説明

管素材の曲げ加工方法および管素材の曲げ加工用芯金

【課題】 曲げ部等に亀裂・シワのない加工管を得ることができる管素材の曲げ加工方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の管素材の曲げ加工方法は、管素材1の両端から、先端部に1/4球状の突部を有する芯金5をそれぞれ挿入して、突部の平面を互いに会合させ、その状態から、それらの芯金の平行を維持しつつ、管軸に対して垂直な方向に相対移動させることによって、管素材に2ヶ所の曲げ部1a,1bとその中間に直線部1cとを形成する管素材の曲げ加工方法において、前記管素材を、曲げ部1aに向けて、中間の直線部1cの長さLに対して81〜97%の量で押し込みながら加工を行なうことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管素材の曲げ加工方法および管素材の曲げ加工用芯金に関する。
【背景技術】
【0002】
管素材の曲げ加工方法として、管素材を第1のクランプで強固に保持するとともに、第2のクランプで緩着状に保持し、管素材内には両端から挿入した芯金を両クランプの境界面で衝接もしくは近接対峙するように配置して両クランプに対し相対移動不能に固定し、この固定を維持しつつ両クランプを境界面と平行に相互に反対方向へ相対移動させることによって、管素材に2カ所の曲げ部とその中間に直線部とを形成する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
そして、特許文献1では、管素材に軸方向の押し込み力を付与しつつ曲げ加工を行なえば、素材の塑性流動性を助けて素材の移動がより円滑になるため、素材の薄肉化や亀裂・シワの発生を防止できるとしている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−210722号公報(図1,図2および明細書第3頁右欄第43行〜第46行参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記管素材の曲げ加工方法では、管素材を単に押し込んでも、曲げ部等における亀裂・シワの発生を防止できない場合がある。
また、上記管素材の曲げ加工方法では、芯金先端部に大きなせん断力が働くため、芯金に耐久性がない。
【0006】
本発明は、上述した背景技術が有する実情に鑑みて成されたものであって、その目的は、曲げ部等における亀裂・シワの発生を確実に防止できる管素材の曲げ加工方法、および芯金の耐久性を高めた管素材の曲げ加工用芯金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記した目的を達成すべく鋭意研究した結果、管素材の曲げ加工時において、管素材の押し込み量を適宜に設定することによって、曲げ部等における亀裂・シワの発生を確実に防止できることを見出し、また、強度に劣る芯金先端部の平面部に側壁を形成することによって、耐久性の高い芯金を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、請求項1の本発明は、管素材の両端から、先端部に1/4球状の突部を有する芯金をそれぞれ挿入して、突部の平面を互いに会合させ、その状態から、それらの芯金の平行を維持しつつ、管軸に対して垂直な方向に相対移動させることによって、管素材に2ヶ所の曲げ部とその中間に直線部とを形成する管素材の曲げ加工方法において、前記管素材を、曲げ部に向けて、中間の直線部の長さに対して81〜97%の量で押し込みながら加工を行なうことを特徴とする。
なお、本発明では、上記管軸に対して垂直な方向とは、中間の直線部が管軸に対して垂直に形成されるものばかりでなく、中間の直線部が管軸に対して傾斜して形成されるものも含む。
【0009】
上記本発明において、管素材を、曲げ部に向けて、中間の直線部の長さに対して81〜97%の量で押し込みながら加工を行なうこととしたのは、中間の直線部の長さに対する押し込み量が81%より小さくなると、曲げ部等への管素材の供給量が不足し、中間の直線部が大きく楕円形に変形して製品の品質を損ない、97%よりも大きくなると、曲げ部に亀裂・シワが発生する。また、中間の直線部の長さに対する押し込み量が97%よりも大きくなると、曲げ部までの管素材が変形し、その変形部が保持ブロックの貫通孔に強く当たって摩擦抵抗が大きくなり、それによって曲げ部への管素材の供給量が小さくなって、中間の直線部が大きく楕円形に変形して製品の品質を損なう。したがって、中間の直線部の長さに対する押し込み量は、81〜97%が適当であり、中間の直線部の変形をより小さくするためには、84〜90%がより好ましい押し込み量である。
【0010】
また、請求項2の本発明は、管素材の両端から、先端部に1/4球状の突部を有する芯金をそれぞれ挿入して、突部の平面を互いに会合させ、その状態から、それらの芯金の平行を維持しつつ、管軸に対して垂直な方向に相対移動させることによって、管素材に2ヶ所の曲げ部とその中間に直線部とを形成する管素材の曲げ加工方法で使用される芯金であって、前記芯金の突部の平面に、平面視において、相手芯金の突部の外形に倣った内側面を有する側壁を形成したことを特徴とする。
なお、この本発明においても、上記管軸に対して垂直な方向とは、中間の直線部が管軸に対して垂直に形成されるものばかりでなく、中間の直線部が管軸に対して傾斜して形成されるものも含む。
【発明の効果】
【0011】
上記した請求項1の本発明に係る管素材の曲げ加工方法によれば、曲げ部等に、管素材が適量供給されるので、亀裂・シワのない曲げ加工管を得ることができる。
【0012】
また、上記した請求項2の本発明に係る管素材の曲げ加工用芯金によれば、芯金の突部、即ち、厚みの薄い部分が側壁によって補強されるので、強度の高い芯金を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、上記した本発明に係る管素材の曲げ加工方法および芯金を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1および図2は、本発明に係る管素材の曲げ加工方法を実施するための装置を示した概念的な断面図で、図1は、管素材の曲げ加工前を示し、図2は、管素材の曲げ加工動作中を示している。また、図3は、芯金の先端部を示した斜視図、図4(a),(b)は、芯金が会合した状態を示し、図5は、曲げ加工された管素材を示した図である。
【0014】
本発明の管素材の曲げ加工方法は、管素材の両端から、先端部に1/4球状の突部を有する芯金をそれぞれ挿入して、突部の平面を互いに会合させ、その状態から、それらの芯金の平行を維持しつつ、管軸に対して垂直な方向に相対移動させることによって、管素材に2ヶ所の曲げ部とその中間に直線部とを形成する管素材の曲げ加工方法において、前記管素材を、曲げ部に向けて、中間の直線部の長さに対して81〜97%の量で押し込みながら加工を行なうことを特徴とする。
【0015】
図1に示す装置は、加工しようとする管素材1の一端部を強固に保持する第1のクランプ手段2と、管素材1の他端部を緩着状態で保持する第2のクランプ手段3と、管素材1の他端を押し込む押圧手段4と、芯金5,5とによって構成されている。
【0016】
第1のクランプ手段2は、上下の挟持ブロック6,7から構成され、それらの挟持ブロック6,7は、基台8に対して上下方向に移動自在に支持されている。そして、前記挟持ブロック6,7は、それらの会合面に、水平方向(左右方向)に延びる円弧状溝6a,7aをそれぞれ有しており、該円弧状溝6a,7aは、管素材1の曲率半径よりも僅かに小さな曲率半径に形成されている。さらに、上方の挟持ブロック6の側面には、上下方向に延び、管素材1の曲率半径よりも僅かに大きな曲率半径を有する円弧状溝6bが形成されている。
そして、管素材1の一端部は、上記挟持ブロック6,7の円弧状溝6a,7aによって、強固に挟持される。
【0017】
第2のクランプ手段3は、上記挟持ブロック6,7の側面に当接するように配置させた保持ブロック9によって構成され、該保持ブロック9は、基台8に固定設置されている。そして、前記保持ブロック9は、水平方向(左右方向)に延びる貫通孔9aを有し、該貫通孔9aは、管素材1の外径よりも僅かに大きな内径に形成されている。さらに、この保持ブロック9の側面には、上下方向に延び、管素材1の曲率半径よりも僅かに大きな曲率半径を有する円弧状溝9bが形成されている。
そして、管素材1の他端部は、上記保持ブロック9の貫通孔9a内に、摺動自在に挿嵌される。
【0018】
押圧手段4は、基台8に対して上記保持ブロック9方向へ移動可能に配設された押し込みブロック10によって構成されている。この押し込みブロック10は、水平方向に延びる貫通孔10aを有し、この貫通孔10aは、芯金5の径よりも大きな内径に形成されている。また、貫通孔10aの一端の周縁には、押し込みスリーブ10bが添設されている。この押し込みスリーブ10bは、貫通孔10aと同芯で、芯金5の外径よりも僅かに大きな内径を有し、保持ブロック9の貫通孔9aの内径よりも僅かに小さな外径を有している。さらに、この押し込みブロック10には、傾斜面10cが形成されている。
【0019】
芯金5は、図3に示すように、先端部が1/4球を成す曲面5aと、管軸を含む平面5bとによって構成され、かつ、平面5bに、平面視において、相手芯金5の先端部外形に倣った内側面を有する側壁5cが形成されている。
そして、一方の芯金5は、後端5aが挟持ブロック6,7に回転不能に位置決めされ、他方の芯金5は、後端5aが基台8に回転不能に位置決めされる。
【0020】
上記した構成の加工装置では、図1に示すように、管素材1が挟持ブロック6,7の円弧状溝6a,7a間と、保持ブロック9の貫通孔9aに挿通され、管素材1内に芯金5,5が挿通される。そして、両芯金5,5の先端部は、図1に示すように、挟持ブロック6,7と保持ブロック9との境界において、図4(a),(b)に示すように、それぞれの平面5b,5bが当接するようにして会合される。
【0021】
また、この加工装置では、挟持ブロック6,7および押し込みブロック10が、図1に示す作動手段11によって作動される。作動手段11は、プレスによって挟持ブロック6,7と押し込みブロック10とを作動させるもので、挟持ブロック6に対向する押し下げブロック12と、押し込みブロック10に対向し、下面に傾斜面13aを備えた押し下げブロック13とを備えている。
【0022】
そして、作動手段11が降下することによって、図2に示すように、押し下げブロック12が挟持ブロック6を押し下げするとともに、押し下げブロック13の傾斜面13aが押し込みブロック10の傾斜面10cを圧接して、押し込みブロック10を保持ブロック9に向けて移動させる。
【0023】
すると、図2に示すように、芯金5,5が、平行状態を保ちながら離反され、管素材1を変形させて、管素材1に2ヶ所の曲げ部1a,1bと、その中間に直線部1cとが形成される。
【0024】
ところで、上記した管素材1の曲げ加工において、曲げ部1aへの管素材1の端部1dの押圧手段4による押し込み量と、図5に示した管素材1の各部における変形または破断との関係は、以下のとおりである。
【実施例】
【0025】
材 料:STKM11A(外径:18mm 厚み:1mm)
曲げ高さ(中間部長さ:L):57mm
カム角度α:36〜47度
【表1】

【0026】
カム角度36〜37度では、曲げ部1aに破断が発生した。これは、曲げ部1aに管素材の供給が十分に成されなかったことによると思われる。
カム角度38度では、管素材1の中間の直線部1cに大きな変形(楕円)が発生したが、曲げ部1aの破断は発生しなかった。
カム角度39度では、管素材1の中間の直線部1cに小さな変形(楕円)が発生したが、曲げ部1aの破断は発生しなかった。
カム角度40〜42度では、管素材1の中間の直線部1cおよび端部1dに変形が殆ど発生することなく、かつ曲げ部1aに亀裂・シワも発生しなかった。
カム角度43〜44度では、管素材1の中間の直線部1cに小さな変形(楕円)が発生したが、曲げ部1aの破断は発生しなかった。
カム角度45〜46度では、管素材1の中間の直線部1cに大きな変形(楕円)が発生したが、曲げ部1aの破断は発生しなかった。これは、加圧により端部1dが膨らみ、端部1dと保持ブロック9の貫通孔9aの内壁との間に大きな摩擦抵抗が生じ、それによって管素材の押し込みが十分に成されなかったことによると思われる。
カム角度47度では、管素材1の曲げ部1aに破断が発生した。これは、端部1dの更なる膨らみによって、管素材の押し込みが殆ど成されなくなったことによると思われる。
【0027】
以上の結果から、中間の直線部1cの長さLに対する押し込み量が81〜97%であれば、中間の直線部1cの変形が品質にあまり影響することなく、曲げ部1aに破断が発生することがないことが確認され、中間の直線部1cの長さLに対する押し込み量が84〜90%であれば、中間の直線部1cの変形もないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る管素材の曲げ加工方法を実施するための装置を示した概念的な断面図で、管素材の曲げ加工前を示している。
【図2】本発明に係る管素材の曲げ加工方法を実施するための装置を示した概念的な断面図で、管素材の曲げ加工動作中を示している。
【図3】芯金の先端部を示した斜視図である。
【図4】(a)は、芯金が会合した状態を示した平面図、(b)は、芯金が会合した状態を示した側面図である。
【図5】曲げ加工された管素材を示した側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 管素材
1a,1b 曲げ部
1c 中間の直線部
1d,1e 端部
2 第1のクランプ手段
3 第2のクランプ手段
4 押圧手段
5 芯金
5a 曲面
5b 平面
5c 側壁
6,7 挟持ブロック
6a,7a 円弧状溝
6b 円弧状溝
8 基台
9 保持ブロック
9a 貫通孔
9b 円弧状溝
10 押し込みブロック
10a 貫通孔
10b スリーブ
10c 傾斜面
11 作動手段
12,13 押し下げブロック
13a 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管素材の両端から、先端部に1/4球状の突部を有する芯金をそれぞれ挿入して、突部の平面を互いに会合させ、その状態から、それらの芯金の平行を維持しつつ、管軸に対して垂直な方向に相対移動させることによって、管素材に2ヶ所の曲げ部とその中間に直線部とを形成する管素材の曲げ加工方法において、前記管素材を、曲げ部に向けて、中間の直線部の長さに対して81〜97%の量で押し込みながら加工を行なうことを特徴とする、管素材の曲げ加工方法。
【請求項2】
管素材の両端から、先端部に1/4球状の突部を有する芯金をそれぞれ挿入して、突部の平面を互いに会合させ、その状態から、それらの芯金の平行を維持しつつ、管軸に対して垂直な方向に相対移動させることによって、管素材に2ヶ所の曲げ部とその中間に直線部とを形成する管素材の曲げ加工方法で使用される芯金であって、前記芯金の突部の平面に、平面視において、相手芯金の突部の外形に倣った内側面を有する側壁を形成したことを特徴とする、管素材の曲げ加工用芯金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−183574(P2008−183574A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17836(P2007−17836)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(390039929)三桜工業株式会社 (106)
【出願人】(000110169)トシダ工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】