説明

管周りの壁体構築装置および工法

【課題】地盤中に敷設された管周りに遮水性能の高い壁体を構築するとともに、コストを削減しかつ工期を短縮する。
【解決手段】全周シール1によって樋管Zの環状の開口部を閉じて地盤Gと樋管Z内とを隔離し、ボーリングロッド6を全周シール1と開口部とを通して地盤G中へ押し出し、かつ、ボーリングロッド6を該ロッド6の軸を中心に回転させ、かつ、ボーリングロッド6の先端の吐出口から構壁材Yを吐出することにより、地盤G中に削孔Vを施しつつ当該削孔V内に構壁材Yを充填する。そして、このような削孔工程をボーリングロッド6を樋管Zの円周方向Qに旋回させながら繰り返し行うことにより、樋管Z周りに連続した状態の複数の削孔Vからなる環状の溝Mを形成する。この後、溝M内の構壁材Yを硬化させて、樋管Z周りに環状の壁体を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中に敷設された管の周りに管内から壁体を構築する管周りの壁体構築装置および工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤中に敷設された管の周りに、遮水等を目的として壁体を構築することが行われている。例えば、下記の特許文献1には、河川堤防の内部に貫通敷設された樋管の外周と地盤との隙間が水の通り道となって、堤防の決壊等の災害が生じるのを防ぐために、樋管の周りに環状の壁体(遮水壁)を構築することが記載されている。
【0003】
図13は、特許文献1の壁体構築状況を説明するための図である。最初に、堤防Tの内部に推進工法によって樋管Zを貫通敷設するために、図13(a)に示すように堤防Tの堤内地N側と河川K側とに発進立坑H1と到達立坑H2とをそれぞれ形成した後、発進立坑H1から到達立坑H2に向けて地盤Gを掘削して樋管Zを推進させつつ順次継ぎ足して行く。堤防T内部に樋管Zを貫通敷設すると、図13(b)に示すように樋管Zと地盤Gとの隙間Saに硬化性を有する裏込め材Uを注入する。注入した裏込め材Uが硬化すると、樋管Z同士の接続部に予め介装された分割接続リングRgの周辺の地盤Gを強化しかつ当該周辺への地下水の浸透を防止するために、分割接続リングRgの周りを地盤改良する。地盤改良は、図13(c)に示すように樋管Z内に設置した地盤改良装置50に備わる注入管51を分割接続リングRgに形成された注入孔(図示省略)を通して地盤G中に突出させ、注入管51から地盤G中にグラウトYaをステップ注入で注入することにより行う。その際、グラウトYaの注入は樋管Z周りの360°の全範囲に対して行う。
【0004】
その後、注入したグラウトYaが硬化すると、分割接続リングRgの周りに地盤改良部Pが造成されるので、分割接続リングRgを解体撤去して、図13(d)に示すように環状の開口部Xを形成する。そして、樋管Z内に設置した地盤掘削機52に備わる掘削アーム53を開口部Xから地盤改良部Pに突出させて、樋管Zの円周方向に旋回させながら地盤改良部P内に環状の溝Mを掘削形成して行く。このとき、地盤改良部Pの造成により分割接続リングRgの周辺が強化されかつ当該周辺への地下水の浸透が防止されているので、地盤Gの崩壊や地下水の浸透を生じることなく樋管Zに対して垂直に環状の溝Mを形成することができる。そして、地盤改良部P内に所定深度の溝Mを形成すると、図13(e)に示すように溝M内に止水板54を挿入して、複数の止水板54を樋管Zに周方向へ順次固定して行く。止水板54を樋管Z周りに環状に設置し終えると、図13(f)に示すように溝M内にグラウトYbを注入充填する。この後、注入充填したグラウトYbが硬化すると、溝M内に止水板54が埋設固定され、樋管X周りへの環状の壁体(遮水壁)Wbの構築が完了する。
【0005】
上記によれば、地盤Gの崩壊や地下水の浸透を生じることなく樋管Zに対して垂直に環状の溝Mを形成できるので、そこに注入したグラウトYbが均質な状態で硬化して、樋管Z周りに遮水性能の高い壁体Wbを構築することができる。このため、溝M内に止水板54を挿入設置せずに、グラウトYbだけを注入充填して硬化させることにより、壁体とすることも行われている。
【0006】
【特許文献1】特許第2929190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、地盤改良装置80によって地盤G中にグラウトYaを注入して地盤改良部Pを造成してから、掘削機82によって地盤改良部P内に溝Mを掘削形成し、その後、形成した溝M内にグラウトYbを注入充填するので、壁体Wbを構築する工程が三段階になり、コストと工期がかかるという問題がある。また、地盤改良装置80と掘削機82の2台の装置が必要であり、これらをそれぞれ樋管Z内に設置したり樋管Z内から撤去しなけらばならないので、さらにコストと工期がかかるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するものであって、その課題とするところは、地盤中に敷設された管周りに遮水性能の高い壁体を構築するとともに、コストを削減しかつ工期を短縮することが可能な管周りの壁体構築装置および工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る管周りの壁体構築装置は、地盤中に敷設されている管に形成された環状の開口部を通じて、管内から管周りに壁体を構築する管周りの壁体構築装置であって、開口部を閉じて地盤と管内とを隔離する隔離部材と、先端部に地盤を掘削するための刃と硬化性を有する構壁材を吐出するための吐出口とが設けられたボーリングロッドと、ボーリングロッドを隔離部材と開口部とを通して地盤中に対して出没させる出没手段と、ボーリングロッドを該ボーリングロッドの軸を中心に回転させる回転手段と、ボーリングロッドを管の円周方向に旋回させる旋回手段とを備えている。
【0010】
このような構成によると、出没手段によってボーリングロッドを管内から隔離部材と開口部とを通して地盤中へ押し出し、かつ回転手段によってボーリングロッドを回転させ、かつボーリングロッドの吐出口から構壁材を吐出することにより、地盤中に削孔を施しつつ当該削孔内に構壁材を充填することができる。そして、このような削孔工程を旋回手段によって管内でボーリングロッドを管の円周方向に旋回させて繰り返し行うことにより、管周りに連続した状態の複数の削孔からなる環状の溝を形成することができる。さらにその後、形成した溝内の構壁材を硬化させることにより、管周りに環状の壁体を構築することができる。
【0011】
上記の際、隔離部材によって管の開口部を閉じて、ボーリングロッドによって地盤中に削孔を施しつつ当該削孔内に構壁材を充填するので、管周りに閉空間状態の削孔が形成されて、当該削孔内に充填した構壁材が削孔壁を圧迫するようになり、地盤の崩壊や地下水の浸透を生じることなく、管に対して垂直に環状の溝を形成することができる。また、ボーリングロッドを回転させるので、掘削した地盤の土砂と吐出した構壁材とを削孔内で攪拌して、均一に混合させることができる。よって、溝内で構壁材が地盤中に拡散して行くことなく硬化し、管周りに均質な遮水性能の高い環状の壁体を構築することが可能となる。この結果、特許文献1のような地盤改良工程を行う必要がなくなるとともに、溝の掘削形成工程と溝内への構壁材の注入充填工程とを同時に行うので、壁体を構築する工程が一段階になり、コストを削減し工期を短縮することが可能となる。また、特許文献1のように地盤改良装置と掘削機の2台の装置を必要とせず、1台の壁体構築装置で壁体を構築することができるので、装置の設置や撤去の作業に手間と時間がかからず、コストの削減と工期の短縮とを一層推進可能となる。
【0012】
さらに加えて、隔離部材によって開口部を閉じることで、ボーリングロッドによって掘削した土砂や削孔内に充填した構壁材が開口部から管内に漏れるのを防止することができ、管内で作業を安全に行えるようになる。また、ボーリングロッドを管内で旋回させることで、当該旋回に要する力が小さくて済み、旋回手段として小型の駆動装置を用いて、コストの削減を一層推進可能となる。また、例えば特許文献1の掘削アームのような部材を用いると、掘削速度が遅く、予め他の装置を用いて地盤中に当該部材の掘削部を突出可能な大きな削孔を施しておく必要がある。然るに、上述のようにボーリングロッドを地盤中で押し進めながら回転させて地盤を掘削するという所謂ボーリング掘削方式を採用したことで、掘削速度を速くすることができ、また、他の装置を用いて地盤中に大きな予備削孔を施しておかなくても、地盤中に削孔を施すことができ、掘削工程および装置の設置や撤去の作業に手間と時間がかからず、コストの削減と工期の短縮を一層推進可能となる。また、地盤中に岩等の硬質の障害物があっても、例えばはつり機のような他の装置を用いることなく、当該障害物をボーリングロッドによって粉砕しつつ掘削を継続することができ、装置の設置や撤去の作業に手間と時間がかからず、コストの削減と工期の短縮を一層推進可能となる。
【0013】
また、本発明に係る管周りの壁体構築装置においては、上記構成に加えて、ボーリングロッドを出没手段による出没方向と垂直でかつ管の円周方向と平行な方向へ移動させるスライド手段を備えている。
【0014】
このようにすると、ボーリングロッドによって地盤中に削孔を施しつつ当該削孔内に構壁材を充填する削孔工程を、スライド手段によって管内でボーリングロッドを出没方向と垂直でかつ管の円周方向と平行な方向へ移動させて複数回行った後に、旋回手段によって管内でボーリングロッドを管の円周方向に旋回させることにより、隣接する削孔同士を深度方向の全体に渡って着実に連続させて、管周りに環状の溝を確実に形成することができる。そして、当該溝内の構壁材を硬化させることにより、管周りに欠陥のない遮水性能の高い環状の壁体を構築することが可能となる。また、ボーリングロッドを管内で移動させることで、当該移動に要する力が小さくて済み、スライド手段として小型の駆動装置を用いて、コストの削減を一層推進可能となる。
【0015】
また、本発明に係る管周りの壁体構築装置においては、隔離部材をまたぐように管内に取り付けられてボーリングロッドを保持する保持部材を備えていて、当該保持部材に、ボーリングロッドと隔離部材との隙間を通って管内に入り込む土砂を受止める土砂受け部と、当該土砂受け部で受止めた土砂を一定の背圧をかけながら排出する排土管とを設けている。
【0016】
このようにすると、ボーリングロッドによって掘削した地盤中の土砂を削孔内から、ボーリングロッドと隔離部材との隙間、土砂受け部、および排土管を通して一定の背圧をかけながら外部に排出することができるので、管内で作業を安全に行えるようになる。また、削孔内の構壁材および土砂の圧力が一定の背圧に保持されるので、管の上方に形成された削孔内の構壁材等が下方に流れ難くなって、当該上方の削孔内に空隙が生じるのを防止することができる。さらに、構壁材等が常に一定の圧力で削孔壁を圧迫するようになるので、地盤の崩壊や地下水の浸透を安定かつ確実に防止することが可能になる。
【0017】
また、本発明に係る管周りの壁体構築装置においては、保持部材に、隔離部材の近傍の地盤をほぐすための作業孔を設けている。
【0018】
このようにすると、ボーリングロッドを管内から地盤中に突出させる前に、棒状部材等を作業孔に通して、隔離部材の近傍の地盤をほぐすことができるので、ボーリングロッドを回転させることなく、そのほぐした部分にボーリングロッドの先端部を容易に突出させることが可能になる。また、ボーリングロッドの刃による隔離部材の破損を防止することができ、隔離部材の地盤と管内との隔離性能を維持することが可能になる。
【0019】
また、本発明に係る管周りの壁体構築装置においては、隔離部材と保持部材との間に、開閉可能なシャッタを設けている。
【0020】
このようにすると、シャッタを開くことで、ボーリングロッドを管内から地盤中に押し出して、前記削孔工程を行うことができ、シャッタを閉じることで、地盤と管内とを確実に閉塞して、土砂受け部等に詰まった土砂等を安全に除去することが可能となる。
【0021】
本発明に係る管周りの壁体構築工法は、地盤中に敷設されている管に形成された環状の開口部を通じて、管内から管周りに壁体を構築する管周りの壁体構築工法であって、開口部に地盤と管内とを隔離する隔離部材を設け、先端部に地盤を掘削するための刃と硬化性を有する構壁材を吐出するための吐出口とが設けられたボーリングロッドを、管内から隔離部材と開口部とを通して地盤中へ押し出し、かつボーリングロッドを当該ボーリングロッドの軸を中心に回転させ、かつ構壁材を吐出口から吐出することにより、地盤中に削孔を施しつつ当該削孔内に構壁材を充填し、当該削孔工程を管内でボーリングロッドを管の円周方向に旋回させて繰り返し行うことにより、管周りに連続した状態の複数の削孔からなる環状の溝を形成し、当該溝内の構壁材を硬化させて管周りに環状の壁体を構築する。
【0022】
このようにすると、管周りに閉空間状態の環状の溝が形成されて、当該溝内で土砂と均一に混合された構壁材が地盤中に拡散して行くことなく硬化し、管周りに均質な遮水性能の高い環状の壁体を構築することが可能となる。この結果、特許文献1のような地盤改良工程を行う必要がなくなるとともに、溝の掘削形成工程と溝内への構壁材の注入充填工程とを同時に行うので、壁体を構築する工程が一段階になり、コストを削減し工期を短縮することが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る管周りの壁体構築工法においては、前記削孔工程を、管内でボーリングロッドを該ボーリングロッドの出没方向と垂直でかつ管の円周方向と平行な方向へ移動させて複数回行った後に、管内でボーリングロッドを管の円周方向に旋回させる。
【0024】
このようにすると、地盤中で隣接する削孔同士を深度方向の全体に渡って着実に連続させて、管周りに環状の溝を確実に形成することができ、当該溝内の構壁材を硬化させることにより、管周りに欠陥のない遮水性能の高い環状の壁体を構築することが可能となる。
【0025】
また、本発明に係る管周りの壁体構築工法においては、隔離部材の近傍の地盤をボーリングロッドの先端部を突出可能にほぐした後に、前記削孔工程を行う。
【0026】
このようにすると、ほぐした部分にボーリングロッドの先端部をボーリングロッドを回転させることなく突出させることができ、ボーリングロッドの刃による隔離部材の破損を防止することが可能になる。
【0027】
さらに、本発明に係る管周りの壁体構築工法においては、管周りに環状の溝を形成してから当該溝内の構壁材が硬化するまでの間に、止水板を隔離部材と開口部とを通して溝内に挿入して管周りに環状に設置する。
【0028】
このようにすると、小さな挿入力で溝内に止水板を容易に挿入することができる。また、溝内の構壁材が硬化したときに、止水板が埋設された環状の壁体が管周りに形成されるので、当該壁体の遮水性能を長期間維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、隔離部材によって管の開口部を閉じて、ボーリングロッドによって地盤中に削孔を施しつつ当該削孔内に構壁材を充填するので、地盤の崩壊や地下水の浸透を生じることなく管に対して垂直に連続状態の複数の削孔からなる環状の溝を形成し、当該溝内の構壁材を地盤中に拡散させることなく硬化させて、管周りに均質な遮水性能の高い環状の壁体を構築することが可能となる。そしてこの結果、壁体を構築する工程が一段階になり、また1台の壁体構築装置で壁体を構築できるので、コストを削減し工期を短縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1〜図4は、本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築装置を示す図である。各図は、同壁体構築装置が堤防内部に貫通敷設された樋管内に設置された状態を示している。図1は壁体構築装置の平面図、図2は壁体構築装置を図1(b)のA方向から見た側面図、図3は壁体構築装置の図1(b)におけるB−B断面図、図4は壁体構築装置の図1(b)におけるC−C断面図である。
【0031】
図1(a)において、Gは堤防の地盤、Zは堤防内部に推進工法によって貫通敷設された樋管、Uは樋管Zと地盤Gとの隙間に注入されて硬化した裏込め材である。Rgは樋管Z同士の接続部に介装された分割式の分割接続リングである。分割接続リングRgは、図1(a)ではボルトで樋管Zに取り付けられているが、ボルトを外すと、解体して図1(b)に示すように樋管Zから撤去することができる。分割接続リングRgを撤去すると、樋管Z内から壁体を構築するための作業口となる環状の開口部Xが形成される。100は樋管Z内に設置された壁体構築装置である。この壁体構築装置100は、図2および図3に示すように略弓矢形をしている。1は壁体構築装置100の構成部品の1つである環状の全周シールパッキン(以下、全周シールと記す。)である。全周シール1は、図1に示すように開口部Xを閉じて地盤Gと樋管Z内とを隔離している。また、全周シール1はゴム製で、端部が樋管Zに固定され、中央の切れ目1aで分割されている。全周シール1は、本発明における隔離部材の一実施形態を構成する。
【0032】
2は全周シール1をまたぐように樋管Z内に設置された弓形ボックスである。詳しくは、弓形ボックス2は、図2および図4に示すようにボルトで樋管Zに固定された押さえプレート3によって、樋管Zの内周面Zaに接するように保持されている。弓形ボックス2には、図3および図4に示すように中空部からなる土砂受け部2aが設けられている。土砂受け部2aの上方(D方向側)と下方(F方向側)には、それぞれ長孔2b、2cが設けられている。4は弓形ボックス2にL、R方向(図3)へ移動可能に取り付けられたスライドプレートである。スライドプレート4は、弓形ボックス2の長孔2cを閉塞可能な大きさをしている。5は弓形ボックス2に介挿されたシャッタである。シャッタ5は、薄肉の金属板や合成樹脂等の可撓性を有する材料でアーチ形に形成されていて、図5に示すように中央から偏った位置に長孔5aが設けられている。このシャッタ5を手作業で樋管Zの円周方向(図3のQ方向または反Q方向)へずらすことにより、弓形ボックス2の長孔2bを開放状態(長孔2bと長孔5aの連通状態)または閉塞状態(長孔2bと長孔5aの非連通状態)にすることが可能になる。図3では、弓形ボックス2の長孔2bはシャッタ5によって開放状態にある。弓形ボックス2とスライドプレート4とは、本発明における保持部材の一実施形態を構成する。
【0033】
6は弓形ボックス2を貫通するようにフランジ7を介してスライドプレート4に保持されたボーリングロッドである。ボーリングロッド6とフランジ7との隙間は、Oリング等によってシールされている。ボーリングロッド6の先端部には、地盤を掘削するための刃6aと、硬化性を有する構壁材を吐出するための吐出口6b(図6)とが設けられている。図3の8はボーリングロッド6の後端部が連結された回転駆動部である。回転駆動部8は、モータおよびギヤ等から構成されていて、ボーリングロッド6を該ロッド6の軸Jを中心に高速で回転させる。回転駆動部8は、本発明における回転手段の一実施形態を構成する。
【0034】
9はボーリングロッド6の中空部(図示省略)に連通するように回転駆動部8に貫通状態で取り付けられたスイベルである。スイベル9の連結口9aに、樋管Z外に設置された構壁材供給装置(図示省略)の供給ホースを連結することで、ボーリングロッド6の中空部に構壁材を所定の圧力で送り込んで、ボーリングロッド6の吐出口6bから吐出させることが可能となる。構壁材の吐出量や吐出圧は図示しない調整バルブ等で調整する。また、構壁材には、硬化性を有するセメント系の硬化剤を用いるが、好ましくは粘性が高くて、注入後24時間経過しても指で押して変形する程度の強度となる強度発現の遅いベンドナイト等を配合した材料を用いる。
【0035】
10はスライドプレート4に立設されたマストである。マスト10には、モータ、ギヤ、スプロケット、およびチェーン等から構成された出没駆動部11が設けられている。出没駆動部11のチェーンには、図3に示す連結プレート12を介して回転駆動部8が連結されている。出没駆動部11は、マスト10に沿って回転駆動部8をD、F方向へ移動させることにより、ボーリングロッド6をシャッタ5の長孔5a、弓形ボックス2の長孔2b、全周シール1、および開口部Xを通して、地盤G中に押し出したり、樋管Z内に引っ込めたりする。図3には、ボーリングロッド6が樋管Z内に最大限引っ込められて没入した状態を実線で示し、ボーリングロッド6が地盤G中に最大限押し出された状態を2点鎖線で示している。図4および図6は、ボーリングロッド6が全周シール1を押し開いて地盤G中に略半ストローク分突出した状態を示している。出没駆動部11は、本発明における出没手段の一実施形態を構成する。
【0036】
図1および図2に示す13はスライドシリンダである。スライドシリンダ13の本体13aの後端は、弓形ボックス2に連結されている。スライドシリンダ13のロッド13bの先端は、スライドプレート4に連結されている。スライドシリンダ13は、ロッド13bを伸縮させることにより、スライドプレート4を介してボーリングロッド6を出没方向F、Dと垂直でかつ樋管Zの円周方向Qと平行なL、R方向へ弓形ボックス2の長孔2cの大きさの範囲内で移動させる。図3には、ボーリングロッド6が最大限L方向へ移動した状態を実線で示し、ボーリングロッド6が最大限R方向へ移動した状態を1点鎖線で示している。また、図1および図2は、ボーリングロッド6が最大限L方向へ移動した状態を示している。スライドシリンダ13は、本発明におけるスライド手段の一実施形態を構成する。
【0037】
図1および図2に示す14は旋回シリンダである。旋回シリンダ14の本体14aの後端は、ボルトで樋管Zに固定された反力プレート15にピンを介して回転可能に連結されている。旋回シリンダ14のロッド14bの先端は、弓形ボックス2にピンを介して回転可能に連結されている。弓形ボックス2の底部には、図2に示すようにガイドローラ16が樋管Zの内周面Zaを転動可能に取り付けられている。図1および図2(a)に示すように旋回シリンダ14のロッド14bを収縮させた状態で、押さえプレート3を樋管Zの内周面Zaに沿って円周方向Qへ所定角度ずらして、ボルトによって樋管Zに固定する。押さえプレート3をずらすとき、弓形ボックス2は、押さえプレート3と旋回シリンダ14とによって保持されているので、樋管Zの径方向(D方向)と円周方向(Q方向および反Q方向)へ動くことはない。この状態から、図2(b)に示すように旋回シリンダ14のロッド14bを伸長させると、ガイドローラ16が内周面Zaに沿って転動して、弓形ボックス2とボーリングロッド6等がQ方向へ所定角度旋回する。旋回角度は、旋回シリンダ14の本体14aと反力プレート15との連結位置(反力プレート15に設けられた複数のピン穴15gのこと)、およびロッド14bと弓形ボックス2との連結位置(弓形ボックス2に設けられた複数のピン穴2gのこと)とをそれぞれ変えることで調整可能となる。旋回後、押さえプレート3に設けられた複数の固定孔3hと、当該各固定孔3hと同心円状態にある弓形ボックス2に設けられた複数のピン穴2gまたは固定孔2hとにボルト(図示省略)を嵌合して、弓形ボックス2を押さえプレート3に仮固定する。そしてこの仮固定状態で、旋回シリンダ14と反力プレート15若しくは弓形ボックス2との連結を外し、ロッド14bを収縮させて、旋回シリンダ14と反力プレート15若しくは弓形ボックス2との連結位置を変える。または、旋回シリンダ14を反力プレート15から外し、反力プレート15を樋管Zから外してQ方向へ所定角度ずらした位置に固定し、ロッド14bを収縮させて、旋回シリンダ14を反力プレート15に連結する。いずれかのようにして旋回シリンダ14の収縮と連結位置変えを行うと、固定孔3hとピン穴2gまたは固定孔2hからボルトを抜去して、弓形ボックス2の押さえプレート3への仮固定を解除する。この後、上述したように押さえプレート3をQ方向へさらに所定角度ずらして固定した後、ロッド14bを伸長させると、弓形ボックス2とボーリングロッド6等がさらにQ方向へ所定角度旋回する。つまり、上述した一連の手順を繰り返し行うことで、ボーリングロッド6が樋管Zの円周方向Qへ360°旋回可能となる。旋回シリンダ14は、本発明における旋回手段の一実施形態を構成する。
【0038】
図4に示す17は弓形ボックス2の排出部2dに接続された排土管である。排土管17の内部には、エアーで膨張収縮するゴムチューブからなる背圧弁18が設けられている。上述したように、出没駆動部11によってボーリングロッド6を地盤G中に押し出すことと、回転駆動部8によってボーリングロッド6を回転させることと、ボーリングロッド6の吐出口6bから構壁材を吐出することとを同時に行うと、地盤Gが掘削されて削孔が形成されつつ当該削孔内に構壁材が充填される。この際、掘削された土砂は、構壁材と混ざり合いながらボーリングロッド6と全周シール1との隙間S(図6に図示)を通って弓形ボックス2の土砂受け部2aに入り込む。そして、土砂受け部2aに入り込んだ土砂等は、背圧弁18によって一定の背圧をかけられながら排出部2dと排土管17とを通って外部へ排出される。これにより、土砂受け部2a内、および土砂受け部2a内と隙間Sを介して連通する地盤G中に施された削孔内にある構壁材等の圧力が上記一定の背圧に保持される。なお、この一定の背圧は、地盤G中に含まれる地下水の水頭圧以上、または削孔内に充填された構壁材の水頭圧以上に設定する。具体的には、0.2〜0.3kg/cm程度に設定する。
【0039】
図2および図3に示す19はスライドプレート4に取り付けられた保守ブラケットである。保守ブラケット19には、スライドプレート4の孔4aと弓形ボックス2の長孔2cとに連通するサービスホール19aと、紙面に対して垂直な方向へ開閉可能なシャッタ20とが設けられている。シャッタ20を閉じると、サービスホール19aが閉塞されて、土砂受け部2a内に入り込んだ土砂等がサービスホール19aを通って樋管Z内に漏れなくなる。また、シャッタ20を開けると、サービスホール19aが開放されて、図7に示すように棒状部材21をサービスホール19aから挿入して、土砂受け部2a、全周シール1、および開口部Xを通して地盤G中に突出可能となる。棒状部材21の後端部には、外部から水を供給するためのホース23を連結する連結部21aが設けられ、先端部には、水を吐出するための吐出口21bと、地盤Gを削るための爪21cとが設けられている。22は棒状部材21を挿入した状態でサービスホール19aを封止するラバーである。図7に示すように棒状部材21を地盤G中に突出した状態で、吐出口21bから水を吐出させつつ棒状部材21を上下や左右に動かすことで、全周シール1の近傍の裏込め材Uおよび地盤G(破線で囲った部分)を、崩したり土砂受け部2aに掻き入れたりする等してほぐす(やわらかくする)ことが可能となる。サービスホール19aは、本発明における作業孔の一実施形態を構成する。
【0040】
図8A〜図12は、本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明するための図である。本工法は、上述した壁体構築装置100を用いて実施する。前述したように、樋管Z同士の接続部に介装された分割接続リングRg(図1(a)に図示)を解体撤去して、樋管Zに環状の開口部X(例えば、図1(b)に図示)を形成した後、樋管Z内に壁体構築装置100を設置する。このとき、弓形ボックス2が動かないように、押さえプレート3を樋管Zに本固定しておく。そしてまず最初に、シャッタ5と、保守ブラケット19のシャッタ20(図7)とを開いて、図8A(a)に示すように棒状部材21をサービスホール19aから全周シール1と開口部Xとを通して地盤G中に突出して、前述したように棒状部材21によって全周シール1の近傍の地盤Gをほぐす。ほぐし終えると、棒状部材21をサービスホール19aから抜去して、シャッタ20を閉じる。次に、突出駆動部11によってボーリングロッド6をF方向へ押し、ボーリングロッド6の刃6aを全周シール1と開口部Xとを通して、図8A(b)に示すように地盤G中に突出させる。このとき、全周シール1の近傍の地盤Gがほぐれているので、ボーリングロッド6の刃6aを容易に地盤G中へ突出できる。
【0041】
ボーリングロッド6の刃6aを突出させると、突出駆動部11によってボーリングロッド6をF方向へ押し出して行くことと、回転駆動部8によってボーリングロッド6を回転させることと、ボーリングロッド6の吐出口6b(図6)から構壁材を吐出することとをそれぞれ同時に行う。これにより、ボーリングロッド6によって地盤Gが掘削されて、ボーリングロッド6の径よりも若干大きな径の削孔Vが形成されつつ当該削孔V内に構壁材(図では符号Yで示す。)が充填されて行く。このとき、掘削された土砂が構壁材Yと混ざり合って、ボーリングロッド6と全周シール1との隙間S(図6)を通って土砂受け部2aに入り込み、さらに排土管17(図4)を通って一定の背圧をかけられながら樋管Z外へ排出されて行く。これにより、削孔V内に充填した構壁材Yの圧力が上記一定の背圧に保持される。なお、構壁材Yは、セメント等の粒子が大きくて削孔Vの壁に目詰まりするため、地盤G中へ殆ど浸透せずに削孔Vの壁を圧迫する。また、構壁材Yは粘性が高いため、削孔V内から全周シール1の切れ目1a(図1)を通って樋管Z内に漏れ難い。そして、図8A(c)に示すようにボーリングロッド6を最大限F方向へ押し出すと、突出駆動部11によってボーリングロッド6をD方向へ引っ込めて行って、樋管Z内へ没入させる。このとき、ボーリングロッド6の回転と構壁材Yの吐出とを継続して行うと、削孔V内で土砂と構壁材Yとが均一な状態で混ざり合い、削孔V内の圧力が上記一定の背圧のまま保持された状態が維持される。
【0042】
ボーリングロッド6を樋管Z内へ没入させると、スライドシリンダ13(図2)によってスライドプレート4等とともにボーリングロッド6とを、図8A(d)に示すようにボーリングロッド6の径よりも小さな所定ピッチでR方向へ移動させる。移動後、上述したように突出駆動部11によってボーリングロッド6の刃6aを地盤G中に突出させる。このとき、突出させる地盤Gの側近に既に削孔Vを施しているので、当該地盤Gが軟らかくなっていて、ボーリングロッド6の刃6aが容易に突出できる。続けて、上述したようにボーリングロッド6をF方向へ押し出して行くことと、ボーリングロッド6を回転させることと、吐出口6bから構壁材Yを吐出することとをそれぞれ同時に行って、地盤G中に削孔Vを形成しつつ当該削孔V内に構壁材Yを充填して行く。このとき、ボーリングロッド6の一部が1本目の削孔V内を進んで行き、1本目の削孔Vと2本目の削孔Vとが重なり合う。そして、図8B(e)に示すようにボーリングロッド6を最大限F方向へ押し出すと、上述したようにボーリングロッド6を樋管Z内へ没入させて、所定ピッチでさらにR方向へ移動させる。移動後、再びボーリングロッド6によって地盤G中に削孔Vを施しつつ当該削孔V内に構壁材Yを充填する削孔工程を行う。
【0043】
そして、上記削孔工程をスライドシリンダ13によってボーリングロッド8をR方向へ移動させながら4回行って、図8B(f)に示すように地盤G中に4本の削孔Vを施すと、ボーリングロッド6を樋管Z内へ没入させて、図8B(g)に示すようにスライドプレート4等とともにボーリングロッド6を最大限L方向へ移動させる。そして移動後、前述したように旋回シリンダ14(図2)によって弓形ボックス2等とともにボーリングロッド6を、図8B(h)に示すようにQ方向へ所定角度旋回させる。このときの旋回角度は、次に出没駆動部11によってボーリングロッド6を最大限地盤G中に押し出したときに、ボーリングロッド6の刃6aが既に施した削孔V内に確実に入り込むような小さな角度に設定しておく。ボーリングロッド6をQ方向へ所定角度旋回させると、上記削孔工程をボーリングロッド8をR方向へ移動させながら4回行って、図8C(i)に示すように地盤G中にさらに4本の削孔Vを施す。このとき地盤G中に施された8本の削孔Vの先端側(F方向側)の状態を図9に示す。図9では、旋回シリンダ14による旋回前に施された4本の削孔Vを2点鎖線で示し、旋回後に施された4本の削孔Vを実線で示している。全8本の削孔Vは、隣接する削孔V同士で重なり合って、深度方向の全体に渡って連続した状態になっている。
【0044】
この後、上述したように、ボーリングロッド6の樋管Z内への没入と、ボーリングロッド6のL方向への最大限の移動と、ボーリングロッド6のQ方向への所定角度の旋回と、ボーリングロッド8をR方向へ移動させながらの4回の上記削孔工程という一連の作業を繰り返し行うと、図8C(j)に示すように樋管Z周りに構壁材Yを充填した連続状態の複数の削孔Vからなる溝Mが形成されて、徐々にQ方向へ拡大されて行く。その際、地盤G中に岩等の硬質の障害物Eがあっても、ボーリングロッド6を出没駆動部11によってF方向へ押し出しながら回転駆動部8によって回転させて地盤Gを掘削しているので、図8C(k)に示すようにボーリングロッド6の刃6aで障害物Eを粉砕して、削孔Vの形成を継続することができる。また、ボーリングロッド6の刃6aを障害物Eの種類(質、大きさ、強度等)に応じたタイプのものに交換することで、障害物Eを一層確実に粉砕することが可能となる。
【0045】
そして、上述の一連の作業を繰り返し行って、ボーリングロッド6を円周方向Qに360°旋回させ終えると、図10(l)に示すように樋管Z周りに構壁材Yを充填した環状の溝Mが形成された状態となる。この後は、壁体構築装置100を解体して撤去し、図10(m)に示すように樋管Z同士の接続部に分割接続リングRgを組み付けて元に戻す。そしてしばらくした後、溝M内の構壁材Yが硬化すると、樋管Z周りに環状の壁体Wが樋管Zに対して垂直に構築されて遮水壁となる。
【0046】
また、壁体構築装置100を解体して撤去した後、分割接続リングRgを組み付けずに、溝M内の構壁材Yが硬化するまでの間に、図11(n)に示すように鋼材からなる止水板25を全周シール1を押しのけて溝M内に挿入し、止水板25の底部25aを樋管Z同士の接続部にボルトで固定するようにしてもよい。なお、止水板25の挿入は、ジャッキやシリンダ等を用いて行う。止水板25を1枚固定すると、別の止水板25を固定済みの止水板25に沿わせながら全周シール1を押しのけて溝M内に挿入し、底部25aを樋管Zに固定する。そして、次々に止水板25を溝M内に挿入して樋管Zに固定して行くと、最終的に、図11(o)に示すように樋管Z周りに止水板25が環状に設置された状態になる。このような状態になると、樋管Zの開口部Xが、図12に示すように止水板25の底部25aで閉じられるので、そのまま溝M内の構壁材Yを硬化させる。なおこのとき、底部25aの上に分割接続リングRgを組み付けて元に戻してもよい。この後、構壁材Yが硬化すると、樋管Z周りに止水板25を埋設した環状の壁体Waが樋管Zに対して垂直に構築されて遮水壁となる。
【0047】
以上のように、開口部Xに全周シール1を設けて、ボーリングロッド6によって地盤G中に削孔Vを施しつつ当該削孔V内に構壁材Yを充填することで、樋管Z周りに閉空間状態の削孔Vが形成されて、当該削孔V内に充填した構壁材Yが削孔Vの壁を圧迫するようになり、地盤Gの崩壊や地下水の浸透を生じることなく、樋管Zに対して垂直に環状の溝Mを形成することができる。また、回転駆動部8によってボーリングロッド6を回転させることで、掘削した地盤Gの土砂と吐出口6bから吐出した構壁材Yとを削孔V内で攪拌して、均一に混合させることができる。よって、形成した溝M内で構壁材Yが地盤G中に拡散して行くことなく硬化し、樋管Z周りに均質な遮水性能の高い環状の壁体Wを構築することが可能となる。そしてこの結果、特許文献1のような地盤改良工程を行う必要がなくなるとともに、溝Mの掘削形成工程と溝M内への構壁材Yの注入充填工程とを同時に行うので、壁体Wを構築する工程が一段階になり、コストを削減し工期を短縮することが可能となる。また、特許文献1のように地盤改良装置と掘削機の2台の装置を必要とせず、1台の壁体構築装置100で壁体Wを構築することができるので、装置の設置や撤去の作業に手間と時間がかからず、コストの削減と工期の短縮とを一層推進可能となる。また、壁体構築装置100は、特許文献1の地盤改良装置や掘削機と比べて小型で、樋管Z内での占有スペースが小さいので、樋管Z内で作業がし易く、設置と撤去に手間と時間がかからず、コストの削減と工期の短縮を一層推進可能となる。
【0048】
また、例えば特許文献1の掘削アームのような部材を用いると、掘削速度が遅く、予め他の装置を用いて地盤G中に当該部材の掘削部を突出可能な大きな削孔を施しておく必要がある。然るに、上述のようにボーリングロッド6を地盤G中で押し進めながら回転させて地盤Gを掘削するという所謂ボーリング掘削方式を採用したことで、掘削速度を速くすることができ、また、他の装置を用いて地盤G中に大きな予備削孔を施しておかなくても、地盤G中に削孔Vを施すことができ、掘削工程および装置の設置や撤去の作業に手間と時間がかからず、コストの削減と工期の短縮を一層推進可能となる。また、地盤G中に岩等の硬質の障害物Eがあっても、例えばはつり機のような他の装置を用いることなく、当該障害物Eをボーリングロッド6によって粉砕しつつ掘削を継続することができ、装置の設置や撤去の作業に手間と時間がかからず、コストの削減と工期の短縮を一層推進可能となる。
【0049】
また、ボーリングロッド6によって地盤G中に削孔Vを施しつつ当該削孔V内に構壁材Yを充填する削孔工程を、スライドシリンダ13によってボーリングロッド6を出没方向F、Dと垂直でかつ樋管Zの円周方向Qと平行なR方向へ移動させて複数回行った後に、旋回シリンダ14によってボーリングロッド6をQ方向に旋回させることで、隣接する削孔V同士を深度方向の全体に渡って着実に連続させて、樋管Z周りに環状の溝Mを確実に形成することができる。そして、当該溝M内の構壁材Yを硬化させることで、樋管Z周りに欠陥のない遮水性能の高い環状の壁体Wを構築することが可能となる。
【0050】
また、全周シール1によって開口部Xを閉じることで、ボーリングロッド6によって掘削した土砂や削孔V内に充填した構壁材Yが開口部Xから樋管Z内に漏れるのを防止することができ、樋管Z内で作業を安全に行えるようになる。また、ボーリングロッド6を樋管Z内でQ方向へ旋回させかつL、R方向へ移動させるので、当該旋回および移動に要する力が小さくて済み、旋回手段として小型の旋回シリンダ14、スライド手段として小型のスライドシリンダ13をそれぞれ用いることができ、コストの削減を一層推進可能となる。
【0051】
また、ボーリングロッド6によって掘削した土砂とこれに混ざり合った構壁材Yを、削孔V内からボーリングロッド6と全周シール1との隙間S、弓形ボックス2の土砂受け部2a、および排土管17をそれぞれ通して、一定の背圧をかけながら外部に排出することができるので、樋管Z内で作業を安全に行えるようになる。また、削孔V内の構壁材Y等の圧力が一定の背圧に保持されるので、樋管Zの上方に形成された削孔V内の構壁材Y等が下方に流れ難くなって、当該上方の削孔V内に空隙が生じるのを防止することができる。また、構壁材Y等が常に一定の圧力で削孔Vの壁を圧迫するようになるので、地盤Gの崩壊や地下水の浸透を安定かつ確実に防止することが可能になる。
【0052】
また、最初にボーリングロッド6を樋管Z内から地盤G中に突出させる前に、棒状部材21をサービスホール19aから挿入して、土砂受け部2a、全周シール1、および開口部Xをそれぞれ通して地盤G中に突出させ、全周シール1の近傍の地盤Gをほぐすことができるので、ボーリングロッド6を回転させることなく、そのほぐした部分にボーリングロッド6の先端部を容易に突出させることが可能になる。また、ボーリングロッド6の刃6aによる全周シール1の破損を防止することができ、全周シール1の地盤Gと樋管Z内との隔離性能を維持することが可能になる。また、土砂受け部2a等に土砂等が詰まった場合には、土砂等をサービスホール19aから除去することができる。その際、全周シール1と弓形ボックス2との間に設けたシャッタ5を閉じることで、地盤Gと樋管Z内とを確実に閉塞して、全周シール1の切れ目1aからの土砂や構壁材の漏れを確実に防止することができ、土砂受け部2a等に詰まった土砂等をサービスホール19aから安全に除去することが可能となる。
【0053】
さらに、樋管Z周りに環状の溝Mを形成してから、止水板25を全周シール1と開口部Xとを通して溝M内に挿入して樋管Z周りに環状に設置することで、溝M内の構壁材Yが硬化したときに、止水板25が埋設された環状の壁体Waが樋管Z周りに形成され、当該壁体Waの遮水性能を長期間維持することが可能となる。また、溝M内の構壁材Yが硬化するまでの間に止水板25を溝M内に挿入することで、ジャッキやシリンダ等の小型の機材を用いて、小さな挿入力で溝M内に止水板25を容易に挿入することができる。また、溝M内の構壁材Yを流動性を失う半硬化の状態まで硬化させた後、止水板25を溝M内に挿入すると、止水板25の挿入時に止水板25と全周シール1との隙間から構壁材Yが樋管Z内に漏れるのを防止することができる。
【0054】
以上述べた実施形態においては、隔離部材としての環状の全周シール1を、分割接続リングRgを解体撤去する前から開口部Xに設けた例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではなく、隔離部材は、分割接続リングRgを解体撤去した後に開口部Xに設けるようにしてもよい。
【0055】
また、以上の実施形態では、全周シール1の近傍の地盤Gをほぐすために、先端が若干曲がった棒状部材21を用いた例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではなく、これ以外に、バールのような真直な部材や、鉤状の部材を用いるようにしてもよい。つまり、全周シール1の近傍の地盤Gを突いたり削ったりして、ほぐすことができる部材であればよい。また、全周シール1の近傍の地盤Gをほぐす部材と、当該地盤Gに水を吐出する部材とを別々に設けるようにしてもよい。
【0056】
また、以上の実施形態では、分割接続リングRgの組み付け作業や、止水板25の挿入設置作業を、壁体構築装置100を撤去した後に行っているが、これらの作業は、壁体構築装置100を樋管Zに設置したまま行ってもよい。また、溝Mの拡大中に、随時行うようにしてもよい。
【0057】
さらに、以上の実施形態では、削孔Vの形成や溝M内への止水板25の挿入設置といった作業を、樋管Zの下方から開始した例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではなく、これらの作業は、環状の開口部Xの全体に渡って全周シール1を設けているため、樋管Zのどの方向からでも開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築装置の平面図である。
【図2】同壁体構築装置を図1のA方向から見た側面図である。
【図3】同壁体構築装置の図1(b)におけるB−B断面図である。
【図4】同壁体構築装置の図1(b)におけるC−C断面図である。
【図5】同壁体構築装置のシャッタを示す図である。
【図6】同壁体構築装置のボーリングロッドの地盤突出状態を示す図である。
【図7】同壁体構築装置に挿入された棒状部材を示す図である。
【図8A】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明する図である。
【図8B】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明する図である。
【図8C】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明する図である。
【図9】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明する図である。
【図10】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明する図である。
【図11】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明する図である。
【図12】本発明の実施形態に係る管周りの壁体構築工法を説明する図である。
【図13】従来の管周りの壁体構築状況を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
1 全周シールパッキン
2 弓形ボックス
2a 土砂受け部
4 スライドプレート
5 シャッタ
6 ボーリングロッド
6a 刃
6b 吐出口
8 回転駆動部
11 出没駆動部
13 スライドシリンダ
14 旋回シリンダ
17 排土管
19a サービスホール
25 止水板
100 管周りの壁体構築装置
D ボーリングロッドの没入方向
E 障害物
F ボーリングロッドの突出方向
G 地盤
J ボーリングロッドの軸
M 溝
Q 樋管の円周方向、ボーリングロッドの旋回方向
R ボーリングロッドの移動方向
L ボーリングロッドの移動方向
S ボーリングロッドと全周シールパッキンとの隙間
W 壁体
Wa 壁体
X 開口部
Y 構壁材
Z 樋管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に敷設されている管に形成された環状の開口部を通じて、前記管内から管周りに壁体を構築する管周りの壁体構築装置であって、
前記開口部を閉じて地盤と管内とを隔離する隔離部材と、
先端部に地盤を掘削するための刃と硬化性を有する構壁材を吐出するための吐出口とが設けられたボーリングロッドと、
前記ボーリングロッドを前記隔離部材と前記開口部とを通して地盤中に対して出没させる出没手段と、
前記ボーリングロッドを該ボーリングロッドの軸を中心に回転させる回転手段と、
前記ボーリングロッドを前記管の円周方向に旋回させる旋回手段と、を備えたことを特徴とする管周りの壁体構築装置。
【請求項2】
請求項1に記載の管周りの壁体構築装置において、
前記ボーリングロッドを前記出没手段による出没方向と垂直でかつ前記管の円周方向と平行な方向へ移動させるスライド手段を備えたことを特徴とする管周りの壁体構築装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の管周りの壁体構築装置において、
前記隔離部材をまたぐように前記管内に取り付けられて、前記ボーリングロッドを保持する保持部材を備え、
前記保持部材に、前記ボーリングロッドと前記隔離部材との隙間を通って前記管内に入り込む土砂を受止める土砂受け部と、当該土砂受け部で受止めた土砂を一定の背圧をかけながら排出する排土管とを設けたことを特徴とする管周りの壁体構築装置。
【請求項4】
請求項3に記載の管周りの壁体構築装置において、
前記保持部材に、前記隔離部材の近傍の地盤をほぐすための作業孔を設けたことを特徴とする管周りの壁体構築装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の管周りの壁体構築装置において、
前記隔離部材と前記保持部材との間に、開閉可能なシャッタを設けたことを特徴とする管周りの壁体構築装置。
【請求項6】
地盤中に敷設されている管に形成された環状の開口部を通じて、前記管内から管周りに壁体を構築する管周りの壁体構築工法であって、
前記開口部に地盤と前記管内とを隔離する隔離部材を設け、
先端部に地盤を掘削するための刃と硬化性を有する構壁材を吐出するための吐出口とが設けられたボーリングロッドを、前記管内から前記隔離部材と前記開口部とを通して地盤中へ押し出し、かつ前記ボーリングロッドを当該ボーリングロッドの軸を中心に回転させ、かつ前記構壁材を前記吐出口から吐出することにより、地盤中に削孔を施しつつ当該削孔内に前記構壁材を充填し、
当該削孔工程を前記管内で前記ボーリングロッドを前記管の円周方向に旋回させて繰り返し行うことにより、前記管周りに連続した状態の複数の前記削孔からなる環状の溝を形成し、
当該溝内の前記構壁材を硬化させて前記管周りに環状の壁体を構築することを特徴とする管周りの壁体構築工法。
【請求項7】
請求項6に記載の管周りの壁体構築工法において、
前記削孔工程を前記管内で前記ボーリングロッドを該ボーリングロッドの出没方向と垂直でかつ前記管の円周方向と平行な方向へ移動させて複数回行った後に、前記管内で前記ボーリングロッドを前記管の円周方向に旋回させることを特徴とする管周りの壁体構築工法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の管周りの壁体構築工法において、
前記隔離部材の近傍の地盤を前記ボーリングロッドの先端部を突出可能にほぐした後に、前記削孔工程を行うことを特徴とする管周りの壁体構築工法。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の管周りの壁体構築工法において、
前記管周りに前記環状の溝を形成してから当該溝内の前記構壁材が硬化するまでの間に、止水板を前記隔離部材と前記開口部とを通して前記溝内に挿入して前記管周りに環状に設置することを特徴とする管周りの壁体構築工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−152554(P2006−152554A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340279(P2004−340279)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)6月4日 「日刊建設工業新聞」に発表
【出願人】(000160784)株式会社クボタ建設 (8)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】