説明

粉体、粉体の製造方法、吸着装置

【課題】強度が高く、かつ、吸着装置が備える吸着剤に適用した際に、優れた吸着能を発揮することができる粉体、かかる粉体を製造することができる粉体の製造方法およびかかる粉体を吸着剤として備える吸着装置を提供すること。
【解決手段】本発明の粉体は、ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含有するスラリーを乾燥して、これらを造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成されるものであり、当該粉体の嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体、粉体の製造方法、吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイドロキシアパタイトは、例えば、生体適合性が高く安全性に優れる等の理由から、抗体、ワクチン等のバイオ系医薬品を精製・単離する際に用いられる、クロマトグラフィーの固定層用材料として、広く使用されている。
【0003】
このようにクロマトグラフィーの固定層用材料として使用されるハイドロキシアパタイトは、例えば、次のようにして製造することができる。
【0004】
すなわち、水酸化カルシウムを含有する第1の液とリン酸を含有する第2の液とを、攪拌しつつ反応させることによりハイドロキシアパタイトの一次粒子を得、この一次粒子およびその凝集体を含有するスラリーを乾燥して、これらを造粒することにより、ハイドロキシアパタイトを、その二次粒子(粉体)として得ることができる。
【0005】
そして、この粉体を焼成(焼結)することにより、焼結された粉体(以下、「焼結粉体」と言う。)が得られ、前記粉体または焼結粉体を、カラム(吸着装置)等に充填して、固定層用材料(吸着剤)として使用される(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このような水酸化カルシウムとリン酸とを用いてハイドロキシアパタイトを得る反応では、ハイドロキシアパタイト以外の副生成物は、水のみであるため、形成された粉体や焼結粉体内に副生成物が残留することがなく、さらにこの反応が酸塩基反応であるため、前記第1の液および前記第2の液のpHを調整することにより、この反応を容易に制御できるという利点がある。
【0007】
しかしながら、かかる方法では、水酸化カルシウムの第1の液中への溶解度が低いことに起因して、リン酸と水酸化カルシウムとの反応が固体−液体反応となるため、スラリー中に形成される一次粒子の凝集体の凝集度にバラツキが生じる。
【0008】
このような凝集度にバラツキが生じた状態で、スラリーを乾燥してハイドロキシアパタイトの粉体を得ると、粉体の嵩密度が低くなることに起因して、粉体に充分な強度を付与することができず、さらに、粉体の比表面積が低くなり、この粉体を固定層用材料に適用した際に、固定層用材料が優れた吸着能を発揮できないという問題がある。
【0009】
かかる問題は、特に、10μm以下の粉体を固定層用材料に適応した際に、より顕著に認められる。
【0010】
また、ハイドロキシアパタイトのスラリーをプラズマ発生装置に噴霧し、数千度の熱によって真球状のハイドロキシアパタイト粒子を得る方法が知られている。しかしながら、かかる方法では、得られる粒子は、高温でリン酸が蒸発してカルシウムが過剰となり、アパタイト構造をとらない組成が不安定なものであり、固定層用材料としては適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−218460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、強度が高く、かつ、吸着装置が備える吸着剤に適用した際に、優れた吸着能を発揮することができる粉体、かかる粉体を製造することができる粉体の製造方法およびかかる粉体を吸着剤として備える吸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的は、下記(1)〜(10)に記載の本発明により達成される。
(1) ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含有するスラリーを乾燥して、これらを造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成される粉体であって、
当該粉体の嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上であることを特徴とする粉体。
【0014】
かかる範囲内の嵩密度と比表面積を有する粉体は、強度が高く、かつ、吸着装置が備える吸着剤に適用した際に、優れた吸着能を発揮することができるものとなる。
【0015】
(2) 前記粉体の真球度は、0.95〜1.00である上記(1)に記載の粉体。
このように真球度が高い粉体を、例えば、吸着装置が備える吸着剤として適用すると、吸着装置が有する吸着剤充填空間への粉体の充填率を向上させることができる。
【0016】
(3) 前記粉体を平均粒径40±4μmの大きさに分級し、分級された前記粉体の安息角を測定したとき、前記安息角が27°以下である上記(1)または(2)に記載の粉体。
【0017】
このように安息角が低い粉体は、流動性が高いことから、例えば、吸着装置が備える吸着剤として適用した際に、吸着装置が有する吸着剤充填空間に粉体を充填する充填効率の向上を図ることができる。
【0018】
(4) 前記粉体を700℃で焼成して得られた焼結粉体を、平均粒径40±4μmの大きさに分級し、圧縮粒子強度を測定したとき、前記圧縮粒子強度が9.0MPa超である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の粉体。
【0019】
かかる範囲の圧縮粒子強度を有する粉体は、例えば、吸着装置が備える吸着剤として適用した際に、充分な強度を有する粉体と言うことができる。
【0020】
(5) 前記粉体を700℃で焼成して得られた焼結粉体は、その表面に形成される細孔の平均孔径が、0.07μm以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の粉体。
これにより、焼結粉体の比表面積を確実に大きくすることができる。
【0021】
(6) 前記粉体の平均粒径は、2〜100μmである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の粉体。
【0022】
このような平均粒子径を有する粉体に、本発明が好適に適用され、この粉体を吸着装置が備える吸着剤に用いた際に、粉体は、高い強度と優れた吸着能を発揮するものとなる。
【0023】
(7) 上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の粉体を製造する粉体の製造方法であって、
カルシウム源を含有する第1の液と、リン源を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させて、ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含むスラリーを得る第1の工程と、
前記スラリーに含まれる前記凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された前記凝集体を前記スラリー中に分散させる第2の工程と、
前記スラリーを乾燥して、粉砕された前記凝集体を造粒させることにより、主として前記ハイドロキシアパタイトの二次粒子で構成される粉体を得る第3の工程とを有することを特徴とする粉体の製造方法。
【0024】
これにより、形成される主としてハイドロキシアパタイトの二次粒子で構成される粉体は、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上のものとなる。
【0025】
(8) 前記第2の工程において、前記凝集体の物理的な粉砕は、高圧力で噴霧した前記スラリーの液滴同士を衝突させる湿式ジェットミル法により行われる上記(7)に記載の粉体の製造方法。
【0026】
かかる方法によれば、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を、確実に粉砕することができるため、得られる粉体を、確実に、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上のものとすることができる。
【0027】
(9) 前記第2の工程において、粉砕された前記凝集体の平均粒子径は、1μm以下である上記(7)または(8)に記載の粉体の製造方法。
【0028】
粉砕された凝集体の平均粒径をかかる範囲内とすることにより、得られる粉体を、より確実に、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上のものとすることができる。
【0029】
(10) 上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の粉体、または、当該粉体を焼成して得られた焼結粉体を吸着剤として備える吸着装置。
これにより、信頼性の高い吸着装置が得られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を含有するスラリーを乾燥して、前記一次粒子を造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成される粉体は、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上のものであるため、強度が高く、かつ、この粉体を吸着装置が備える吸着剤に適用した際に、優れた吸着能を発揮するものであると言うことができる。
【0031】
また、本発明の粉体の製造方法によれば、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上の粉体を容易かつ確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の吸着装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】スラリーに含まれる凝集体の粒度分布を示す図(図(a)が粉砕前の凝集体、図(b)が粉砕後の凝集体の粒度分布を示す。)である。
【図3】実施例1および比較例1の乾燥粉体の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1および比較例1の乾燥粉体における表面付近の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例1および比較例1の焼結粉体の表面における細孔分布を示す図である。
【図6】実施例2および比較例2の乾燥粉体の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例2の乾燥粉体の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の粉体、粉体の製造方法および吸着装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0034】
まず、本発明の粉体および粉体の製造方法を説明するのに先立って、本発明の吸着装置すなわち本発明の粉体を備える吸着装置(分離装置)の一例について説明する。
【0035】
図1は、本発明の吸着装置の一例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「流入側」、下側を「流出側」と言う。
【0036】
ここで、流入側とは、目的とする単離物を分離(精製)する際に、例えば、試料液(試料を含む液体)、溶出液等の液体を、吸着装置内に供給する側のことを言い、一方、流出側とは、前記流入側と反対側、すなわち、前記液体が流出液として吸着装置内から流出する側のことを言う。
【0037】
試料液中から目的とする単離物を分離(単離)する、図1に示す吸着装置1は、カラム2と、粒状の吸着剤(充填剤)3と、2枚のフィルタ部材4、5とを有している。
【0038】
カラム2は、カラム本体21と、このカラム本体21の流入側端部および流出側端部に、それぞれ装着されるキャップ(蓋体)22、23とで構成されている。
【0039】
カラム本体21は、例えば円筒状の部材で構成されている。カラム本体21を含めカラム2を構成する各部(各部材)の構成材料としては、例えば、各種ガラス材料、各種樹脂材料、各種金属材料、各種セラミックス材料等が挙げられる。
【0040】
カラム本体21には、その流入側開口および流出側開口を、それぞれ塞ぐようにフィルタ部材4、5を配置した状態で、その流入側端部および流出側端部に、それぞれキャップ22、23が螺合により装着される。
【0041】
このような構成のカラム2では、カラム本体21と各フィルタ部材4、5とにより、吸着剤充填空間20が画成されている。そして、この吸着剤充填空間20の少なくとも一部に(本実施形態では、ほぼ満量で)、吸着剤3が充填されている。
【0042】
吸着剤充填空間20の容積は、試料液の容量に応じて適宜設定され、特に限定されないが、試料液1mLに対して、0.1〜100mL程度が好ましく、1〜50mL程度がより好ましい。
【0043】
吸着剤充填空間20の寸法を上記のように設定し、かつ後述する吸着剤3の寸法を後述のように設定することにより、試料液中から目的とする単離物を選択的に単離(精製)すること、すなわち、タンパク質や、抗体およびワクチンのような単離物と、試料液中に含まれる単離物以外の夾雑物とを確実に分離することができる。
【0044】
また、カラム2では、カラム本体21に各キャップ22、23を装着した状態で、これらの間の液密性が確保されるように構成されている。
【0045】
これらキャップ22、23のほぼ中央には、それぞれ、流入管24および流出管25が液密に固着(固定)されている。この流入管24およびフィルタ部材4を介して吸着剤3に、前記試料液(液体)が供給される。また、吸着剤3に供給された試料液は、吸着剤3同士の間(間隙)を通過して、フィルタ部材5および流出管25を介して、カラム2外へ流出する。このとき、試料液(試料)中に含まれる単離物と単離物以外の夾雑物とは、吸着剤3に対する吸着性の差異および溶出液に対する親和性の差異に基づいて分離される。
【0046】
各フィルタ部材4、5は、それぞれ、吸着剤充填空間20から吸着剤3が流出するのを防止する機能を有するものである。これらのフィルタ部材4、5は、それぞれ、例えば、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエーテルポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の合成樹脂からなる不織布、発泡体(連通孔を有するスポンジ状多孔質体)、織布、メッシュ等で構成されている。
【0047】
本実施形態では、吸着装置1において、吸着剤3が、本発明の粉体(ハイドロキシアパタイトの二次粒子)またはその焼結粉体で構成される。
【0048】
本発明の粉体は、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))の一次粒子およびその凝集体を含有するスラリーを乾燥して、これらを造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成されるものであり、かかる粉体の嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上であることを特徴とする。このハイドロキシアパタイトは、化学的に安定なアパタイト構造からなり、特に吸着装置が備える吸着剤に好適に利用できる。なお、ハイドロキシアパタイトは、Ca/P比が1.64〜1.70程度のものを意図する。
【0049】
かかる構成の吸着剤3に、試料液を供給すると、試料液中に含まれる単離物が、このもの固有の吸着(担持)力で特異的に吸着し、その吸着力の差に応じて、試料液中に含まれる単離物以外の夾雑物と分離・精製される。
【0050】
ハイドロキシアパタイトの二次粒子(粉体)は、上記のとおり、その嵩密度が0.65g/mL以上であればよいが、0.70〜0.95g/mL程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の嵩密度を有する二次粒子は、その重量が重く、粒子内における空隙が少なくなっていると考えられ、充填密度が高い粒子と言うことができるため、高い強度を発揮するものとなる。そのため、吸着剤3として適用した際に、その長寿命化を図ることができる。
【0051】
また、上記のとおり、その比表面積は、70m/g以上であればよいが、75〜100m/g程度であるのがより好ましい。かかる範囲の高い比表面積を有する粉体は、吸着剤3として適用した際に、単離物が吸着剤3に接触する機会が増大し、単離物と吸着剤3との間の相互作用が向上するため、吸着剤3は、単離物に対して優れた吸着能を発揮するものとなる。
【0052】
ここで、嵩密度の高い粒子は、通常、その比表面積が低くなるが、本発明では、嵩密度が0.65g/mL以上で、かつ、比表面積が70m/g以上となっており、嵩密度の高密度化と、比表面積の広面積化とが実現可能となっている。これは、二次粒子の粒子内における空隙は、少なくなっているが、これに反して、二次粒子の表面付近では、微細な細孔や微細な凹凸が形成されていることに起因して、二次粒子の嵩密度および比表面積の双方が高くなったことによるものと推察される。このことの大きな要因は、ハイドロキシアパタイトの一次粒子は、微細な柱状形状であり、この柱状形状の一次粒子が複雑に絡み合うことによって生じていると考えられる。不定形状であったり板状形状や球状形状の一次粒子では、一次粒子同士の間隙が大きくなりすぎる傾向にあり、高密度化及び高比表面積化を両立することは困難である。
【0053】
また、二次粒子すなわち吸着剤3の形態(形状)は、図1に示すように、粒状(顆粒状)のものであるのが好ましいが、その真球度が0.95〜1.00程度であるのがより好ましく、0.97〜1.00であるのがさらに好ましい。このように、真球度が高い二次粒子を、吸着剤3として適用すると、吸着剤充填空間20への吸着剤3の充填率を向上させることができる。
【0054】
このような二次粒子の安息角は、平均粒径40±4μmの大きさに分級したもので測定したとき、27°以下であるのが好ましく、25〜22°程度であるのがより好ましい。このように安息角が低い二次粒子は、流動性が高く、吸着剤充填空間20に二次粒子を吸着剤3として充填する際の操作性(充填効率)の向上を図ることができる。
【0055】
また、二次粒子を焼成した焼結粉体は、その表面に形成される細孔の平均孔径が、700℃で焼成した場合、0.07μm以下であるのが好ましく、0.04〜0.06μm程度であるのがより好ましい。また、400℃で焼成した場合、0.05μm以下であるのが好ましく、0.02〜0.04μm程度であるのがより好ましい。細孔の平均孔径がかかる範囲内となることにより、焼結粉体の比表面積を確実に大きくすることができる。
【0056】
以上のような二次粒子は、平均粒径40±4μmの大きさに分級し、この分級された二次粒子(粉体)の圧縮粒子強度(破壊強度)が、2.0MPa以上であるのが好ましく、2.4〜3.0MPa程度であるのがより好ましい。
【0057】
さらに、二次粒子を焼結した焼結粉体は、平均粒径40±4μmの大きさに分級し、この分級された焼結粉体の圧縮粒子強度(破壊強度)が、700℃で焼成した場合、9MPa以上であるのが好ましく、9.4〜10MPa程度であるのがより好ましい。また、400℃で焼成した場合、7.0MPa以上であるのが好ましく、7.3〜8.0MPa程度であるのがより好ましい。
【0058】
かかる範囲の圧縮粒子強度を有する粉体および焼結粉体は、吸着剤3に適用するのに充分な強度を有するものと言うことができる。
【0059】
また、二次粒子の平均粒径は、特に限定されないが、2〜100μm程度であるのが好ましく、3〜10μm程度であるのがより好ましい。このような平均粒子径を有する二次粒子に、本発明が好適に適用され、この二次粒子を吸着剤3に用いた際に、二次粒子は、高い強度と優れた吸着能を発揮するものとなる。
【0060】
なお、本実施形態のように、吸着剤3を吸着剤充填空間20にほぼ満量充填する場合の他、本発明の吸着装置は、吸着剤充填空間20の一部(例えば流入管24側の一部)に吸着剤3を充填し、その他の部分には他の吸着剤を充填するようにしてもよい。
【0061】
以上のような本発明の粉体は、次のような本発明の粉体の製造方法により製造することができる。
【0062】
すなわち、本発明の粉体の製造方法は、水酸化カルシウム等のカルシウム源を含有する第1の液と、リン酸等のリン源を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させて、ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含むスラリーを得る第1の工程[S1]と、スラリーに含まれる凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された凝集体をスラリー中に分散させる第2の工程[S2]と、スラリーを乾燥して、粉砕された凝集体を造粒させることにより、主としてハイドロキシアパタイトの二次粒子で構成される粉体を得る第3の工程[S3]とを有する粉体の製造方法である。
【0063】
以下、これらの工程について、順次説明する。
なお、以下では、カルシウム源として水酸化カルシウムを用い、リン酸源としてリン酸を用いる場合を一例に説明する。
【0064】
[S1:ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーを得る工程(第1の工程)]
この工程では、水酸化カルシウムを含有する水酸化カルシウム分散液(第1の液)と、リン酸を含有するリン酸水溶液(第2の液)とを、攪拌しつつ、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させ、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を含むスラリーを得る。
【0065】
具体的には、例えば、容器(図示せず)内で、水酸化カルシウム分散液(第1の液)を攪拌しつつ、この分散液に、リン酸水溶液(第2の液)を滴下し、水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液との混合液を混合し、この混合液中で水酸化カルシウムとリン酸とを反応させて、ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーを得る。
【0066】
かかる方法では、リン酸を水溶液として使用する湿式合成法が用いられる。これにより、高価な製造設備を必要とせず、より容易かつ効率よくハイドロキシアパタイト(合成物)を合成することができる。また、水酸化カルシウムとリン酸との反応では、ハイドロキシアパタイト以外の副生成物は、水のみであるため、形成される二次粒子や焼結粉体内に副生成物が残留することがなく、さらにこの反応が酸塩基反応であるため、水酸化カルシウム分散液およびリン酸水溶液のpHを調整することにより、この反応を容易に制御できるという利点がある。
【0067】
また、この反応を攪拌しつつ行うことにより、水酸化カルシウムとリン酸との反応を効率よく進行させること、すなわち、それらの反応の効率を向上させることができる。
【0068】
さらに、水酸化カルシウム分散液とリン酸水溶液とを含有する混合液を攪拌する攪拌力は、特に限定されないが、混合液(スラリー)1Lに対して、0.75〜2.0W程度の出力であるのが好ましく、0.925〜1.85W程度の出力であるのがより好ましい。攪拌力をこのような範囲とすることにより、水酸化カルシウムとリン酸との反応の効率を、より向上させることができる。
【0069】
水酸化カルシウム分散液中における水酸化カルシウムの含有量は、5〜15wt%程度であるのが好ましく、10〜12wt%程度であるのがより好ましい。また、リン酸水溶液中におけるリン酸の含有量は、10〜25wt%程度であるのが好ましく、15〜20wt%程度であるのがより好ましい。水酸化カルシウムおよびリン酸の含有量を、かかる範囲内に設定することにより、水酸化カルシウム分散液を攪拌しつつ、リン酸水溶液を滴下する際の水酸化カルシウムとリン酸との接触機会が増大することから、水酸化カルシウムとリン酸とを効率よく反応させることができ、ハイドロキシアパタイトを確実に合成することができる。
【0070】
リン酸水溶液を滴下する速度は、1〜40L/時間程度であるのが好ましく、3〜30L/時間程度であるのがより好ましい。このような滴下速度でリン酸水溶液を水酸化カルシウム分散液中に混合(添加)することにより、水酸化カルシウムとリン酸とを、より穏やかな条件で反応させることができる。
【0071】
この場合、リン酸水溶液を滴下する時間(加える時間)は、5〜32時間程度かけて行うのが好ましく、6〜30時間程度かけて行うのがより好ましい。このような滴下時間で、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させることにより、ハイドロキシアパタイトを十分に合成することができる。なお、滴下時間を上記の上限値を越えて長くしても、水酸化カルシウムとリン酸との反応の進行は、それ以上期待できない。
【0072】
ここで、水酸化カルシウムとリン酸との反応が徐々に進行すると、スラリー中には、ハイドロキシアパタイト(合成物)の微粒子(以下、単に「微粒子」と言う。)が生成する。そして、これらの微粒子同士は、一の微粒子の正に帯電している部分と、他の微粒子の負に帯電している部分との間にファンデルワールス力(分子間力)が働き、それらが凝集することにより、ハイドロキシアパタイト(合成物)の凝集体(以下、単に「凝集体」と言う。)が生成する。この凝集体の生成に伴い、スラリーの粘度は、徐々に上昇する。
【0073】
さらに、水酸化カルシウムとリン酸との反応が進行すると、スラリー中における正の電荷と負の電荷との割合が接近する。このとき、スラリー中では、微粒子に働く斥力が減少し、微粒子同士の凝集がさらに加速して、より粒径の大きな凝集体が形成される。
【0074】
[S2:凝集体を粉砕したのち分散させる工程(第2の工程)]
この工程では、前記工程[S1]で得られたスラリー中に含まれる、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された凝集体をこのスラリー中に分散する。
【0075】
このようにスラリー中に含まれる凝集体を破砕する構成とすると、スラリー中に含まれる凝集体の粒径が小さくなり、これに起因して、後工程[S3]において得られるハイドロキシアパタイトの粉体(二次粒子)は、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上のものとなる。
【0076】
ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を物理的に粉砕する方法としては、特に限定されず、例えば、高圧力で噴霧したスラリーの液滴同士を衝突させる湿式ジェットミル法、ジルコニアのようなセラミックスで構成される球体との共存下でスラリーを密閉容器内に収納し、この密閉容器を回転させるボールミル法等が挙げられるが、これらの中でも、湿式ジェットミル法を用いるのが好ましい。
【0077】
ここで、湿式ジェットミル法は、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体が分散したスラリーに高圧力を加え、このスラリーを噴霧することにより液滴の状態で、対向衝突チャンバー、ボール衝突チャンバーまたはシングルノズルチャンバーに導入することで、これら同士が衝突して凝集体が粉砕する方法である。
【0078】
かかる方法によれば、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を、確実に粉砕することができるため、後工程[S3]において得られるハイドロキシアパタイトの粉体(二次粒子)を、確実に、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上のものとすることができる。
【0079】
また、粉砕された凝集体の平均粒径は、1μm以下であるのが好ましく、0.1〜0.6μm程度であるのがより好ましい。粉砕された凝集体の平均粒径をかかる範囲内とすることにより、後工程[S3]において得られるハイドロキシアパタイトの粉体(二次粒子)の嵩密度および比表面積をより確実に前記範囲内のものとすることができる。
【0080】
なお、スラリー中に一次粒子を分散させる方法としては、本実施形態のように一次粒子の凝集体を物理的に粉砕する方法の他に、スラリー中に一次粒子を分散させる界面活性剤や分散剤を添加する方法も考えられる。しかしながら、後者の方法では、次工程[S3]におけるスラリーの乾燥では、得られるハイドロキシアパタイトの粉体中に、添加した界面活性剤や分散剤が残存してしまうため、これらを除去するためにハイドロキシアパタイトの粉体を、800℃以上の温度で焼成する必要がある。かかる温度で焼成すると、粉体の比表面積が小さくなるため、本発明の粉体のように、比表面積を70m/g以上のものとすることは、実質的に実現不可能である。
【0081】
[S3:スラリーを乾燥してハイドロキシアパタイトの粉体を得る工程(第3の工程)]
この工程では、前記工程[S2]を経た、粉砕された凝集体を含有するスラリーを乾燥することにより、粉砕された凝集体を造粒させて、主としてハイドロキシアパタイトの二次粒子で構成される粉体(乾燥粉体)を得る。
【0082】
本発明では、前記工程[S2]において、ハイドロキシアパタイトの一次粒子が凝集した凝集体が粉砕されて、凝集体の大きさが小さいものとなっているため、本工程[S3]において得られるハイドロキシアパタイト粉体は、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上のものとなる。
【0083】
スラリーを乾燥する方法としては、特に限定されないが、噴霧乾燥法が好適に使用される。かかる方法によれば、粉砕された凝集体を造粒させて、所望の粒径の粉体を、より確実かつ短時間で得ることができる。
【0084】
また、スラリーを乾燥する際の乾燥温度は、75〜250℃程度であるのが好ましく、95〜220℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、嵩密度が高く、かつ比表面積が広い二次粒子(粉体)を得ることができる。
【0085】
なお、本実施形態の粉体の製造方法は、特に、目的とする粒径が2〜100μm程度(特に、3〜10μm程度)の粉体の製造に適している。
【0086】
なお、このような粉体(乾燥粉体)は、焼成(焼結)して焼結粉体とすることもできる。これにより、粉体(焼結粉体)の圧縮粒子強度(破壊強度)をより向上させることができる。
【0087】
この場合、粉体を焼成する焼成温度は、200〜900℃程度であるのが好ましく、400〜700℃程度であるのがより好ましい。
【0088】
以上のような工程を経て、主としてハイドロキシアパタイト(合成物)の二次粒子で構成される粉体が得られる。
【0089】
以上、本発明の粉体、粉体の製造方法および吸着装置について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0090】
例えば、本発明では、任意の目的で、工程[S1]の前工程、工程[S1]と[S2]との間または[S2]と[S3]との間に存在する中間工程、または工程[S3]の後工程を追加するようにしてもよい。
【実施例】
【0091】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.粒径40μmのハイドロキシアパタイトの製造
(実施例1)
[1A] まず、水酸化カルシウム2400gを純水60Lに分散させ、この水酸化カルシウム分散液をタンクに入れて攪拌しつつ、このものにリン酸水溶液(リン酸濃度85wt%)4Lを1L/時間の速度で滴下した。これにより、10wt%のハイドロキシアパタイトの一次粒子が凝集した凝集体を含有するスラリーを得た。
【0092】
なお、滴下中の雰囲気の温度は、常温(25℃)とした。
また、前記分散液にリン酸水溶液を滴下した混合液を攪拌する攪拌力は、混合液(スラリー)1Lに対して1.7Wの出力とした。
【0093】
[2A] 次に、得られたスラリーに含まれる凝集体を、湿式ジェットミル装置(スギノマシン社製、「スターバースト」)を用いて、200MPaの高圧力をかけて粉砕することにより、粉砕された凝集体を含有するスラリーを得た。
【0094】
粉砕する前のスラリーに含まれる凝集体と、粉砕した後のスラリーに含まれる凝集体との粒度分布を、それぞれ、粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、「MT3300」)を用いて測定した。
その結果を、図2に示す。
【0095】
図2から明らかなように、湿式ジェットミル装置を用いることにより、スラリー中の凝集体を粉砕することができ、具体的には、その平均粒子径を0.74μmにまで粉砕できることが判った。
【0096】
[3A] 次に、粉砕された凝集体を含有するスラリーを、噴霧乾燥機(マツボー社製、「MAD−6737R」)を用いて、210℃で噴霧乾燥することにより、スラリー中に含まれるハイドロキシアパタイトを造粒させて球状の二次粒子(乾燥粉体)を得、得られた乾燥粉体(ハイドロキシアパタイト粉体)を、サイクロン分級機(日清エンジニアリング社製、「TC−15」)を用いて中心粒径約40μmで分級した。
【0097】
なお、粉体(二次粒子)がハイドロキシアパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。
【0098】
[4A] 次に、分級された乾燥粉体(二次粒子)の一部を、それぞれ、400℃および700℃の焼結温度で焼結して焼結粉体を得た。
【0099】
(比較例1)
前記工程[2A]、すなわち、スラリー中に含まれる凝集体の粉砕を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、中心粒径約40μmのハイドロキシアパタイトの二次粒子(乾燥粉体)およびその焼結粉体を得た。
【0100】
2.粒径40μmのハイドロキシアパタイトの評価
2−1.乾燥粉体および焼結粉体の嵩密度の評価
実施例1および比較例1の乾燥粉体(二次粒子)、400℃および700℃の焼結温度で焼結した焼結粉体について、それぞれ、1.256mLのステンレスチューブに100回タッピングして充填し、充填重量を測定することで、これらの嵩密度を求めた。
その測定結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1から明らかなように、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体について、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、いずれも、嵩密度が約10%程度向上する結果が得られた。このことから、スラリー中に含まれる一次粒子の凝集体を粉砕することにより、形成される乾燥粉体および焼結粉体は、これらの粒子内の空隙が少なく、充填密度が高くなっているものと推察される。
【0103】
2−2.乾燥粉体および焼結粉体の比表面積の評価
実施例1および比較例1の乾燥粉体(二次粒子)、400℃および700℃の焼結温度で焼結した焼結粉体について、それぞれ、全自動BET比表面積測定装置(マウンテック社製、「Macsorb HM1201」)を用いて、これらの比表面積を求めた。
その測定結果を表2に示す。
【0104】
【表2】

【0105】
表2から明らかなように、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体について、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、いずれも、比表面積が向上する結果が得られ、この傾向は、特に乾燥粉体において顕著に認められた。
【0106】
ここで、一般的に表面状態が同一であれば、嵩密度が大きい粉体の方が、嵩密度の小さい粉体より比表面積が小さくなる傾向を示すが、前記2−1.嵩密度の評価で示したように、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体では、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、嵩密度および比表面積の双方が向上する結果が得られた。このことから、スラリー中に含まれる一次粒子の凝集体が粉砕されて解されることに起因して、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体の表面に、微細な細孔や微細な凹凸が形成され、その結果、これら粉体の嵩密度が向上しているにも関らず、比表面積も向上したものと推察される。
【0107】
2−3.乾燥粉体および焼結粉体の真球度の評価
実施例1および比較例1の乾燥粉体(二次粒子)、400℃および700℃の焼結温度で焼結した焼結粉体について、それぞれ、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製、「FPIA−3000」)を用いて、これらの真球度を求めた。
【0108】
その測定結果を表3に示す。
また、実施例1および比較例1の乾燥粉体の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
表3から明らかなように、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体について、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、いずれも、真球度が向上する結果が得られた。また、図3の電子顕微鏡写真からも明らかなように、実施例1の乾燥粉体は、比較例1の乾燥粉体と比較して、真球度が高く、かつ、その表面が滑らかなものであった。
【0111】
2−4.乾燥粉体および焼結粉体の表面細孔の評価
実施例1および比較例1の乾燥粉体における表面付近の電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0112】
図4の電子顕微鏡写真から明らかなように、比較例1の乾燥粉体の表面は、大きな凹凸が認められ、噴霧乾燥時における水分の蒸発により形成される細孔もその大きさが不均一なものであった。これに対して、実施例1の乾燥粉体は、その表面が平滑であり、さらに、ほぼ均一な大きさの細孔が一様に分布しているものであった。
【0113】
また、実施例1および比較例1の400℃および700℃の焼結温度で焼結した焼結粉体について、それぞれ、細孔分布測定装置(島津製作所社製、「マイクロメリティックス オートポア9200」)を用いて水銀圧入法により、これらの表面における細孔分布を測定した。
その測定結果を図5に示す。
【0114】
図5から明らかなように、実施例1の焼結粉体について、比較例1の焼結粉体と比較して、いずれも、表面細孔の大きさが揃い、その大きさが小さくなっていることが判った。
【0115】
2−5.乾燥粉体および焼結粉体の安息角の評価
実施例1および比較例1の乾燥粉体(二次粒子)、400℃および700℃の焼結温度で焼結した焼結粉体について、それぞれ、マルチテスター(セイシン企業社製、「MT−1001」)を用いて、これらの安息角を求めた。
その測定結果を表4に示す。
【0116】
【表4】

【0117】
表4から明らかなように、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体について、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、いずれも、安息角が低下する結果が得られた。このことは、前記2−3.真球度の評価において、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体が、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して真球度が高く、その表面が滑らかなものであったことを反映する結果であった。
【0118】
2−6.乾燥粉体および焼結粉体の圧縮粒子強度の評価
実施例1および比較例1の乾燥粉体(二次粒子)、400℃および700℃の焼結温度で焼結した焼結粉体について、それぞれ、微小圧縮試験機(島津製作所社製、「MCT−W200−J」)を用いて、その圧縮粒子強度を求めた。
その測定結果を表5に示す。
【0119】
【表5】

【0120】
表5から明らかなように、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体について、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、いずれも、圧縮粒子強度が高くなる結果が得られた。このことは、前記2−1.嵩密度の評価において、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体が、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して嵩密度が高くなったことを反映する結果であった。
【0121】
2−7.まとめ
以上のように、前記工程[2A]において、スラリー中に含まれる凝集体を粉砕して、凝集体の粒子径を小さくすることにより、形成される乾燥粉体および焼結粉体の嵩密度および比表面積の双方を向上し得ることが判った。
【0122】
このように、嵩密度が向上した実施例1の乾燥粉体および焼結粉体は、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、前記2−6.圧縮粒子強度の評価から優れた粒子強度発揮することが判った。
【0123】
また、前記2−2.比表面積の評価から得られたデータから、カラム1mL当たりの表面積を求めると、表6のようになり、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体は、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、表面積が約1.2〜1.4倍となり、吸着量も同様に1.2〜1.4倍となることから、その吸着特性が向上するものと推察される。
【0124】
【表6】

【0125】
また、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体は、比較例1の乾燥粉体および焼結粉体と比較して、真球度が高く、かつその表面が滑らかであることに起因して、安息角が低くなっており、これにより、実施例1の乾燥粉体および焼結粉体をカラムの充填空間に装填する際の操作性が向上するものと考えられる。
【0126】
3.粒径10μm以下のハイドロキシアパタイトの製造
(実施例2)
[1B] まず、前記[1A]と同様にして、10wt%のハイドロキシアパタイトの一次粒子が凝集した凝集体を含有するスラリーを得た。
【0127】
[2B] 次に、前記[2A]と同様にして、湿式ジェットミル装置を用いて、スラリー中の凝集体を粉砕することにより、粉砕された凝集体を含有するスラリーを得た。
【0128】
[3B] 次に、粉砕された凝集体を含有するスラリーを、小型噴霧乾燥機(二ロ社製、「モービルマイナースプレードライヤー」;スプレーシステム2流体アトマイジングシステム、先端流路300μm)を用いて、110℃で噴霧乾燥することにより、スラリー中に含まれるハイドロキシアパタイトを造粒させて球状の二次粒子(乾燥粉体)を得た。
【0129】
(比較例2)
前記工程[2B]、すなわち、スラリー中に含まれる凝集体の粉砕を省略したこと以外は、前記実施例2と同様にして、ハイドロキシアパタイトの二次粒子(乾燥粉体)を得た。
【0130】
4.粒径10μm以下のハイドロキシアパタイトの評価
実施例2および比較例2の乾燥粉体の電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0131】
実施例2の乾燥粉体は、真球度が高く、図7に示すような粒度分布を示し、30μm以上の大きな粉体の混在は認められなかった。
【0132】
これに対して、比較例2の乾燥粉体は、実施例2の乾燥粉体と比較して、真球度が明らかに低くなっている。さらに、30μm以上の粉体が多く混在していた。つまり、凝集体そのものが数十μmに凝集しているため、粒径10μm以下の粒子を得ることは困難であった。
【0133】
以上のことから、前記工程[2B]において、スラリー中に含まれる凝集体を粉砕して、凝集体の粒子径を小さくすることにより、10μm以下の粒径のハイドロキシアパタイトの乾燥粉体(二次粒子)をも、高い真球度で、かつ、粒径にバラツキなく形成し得ることが判った。
【符号の説明】
【0134】
1 吸着装置
2 カラム
20 吸着剤充填空間
21 カラム本体
22、23 キャップ
24 流入管
25 流出管
3 吸着剤
4、5 フィルタ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含有するスラリーを乾燥して、これらを造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成される粉体であって、
当該粉体の嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m/g以上であることを特徴とする粉体。
【請求項2】
前記粉体の真球度は、0.95〜1.00である請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
前記粉体を平均粒径40±4μmの大きさに分級し、分級された前記粉体の安息角を測定したとき、前記安息角が27°以下である請求項1または2に記載の粉体。
【請求項4】
前記粉体を700℃で焼成して得られた焼結粉体を、平均粒径40±4μmの大きさに分級し、圧縮粒子強度を測定したとき、前記圧縮粒子強度が9.0MPa超である請求項1ないし3のいずれかに記載の粉体。
【請求項5】
前記粉体を700℃で焼成して得られた焼結粉体は、その表面に形成される細孔の平均孔径が、0.07μm以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の粉体。
【請求項6】
前記粉体の平均粒径は、2〜100μmである請求項1ないし5のいずれかに記載の粉体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の粉体を製造する粉体の製造方法であって、
カルシウム源を含有する第1の液と、リン源を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させて、ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含むスラリーを得る第1の工程と、
前記スラリーに含まれる前記凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された前記凝集体を前記スラリー中に分散させる第2の工程と、
前記スラリーを乾燥して、粉砕された前記凝集体を造粒させることにより、主として前記ハイドロキシアパタイトの二次粒子で構成される粉体を得る第3の工程とを有することを特徴とする粉体の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程において、前記凝集体の物理的な粉砕は、高圧力で噴霧した前記スラリーの液滴同士を衝突させる湿式ジェットミル法により行われる請求項7に記載の粉体の製造方法。
【請求項9】
前記第2の工程において、粉砕された前記凝集体の平均粒子径は、1μm以下である請求項7または8に記載の粉体の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれかに記載の粉体、または、当該粉体を焼成して得られた焼結粉体を吸着剤として備える吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−68539(P2011−68539A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223355(P2009−223355)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】