説明

粉末成形方法

【課題】粉末成形における成形体の重量ばらつきを抑えて焼結部品に代表される製品の信頼性向上と生産の歩留まり向上を図ることを課題としている。
【解決手段】ダイ1のキャビティ4に充填した原料粉Pを上下のパンチ3,2で圧縮成形する粉末成形において、原料粉Pを供給する給粉ボックス11の温度を管理してキャビティ4に充填する原料粉Pを所定の温度に保温し、この状態で粉末の連続成形を実施するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼結して製品化される粉末成形体(圧粉体)を、個々の重量のばらつきを小さく抑えて連続的に成形することを可能にする粉末成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の粉末成形方法には、温度調節を行わない冷間成形方法と加熱を行う温間成形方法などがある。このうち、後者の温間成形は、高密度が要求される製品の成形に一般的に利用され、高密度が要求されない製品の成形では温度管理や温度調節は行なわれない。また、温間成形は、通常、粉末の変形性がよくなる70℃以上の温度に粉末を加熱して実施される。
なお、冷間成形の技術は、例えば、下記特許文献1に開示されており、また、温間成形の技術は、例えば、下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−178603号公報
【特許文献2】特開平9−272901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼結部品や切削用途、耐摩用途の焼結体などを製造するときの粉末の成形は、数種類の材料をミキサーで配合し、得られた原料粉をホッパに貯留する。そして、ホッパからホースを経由して給粉ボックス(シューボックス)に供給し、その給粉ボックスからダイのキャビティに充填して上下のパンチで圧縮成形する方法でなされる。
【0005】
この粉末成形では、連続成形を開始するまでの調整期間や連続成形を開始してからしばらくの間は成形条件が変動しやすく、それが原因で成形体の重量がばらついて製品(焼結部品)の質量と寸法が安定しない。
【0006】
この問題に対して、上記特許文献1は、金型(ダイと下パンチ)を成形時の平衡温度まで予熱し、その状態でキャビティに対する原料粉の充填量を調整して連続成形を開始することを提案している。この方法は、金型の温度変化によるキャビティの容積変化を抑えることで成形体の重量を安定させる。
【0007】
上記特許文献2も、金型を加熱する。この方法は、金型とともに原料粉末も加熱し、その際の加熱の温度を150〜400℃に設定している。温間成形は、粉末を加熱することでその粉末の変形性をよくして成形体の高密度化を図るものである。特許文献2の方法での金型と原料粉末の加熱はその目的で行われている。
【0008】
高密度が要求されない成形体は、温間成形に比べて生産性やコスト面で有利な冷間成形法で成形するが、その冷間成形で上記特許文献1が開示しているように金型を成形時の平衡温度まで予熱しても、成形体の重量ばらつきの問題は完全には解消されない。
【0009】
製品の信頼性向上と不良率低減による生産の歩留まり向上の面から成形体の重量のばらつきは小さいに越したことはない。そこで、この発明は、粉末成形における成形体の重量ばらつきを抑えて焼結部品に代表される製品の信頼性向上と生産の歩留まり向上を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、原料粉を、ホッパからホースを経由して給粉ボックスに供給し、その給粉ボックスからダイのキャビティに充填して上下のパンチで圧縮成形する粉末成形方法において、
前記給粉ボックスの温度を管理してキャビティに充填する原料粉を流体を用いて所定の温度に保温し、この状態で粉末の連続成形を実施するようにした。
【0011】
前記ホッパ及び/若しくは前記ホースについても流体を用いて温度管理を行うことが可能である。そして、この方法での前記所定の温度は、20℃〜40℃ぐらいが適当である。
【発明の効果】
【0012】
キャビティに対する粉末の充填量は、配合後の原料粉末の見かけ密度(いわゆるAD)を調査して決定されている。
【0013】
その粉末の見かけ密度は、温度に依存して数値が変化する。例えば、配合による摩擦で温度が高くなっている原料粉末と、配合から一定時間を経過して温度が低下している原料粉末の見かけ密度は異なった値になる。
【0014】
発明者はそのことが成形体の重量ばらつきに影響を及ぼしていることを解明した。粉末の温度と見かけ密度を調査した結果、両者に相関関係が見られ、粉末の温度が20℃〜40℃くらいで見かけ密度が比較的安定する傾向も見られた。この調査結果から、粉末の温度を安定させることで見かけ密度を一定に制御することができ、その制御で成形体の重量ばらつきを抑制できると考えた。そして、量産品の生産性を悪化させずに粉末の温度を安定させる方法として、キャビティに充填する前の粉末を接触相手の給粉ボックスを用いて保温することを試みて、その方法で発明の目的が達成されることを確認した。給粉ボックスによる保温は、その給粉ボックを液体などの流体を用いて加熱、或は冷却して行う。
【0015】
この方法による成形体の重量安定化により、製品の密度、寸法が安定して製品の信頼性が向上し、さらに不良率が低減して生産の歩留まりも向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の方法を実施する粉末成形装置の一例の概要を示す図
【図2】粉末の温度と見かけ密度の相関の測定結果を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の粉末成形方法の実施の形態について説明する。
【0018】
この発明の方法を実施する粉末成形装置の概要を図1に示す。図示の装置の成形用金型は、ダイ1、先端をダイの成形穴1aに挿入した下パンチ2、下パンチに対向させた上パンチ3の3者で構成され、これ等の要素間にキャビティ4が作り出されるものになっているが、コアロッドを備えたものや、下パンチ2や上パンチ3を複数の分割パンチで構成したものなどもある。
【0019】
ダイ1はダイプレート5に支持され、下パンチ2は固定プレート6に支持されている。また、上パンチ3は、プレス機の上ラムによって駆動される上パンチプレート(図示せず)に支持されている。ダイプレート5は、連結ロッド7を介してヨークプレート8に連結された昇降自在のプレートである。
【0020】
9は原料粉Pを貯留したホッパ、10は粉末の移動路を形成するホース、11は給粉ボックスであり、ホッパ9内の原料粉Pがホース10を通って給粉ボックス11に供給される。その原料粉Pの供給を受けた給粉ボックス11は、図示の待機位置からダイ1上に移動し、キャビティ4に原料粉Pを投入する。キャビティ4に投入された原料粉Pは待機位置に戻る給粉ボックス11に掻き均されて余剰分が除去され、これにより秤量された原料粉Pが残されてキャビティ4に対する原料粉の充填が完了する。
【0021】
この後、上パンチ3が駆動されて降下し、上下のパンチによるキャビティ内原料粉の圧縮、成形が行われる。また、成形が完了するとダイ1が所定位置まで引き下げられて完成した成形体がキャビティ4から抜き出され、装置の各要素がプリセット状態に戻って1ショットの作業が完了する。
【0022】
上記の装置構成と、作業工程は従来装置と同じである。この発明では、ホッパ9、ホース10、給粉ボックス11の各々に水を通す液体ホース12,13,14を取付けてこれ等の要素を所定の温度に加温、冷却可能となしている。また、原料粉の温度を測定する温度センサ15とその温度センサからの情報に基づいて各液体ホース12,13,14の温度を制御し、温度センサ15で測定した原料粉の温度が所定値に到達したらそのことを報知するための指令を出す制御部16を付加している。液体ホース12,13,14は模式化して示したが、温度管理対象(ここではホッパ9、ホース10、給粉ボックス11)の
外周に巻き付けるなどして配置するとよい。
【0023】
このように構成した粉末成形装置を使用して原料粉Pを温度が管理されたホッパ9、ホース10、給粉ボックス11で所定の温度、好ましくは20℃〜40℃、より好ましくは、その範囲内での一定温度に加温する。そして、原料粉Pの温度が所定の温度に到達したことを確認したら、粉末成形装置を作動させて連続成形を実施する。
【0024】
これにより、原料粉Pの温度が一定する。そのために、キャビティ4に充填される原料粉Pの見かけ密度が各回の成形においてほぼ一定したものになり、得られる成形体の重量ばらつきが小さくなる。
この構成によると、熱媒体として水を用いるので安全に安定して温度の管理を行なうことができる。
【0025】
なお、キャビティ4に対する原料粉の充填量は、従来同様、原料粉の見かけ密度を調査して決定する。充填量の決定に用いる原料粉の見かけ密度は、この発明で言う所定の温度(連続成形を行うときの原料粉の温度)での見かけ密度であると好ましいが、充填量を決定するために調査した見かけ密度と前記所定の温度での見かけ密度が異なっていても、キャビティ4に対する粉末充填量の微調整を行った後に連続成形を実施することで、誤差分を補正してキャビティに対する粉末充填量を適正化することができる。
【0026】
粉末の温度と見かけ密度の相関について調べた結果を以下に述べる。試料の粉末は、銅を2.0wt%、黒鉛を合計で0.8wt%、潤滑剤を0.8wt%含有し、残部が鉄の組成である。
【0027】
この鉄系粉末100gと温度測定器を冷蔵庫に3時間以上保管した後、冷蔵庫を開け、
試料(鉄系粉末)の温度と見かけ密度を測定し(サンプル数2)、その後、冷蔵庫OFFで1時間保管してこの時点での温度と見かけ密度を再度測定し、さらに、冷蔵庫OFFでの1時間保管後の温度測定と見かけ密度測定を室温になるまで2回繰り返した。
【0028】
この後、室温になった試料を温度30℃に加熱してその温度での見かけ密度を測定し、さらに、試料をオーブンに1時間保持後、40℃での見かけ密度を測定した。その結果を図2に示す。
【0029】
この図2からわかるように、温度が5℃〜40℃の間で試料の鉄系粉末の見かけ密度は0.1g/cm増加しており、見かけ密度の温度依存性を確認できる。
【0030】
また、20℃前後の温度では、見かけ密度の変動幅が大きいが、20℃〜40℃の範囲では、20℃の温度変動に対する見かけ密度の変動量が0.02g/cmとごく僅かであり、見かけ密度が比較的安定していることもわかる。
【符号の説明】
【0031】
1 ダイ
2 下パンチ
3 上パンチ
4 キャビティ
5 ダイプレート
6 固定プレート
7 連結ロッド
8 ヨークプレート
9 ホッパ
10 ホース
11 給粉ボックス
12〜14 液体ホース
15 温度センサ
16 制御部
P 原料粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉(P)を、ホッパ(9)からホース(10)を経由して給粉ボックス(11)に供給し、その給粉ボックス(11)からダイ(1)のキャビティ(4)に充填して上下のパンチ(3、2)で圧縮成形する粉末成形方法において、
前記給粉ボックス(11)の温度を管理してキャビティ(4)に充填する原料粉(P)を流体を用いて所定の温度に保温し、この状態で粉末の連続成形を実施する粉末成形方法。
【請求項2】
前記ホッパ(9)及び/若しくは前記ホース(10)についても流体を用いて温度管理を行う請求項1に記載の粉末成形方法。
【請求項3】
前記所定の温度が20℃〜40℃である請求項1又は2に記載の粉末成形方法。

【図1】
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【図2】
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