粉末成形金型
【課題】ダイ、パンチ、コアロッドなどの金型要素が圧力を持って接した状態で擦れ合って起こる金型表面の傷つきや金型の焼きつきを防止することを課題としている。
【解決手段】下1パンチ2−1及びその下1パンチの外周の縦溝5に適合して嵌る下2パンチ2−2からなる下パンチ2を有し、圧粉体10の本体部11の一端面と突起12の内径側側面とその突起12の周方向両端の各側面を下1パンチ2−1で成形するように構成された粉末成形金型であり、前記下1パンチ2−1の先端に、端面視における下1、下2パンチ前面の重心を結んだ直線上において縦溝5に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面7を設けた。
【解決手段】下1パンチ2−1及びその下1パンチの外周の縦溝5に適合して嵌る下2パンチ2−2からなる下パンチ2を有し、圧粉体10の本体部11の一端面と突起12の内径側側面とその突起12の周方向両端の各側面を下1パンチ2−1で成形するように構成された粉末成形金型であり、前記下1パンチ2−1の先端に、端面視における下1、下2パンチ前面の重心を結んだ直線上において縦溝5に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面7を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非対称形状の段付き焼結部品の製造に利用する粉末成形金型、特に、粉末成形時にパンチがダイやコアロッドなどに擦りつけられることに起因した傷つきや焼きつきの防止策を施した粉末成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結部品は、ダイ、上パンチ及び下パンチを最小限の要素として備えた粉末成形装置を使用して粉末を圧縮成形し、得られた圧粉体を焼結して製造される。その焼結部品の中に非対称形状をなす段付き部品がある。
【0003】
その段付き部品の一例(それ用の圧粉体)を図12に示す。例示の圧粉体10は、本体部11の一端に突起12を有する。その突起12は、本体部の外周側に片寄った位置に部品の形状が非対象となるように設けられている。この圧粉体10は、焼結後に本体部11の中心にセンサ取付け穴(ねじ穴が一般的)を加工してセンサーボスとして提供されるものである。センサーボスは、酸素センサを車両のエキゾーストマニホールドに取り付けるときの台座となるものであって、本体部11の外周をエキゾーストマニホールドに溶接し、本体部11の中心のセンサ取付け穴に酸素センサをねじ込んで使用される。
【0004】
図12の圧粉体10は、図13に示す粉末成形金型で成形される。図13の粉末成形金型は、ダイ1と、下1パンチ2−1と下2パンチ2−2の2者からなる下パンチ2と、上パンチ3とで構成されており、ダイと下パンチ間に形成されるキャビティ4に粉末Pを充填し、その粉末を上下の対向したパンチで圧縮して、圧粉体10の本体部11の外周面と突起12の外径側側面12aをダイ1で、本体部11の一端面と突起12の内径側側面12bと突起12の周方向両端の側面12c,12cを下1パンチ2−1で、突起12の先端を下2パンチ2−2で、本体部11の他端面を上パンチ3でそれぞれ成形する。
【0005】
なお、下記特許文献1には、非対称形状の段つき圧粉体を成形する粉末成形金型が開示されている。
【特許文献1】特開平8−47800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13の粉末成形金型は、キャビティ4に充填された粉末Pを圧縮するときに下1パンチ2−1に対して突起12の部分から側圧A(軸直角方向の力)が加わる。その側圧によって下1パンチ2−1がダイ1に押し付けられ、その状態でダイ1と下1パンチ2−1が軸方向に相対移動するため、ダイ1と下1パンチ2−1の互いに擦りつけられた部分の表面が傷つき、それが原因でダイと下1パンチが焼きつくことがあった。
【0007】
また、表面が傷ついた下1パンチ2−1に攻撃されてダイの成形穴の内面の傷が広がり、その傷によって圧粉体の表面が傷つけられて製品(焼結部品)の表面性状が悪くなることもあった。
【0008】
粉末冶金法で製造される非対称形状の段つき焼結部品の品質向上や同部品を成形する粉
末成形装置の稼働率向上を図るには、上記のような金型表面の傷つきや焼きつきを防止することが重要になるが、この問題の有効な解決策は見出されていない。例えば、前掲の特許文献1や他の同一技術分野の特許文献には、その課題の解決策は勿論、課題すら示されていない。
【0009】
そこで、この発明は、金型の表面の傷つき、焼きつきが起こらないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下パンチと上パンチの少なくとも一方を、第1パンチと端面視でその第1パンチの外周の一部分に接する第2パンチを組み合わせたパンチで構成した粉末成形金型において、前記第1、第2の各パンチのうち、軸方向上方に突出する側のパンチの先端に、端面視における第1、第2パンチ前面の重心を結んだ直線上において他方のパンチに近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面を設けた。
【0011】
なお、この発明の適用対象には、円柱状をなす本体部の一端面に外周面の一部分に沿った突起を設けたセンサーボス用の金型も含まれる。センサーボス用の圧粉体を成形するその金型は、円柱状の下1パンチ及びその下1パンチの外周に設けられた円弧断面の縦溝に適合して嵌る下2パンチからなる下パンチを有し、前記圧粉体の本体部の一端面と前記突起の本体部内周側の側面とその突起の周方向両端の各側面を下1パンチで成形するように構成され、さらに、圧粉体の本体部の一端の面を成形する下1パンチの先端に、端面視における下1、下2パンチ前面の重心を結んだ直線上において前記縦溝に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面が設けられたものになる。
【0012】
そのセンサーボス用の金型は、前記斜面を、下1パンチの先端に描かれる、軸心と同心で、直径がセンサーボスの中心に設けられるセンサ取り付け穴の直径と等しい仮想円の内
側領域に設けると好ましい。
【0013】
センサーボス用の金型で成形した圧粉体を焼結して製造される焼結合金製のセンサーボスは、端面に突起を有し、その突起の根元が端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成されたものとなす。この発明は、そのセンサーボスも併せて提供する。
【発明の効果】
【0014】
この発明の粉末成形金型は、分割された第1、第2のパンチのうち、軸方向前方に突出して成形時に側圧を受ける側のパンチ(以下分割パンチという)の先端に特定の方向に傾く斜面を設けており、粉末成形時に上記斜面の働きによってその斜面を設けた部分に軸直角方向の分力が発生する。
【0015】
その分力は、粉末成形時に分割パンチに加わる側圧とは方向が正反対になっており、上記の側圧と斜面に発生する分力が互いに打ち消し合って分割パンチがダイなどに強く押し付けられることがなくなる。そのために、金型の傷つき、製品の表面性状の悪化、金型の焼きつきが減少する。
【0016】
なお、この発明を特徴づける斜面の面積と傾斜角は、粉末成形時に分割パンチに作用する側圧の大きさによって適正値が変わる。分割パンチに作用する側圧の大きさは粉末の成形条件(成形圧や分割パンチの形状、サイズなど)に応じて変動するので、成形条件に合った適正な斜面の面積と傾斜角の設定が必要である。
【0017】
センサーボス用の圧粉体を成形する金型で、前記斜面を下1パンチの先端に描かれる上記仮想円の内側領域に設けたものは、圧粉体を焼結して得られた焼結部品にセンサ取り付け用の穴を設けたときに斜面による成形の痕跡(底面が傾斜した凹部)が除去されて無くなる。従って、センサーボスの機能、外観に対する影響は皆無となるが、斜面によって成形された面を残存させてもよい焼結部品もあるので、斜面を上記の領域に設けることは必須の要件ではない。
【0018】
この発明の金型で成形して製造される焼結合金製のセンサーボスは、下2パンチによって先端が成形された突起と下1パンチの先端の突起によって成形された凹部が端面に形成されたものになる。この構造でセンサーボスの端面に形成される突起の根元を端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成したものは、圧粉体の成形時に突起根元に亀裂が発生しなかったが、突起の根元が端面から急激に立ち上がるものは突起根元に亀裂が発生した。従って、突起の根元はなだらかに立ち上がる曲線で形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の粉末成形金型の実施の形態を、添付図面の図1〜図11に基づいて説明する。図1の粉末成形金型は、図5、図6に示すセンサーボス用の圧粉体10を成形するものであって、ダイ1と下パンチ2と上パンチ3とからなる。
【0020】
ダイ1は、円形断面の成形穴1aを有している。また、下パンチ2は、下1パンチ2−1と下2パンチ2−2の2者に分割されている。ここでは、下1パンチ2−1がこの発明で言う第1パンチ、下2パンチ2−2がこの発明で言う第2パンチとなっている。
【0021】
下1パンチ2−1は、成形穴1aに適合させた円柱状のパンチであり、成形穴1aに摺動隙間をもって挿入される。この下1パンチ2−1の外周には軸心と平行な円弧断面の縦溝5が形成され、さらに、この下1パンチ2−1の先端には、斜面7を有する突起6が設けられている。
【0022】
突起6は、下1パンチ2−1の先端に描かれる、軸心と同心の、直径がセンサーボスの中心に設けられるセンサ取付け穴の直径と等しい仮想円S(図5参照)の内側領域に設けられている。また、斜面7は、図3の端面視における下1、下2パンチ2−1,2−2前面の重心cg1,cg2を結んだ直線L上において前記縦溝5に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾いた面になっている。図4、図7は、前記直線Lに沿った断面を表している。その斜面7は、ここでは、図4、図7に示した傾斜角θを5°に設定したが、粉末成形時に下1パンチ2−1に作用する側圧の大きさは成形条件よって変動するので、斜面7の傾斜角θは成形条件にあった数値を選ぶ。
【0023】
下2パンチ2−2は、上記の溝縦5に適合する形状にしてあり、縦溝5に嵌めて下1パ
ンチ2−1と共に成形穴1aに挿入される。
【0024】
このように構成された粉末成形金型は、図5に示す圧粉体10の本体部11の外周面と本体部の一端に設けられる突起12の外径側側面12aをダイ1の成形穴1aの内面で成形する。また、前記圧粉体10の本体部11の一端面を下1パンチ2−1の先端で、突起12の内径側側面12bを下1パンチ2−1の外周に設けた縦溝5の溝底で、突起12の周方向両端の側面12cを縦溝5の平行な2側面でそれぞれ成形し、さらに、突起12の先端を下2パンチ2−2の先端で、本体部11の他端面を上パンチ3で各々成形する。
【0025】
この図1の粉末成形金型を用いてキャビティ4に充填した粉末Pを成形すると、図7に示すように、斜面7による成形部に軸直角方向の分力Bが生じて圧粉体10に設けられる突起12の部分から下1パンチ2−1に加わる側圧Aが相殺され、その側圧による下1パンチ2−1のダイ1への押付けが緩和される。これにより、金型(ダイと下1パンチ)の摺動面の傷つきが減少し、その傷に起因した圧粉体(焼結部品)の表面性状の悪化や金型の焼きつきが防止されるようになる。
【0026】
なお、例示の粉末成形金型で成形された圧粉体10とそれを焼結して得られる焼結部品には、下1パンチ2−1の先端中心の突起6に対応した凹部13が一端面の中央部に形成される。その凹部13は、焼結部品の本体部11にセンサ取付け穴を設けるときに削り取られて消滅するので、完成したセンサーボスに突起6と斜面7による成形の痕跡が残ることはないが、凹部13を除去する必要がなければ、突起6は図5の仮想円Sの外側領域に設けてもよい。図6に示すように、圧粉体10の端面に形成される突起12は、既に述べた理由により根元部を端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成する。その立ち上がり部のr半径は、1mm〜5mmが適当であった。
【0027】
図8、図9に、他の実施の形態を示す。この粉末成形金型は、下パンチ2を角断面の下1パンチ2−1と、その下1パンチ2−1の一側面に添わせる下2パンチ2−2の2者で構成し、下2パンチ2−2を下1パンチ2−1よりも軸方向前方に突出させてその下2パンチ2−2で、図10に示す圧粉体10Aの一側面に、軸方向途中まで入り込んだ段部14を成形するようにしたものであって、粉末成形時に下2パンチ2−2に側圧が作用する。そこで、下2パンチ2−2の先端に斜面7を有する突起6を設けており、この金型も斜面7の部分に生じる分力によって側圧が打ち消されて小さくなる。
【0028】
図11は、さらに他の実施の形態を示している。この図11の粉末成形金型は、下パンチ2と上パンチ3の双方を分割したもので、下パンチ2は、下1パンチ2−1と下1パンチ2−1の一側面に添わせた下2パンチ2−2の2者で構成され、上パンチ3も、上1パンチ3−1とその上1パンチ3−1の一側面に添わせた上2パンチ3−2の2者で構成されている。この金型は、下1パンチ2−1が下2パンチ2−2よりも軸方向前方に突出し、さらに、上2パンチ3−2が上1パンチ3−1よりも軸方向前方に突出する状態で圧粉体10Bの成形を行ったときに、下1パンチ2−1だけでなく上2パンチ3−2にも側圧が作用するので、下1パンチ2−1と上2パンチ3−2(両者ともこの発明でいう第1パンチ)の先端にそれぞれ斜面7を有する突起6を設けている。なお、下1パンチ2−1に作用する側圧と上2パンチ3−2に作用する側圧は方向が正反対になるので、下1パンチ2−1に設けた斜面7は下2パンチ2−2に近づくにつれて(図中右側で)軸方向突出量が大きくなる方向に傾け、上2パンチ3−2に設けた斜面7は上記とは反対向きに傾けている。
【0029】
このように、この発明は上パンチにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の粉末成形金型の実施の形態を示す断面図
【図2】図1の粉末成形金型の下パンチの斜視図
【図3】図1の粉末成形金型の下パンチの平面図
【図4】図3のX−X線に沿った端面図
【図5】図1の粉末成形金型で成形された圧粉体の斜視図
【図6】図5の圧粉体の断面の一部を示す図
【図7】図1の粉末成形金型の作用説明用の線図
【図8】この発明の粉末成形金型の他の実施の形態を示す断面図
【図9】図8の粉末成形金型の下パンチの斜視図
【図10】図8の粉末成形金型で成形された圧粉体の斜視図
【図11】この発明の粉末成形金型のさらに他の実施の形態を示す断面図
【図12】センサーボス用圧粉体の一例を示す斜視図
【図13】図12の圧粉体を成形する金型の断面図
【符号の説明】
【0031】
1 ダイ
1a 成形穴
2 下パンチ
2−1 下1パンチ
2−2 下2パンチ
3 上パンチ
3−1 上1パンチ
3−2 上2パンチ
4 キャビティ
5 縦溝
6 突起
7 斜面
10、10A,10B 圧粉体
11 本体部
12 突起
12a 外径側側面
12b 内径側側面
13 凹部
14 段部
P 粉末
A 側圧
B 分力
S 仮想円
θ 傾斜角
【技術分野】
【0001】
この発明は、非対称形状の段付き焼結部品の製造に利用する粉末成形金型、特に、粉末成形時にパンチがダイやコアロッドなどに擦りつけられることに起因した傷つきや焼きつきの防止策を施した粉末成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結部品は、ダイ、上パンチ及び下パンチを最小限の要素として備えた粉末成形装置を使用して粉末を圧縮成形し、得られた圧粉体を焼結して製造される。その焼結部品の中に非対称形状をなす段付き部品がある。
【0003】
その段付き部品の一例(それ用の圧粉体)を図12に示す。例示の圧粉体10は、本体部11の一端に突起12を有する。その突起12は、本体部の外周側に片寄った位置に部品の形状が非対象となるように設けられている。この圧粉体10は、焼結後に本体部11の中心にセンサ取付け穴(ねじ穴が一般的)を加工してセンサーボスとして提供されるものである。センサーボスは、酸素センサを車両のエキゾーストマニホールドに取り付けるときの台座となるものであって、本体部11の外周をエキゾーストマニホールドに溶接し、本体部11の中心のセンサ取付け穴に酸素センサをねじ込んで使用される。
【0004】
図12の圧粉体10は、図13に示す粉末成形金型で成形される。図13の粉末成形金型は、ダイ1と、下1パンチ2−1と下2パンチ2−2の2者からなる下パンチ2と、上パンチ3とで構成されており、ダイと下パンチ間に形成されるキャビティ4に粉末Pを充填し、その粉末を上下の対向したパンチで圧縮して、圧粉体10の本体部11の外周面と突起12の外径側側面12aをダイ1で、本体部11の一端面と突起12の内径側側面12bと突起12の周方向両端の側面12c,12cを下1パンチ2−1で、突起12の先端を下2パンチ2−2で、本体部11の他端面を上パンチ3でそれぞれ成形する。
【0005】
なお、下記特許文献1には、非対称形状の段つき圧粉体を成形する粉末成形金型が開示されている。
【特許文献1】特開平8−47800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13の粉末成形金型は、キャビティ4に充填された粉末Pを圧縮するときに下1パンチ2−1に対して突起12の部分から側圧A(軸直角方向の力)が加わる。その側圧によって下1パンチ2−1がダイ1に押し付けられ、その状態でダイ1と下1パンチ2−1が軸方向に相対移動するため、ダイ1と下1パンチ2−1の互いに擦りつけられた部分の表面が傷つき、それが原因でダイと下1パンチが焼きつくことがあった。
【0007】
また、表面が傷ついた下1パンチ2−1に攻撃されてダイの成形穴の内面の傷が広がり、その傷によって圧粉体の表面が傷つけられて製品(焼結部品)の表面性状が悪くなることもあった。
【0008】
粉末冶金法で製造される非対称形状の段つき焼結部品の品質向上や同部品を成形する粉
末成形装置の稼働率向上を図るには、上記のような金型表面の傷つきや焼きつきを防止することが重要になるが、この問題の有効な解決策は見出されていない。例えば、前掲の特許文献1や他の同一技術分野の特許文献には、その課題の解決策は勿論、課題すら示されていない。
【0009】
そこで、この発明は、金型の表面の傷つき、焼きつきが起こらないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下パンチと上パンチの少なくとも一方を、第1パンチと端面視でその第1パンチの外周の一部分に接する第2パンチを組み合わせたパンチで構成した粉末成形金型において、前記第1、第2の各パンチのうち、軸方向上方に突出する側のパンチの先端に、端面視における第1、第2パンチ前面の重心を結んだ直線上において他方のパンチに近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面を設けた。
【0011】
なお、この発明の適用対象には、円柱状をなす本体部の一端面に外周面の一部分に沿った突起を設けたセンサーボス用の金型も含まれる。センサーボス用の圧粉体を成形するその金型は、円柱状の下1パンチ及びその下1パンチの外周に設けられた円弧断面の縦溝に適合して嵌る下2パンチからなる下パンチを有し、前記圧粉体の本体部の一端面と前記突起の本体部内周側の側面とその突起の周方向両端の各側面を下1パンチで成形するように構成され、さらに、圧粉体の本体部の一端の面を成形する下1パンチの先端に、端面視における下1、下2パンチ前面の重心を結んだ直線上において前記縦溝に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面が設けられたものになる。
【0012】
そのセンサーボス用の金型は、前記斜面を、下1パンチの先端に描かれる、軸心と同心で、直径がセンサーボスの中心に設けられるセンサ取り付け穴の直径と等しい仮想円の内
側領域に設けると好ましい。
【0013】
センサーボス用の金型で成形した圧粉体を焼結して製造される焼結合金製のセンサーボスは、端面に突起を有し、その突起の根元が端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成されたものとなす。この発明は、そのセンサーボスも併せて提供する。
【発明の効果】
【0014】
この発明の粉末成形金型は、分割された第1、第2のパンチのうち、軸方向前方に突出して成形時に側圧を受ける側のパンチ(以下分割パンチという)の先端に特定の方向に傾く斜面を設けており、粉末成形時に上記斜面の働きによってその斜面を設けた部分に軸直角方向の分力が発生する。
【0015】
その分力は、粉末成形時に分割パンチに加わる側圧とは方向が正反対になっており、上記の側圧と斜面に発生する分力が互いに打ち消し合って分割パンチがダイなどに強く押し付けられることがなくなる。そのために、金型の傷つき、製品の表面性状の悪化、金型の焼きつきが減少する。
【0016】
なお、この発明を特徴づける斜面の面積と傾斜角は、粉末成形時に分割パンチに作用する側圧の大きさによって適正値が変わる。分割パンチに作用する側圧の大きさは粉末の成形条件(成形圧や分割パンチの形状、サイズなど)に応じて変動するので、成形条件に合った適正な斜面の面積と傾斜角の設定が必要である。
【0017】
センサーボス用の圧粉体を成形する金型で、前記斜面を下1パンチの先端に描かれる上記仮想円の内側領域に設けたものは、圧粉体を焼結して得られた焼結部品にセンサ取り付け用の穴を設けたときに斜面による成形の痕跡(底面が傾斜した凹部)が除去されて無くなる。従って、センサーボスの機能、外観に対する影響は皆無となるが、斜面によって成形された面を残存させてもよい焼結部品もあるので、斜面を上記の領域に設けることは必須の要件ではない。
【0018】
この発明の金型で成形して製造される焼結合金製のセンサーボスは、下2パンチによって先端が成形された突起と下1パンチの先端の突起によって成形された凹部が端面に形成されたものになる。この構造でセンサーボスの端面に形成される突起の根元を端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成したものは、圧粉体の成形時に突起根元に亀裂が発生しなかったが、突起の根元が端面から急激に立ち上がるものは突起根元に亀裂が発生した。従って、突起の根元はなだらかに立ち上がる曲線で形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の粉末成形金型の実施の形態を、添付図面の図1〜図11に基づいて説明する。図1の粉末成形金型は、図5、図6に示すセンサーボス用の圧粉体10を成形するものであって、ダイ1と下パンチ2と上パンチ3とからなる。
【0020】
ダイ1は、円形断面の成形穴1aを有している。また、下パンチ2は、下1パンチ2−1と下2パンチ2−2の2者に分割されている。ここでは、下1パンチ2−1がこの発明で言う第1パンチ、下2パンチ2−2がこの発明で言う第2パンチとなっている。
【0021】
下1パンチ2−1は、成形穴1aに適合させた円柱状のパンチであり、成形穴1aに摺動隙間をもって挿入される。この下1パンチ2−1の外周には軸心と平行な円弧断面の縦溝5が形成され、さらに、この下1パンチ2−1の先端には、斜面7を有する突起6が設けられている。
【0022】
突起6は、下1パンチ2−1の先端に描かれる、軸心と同心の、直径がセンサーボスの中心に設けられるセンサ取付け穴の直径と等しい仮想円S(図5参照)の内側領域に設けられている。また、斜面7は、図3の端面視における下1、下2パンチ2−1,2−2前面の重心cg1,cg2を結んだ直線L上において前記縦溝5に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾いた面になっている。図4、図7は、前記直線Lに沿った断面を表している。その斜面7は、ここでは、図4、図7に示した傾斜角θを5°に設定したが、粉末成形時に下1パンチ2−1に作用する側圧の大きさは成形条件よって変動するので、斜面7の傾斜角θは成形条件にあった数値を選ぶ。
【0023】
下2パンチ2−2は、上記の溝縦5に適合する形状にしてあり、縦溝5に嵌めて下1パ
ンチ2−1と共に成形穴1aに挿入される。
【0024】
このように構成された粉末成形金型は、図5に示す圧粉体10の本体部11の外周面と本体部の一端に設けられる突起12の外径側側面12aをダイ1の成形穴1aの内面で成形する。また、前記圧粉体10の本体部11の一端面を下1パンチ2−1の先端で、突起12の内径側側面12bを下1パンチ2−1の外周に設けた縦溝5の溝底で、突起12の周方向両端の側面12cを縦溝5の平行な2側面でそれぞれ成形し、さらに、突起12の先端を下2パンチ2−2の先端で、本体部11の他端面を上パンチ3で各々成形する。
【0025】
この図1の粉末成形金型を用いてキャビティ4に充填した粉末Pを成形すると、図7に示すように、斜面7による成形部に軸直角方向の分力Bが生じて圧粉体10に設けられる突起12の部分から下1パンチ2−1に加わる側圧Aが相殺され、その側圧による下1パンチ2−1のダイ1への押付けが緩和される。これにより、金型(ダイと下1パンチ)の摺動面の傷つきが減少し、その傷に起因した圧粉体(焼結部品)の表面性状の悪化や金型の焼きつきが防止されるようになる。
【0026】
なお、例示の粉末成形金型で成形された圧粉体10とそれを焼結して得られる焼結部品には、下1パンチ2−1の先端中心の突起6に対応した凹部13が一端面の中央部に形成される。その凹部13は、焼結部品の本体部11にセンサ取付け穴を設けるときに削り取られて消滅するので、完成したセンサーボスに突起6と斜面7による成形の痕跡が残ることはないが、凹部13を除去する必要がなければ、突起6は図5の仮想円Sの外側領域に設けてもよい。図6に示すように、圧粉体10の端面に形成される突起12は、既に述べた理由により根元部を端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成する。その立ち上がり部のr半径は、1mm〜5mmが適当であった。
【0027】
図8、図9に、他の実施の形態を示す。この粉末成形金型は、下パンチ2を角断面の下1パンチ2−1と、その下1パンチ2−1の一側面に添わせる下2パンチ2−2の2者で構成し、下2パンチ2−2を下1パンチ2−1よりも軸方向前方に突出させてその下2パンチ2−2で、図10に示す圧粉体10Aの一側面に、軸方向途中まで入り込んだ段部14を成形するようにしたものであって、粉末成形時に下2パンチ2−2に側圧が作用する。そこで、下2パンチ2−2の先端に斜面7を有する突起6を設けており、この金型も斜面7の部分に生じる分力によって側圧が打ち消されて小さくなる。
【0028】
図11は、さらに他の実施の形態を示している。この図11の粉末成形金型は、下パンチ2と上パンチ3の双方を分割したもので、下パンチ2は、下1パンチ2−1と下1パンチ2−1の一側面に添わせた下2パンチ2−2の2者で構成され、上パンチ3も、上1パンチ3−1とその上1パンチ3−1の一側面に添わせた上2パンチ3−2の2者で構成されている。この金型は、下1パンチ2−1が下2パンチ2−2よりも軸方向前方に突出し、さらに、上2パンチ3−2が上1パンチ3−1よりも軸方向前方に突出する状態で圧粉体10Bの成形を行ったときに、下1パンチ2−1だけでなく上2パンチ3−2にも側圧が作用するので、下1パンチ2−1と上2パンチ3−2(両者ともこの発明でいう第1パンチ)の先端にそれぞれ斜面7を有する突起6を設けている。なお、下1パンチ2−1に作用する側圧と上2パンチ3−2に作用する側圧は方向が正反対になるので、下1パンチ2−1に設けた斜面7は下2パンチ2−2に近づくにつれて(図中右側で)軸方向突出量が大きくなる方向に傾け、上2パンチ3−2に設けた斜面7は上記とは反対向きに傾けている。
【0029】
このように、この発明は上パンチにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の粉末成形金型の実施の形態を示す断面図
【図2】図1の粉末成形金型の下パンチの斜視図
【図3】図1の粉末成形金型の下パンチの平面図
【図4】図3のX−X線に沿った端面図
【図5】図1の粉末成形金型で成形された圧粉体の斜視図
【図6】図5の圧粉体の断面の一部を示す図
【図7】図1の粉末成形金型の作用説明用の線図
【図8】この発明の粉末成形金型の他の実施の形態を示す断面図
【図9】図8の粉末成形金型の下パンチの斜視図
【図10】図8の粉末成形金型で成形された圧粉体の斜視図
【図11】この発明の粉末成形金型のさらに他の実施の形態を示す断面図
【図12】センサーボス用圧粉体の一例を示す斜視図
【図13】図12の圧粉体を成形する金型の断面図
【符号の説明】
【0031】
1 ダイ
1a 成形穴
2 下パンチ
2−1 下1パンチ
2−2 下2パンチ
3 上パンチ
3−1 上1パンチ
3−2 上2パンチ
4 キャビティ
5 縦溝
6 突起
7 斜面
10、10A,10B 圧粉体
11 本体部
12 突起
12a 外径側側面
12b 内径側側面
13 凹部
14 段部
P 粉末
A 側圧
B 分力
S 仮想円
θ 傾斜角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下パンチ(2)と上パンチ(3)の少なくとも一方を、第1パンチと端面視でその第1パンチの外周の一部分に接する第2パンチを組み合わせたパンチで構成した粉末成形金型において、
前記第1、第2の各パンチのうち、軸方向前方に突出する側のパンチの先端に、端面視における第1、第2パンチ前面の重心を結んだ直線上において他方のパンチに近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面(7)を設けたことを特徴とする粉末成形金型。
【請求項2】
円柱状をなす本体部(11)の一端面に断面円弧状の突起(12)を設けた焼結センサーボス用の圧粉体(10)を成形する金型であって、
円柱状の下1パンチ(2−1)及びその下1パンチ(2−1)の外周に設けられた円弧断面の縦溝(5)に適合して嵌る下2パンチ(2−2)からなる下パンチ(2)を有し、
前記圧粉体の本体部(11)の一端面と前記突起(12)の内径側側面(12b)とその突起(12)の周方向両端の各側面(12c,12c)を前記下1パンチ(2−1)で成形するように構成され、さらに、前記本体部(11)の一端面を成形する下1パンチ(2−1)の先端に、端面視における下1、下2パンチ前面の重心を結んだ直線上において前記縦溝(5)に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面(7)が設けられていることを特徴とする粉末成形金型。
【請求項3】
前記斜面(7)を、下1パンチ(2−1)の先端に描かれる、軸心と同心の、直径がセンサーボスの中心に設けられるセンサ取付け穴の直径と等しい仮想円(S)の内側領域に設けた請求項2に記載の粉末成形金型。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の粉末成形金型を用いて製造した焼結合金製のセンサーボスであって、端面に突起(12)を有し、その突起(12)の根元が端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成されていることを特徴とするセンサーボス。
【請求項1】
下パンチ(2)と上パンチ(3)の少なくとも一方を、第1パンチと端面視でその第1パンチの外周の一部分に接する第2パンチを組み合わせたパンチで構成した粉末成形金型において、
前記第1、第2の各パンチのうち、軸方向前方に突出する側のパンチの先端に、端面視における第1、第2パンチ前面の重心を結んだ直線上において他方のパンチに近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面(7)を設けたことを特徴とする粉末成形金型。
【請求項2】
円柱状をなす本体部(11)の一端面に断面円弧状の突起(12)を設けた焼結センサーボス用の圧粉体(10)を成形する金型であって、
円柱状の下1パンチ(2−1)及びその下1パンチ(2−1)の外周に設けられた円弧断面の縦溝(5)に適合して嵌る下2パンチ(2−2)からなる下パンチ(2)を有し、
前記圧粉体の本体部(11)の一端面と前記突起(12)の内径側側面(12b)とその突起(12)の周方向両端の各側面(12c,12c)を前記下1パンチ(2−1)で成形するように構成され、さらに、前記本体部(11)の一端面を成形する下1パンチ(2−1)の先端に、端面視における下1、下2パンチ前面の重心を結んだ直線上において前記縦溝(5)に近づくにつれて軸方向突出量が大となる方向に傾く斜面(7)が設けられていることを特徴とする粉末成形金型。
【請求項3】
前記斜面(7)を、下1パンチ(2−1)の先端に描かれる、軸心と同心の、直径がセンサーボスの中心に設けられるセンサ取付け穴の直径と等しい仮想円(S)の内側領域に設けた請求項2に記載の粉末成形金型。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の粉末成形金型を用いて製造した焼結合金製のセンサーボスであって、端面に突起(12)を有し、その突起(12)の根元が端面からなだらかに立ち上がる曲線で形成されていることを特徴とするセンサーボス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−82671(P2010−82671A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256602(P2008−256602)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】
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