説明

粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物

【構成】(A)塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、(B)ハイドロタルサイト系安定剤0.01〜5.0重量部と(C)ゼオライト系安定剤0.01〜8.0重量部と、(D)β−ジケトン類0.001〜2.0重量部及び/又は(E)有機ホスファイト類0.01〜3.0重量部とを配合し、さらに(F)可塑剤を配合して成る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【効果】優れた耐熱劣化性と耐熱変色性を有する上、成形加工時に安定した初期色調と脱型性をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規な粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、さらに詳しくは、特に優れた耐熱劣化性と耐熱変色性を有する上、成形加工時に安定した初期色調と脱型性をもたらす粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車内装材であるクラッシュパッド、グローブボックス、コンソールボックス、ドアトリム、アームレスト、ヘッドレストなどは、軽量でソフト感があり、かつレザー模様やステッチ模様のある高級な感覚が要求され、また、デザインにおいても深いアンダーカットなどが要求されることから、従来、これらの自動車内装材の表皮材料として、例えば軟質塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂、あるいはペースト塩化ビニル系樹脂が用いられ、また成形法としては真空成形、ゾルスラッシュ成形あるいはゾル回転成形法などが主として利用されてきた。しかしながら、軟質塩化ビニル系樹脂やABS樹脂を使用した真空成形による成形品は軽量化は達成できるものの、硬い感触のものしか得られない上、真空成形時に絞流れやステッチ模様の流れが生じ、高級感のある製品とはならず、また深絞りやアンダーカットのあるものが得られにくいという欠点があった。また、ペースト塩化ビニル系樹脂によるゾル成形品は、ソフト感や高級感は達成できるものの、ゾル粘度が高いために肉厚化の傾向が避けられず、厚さの均一性を保つことが困難であるとともに、軽量化の達成が不可能であるという欠点があった。また、成形時に金型からのゾルの排出に時間がかかったり、色替え時のタンク、配管などのクリーニングに時間を要したり、生産性に大きな問題点があった。そこで、これらの問題点を解決するために、近年、特にクラッシュパッド、グローブボックス、コンソールボックス、ドアトリムなどには、粉体成形塩化ビニル系樹脂製品が多く使用されるようになってきた。ところで、粉体成形には高温に加熱された金型を用いて焼結するために、熱安定性の高い材料が求められるとともに、耐熱性や耐光性なども要求されるなど、高い品質の粉体成形材料が要求される。この粉体成形に際しては、金型温度の分布の存在は避けられず、温度差による色調のムラが発生しやすいとともに、高温部では脱型性が低下して製品に伸びが生じ、ウレタン注入時にシワが発生するなど問題がある。クラッシュパッドに関しては、近年エアバッグ仕様車が増えるに伴い、特に耐熱劣化性に優れたエアバッグドアが要求され、変色及び物性維持の改良が求められている。自動車内装材は、このように厳しい条件に耐えるものでなければならず、またウレタンを裏打ちするために、さらに熱安定性を配慮した配合が必要である。焼結時や使用時の熱安定性を確保するために、一般的に、安定剤としてハイドロタルサイトを主とし、さらに脱型効果をもつ金属石ケンなどの材料が用いられ、その上場合によりβ−ジケトンやホスファイト類が添加されることもある。また、ウレタンに対する安定剤としては過塩素酸類が用いられている。しかしながら、これらを配合してなる従来の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、焼結時の耐熱変色性と脱型性、及び使用時の耐熱性(変色及び物性)が共に満足できるほどの性能を有していないという欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物が有する欠点を克服し、特に優れた耐熱劣化性と耐熱変色性を有する上、成形加工時に安定した初期色調と脱型性をもたらす粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の好ましい性質を有する粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、塩化ビニル系樹脂に、ハイドロタルサイト系安定剤とゼオライト系安定剤とβ−ジケトン類及び/又は有機ホスファイト類とを所定の割合で配合することにより、従来の知見では想定できない相乗効果を発揮し、ウレタン接着性を阻害することなく、脱型性が改善され、耐熱変色が少なく、耐熱保持性の高い組成物が得られ、その目的を達成しうることを見い出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、(A)塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、(B)ハイドロタルサイト系安定剤0.01〜5.0重量部と(C)ゼオライト系安定剤0.01〜8.0重量部と、(D)β−ジケトン類0.001〜2.0重量部及び/又は(E)有機ホスファイト類0.01〜3.0重量部とを配合し、さらに(F)可塑剤を配合して成る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を提供するものである
【0005】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物において、(A)成分として用いられる塩化ビニル系樹脂については特に制限はなく、従来粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に用いられているものを使用することができる。該塩化ビニル系樹脂としては、例えば懸濁重合、塊状重合、乳化重合などの方法で得られた塩化ビニルの単独重合体、あるいは塩化ビニルとエチレン、プロピレン、ビニルアセテートなどの共重合可能な単量体1種以上との共重合体を挙げることができる。該塩化ビニル系樹脂の重合度については、特に制限はなく、種々の重合度の塩化ビニル系樹脂が用いられるが、通常、平均重合度が600〜3500、好ましくは800〜1500の範囲のものが用いられる。本発明組成物においては、この(A)成分の塩化ビニル系樹脂は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0006】本発明組成物において(B)成分として用いられるハイドロタルサイト系安定剤は、一般式Mg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2O …[1]
(式中のxは0<x≦0.5の範囲の実数、mは0又は実数である)で表されるものである。また、ハイドロタルサイト系安定剤としては、例えばハイドロタルサイトと過塩素酸とを水中で任意の比率で反応させ、ハイドロタルサイト中のCO3の一部をClO4に置換した過塩素酸一部導入型ハイドロタルサイトを用いることができる。本発明組成物においては、この(B)成分のハイドロタルサイト系安定剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その配合量は、(A)成分の塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01〜5.0重量部、好ましくは0.1〜3.0重量部の範囲で選ぶことが必要である。この配合量が0.01重量部未満では安定化効果が十分に発揮されないし、5.0重量部を超えると色調の悪化と物性の低下を招く傾向がみられる。
【0007】本発明組成物において(C)成分として用いられるゼオライト系安定剤は、一般式 Mx/n・[(AlO2)x・(SiO2)y]・zH2O …[2]
(式中のMは原子価nの金属イオン、x+yは単子格子当たりの四面体数、zは水のモル数である)で表されるものであって、該式中のMの種類としてはNa、Li、Ca、Mg、Znなどの一価又は二価の金属及びこれらの混合型が挙げられる。本発明組成物においては、この(C)成分のゼオライト系安定剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、またその配合量は、(A)成分の塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01〜8.0重量部、好ましくは0.1〜5.0重量部の範囲で選ぶことが必要である。この配合量が0.01重量部未満では安定化効果が十分に発揮されないし、8.0重量部を超えると物性が低下する傾向がみられる。
【0008】本発明組成物においては、初期色調の変動をより効果的に抑えるために、(D)成分のβ−ジケトン類又は(E)成分の有機ホスファイト類あるいはその両方が用いられる。該(D)成分のβ−ジケトン類としては、例えばジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタンなどを挙げることができる。これらのβ−ジケトン類は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、またその配合量は、(A)成分の塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.001〜2.0重量部、好ましくは0.01〜1.0重量部の範囲で選ぶことが必要である。この配合量が0.001重量部未満ではその使用効果が十分に発揮されないし、2.0重量部を超えるとその量の割には効果の向上がみられない。
【0009】また、該(E)成分の有機ホスファイト類としては、例えばジエチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジフェニルノニルフェニルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、テトラアルキルビスフェノールAホスファイトなどが挙げられる。これらの有機ホスファイト類は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、またその配合量は、(A)成分の塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01〜3.0重量部、好ましくは0.1〜2.0重量部の範囲で選ぶことが必要である。この配合量が0.01重量部未満では安定化効果が十分に発揮されないし、3.0重量部を超えるとブリードなどの弊害が発生する傾向がみられる。
【0010】本発明組成物においては、(F)成分として可塑剤が用いられる。この可塑剤については特に制限はなく、従来粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に慣用されているものを用いることができる。該可塑剤としては、例えばジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、アルキル基の炭素数が9〜11のジアルキルフタレートなどのフタル酸エステル類、トリ−n−オクチルトリメリテート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、アルキル基の炭素数が7〜11のトリアルキルトリメリテートなどのトリメリット酸トリエステル類、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などが挙げられる。これらの可塑剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。該可塑剤の配合量は、製品の用途や要求性能、成形加工性などにより決定されるが、一般には、(A)成分の塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、20〜200重量部、好ましくは30〜150重量部の範囲で選ばれる。本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物には、必要に応じて、高級脂肪酸、高級アルコール、金属石ケン、高級脂肪酸エステルなどの離型剤を添加してもよい。その添加量は焼結条件に併せて適宜選ばれる。その他、過塩素酸化合物、流動性改良剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0011】本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、例えば懸濁重合又は塊状重合法などで製造された塩化ビニル系樹脂に、可塑剤、ハイドロタルサイト系安定剤、ゼオライト系安定剤、他添加剤などをスーパーミキサーあるいはリボンブレンダーなどの混合機で均一に分散させたのち、クーリングミキサーなどで40〜80℃に冷却後、必要に応じ流動性改良剤を加えることにより調製することができる。熱安定剤としてハイドロタルサイト系安定剤を用いた場合、脱型性の良好な性能が得られる反面、初期色調の悪化と物性の低下及び熱劣化試験での早期変色をもたらすなどの問題が生じる。一方、ゼオライト系安定剤は、使用時に劣化を抑制し、低温領域の成形において色調や脱型性に優れるものの、高温時の成形においては色調と脱型性が急激に悪化するという欠点を有している。
【0012】本発明においては、ハイドロタルサイト系安定剤とゼオライト系安定剤とを併用することにより、相互に欠点を補充し、さらにβ−ジケトン類及び/又は有機ホスファイト類を添加することにより、色調の大幅な改善が図られ、成形性と実用性能の双方で厳しいニーズに対応できる粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物が得られる。本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、粉体スラッシュ成形、流動浸漬成形あるいは粉体回転成形などの種々の粉体成形に使用することができ、特に自動車内装用表皮材料の成形に用いられている粉体スラッシュ成形に好適に使用することができる。
【0013】
【実施例】次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1〜8、比較例1〜4第1表及び第2表に示す種類と量の各成分をヘンシェルミキサーでブレンドし、ドライアップ後に50℃に冷却した段階で流動性改良剤(重合度850で粒径1μmの乳化重合塩化ビニル樹脂)10重量部を添加し、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物について、初期色調、脱型性、熱劣化後の変色及び熱劣化後伸び残率を以下に示す方法により求めた。その結果を第1表及び第2表に示す。
【0014】(1)初期色調、脱型性樹脂組成物を、オイル加熱式スラッシュ成形機に幅200mm、長さ750mmのハーフインストルメントパネルの金型を装着したものによりシート成形した。この際の金型として、ニッケル製で絞模様のある電鋳金型を使用した。また、成形条件としては、オイル加熱により金型が240℃になった時点で該樹脂組成物をチャージし、金型を反復させて未溶融の余剰の樹脂組成物を排除し、そのままの状態で30秒間放置して樹脂組成物の溶融を促進させた。次いで冷却用オイルを流してさらに45秒間放置し、温度が65℃になった時点で冷却オイルの循環を停止し、成形した。この際の初期色調を次に示す数値に従って評価した。
初期色調5:無色4:僅かに黄色3:濃い黄色2:褐色1:濃褐色次に、このようにして成形したシートを、その一端にバネ秤を取り付け、速度約200mm/秒、角度約60度で剥離させ、その際の力(脱型力)を測定することにより、次の基準に従って脱型性を評価した。
○:0.8kgf未満の力を要す△:0.8kgf以上、15kgf未満の力を要す(剥離時に材料が僅かに伸びる)
×:1.5kgf以上の力を要する(離型時に材料が伸びる)
【0015】(2)熱劣化後の変色、熱劣化後伸び残率(%)
第1表及び第2表に示す配合の各例において、顔料2重量部を添加した以外は、前記(1)と同様にしてハーフインストルメントパネルのシートを成形した。このシートに半硬質発泡ウレタンを10mmの厚さにバッキングし、平坦部から15cm×20cmの試験片を6枚切り出した。この試験片を用いて、JIS K-6732によって引張試験を行い、その平均値を求めた。次に、他の試験片を120℃のギアオーブンに入れて300時間経過させたのち、後述の方法で熱劣化後の変色を調べ、次いで上記と同様の引張試験を行い平均値を求め、熱劣化前の値に対する変化率を熱劣化後の伸び残率とした。熱劣化後の変色は、L*a*b*表色系により、スガ試験機(株)製のカラーコンピューター(SM−4)を用いて測定した。
【0016】
【表1】


【0017】注1)ゼオン103EP8:日本ゼオン(株)製2)トリメックスNSK:花王(株)製3)O−130P:旭電化工業(株)製4)アルカマイザー1:協和化学工業(株)製5)アルカマイザー5:協和化学工業(株)製、60モル%が過塩素酸導入型6)ミズカライザーDS:水沢化学工業(株)製7)アデカスタブ1500:旭電化工業(株)製8)カレンズDK−2:昭和電工(株)製
【0018】
【表2】


【0019】注2)、3)、4)、6)、7)、8)は前出9)ゼオン103EP:日本ゼオン(株)製10)リュウロンE−1050:東ソー(株)製11)PL−200:三菱瓦斯化学(株)製
【0020】
【発明の効果】本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、優れた耐熱劣化性と耐熱変色性を有する上、成形加工時に安定した初期色調と脱型性をもたらすなどの特徴を有しており、粉体スラッシュ成形、流動浸漬成形あるいは粉体回転成形などの種々の粉体成形に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、(B)ハイドロタルサイト系安定剤0.01〜5.0重量部と(C)ゼオライト系安定剤0.01〜8.0重量部と(D)β−ジケトン類0.001〜2.0重量部とを配合し、さらに(F)可塑剤を配合して成る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】(A)塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、(B)ハイドロタルサイト系安定剤0.01〜5.0重量部と(C)ゼオライト系安定剤0.01〜8.0重量部と(E)有機ホスファイト類0.01〜3.0重量部とを配合し、さらに(F)可塑剤を配合して成る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】(A)塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、(B)ハイドロタルサイト系安定剤0.01〜5.0重量部と(C)ゼオライト系安定剤0.01〜8.0重量部と(D)β−ジケトン類0.001〜2.0重量部と(E)有機ホスファイト類0.01〜3.0重量部とを配合し、さらに(F)可塑剤を配合して成る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】ハイドロタルサイト系安定剤が過塩素酸一部導入型のものである請求項1、2又は3記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。