説明

管壁の硬度測定方法および装置

【課題】血管等の管状の被検体の管壁硬度を、容易に測定する。
【解決手段】管状の被検体に吸収される波長のパルス光を光源13から照射し、それにより被検体から発せられた音響波を音響波検出手段11により検出する。そして、検出された音響波のうち、ある被検体管壁部分で発生した後に別の被検体管壁部分で反射して音響波検出手段11に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定する演算手段44を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管等の管壁の硬度を測定する方法、およびその方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1や非特許文献1に示されているように、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響画像化装置が知られている。この光音響画像化装置においては、例えばパルスレーザ光等のパルス光が生体に照射される。このパルス光の照射を受けた生体内部では、パルス光のエネルギーを吸収した生体組織が熱によって体積膨張し、音響波を発生する。そこで、この音響波を超音波プローブなどで検出し、それにより得られた電気的信号(光音響信号)に基づいて生体内部を可視像化することが可能となっている。光音響画像化方法は、特定の吸光体から放射される音響波のみに基づいて画像を構築するようにしているので、生体における特定の組織、例えば血管等を画像化するのに好適である。
【0003】
光音響画像には、光吸収体である生体中の血管等を抽出して表示できる利点があり、例えば特許文献2には、このように抽出した血管を表示する技術が示されている。
【0004】
他方、臨床あるいは医学研究の場においては、動脈硬化の危険性を把握する等のために、血管壁特に動脈血管壁の硬度を正確に測定する要求が存在する。従来、血管壁の硬度測定は、主に腕から足首までの脈波の伝達速度を測るいわゆるPWV(脈波伝播速度 Pulse Wave Velocity) 検査によってなされている。
【0005】
一方、例えば癌転移の有無を検査するためにリンパ管壁の硬度を調べることもなされているが、従来、その硬度は医師等の触診により、あるいは特許文献3に示されるようにカテーテルを使用して調べられるのが一般的となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【特許文献2】特表2010−512929号公報
【特許文献3】特開2008−142253号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A High-Speed Photoacoustic Tomography System based on a Commercial Ultrasound and a Custom Transducer Array, Xueding Wang, Jonathan Cannata, Derek DeBusschere, Changhong Hu, J. Brian Fowlkes, and Paul Carson, Proc. SPIE Vol. 7564, 756424 (Feb.23, 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述したPWV検査には、測定に時間を要する点で問題がある。また、触診やカテーテル使用によりリンパ管壁の硬度を調べる方法には、熟達が必要であるという難点が認められる。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、血管壁やリンパ管壁等の管壁の硬度を短時間で簡単に測定することができる方法を提供することを目的とする。
【0010】
また本発明は、そのような方法を実施することができる装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による管壁の硬度測定方法は、
管状の被検体に吸収される波長のパルス光を光源から照射し、
それにより被検体から発せられた音響波を音響波検出手段により検出し、
この検出された音響波のうち、ある被検体管壁部分で発生した後に別の被検体管壁部分で反射して前記音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定することを特徴とするものである。
【0012】
この本発明による管壁の硬度測定方法においては、検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定することが望ましい。
【0013】
そしてそのようにする場合は、音響波検出手段により検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波と、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波との強度比に基づいて被検体管壁の硬度を測定することが特に望ましい。
【0014】
また上記のように、検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定する場合は、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射した音響波を、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波が音響波検出手段に入射した後の経過時間に基づいて判別することが好ましい。
【0015】
そして本発明による管壁の硬度測定方法は、被検体が生体の血管や、あるいは生体のリンパ管である場合に特に好適に実施されるものである。なお、リンパ管を被検体とする場合は、リンパ管に造影剤を注入した状態で音響波の検出を行うことが望ましい。
【0016】
また、本発明による管壁の硬度測定方法においては、測定した被検体管壁の硬度を表示および/または記録することが望ましい。
【0017】
他方、本発明による管壁の硬度測定装置は、
管状の被検体に対して、該被検体に吸収される波長のパルス光を照射する光源と、
それにより被検体から発せられた音響波をパルス光照射側から検出する音響波検出手段と、
この検出された音響波のうち、ある被検体管壁部分で発生した後に別の被検体管壁部分で反射して前記音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定する演算部とを備えたことを特徴とするものである。
【0018】
なお上記演算部は、前記検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定するものであることが望ましい。
【0019】
演算部を上述のような構成とする場合、その演算部はより望ましくは、前記音響波検出手段により検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波と、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波との強度比に基づいて前記硬度を測定するように構成される。
【0020】
そして、上記のように演算部が、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定するように構成される場合、その演算部はより望ましくは、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射した音響波を、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波が音響波検出手段に入射した後の経過時間に基づいて判別するものとされる。
【0021】
また、本発明による管壁の硬度測定装置は、測定された被検体管壁の硬度を表示および/または記録する手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
管壁部分で発生した後に、他の管壁部分で反射してから音響波検出手段に検出される音響波は、反射することにより減衰して音響波検出手段に入射することになる。そしてその減衰の程度は、管壁硬度がより高いほど小さいものとなる。つまり、管壁がより硬いほど、検出される反射音響波の強度は高いものとなる。
【0023】
この知見に鑑みて本発明による管壁の硬度測定方法は、ある被検体管壁部分で発生した後に別の被検体管壁部分で反射して音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定するようにしたので、本方法によれば管壁の硬度を短時間で簡単に測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態による管壁の硬度測定装置の概略構成を示すブロック図
【図2】血管壁における光音響信号の発生を説明する概略図
【図3】図1の装置において検出される音響波の波形を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態である光音響画像化装置10の基本構成を示すブロック図である。この光音響画像化装置10は、光音響画像と超音波画像の双方を取得可能で、それに加えて、血管壁の硬度を測定する機能も備えたものであり、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13、および画像表示手段14を備えている。
【0026】
上記レーザ光源ユニット13は所定波長のパルスレーザ光を発するもので、そこから射出されたパルスレーザ光は被検体に照射される。このパルスレーザ光は、図1では出射方向については概略的に示してあるが、例えば複数の光ファイバなどの導光手段を用いてプローブ11まで導光され、プローブ11の部分から被検体に向けて照射されるのが望ましい。
【0027】
プローブ11は、被検体に対する超音波の出力(送信)、および被検体から反射して戻って来た反射超音波の検出(受信)を行う。そのためにプローブ11は、例えば一次元に配列された複数の超音波振動子を有する。またプローブ11は、被検体内の観察対象物がレーザ光源ユニット13からのレーザ光を吸収することで生じた超音波(音響波)を、複数の超音波振動子によって検出する。プローブ11は、上記音響波を検出して音響波検出信号を出力し、また上記反射超音波を検出して超音波検出信号を出力する。
【0028】
なお、プローブ11に上述した導光手段が結合される場合は、その導光手段の端部つまり複数の光ファイバの先端部等が、複数の超音波振動子の並び方向(図1中の左右方向)に沿って配置され、そこから被検体に向けてレーザ光が照射される。以下では、このように導光手段がプローブ11に結合される場合を例に取って説明する。
【0029】
被検体の光音響画像あるいは超音波画像を取得する際、プローブ11は複数の超音波振動子が並ぶ一次元方向に対してほぼ直角な方向に移動され、それにより被検体がレーザ光および超音波によって二次元走査される。この走査は、検査者が手操作でプローブ11を動かして行ってもよく、あるいは、走査機構を用いてより精密な二次元走査を実現するようにしてもよい。
【0030】
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、データ分離手段24、光音響画像再構成手段25、検波・対数変換手段26、および光音響画像構築手段27を有している。
【0031】
上記受信回路21は、プローブ11が出力した前記音響波検出信号および超音波検出信号を受信する。AD変換手段22はサンプリング手段であり、受信回路21が受信した音響波検出信号および超音波検出信号をサンプリングして、それぞれデジタル信号である光音響データおよび超音波データに変換する。このサンプリングは、例えば外部から入力されるADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期でなされる。
【0032】
また超音波ユニット12は、上記データ分離手段24の出力を受ける超音波画像再構成手段40に加えて、検波・対数変換手段41、超音波画像構築手段42、この超音波画像構築手段42および前記光音響画像構築手段27の出力を受ける画像合成手段43を有している。この画像合成手段43の出力は、例えばCRTや液晶表示装置等からなる画像表示手段14に入力される。さらに超音波ユニット12は、送信制御回路30、および超音波ユニット12内の各部等の動作を制御する制御手段31を有している。
【0033】
上記AD変換手段22が出力した光音響データあるいは超音波データは、一旦受信メモリに格納された後、データ分離手段24に入力される。データ分離手段24は入力された光音響データと超音波データとを互いに分離し、光音響データは光音響画像再構成手段25に入力させ、超音波データは超音波画像再構成手段40に入力させる。
【0034】
レーザ光源ユニット13は、Ti:Sapphireレーザ等からなるQスイッチパルスレーザ32と、その励起光源であるフラッシュランプ33とを備えた固体レーザユニットである。なお以下では、特に血管を示す光音響画像を取得する場合を例に挙げて説明するが、その場合レーザ光源ユニット13としては、血管において良好に吸収される波長のパルスレーザ光を発するものが選択利用される。
【0035】
このレーザ光源ユニット13は、上記制御手段31から光出射を指示する光トリガ信号を受けると、フラッシュランプ33を点灯させてQスイッチパルスレーザ32を励起する。制御手段31は、例えばフラッシュランプ33がQスイッチパルスレーザ32を十分に励起させると、Qスイッチトリガ信号を出力する。Qスイッチパルスレーザ32は、Qスイッチトリガ信号を受けるとそのQスイッチをオンにし、パルスレーザ光を出射させる。
【0036】
ここで、フラッシュランプ33の点灯からQスイッチパルスレーザ33が十分な励起状態となるまでに要する時間は、Qスイッチパルスレーザ33の特性などから見積もることができる。なお、上述のように制御手段31からQスイッチを制御するのに代えて、レーザ光源ユニット13内において、Qスイッチパルスレーザ32を十分に励起させた後にQスイッチをオンにしてもよい。その場合は、Qスイッチをオンにしたことを示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。
【0037】
また制御手段31は、送信制御回路30に、超音波送信を指示する超音波トリガ信号を入力する。送信制御回路30はこの超音波トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。制御手段31は、先に前記光トリガ信号を出力し、その後、超音波トリガ信号を出力する。光トリガ信号が出力されることで被検体に対するレーザ光の照射、および音響波の検出が行われ、その後、超音波トリガ信号が出力されることで被検体に対する超音波の送信、および反射超音波の検出が行われる。
【0038】
制御手段31はさらに、AD変換手段22に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。このサンプリングトリガ信号は、前記光トリガ信号が出力された後で、かつ超音波トリガ信号が出力される前、より好ましくは被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで出力される。そのためにサンプリングトリガ信号は、例えば制御手段31がQスイッチトリガ信号を出力するタイミングに同期して出力される。AD変換手段22は上記サンプリングトリガ信号を受けると、プローブ11が出力して受信回路21が受信した音響波検出信号のサンプリングを開始する。
【0039】
制御手段31は、光トリガ信号を出力した後、音響波の検出を終了するタイミングで超音波トリガ信号を出力する。このとき、AD変換手段22は音響波検出信号のサンプリングを中断せず、サンプリングを継続して実施する。言い換えれば、制御手段31は、AD変換手段22が音響波検出信号のサンプリングを継続している状態で、超音波トリガ信号を出力する。超音波トリガ信号に応答してプローブ11が超音波送信を行うことで、プローブ11の検出対象は、音響波から反射超音波に変わる。AD変換手段22は、検出された超音波検出信号のサンプリングを継続することで、音響波検出信号と超音波検出信号とを連続的にサンプリングする。
【0040】
AD変換手段22は、サンプリングして得られた光音響データおよび超音波データを、共通の受信メモリ23に格納する。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、ある時点までは光音響データであり、ある時点からは超音波データとなる。データ分離手段24は、受信メモリ23に格納された光音響データと超音波データとを分離し、光音響データを光音響画像再構成手段25に入力し、超音波データを超音波画像再構成手段40に入力する。
【0041】
以下、超音波画像および光音響画像の生成、表示について説明する。超音波画像再構成手段40は、プローブ11が有する複数の超音波振動子毎のデータとなっている上記超音波データを加算して、1ライン分の超音波断層画像データを生成する。検波・対数変換手段41はこの超音波断層画像データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げた後、このデータを超音波画像構築手段42に入力する。超音波画像構築手段42は、検波・対数変換手段41が出力した各ラインのデータに基づいて超音波断層画像(超音波エコー画像)を生成する。すなわちこの超音波画像構築手段42は、例えば前述した超音波検出信号のピーク部分の時間軸方向の位置が、断層画像における深さ方向の位置に変換されるようにして超音波断層画像を生成する。
【0042】
以上の処理は、プローブ11の走査移動に伴って逐次なされ、それにより、被検体の走査方向に亘る複数箇所に関する超音波断層画像が生成される。そしてこれらの超音波断層画像を担持する画像データは、画像合成手段43に入力される。なお、超音波断層画像のみを単独で表示したい場合は、超音波断層画像を担持する上記画像データが画像合成手段43を素通りさせて画像表示手段14に送られ、この画像表示手段14に超音波断層画像が表示される。
【0043】
次に、光音響画像の生成および表示について説明する。光音響画像再構成手段25には、データ分離手段24において超音波データと分離された光音響データ、つまり、血管に吸収される波長のパルスレーザ光を被検体に照射して得られた光音響データが入力される。光音響画像再構成手段25は、プローブ11が有する複数の超音波振動子毎のデータとなっている上記光音響データを加算して、1ライン分の光音響画像データを生成する。検波・対数変換手段26はこの光音響画像データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げた後、このデータを光音響画像構築手段27に入力する。光音響画像構築手段27は、各ライン毎の光音響画像データに基づいて光音響画像を生成する。すなわちこの光音響画像構築手段27は、例えば光音響画像データのピーク部分の時間軸方向の位置が、断層画像における深さ方向の位置に変換されるようにして光音響画像を生成する。
【0044】
以上の処理は、プローブ11の走査移動に伴って逐次なされ、それにより、被検体の走査方向に亘る複数箇所に関する光音響画像が生成される。そしてこれらの光音響画像を担持する画像データは画像合成手段43に入力され、そこで前述の超音波断層画像を担持する画像データと合成され、合成されたデータが担持する画像が画像表示手段14に表示される。この合成されたデータに基づいて表示される画像は、超音波断層画像内に、光音響画像である血管画像が示されたものとなる。なお、この血管画像は所定の色で着色して、他の部分と明確に区別されるようにしてもよい。
【0045】
次に、血管壁の硬度を測定する点について説明する。図2は、血管壁の部分から音響波が発生する様子を概略的に示すものである。ここでは、前述したように複数の光ファイバの先端部等からなる導光手段15がプローブ11に結合されていて、そこからパルスレーザ光Lが血管に向けて照射されるものとする。なお同図では、血管壁の部分をBVとして示している。このようにパルスレーザ光Lが照射されると、血管内の血液がそれを吸収して膨張することにより、血管壁BVの部分が振動して音響波が発せられる。
【0046】
このとき、パルスレーザ光Lの照射後に最も早くプローブ11に直接検出される音響波、つまり音響波検出手段側(プローブ11)に最も近い血管壁部分で発生する音響波Sfと、音響波検出手段側(プローブ11)から最も遠い血管壁部分で発生して最も遅くプローブ11に直接検出される音響波Srについて、それらの検出タイミングを図3に示す。同図における横軸は時間、縦軸は音響波の強度つまり音圧(これはプローブ11が出力する音響波検出信号の電圧と対応する)である。ここに示される通り、プローブ11が上記音響波Sfを直接検出してから時間Tが経過した後に上記音響波Srが直接検出される。この時間Tは、音響波Srが血管の直径を進行するのに要する時間であり、つまりT=音速/血管直径となる。
【0047】
上記音響波Sfはプローブ11に直接検出される他、プローブ11とは反対方向に進行して、プローブ11から最も遠い血管壁部分で反射してからプローブ11に検出されることもある。この反射した音響波を図3においてはSf′として示す。この音響波Sf′は、血管を1往復してからプローブ11に到達するので、音響波Sfと比べると時間2Tだけ遅れてプローブ11に検出される。なお、音響波Sfが反射する際にその位相は反転する。また、血管壁BVが例えば膨張するとき、プローブ11に最も遠い血管壁部分はプローブ11側に動き、プローブ11から最も遠い血管壁部分はプローブ11と反対側に動くので、音響波Sfと音響波Srも位相が互いに逆になる。
【0048】
一方、音響波Srも、プローブ11に直接検出される他、プローブ11側に進行して、プローブ11に最も近い血管壁部分で反射し、さらにプローブ11に最も遠い血管壁部分で反射してからプローブ11に検出されることもある。この反射した音響波を図3においてはSr′として示す。この音響波Sr′は、直接プローブ11に入射する音響波Srと比べると、血管直径の1往復分だけ長い距離を進行してからプローブ11に到達するので、音響波Srと比べると時間2Tだけ遅れてプローブ11に検出される。
【0049】
以上述べたように直接検出される音響波Sfおよび、反射してから検出される音響波Sf′の強度つまり音圧に着目すると、音響波Sf′は反射する際に減衰するので、直接検出される音響波Sfよりも音圧が低いものとなる。そして音響波Sf′は、血管壁BVの硬度が高いほどより良好に反射するから、プローブ11に検出される音響波Sf′の音圧に基づいて、血管壁BVの硬度を測定することが可能になる。
【0050】
そこで本実施形態では図1に示されるように、データ分離手段24が出力した光音響データが演算手段44に入力され、そしてこの演算手段44が、音響波Sf、Sf′の各ピーク値を示す光音響データに基づいて、音圧比=(検出された音響波Sf′の音圧)/(検出された音響波Sfの音圧)の値から、血管壁BVの硬度を演算する。なお上記音響波Sfのピーク値を示す光音響データは、プローブ11が出力する音響波検出信号の中で最初にピーク値を示した信号に対応するものであり、また音響波Sf′のピーク値を示す光音響データは、上記最初にピーク値を示した信号から時間2Tだけ遅れてプローブ11が出力したピーク値を示す信号に対応するものである。演算手段44は上記時間2Tに基づいて、音響波Sf、Sf′の各ピーク値を示す光音響データを判別する。
【0051】
上述のようにして測定された血管壁BVの硬度を示す情報は、一例として前記画像合成手段43に入力され、そこで、光音響画像を担持する画像データ並びに超音波断層画像を担持する画像データと合成される。それにより、画像表示手段14に表示される画像中において、測定された血管壁の硬度が数値等で表示される。この硬度は、例えばPWV(脈波伝播速度 Pulse Wave Velocity)等、従来から一般的となっている指標に換算して示すことができるが、それに限らず、固有の硬度指標で示すようにしてもよい。
【0052】
以上の説明から明らかな通り本実施形態においては、レーザ光源ユニット13および導光手段15が、被検体にパルス光を照射する光源を構成し、プローブ11が、被検体から発せられた音響波を検出する手段を構成している。
【0053】
なお上記実施形態では、音圧比=(検出された音響波Sf′の音圧)/(検出された音響波Sfの音圧)の値に基づいて血管壁硬度を測定しているが、プローブ11から測定対象の血管壁BVまでの距離やパルスレーザ光Lの強度等の測定条件が常に一定に保たれる場合等においては、検出された音響波Sf′の音圧のみに基づいて血管壁の硬度を測定することも可能である。しかし上記の音圧比に基づいて測定するのであれば、測定条件がまちまちになっている場合でも正確に血管壁硬度を測定可能となるので、より好ましいと言える。
【0054】
上記のように、検出された音響波Sf′の音圧のみに基づいて血管壁の硬度を測定する場合も、前述したように、最初にピーク値を示したプローブ11の出力信号から時間2Tだけ遅れてプローブ11が出力したピーク値を示す信号が、音響波Sf′のピーク値を示すものであると判別可能である。
【0055】
また、プローブ11から最も遠い血管壁部分で発生した音響波Srを利用して血管壁硬度を測定することも可能である。そうする場合も、音圧比=(検出された音響波Sr′の音圧)/(検出された音響波Srの音圧)の値や、検出された音響波Sr′の音圧の値に基づいて血管壁硬度を測定することができる。
【0056】
さらに、プローブ11に最も近い血管壁部分で発生した音響波Sfや、プローブ11から最も遠い血管壁部分で発生した音響波Srを利用する他に、その他の血管壁部分で発生した後に別の血管壁部分で反射した音響波を利用して血管壁硬度を測定することも可能である。
【0057】
以上、本発明の一つの実施形態について説明したが、本発明の光音響画像化装置および方法は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正および変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【0058】
例えば、硬度を測定する対象の管壁は血管壁に限られるものではなく、本発明方法によれば、癌の転移の有無等を調べるために、リンパ管壁の硬度を測定することも可能である。なおその場合は、パルス光が良好に吸収されるように、リンパ管内に造影剤を注入することが望ましい。
【0059】
また、測定した血管壁等の管壁の硬度は、所定の数値で表示手段に表示する他、記録手段を用いて用紙に記録するようにしてもよいし、さらには、数値で直接的に表示あるいは記録する代わりに、硬度に対応した「正常」、「異常」、「要経過観察」、「要精密検査」等の表示あるいは記録を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 光音響画像化装置
11 プローブ
12 超音波ユニット
13 レーザ光源ユニット
14 画像表示手段
15 導光手段
21 受信回路
22 AD変換手段
23 受信メモリ
24 データ分離手段
25 光音響画像再構成手段
26、41 検波・対数変換手段
27 光音響画像構築手段
30 送信制御回路
31 制御手段
32 Qスイッチレーザ
33 フラッシュランプ
40 超音波画像再構成手段
42 超音波画像構築手段
43 画像合成手段
44 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の被検体に吸収される波長のパルス光を光源から照射し、
それにより被検体から発せられた音響波を音響波検出手段により検出し、
この検出された音響波のうち、ある被検体管壁部分で発生した後に別の被検体管壁部分で反射して前記音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定することを特徴とする管壁の硬度測定方法。
【請求項2】
前記検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定することを特徴とする請求項1記載の管壁の硬度測定方法。
【請求項3】
前記音響波検出手段により検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波と、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波との強度比に基づいて被検体管壁の硬度を測定することを特徴とする請求項2記載の管壁の硬度測定方法。
【請求項4】
前記音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射した音響波を、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波が音響波検出手段に入射した後の経過時間に基づいて判別することを特徴とする請求項2または3記載の管壁の硬度測定方法。
【請求項5】
前記管状の被検体を生体の血管とすることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の管壁の硬度測定方法。
【請求項6】
前記管状の被検体を生体のリンパ管とし、該リンパ管に造影剤を注入した状態で前記音響波の検出を行うことを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の管壁の硬度測定方法。
【請求項7】
前記測定した被検体管壁の硬度を表示および/または記録することを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の管壁の硬度測定方法。
【請求項8】
管状の被検体に対して、該被検体に吸収される波長のパルス光を照射する光源と、
それにより被検体から発せられた音響波をパルス光照射側から検出する音響波検出手段と、
この検出された音響波のうち、ある被検体管壁部分で発生した後に別の被検体管壁部分で反射して前記音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定する演算部とを備えてなる管壁の硬度測定装置。
【請求項9】
前記演算部が、前記検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波の強度に基づいて被検体管壁の硬度を測定するものであることを特徴とする請求項8記載の管壁の硬度測定装置。
【請求項10】
前記演算部が、前記音響波検出手段により検出された音響波のうち、音響波検出手段に最も近い管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射して音響波検出手段に検出された音響波と、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波との強度比に基づいて前記硬度を測定するものであることを特徴とする請求項9記載の管壁の硬度測定装置。
【請求項11】
前記演算部が、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生した後に音響波検出手段から最も遠い被検体管壁で反射した音響波を、音響波検出手段に最も近い被検体管壁で発生して直接音響波検出手段に検出された音響波が音響波検出手段に入射した後の経過時間に基づいて判別するものであることを特徴とする請求項9または10記載の管壁の硬度測定装置。
【請求項12】
前記測定された被検体管壁の硬度を表示および/または記録する手段を備えたことを特徴とする請求項8から11いずれか1項記載の管壁の硬度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−27522(P2013−27522A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165203(P2011−165203)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】