2の拡開方向と反対側へ回動しないようになっている。
【0025】
キャノピー2の後部には、図2及び図3に示すように、開口縁に沿った折返部に周回紐材8が環状に挿通され、周回紐材8は、シート材6の縫合部に形成された複数の穴から間欠的に露出している。周回紐材8のシート材6から露出した部分には、絞り紐材9の一端部が結び付けられ、絞り紐材9の他端部は、フレーム1の後端側に設けられた結合部材10に結合されている。
【0026】
この周回紐材8及び絞り紐材9の材質には、ポリエチレン等の高強度の線材を使用するのが好ましい。また、結合部材10は、結合部材5と別体としたが、これらを一体に形成してもよく、結合部材10を省略し、結合部材5に絞り紐材9を結合してもよい。
【0027】
フレーム1の前後方向の軸心には、ポリエチレン等の線材を使用した芯線材11が延設され、その前端部は、結合部材4側にボルト及びスクリュージョイント12を介して接続されている。芯線材11の後部側は、結合部材5の貫穴に挿通され、後端部に、芯線材11の捩れを回避するため、回転カンと呼ばれるスイベル13が取り付けられている。
【0028】
このような移送具を使用して水道管の管路内の夾雑物を除去する際には、図7に示すように、本管21から分岐した上流側及び下流側の枝管22に、それぞれ補修弁23を介して挿入装置31及び排出装置32を取り付け、挿入装置31側に搬送装置33を配置し、排出装置32のボール弁34に流量計35を備えたホースを接続し、ホースの排出口の下方に夾雑物捕捉具36を配置する。
【0029】
そして、移送具Eのスイベル13に、搬送装置33から引き出した高強度のポリエチレン等から成る送り線材14の先端を接続し、フレーム1が縮閉した状態の移送具Eを挿入装置31に収納して、上流側の仕切弁24を閉じた状態で、挿入装置31から押し出すように、枝管22を介して、本管21に移送具Eを挿入する。下流側の仕切弁25は閉じ、排出装置32の接続された補修弁23及びボール弁34は開いておく。
【0030】
この状態で、仕切弁24を開き、本管21の管内に流速を与えると、図1及び図7に示すように、キャノピー2の内側に後端の開口から水が流入し、フレーム1の拡開に伴い、キャノピー2がパラシュートのように開き、上流側の後部から下流側の前部へかけて、キャノピー2と本管21の管路内壁との隙間が小さくなり、隙間の流れが高速化して、夾雑物Sが下流側へ移送される。
【0031】
ここで、本管21の通水面積に対し、例えば、キャノピー2による閉塞面積を75%程度としたとき、管内流速は、通常断面に対し、キャノピー2と内壁の隙間部分で4倍程度に高速化される。
【0032】
また、絞り紐材9により周回紐材8がキャノピー2から引き出されて、周回紐材8によりキャノピー2が巾着状に絞られ、キャノピー2の捲れ上がりが防止されると共に、移送具Eの全体形状が安定する。
【0033】
このようにして、流速により張力が作用した送り線材14を、搬送装置33から定速で繰り出すと、移送具Eの下流側への移動に伴い、夾雑物Sは、順次下流側へ流されて、管底で開口した排出装置32の排水ノズル32aに流入し、水流と共に排出装置32から排出されて、夾雑物捕捉具36に捕捉される。
【0034】
その後、移送具Eが下流側の枝管22の分岐部に達すると、排出装置32からの放水音が変化し、流量計35の流量値が変化するので、これを確認し、排出装置32のボール弁34を閉じると共に、上流側の仕切弁24を閉じ、移送具Eの回収のため、本管21の管路を断水して、移送具Eのフレーム1を縮閉させ、キャノピー2を萎ませる。そして、下流側の補修弁23を閉じ、排出装置32を取り外す。
【0035】
移送具Eの回収作業に際しては、図8に示すように、下流側の補修弁23に確認窓付きの回収装置37を取り付け、回収装置37の上部に設けられたボール弁38に流量計39を備えたホースを接続し、回収装置37の下方の補修弁23及び上部のボール弁38を開き、上流側の仕切弁24を徐々に開いて、流量計39で流量を確認しつつ、搬送装置33から送り線材14を繰り出す。
【0036】
これにより、移送具Eが回収装置37に流れ込むので、確認窓を介して回収装置37の内部の移送具Eを確認した後、ボール弁38を閉じ、上流側の仕切弁24を閉じて、本管21の管路を断水した状態で、回収装置37を取り外す。そして、移送具Eを回収装置37から引き出して露出させ、スイベル13と送り線材14との連結を切り離し、送り線材14から分離した移送具Eを回収する。
【0037】
この移送具Eは、通常、図9(a)に示すように、下流側の枝管22を介して前部から回収するが、管路条件により、下流側の枝管22から回収できない場合でも、フレーム1の枝骨3を前端側と後端側とで収束するように結合しているので、上流側の枝管22まで引き戻して、図9(b)に示すように、本管21から枝管22への分岐部に枝骨3が引っ掛かることなく、後部から枝管22へ引き上げて、容易に回収することができる。
【0038】
なお、上記実施形態では、フレーム1の枝骨3を、前端部と後端部の結合部材4,5に結合したが、枝骨3は、必ずしもフレーム1の端部で結合する必要はなく、フレーム1の前端側と後端側とで収束させることができれば、端部から間隔をあけた位置で結合するようにしてもよい。また、枝骨3を、結合部材4,5に結合するのではなく、相互に直接結合して、フレーム1を一体に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明に係る夾雑物移送具の使用状態を示す管路縦断側面図
【図2】同上の移送具の縮閉状態を示す側面図
【図3】同上の移送具の拡開状態を示す側面図
【図4】同上のシート材の縫着部の拡大断面図
【図5】同上の枝骨の前端側の結合部を示す縦断側面図
【図6】同上の枝骨の後端側の結合部を示す縦断側面図
【図7】同上の移送具による夾雑物移送過程を示す管路縦断側面図
【図8】同上の移送具の回収過程を示す管路縦断側面図
【図9】(a)同上の移送具の前部からの取出過程を示す概略側面図、(b)同上の移送具の後部からの取出過程を示す概略側面図
【図10】特許文献1に係る移送具の使用状態を示す管路縦断側面図
【図11】特許文献2に係る移送具の使用状態を示す管路縦断側面図
【符号の説明】
【0040】
E 移送具
S 夾雑物
1 フレーム
2 キャノピー
3 枝骨
4,5 結合部材
5a ストッパー
6 シート材
6a 縫い目
7 ヒンジ
8 周回紐材
9 絞り紐材
10 結合部材
11 芯線材
12 スクリュージョイント
13 スイベル
14 送り線材
21 本管
22 枝管
23 補修弁
24,25 仕切弁
31 挿入装置
32 排出装置
32a 排水ノズル
33 搬送装置
34 ボール弁
35 流量計
36 夾雑物捕捉具
37 回収装置
38 ボール弁
39 流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡縮するフレーム(1)にキャノピー(2)を取り付け、管路内でフレーム(1)が拡開して、キャノピー(2)が管路を内壁付近に隙間を残して部分的に閉塞し、隙間の通過時に高速化した流れにより夾雑物を下流側へ移送するようにした管内夾雑物の移送具において、
前記フレーム(1)は、弾性を有する複数本の枝骨(3)を前端側と後端側とで収束するように結合して、枝骨(3)の撓みに伴い拡縮する構成とし、枝骨(3)にキャノピー(2)を上流側となる後端が開口するように張設し、キャノピー(2)の後部に開口縁に沿って周回紐材(8)を環状に挿通すると共に、周回紐材(8)のキャノピー(2)から露出した部分に絞り紐材(9)の一端部を結び付け、絞り紐材(9)の他端部をフレーム(1)の後端側に結合したことを特徴とする管内夾雑物の移送具。
【請求項2】
前記フレーム(1)の枝骨(3)は、ヒンジ(7)を介して回動自在に結合部材(4,5)に結合したことを特徴とする請求項1に記載の管内夾雑物の移送具。
【請求項3】
前記キャノピー(2)は、複数枚のシート材(6)を周方向に縫い合わせて形成し、フレーム(1)の枝骨(3)をシート材(6)の縫合部に沿ってキャノピー(2)に係止したことを特徴とする請求項1又は2に記載の管内夾雑物の移送具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−168261(P2008−168261A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5880(P2007−5880)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名:IWA世界水会議 展示会 主催者名:IWA(国際水協会) 開催日:2006年9月10日〜14日
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【出願人】(501451565)東京水道サービス株式会社 (5)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】