説明

粉末冶金用混合粉およびその製造方法ならびに切削性に優れた鉄基粉末製焼結体およびその製造方法

【課題】優れた旋削性とドリル切削性とを兼備した焼結体を得ることが可能な、混合粉を提供する。
【解決手段】鉄基粉末と合金用粉末と切削性改善用粉末と潤滑剤粉末とを混合する。切削性改善用粉末は、SiO−MgO系非晶質相またはSiO−MgO−アルカリ金属酸化物系非晶質相、およびSiOまたは酸化マグネシウム(MgO)を含む酸化物相を形成できる粉末とする。このような粉末としては、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末、SiOとMgOとの混合粉末等が例示できる。なお、切削性改善用粉末としてはさらに、硬質金属化合物粒子となる、金属ホウ化物粉末、金属窒化物粉末を、また軟質金属化合物粒子となる、MnS、CaFを配合してもよい。このような混合粉から製造された焼結体は、基地相中に、基地相の平均硬さより低い硬さの軟質金属化合物相と、高い硬さの硬質金属化合物相とが分散し、優れた旋盤切削性と切削性とを兼備した、切削性に優れた焼結体となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車焼結部品用などに好適な、鉄基粉末と合金用粉末と切削性改善用粉末と潤滑剤とを混合した粉末冶金用混合粉および該混合粉を成形、焼結して得られる鉄基粉末製焼結体に係り、とくに、鉄基粉末製焼結体の切削性改善に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金技術の進歩により、高寸法精度の複雑な形状の部品をニアネット形状に製造することができるようになり、粉末冶金技術を利用した製品が各種分野で利用されている。粉末冶金技術は、粉末を所望形状の金型に充填した後、焼結を行うことで、形状の自由度が高いことが特徴となっている。そのため、形状が複雑な歯車等の機械部品に適用する事例が多い。
【0003】
例えば、鉄系粉末冶金の分野では、鉄基粉末(金属粉末)に、銅粉、黒鉛粉などの合金用粉末と、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム等の潤滑剤とを混合した鉄基混合粉を、所定形状の金型に充填したのち加圧成形して成形体とし、ついで、焼結処理を施して焼結部品を得ている。このようにして得られた焼結部品は、一般的に寸法精度が良いとされるが、非常に厳しい寸法精度が要求される焼結部品を製造する場合には、焼結した後に、さらに切削加工を施す必要がある。
【0004】
しかし、このようにして製造された焼結体は、空孔の含有比率が高く、溶解法による金属材料にくらべて、切削抵抗が高い。このため、従来から、焼結体の切削性を向上させる目的で、鉄基混合粉に、Pb、Se、Te等を、粉末で添加、または鉄粉もしくは鉄基粉末に合金化して添加することが行なわれてきた。
しかし、Pbは融点が330℃と低いため、焼結過程で溶融し、しかも鉄中に固溶せず基地中に均一分散させることが難しいという問題があった。また、Se、Teは、焼結体を脆化させるため、焼結体の機械的特性の劣化が著しいという問題があった。これらの粉末以外にも、切削性改善のために種々の粉末を添加することが提案されている。
【0005】
またさらに、空孔は、熱伝導性が悪いため、加工時の摩擦発熱が蓄積され、工具の表面温度が上がりやすいため、切削工具が著しく損耗し、その結果、切削加工費が増大し、焼結部品の製造コストの上昇を招くという問題がある。
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、鉄粉に、10μm以下の非常に微細な硫化マンガン粉末を重量%で0.05〜5%混合した焼結物体製造用鉄粉混合物が記載されている。特許文献1に記載された技術によれば、大きな寸法変化及び強度劣化を伴うことなく、焼結材の被削性(切削性)を改善できるとしている。
【0006】
また、特許文献2には、鉄粉を主体とし、アノールサイト相および/またはゲーレナイト相を有する平均粒径50μm以下のCaO−AlO−SiO2系複合酸化物の粉末(セラミックス粉末)を0.02〜0.3重量%含有する粉末冶金用鉄系混合粉末が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、切削時に加工面に露出したセラミックス粉末が工具表面に付着して工具保護膜(いわゆるベラーク層)を形成し、工具の材質劣化を防止して切削性を改善することができるとしている。
【0007】
また、特許文献3には、鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末として硫化マンガン粉とリン酸カルシウム粉および/またはヒドロキシアパタイト粉とを、さらに潤滑剤を混合してなる鉄基混合粉が記載されている。ここで、硫化マンガンは切屑の微細化に有効に作用し、一方、リン酸カルシウム粉およびヒドロキシアパタイト粉は、切削時に工具の表面に付着して工具保護膜を形成して、工具表面の変質を防止又は抑制するとしている。特許文献3に記載された技術によれば、焼結体の機械的特性の劣化を伴うこともなく、切削性を向上できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−147801号公報
【特許文献2】特開平9−279204公報
【特許文献3】特開2006−89829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、3に記載された技術では、硫化マンガン(MnS)粉を含むため、Sが焼結中に揮発し、焼結炉内の汚染や、焼結体外観の悪化の原因となるとともに、さらに、焼結体中に残留したS、あるいはMnSは、発錆を促進し、焼結部品の耐食性を低下させるという問題がある。また、特許文献2に記載された技術では、粉体特性、焼結体特性の低下を防止するために、セラミックス粉末を不純物が少なく、かつ粒度を調整した粉末とする必要があり、材料コストが高騰するという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献2、3に記載されたベラーク層形成による切削性改善は、旋削加工では切削動力低減に有効であるが、切屑が微細化しないため、ドリル切削においては、切り屑の排除性が悪く、ドリル切削性には問題を残している。
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、焼結炉の炉内環境に悪影響を及ぼすことなく、成形体の焼結ができ、さらに、優れた切削性、詳しくは、優れた旋盤切削性(以下、旋削性ともいう)および優れたドリル切削性を兼備した焼結体を得ることが可能な、粉末冶金用混合粉およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、優れた旋削性およびドリル加工性を兼備し、切削性に優れた焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、焼結体の切削性に及ぼす各種要因、とくに添加材の影響について鋭意考究した。その結果、混合粉中に、鉄基粉末、合金用粉末、潤滑剤とともに加える切削性改善用粉末(添加材)として、少なくともSiOおよび/またはMgOを含む粉末を使用することに思い至り、このような粉末を添加材として混合粉中に混合すると、焼結処理により焼結体の基地相中に軟質相と硬質相を同時に分散させることができることを見出した。とくに、少なくともSiOおよびMgOを含む粉末は、焼結時に鉄基粉末表面の酸化鉄層とSiO、MgOが反応し、低融点相を形成し、焼結体の基地相の平均硬さより低い硬さの非晶質の軟質相として基地中に分散するとともに、反応の度合によって焼結体の基地相の平均硬さより高い硬さのファイアライト等のSiOを含む酸化物相を形成して、硬質相として基地相中に分散する。このような、焼結体の基地相中に、非晶質の軟質金属化合物相と、硬質金属化合物相としてのSiOを含む酸化物相とを、分散させることにより、旋盤での切削性(旋削性)とドリルによる切削性(ドリル切削性)とを共に向上でき、焼結体の切削性改善に有効であることを知見した。
【0012】
また、本発明者らは、切削性改善用粉末(添加材)として、少なくともSiOおよび/またはMgOを含む粉末に加えてさらに、アルカリガラス粉末またはアルカリ金属塩粉末を混合することにより、アルカリガラスまたはアルカリ金属塩がフラックスとして作用して、物質拡散が促進され、さらに容易に焼結処理後の焼結体中に、非晶質の軟質相(SiO−MgO−アルカリ金属酸化物系非晶質粒子、MgO−アルカリ金属酸化物系非晶質粒子)と、硬質相(SiOを含む酸化物粒子、金属化合物粒子)とを同時に、基地中に分散させることができることを見出した。
【0013】
焼結体の基地相中に、基地相の平均硬さよりも低い硬さの軟質金属化合物相と、基地相の平均硬さよりも高い硬さの硬質金属化合物相と、を分散させることにより、旋盤での切削性(旋削性)とドリルによる切削性(ドリル切削性)とを共に向上できる。このような焼結体の切削性改善の機構について、現在までのところ明確になっているわけではないが、本発明者らは次のように考えている。
【0014】
一般に、旋盤切削などの切削加工に際して、工具の先端には、塑性変形および剪断変形を起こす被削材の抗力が作用する。そして、工具の表面には被削材との摩擦力が作用し、工具表面の摩耗が生じる。また、工具内部には、抗力(切削抵抗)が作用し、変形あるいは亀裂発生の原因となり、工具が劣化してゆく。一方、焼結体内部に、焼結体基地相よりも軟質の、軟質金属化合物相が分散している場合には、軟質金属化合物相が、基地相の変形よりも低い応力で変形するため、工具に作用する抗力が低下し、工具の摩耗、変形あるいは亀裂の発生を抑制し、工具寿命が改善される。
【0015】
一方、ドリル切削加工においては、上記したような機構で、工具に作用する抗力が低下するだけでは、工具の寿命改善は生じない。というのは、ドリル切削時に発生した切屑が排除されずに穿孔中に存在する場合があり、これがドリルと被削材の間に噛みこみ、結果的に工具に加わる応力が増大して、工具摩耗や工具破損の原因となる。また、ドリル貫通の際には、穿孔表面に切屑が付着し、いわゆる“バリ”が発生する。バリの発生は、部品の加工精度を低下させるうえ、バリ除去の加工工程が必要となり、部品製造のコストを高騰させる。
【0016】
本発明では、焼結体の基地相中に、軟質金属化合物相に加えて、焼結体基地相よりも硬質の硬質金属化合物相を分散させるため、切屑発生時に硬質金属化合物相に応力が集中し、切屑内部での亀裂の発生を促進する。このため、切屑が微細化し、ドリル穿孔の際の切屑排出性が向上し、ドリルに作用する抗力が低下して、ドリル寿命を改善できる。さらには、切屑が排除されやすくなるため、バリの発生を抑制するという副次的効果をももたらす。
【0017】
基地相中に、軟質金属化合物相および硬質金属化合物相を分散させた焼結体とする本発明によれば、上記したような機構によって、優れた旋削性および優れたドリル切削性を確保できたものと考えている。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0018】
(1)鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01〜1.0%配合してなることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【0019】
(2)(1)において、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末および/またはアルカリ金属塩粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10〜80%配合して含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
(3)(2)において、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【0020】
(4)(2)において、前記アルカリ金属塩粉末が、アルカリ炭酸塩粉末および/またはアルカリ金属石鹸であることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記切削性改善用粉末がさらに、硫化マンガン粉末、フッ化カルシウム粉末から選ばれた1種または2種を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【0021】
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記切削性改善用粉末がさらに、金属硼化物粉末および/または金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
(7)(6)において、前記金属硼化物が、TiB、ZrB、NbBのうちの少なくとも1種であり、前記金属窒化物が、TiN、AlN、Siのうちの少なくとも1種であることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【0022】
(8)(6)または(7)において、前記金属硼化物および前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
(9)(1)ないし(8)のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さより低い硬さの軟質金属化合物相と、前記基地相の平均硬さより高い硬さの硬質金属化合物相とを、分散させてなることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【0023】
(10)鉄基粉末、合金用粉末、切削性改善用粉末、潤滑剤粉末とを混合した粉末冶金用混合粉を、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO−MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiOを含む酸化物相を、分散させてなることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【0024】
(11)(10)において、前記軟質金属化合物相が、SiO−MgO−アルカリ金属酸化物系非晶質相であることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
(12)(11)において、前記アルカリ金属酸化物が、NaO、KO、LiOのいずれかまたはそれらの複合であることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
(13)(10)ないし(12)のいずれかにおいて、前記軟質金属化合物相が、さらに、硫化マンガン粒子、フッ化カルシウム粒子から選ばれた1種または2種含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【0025】
(14)(10)ないし(13)のいずれかにおいて、前記硬質金属化合物相がさらに、金属硼化物および/または金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
(15)(14)において、前記金属硼化物が、TiB、ZrB、NbBのうちの少なくとも1種であり、前記金属窒化物が、TiN、AlN、Siのうちの少なくとも1種であることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【0026】
(16)(14)または(15)において、前記金属硼化物および前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
(17)鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01〜1.0%であり、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【0027】
(18)(17)において、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末および/またはアルカリ金属塩粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10〜80%配合して含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
(19)(18)において、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【0028】
(20)(18)において、前記アルカリ金属塩粉末が、アルカリ炭酸塩粉末および/またはアルカリ金属石鹸であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
(21)(17)ないし(20)のいずれかにおいて、前記切削性改善用粉末がさらに、硫化マンガン粉末、フッ化カルシウム粉末から選ばれた1種または2種を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【0029】
(22)(17)ないし(21)のいずれかにおいて、前記切削性改善用粉末がさらに、金属硼化物粉末および/または金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
(23)(22)において、前記金属硼化物が、TiB、ZrB、NbBのうちの少なくとも1種であり、前記金属窒化物が、TiN、AlN、Siのうちの少なくとも1種であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【0030】
(24)(22)または(23)において、前記金属硼化物および前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
(25)(17)ないし(24)のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、優れた旋削性と、優れたドリル切削性とを兼備した、切削性に優れた焼結体を安価に製造でき、金属焼結部品の製造コストを顕著に低減でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、成形時には、圧粉密度の低下や、抜出力の増大を招くことなく成形でき、さらに、焼結時には、焼結炉の炉内環境に悪影響を及ぼすこともなく焼結できるという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず、本発明の粉末冶金用混合粉について説明する。
本発明の粉末冶金用混合粉は、鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末と、を混合してなる混合粉である。
本発明では、鉄基粉末としては、アトマイズ鉄粉および還元鉄粉などの純鉄粉、合金元素を予め合金化した予合金鋼粉(完全合金化鋼粉)、あるいは鉄粉に合金元素が部分拡散し合金化された部分拡散合金化鋼粉、あるいは予合金化鋼粉(完全合金化鋼粉)にさらに合金元素を部分拡散させたハイブリッド鋼粉などの鉄基粉末がいずれも適用できる。また、鉄基粉末としては、上記した鉄基粉末に加えてさらに合金用粉末、および潤滑剤粉末を混合した鉄基粉末混合粉としてもよい。
【0033】
また、合金用粉末としては、黒鉛粉末、Cu(銅粉末)粉、Mo粉、Ni粉などの非鉄金属粉末、亜酸化銅粉末などが例示され、所望の焼結体特性に応じて選択して混合する。これらの合金用粉末を、鉄基粉末に混合させることにより焼結体の強度を上昇させることができ、所望の焼結部品強度を確保できる。なお、合金用粉末の配合量は、所望の焼結体強度に応じて、金属粉末、合金用粉末、切削製改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.1〜10%程度とすることが好ましい。合金用粉末の配合量が、0.1質量%未満では、所望の焼結体強度を確保できなくなる。一方10質量%を超えて添加すると、焼結体の寸法精度が低下する。
【0034】
また、本発明では、切削性改善用粉末として、混合粉を成形体とし焼結した際に、焼結体の基地相中に基地相の平均硬さより低い硬さの軟質粒子(軟質相)となる、低融点の非晶質相を形成できる軟質金属化合物粉末とする。具体的には、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種である。
【0035】
なお、ここでいう「焼結体の基地相中に基地相の平均硬さより低い硬さの軟質粒子(軟質相)」とは、焼結体の基地相の平均硬さを、200HV(モース硬度約4)と定義し、その硬さより低い硬さを有する「粒子(相)」をいうものとする。なお、例えば、Fe−Cu−C系鉄基粉末焼結体(金属粉末としての鉄基粉末と、合金用粉末としての黒鉛粉および銅粉とを用いた場合)では、焼結体の基地相を形成する組織は、フェライト相(α鉄)およびパーライト相であり、通常、基地相は概ね100〜300HV程度(A.Salak,M.Selewcka and H.Danninger:Machinability of Powder Metallugy Steels, p.369, (2005) 発行元:Elsevier社 参照)の平均硬さを有する。そこで本発明では、Fe−Cu−C系鉄基粉末焼結体(金属粉末としての鉄基粉末と、合金用粉末としての黒鉛粉および銅粉とを用いた場合)の焼結体の基地相の平均硬さを参照してその中央値である200HV(モース硬度約4)を、焼結体の基地相の平均硬さと定義した。
【0036】
切削性改善用粉末として混合粉に添加する、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末等の軟質鉱物はいずれも、少なくともSi、Mg、O(SiO、MgO)を含有する金属化合物であり、または水砕スラグ粉末は、CaO−SiO−AlO3、MgO−AlO−SiO等の成分系で代表される脱酸生成物である。Si、Mg、Oを含有する化合物であるこれら粉末はいずれも、混合粉を成形した圧粉体を焼結する際に、低融点の非晶質相を形成し、焼結体の基地相中に軟質金属化合物相として分散させることができる。なお、焼結時に形成される低融点の非晶質相は、SiO−MgO系非晶質相である。
【0037】
また、切削性改善用粉末として、エンスタタイト粉末等と同様にSi、Mg、Oを含む、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末を用いてもよい。この混合粉末は、混合粉を成形した圧粉体を焼結する際に、同様に低融点の非晶質相(非晶質粒子)を形成できる。なお、混合比は、質量比でSiO:MgOが、1:2〜3:1とすることが好ましい。
【0038】
また、本発明では、切削性改善用粉末として、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種に、さらにアルカリガラス粉末および/またはアルカリ金属塩粉末を加えることが好ましい。SiO、MgOからなるエンスタタイト粉末等の粉末にさらにアルカリガラス粉末および/またはアルカリ金属塩粉末を加えることにより、圧粉体の焼結時に低融点の非晶質相の形成がより促進される。アルカリガラス、アルカリ金属塩は、焼結時に単独であるいは鉄基粉末表面の酸化鉄と反応して、低融点のフラックスを形成し、そのフラックス中に、混合粉中に含まれるSiO、MgO等の他の酸化物が溶融し、SiO−MgO−アルカリ金属酸化物系非晶質相を形成して、軟質相として焼結体の基地相中に分散する。
【0039】
なお、アルカリガラスとしては、ソーダガラス、カリウムガラス、リチウムガラス等が例示でき、それら粉末のいずれかあるいはそれらを複合して含有できる。また、アルカリ金属塩としては、アルカリ炭酸塩、アルカリ金属石鹸が例示でき、それら粉末のいずれかあるいはそれらを複合して含有してもよい。なお、アルカリ金属石鹸を用いた場合には、金属石鹸による潤滑効果により粉末成形時に圧粉体の密度が向上するという利点もある。
【0040】
また、本発明では、切削性改善用粉末として、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種と、あるいはさらにアルカリガラス粉末および/またはアルカリ金属塩粉末とに加えて、さらに硫化マンガン粉末、フッ化カルシウム粉末から選ばれた1種または2種を含んでもよい。上記したエンスタタイト粉末等起因の非晶質相に混じって、上記したモース硬度4以下の硫化マンガン粉末、フッ化カルシウム粉末起因の軟質粒子を存在させることにより、切削屑の微細化がより促進されやすくなる。
【0041】
なお、硫化マンガン粉末、フッ化カルシウム粉末から選ばれた1種または2種の配合量は、切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、20〜80%とすることが好ましい。配合量が20質量%未満では、所望の効果が期待できない。一方、80質量%を超える配合は焼結体の機械的強度が低下する。
また、混合粉中に、切削性改善用粉末として配合されるSi、Mg、Oを含有する金属化合物粉末は、焼結時に低融点の非晶質相を形成して軟質相となると同時に、一部が鉄基粉末表面と焼結時に反応して、SiOを含む酸化物相を形成し、焼結体の基地相中に基地相の平均硬さより高い硬さの硬質粒子を分散させることができる。このSiOを含む酸化物相としては、ファイアライト(FeSiO)、クォーツ等が例示できる。したがって、本発明では、混合粉中に、基地相の平均硬さより高い硬さの硬質粒子となる切削性改善用粉末をとくに添加する必要はないが、硬質相を均一に分散させるためには、切削性改善用粉末として、さらにファイアライト(FeSiO)等のSiOを含む高融点酸化物粉末を混合してもよい。また、SiOを含む酸化物相以外の硬質粒子を切削性改善用粉末として、さらに混合してもよい。SiOを含む酸化物相以外の硬質粒子となる粉末としては、金属硼化物粉末および/または金属窒化物粉末が例示でき、金属硼化物粉末としては、TiB粉末、ZrB粉末、NbB粉末が例示でき、なかでもNbB粉末が好ましい。また、金属窒化物粉末としては、TiN粉末、AlN粉末、Si粉末が例示でき、とりわけSi粉末が好ましい。
【0042】
なお、均一分散性の観点から、切削性改善用粉末の平均粒径は0.01〜20μm程度とすることが好ましい。なかでも、硬質粒子として配合される金属硼化物粉末および金属窒化物粉末は、応力集中点として作用するとともに、工具摩耗の原因となるため、平均粒径は10μm以下に限定することが好ましい。金属硼化物粉末および金属窒化物粉末の平均粒径が10μmを超えると、硬質粒子が研磨剤のような働きをすると考えられ、工具摩耗が増大する。なお、より好ましくは5μm以下である。平均粒径は、レーザ回折法を利用して求めたものを使用するものとする。
【0043】
なお、金属硼化物粉末および/または金属窒化物粉末の配合量は、切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10〜80%とすることが好ましい。配合量が10質量%未満では、所望の効果が期待できない。一方、80質量%を超える配合は粉末の圧縮性や焼結体強度が低下する。
また、本発明混合粉における切削性改善用粉末の配合量は、合計で、鉄基粉末、合金用粉末および切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01〜1.0%とすることが好ましい。配合量が、0.01質量%未満では、切削性改善効果が不十分となる。一方、1.0質量%を超えて配合すると、圧粉体密度が低下し、さらに成形体を焼結して得た焼結体の機械的強度が低下する恐れがある。このため、混合粉における切削性改善用粉末の配合量は、合計で、鉄基粉末、合金用粉末および切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01〜1.0%の範囲に限定した。
【0044】
上記したような粉末を切削性改善用粉末として配合した混合粉を成形し、焼結すると、基地相中に、主としてSiO−MgO系非晶質粒子(非晶質相)あるいはSiO−MgO−アルカリ金属酸化物系非晶質粒子(非晶質相)からなる軟質金属化合物相と、主としてSiOを含む酸化物相からなる硬質金属化合物相が分散した焼結体が得られる。基地相中に軟質金属化合物相が分散していることにより、切削時に、切屑の変形抵抗を低減し、切削工具に作用する応力を低減でき、工具寿命が向上する。またさらに、基地相中に硬質金属化合物相が分散していることにより、切削時に形成された切屑が変形する際に、硬質金属化合物相が応力集中点となり、切屑の微細化が可能となり、例えばドリル切削時の切屑の排出が促進され、ドリル切削性が向上する。軟質金属化合物相、硬質金属化合物相の分散量が上記した範囲を外れると、切削性の改善の程度が少ないか、機械的特性が低下する。
【0045】
本発明混合粉には、上記した鉄基粉末、合金用粉末、切削性改善用粉末に加えて、適正量の潤滑剤を配合する。配合される潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム等の金属石鹸、あるいはオレイン酸などのカルボン酸、ステアリン酸アミド、ステアリン酸ビスアミド、エチレンビスステアロアミドなどの、アミドワックスが好ましい。潤滑剤の配合量は、本発明ではとくに限定されないが、金属粉末、合金用粉末、切削性改善用粉末の合計量100質量部に対し、0.1〜1.0質量部とすることが好ましい。潤滑剤の配合量が、0.1質量部未満では、金型との摩擦が増加し抜き出し力が増大し、金型寿命が低下する。一方、1.0質量部を超えて多量となると、成形密度が低下し、焼結体密度が低くなる。
【0046】
つぎに、本発明混合粉の好ましい製造方法について説明する。
鉄基粉末に、合金用粉末、および、上記したような種類、配合量の粉末からなる切削性改善用粉末、さらに潤滑剤を、それぞれ所定量配合し、通常公知の混合機を用いて、一回に、あるいは二回以上に分けて混合し、混合粉(鉄基混合粉)とすることが望ましい。上記した切削性改善用粉末は、必ずしも全量を一度に混合する必要はなく、一部のみを配合して混合(一次混合)を行ったのち、残部を配合して混合(二次混合)することもできる。なお、潤滑剤も、二回に分けて配合してもよい。
【0047】
なお、鉄基粉末の一部または全部を、合金用粉末および/または切削性改善用粉末の一部または全部が結合材を用いて表面に固着させる偏析防止処理を施した鉄基粉末を用いても良い。なお、偏析防止処理としては、特許第3004800号公報に記載の方法を用いることができる。
また、鉄基粉末に、合金用粉末、および、切削性改善用粉末を、潤滑剤とともに所定量配合して、該潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、一次混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させたのち、二次混合材を添加し、二次混合してもよい。
【0048】
また、混合手段としては、とくに制限はなく、従来公知の混合機いずれもが使用できる。なお、加熱が容易な、高速底部撹拌式混合機、傾斜回転パン型混合機、回転クワ型混合機および円錐遊星スクリュー形混合機などは特に有利に適合する。
つぎに、上記した製造方法で製造された本発明の粉末冶金用混合粉を用いた、焼結体の好ましい製造方法について説明する。
【0049】
まず、好ましくは上記した方法で製造された、本発明の粉末冶金用混合粉を、金型に充填し圧縮成形し、成形体とすることが好ましい。成形方法は、プレス等の通常の成形方法がいずれも好適である。本発明の粉末冶金用混合粉を用いることにより、成形圧力を294MPa以上とでき、さらに常温においても成形することができる。なお、安定した成形性を確保するためには、混合粉や金型を適正な温度に加熱したり、金型に潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0050】
また、成形を、加熱雰囲気中で行う場合には、混合粉や金型の温度は150℃未満とすることが好ましい。というのは、本発明の混合粉は、圧縮性に富むため、150℃未満の温度でも優れた成形性を示すうえ、150℃以上になると酸化による劣化が懸念されるためである。
得られた成形体は、ついで焼結処理を施され、焼結体となる。焼結処理の温度は、金属粉末の融点の約70%の温度で行う。鉄基粉末の場合は、1000℃以上好ましくは1300℃以下とする。焼結処理の温度が1000℃未満では、所望の密度の焼結体とすることが難しくなる。なお、焼結処理の温度が1300℃を超えて高温となると、異常粒成長が起こり、焼結体強度が低下する。
【0051】
また、焼結処理の雰囲気は、窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気、あるいは、これに水素を混合した不活性ガス−水素ガス混合雰囲気、あるいは、アンモニア分解ガス、RXガス、天然ガスなどの還元雰囲気とすることが好ましい。
焼結処理後、さらに、必要に応じて、ガス浸炭熱処理や浸炭窒化処理等の熱処理を施し、所望の特性を具備された製品(焼結部品等)とする。なお、切削加工等の加工を随時施し、所定寸法の製品とすることは言うまでもない。
【0052】
以下、実施例に基づき、さらに本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0053】
鉄基粉末として、表1に示す鉄基粉末(いずれも平均粒径:約80μm)を使用した。使用した鉄基粉末は、アトマイズ純鉄粉(A)、還元純鉄粉(B)、鉄粉表面に合金元素としてCuを部分拡散させ合金化した部分拡散合金化鋼粉(C)、鉄粉表面に合金元素としてNi、Cu、Moを部分拡散させ合金化した部分拡散合金化鋼粉(D)、合金元素としてNi、Moを予合金化した予合金化鋼粉(完全合金化鋼粉)(E)、合金元素としてMoを予合金化した予合金化鋼粉(完全合金化鋼粉)(F)と、合金元素として、Moを予合金化した完全合金化鋼粉にさらにMoを部分拡散合金化した鋼粉(ハイブリッド型合金鋼粉)(H)とした。
【0054】
上記した鉄基粉末に、表2に示す種類、配合量の合金用粉末と、表2に示す種類、配合量の切削性改善用粉末と、さらに、表2に示す種類、配合量の潤滑剤とを、配合し、高速底部撹拌式混合機を利用して、一次混合した。なお、一次混合では、混合しながら140℃に加熱した後、60℃以下に冷却した。なお、合金用粉末として配合した天然黒鉛粉は平均粒径:5μmの粉末とし、銅粉は平均粒径:20μmの粉末とした。なお、切削性改善用粉末として用いた、金属硼化物粉末および金属窒化物粉末は、表2に示す平均粒径の粉末とした。
【0055】
一次混合したのち、さらに表2に示す種類、配合量の切削性改善用粉末、潤滑剤からなる二次混合材を配合し、混合機の回転数を1000rpmとし、1分間撹拌する、二次混合を行なった。二次混合後、混合機から混合粉を排出した。なお、切削性改善用粉末は、一次混合と二次混合時の二回に分けて配合した。切削性改善用粉末の配合量は、鉄基粉末、合金用粉末、切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で表示し、潤滑剤の配合量は、鉄基粉末、合金用粉末、切削性改善用粉末の合計量100質量部に対する質量部で表示した。
【0056】
これにより、鉄基粉末、合金用粉末、切削性改善用粉末が、偏析を生じることなく、均一に混合された混合粉が得られた。
なお、比較例として、表2に示す種類、配合量で、鉄基粉末、合金用粉末、潤滑剤を配合し、V型容器回転式混合機を用いて、常温で混合し、混合粉を得た。
得られた混合粉を、金型(旋盤切削試験用およびドリル切削試験用の2種)に装入し、加圧力:590MPaで圧粉成形し、成形体を得た。ついで、得られた成形体に、RXガス雰囲気中で、1130℃×20minの焼結処理を施して、焼結体を得た。
【0057】
得られた焼結体について、組織観察、旋盤切削試験、ドリル切削試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)組織観察
得られた焼結体から組織分析用試験片を採取し、電界抽出法により非金属介在物を抽出した。そして得られた抽出物をX線回折測定により、焼結体中の軟質相と硬質相の同定を行った。
(2)旋盤切削試験
得られた焼結体(リング状:外径60mm×内径20mm×長さ20mm)を3個重ねて、その側面を、旋盤を利用して切削した。切削条件は、超硬の切削工具を用いて、切削速度:200m/min、送り量:0.1mm/回、切込み深さ:0.5mm,切削距離:1000mとし、切削後、切削工具の逃げ面の摩耗幅を測定した。切削工具の逃げ面の摩耗幅が小さいほど、焼結体の切削性が優れていると評価した。
(3)ドリル切削試験
得られた焼結体(円盤状:外径60mm×厚さ10mm)に、高速度鋼製ドリル(直径:1.2mmのシャンクドリル)で、回転数:10,000rpm、送り速度:300mm/minの条件で貫通穴を穿孔し、ドリルが破損するまでの穿孔数を調査した。なお、穿孔部表面のバリ発生の有無を目視で調査した。
【0058】
得られた結果を、表3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
本発明例はいずれも、切削工具逃げ面の摩耗幅も小さく、旋盤切削性に優れ、さらにドリルが破損するまでの穿孔数が多く、またバリの発生もなく、ドリル切削性にも優れた、焼結体となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、旋削性および/またはドリル切削性が低下していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01〜1.0%配合してなることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項2】
前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末および/またはアルカリ金属塩粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10〜80%配合して含むことを特徴とする請求項1に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項3】
前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であることを特徴とする請求項2に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩粉末が、アルカリ炭酸塩粉末および/またはアルカリ金属石鹸であることを特徴とする請求項2に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項5】
前記切削性改善用粉末がさらに、硫化マンガン粉末、フッ化カルシウム粉末から選ばれた1種または2種を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項6】
前記切削性改善用粉末がさらに、金属硼化物粉末および/または金属窒化物粉末を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項7】
前記金属硼化物が、TiB、ZrB、NbBのうちの少なくとも1種であり、前記金属窒化物が、TiN、AlN、Siのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項8】
前記金属硼化物および前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項6または7に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さより低い硬さの軟質金属化合物相と、前記基地相の平均硬さより高い硬さの硬質金属化合物相を分散させてなることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項10】
鉄基粉末、合金用粉末、切削性改善用粉末、潤滑剤粉末とを混合した粉末冶金用混合粉を、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO−MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiOを含む酸化物相を分散させてなることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項11】
前記軟質金属化合物相が、SiO−MgO−アルカリ金属酸化物系非晶質相であることを特徴とする請求項10に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項12】
前記アルカリ金属酸化物が、NaO、KO、LiOのいずれかまたはそれらの複合であることを特徴とする請求項11に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項13】
前記軟質金属化合物相が、さらに、硫化マンガン粒子、フッ化カルシウム粒子から選ばれた1種または2種を含むことを特徴とする請求項10ないし12のいずれかに記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項14】
前記硬質金属化合物相がさらに、金属硼化物および/または金属窒化物を含むことを特徴とする請求項10ないし13のいずれかに記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項15】
前記金属硼化物が、TiB、ZrB、NbBのうちの少なくとも1種であり、前記金属窒化物が、TiN、AlN、Siのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項14に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項16】
前記金属硼化物および前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項14または15に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項17】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、エンスタタイト粉末、タルク粉末、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01〜1.0%であり、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項18】
前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末および/またはアルカリ金属塩粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10〜80%配合して含むことを特徴とする請求項17に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項19】
前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であることを特徴とする請求項18に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項20】
前記アルカリ金属塩粉末が、アルカリ炭酸塩粉末および/またはアルカリ金属石鹸であることを特徴とする請求項18に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項21】
前記切削性改善用粉末がさらに、硫化マンガン粉末、フッ化カルシウム粉末から選ばれた1種または2種を含むことを特徴とする請求項17ないし20のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項22】
前記切削性改善用粉末がさらに、金属硼化物粉末および/または金属窒化物粉末を含むことを特徴とする請求項17ないし21のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項23】
前記金属硼化物が、TiB、ZrB、NbBのうちの少なくとも1種であり、前記金属窒化物が、TiN、AlN、Siのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項22に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項24】
前記金属硼化物および前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項22または23に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項25】
請求項17ないし24のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。