説明

簡易浴槽

【課題】一般家庭の浴室で使えるバリアフリーの簡易浴槽。
【解決手段】簀巻き状にして略円筒形を作り、床面上に自立する板状の浴槽枠の内側に防水シートをセットし、中にお湯等を入れて入浴可とした。浴槽枠を筒状に巻く時に重なり合う部分を出入り口とする事でバリアフリーとなる。浴槽枠を筒状に保持させる外側のベルト1の長さを調節する事で浴槽の広さも調節可。浴槽枠を、浴槽の側面の高さに足る長さの硬質性の細長い板か棒状のものを多数並列状に並べ、その間を屈曲自在の連結材で連結して作る事で、狭い浴室内でも出入り口の開閉を容易にし、尚且つ、不使用時もコンパクトに収納可とした。この構成により、設置場所に多少出っ張った柱等がある場合でも柔軟に対応出来る。シートには、全面に細かい凹凸を施し、濡れて重なっても吸い付きにくくし、略中央に硬質性の円盤を付しておく事で、フックの付いた吸盤を取り付け、吊り下げて簡単に水切り可とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易浴槽であり、特にバリアフリーの簡易浴槽である。
【背景技術】
【0002】
冬場、要介護者にシャワーを浴びさせるだけでは、なかなか体が温まらず、かといってお湯を張った普通の浴槽に入れようとすると、場合によっては複数の介護者が要介護者を抱き上げるか、浴室用リフトを設置し、それで要介護者を吊り下げる等の必要がある。
【0003】
しかし、リフトは高価で、その設置は ただでさえそれ程広くはない一般家庭の浴室内のかなりのスペースを占居する。場合によっては、リフト設置の為に浴室を改築する必要もある。しかも、要介護者が亡くなる等の理由でリフトが不要となった場合、どう処分するかの問題が残る。浴室用リフトに関しては、特開2007−202786、2005−237578、2004−33541、2003−126210、2003−70869、平11−89907、平11−19162、平10−52469等の先願があったが、これらを商品化した場合、販売価格はどう考えても10万円を超えると思う。介護保険が適用される特定福祉用具対象商品を介護保険を利用して購入すると、10万円までなら後から費用の9割が利用者に返金されるが、10万円を超える分は全額利用者負担となる。これらの発明は全て、介護保険を利用したとしても、利用者にかなりの金銭的負担となると思われる。
【0004】
リフトを使わずに要介護者等を湯船に浸からせて入浴させる簡易浴槽として、特開2007−283133、2007−269341、2007−181590、特許第3976776、特開2006−218111、2005−205124、2005−205003、2005−40311、2003−180786、2003−19179、平10−80456、平9−252984、平9−164092等の先願があるが、全て四角い形の浴槽である。浴槽の側面に均等にかかる水圧を、最も効率的に、つまり最小限の力で支えようとすれば、円形となる。それを敢えて四角い形にしようとすると、その四角い形を保持させる為に余分な強度を要し、その結果、比較的重い金属や強化プラスチック等の特殊素材による硬い支柱や補強材を使わざるを得なくなり、全体的に重くなり、又、コスト高となる。仮に重量やコストを度外視した場合でも、硬い支柱や補強材を使用した柔軟性の無い浴槽では、1.かさ張り過ぎて浴室の出入り口やそこに至る廊下等を通らない、2.仮に浴室内に持ち込めたとしても、余裕で設置出来る程洗い場が広く無い、3.辛うじて浴室の洗い場に設置出来たとしても、浴室の出入り口が引き戸ではなく扉式の場合、戸口が開閉出来なくなる、等の理由で、実際に使用出来る一般家庭の浴室は限られる。
円形の簡易浴槽としては、特開2004−73487、平8−191776等の先願があるが、要介護者等の入浴介助を対象に考えられたものではなく、バリアフリーではない。その点では、特開平8−490等も同じであり、円形の浴槽でもない。
円形の簡易浴槽で、尚且つ、要介護者等の入浴介助を対象に考えられたものとしては、特開2002−253632、実開平6−83026等があるが、入浴の度に面倒な組み立て作業を行わなければならない。特開2002−291833、実開平6−75288等は、組み立て作業は特に複雑ではないが、要介護者等を水周り用車椅子に腰掛けさせたまま浴槽内に入れるものではなく、浴槽の枠を低い状態にして要介護者本人にそれを跨がせるか、介護者が要介護者を抱き上げる等して中に設置した椅子に腰掛けさせる等の必要があり、転倒事故に繋がる危険性は低くない。
特開2005−296565や平10−127511等も、水周り用車椅子に対応出来るものではなく、ほとんど寝たきりの要介護者等を、浴室内に設置したこの発明品の限られたスペースに座らせる作業自体、要介護者等にとっても介護者にとっても危険を伴う。 特開平10−295770等は、特に複雑な組み立て作業を要せず、要介護者等を水周り用車椅子に腰掛けさせたまま浴槽内に入れ、尚且つ、円形にもなる簡易浴槽だが、それを含め、これら全ての発明品の中で、設置場所の広さや入浴者本人の体型、及び、水周り用車椅子等を使用するか否か等の状況に応じ、浴槽の広さを調節出来るバリアフリー簡易浴槽は一つも無い。
この点では、実開昭50−96047や昭50−96048等も同じであり、尚且つ、これはサウナバスであって、要介護者等を湯船に浸からせて入浴させる事を目的とした浴槽ではない。
更に、浴槽枠と組み合わせて簡易浴槽を構成するシートのほとんどは、最初から袋状になっているか、決まった折り目どおりに折り畳まなければならないものか、チャック等を付されたものであり、加工された部分に負担がかかり、破れ易く、汚れ易く、洗いにくく、拭きにくく、乾きにくく、使用後の折り畳みも面倒である。
結果、これらの発明は全て、“要介護者等を、簡単に、安全に、安価に、湯船に浸からせて入浴させる”という目的を果たせているか という点で言えば、1.入浴介護そのものが かなりの重労働であるにもかかわらず、使用前の組み立て作業を含む設置や 使用後の洗浄と乾燥を含めた撤収作業に手間がかかり、これを使う事で介護者の負担が大幅に軽減されるとは思えない、2.使用状態に組み立てた場合でもかなりのスペースを要し、ましてバリアフリー仕様で 出入り口の開閉スペースまで必要となれば、窮屈さから不便を感じる事無く 余裕で日常使い出来る広さを持つ浴室の洗い場がある一般家庭はそれ程多くない為、ほとんどの家で使えない、3.日本の狭い一般家屋では、次回使用時まで邪魔にならない保管場所が簡単に見つけられない、4.最初から要介護者等の必要を考慮したものではない、5.安価に入手出来そうにない、等の いずれか一つ、あるいは複数の点で問題があると思われる。
【0005】
介護保険が利く 訪問入浴サービス(松阪市では1回約1250円)やデイサービス(松阪市では1回約1000〜1500円)もあるが、1割負担とはいえ、入浴の度に1000円以上の自己負担金がかかる(訪問入浴サービスは、車の運転手や介護士2人等が付き、血圧等も測ってから行う為、人件費がかさみ、デイサービスより高くつくらしい。地域によって違うかもしれない。)
それに、家人ならともかく、資格あるヘルパーさんとはいえ、他人の前で裸になり、他人に体を洗って貰うのを嫌がる人もいる。要介護者が高齢者とは限らない。事故や病気で突然要介護者となった10代20代の女性もいるはずであり、そうした娘を持つ母親で、他人に衣服を脱がされ、他人に体を洗われる娘の気持ちを考え、全く抵抗を感じない人はまずいない。出来る事なら自宅で、他人の目に触れさせる事なく、入浴させてやりたいものである。
【0006】
【特許文献1】特開2007−202786号公報
【特許文献2】特開2005−237578号公報
【特許文献3】特開2004−33541号公報
【特許文献4】特開2003−126210号公報
【特許文献5】特開2003−70869号公報
【特許文献6】特開平11−89907号公報
【特許文献7】特開平11−19162号公報
【特許文献8】特開平10−52469号公報
【特許文献9】特開2007−283133号公報
【特許文献10】特開2007−269341号公報
【特許文献11】特開2007−181590号公報
【特許文献12】特許第3976776号公報
【特許文献13】特開2006−218111号公報
【特許文献14】特開2005−205124号公報
【特許文献15】特開2005−205003号公報
【特許文献16】特開2005−40311号公報
【特許文献17】特開2003−180786号公報
【特許文献18】特開2003−19179号公報
【特許文献19】特開平10−80456号公報
【特許文献20】特開平9−252984号公報
【特許文献21】特開平9−164092号公報
【特許文献22】特開2004−73487号公報
【特許文献23】特開平8−191776号公報
【特許文献24】特開平8−490号公報
【特許文献25】特開2002−253632号公報
【特許文献26】実開平6−83026号公報
【特許文献27】特開2002−291833号公報
【特許文献28】実開平6−75288号公報
【特許文献29】特開2005−296565号公報
【特許文献30】特開平10−127511号公報
【特許文献31】特開平10−295770号公報
【特許文献32】実開昭50−96047号公報
【特許文献33】実開昭50−96048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、要介護者等にとって、跨ぐ必要のある浴槽の縁が障害となり、簡単に、安全に、安価に、自宅の浴室等で湯船に浸かって入浴する事が出来ない点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一般家庭の浴室の洗い場等にも簡単に設置出来る、出入り口を設けた浴槽を提供する事で、要介護者等が浴槽の縁を跨ぐ必要無く、歩いて、あるいは這って、あるいは市販されている水周り用車椅子等に腰掛けたまま、簡単に、安全に、安価に、浴槽内に出入りし、お湯に浸かって入浴出来る事を最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明なら、浴室用リフトや複数の介護者を要せずとも、要介護者等に、一般家庭の浴室の洗い場等で、簡単に、安全に、安価に、お湯に浸かって入浴して貰う事が出来る。
【0010】
本発明を使う事で、椅子等に腰掛けたまま、たとえお湯に浸かっているのが腰から下だけであったとしても、健康の為に半身浴が勧められているように、略下半身さえお湯に浸かっていれば、下半身で温められた血液が全身を巡り、シャワーだけよりもずっと温かく体を洗える。
【0011】
寝たきりで、おむつを使用している要介護者が、入浴中、湯船の中で排泄してしまう事は珍しくなく、しかも、週一回位しか風呂に入れてあげられないとすると、毎日風呂に入る他の家人はその人の後に入るのを正直嫌がるかもしれず、だからといって終い湯で入浴させるのは、要介護者に対して失礼に感じ、結局、要介護者の分だけ別にお湯を張り直すとなれば、浴槽の大きさによっては 水道代・光熱費もかなりかさむ。本発明の簡易浴槽を使うなら、節水出来、経済的。
【0012】
本発明なら、浴槽の広さを調節して、使用者にピッタリの広さの浴槽になるので、お湯の節約にもなるし、血管拡張に伴う急激な血圧低下が原因で意識が薄れ、湯船の中に沈み込む事で起こる浴槽内での溺死事故の危険性も低くなる。水周り用車椅子に腰掛けて使用する場合は 尚更安全である。
【0013】
本発明の構造は、単純で分かり易く、使用に際し、「取扱説明書」を見ながら組み立てなければならないような複雑な作業を要しない。
【0014】
本発明は、特殊な部品や重い材料をほとんど使っていない為、比較的安価に作れ、全体的に比較的軽量で、利用者は購入し易く、運搬等の扱いもし易い。不使用時は、クルクル巻いてコンパクトに収納出来、保管場所にもそれ程困るものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
防水シートと浴槽枠を組み合わせる事で、水漏れはシートがくい止めるが、側面にかかる水圧は外側の浴槽枠が支える為、シートに特別な強度が無くても入浴程度の水圧に対応出来る。実際、ホームセンターで売られているテーブルの上にかける透明シートの一番薄いもので試し、十分使えた。多少の穴が空いても、市販の幅広のビニールテープを両面から貼り合わせれば簡単に修理可能。実際のところこれは、入浴する20−30分程度の間 使うだけのものなので、池を作るみたいにずっと水漏れを防いでいなければならないというものではない。ストーブ等の熱で焼けてしまった等の理由で、修復不可能な程破れてしまった場合でも、シートだけ取り替えれば良いのであり、浴槽枠まで買い替える必要は無い。
【0016】
又、その浴槽枠を、簀巻き状にして略円筒形を作り 床面上に自立する板状のものにして 浴槽の側面に均等にかかる水圧を略円形となって受け止める構成とする。その結果、最も効率的に、つまり最小限の力で水圧に対応出来、比較的重い金属や強化プラスチック等の特殊素材による硬い支柱や補強材を必要とせず、全体的に比較的軽量安価に作れ、且つ、浴槽枠を筒状に巻く時に重なり合う部分を出入り口とする事で、浴槽内への入出時に浴槽の縁を跨ぐ必要を無くしたバリアフリーとなり、更に、重なり合う部分の割合を増減させる事で浴槽の広さも調節可能となる。
【0017】
更に、その浴槽枠を、人一人 入浴出来る量のお湯の水圧に耐える程度の硬質性を持つ 浴槽の内側の側面の高さに足る長さの細長い板か棒状のものを多数並列状に並べ、その間を屈曲自在の連結材で連結して作る(シャッターやシャッター式の風呂の蓋、又、風呂の蓋によく見られるパタパタと折り畳めるタイプのものやクルクル巻き上げられるタイプのもの、蝶番等を複数使ったもの、すだれや簀巻き状のもの、蛇腹状のもの等を含む)。すると、使用時、床面上に略円筒形状に自立しつつ、狭い浴室内でも出入り口の開閉を容易にし、且つ、使用後もクルクル巻いてコンパクトに収納出来る。この構成をとる事で、設置場所に多少出っ張った柱等がある場合でも柔軟に対応し、形は少し歪な円筒形となりながらも、簡易浴槽としての機能はしっかり果たす。
【0018】
その上、その浴槽枠の外側に留め具の付いたベルトを巻き、それで浴槽枠を筒状に保持させる事で、水圧を受け止める浴槽枠を外側から支え、更に、ベルトの留め具の位置を調節する事でベルトの長さを調節し、その結果、浴槽枠を筒状に巻く時に重なり合う部分の割合を増減出来、浴槽の広さを調節可能にする。ベルトを使わずに浴槽枠を筒状に保持させる構成としては、浴槽枠の表面と裏面に、それぞれ対応するフックとなるような留め具を全面的に付したものや、浴槽枠を構成する細長い板か棒状のもの1本1本を筒状にし、浴槽枠を簀巻き状にした時、重なり合って隣同士になったものをU字型のピン等で止めるもの等、いろいろ考えられる。しかし、その分重くなるか、形状が複雑になり、汚れが付き易く、洗いにくく、拭きにくく、乾きにくいものになる。
【0019】
ベルトは、浴槽枠をクルクル巻き上げてコンパクトに収納する際にも、巻き上げた状態を保持するのに そのまま役立つ。又、ベルトには、巻き尺の様に目盛りをつけておくと良い。すると利用者は、実際に使ってみて、自分にとって丁度良い浴槽枠の広さを作るには、ベルトの留め具を目盛りのどの位置に合わせれば良いか覚えておける。
【0020】
防水シートと浴槽枠を組み合わせる際、給湯前にシートが浴槽内に倒れ込んで来ないよう、浴槽枠の上部の縁に引っ掛けたシートの上からクリップで止める。専用のクリップを作れば見栄えは良くなると思うが、止めておくだけで良いのだから、大きめの洗濯挟みで十分代用出来る。しかし構成はこの限りではなく、他にも、円形シートの周囲に幾つかのループを付し、浴槽枠の上部の縁に付けた突起に引っ掛ける構成にしたものや、磁石や吸盤を使用する構成も考えられる。ループを使う場合は、浴槽の広さを変えても対応出来るよう、ループの長さも調節出来るようにしておく。
【0021】
防水シートには、全面に細かい凹凸を施し、濡れて重なっても吸い付きにくくしておく。吸い付き易いと扱いにくい。しかも、細かい凹凸を施す事でシート自体の強度も増す。そして略中央には、硬質性の円盤を付しておく。すると使用後等、その円盤に、フックの付いた吸盤を取り付け、浴室内等に吊り下げて簡単に水切り出来る。略円筒形の浴槽枠にセットするシートなので、シート自体も円形にしておくと無駄がない。例えば、四角いシートの場合、使用中は浴槽枠の外に余分な四隅が垂れ下がる事になり、使用後は浴室内等に吊り下げて水切りする際、余分な四隅の分だけ長く垂れ下がり、床につかないように吊り下げる為には、その分 上の方から吊らなければならない。
【0022】
シートには、浴槽枠の上部の縁に引っ掛ける際に目安となるよう、大小幾つかの円を描いておくと良い。そしてその円に番号を付し、ベルトの目盛りと対応させておく。例えば、“1”の円に合わせてシートを浴槽枠にセットしたなら、浴槽枠のベルトの留め具の位置を「1」の目盛りに合わせると、シートと浴槽枠の大きさが丁度合う、という具合にしておく。したがって、付しておくのは番号でなくても、“イ・ロ・ハ”や“大・中・小”等の文字でも良いし、イラストや色で対応させても良い。
【0023】
給湯時、シャワーを使うなら、入浴者が気持ち良いと感じる部分にシャワーを当てながら給湯出来るよう、浴槽枠の上部に固定出来る 着脱自在な蛇腹ネックのシャワーホルダーを使うと良い。
【実施例】
【0024】
本発明の使用方法は以下の通り(冬場、自宅の浴室で、要介護者を水周り用車椅子に腰掛けさせて入浴させる場合)。
1.普通に風呂を沸かす。脱衣場はあらかじめ暖めておく。
2.浴室の洗い場に、本発明の浴槽枠を、ベルト1が付いている方を下にして“逆U字型”に立てて置く(図1)。(この時、奥の浴槽枠の手前に風呂の椅子2等を置いておくと、水周り用車椅子の座面下のデットゾーンをその分無くし、節水できる。)
3.浴槽枠の上部の縁の略中心の3カ所程に、円形シート(図2)の端を引っ掛け、クリップ4等で止める。この時、シートに描かれている円を目安にすると良い。
4.浴槽枠の上部の縁にクリップ4等で止めた所のシートを真っすぐ下に降ろし(この時、節水の為に風呂の椅子2を置いていたとしたら、その風呂の椅子2はシートの下にある事になる)、浴槽の底の部分をセットする。
5.浴槽の底になる部分のシートと、出入り口となる手前のシートのシワをのばしておく。
6.あらかじめ暖めておいた脱衣場で、要介護者の衣服を、トイレの時の様に下半身だけ脱がせて水周り用車椅子に座らせ、浴室内の円形シートの略中心に移動させる(図3)。(どのみち要介護者を入浴させる時は、その前にトイレに連れて行くものである。)この時、入浴後の身体を拭く為の絞り易い大きさのタオルと、拭き終えた後、浴室のドアを開ける前に要介護者の身体に掛けてやる 乾いた大きめのバスタオルを、濡れないようにビニール袋等に入れて中に持ち込んでおく。
7.手前の円形シートを持ち上げ、水周り用車椅子ごと要介護者を包む様にし、その周囲を浴槽枠で筒状に囲み、丁度良い大きさの浴槽を作ったら、ベルト1の留め具を繋いで浴槽枠を固定し、手前の円形シートの端を浴槽枠の上部の縁に全て引っ掛け、クリップ4等で止める。この時、次回使用時の為、ベルト1の留め具をベルトの目盛りのどの位置で止めたか覚えておくと良い。
8.要介護者の上半身の衣服を脱がせ、脱がせた衣服を浴室の外に出した後、浴室のドアを閉める。これで入浴準備完了(図4)。
9.湯船に張ったお湯を、ポンプ又は手桶等で、要介護者の足先から徐々にお湯に浸かるように簡易浴槽の中に入れる。ポンプにシャワー口を取り付け、要介護者の体に温かいシャワーを掛けてやりながら給湯しても良い。この時、着脱自在な、蛇腹ネックのシャワーホルダー8を使うと良い(図8)。給湯式の風呂なら そのまま本発明の簡易浴槽の中に給湯するか、シャワーで給湯しても良い。
10.要介護者がお湯に浸かったまま、頭や髪の毛→顔→肩→腕→背中→胸 等、体の上部から下部へ向かって順に洗っていき、それに合わせて徐々に簡易浴槽の中のお湯をポンプ又は手桶等で外の洗い場に排水する。
11.上半身を略洗い終え、中のお湯の量がかなり少なくなってきたら、手前のシートを止めているクリップ4等を外し、浴槽枠のベルト1の留め具を外して出入り口を開き、手前のシートを下げて中のお湯を徐々に排水し、下半身を洗う。
12.足先や陰部まで洗い終えたら、最後に全身にお湯をかけ、石鹸等を洗い流す。
13.浴室の中で出来るだけ身体の水気を拭き取ってから、乾いたバスタオルをかけてやり、要介護者に“ドアを開けるから寒いよ”と言い聞かせてから、浴室のドアを開ける。
14.手前のシートのシワを伸ばして水周り用車椅子の通り道を平らにし、要介護者を水周り用車椅子に腰掛けさせたまま浴室を出る。
15.要介護者に衣服を着せ、髪の毛もよく乾かし、綿棒等で耳の穴に入ってしまったかもしれない水分も拭き取り、水分補給させ、しばらくしてから寝かせる等して休ませる。
16.浴室に残した浴槽枠(図1)と円形シート(図2)は、ザッと洗い流した後、シートは中央の円盤3に、フックの付いた吸盤9を付けて持ち上げ、浴室の高い位置に取り付けたフックや突っ張り棒等に引っ掛けて吊るし(図9)、浴槽枠はそのまま浴室内にしばらく立てて置き、両方共ある程度水気が切れたらベランダ等に出す等して乾かす。
17.しっかり乾いたら、シートは、三つ折り等 略中央に付してある円盤を避けて折り畳み、尚且つ、浴槽枠の丈より短くなるように適当に折って、浴槽枠の中に巻き込み、ベルトで固定してコンパクトに片付け、次回使用時まで邪魔にならない所に収納しておく(図10)。
【0025】
浴槽の縁を跨いで入るのが難しいだけで、浴室までは歩いて行け、腰掛けている状態を保つ事なら出来るという人なら、水周り用車椅子が無くても、シャワーチェアー等に腰掛けて貰って使用可能。
【0026】
歩く事は出来ないが、這う事なら出来、上半身は比較的自由に使えるという人なら、ハーフサイズ(水周り用車椅子での入浴に対応したものと比べて 約半分程の高さにしたもの)を使い、浴室に設置した本発明の浴槽の中に這って入ってから、自分で浴槽枠のベルトの留め具を繋ぎ(図11)、自分で浴槽の中にお湯を入れて入浴出来る。(ハーフサイズを作るのではなく、浴槽枠の高さを調節する構成もある。例えば、高さが半分になる様に切断し、上段と下段、それぞれの切断面の、片方に“差し込み”、もう片方に“差し込み口”となる凹凸をつけ、分離出来るようにするとか(図12)、ラジオ等のアンテナを引き伸ばすように浴槽枠を構成する細長い板か棒状のもの1本1本を引き伸ばすようにするもの、“コ”の字型を向かい合わせて噛み合わせたものを多数連ね、スライドさせて引き伸ばすもの、アコーディオン状に縦に引き伸ばすもの、縦に屏風折りに出来るもの等。しかし、構成が複雑になると その分コスト高になるだけでなく、全体的に重くなると思う。高さを簡単に調節出来るのは良い事だが、その分重くなり、設置・撤収・収納等における介護者の負担を増やす事は避けたい。又、水周り用品なので、衛生面を考慮し、形状は出来るだけシンプルで、汚れが付きにくく、洗い易く、拭き易く、乾き易いものにしたい。)浴室の洗い場の床が固く、冷たいなら、浴槽枠を設置する前に、市販の風呂用マットを敷くと良い。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上述の通り、本発明の簡易浴槽は、高価で かさ張る浴室用リフトや複数の介護者を要せずとも、要介護者等を、一般家庭の浴室の洗い場等で、簡単に、安全に、安価にお湯に浸からせて入浴させる事が出来、且つ、クルクル巻いてコンパクトに収納出来、それ程重いものではない為、水周り用車椅子と共に車に積んで、要介護者等を温泉等に連れて行ってあげる事も出来る。みんなと一緒に温泉に浸かる事は出来なくても、洗い場で本発明を使わせて貰えるなら、温泉の湯をポンプや手桶等で簡易浴槽の中に入れてあげれば良い。これはつまり、自宅に浴室が無く、銭湯に行くという家庭でも、その銭湯の洗い場で本発明を使用する許可を得られれば、銭湯で入浴させてあげられるという事でもある。
【0028】
銭湯や温泉、宿泊施設側が、本発明を常備しておいてくれるなら、シートを交換するだけで共用も可能だと思う。使い捨てのシートだけを別売する方法もある。これで要介護者等でも温泉施設や宿泊施設の利用を諦めなくてよくなる。施設側は、本発明の常備をセールスポイントにして、「気持ち良く、気がねなく、“マイ・湯”」等をキャッチフレーズに、要介護者等に限らず、希望者には全て、本発明の簡易浴槽一杯分のさら湯を提供する等のサービスを行える。
【0029】
介護施設の浴室を、最初から本発明の簡易浴槽を備え付けた給湯式の風呂とするなら、何十万円、何百万円もかけて銭湯のような大浴場を作る必要は無くなる。しかも要介護者は、他人が使って、もしかしたら他人の排泄物が入っているかもしれない湯船に浸からされるのではなく、自分だけの為に新しいお湯を入れて貰える。入浴介護をするヘルパーさんも、要介護者と一緒に熱い湯に浸かる必要はほとんど無くなる為、介護の負担が軽減出来る。
【0030】
本発明を使うなら、単身赴任者や学生用のワンルームマンションやウイークリーマンション等、シャワー室しか無い住居でも湯船に浸かる事を可能にする。
【0031】
本発明は、使用に際し、住居に釘一本打つ必要が無い為、たとえ借家でも大家さんの許可を取る必要も多分無い。
【0032】
一人暮らしなのに浴槽が大きく、お湯がもったいないと感じている人は、給湯式の風呂なら、本発明を利用すれば最小限のお湯で入浴出来る。
【0033】
家族で暮らしていても、自分以外の人が浸かったお湯に入りたくないという人がいる場合、給湯式の風呂なら、本発明を利用すれば、自分だけ別に さら湯で入浴可能。あるいは、皮膚病等の治療中で、他の人が入る湯船のお湯を汚したくないという人がいる場合も、本発明を利用すれば、家族に気がねなくお湯に浸かれる。家族は嫌がるが自分だけは気に入っている入浴剤を使いたいという人がいる場合や、家族の中で自分だけが薬湯に浸かる必要がある等の場合も、本発明の簡易浴槽は有効である。
【0034】
自宅の浴槽を本発明の簡易浴槽にし、家族全員が、それぞれ“マイ・シート”を持ち、浴槽枠だけを共有する使い方もある。ペット用のシートも用意したい家庭もあるかもしれない。
【0035】
バリアフリー設計をセールスポイントにしている住宅販売業者は、販売する住宅の浴室を、最初から本発明を備え付けた給湯式の風呂とし、玄関や和室を含めた他の個室、トイレや浴室の出入り口だけでなく、浴槽への出入りもバリアフリーである事を“売り”にすると良い。しかも、浴槽の中で身体を洗うのだから、従来の浴室のように浴槽と洗い場の2つのスペースを確保する必要が無い為、ちょっと広めのシャワー室を用意して本発明を設置すれば良いだけである。したがって、最初から浴室のスペースをコンパクトに設計でき、普通の浴槽を設置する浴室に比べ、施工費用も低く抑えられる。
【0036】
本発明なら、浴槽としては比較的安価に製造出来、比較的コンパクトで軽量な為、運搬も保管も極端に問題となるものではない。
【0037】
災害時も、排水可能な場所にテントを張り、本発明を設置して給湯すれば、避難者達に湯船に浸かって入浴して貰える。
【0038】
浴槽内への出入りをバリアフリーにし、使用者に合わせて浴槽の広さを調節出来、無駄にお湯を使わずに済む本発明は、ヒトにも地球にも優しい、エコロジーな、浴槽のユニバーサルデザインである。
【0039】
現在、団塊の世代が退職の時期を迎え、10年後、20年後の日本は、今よりも更に大勢の高齢者を抱える社会となる。それと比例し、要介護者も爆発的に増える。介護制度の整備改善と共に、扱い易く、一般家庭が入手し易い安価な介護用具を揃える事は急務と思われる。本発明は大いに役立つはずである。
【0040】
ちなみに、悲しい事だが要介護者が亡くなる等の理由で、本発明の簡易浴槽としての必要が無くなったとしても、構造が極めて単純で形がシンプルな本発明は、他の活用方法が色々あり、粗大ゴミにしてしまう必要は無い。小さな子供の水遊び用プールやタライに応用出来るし、浴槽枠のベルトを数箇所 家の柱や家具等に固定する等して倒れて来ないようにすれば、幼児や小型のペットの安全サークルとしても応用出来る。おもらししてもシートが受け止め、畳やじゅうたん、カーペットを汚す心配が無い。しかも、この場合は水圧に対応する必要が無いので、部屋の形や大きさ、家具の配置に合わせ、楕円形や“L”字型等に設置する事も可能。庭や畑があるなら、隅に設置し、シートを蓋代わりに被せ、コンポストとしても使える。シートだけ、野外に駐輪している自転車やバイクのカバーとして使い、浴槽枠は、子供部屋の隅に置き、子供のおもちゃ入れにしても良い。最初から浴槽枠の側面には ほのぼのとしたイラストや可愛いイラストを描いておくと良い。介護用具の簡易浴槽として使う場合にも、介護がちょっと楽しくなる。
小児マヒと診断され、第一級第一種の身体障害者で、介護保険が始まってからは「要介護5」と診断された私の祖母は、亡くなる前の数年間、冬場は、私が作ったこの簡易浴槽で入浴した。加齢と共に握力も弱まり、介護している私に捕まっている力が無くなり、とても私一人では、体重が私とほとんど変わらない祖母を風呂に入れてやれなくなった時、私は途方に暮れた。何とか寒い冬場、祖母を湯船に浸からせて温まらせてやる事は出来ないかと考え続け、介護業者に何度も相談し、介護カタログを隅から隅まで探したが、適当なものは見つけられなかった。『自分で作るしか無い』と思い、独り家に居る事を寂しがり 不安がる祖母をなだめて家に残し、何度もホームセンター等に通って材料を探し、この簡易浴槽を完成させた。あの頃、もしこの簡易浴槽が既に市販されていれば、それがたとえ20万円もしたとしても、私はそれを購入した。そうすれば、その分、当時既に90歳を越えていた 寝たきりの祖母を一人 家に残し、これを作る為に出掛ける回数を減らせた。あの頃の私と同じ問題を抱えている人は今も大勢いるはずである。一日も早く本発明を商品化し、役立てて欲しい。そうなれば、苦労の多かった、というよりも、苦労と辛抱しかなかった、人並みの生活を諦め続けるしかなかった祖母の94年の人生と、祖母が寝たきりになってから20年間続いた私の介護生活が、無駄ではなかったと思える(足が不自由な為、出産どころか結婚も諦め、19歳の時に、育てられない事情が出来た人から1歳の子供を貰い、足を引きずりながら祖母が一人で育てたのが私の父であるが、まともに小学校にも行けなかった祖母は、正式な養子縁組をする方法も知らず、そうしていれば受ける事が出来た法的保護も受けられず、やがて“孫”となる私が生まれた後、せっかく育て上げて家族を作った“息子”、つまり私の父が、41歳で自分よりも先に死んだ)。祖母の死後、この簡易浴槽が“特許になるかもしれない”と、人から教えられ、多くの人々に助けられながら全て私が自分で書いた 専門家の方々が御覧になれば 不備だらけに違いないこの「特許願」は、“祖母の人生を無駄にしたくない、この発明により あの頃の私と同じ問題を今現在抱えている人々の助けになりたい”と願う、私の心の叫びである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】バリアフリー簡易浴槽の浴槽枠の図。
【図2】バリアフリー簡易浴槽の防水性円形シートの図。
【図3】バリアフリー簡易浴槽の浴槽枠に防水性円形シートをセットし、水周り用車椅子に腰掛けた要介護者が、中に出入りする様子を示した図。
【図4】バリアフリー簡易浴槽を使って、水周り用車椅子に腰掛けた要介護者が入浴している状態を示した図。
【図5】バリアフリー簡易浴槽を使って、水周り用車椅子に腰掛けた要介護者が入浴している状態を分解して示した図。
【図6】バリアフリー簡易浴槽の浴槽枠を、水周り用車椅子にすっぽり収まる子供等小柄な要介護者に合わせて、小さく作って使用している状態を示した図。
【図7】バリアフリー簡易浴槽の浴槽枠を、水周り用車椅子から身体がはみ出る程大柄な要介護者に合わせて、大きく作って使用している状態を示した図。
【図8】バリアフリー簡易浴槽の浴槽枠の上部に蛇腹ネックのシャワーホルダーを設置し、シャワーで給湯する様子を示した図。
【図9】使用後の防水性円形シートを、フックの着いた吸盤を使って干した様子を示した図。
【図10】バリアフリー簡易浴槽の収納方法を示した図。シートは畳んで浴槽枠に巻き込むと片付く。
【図11】バリアフリー簡易浴槽のハーフサイズで入浴する状態を記した図。
【図12】バリアフリー簡易浴槽を上下二段に分離できる構成にしたものを示した図。
【符号の説明】
【0042】
1 ベルト
2 風呂の椅子
3 フックのついた吸盤を取り付ける円盤
4 クリップ
5 水周り用車椅子に腰掛けた要介護者
6 中のお湯による水圧と浴槽枠に挟まれ、シワを寄せてコップ状に形を変えている防水性円形シート
7 使用中の浴槽枠
8 浴槽枠の上部に固定出来る 着脱自在な蛇腹ネックのシャワーホルダー
9 フックのついた吸盤
10 防水性円形シートを浴槽枠に巻き込み易い大きさに畳んだ状態
11 コンパクトに巻き上げた浴槽枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
簀巻き状にして略円筒形を作り 床面上に自立する 板状の浴槽枠の内側に、防水シートをセットして、中にお湯等を入れ 入浴出来る様にした簡易浴槽で、浴槽枠を筒状に巻く時に重なり合う部分を出入り口とする事でバリアフリーとなり、尚且つ、重なり合う部分の割合を増減させる事で浴槽の広さも調節可能とした簡易浴槽。
【請求項2】
請求項1の浴槽枠の外側に、留め具の付いたベルトを巻き、それで浴槽枠を筒状に保持させると共に、ベルトの留め具の位置を調節する事でベルトの長さを調節し、その結果、浴槽枠を筒状に巻く時に重なり合う部分の割合を増減出来、浴槽の広さを調節可能とした簡易浴槽。
【請求項3】
請求項1又は2の浴槽枠と組み合わせて簡易浴槽を構成する防水シートで、全面に細かい凹凸を施す事で 濡れて重なっても吸い付きにくくし、略中央には円盤を付しておく事で フックの付いた吸盤を取り付けて 約半分の丈で吊り下げられる様にしたシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−12215(P2010−12215A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288403(P2008−288403)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【特許番号】特許第4330032号(P4330032)
【特許公報発行日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(307042503)
【Fターム(参考)】