説明

管継手構造

【課題】多少チューブとインナーリングとが傾いて圧入されていても、チューブとインナーリングとの間に流体が浸み込んで滞留してしまう不都合が解消されるよう、改善された管継手構造を提供する。
【解決手段】インナーリング3に外嵌拡径されているチューブ端部4Cを螺進するユニオンナット2で締付けることで、管継手本体1とチューブ4とをシール状態で接続可能な管継手構造において、インナーリング3の拡径部分3fは、拡径させるチューブ端部4Cの内周部のうち最大に拡径される部分を最大に拡径するのみの状態として、その時に現れるチューブ端部4Cの内周部の自然な先窄まりの内周拡径面4uよりも大径で、かつ、凸曲面の先窄まり外周拡径面3aを有する状態に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーリングを用いる管継手構造に係り、詳しくは、半導体製造や医療・医薬品製造、食品加工、化学工業等の各種技術分野の製造工程で取り扱われる高純度液や超純水の配管に好適な管継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インナーリングを用いた管継手構造は、流体移送用チューブ、先端からチューブの端部内に圧入させてそのチューブの端部の内周部を拡径させる先窄まりの拡径部分が先端側に形成された外周部と、流体移送用流路である内周部とを有するインナーリング、外周側に雄ネジが形成された筒状螺合部を有する管継手本体又は流体機器、及び、筒状螺合部の雄ネジに螺合する雌ネジが形成されたユニオンナットを備えて構成されている。このようなものとしては、例えば、特許文献1において開示されたものが知られている。
この特許文献1に示されるものでは、外周に雄ねじが形成された状態で管継手本体に設けられた筒状螺合部と、内周部が流体流通路とされ径外側に環状大径部が隆起した管固定用のインナーリングと、前記雄ねじに螺合する雌ねじが形成されたユニオンナットとを備えている。
【0003】
前記管継手構造において、管継手本体に前記チューブを接続するには、まず前記インナーリングをチューブの開放口からチューブの端部内に圧入して前記環状大径部によりチューブの端部を拡径変形させる。
次に、この拡径変形させたインナーリング付きのチューブを前記筒状螺合部内に挿入する。
次いで、前記ユニオンナットの雌ねじを筒状螺合部の雄ねじに螺合する。
そして、ユニオンナットを螺進させて、この螺進によりユニオンナットで、インナーリング付きのチューブを軸心方向に押し付けることにより、チューブの接続を行うものである。
【0004】
ところで、前記インナーリングをチューブの開放口からチューブの端部内に圧入するには専用の圧入治具(圧入装置)を用いて行われている。
この圧入治具(圧入装置)を用いて行われる強制圧入は、例えば特許文献2や特許文献3などに開示されている。
この特許文献2や特許文献3などに開示されたものでは、インナーリングを押し出し機構に嵌装させる一方、チューブをクランプ治具に固定させてチューブの端部を突出させ、前記押し出し機構の操作によって前記インナーリングを軸心方向に押し付けて、前記チューブの開放口からチューブの端部内に圧入させるものである。
【0005】
この圧入治具(圧入装置)では、チューブとインナーリングとを真っ直ぐきっちりと圧入することができるように、クランプ治具と押し出し機構との軸心の相対位置及び方向を精度良く合致させてある。
【0006】
このチューブとインナーリングの互いの軸心X、Pが傾かずに一致して圧入されていると、以下のようになる。
すなわち、図10に示すように、チューブ4の端部4Cの内周面とインナーリング3の外周面3Gとは、クロスハッチングで図示するように、要所要所がリング状に圧接されるため、いずれの要所においても途切れのない(欠円箇所のない)リング状のシール状態が構成されることになる。
【0007】
ここでさらに、図9に示す従来の管継手構造におけるインナーリング3がチューブ4の端部4C内に互いの軸心X、Pが傾かずに一致して圧入されている場合について、図10を参照しながら説明すると、以下のようになる。
まず、図9に示す従来のインナーリング3には、円錐面状の先窄まりの外周拡径面3aと最大径部分3bとを有する拡径部分3fが形成され、この拡径部分3fの最大径部分3bから円錐面状の先拡がりの外周部3cが形成され、この外周部3cから同一外径の直線状の胴外周部3dが形成されている。
【0008】
このインナーリング3がチューブ4の端部4C内に圧入されると、
前記外周拡径面3aには先端手前部分に図10に示すリング状の第1圧接部a1が構成され、
前記外周拡径面3aと前記最大径部分3bとの間から最大径部分3bにかけて図10に示すリング状の第2圧接部a2が構成され、
前記最大径部分3bから、最大径部分3bと先拡がりの外周部3cとの間にかけて図10に示すリング状の第3圧接部a3が構成され、
前記先拡がりの外周部3cと胴外周部3dの間には第4圧接部a4が形成され、
前記胴外周部3dにはその大部分に図10に示すリング状の第5圧接部a5が構成されることになる。
このようにリング状の第1〜第5の圧接部a1〜a5が構成されると、チューブ4の端部4Cとインナーリング3との間は良好にシールされ、流体の漏れが無いのみならず、両者4C,3間に流体の入り込む余地もなくなる。
【0009】
しかしながら、実際の圧入作業においては、前記のようにチューブとインナーリングの互いの軸心X、Pが傾かずに一致して圧入されるという理想的な状態にならない場合がある。この理想的な状態にならない場合について鋭意研究し解析したところ、主に次の(1)〜(3)の理由による。
【0010】
(1)樹脂製のチューブはクランプ治具に固定させてチューブの端部を突出させるものである。この突出させたチューブの端部内にインナーリングを押し出し機構により強制的に押し付けて圧入させるため、この押し付け圧入時に、突出させたチューブの端部が多少屈曲変形してしまうことがある。この屈曲変形が起こると、インナーリングの軸心Pがチューブの端部の軸心Xに対して若干傾いて圧入されてしまうケースがある。
【0011】
(2)現場での人為的操作によって切断されるチューブの端面は、チューブの軸心に対して必ずしも直角に切断されるとは限らず、少し傾斜した状態で切断されてしまうことがある。この端面が少し傾斜したチューブにインナーリングを押し付けて圧入させると、チューブにおける軸心方向で最も突出している部分から順次圧入が開始されるように時差が付く。従って、圧入に伴う摩擦力がチューブの全周にわたって同時に均一に作用せず、周方向で偏って順次作用することになり、前記(1)と同様に、インナーリングの軸心Pがチューブの端部の軸心Xに対して若干傾いて圧入されてしまうケースがある。
【0012】
(3)樹脂製のチューブは連続押出成形されてケーブルコアに巻回された状態で納入される。この巻回されたチューブは曲がり癖がついており真っ直ぐに矯正するが、この曲がり癖を完全に除去することが難しく、僅かながら軸心方向で湾曲することが殆どである。この曲がり癖の程度にもよるが、この曲がり癖が大きいと、インナーリングの軸心Pがチューブの端部の軸心Xに対して真っ直ぐに圧入されず、若干傾いて圧入されてしまうケースがある。
【0013】
このような理由でチューブとインナーリングの互いの軸心X、Pが傾いてしまうのである。チューブの傾きは軸心X,Pの傾きにしてせいぜい1度以内の小さなずれであるが、この軸心X、Pが傾いてしまうと、以下の問題が発生する。
すなわち、図11に示すように、第2〜第5圧接部a2〜a5については、図10に示す場合と同様な圧接状況を示すものの、第1圧接部a1は円錐面の外周拡径面3aにおいてチューブの剛性が作用して縮径変形しやすいインナーリングの先端部に幅狭の帯状領域として形成される。インナーリングの最大径部分3bがチューブ4の内周に圧接しつつその圧接部を始点にチューブ4の端部4Cが軸心Xに対して傾くため、幅狭の第1圧接部a1はその圧接部がリング状とはならず周方向で途切れて、面圧低下部分n又は非接触部nが発生する。
この面圧低下部分n又は非接触部nが発生すると、流体が高浸透性の液体であればあるほど毛細管現象によって、その面圧低下部分n又は非接触部nとなる箇所から外周拡径面3aとチューブ4の拡大変形された先窄まりの圧接部4aとの間の間隙部分kに浸み込み、最大径部分3bの間際にまで達するおそれがある。
このような面圧低下部分n又は非接触部nの存在は、インナーリングにチューブを圧入し、探傷浸透液に一定時間浸漬した後インナーリングとチューブの間に浸透した探傷浸透液の有無により知ることができる。
【0014】
このように間隙部分kにまで浸み込んでしまうと、以下の不具合が出る。
すなわち、チューブ内や管継手本体内を洗浄してから次の流体を流したとしても、先の古い流体が間隙部分kに溜まっており、この先の古い流体が面圧低下部分n又は非接触部nから惨み出して、置換した新たな流体に混入するため、新たな流体の純度が低下したり、新たな流体が変質したり、混入を極力防止するために洗浄や置換に多くの時間、多くの洗浄液、多くの置換流体を費やすといった不具合が生じるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−054489号公報
【特許文献2】特開2001−041364号公報
【特許文献3】特開2008−194799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、インナーリングがチューブの端部内に傾いて圧入された場合においても、流体がインナーリングの外周拡径面の先端側からチューブの端部とインナーリングの外周拡径面との間に浸み込んでいくのが防止され、もって前述した不具合を解消することができる管継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、図5及び図8(a)に例示するように、
流体移送用チューブ4と、
先端から前記チューブ4の端部4C内に圧入させて前記チューブ4の端部4Cの内周部を拡径させる先窄まりの拡径部分3Fが先端側に形成された外周部3Gと、流体移送用流路である内周部3wとを有するインナーリング3と、
外周側に雄ネジ7が形成された筒状螺合部1Aを有する管継手本体1又は流体機器1と、
前記筒状螺合部1Aの雄ネジ7に螺合する雌ネジ13が形成されたユニオンナット2とを備え、
前記インナーリング3は、前記チューブ4の端部4Cの内周部を拡径させた状態で前記筒状螺合部1A内に挿入され、かつ、前記インナーリング3の先端側は、前記筒状螺合部1Aの雄ネジ7に螺合される前記ユニオンナット2に前記チューブ4を挟んだ状態で押し付けられる管継手構造において、
前記インナーリング3の拡径部分3fは、前記チューブ4の端部4Cの内周部のうち最大に拡径される部分を最大に拡径するのみの状態として、その時に現れるチューブ4の端部4Cの内周部の自然な先窄まりの内周拡径面4uよりも大径で、かつ、凸曲面の先窄まりの外周拡径面3aを有するように構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の管継手構造において、図5に例示するように、前記先窄まりの外周拡径面3aと前記チューブ4の端部4Cの内周部との接触部の軸方向長さをpaとし、前記先窄まりの外周拡径面3aと最大径部分3bの境界3gから前記インナーリング3の先端までの軸方向長さをpbとし、このpa/pbが周方向にわたって0.5〜1.0(0.5≦pa/pb≦1.0)の範囲となるように、前記先窄まりの外周拡径面3aが形状設定されていることを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の管継手構造において、前記先窄まりの外周拡径面3aと前記チューブ4の端部4Cの内周部との接触部の軸方向長さをpaとし、前記先窄まりの外周拡径面3aと最大径部分3bの境界3gから前記インナーリング3の先端までの軸方向長さをpbとし、このpa/pbが周方向にわたって0.7〜1.0(0.7≦pa/pb≦1.0)の範囲となるように、前記先窄まりの外周拡径面3aが形状設定されていることを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の管継手構造において、拡径変形されてない前記チューブ4の肉厚をt4とし、前記拡径部分3fの最大径部分3bの肉厚をt3とし、t3/t4が1.2〜2.5の範囲になるように、前記最大径部分3bの肉厚が設定されていることを特徴とする。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の管継手構造において、前記インナーリング3の後端側に、前記管継手本体1又は流体機器1に設けられるシール構成部部m,1aと圧接して奥シール部S3,S4を構成するシール要素部14,15が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、インナーリング3の先窄まりの外周拡径面3aの全体を、前記拡径部分3fの最大径部分3bのみの状態で前記チューブ4の端部4Cを拡径変形させた時に、そこに現れるチューブ4の端部4Cの内周部の自然な先窄まりの内周拡径面4uよりも大径で、かつ、凸曲面に形成しているため、インナーリングの外周拡径面3aの広い範囲にわたりチューブ4Cの内周部と接触することになり、インナーリングの外周拡径面3aとチューブ4の内周部との間にインナーリングの外周拡径面3aの全面に及ぶほどの幅広い圧接部を形成することができる。
従って、インナーリング3がチューブ4に対して多少傾いて圧入されることがあっても、チューブ4の端部4Cとインナーリング3の外周拡径面3aとの間に形成された圧接部が途切れることがなく周方向のほぼ全体が確実に圧接され、この間に外周拡径面3aの先端側から流体が浸み込むといった事態を有効に防止することができる。
その結果、前述した不具合、すなわち、先に流した古い流体が間隙部分kに溜まり、この先の古い流体が面圧低下部分n又は非接触部nから惨み出して、置換した新たな流体に混入するため、新たな流体の純度が低下したり、新たな流体が変質したり、混入を防止するために洗浄や置換に多くの時間、多くの洗浄液、多くの置換流体を費やしたりするといった不具合を解消することができる。
【0023】
請求項2の発明のように、周方向において前記pa/pbを0.5〜1.0の範囲となるように、前記先窄まりの外周拡径面3aを形状設定すれば、インナーリング3の圧入作業に支障を生じることなく確実な圧接をすることができ、好ましい管継手構造を提供することができる。
【0024】
請求項2の発明では、図5に例示するように、前記拡径部分3fの先窄まりの外周拡径面3aとチューブ4の端部4Cの内周部との接触部は、対応する軸方向長さpaにおいては分離していない接触部が形成されることを前提にしている。しかし、その状態にとどまらず、前記拡径部分3fの外周拡径面3aと最大径部分3bのインナーリング先端側の境界3gからインナーリングの先端までの間に、3以上の複数部分の接触部が形成され、それら複数部分の接触部の軸方向長さの総和をpaとし、前記pbに対して、pa/pbが周方向にわたって0.5〜1.0(0.5≦pa/pb≦1.0)の範囲になるように、前記先窄まりの外周拡径面3aが形状設定されている場合の管継手構造においても、前記と同様な効果が期待できる。
【0025】
請求項3の発明のように、周方向において前記pa/pbを0.7〜1.0(0.7≦pa/pb≦1.0)の範囲になるように前記先窄まりの外周拡径面3aを形状設定すれば、インナーリング3の圧入作業に支障を生じることなくより確実な圧接状態を確保でき、高圧の流体をシールできるという優れた管継手構造を提供することができる。
【0026】
請求項3の発明では、図5に例示するように、前記拡径部分3fの先窄まりの外周拡径面3aとチューブ4の端部4Cの内周部との接触部は、対応する軸方向長さpaにおいては分離していない接触部が形成されることを前提にしている。しかし、その状態にとどまらず、前記拡径部分3fの外周拡径面3aと最大径部分3bのインナーリング先端側の境界3gからインナーリングの先端までの間に、3以上の複数部分の接触部が形成され、それら複数部分の接触部の軸方向長さの総和をpaとし、前記pbに対して、pa/pbが周方向にわたって0.7〜1.0(0.7≦pa/pb≦1.0)の範囲になるように、前記先窄まりの外周拡径面3aが形状設定されている場合においても、前記と同様な効果が期待できる。
【0027】
請求項4の発明のように、前記t3/t4を1.2〜2.5の範囲になるように、前記最大径部分3bの肉厚を設定すれば、インナーリング3の肉厚が薄くなりすぎてインナーリング3が短期間にクリープし長期の確実な圧接に支障がでるといった問題が防止される。そして、逆にインナーリング3の肉厚が厚くなりすぎて、チューブ4の端部4Cが過剰に拡径変形させられ、この過剰な拡径変形によってチューブ4の端部4Cが短期間にクリープし長期の確実な圧接に支障がでるといった問題を防止することができる。従って、インナーリング3とチューブ4の端部4Cとの圧接を長期間に亘って確実に確保することができる。
【0028】
また、請求項5の発明のように、インナーリング3の後端側に、管継手本体1又は流体機器1に設けられるシール構成部(m又は/及び1a)と圧接して奥シール部(S3又は/及びS4)を構成するシール要素部(14又は/及び15)を形成しておけば、インナーリング3と管継手本体1又は流体機器1との関係で奥側がシールできるようになり、この奥側のシールによって、奥側から流体がインナーリング3とチューブ4の端部4Cとの間に入り込んでくる事態を万全に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】インナーリングの側面図
【図2】図1のインナーリングの断面図
【図3】図1のインナーリングを用いた管継手構造を示す断面図(実施形態1)
【図4】図3の要部を示す拡大断面図
【図5】チューブとインナーリングとの圧入による一般的な圧接状況を示す断面図
【図6】図1とは別構造のインナーリングの断面図
【図7】図6のインナーリングを用いた管継手構造を示す断面図(実施形態2)
【図8】(a)はインナーリングの最大径部分と同径に形成した円柱30を用いてチューブの端部を拡径変形させ、この時に、そこに現れるチューブの端部の内周部の自然な窄まりの内周拡径面4uの状態を示す断面図、(b)は図1又は図6のインナーリングの先窄まりの外周拡径面をチューブの端部内に圧入して拡径変形させた時の拡大断面図
【図9】従来の管継手構造に用いられるインナーリングを示す断面図
【図10】従来の管継手構造におけるチューブとインナーリングとの良好な圧接状況を示す断面図
【図11】従来の管継手構造におけるチューブとインナーリングとの不具合な圧接状況を示す断面図
【図12】実験用インナーリングを示す断面図
【図13】実験用インナーリングとチューブとによる浸透実験結果を示し、(a)はt3/t4=1.2の場合、(b)はt3/t4=1.8の場合である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の管継手構造における実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0031】
〔実施形態1〕
図1及び図2にはインナーリング3を示し、図3及び図4には前記インナーリング3を用いてチューブ4を接続した実施形態1の管継手構造、即ち、流体移送用のチューブ4と、これが接続される管接続装置Aとを示している。
この管接続装置Aは、チューブ同士を接続する管継手よりなり、管継手本体1と、ユニオンナット2と、インナーリング3とを有し、インナーリング本体3Aをチューブ4の端部4C内に圧入させた状態でチューブ4を連通接続するものである。前記管継手本体1、ユニオンナット2、インナーリング3、チューブ4はいずれも耐熱、耐薬品性に優れるフッ素樹脂(例:PTFE,PFA,ETFE,CTFE,ECTFEなど)等の樹脂製である。
なお、管継手本体1、ユニオンナット2、チューブ4が前記のフッ素樹脂で構成されるとき、インナーリング3においては、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの樹脂で形成してもよい。また、管継手本体1、ユニオンナット2、インナーリング3のすべてをポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの樹脂で成形することもできる。
【0032】
管継手本体1は、筒状の胴部1Cと、その軸心Y方向の先端側に設けた筒状螺合部1Aと、その軸心Y方向の基端側に設けた筒状の受口1Bと、筒状螺合部1Aの付根部の径内側に形成した一方の小径筒部1aと、受口1Bの径内側に形成した他方の小径筒部1bと、内部流路6とを有する筒状構造である。
前記筒状螺合部1Aには、その先端部外周から奥側に向けて雄ねじ7が形成され、その先端部内周に先拡がりの内周面8が形成され、この内周面8の奥側に同一内径の直線状の内周面9が形成されている。
前記小径筒部1aには、同一外径の直線状の外周面10が形成され、この外周面10の先端側に内部流路6に向けて先拡がり状の傾斜内周面5が形成されている。
また、この小径筒部1aの外周面10と前記筒状螺合部1Aの内周面9との間には筒状の環状溝mが形成されている。
なお、管継手本体1は、図3に示すように、受口1Bは筒状螺合部1Aと同構造に、かつ、他方の小径筒部1bは一方の小径筒部1aと同構造に記載されているが、受口1Bや他方の小径筒部1bはそれら以外の構造であっても良い。
【0033】
ユニオンナット2は、樹脂製ナットよりなり、その内周部に、前記筒状螺合部1Aの雄ねじ7に螺合する雌ねじ13と、この雌ねじ13の終端側に径内側に張り出す環状の鍔部12とを有する。
前記鍔部12の内径は、チューブ4が挿通できるようにチューブ4の外径より若干大きい径に設定されている。この鍔部12の内周面12aの内方端部(図示例は内方角部)は、インナーリング本体3Aを圧入したチューブ4の端部4Cの先端側外周面を、管継手本体1の軸心Y方向に押す押圧部12bとして構成され、雌ねじ13を筒状螺合部1Aの雄ねじ7に螺進することによって、押圧部12bがチューブ4の端部4Cの先端側外周面を管継手本体1の軸心Y方向に押し付けていくことになる。
なお、鍔部12の内周面12aは内径を一定にしているが、雌ねじ13から遠ざかるほど内径が漸次拡大するテーパ内周面に形成してもよい。
【0034】
インナーリング3は、図1〜図4に示すように、チューブ4の開放口からチューブ4の端部4C内に圧入するインナーリング本体3Aと、このインナーリング本体3Aの後端側にチューブ4の開放口から突出する嵌合筒部3Bとを有する筒状構造である。
このインナーリング本体3Aと嵌合筒部3Bの各内周部3wは、同径に形成され、流体流通路とされている。
前記インナーリング本体3Aは、その外周部3Gに拡径部分3fが形成され、この拡径部分3fの先端側に先窄まりの外周拡径面3aが形成されている。この拡径部分3fの後端部側には、最大径部分3bと、この最大径部分3bの後端部側に前記嵌合筒部3B側にいくほど外径が小さくなる先拡がりの外周部3cが形成されている。また、この先拡がりの外周部3cの後端部側には外径が一定の胴外周部(胴外周面)3dが形成されている。
【0035】
本願の図面においては、インナーリングの最大径部分3bが、一定の軸方向の長さを備えた構造として記載されているが、外周拡径面3aが直ちに先拡がりの外周部3cに変化する境界に対応する構造であっても技術的に全く差し支えは無い。その場合、段落0018などにおいて説明した境界3gは最大径部分3bに一致する。
【0036】
前記拡径部分3fの先窄まりの外周拡径面3aは、全体が径方向で外側に凸となる凸曲面に形成され、この外周拡径面3aの後端部側に最大径部分3bが形成され、この外周拡径面3aと最大径部分3bとがチューブ4の端部4C内に圧入されることで、チューブ4の端部4Cが拡径変形されるものである。
また、外周拡径面3aの先端部には、インナーリング本体3Aの軸心Pの後方側にいくほど窄まるカット状の変形防止部16が形成されている。この変形防止部16によって、外周拡径面3aがチューブ4の端部4C内に圧入した後、外周拡径面3aの先端部側が径内方向(流体流通路側)に変形して突出するのを防止し、さらにこの変形防止部16によって、流体の流れの勢いや速さで外周拡径面3aの先端側がさらに径内方向(流体流通路側)に変形して突出するのも防止し、これによって外周拡径面3aの先端部の圧接力が低下するのを防いでいる。
【0037】
嵌合筒部3Bは、管継手本体1の環状溝mに圧入する突出円筒部14と、この突出円筒部14の径内側に位置して傾斜外周面11を備える環状小突起部15とが形成されている。環状小突起部15の先端部には、インナーリング本体3Aの軸心Pの先端部方向にいくほど窄まるカット状の変形防止部17が形成されている。この変形防止部17によって、環状小突起部15の先端側が径内方向(流体流通路側)に変形して突出するのを防止している。
前記環状小突起部15の傾斜外周面11と前記突出円筒部14の内周面14aとの間は、環状の窪みに形成されていて、この窪みに管継手本体1の小径筒部1aが嵌入され、この嵌入によって環状小突起部15の傾斜外周面11と小径筒部1aの傾斜内周面5とが当接できるようになっている。
また、嵌合筒部3Bの外周面3eと胴外周部3dとの径差(段差)は、チューブ4の外周面4Bと筒状螺合部1Aの内周面9との間に極力隙間が生じないように、チューブ4の肉厚とほぼ等しく設定されている。
【0038】
チューブ4は、その端部4C内にインナーリング本体3Aを圧入して拡径変形することによって、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aに圧接する先窄まりの圧接部4aと、インナーリング本体3Aの最大径部分3bに圧接する最大拡径圧接部4bと、インナーリング本体3Aの外周部3cに圧接する先拡がりの圧接部4cと、インナーリング本体3Aの胴外周部3dに圧接する胴圧接部4dとが、形成される。
この形成状態において、チューブ4の内部流路4wの径とインナーリング3の内周部3wの径及び管継手本体1の内部流路6の径は、チューブ4の内部流路4wの径だけが少し大きいほぼ面一状(すなわち、ほぼ同一径)に設定されているが、この面一状に設定する場合に限られるものではない。
【0039】
チューブ4は、その端部4C内にインナーリング本体3Aを圧入した後、管継手本体1内に挿入して装備される。そして、図3及び図4に示すように、ユニオンナット2の雌ねじ13を管継手本体1の筒状螺合部1Aの雄ねじ7に螺進することによって、ユニオンナット2の押圧部12bでチューブ4の端部4Cの先端側外周面(先窄まりの圧接部4aの外周面)を軸心Y方向に押し付ける。
この押し付けによって、インナーリング3の突出円筒部14が管継手本体1の環状溝mに圧入され、また、インナーリング3の傾斜外周面11が管継手本体1の傾斜内周面5に当接して圧接される。
【0040】
前記のようにインナーリング3付きのチューブ4が管接続装置(管継手)Aに挿入されて接続されると、次の第1シール部S1〜第4シール部S4が構成される。
すなわち、
第1シール部S1は、チューブ4の先窄まりの圧接部4aとインナーリング本体3Aの外周拡径面3aとの圧接、チューブ4の最大拡径圧接部4bとインナーリング本体3Aの最大径部分3bとの圧接、チューブ4の先拡がりの圧接部4cとインナーリング本体3Aの外周部3cとの圧接、さらにチューブ4の胴圧接部4dとインナーリング本体3Aの胴外周部3dとの圧接によって構成されるシール部である。
【0041】
第2シール部S2は、チューブ4の先拡がりの圧接部4cと、管継手本体1の筒状螺合部1Aにおける先拡がりの内周面8との圧接によって構成されるシール部である。
第3シール部S3は、インナーリング3の嵌合筒部3Bの外周面と管継手本体1の筒状螺合部1Aにおける奥側の内周面9との圧接、さらに嵌合筒部3Bの内周面と管継手本体1の小径筒部1aの外周面10との圧接によって構成されるシール部である。
第4シール部S4は、インナーリング3の環状小突起部15における傾斜外周面11と管継手本体1の小径筒部1aにおける傾斜内周面5との衝合当接による圧接によって構成されるシール部である。
【0042】
これら第1シール部S1〜第4シール部S4が構成されていることによって、チューブ4内・インナーリング3内・管継手本体1内を流れる流体は、管継手本体1の筒状螺合部1Aとチューブ4の端部4Cとの間から侵入したり漏れることがなく、万全にシールされる。
なお、これら第1シール部S1〜第4シール部S4のうち、第1シール部S1及び第2シール部S2が確実にシールされていれば、前記流体は、管継手本体1の筒状螺合部1Aとチューブ4の端部4Cとの間から侵入したり漏れることがなく、良好なシールが確保される。しかし、より万全なシールを確保するためには第3シール部S3及び第4シール部S4のうち少なくともいずれか一方を設けておく方が好ましい。
【0043】
ところで、前記第1シール部S1のうち、チューブ4の先窄まりの圧接部4aとインナーリング本体3Aの外周拡径面3aとの圧接については、特に次のように構成されている。
すなわち、図4に示すように、インナーリング本体3Aの先窄まりの外周拡径面3aは、その全体を、インナーリング本体3Aの拡径部分3fの最大径部分3bの径方向寸法に(最大径部分3bのみの状態で)チューブ4の端部4Cを拡径変形させた時に、そこに現れる(表れる)チューブ4の端部4Cの内周部の自然な先窄まりの内周拡径面4u〔この符号4uは図8(a)に示す。〕よりも大径で、かつ、凸曲面に形成して、この外周拡径面3aをチューブ4の端部4Cの内周部に圧接するように構成している。
【0044】
この自然な先窄まりの内周拡径面4uと、この内周拡径面4uよりも大径で、かつ、凸曲面に形成した外周拡径面3aについて、さらに図8(a)(b)を参照して説明する。
図8(a)に示している円柱30は、その外径Dを、インナーリング本体3Aの最大径部分3bと同径に形成しているものである。この円柱30を、拡径変形されていない内径dのチューブ4の端部4Cに圧入して、チューブ4の端部4Cを拡径変形する。これによって、チューブ4の拡径部4Kと、拡径変形されていないチューブ4の径部分4Mとの間に自然な先窄まりの内周拡径面4uが形成される。
一般的に、この自然な先窄まりの内周拡径面4uの形状や寸法は、チューブ4の材料、厚み(肉厚)t、拡径量〔(D−d)/2〕などの相違によって異なってくるものであり、これらチューブ4の材料、厚みt、拡径量のいずれかが相違すれば、その都度その特性(形状や寸法)が変化する。
【0045】
一方、この自然な先窄まりの内周拡径面4uに対して、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aは、図8(b)に示すように、拡径部分3fを断面で見た場合の外郭線が、径外側に向けて凸となる曲面、つまり凸曲面に形成している。この凸曲面の表面は、円球の表面である球面や、楕円球の表面である楕円球面などになる。また、凸曲面の外径寸法、つまり先窄まりの外周拡径面3aの径寸法は、前記自然な先窄まりの内周拡径面4uに比べて軸心P方向の全てに亘って大径に形成している。
【0046】
このように先窄まりの外周拡径面3aを大径で、かつ、凸曲面に形成していると、次の作用効果が得られる。
今、インナーリング本体3Aがチューブ4の端部4Cに圧入したが、インナーリング本体3Aが傾いて圧入されたため、図5に示すように、インナーリング本体3Aの軸心Pとチューブの軸心Xとの間に相対角度θが存在するとする。
このように傾いて圧入された不測の状況であっても、インナーリング本体3Aの先窄まりの外周拡径面3aの全体が、インナーリング本体3Aの最大径部分3bのみの状態でチューブ4の端部4Cを拡径変形させた時に、そこに現れるチューブ4の端部4Cの内周部の自然な先窄まりの内周拡径面4uよりも大径で、かつ、凸曲面に形成しているため、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aとチューブ4の先窄まりの圧接部4aとの間に第1圧接部a1が形成され、この第1圧接部a1は、周方向で途切れることなく連続したリング状で、かつ、軸心P方向に幅の広い面積の圧接が得られるものである。すなわち、この幅の広い面積の圧接は、上記チューブの材料や、厚み(肉厚)、拡径量に依らず、丁度、図10に示す従来の第1圧接部a1から第2圧接部a2まで連続して一体化したような圧接となる。
【0047】
また、インナーリング本体3Aの軸心Pとチューブの軸心Xとの間に相対角度θが存在すると、図5に示すように、チューブ4の曲がり方向外側部分sでは、チューブ4の自由径部分(図5にて符号4Aや4Bが付されている部分)から先窄まりの圧接部4aへと拡径変化する部分の曲がり(拡径曲がり)が緩やかになる。従って、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aと先窄まりの圧接部4aとの為す角度が小さくなり、圧接が強くなる方向に作用する。そして、チューブ4の曲がり方向内側部分vでは、チューブ4の自由径部分から先窄まりの圧接部4aへと拡径変化する部分の曲がり(拡径曲がり)が激しく(急に)なって、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aと先窄まりの圧接部4aとの為す角度が大きくなり、圧接が弱くなる方向に作用する。
しかしながら、圧接が弱くなる曲がり方向内側部分vにおいても、前記の幅の広い面積を有するリング状の第1圧接部a1が実現(維持)されて十分に圧接することができ、従来のように面圧低下部分n又は非接触部nが生じるといった不具合を解消することができる。
【0048】
このように、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aとチューブ4の先窄まりの圧接部4aとの間に軸心P方向の先端部から幅の広い面積で、かつ、途切れのないリング状の良好な第1圧接部a1が形成されると、流体が高浸透性の液であっても、図11に示す従来のようにインナーリング本体3Aが傾いて圧入されて毛細管現象などにより非接触部nから、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aとチューブ4の先窄まりの圧接部4aとの間の間隙部分kに浸み込んでいくという不具合を防止することができる。
この防止によって、従来のように間隙部分kに溜まっている先の古い流体が非接触部nから惨み出して置換した新しい流体に混入し、この混入によって、新しい流体の純度が落ちるとか、置換後の新しい流体に変質が起こるとかという不具合を解消することができる。また、洗浄や置換に多くの時間、多くの洗浄液、多くの置換流体を費やすという不具合も解消することができる。
【0049】
また、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aを前記のように大径で、かつ、凸曲面にする発明とは別の案として、図9に示す従来のインナーリング本体3Aの外周拡径面3aよりも軸心Pに対する角度をより緩くする手段、つまり、先窄まりの円錐面の外周拡径面3aの角度τをより緩くする手段も考えた。
しかしながら、この手段で周方向に途切れのない第1圧接部を得るには、軸心P方向の長さを相当に長くせざるを得えず、そうなるとインナーリング本体3Aの長さが現状(図9)より大幅に長大化する。加えて、インナーリング本体3Aの軸心Pとチューブの軸心Xとの間に相対角度が存在する場合には、前述したように、曲がり方向内側部分(図5に示す「曲がり方向内側部分v」を参照)でのチューブ4とインナーリング3との圧接が弱くなり、浸透のおそれがある。
【0050】
実施形態1においては、インナーリング本体3Aの外周拡径面3aを球面状の凸曲面として比較的大きく凸となるようにしてあり、チューブ4の自然な拡径変形部4Hの形状は樹脂が備える弾性により、一般に図8(a)に示されるような形状(チューブ内側から見て、凸曲面状に拡径する形状)になるため、外周拡径面3aと先窄まりの圧接部4aとの圧接力が、インナーリング最大径部分3bに対応するチューブ4C部からチューブ内周に沿って前記凸曲面の軸心P方向に進み、拡径量〔(D−d)/2〕の中間値に近付くほど大きくなる設定となる。インナーリング本体3Aの外周拡径面3aを構成する前記凸曲面は球面に限定されるものではなく、懸垂曲面などのなめらかな凸曲面であればよい。
従って、自然な拡径変形部4Hが凹曲面状に拡径したり直線状に拡径する場合であっても、外周拡径面3aの軸心P方向の寸法を増大させることなく、外周拡径面3aと先窄まりの圧接部4aとを圧接状態にすることができ、前記従来の不具合(浸透のおそれ)を防止することができる。
【0051】
また、前記実施形態1の管継手構造による管接続装置Aのインナーリング3におけるインナーリング本体3Aの先窄まりの外周拡径面3aは、その外周拡径面3aとチューブ4の端部4Cとの接触部の軸方向長さ(軸心方向長さ)をpaとし、最大径部分3bの境界3gからインナーリング先端までの軸方向長さpbについて、pa/pbが0.5〜1.0の範囲〔つまり、0.5≦(pa/pb)≦1.0〕となるように形状設定されている。
このような範囲に先窄まりの外周拡径面3aを形状設定しておけば、インナーリング本体3Aをチューブ4の端部4Cに圧入する際、過度にチューブ4の端部4Cを拡径変形しなくて済み、インナーリング本体3Aの圧入作業に支障なく前述した効果(すなわち、軸心P方向に幅の広い面積を有するリング状の良好な圧接状態)を得ることができる。
【0052】
上述の検討を受けて、図12に示した如く、インナーリングの一端部である嵌合筒部3Bを孔無しの塊状として、内周部3wが行き止まり状とされたフッ素樹脂(PFA)製の実験用インナーリング3を製作し、次の条件の下で、フッ素樹脂(PFA)チューブ4と実験用インナーリング3との圧入状態を評価した。ここで、実験の条件は次の(1)〜(4)のとおりである。
(1) 実験に使用した管継手のチューブ口径:1/2”(インチ)
(2) 材質:実験用インナーリングとチューブとは共にPFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)
(3) 封止流体(探傷浸透液):浸透液〔栄進化学株式会社製、レッドマークR−1A(NT)〕
(4) 実験の方法:嵌合筒部(端部)3Bがめくら栓とされた実験用インナーリング3の先端にチューブ4を挿入し、チューブ内に探傷浸透液を満たして加圧した。実験用インナーリング(めくらスリーブ)3の形状などは、図12を参照。
その結果は、以下に示すとおりである〔図13(a)、(b)を参照〕。
t3/t4=1.2に設定した時は液圧が1500Kpaまでは、0.70≦pa/pb において、探傷浸透液の浸透は認められなかった。
t3/t4=1.8に設定すると、液圧が1000Kpaより大きくしたとき、0.40≦pa/pbにおいて、探傷浸透液の浸透は認められなかった。
【0053】
また、前記実施形態1の管継手構造におけるインナーリング本体3Aの最大径部分3bの肉厚は、図8(b)に示すように、拡径変形されてないチューブ4の肉厚をt4とし、最大径部分3bの肉厚をt3とした場合に、t3/t4が1.2〜2.5〔つまり、1.2≦(t3/t4)≦2.5〕の範囲になるように設定されている。
例えば、チューブ4の肉厚t4が1.5mmであれば、インナーリング本体3Aの最大径部分3bの肉厚t3は1.8〜3.75mmに設定するものである。また、より好ましいt3/t4の範囲としては1.4〜1.8の範囲〔つまり、1.4≦(t3/t4)≦1.8〕であり、この場合、チューブ4の肉厚t4が1.5mmであれば、インナーリング本体3Aの最大径部分3bの肉厚t3は2.1〜2.7mmに設定するものである。
【0054】
このような肉厚の比になるようにインナーリング本体3Aの最大径部分3bの肉厚を設定すれば、チューブ4の肉厚に対してインナーリング本体3Aの肉厚が強度と大きさにおいてバランスの取れたものとなり、インナーリング本体3Aの肉厚不足あるいは肉厚過剰による不具合を防止することができる。
すなわち、インナーリング本体3Aの最大径部分3bの肉厚が不足すると、インナーリング本体3Aが短期間のうちにクリープして、チューブ4の端部4Cとの圧接によるシール性が短期間に終わる不具合に見回れる。しかし、これを前記比として1.2以上にすることによってインナーリング本体3Aの肉厚を適正に確保し、インナーリング本体3Aとチューブ4の端部4Cとの圧接によるシール性を長期間に亘って確保することができる。
【0055】
逆に、インナーリング本体3Aの最大径部分3bの肉厚が過剰になると、最大径部分3bの外径が大きくなり過ぎて、チューブ4の端部4Cを過剰に拡径変形することになる。この過剰な拡径変形をすると、インナーリング本体3Aの圧入作業に支障をきたすのみならず、チューブ4の端部4Cが短期間のうちにクリープして、インナーリング本体3Aとの圧接によるシール性が短期間に終わる不具合に見回れる。
しかし、これを前記比として2.5以内にすることによってチューブ4の端部4Cの拡径変形量が過剰になるのを抑制し、もってインナーリング本体3Aの圧入作業のスムーズ性を確保することができるのみならず、インナーリング本体3Aとチューブ4の端部4Cとの圧接によるシール性を長期間に亘って確保することができるようになるものである。
【0056】
〔実施形態2〕
実施形態2の管継手構造におけるインナーリング3は、図6,図7に示すように、嵌合筒部3Bの構成のみが実施形態1の管継手構造におけるインナーリング3と相違しているものである。この相違により、管接続装置Aにおいても、管継手本体1の嵌合筒部3Bの構成が相違するものである。なお、図7においては、受口1Bと他方の小径筒部1bとは、図3に示す管継手本体1のものと同じものに記載されている。
【0057】
すなわち、インナーリング3の嵌合筒部3Bにおいては、外周面3eと、内周部3wと、後端面にインナーリング3の先端部側ほど窄まる先窄まりの内周面20とが形成されている。他方、管継手本体1においては、筒状螺合部1Aの付根部の径内側に、管継手本体1の先端部側ほど径小になる外周面18を有した先窄まりの小径筒部1aが形成され、この小径筒部1aの外周面18と筒状螺合部1Aの内周面9との間には嵌合筒部3Bの後端部が嵌入する先拡がりの環状溝19が形成されている。
そして、前記小径筒部1aの先端部には、小径筒部1aの先端側が径内方向(流体流通路側)に変形して突出し、これによって流体が侵入して滞留するのを防止するためのカット状の変形防止部21が形成されている。
【0058】
この実施形態2による管継手構造の場合は、ユニオンナット2を管継手本体1の筒状螺合部1Aに螺進する。これによって、ユニオンナット2の押圧部12bでチューブ4の端部4Cの先端側外周面(先窄まりの圧接部4aの外周面)を軸心Y方向に押し付ける。
これによって、インナーリング3の嵌合筒部3Bの後端部が管継手本体1の環状溝19に押し込まれて、管継手本体1の先窄まりの外周面18(シール構成部の一例)とインナーリング3の先窄まりの内周面20(シール要素部の一例)とが衝突して圧接され、第3シール部(奥シール部の一例)S3が構成される。
なお、この第3シール部S3を完全に機能させるために、つまり嵌合筒部3Bの後端部が前記環状溝19の底面に当接して、先窄まりの内周面20が筒状螺合部1Aの外周面18に非圧接の状態にならないように、嵌合筒部3Bの後端部の端面はカット状の当接回避部22に形成されているものである。
【0059】
前記実施形態2の管継手構造におけるインナーリング3を用いたチューブ4と管継手本体1との接続は、第3シール部S3(奥シール部)以外の構成について、図3,4に示す実施形態1の管継手構造のものと同様であるため、図6,7においても図3,4に示す符号を付けることによって、その説明を省略する。
【0060】
〔別実施例〕
管継手構造としてのシール対象である流体移送用チューブ4とは、他の管継手本体やポンプ、バルブ等の流体機器から突設されるチューブ状部分(筒状螺合部1A)も含むものとする。また、図8は本発明の技術思想を端的に表すための模式図(原理図)である。従って、チューブ4としては、自然な拡径変形部4Hの形状が、図8に示されるように、軸心Pに直交する方向視で凹湾曲形状を呈するもののほか、ほぼ直線状(テーパ状)となるものでも可能である。本発明の管継手構造においては、管継手本体1に代えて流体機器1を構成要素としたものでも良い。即ち、筒状螺合部1Aがケースに一体的に形成されたポンプやバルブであり、それらポンプやバルブなどを総称して流体機器1と定義する。
【符号の説明】
【0061】
1 管継手本体(流体機器)
1A 筒状螺合部
1a シール構成部
2 ユニオンナット
3 インナーリング
3G インナーリングの外周部
3a 先窄まりの外周拡径面
3b 最大径部分
3f 拡径部分
3w 内周部
4 チューブ
4C チューブの端部
4u 自然な先窄まりの内周拡径面
7 雄ネジ
13 雌ネジ
14,15 シール要素部
S3,S4 奥シール部
m シール構成部
pa 先窄まりの外周拡径面とチューブの端部の内周部との接触部の軸方向長さ
pb 先窄まりの外周拡径面と最大径部分の境界から前記インナーリングの先端までの軸方向長さ
t3 インナーリングの最大径部分での肉厚
t4 拡径変形されてないチューブの肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体移送用チューブ4と、
先端から前記チューブ4の端部4C内に圧入させて前記チューブ4の端部4Cの内周部を拡径させる先窄まりの拡径部分3Fが先端側に形成された外周部3Gと、流体移送用流路である内周部3wとを有するインナーリング3と、
外周側に雄ネジ7が形成された筒状螺合部1Aを有する管継手本体1又は流体機器1と、
前記筒状螺合部1Aの雄ネジ7に螺合する雌ネジ13が形成されたユニオンナット2とを備え、
前記インナーリング3は、前記チューブ4の端部4Cの内周部を拡径させた状態で前記筒状螺合部1A内に挿入され、かつ、前記インナーリング3の先端側は、前記筒状螺合部1Aの雄ネジ7に螺合される前記ユニオンナット2に前記チューブ4を挟んだ状態で押し付けられる管継手構造であって、
前記インナーリング3の拡径部分3fは、前記チューブ4の端部4Cの内周部のうち最大に拡径される部分を最大に拡径するのみの状態として、その時に現れるチューブ4の端部4Cの内周部の自然な先窄まりの内周拡径面4uよりも大径で、かつ、凸曲面の先窄まりの外周拡径面3aを有するように構成されている管継手構造。
【請求項2】
前記先窄まりの外周拡径面3aと前記チューブ4の端部4Cの内周部との接触部の軸方向長さをpaとし、前記先窄まりの外周拡径面3aと最大径部分3bの境界3gから前記インナーリング3の先端までの軸方向長さをpbとし、このpa/pbが周方向にわたって0.5〜1.0(0.5≦pa/pb≦1.0)の範囲となるように、前記先窄まりの外周拡径面3aが形状設定されている請求項1に記載の管継手構造。
【請求項3】
前記先窄まりの外周拡径面3aと前記チューブ4の端部4Cの内周部との接触部の軸方向長さをpaとし、前記先窄まりの外周拡径面3aと最大径部分3bの境界3gから前記インナーリング3の先端までの軸方向長さをpbとし、このpa/pbが周方向にわたって0.7〜1.0(0.7≦pa/pb≦1.0)の範囲となるように、前記先窄まりの外周拡径面3aが形状設定されている請求項1又は2に記載の管継手構造。
【請求項4】
拡径変形されてない前記チューブ4の肉厚をt4とし、前記拡径部分3fの最大径部分3bの肉厚をt3とし、t3/t4が1.2〜2.5の範囲になるように、前記最大径部分3bの肉厚が設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の管継手構造。
【請求項5】
前記インナーリング3の後端側に、前記管継手本体1又は流体機器1に設けられるシール構成部部m,1aと圧接して奥シール部S3,S4を構成するシール要素部14,15が形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の管継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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