説明

管楽器演奏装置、及び管楽器の自動演奏方法

【課題】簡便な構成で安定して演奏することができる管楽器演奏装置、及び管楽器の自動演奏方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様にかかる管楽器演奏装置は、リード15を備えた管楽器のマウスピース14に気体を供給する人工口腔40を有し、管楽器を演奏するための管楽器演奏装置である。管楽器演奏装置は、人工口腔40に気体を供給するための供給配管と、人工口腔40に接続された排気管51を介して、人工口腔内の気体を開放するリリーフ弁53と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器を演奏するための管楽器演奏装置、及び管楽器の自動演奏方法に関し、特に詳しくはマウスピースに気体を供給する人工口腔を有する管楽器演奏装置、及び管楽器の自動演奏方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、管楽器を演奏するときは、マウスピースに気体を供給する。これにより、マウスピース内の圧力が高くなり、リードが振動する。このような管楽器を演奏するための、電子楽器用プレスコントローラが開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示されている電子楽器用ブレスコントローラでは、マウスピース内の気圧を検出するセンサと、空気の息抜き量を調整するバルブが設けられている。
【0003】
さらに、近年では、管楽器を自動的に演奏する管楽器演奏装置が開発されている(特許文献2)。このような管楽器演奏装置は、気体を供給するための人工口腔を有している。そして、人工口腔にマウスピースに挿し込み、この人工口腔に気体を供給する。これにより、人工口腔内の気圧が高くなり、マウスピースに設けられているリードが振動する。木管楽器を吹鳴させようとした場合、楽器リード部分の内側と外側の気圧をある一定の圧力差にすることで、リードを振動させる必要がある。従って、楽器のマウスピースあるいはリードを口腔に見立てた密閉室に差込む。
【0004】
そして、人間の唇に想到する軟質部材をリードに押し当て、密閉室の気圧制御を行っている。具体的には、コンプレッサーやエアタンクをエア源として、エア源から密閉室までの管路にバルブを設ける。そして、バルブの開閉を制御することで、気圧制御を行っている。これらの機器は、ロボット等への装置への搭載を鑑みて、小型であることが望まれる。
【0005】
【特許文献1】実公平6−31515号公報
【特許文献2】特開2007−65197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、吹鳴状態の密閉室(人工口腔)の気圧は、ある範囲に留まる必要があり、臨界圧を超えると、リードの振動が停止してしまう。そのため、臨界圧を越えないように、管路のバルブを制御する必要がある。吹鳴状態において、気圧が臨界圧を越えないようにするためには、人工口腔内に空気圧センサを設けて、フィードバックすることが考えられる。しかし、この方法では、テンポの速い曲などで、応答性を速くさせようとすると、臨界圧を越えてから所望の気圧に戻る場合がある。
【0007】
人工口腔内をリードが閉じてしまうような高い気圧から、所望の気圧に下げていった場合、同じ吹鳴圧でも違うモード(1オクターブ上)の音が鳴ってしまう可能性がある。さらに、温度や湿度、外気圧によっても最適な吹鳴圧、及び臨界圧は、変化するため、入力側の気圧制御のみでは、安定して吹鳴させることが困難である。
【0008】
吹鳴動作を制御する別の方法として、人工口腔に風船のような体積変化する装置を取り付ける方法もあるが、空気の逆流を防ぐ機構等を設ける必要がある。さらに、体積増加を見込んで、装置を大きくする必要があるため、小型化を図ることが困難である。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、簡便な構成で安定して演奏することができる管楽器演奏装置、及び管楽器の自動演奏方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様にかかる管楽器演奏装置は、リードを備えた管楽器のマウスピースに気体を供給する人工口腔を有し、前記管楽器を演奏するための管楽器演奏装置であって、前記人工口腔に気体を供給するための気体供給配管と、前記人工口腔に接続された排気管と、前記排気管を介して、前記人工口腔内の気体を開放するリリーフ弁と、を備えるものである。これにより、リードが閉じることを防ぐことができるため、簡便な構成で安定して演奏することができる。
【0011】
本発明の第2の態様にかかる管楽器演奏装置は、上記の管楽器演奏装置であって、前記人工口腔内の気圧が所定のリリーフ圧以上となったときに、前記リリーフ弁が気体を開放し、前記リリーフ圧を制御する制御機構が設けられているものである。これにより、リードが閉じる臨界圧に応じてリリーフ圧を調整することができるため、より安定した演奏が可能になる。
【0012】
本発明の第3の態様にかかる管楽器演奏装置は、上記の管楽器演奏装置であって、前記制御機構が、前記排気管から前記リリーフ弁への気体の流入量を変化させることによって、前記リリーフ圧を制御しているものである。これにより、簡便な構成で安定した演奏が可能になる。
【0013】
本発明の第4の態様にかかる管楽器の自動演奏方法は、リードを備えた管楽器のマウスピースに気体を供給する人工口腔を用いて、前記管楽器を自動演奏する演奏するための自動演奏方法であって、前記人工口腔に気体を供給するステップと、前記人工口腔に接続された排気管を介して、前記人工口腔内の気体をリリーフ弁から開放するステップとを有するものである。これにより、リードが閉じることを防ぐことができるため、簡便な構成で安定して演奏することができる。
【0014】
本発明の第5の態様にかかる管楽器の自動演奏方法は、上記の自動演奏方法であって、前記気体を開放するステップでは、前記人工口腔内がリリーフ圧以上となったときに、前記人工口腔内の気体を開放し、演奏データに応じて前記リリーフ圧を制御するものである。これにより、リードが閉じる臨界圧に応じてリリーフ圧を調整することができるため、より安定した演奏が可能になる。
【0015】
本発明の第6の態様にかかる管楽器の自動演奏方法は、上記の自動演奏方法であって、前記排気管から前記リリーフ弁への気体の流入量を変化させることによって、前記リリーフ圧を制御しているものである。これにより、簡便な構成で安定した演奏が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便な構成で安定して演奏することができる管楽器演奏装置、及び管楽器の自動演奏方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
発明の実施の形態1.
以下に、図1を参照しつつ本発明の実施の形態1にかかる管楽器演奏用アクチュエータ20について説明する。図1は、本発明に係る管楽器演奏装置としての人間型ロボット(以下、単にロボット2という)の全体像を概略的に表したものであり、このロボット2が、管楽器の一例であるサックスフォン12を演奏する様子を概略的に示している。
【0018】
図1に示すように、ロボット2は、人間と略同様の動きを行うために、腕部や脚部、手部や指部などにおいて多数の関節を備えると共に,該関節部の動作を指令するための制御部を有し,サックスフォン12を把持するための右手4および左手6を備えている。ロボット2の口部(図示省略)には、マウスピース14を介して後述する管楽器演奏用アクチュエータ(以下、演奏用アクチュエータという)20が搭載されており、ロボット2の外部には、演奏用の加圧空気を一定量供給する空気供給部(図示せず)と、該空気供給部からロボット2の内部に搭載された演奏用アクチュエータ20に対して空気を供給するための空気供給管94が接続されている。なお、空気供給部は、ロボット2内部にあってもよい。このように、ロボット2は、サックスフォン12を把持する右手4および左手6の各指部の関節を動作させるとともに、演奏用アクチュエータ20に所定の流量の空気が供給されることにより、サックスフォン12を演奏することができる。
【0019】
サックスフォン12は、その内部に図示しない空気流路を有しており、空気流路の上流端にマウスピース14が接続されている。マウスピース14は、後述するように演奏用アクチュエータ20を介してロボット2の口部に接続されている。このマウスピース14の構造に関する詳細については後述する。また、サックスフォン12は、図示しない複数のピストンからなるピストン群を有しており、これらのピストン群の各ピストンがロボット2の指部の動作により操作されることで、発生する音の音程を変更することが可能となる。なお、ロボット2の指部を駆動する機構として、電動モータや、電圧が印加されることにより収縮する人工筋肉アクチュエータ等を用いることができる。
【0020】
次に、図1に示すロボット2の内部構成について図2を用いて説明する。図2は、ロボット2の一部の構成を模式的に示す図である。図2に示すように、ロボット2は右手4及び左手6でサックスフォン12を把持している。右手4がサックスフォン12のU字管部分を把持し、左手6がピストン部分を把持している。そして、左手6の各指がサックスフォン12のピストンを操作する。
【0021】
さらに、ロボット2の頭部には、人工口腔40が設けられている。この人工口腔40に図1で示した演奏用アクチュエータ20が設けられている。例えば、人工口腔40内には、人工舌、人工唇、及び人工歯等が収納されている。そして、人工口腔40内には、人工舌、人工唇、及び人工歯を駆動するためのアクチュエータが収納されている。サックスフォン12を把持する右手4、及び左手6が駆動することによって、サックスフォン12のマウスピース14が人工口腔40に挿し込まれる。人工口腔40がマウスピース14をくわえた状態で、人工唇、人工舌、及び人工歯が駆動される。例えば、人工舌を駆動することで、タンギングなどの動作を行うことができる。人工歯を駆動することで、人工唇がリードを押し付ける。これにより、リードとマウスピース14からの開きを調整することができる。なお、これらの動作については、後述する。
【0022】
さらに、人工口腔40には、リリーフ弁53、及び人工肺30が配管を介して接続されている。人工肺30には、エア源31が設けられている。エア源31は、例えば、空気を圧縮するエアコンプレッサである。また、エア源31として、圧縮空気が封入されたエアタンクを用いてもよい。エア源31から加圧空気が、配管を介して、人工口腔40に供給される。これにより、人工口腔40内が加圧され、サックスフォン12のリードを振動させることができる。なお、このエア源31には、図1の空気供給管94からエアが供給される。また、人工口腔40には、人工口腔40内の空気圧を調整するためのリリーフ弁53が設けられている。人工口腔40内の空気圧が一定以上になったら、リリーフ弁53を介して空気が人工口腔40外に開放される。このようにロボット2は、人工口腔40によってマウスピース14を保持した状態で、各アクチュエータを動作して、演奏を行う。
【0023】
さらに、ロボット2の胴体部には、右手4、左手6、指部及び演奏用アクチュエータ20を制御する制御部60が設けられている。制御部60は、指部及び演奏用アクチュエータ20等と電気的に接続され、制御信号を出力する。この制御部60によって手部、指部及び演奏用アクチュエータ20を制御することで、サックスフォン12を演奏することができる。すなわち、人工口腔40内にエアを供給しながら、演奏用アクチュエータ20の駆動、及び運指することで、サックスフォン12を吹鳴することができる。
【0024】
次に、ロボット2の制御系について図3を用いて説明する。図3は、ロボット2の制御系を示すブロック図である。外部制御装置10からの演奏データが制御部60に入力される。外部制御装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ等の演算処理装置を有し、自動演奏に必要な演奏データを演奏曲に応じて作成する。演奏データとしては、例えば、空気圧データ、人工唇動作データ、人工歯データ、及び運指データなどがある。外部制御装置10は、これらのデータを演奏データとして、制御部60に出力する。
【0025】
制御部60は、外部制御装置10からの演奏データを記憶する。そして、制御部60は例えば、パーソナルコンピュータ等の演算処理装置を有し、演奏データをメモリ等に格納する。制御部60は、演奏データに基づいて、フィードバック制御する。例えば、運指データに基づいて、運指用駆動回路80を制御するための制御信号を出力する。そして、運指用駆動回路80は、制御信号に基づいて、運指機構81を駆動する。運指機構81は、モータ等のアクチュエータを有しており、左手6の各指を動作させる。これにより、各指が演奏曲に応じた所定のタイミングでピストンを押さえる。
【0026】
また、制御部60は、人工歯データに基づいて、人工歯44を駆動する。これにより、リードを押し付ける押し付け圧及び押し付け位置等を調整することができる。よって、音程を調整することができる。また、人工舌データに基づいて、人工舌を駆動する。これにより、所定のタイミングで、タンギングを行うことができる。なお、各アクチュエータの駆動には、モータ等を用いた公知のフィードバック制御を用いることができる。
【0027】
さらに、制御部60は、空気圧データに基づいて人工肺30、及び制御弁52、リリーフ弁53をフィードバック制御する。例えば、空気圧データには、エア源31の出力値、及びリリーフ弁53の作動圧が設定されている。制御部60は、配管中に設けられているバルブを開閉して、エア源31からの空気供給量を制御する。リリーフ弁53は、入力側の圧力が所定の圧力(作動圧)を超えると、弁を開いて、空気を開放する。従って、人工口腔40内の圧力が所定の圧力(リリーフ圧)を超えると、人工口腔40内の空気を大気中に開放する。リリーフ圧は、制御弁52によって制御される。制御部60は、空気圧データなどの演奏データに基づいて、制御弁52の駆動を制御する。これにより、リリーフ圧を変化することができる。リリーフ弁53から排気することで、人工口腔40内の空気圧を低下させることができる。
【0028】
このように、制御部60は、各アクチュエータの動作を制御する。従って、演奏データに基づくタイミングで各アクチュエータが動作する。これにより、各駆動箇所が曲に合わせて動作するため、所定の演奏曲を演奏することができる。すなわち、演奏データに基づいて、演奏曲に合わせたタイミングで動作を実施させる。このようにして、ロボット2は、サックスフォン12を自動演奏している。
【0029】
具体的には、制御部60は、演算処理を行う演算処理部や記憶部としてのメモリ等の記憶領域を備えるコンピュータから構成されている。前述のメモリ等の記憶部には、制御部60を制御するための所定のプログラムや、演奏する楽曲に関する楽曲データ、およびリード15を押圧する押圧力と押圧位置とを対応させた対応データ等が記憶されている。さらに、排気量や供給量などのデータが記憶されている。
【0030】
そして、制御部90に含まれる演算処理部は、記憶したプログラムに基づいて、このようなデータを適宜読み出すことで、前述の演奏用アクチュエータ20を動作させる。すなわち、本実施形態においては、この制御部60と人工口腔40の空気圧を制御するとともに、人工唇43によってリード15を押し付ける。さらに、人工舌41を駆動して、所定のタイミングでタンギングを行う。これにより、自動演奏することが可能となる。
【0031】
次に、人工口腔40の構成について図4を用いて説明する。図4は、人工口腔40の構成を模式的に示す側面断面図である。人工口腔40は、所定の大きさの空洞であり、その一方が、マウスピース14をくわえるために開口している。すなわち、人工口腔40は、マウスピース14などを保持するためのケースとなる。人工口腔40にマウスピース14を挿し込む。マウスピース14の下方には、リード15が取り付けられている。右手、及び左手を駆動して、リード15を有するマウスピース14を人工口腔内に挿設する。これにより、マウスピース14が人工口腔40に取り付けられ、保持される。
【0032】
サックスフォン12は、空気流入口を有するマウスピース14と、マウスピース14に対して一端が固定されるとともに、空気流入口付近に他端が屈曲自由となるように空気の流入方向に伸びるリード15と、を備えている。なお、リード15は、後述するように、リード15を押圧する人工唇43と接触することで、サックスフォン12から発生する音の音程等を調整する。人工口腔40の空気は、マウスピース14の空気流入口からサックスフォン12内に導入される。
【0033】
人工口腔40には、エア源31、リリーフ弁53、人工舌41、人工歯44等が設けられている。これらが演奏データにしたがって動作することによって、自動演奏が行われる。また、人工口腔40の各アクチュエータを制御する制御回路61、及びパワーアンプ62が設けられている。この制御回路61、及びパワーアンプ62が図3の制御部60の一部を構成する。制御回路61は、パワーアンプ62を介して、制御弁52、人工歯44、及び人工舌41を制御する。すなわち、制御回路61は、演奏データに基づいて、各アクチュエータを駆動させる。
【0034】
人工口腔40には、エア源31が供給配管35を介して、接続されている。供給配管35はゴムパッキン(図示せず)などの封止材を用いて封止されている。これにより、エア源31からの加圧空気が供給される。エア源31から気体の供給量は一定としてもよく、制御回路61によって調整してもよい。供給量を調整する場合、エア源31にバルブを設け、バルブの開閉を制御する。例えば、人工口腔40に設けられた圧力センサ45で測定された人工口腔40内の気圧に基づいて、供給量を制御してもよい。また、エア源31と供給配管35と間には、逆流防止弁33が設けられている。これにより、人工口腔40からの空気の逆流を防止することができる。エア源31から空気が供給されると、人工口腔内の気圧が上昇する。これにより、マウスピース14の内外に圧力差が生じ、リード15を振動させることができる。
【0035】
さらに、本実施の形態では、人工口腔40には排気管51が取り付けられている。図4では、排気管51が人工口腔40の下方から突出している。排気管51はリード15の下方に配置されている。この排気管51の下流側には、制御弁52が取り付けられている。そして、制御弁52は、リリーフ弁53に取り付けられている。リリーフ弁53から開放された空気は、サイレンサ54を介して大気中に排気される。リリーフ弁53の下流にサイレンサ54を設けることによって、排気する音を小さくすることができる。
【0036】
人工口腔40内の気圧がリリーフ圧を超えたときに、リリーフ弁53が開いて、人工口腔40内の空気を排出する。すなわち、人工口腔40内の気圧がリリーフ圧を超えるまでは、リリーフ弁53が閉じており、人工口腔40が密閉されている。リリーフ弁53が作動することによって、人工口腔40内の過剰な空気が排気管51を通って外部に排出される。これにより、吹奏圧が、所望の圧力以上に上昇するのを防ぐことができる。
【0037】
さらに、リリーフ弁53と排気管51との間には、制御弁52が設けられている。すなわち、リリーフ弁53は、制御弁52を介して、排気管51に取り付けられている。制御弁52は、リリーフ圧を制御する制御機構となる。これにより、人工口腔40の気圧を調整することができる。なお、制御弁52は、制御部60を構成する制御回路61、及びパワーアンプ62によって制御される。
【0038】
例えば、人工口腔40の上唇側には、人工口腔40の気圧を測定する圧力センサ45が設けられている。そして、圧力センサ45で測定された気圧は、制御回路61に入力される。そして、制御回路61は、圧力センサ45での測定結果に基づいて制御弁52をフィードバック制御する。これにより、リリーフ圧を曲の進行にしたがって変化させることができる。
【0039】
ここで、人工口腔40内の空気を排気するための排気系の構成に付いて図5を用いて説明する。図5は、排気系の構成を模式的に示す図である。なお、図5において、人工口腔40の構成は、図4で示したものと同じであるため、符号とその説明については省略する。上記のように、人工口腔40には、排気管51及び制御弁52を介して、リリーフ弁53が接続されている。リリーフ弁53の出力ポートは大気中に開放されている。リリーフ弁53は、入力圧と出力圧との差圧により、開閉する。ここでは、リリーフ弁53としてバネ式バルブを用いている。従って、リリーフ弁53の筐体73の内部にはバネ72が設けられている。このバネ72がバルブ71を筐体73に押し付けることで、リリーフ弁53が閉じる。入力圧と出力圧との気圧差によって生じる力が、バネ72の弾性力よりも小さい場合、バルブ71が閉じ、バネ72の弾性力よりも大きい場合、リリーフ弁53が開く。そして、バルブ71が開くと、人工口腔40内の空気がリリーフ弁53から外部に排出される。なお、バルブ71の支えは、バネ72でなくてもよく、例えば、油圧や空気圧でもよい。
【0040】
さらに、制御弁52として、2ポートの電空比例弁を用いている。制御弁52の入力ポートが排気管51に接続され、出力ポートが配管を介してリリーフ弁53の入力ポートに接続されている。制御弁52は、制御回路61からの出力される電気信号によって、制御される。従って、リリーフ弁53に対する空気の流入量が、制御弁52によって制御される。すなわち、制御弁52は、排気管51からリリーフ弁53に流入する気体の流入量を調整する。制御弁52は、演奏データに基づいて、制御される。これにより、演奏中において、リリーフ圧を変化させることができる。例えば、制御弁52を絞ることで、人工口腔40から制御弁52を介してリリーフ弁53に流入される空気の流入量が低下する。これにより、リリーフ弁53を開くために必要な、人工口腔40内の圧力が高くなる。また、制御弁52の開き量を大きくすることで、排気管51からリリーフ弁53への流入量が増加する。これにより、リリーフ圧を低下させることができる。換言すると、制御弁52は、リリーフ圧を調整することができる。
【0041】
次に、人工口腔40内のリード15の振動について図6、及び図7を用いて説明する。図6は、サックスフォン12の吹鳴時に必要な空気量を示す図である。図6において、横軸が時間、縦軸が空気の実質的な供給量を示している。なお、実質的な供給量とは、エア源31の供給量から、リリーフ弁53からの排気量を引いた値である。演奏時における典型的な供給量は、図6に示すようなパターンとなる。図7は、リードが発振する圧力範囲を説明するための図である。図7において、横軸は、人工口腔40とサックスフォン12との圧力差を示し、縦軸は、リードを通過する空気の量を示している。
【0042】
サックスフォン12を吹鳴させる場合、人工口腔40内だけでなく、サックスフォン12内、すなわちマウスピース14内の気圧を上げる必要がある。このため、送気開始時は、図6に示すように、実質的な供給量を多くする必要がある。例えば、送気開始から300msecの間では、リリーフ弁53を閉じ、人工口腔40内の実質的な供給量を多くする。これにより、人工口腔40内の空気量が過渡特性を示し、人工口腔40とサックスフォン12の圧力差が時間とともに増加していく。ここでは、人工口腔40内の気圧がそれほど高くないため、リード15を通過する空気量が増加して、マウスピース14内の気圧も高くなっていく。そして、人工口腔40とサックスフォン12の圧力差がリード発振範囲になり、リード15が発振し始める。送気開始直後では、制御弁52を調整して、例えば、実質的な供給量を20〜30l/minとする。
【0043】
しかし、リード15が一旦発振した後も、同じ量の空気を送気すると、人工口腔40内の圧力が高くなりすぎる。よって、人工口腔40とマウスピース14との圧力差が大きくなり、リード15を通過する空気量が減少する。そして、圧力差がさらに大きくなっていき、リード15が停止してしまう。人工口腔40とマウスピース14との圧力差が、図7に示すリード停止圧力差を越えてしまう。人工口腔40内の気圧が臨界圧を超えて、リード15の振動が停止する。従って、安定して吹鳴するためには、図6に示すようにリード発振開始後は、実質的な供給量を減少させる。これにより、人工口腔40内の気圧上昇が抑制される。具体的には、制御弁52を開いて、リリーフ弁53から排気する。これにより、実質的な空気の供給量が減少する。リード発振後では、制御弁52を調整して、例えば、実質的な供給量を10〜25l/minとする。
【0044】
このように、リード発振開始前と開始後で、排気量を変えて、実質的な供給量を調整する。すなわち、リリーフ弁53を開けて、人工口腔40内を減圧する。これにより、過圧状態となってリード15が閉じてしまうのを防ぐことができ、リード発振後であっても安定した吹鳴が可能になる。また、体積変化する装置が不要となるので、ロボット2を小型化することができる。なお、実質的な空気の供給量は、空気圧データなどの演奏データに基づいて制御されるため、実質的な供給量を時間に応じて変化させることができる。よって、演奏中のタイミングに応じて、リリーフ圧が変化する。例えば、制御弁52でリリーフ圧を変えることで、人工口腔40の圧力が減少していく場合と、圧力が増加していく場合とで、同じモードの音を鳴らすことができる。これにより、テンポの速い曲を演奏する場合でも、安定して演奏することができる。また、音階によっても吹鳴に適切な口腔圧は変化するが、それに伴ってリードが閉じてしまう臨界圧も変化する。ここでは、制御弁52が、演奏データに応じて、臨界圧に合ったリリーフ圧を設定することで、より正確な演奏が可能になる。
【0045】
さらに、温度や湿度、外気圧によっても最適な吹鳴圧、及び臨界圧が変化する。このため、リリーフ弁53を用いて人工口腔40内の気圧を調整することで、より正確に演奏することができる。すなわち、リリーフ弁53の出力ポートは、大気中に接続されているため、大気の湿度と温度や、外気圧が変化すると、リリーフ圧も変化する。よって、安定した演奏を正確に行うことができる。リード15が閉じる臨界圧にあったリリーフ圧を設定することができる。さらに、楽器自体に圧力センサなどを設けなくてもよいため、簡便な構成で演奏することができる。
【0046】
なお、上記の説明では、制御弁52を制御することによって排気量を変更して実質的な供給量を調整したが、これに限るものではない。例えば、排気量だけでなく、供給量を調整することによって、実質的な供給量を調整してもよい。この場合、制御弁52と制御するとともに、エア源31と人工口腔40までの間に設けられているバルブの開閉を制御する。これにより、排気量、及び供給量を調整することができ、人工口腔40の圧力を所望の圧力にすることができる。このように排気側だけでなく入力側を調整することで、さらに応答性を向上することができる。これらの排気量、及び供給量は、空気圧データに応じてフィードバック制御することができる。
【0047】
ここで、図4に戻り、人工口腔40の構成について説明する。人工口腔40の下唇側には人工歯44が設けられている。人工歯44は、人工唇43の下に配置されている。人工唇43は、軟質な膜状の部材である。人工唇43は、リード15の形状に沿った形状をしている。人工唇43は、リード15に隣接している。人工歯44は、モータやピエゾ素子などのアクチュエータによって上下方向に駆動する。すなわち、制御回路61がパワーアンプ62を介して、人工歯44の上下移動を制御する。下方から人工歯44を人工唇43に押し当てることで、人工唇43が上昇して、リード15と接触する。制御回路61が人工歯44の押し上げを調整することで、リード15のマウスピース14からの開きを調整することができる。さらに、人工唇43の押し付け位置や押し付け圧力を演奏データに応じてフィードバック制御する。よって、サックスフォン12から発生する音の音程等を調整することができる。
【0048】
さらに、人工口腔40には、人工舌41が設けられている。人工舌41は、例えば、軟質を有する膜状部材である。人工舌41は、人工舌アクチュエータ42によって、前後方向に変化する。すなわち、人工舌アクチュエータ42は、人工舌41をマウスピース14に対して近づけたり、離したりする。人工舌アクチュエータ42を駆動すると、マウスピース14と人工舌41との間の距離が変化する。人工舌41は、マウスピース14の開口部(空気注入口)を塞ぐように駆動される。すなわち、人工舌アクチュエータ42を駆動して、マウスピース14に人工舌41を近づけていく。これにより、マウスピース14と人工舌41が接触して、マウスピース14の開口部が塞がれる。一方、人工舌アクチュエータ42を駆動して、マウスピース14に人工舌41を離していく。これにより、人工舌41とマウスピース14との接触が解除され、マウスピース14内に空気を流入させることができるようになる。演奏データに基づいて、人工舌41がマウスピース14の開口部を塞ぐように、フィードバック制御する。これにより、人工舌41がマウスピース14の開口部を塞ぐタイミングを制御することができる。よって、演奏曲に応じた、所定のタイミングでタンギングが実施される。
【0049】
なお、上記の説明では、制御弁52を用いてリリーフ圧を制御したが、本実施の形態はこの構成に限られるものではない。ここで、図8を用いて、本実施の形態の他の構成例について説明する。図8は、人工口腔40の排気系の構成を示す図である。なお、排気系以外の構成については、上記の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
図8の排気系では、リリーフ弁53として、ノーマルオープン型の3ポート弁を用いている。リリーフ弁53は、入力ポート56と第1出力ポート57と第2出力ポート58とを有している。入力ポート56と第1出力ポート57と第2出力ポート58とは、常時連通している。リリーフ弁53の入力ポート56は、排気管51と接続される。リリーフ弁53の第1出力ポート57は、制御機構74と接続されている。リリーフ弁53の第2出力ポート58は、大気中に接続されている。第2出力ポート58の開閉は、制御回路61によって制御される。
【0051】
排気管51は、第1出力ポート57を介して、制御機構74に接続されている。制御機構74は、薄膜袋75、ガイド76、バネ77、リミットスイッチ78、及びケース79などを有している。薄膜袋75、ガイド76、バネ77、リミットスイッチ78は、ケース79に収納されている。薄膜袋75は、第1出力ポート57と接続されている。従って、人工口腔40内で過剰となった空気が、リリーフ弁53を介して、薄膜袋75に送り込まれていく。薄膜袋75は、空気が送り込まれると、膨張していく。薄膜袋75は、ガイド76と当接している。そして、ガイド76は、薄膜袋75とバネ77の間に配置され、バネ77で支えられている。従って、薄膜袋75が膨張していくと、ガイド76がバネ77を押しながら移動していく。すなわち、薄膜袋75が弾性変形して、ガイド76を押していく。
【0052】
そして、薄膜袋75へ注入された空気量がある一定の値以上になると、ガイド76がリミットスイッチ78と接触する。従って、薄膜袋75が所定の大きさまで膨張すると、リミットスイッチ78がONする。すなわち、薄膜袋75の大きさに応じて、リミットスイッチ78がON/OFF制御される。リミットスイッチ78は制御回路61に電気的に接続されている。そして、制御回路61は、リミットスイッチ78がONのときに、リリーフ弁53の第2出力ポート58が開放する。これにより、人工口腔40内、及び薄膜袋75の加圧空気が、リリーフ弁53の第2出力ポート58を介して、大気中に開放される。すなわち、薄膜袋75の圧力が一定以上になると、リリーフ弁53の第2出力ポート58が開いて、人工口腔40内の空気が大気に開放される。また、図5で示したように、排気管51から薄膜袋75への流入量を制御回路61が制御してもよい。これにより、リリーフ圧を調整することができる。よって、図8に示す構成によっても、同様の効果を得ることができる。このように、排気管51からリリーフ弁53への流入する気体の流入量に応じて、リリーフ圧を制御してもよい。
【0053】
図4又は図8に示したように、空気の供給量に応じて変位する制御機構を設ける。すなわち、制御弁52等の制御機構は、空気の供給量が変わると、リリーフ圧を変化させる。そして、制御機構によって、リリーフ圧を電気信号によって調整する。これにより、リリーフ圧を所定のタイミングで変化させることができる。
【0054】
上記の説明では、管楽器の一例であるサックスフォンについて説明したが、本実施形態にかかるロボット2が演奏する木管楽器は、サックスフォンに限られるものではない。マウスピースにリードが取り付けられた管楽器であればよい。さらには、電子楽器であってもよい。また、人工口腔40に供給される気体は、空気に限らず、窒素などの他の気体であってもよい。
【0055】
また、人工口腔40に接続される排気管51や供給配管35は、1つにかぎらず、2以上であってもよい。2つ以上の排気管51を設けた場合、それぞれの排気管51に制御機構を設けることが好ましい。また、それぞれの排気管51に別々の制御機構を設けてもよい。供給配管35を2つ以上設ける場合、それぞれの供給配管35で供給圧を変えてもよい
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る管楽器演奏装置を備えた人間型ロボットの外観を概略的に示す概略図である。
【図2】図1に示すロボットの一部の構成を模式的に示す図である。
【図3】図1に示すロボットの制御系を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る管楽器演奏装置の人工口腔の構成を示す側面断面図である。
【図5】図4に示す人工口腔の排気系を示す図である。
【図6】サックスフォンの吹鳴時に必要な空気量を示す図である。
【図7】リードが発振する圧力範囲を説明するための図である。
【図8】図4に示す人工口腔の排気系の別の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
2 ロボット、4 右手、6 左手、10 外部制御装置、12 サックスフォン、
14 マウスピース、15 リード、20 演奏用アクチュエータ、
30 人工肺、31 エア源、33 逆流防止弁、35 供給配管、
40 人工口腔、41 人工舌、42 人工舌アクチュエータ、43 人工唇、
44 人工歯、51 排気管、52 制御弁、53 リリーフ弁、54 サイレンサ
56 入力ポート、57 第1出力ポート、58 第2出力ポート、
71 バルブ、72 バネ、73 筐体、74 制御機構、
75 薄膜袋、76 ガイド、77 バネ、78 リミットスイッチ、79 ケース、
80 運指用駆動回路、81 運指機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リードを備えた管楽器のマウスピースに気体を供給する人工口腔を有し、前記管楽器を演奏するための管楽器演奏装置であって、
前記人工口腔に気体を供給するための気体供給配管と、
前記人工口腔に接続された排気管と、
前記排気管を介して、前記人工口腔内の気体を開放するリリーフ弁と、を備える管楽器演奏装置。
【請求項2】
前記人工口腔内の気圧が所定のリリーフ圧以上となったときに、前記リリーフ弁が気体を開放し、
前記リリーフ圧を制御する制御機構が設けられている管楽器演奏装置。
【請求項3】
前記制御機構が、前記排気管から前記リリーフ弁への気体の流入量を変化させることによって、前記リリーフ圧を制御している請求項2に記載の管楽器演奏装置。
【請求項4】
リードを備えた管楽器のマウスピースに気体を供給する人工口腔を用いて、前記管楽器を自動演奏する演奏するための自動演奏方法であって、
前記人工口腔に気体を供給するステップと、
前記人工口腔に接続された排気管を介して、前記人工口腔内の気体をリリーフ弁から開放するステップとを有する管楽器の自動演奏方法。
【請求項5】
前記気体を開放するステップでは、前記人工口腔内がリリーフ圧以上となったときに、前記人工口腔内の気体を開放し、
演奏データに応じて前記リリーフ圧を制御する請求項4に記載の管楽器の自動演奏方法。
【請求項6】
前記排気管から前記リリーフ弁への気体の流入量を変化させることによって、前記リリーフ圧を制御している請求項5に記載の管楽器の自動演奏方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−139554(P2009−139554A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314740(P2007−314740)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】