説明

米粉パン用風味改良剤

【課題】不快臭であるムレ臭を低減した風味良好な米粉パンを提供すること。また経日的にソフトでしっとりとした米粉パンを提供すること。
【解決手段】アルギン酸類を有効成分とすることを特徴とする米粉パン用風味改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
米粉パンは、発酵や焼成などの加熱により米粉に由来する特有の臭いであるムレ臭や米糠臭が感じられる。この米粉パンの風味を改善する方法として、特許文献1や特許文献2があげられる。
【0003】
特許文献1はトレハロース及び/又はマルチトールを含有せしめることを特徴とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸の分解を抑制する方法が開示されている。特許文献1の抑制方法はトレハロースやマルチトールといった甘みを有する糖類を使用するため、甘みを付与したくない食品に甘みを付与してしまいやすいという欠点があった。特許文献2はホップ抽出物を有効成分とする米加工食品用香味改良剤が開示されている。しかしホップ抽出物には特有の香りや苦味を有するため、特許文献2の米加工食品用香味改良剤を用いた場合、食品にホップ抽出物特有の香りや苦味を付与してしまいやすいという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−123194号公報
【特許文献2】特開2005−269988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、米粉を使用した米粉パンにおいて、甘みや苦味などの味を米粉パンに付与する恐れがない、アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤を用いることにより、ムレ臭を低減した風味良好な米粉パンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成すべく種々検討した結果、アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤により、甘みや苦味などの味を米粉パンに付与することなく、ムレ臭を低減した風味良好な米粉パンが得られることを見出した。
【0007】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたもので、アルギン酸類を有効成分とすることを特徴とする米粉パン用風味改良剤により上記の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の米粉パン用風味改良剤により、特に不快臭であるムレ臭を低減した風味良好な米粉パンを得ることが可能である。また本発明の米粉パン用風味改良剤により、経日的にソフトでしっとりとした米粉パンを得ることも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の米粉パン用風味改良剤について詳述する。
本発明の米粉パン用風味改良剤はアルギン酸類を有効成分とする。
【0010】
上記アルギン酸類としては、アルギン酸、アルギン酸エステル、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウムなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。本発明ではアルギン酸類として、アルギン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0011】
本発明では、上記のアルギン酸類を有効成分とする米粉パン用改良剤は可塑性油中水型乳化物であることが好ましい。これは米粉生地への分散性が向上するためである。
【0012】
上記のアルギン酸類の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物である米粉パン用風味改良剤(以下可塑性油中水型乳化物とする)中、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜4.5質量%、一層好ましくは1〜3.5質量%、最も好ましくは1.5〜3質量%である。上記の可塑性油中水型乳化物中、アルギン酸類の含有量が0.1質量%よりも少ないと米粉パンの風味を改良する効果が得られにくく、5質量%よりも多いと水相粘度が高過ぎて可塑性が得られにくい。
【0013】
上記の可塑性油中水型乳化物で用いる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別およびエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等があげられる。本発明では、これらの油脂の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
上記の可塑性油中水型乳化物中の油脂の含有量は、好ましくは30〜80質量%、さらに好ましくは35〜60質量%、最も好ましくは40〜50質量%である。上記の可塑性油中水型乳化物中の油脂の含有量が30質量%よりも少ないと乳化が不安定で油相と水相の分離や転相が起こりやすく、80質量%よりも多いとムレ臭低減の効果が十分に得られにくい。
【0015】
上記の可塑性油中水型乳化物の油相と水相の比率は、好ましくは油相30〜80質量%、水相20〜70質量%、さらに好ましくは油相35〜60質量%、水相40〜65質量%、最も好ましくは油相40〜50質量%、水相50〜60質量%である。上記の可塑性油中水型乳化物において、油相の割合が30質量%よりも少なく、水相の割合が70質量%よりも多いと乳化が不安定となりやすく、油相の割合が80質量%よりも多く、水相の割合が20質量%よりも少ないとムレ臭を低減する効果が得られにくい。
【0016】
上記の可塑性油中水型乳化物は、必要によりその他の成分として、卵黄由来成分、乳清ミネラル、水、乳蛋白質、乳化剤、上記のアルギン酸類以外のゲル化剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、調味料、食品保存料、日持ち向上剤、澱粉類、穀類、無機塩、セルロースやセルロース誘導体、ジグリセライド、食塩、岩塩、海塩、果実、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン等のデキストリン類、ナッツペースト、苦味料、カカオマス、ココアパウダー、コーヒー、紅茶、緑茶、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、強化剤等を添加してもよい。
【0017】
上記の卵黄由来成分としては、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質等の卵黄蛋白質、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、酵素処理卵黄、粉末全卵、粉末卵黄等の卵黄由来の食品素材等が挙げられる。
【0018】
上記の卵黄由来成分の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、固形分として好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.3〜3質量%、最も好ましくは0.5〜1.5質量%である。上記の可塑性油中水型乳化物中の卵黄由来成分の含有量が0.1質量%よりも少ないと乳化が不安定となりやすく、5質量%よりも多いと卵黄由来成分の風味を米粉パンに付与しやすい。
【0019】
上記乳清ミネラルとは、乳又はホエー(乳清)から、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエー中のミネラル組成に近い比率となる。
【0020】
上記乳清ミネラルとして、米粉パンへのコク味付与を目的として、固形分中のカルシウム含量が好ましくは2質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満、最も好ましくは0.5質量%未満である乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
【0021】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、さらには冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエーを用いる方法、あるいは、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用するカルシウムを除去の工程としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0022】
上記の乳清ミネラルの含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、固形分として好ましくは0.006〜2.1質量%、さらに好ましくは0.03〜0.6質量%である。上記乳清ミネラルの配合割合が固形分として0.006質量%未満であるとコク味を良好にするという配合効果が充分に得られにくく、また固形分として2.1質量%を超えると、塩味が強くなりやすい。
【0023】
上記の水としては水道水、天然水を用いることができる。
上記の水の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは30〜60質量%、最も好ましくは35〜55質量%である。
【0024】
上記の乳蛋白質としては、ホエイ蛋白質のみ、カゼイン蛋白質のみ、カゼイン蛋白質とホエイ蛋白質との併用のいずれでもよいが、ホエイ蛋白質のみもしくは、ホエイ蛋白質とカゼイン蛋白質とを併用するのが好ましく、ホエイ蛋白質とカゼイン蛋白質を併用するのがより好ましい。
【0025】
上記カゼイン蛋白質としては、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材であるアルカリカゼイン(カゼイネート)、酸カゼイン等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
上記ホエイ蛋白質としては、ラクトアルブミン、βラクトグロブリン、血清アルブミン、免疫グロブリン、プロテオースペプトンの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材として、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
上記カゼイン蛋白質及び上記ホエイ蛋白質の両方を含有する食品素材として、例えば、生乳、牛乳、バター、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、加糖粉乳、調製粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、クリーム、クリームパウダー、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、サワークリ―ム、醗酵乳、酵素処理バター、乳飲料等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
上記の乳蛋白質の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、固形分として好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜8質量%、最も好ましくは1〜5質量%である。
【0029】
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
上記の乳化剤の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1.5質量%、最も好ましくは0〜1質量%である。
上記のアルギン酸類以外のゲル化剤としては、特に制限はないが、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、グルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガムが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
上記のアルギン酸類以外のゲル化剤の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、好ましくは0〜5質量%、さらに好ましくは0〜3質量%、最も好ましくは0〜2質量%である。
【0032】
上記の可塑性油中水型乳化物の好ましい製造方法について以下に説明する。
まず、油脂に必要によりその他の成分を添加し、油相とする。水に、アルギン酸類と必要によりその他の成分を添加し、水相とする。上記の油相を必要により加熱溶解し、水相を加え、油中水型乳化物とする。
次に、上記油中水型乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また、殺菌温度は好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは80〜95℃、最も好ましくは80〜90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃、最も好ましくは40〜50℃とする。
次に急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、ゴンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等の装置により行なうことができ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせにより行なうこともできる。この急冷可塑化を行なうことにより、上記の可塑性を有する油中水型乳化物となる。
【0033】
これらの装置の後に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0034】
また、上記の可塑性油中水型乳化物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
【0035】
次に本発明の米粉パン用風味改良剤を含有する米粉パン生地について説明する。
まず本発明の米粉パンの材料について説明する。
【0036】
本発明の米粉パンは米粉を使用する。
上記の米粉は、特に限定されず、粳米の粉砕物でも、もち米の粉砕物でもよく、これらの混合物でもよいが、より優れた食感、外観、物性を得るため、好ましくは、原料となる米粒をマセレイティング酵素処理した後に粉砕した米粉を用いる。
上記マセレイティング酵素処理とは、マセレイティング酵素を含有する水溶液に米粒を浸漬することにより、米の細胞壁組織成分を低分子化することである。米の細胞壁組織成分が低分子化されれば、マセレイティング酵素処理の程度は特に限定されないが、例えば、マセレイティング酵素を含有する20〜40℃の水溶液に、3〜18時間、好ましくは5〜12時間米粒を浸漬すればよい。尚、上記水溶液の温度が低いほど浸漬時間は比較的長く、上記水溶液の温度が高いほど浸漬時間は比較的短くするのがよく、例えば、20℃以上30℃未満では12時間程度、30℃以上35℃未満では8時間程度、35℃以上40℃以下では5時間程度がよい。
【0037】
マセレイティング酵素を含有する水溶液のpHは、マセレイティング酵素の至適pH範囲とすればよく、概ね3〜7であればよい。
上記のマセレイティング酵素としては、例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ等を挙げることができ、これらを単独若しくは複合して用いることができる。これらの中でも、ヘミセルラーゼ及び/又はペクチナーゼを用いることが工業化適性等の点で好ましい。
【0038】
マセレイティング酵素を含有する水溶液中におけるマセレイティング酵素の濃度は特に限定されるものではなく、米の細胞壁組織成分を低分子化できるように、上記水溶液の温度、浸漬時間、pH等を勘案して適宜選択すればよいが、例えば、ペクチナーゼであれば、概ね0.05〜0.5重量%で用いればよく、特に30℃の0.5重量%ペクチン液の粘度を90分後に40〜50%低下する程度の濃度が好ましい。他の酵素の場合においても基質を代えて同様に、例えば、セルラーゼやヘミセルラーゼであれば、CMCを基質として、上記のペクチナーゼの場合と同様にして好ましい濃度を求めることができる。
【0039】
上記の米粉パン生地では上記の米粉100質量部に対し、アルギン酸類を好ましくは0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.03〜0.8質量部、一層好ましくは0.06〜0.6質量部、最も好ましくは0.09〜0.4質量部となるようにアルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤を含有させる。
【0040】
上記のアルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤を含有する米粉パン生地において、米粉100質量部に対し、アルギン酸類の添加量が0.01質量部よりも少ないとムレ臭を低減する効果が得られにくく、アルギン酸類の添加量が1質量部よりも多いと経日的に米粉パンが固くなり食感が悪化しやすい。
【0041】
上記の米粉パン生地は、米粉以外のその他の穀粉類として、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、ライ麦粉、デュラム粉、全粒粉、胚芽などの小麦粉を用いることができる。
【0042】
上記の米粉パン生地において米粉以外のその他の穀粉類と併用する場合、米粉パン生地中の米粉とその他の穀粉類を合計した穀粉類中の米粉含有量は好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20〜80質量%、最も好ましくは30〜60質量%である。
【0043】
上記の米粉パン生地は、米粉、必要に応じてその他の穀粉類、アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤以外に、パン生地の製造に通常使用される、イースト及び/又は化学膨張剤(ベーキングパウダー)、水、食塩、その他の原料を、本発明の効果を阻害しない範囲で任意に使用することができる。
【0044】
上記イーストとしては、ドライイースト、生イースト、冷蔵パン用イースト、冷凍パン用イースト等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
上記イーストは、米粉パン生地で用いる米粉とその他の穀粉類を合計した穀粉類100質量部に対して、好ましくは、生イーストであれば2〜6質量部、特に2〜4質量部、ドライイーストであれば0.2〜2質量部、特に0.5〜1.5重量部用いる。
【0046】
上記化学膨張剤としては、ベーカリー製品用のベーキングパウダーとして使用可能なものであればどのようなものでも良く、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、明礬等、又は、これらにフマル酸、グルコノデルタラクトン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム等の酸性剤が添加されてなるもの等を挙げることができる。
【0047】
上記化学膨張剤は、米粉パン生地で用いる米粉とその他の穀粉類を合計した穀粉類100質量部に対して、好ましくは0〜10質量部、さらに好ましくは0〜5質量部用いる。
【0048】
上記水は、米粉パン生地で用いる米粉とその他の穀粉類を合計した穀粉類100質量部に対して、好ましくは50〜80質量部、さらに好ましくは58〜75質量部用いるのがよい。この水は天然水や水道水の他、牛乳、乳製品、卵類等、水分を含む食品に由来するものであってもよい。
【0049】
上記食塩としては、精製塩、天然塩、自然塩等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記食塩は、上記の米粉パン生地で用いる米粉とその他の穀粉類を合計した穀粉類100質量部に対して、好ましくは0.5〜2.2質量部、さらに好ましくは0.8〜2質量部用いるのがよい。
【0050】
上記の米粉パン生地は必要により、その他の原料として例えば、糖類、デンプン、卵類、β−カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、アルコール類、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン酢酸脂肪酸エステル・グリセリン乳酸脂肪酸エステル・グリセリンコハク酸脂肪酸エステル・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン等の乳化剤、無機塩類、イーストフード、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、コンソメ、ブイヨン、植物及び動物エキス、食品添加物等を挙げることができ、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。
【0051】
上記糖類としては、例えば、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、トレハロース、キシロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム、はちみつ等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
上記デンプンとしては、コーン・ワキシーコーン・タピオカ・馬鈴薯・甘藷・小麦・米等のデンプンや、これらのデンプンをアミラーゼ等の酵素で処理したものや、酸やアルカリ、エステル化、リン酸架橋化、加熱、湿熱等の物理的、化学的処理を行ったもの、更にこれらのデンプンを、水に溶解しやすい様にあらかじめ加熱処理により糊化させたものが挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0053】
上記卵類としては、全卵、卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結加糖全卵、凍結卵黄、凍結加糖卵黄、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
上記の米粉パン生地の製造方法は、上述の原料を用いて通常のパン生地を製造するのと同様にして製造する、例えば、米粉を含む穀粉類、アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤及びその他の原料を混合して常法により混捏して米粉パン生地を得ることができ、アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤は、最初から米粉を含む穀粉類及びその他の原料と混合されても良いし、一旦アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤以外の原料を混合してある程度混捏したところで、アルギン酸類を有効成分とする米粉パン用風味改良剤を混合して更に混捏してもよい。
また、米粉パン生地は、中種法によって得ても良いし、直捏法によって得ても良い。
【0055】
さらに上記の米粉パン生地として、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、デニッシュ生地、ペストリー生地、フランスパン生地をあげることができる。
【0056】
得られた米粉パン生地は、焼成前に発酵により膨張させることが好ましい。発酵は、上述したイーストを用いて行なうことが好ましい。発酵条件は、例えば、フロアタイム20〜30℃で0〜80分、ベンチタイム20〜30℃で0〜40分、ホイロ30〜40℃で40〜120分程度とすればよい。米粉パン生地を発酵させる場合は、生地温度が低くても発酵が十分に促進されるように、必要に応じて、イーストの添加量を増やしたり、各発酵時間を延長することができる。
【0057】
得られた米粉パン生地を通常のパンを得るのと同様に焼成することにより、本発明の米粉パンを得ることができる。焼成条件は、例えば、150〜230℃で10〜70分程度の範囲で、米粉パン生地の大きさ、形態等に合わせて選択すればよい。
【実施例】
【0058】
以下に実施例および比較例をあげて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0059】
〔実施例1〕
パーム油22.5質量%、液状油17.5質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水48.97質量%及びアルギン酸ナトリウム4.5質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、油中水型乳化物とした。得られた油中水型乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、本発明の米粉パン用風味改良剤である可塑性油中水型乳化物Aを得た。なお乳清ミネラルの水分は63質量%、脱脂濃縮乳の水分は70.88質量%、卵黄の水分は48.2質量%のものを用いた。
【0060】
〔実施例2〕
パーム油25質量%、液状油20質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水45.97質量%及びアルギン酸ナトリウム2.5質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、本発明の米粉パン用風味改良剤である可塑性油中水型乳化物Bを得た。
【0061】
〔実施例3〕
パーム油25質量%、液状油20質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水47.97質量%及びアルギン酸ナトリウム0.5質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、本発明の米粉パン用風味改良剤である可塑性油中水型乳化物Cを得た。
【0062】
〔比較例1〕
パーム油45質量%、液状油35質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水13.47質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、可塑性油中水型乳化物Dを得た。
【0063】
〔実施例4〕
精白米100重量部を25℃の0.1重量%ペクチナーゼ水溶液(pH6.8)に12時間浸漬して得た酵素処理米を製粉し、米粉(1)を得た。この米粉(1)50質量部、強力粉50質量部、パン酵母2.5質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖6質量部、食塩1.8質量部及び水60質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、フックを使用して低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで上記実施例1で得られた可塑性油中水型乳化物A8質量部を投入し、低速で3分、中速で2分、高速で1分ミキシングして米粉パン生地を得た(捏ね上げ温度28℃)。フロアタイム30分をとった後に400gに分割し、さらにベンチタイム20分をとった後、ロール状に成形し、ワンローフ型に詰めた。これを、温度38℃、相対湿度85%で55分ホイロをとった後、固定窯で200℃で25分焼成し米粉パンを得た。
【0064】
得られた米粉パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後では、ムレ臭は感じられなかったが、焼成4日後では、わずかだがムレ臭が感じられるパンであった。
【0065】
〔実施例5〕
実施例4で可塑性油中水型乳化物Aに代えて、上記実施例2で得られた可塑性油中水型乳化物Bを使用した以外は、実施例4と同様にして実施例5の米粉パンを得た。
【0066】
得られた米粉パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後でも焼成4日後でも。ムレ臭が感じられないパンであった。
【0067】
〔実施例6〕
実施例4の可塑性油中水型乳化物Aに代えて、上記実施例3で得られた可塑性油中水型乳化物Cを使用した以外は、実施例4と同様にして実施例6の米粉パンを得た。
【0068】
得られた米粉パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後では、ムレ臭は感じられなかったが、焼成4日後では、わずかだがムレ臭感じられるパンであった。
【0069】
〔比較例2〕
実施例4の可塑性油中水型乳化物Aに代えて、上記比較例1で得られた可塑性油中水型乳化物Dを使用した以外は、実施例4と同様にして比較例2の米粉パンを得た。
【0070】
得られた米粉パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後で、ムレ臭が感じられ、焼成4日後では、かなりムレ臭感じられるパンであった。
【0071】
〔実施例7〕
実施例4において、可塑性油中水型乳化組成物Aに代えて、上記比較例1で得られた可塑性油中水型乳化物Dを使用し、米粉パン生地の材料としてアルギン酸ナトリウムを0.2質量部加えた以外は、実施例4と同様にして実施例7の米粉パンを得た。
【0072】
得られた米粉パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後では、ムレ臭は感じられなかったが、焼成4日後では、ややムレ臭感じられるパンであった。
【0073】
上記の実施例4と比較例2で得られた米粉パンの焼成後1日後、4日後の食感と硬さを評価した。
【0074】
実施例4で得られた米粉パンの焼成後1日後の食感はしっとりしており、硬さは198.4g/cmであった。焼成後4日後の食感はややしっとりしており、硬さは368.1g/cmであった。
【0075】
比較例2で得られた米粉パンの焼成後1日後の食感はしっとりしており、硬さは225.4g/cmであった。焼成後4日後の食感はぱさつき、硬さは426.7g/cmであった。
【0076】
(硬さの測定方法)
米粉パンを3cmの厚さにスライスし、レオメーター( 株式会社レオテック製) にて直径2cmの円盤のプランジャーを用い、テーブルスピード6cm/分にて、半分に圧縮した際の応力を測定した値を硬さとした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸類を有効成分とすることを特徴とする米粉パン用風味改良剤。
【請求項2】
可塑性油中水型乳化物である請求項1に記載の米粉パン用風味改良剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の米粉パン用風味改良剤を含有させた米粉パン生地。
【請求項4】
米粉100質量部に対し、アルギン酸類を0.01〜1質量部となるように米粉パン用風味改良剤を含有させた請求項3に記載の米粉パン生地。
【請求項5】
請求項3または4に記載の米粉パン生地を焼成した米粉パン。

【公開番号】特開2010−239902(P2010−239902A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92132(P2009−92132)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】