説明

管継手およびその製造方法

【課題】本体部と別に製造された被把持部が本体部の外周に取り付けられる構成で、被把持部と本体部との間の滑りを抑制し、被把持部を把持して移動および回転しないように固定することができる管継手を提供する。
【解決手段】円筒状の本体部2と本体部2の外周に取り付けられている被把持部3とを含む管継手1において、被把持部3の内周部に、本体部2の長手方向に沿う溝3aが設けられており、本体部2の外周面の一部(進入部2a)が、被把持部3の内周部の溝3a内に入り込んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管継手およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管状部材を他の管状部材等の被接続部材に接続するための管継手は、通常、流体等が流通可能な円筒状の本体部と、その本体部の外周に位置し管継手を管状部材や被接続部材に接続する際などに把持される被把持部とを有している。一般的には、被把持部の外周部は、スパナ等で容易に把持される多角形状(例えば六角形状)である。そして、この管継手を管状部材や被接続部材に取り付ける際に、管継手を固定して移動および回転しないようにするために、被把持部がスパナ等によって把持される。これによって、管継手の高精度の取り付けが行える。特許文献1には、六角ナット状の被把持部(大径部)が円筒状の本体部に一体形成された構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−255775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成のように本体部と被把持部が一体化された管継手は、製造工程が煩雑である。また、1本の鋼材に切削加工を施してこの管継手を製造する場合には、切削により除去されて無駄になる材料が多く製造コストが高い。
【0005】
一方、本体部と別に製造された被把持部が本体部の外周に取り付けられる場合もある。この場合、被把持部の内周面は本体部の外周面に密着する円環状である。この管継手の被把持部と本体部との間に滑りが生じると、被把持部を利用して管継手を移動および回転しないように固定することができず、管継手の取り付け精度が悪くなる。
【0006】
また、被把持部が雌ねじを有するナットであり、本体部の外周面に形成された雄ねじにねじ込むことにより本体部に取り付けられる構成の管継手も存在する。このような構成の場合、被把持部を本体部に対して回転させようとする力が加わると、ねじを締めながら、またはねじを緩めながら被把持部が本体部に対して回転するため、管継手を移動および回転しないように固定することができず、取り付け精度が悪くなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、本体部と別に製造された被把持部が本体部の外周に取り付けられる構成で、被把持部を把持して移動および回転しないように固定することができる管継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、円筒状の本体部と本体部の外周に取り付けられている被把持部とを含む管継手において、被把持部の内周部に、本体部の長手方向に沿う溝が設けられており、本体部の外周面の一部が、被把持部の内周部の前記溝内に入り込んでいるところにある。
【0009】
本発明のもう1つの特徴は、円筒状の本体部と本体部の外周に取り付けられている被把持部とを含む管継手の製造方法において、被把持部の内周部に、本体部の長手方向に沿う溝を形成しておき、本体部の外周に被把持部を嵌め込んだ状態で、本体部を内側から径方向に拡大させることにより、本体部の外周面の一部を被把持部の内周部の溝内に入り込ませるところにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、被把持部と本体部との間の滑りが抑制でき、被把持部を把持して管継手を移動および回転しないように固定することができる。その結果、管継手を管状部材や被接続部材に容易に高精度に接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態の管継手の正面図、(b)はその断面図である。
【図2】図1に示す管継手の要部拡大断面図である。
【図3】図1に示す管継手の側面断面図、(b)はその要部拡大断面図である。
【図4】(a)〜(c)は図1に示す管継手の製造工程を順番に示す一部切り欠き正面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の管継手の正面図である。
【図6】(a)は本発明の第3の実施形態の管継手の正面図、(b)はその管継手を管状部材や被接続部材に接続した状態を概略的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本発明の第1の実施形態の管継手1の正面図が図1(a)に、その断面図が図1(b)に示されている。図2は、この管継手1の要部拡大断面図である。図3(a)はこの管継手1の側面断面図、図3(b)はその要部拡大断面図である。
【0013】
この管継手1は、1本の円筒状の本体部2と、本体部2の外周に嵌め込まれた1つの被把持部3とを有する。被把持部3の内周部は、本体部2の外周面に密着する円環形状の一部(好ましくは複数個所)に、本体部2の長手方向に沿う溝3aが形成された形状である。被把持部3の外周部は多角形状(図示されている例では六角形状)である。そして、本体部2の一部が径方向に拡大させられて、外周面の一部(図3に示されている進入部2a)が、被把持部3の内周部の溝3a内に入り込んでいる。本実施形態では、本体部2の両側に接続される部材(管状部材や被接続部材)に合わせて径が変えられており、図1の左側が右側よりも大径になるように形成されている。
【0014】
この構成によると、本体部2の外周に取り付けられている被把持部3を本体部2に対して回転させようとする力が加わったとしても、図3に示すように被把持部3の内周の溝3a内に入り込んだ本体部2の進入部2aが溝3a内から脱出できないため、被把持部3の回転が防止される。また、被把持部3を本体部2に対して本体部2の長手方向に沿って移動させようとする力が加わったとしても、やはり進入部2aは溝3a内から脱出できず、また、図1(b),2に示すように被把持部3が本体部2の外周面に食い込んでいるため、被把持部の3の移動が防止される。すなわち、本体部2の進入部2aが被把持部3の溝3a内から周方向に脱出できないため被把持部3の回転が防止され、進入部2aが溝3a内から本体部2の長手方向に脱出できないとともに被把持部3が本体部2の外周に食い込むため、被把持部3の移動が防止される。周方向と長手方向の間の斜め方向に力が加わったとしても、同様に被把持部3の回転および移動が防止される。従って、図示しないが、この管継手1を管状部材や被接続部材に接続する際に管継手1の被把持部3をスパナ等の治具によって把持すると、被把持部3と本体部2との間で回転や移動が生じることなく、管継手1をしっかり固定できる。それによって、管継手1を管状部材や被接続部材に精度良く接続させることができる。
【0015】
この管継手1の製造方法について説明する。まず図4(a)に示す本体部2と被把持部3を別々に形成して用意する。本体部2は、外周面に凹凸が形成されていない円筒状の鋼材である。被把持部は、図1〜3に示すように、外周部は多角形状(一例では六角形状)で、内周部は円環形状に部分的に溝3aが形成された構成である。溝3aの数は特に限定されないが、複数の溝3aが、組立後に本体部2の長手方向に沿って位置するように形成されるのが好ましい。
【0016】
図4(a)に示す状態から、公知の方法で、本体部2の一方の側部(図1の左側)の径を拡張する加工を行う。これは、本体の一方の側部に接続される部材と、他方の側部(図1の右側)に接続される部材の接続部の径の違いに対応させるためである。それから、図4(b)に示すように、別々に製造した被把持部3を本体部2に嵌め込む。この時点では、被把持部3は本体部2に対して移動や回転が可能であってもよく、被把持部3の内周面と本体部の外周面との間に多少の隙間が存在していてもよい。
【0017】
次に、図4(c)に示すように、被把持部3が取り付けられた本体部2の一端部から、ポンチ4を円筒状の本体部2の内部に挿入する。このポンチ4は、本体部2よりも硬い金属材料からなり、少なくとも一部分の外径が本体部2の内径よりも大きい。従って、ポンチ4を、本体部2の一端側から他端側へ向けて移動させていくと、ポンチ4が本体部2を内側から径方向にさらに押し広げていく。すなわち、本体部2は内側からポンチ4に径方向に押し広げられて全周にわたって均等に拡大する。そして、ポンチ4が、本体部2の、被把持部3が取り付けられている個所に到達すると、本体部2は被把持部3の内周面に拘束されるため、被把持部3の内周面に接触した状態以上には拡大できない。ただし、被把持部3の内周部の溝3aに対向する位置では、本体部2が部分的に径方向に拡大して溝3a内に入り込む。それからポンチ4をさらに移動させると、被把持部3以外の部分では本体部2は全周にわたって均等に径方向に拡大する。そして、ポンチ4を所定の距離だけ移動させたら、ポンチ4を本体部2から取り出す。こうして、図1に示す管継手1が完成する。
【0018】
このように、本体部2の内径よりも大きい外径を有するポンチ4を、本体部2の内部に挿入して移動させた結果、本体部2の一部が径方向に拡大している。そして、本体部2の、被把持部3が取り付けられている個所では、被把持部3の内周面に拘束されて拡大が規制されつつ、本体部2の外周面の一部は、被把持部3の内周の溝3a内に入り込む進入部2aになっている。すなわち、被把持部3が取り付けられている個所では、本体部2の外周に、周方向に見て進入部2aとそれ以外の部分とによる凹凸形状が形成されている。これによって、前記したように被把持部3の本体部2に対する回転が抑えられる。
【0019】
また、被把持部3は本体部2の外周面に食い込んでおり、本体部2の長手方向に見て、被把持部3の両端部には段差が形成されている。この段差は、本体部2の、被把持部3に当接して拘束されている部分と、被把持部3に当接せず拘束されていない部分との、径方向の拡大量の違いによって生じている。この段差によって、被把持部3の、本体部2の長手方向の移動も抑えられる。
【0020】
仮に、被把持部の内周部ではなく本体部の外周部に溝が形成された構成にすると、単に溝が形成されているだけでは被把持部の回転および移動の防止の効果が乏しく、被把持部の内周面の一部を縮径させて本体部の外周部の溝内に入り込ませる必要がある。その場合、被把持部を外側から内側に向けて締め付けるように力を加えて材料を縮めないと、被把持部の内周面は溝内にほとんど入り込まない。このように被把持部を均等に縮めることは容易ではなく、被把持部の本体部に対する回転および移動をあまり有効に抑えられない。
【0021】
これに対し、本発明では、被把持部3の内周面に溝3aを形成し、本体部2を径方向の外側に押し広げて溝3a内に入り込ませるため、材料を縮める場合に比べて容易に実施可能である。さらに、本体部2よりも硬い材料からなるポンチ4を利用すると、極めて容易かつ信頼性高く進入部2aを溝3a内に入り込ませることができる。従って、被把持部3の本体部2に対する回転を有効に抑えられる。しかも、被把持部3が本体部2の外周面に食い込んだ構成にして、被把持部3の本体部2に対する移動を有効に抑えることが容易にできる。
【0022】
図5には、本発明の第2の実施形態の管継手1が示されている。この管継手1は、図1に示す管継手1の本体部2の両端部に、管状部材や被接続部材に接続しやすくするための切削加工が施され、さらに、本体部2の被把持部3と反対側にもう1つの被把持部5が取り付けられた構成である。被把持部5の内周部は、被把持部3の内周部と同様に、本体部2の外周面に密着する円環形状の一部(好ましくは複数個所)に、本体部2の長手方向に沿う溝5aが形成された形状である。そして、被把持部5の外周部は、被把持部3の外周部と同様に多角形状(図示されている例では六角形状)の部分と、後述する管状部材等と接続するためのリング状の部分5bを有している。このリング状の部分5bには雄ねじが形成されている場合もある。
【0023】
被把持部5の本体部への取り付けは、前記した被把持部3の取り付けと同じ方法で行われる。すなわち、本体部2の外周に被把持部5を嵌め込んだ状態で、ポンチ4(図4(c)参照)を用いて被把持部5を内側から径方向に拡大させることにより、本体部2の外周面の一部(進入部2a)を溝5a内に進入させる。それにより、被把持部5は、本体部2に対して回転したり移動したりしないように固定される。
【0024】
図6には、本発明の第3の実施形態の管継手1が示されている。この管継手1は、図5に示す第2の実施形態の管継手1の本体部2が90度湾曲した、いわゆるエルボである。被把持部3,5の構成および取り付け方法は、前記した第1,2の実施形態と同様であるので説明を省略する。本実施形態では、図5に示す第2の実施形態と同様に被把持部3,5が取り付けられた後で、公知の方法によって本体部2が曲げられている。
【0025】
この管継手1の使用状態が図6(b)に示されている。本体部2の一方の端部に設けられている雄ねじが、例えば半導体製造装置の流体流通口6(被接続部材)の雌ねじにねじこまれることによって、管継手1が流体流通口6に接続されている。このねじ込みは、被把持部3を図示しないスパナ等により把持した状態で行われる。本実施形態によると、被把持部材3が本体部2に対して回転することがないので、確実なねじ込みによる接続が行える。
【0026】
また、本体部2の他方の端部に、例えば樹脂製の管状部材7が嵌め込まれた状態で、管状部材7の外周に配置されたスリーブ8を介して、ナット9が被把持部5のリング状の部分5bの雄ねじにねじ込まれることにより、本体部2の他方の端部に管状部材7が接続されている。本体部2の他方の端部に設けられた突起により樹脂製の管状部材7が内周側からスリーブ8に押しつけられている。そして、スリーブ8はナット9によって径方向外側から押さえられ、かつ、ナット9に押さえられている部分の両側で径方向外側に広がっている。この構成により、管状部材7が管継手1から外れることがなく、しかも高いシール性が得られる。ナット9をねじ込む際に本体部2が一緒に回転しないように、被把持部5が図示しないスパナ等により把持される。
【0027】
こうして、エルボ状の管継手1が、管状部材7と、被接続部材である半導体製造装置の流体流通口6とを接続している。例えば本体部2の一方の端部を被接続部材(流体流通口6)に接続する際、および他方の端部を管状部材7に接続する際に、それぞれの端部の近傍に位置する被把持部3,5をスパナ等の治具で把持すると、被把持部3,5と本体部2とをしっかり固定することができる。その状態で、管継手1の両端部を被接続部材(流体流通口6)や管状部材7にそれぞれ接続するための作業を行う。本発明によると被把持部3,5がいずれも本体部2に対して回転や移動することが抑制されるので、精度良く接続可能である。
【0028】
ただし、2つの被把持部3,5のいずれか一方のみを、前記したように内周に溝を有する構成にし、他方は他の方法(例えば一体形成や雄ねじと雌ねじの螺合)で本体部2に取り付けた構成であっても構わない。
【符号の説明】
【0029】
1 管継手
2 本体部
2a 進入部
3 被把持部
3a 溝
4 ポンチ
5 被把持部
5a 溝
5b リング状の部分
6 半導体製造装置の流体流通口(被接続部材)
7 管状部材
8 スリーブ
9 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の本体部と該本体部の外周に取り付けられている被把持部とを含む管継手において、
前記被把持部の内周部に、前記本体部の長手方向に沿う溝が設けられており、
前記本体部の外周面の一部が、前記被把持部の内周部の前記溝内に入り込んでいる
ことを特徴とする管継手。
【請求項2】
前記被把持部の内周部は、前記本体部の外周面に密着する円環形状の一部に前記溝が形成された形状であり、該被把持部の外周部は多角形状である、請求項1に記載の管継手。
【請求項3】
前記被把持部の前記外周部は六角形状である、請求項2に記載の管継手。
【請求項4】
円筒状の本体部と該本体部の外周に取り付けられている被把持部とを含む管継手の製造方法において、
前記被把持部の内周部に、前記本体部の長手方向に沿う溝を形成しておき、
前記本体部の外周に前記被把持部を嵌め込んだ状態で、前記本体部を内側から径方向に拡大させることにより、前記本体部の外周面の一部を前記被把持部の内周部の前記溝内に入り込ませる
ことを特徴とする管継手の製造方法。
【請求項5】
前記本体部を内側から径方向に拡大させることは、少なくとも一部分の外径が前記本体部の内径よりも大きいポンチを前記本体部の内部に挿入することによって行う、請求項4に記載の管継手の製造方法。
【請求項6】
前記ポンチは前記本体部よりも硬い金属からなる、請求項5に記載の管継手の製造方法。
【請求項7】
前記被把持部の内周部は、前記本体部の外周面に密着する円環形状の一部に前記溝が形成された形状であり、該被把持部の外周部は多角形状である、請求項4から6のいずれか1項に記載の管継手の製造方法。
【請求項8】
前記被把持部の前記外周部は六角形状である、請求項7に記載の管継手の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53700(P2013−53700A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193107(P2011−193107)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(594165734)イハラサイエンス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】