説明

粉末焼結積層造形装置及び粉末焼結積層造形方法

【課題】粉末材料の薄層の形成から焼結薄層の形成まで、全造形領域にわたって粉末材料の薄層の表面の温度を均一にすることができる粉末焼結積層造形装置を提供することを目的とする。
【解決手段】粉末材料の薄層を形成し、粉末材料の薄層を選択的に焼結させて焼結薄層を形成する造形領域13aを囲む造形用容器13と、造形用容器13の側方に設けられた粉末材料を貯留する粉末材料容器14a、14bと、造形領域13aの周辺部の上方の少なくとも1箇所に設置された、造形領域13aを加熱する熱源18c〜18fと、熱源18c〜18fの近くに設けられて、上方に熱源18c〜18fが設置されていない造形領域13aの周辺部への加熱を補助する熱線の反射板19e〜19hとを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形用テーブル上に複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する粉末焼結積層造形装置及び粉末焼結積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能試験用試作部品や少量多品種の製品に使用される部品等を造形することができる造形装置への要望が増えてきつつある。
【0003】
この要求を満たすものとして、光造形装置や粉末焼結積層造形装置などがある。なかでも、粉末焼結積層造形装置は、紫外線硬化性樹脂を使用する光造形装置と異なり、多種類かつ強靭な材料が使用できることが大きな特徴の一つであり、市場での認知度も向上し、さまざまな用途で使用されはじめている。
【0004】
このような粉末焼結積層造形装置では、造形用容器内で、順次、粉末材料の薄層を形成し、その粉末材料の薄層を選択的に加熱し、焼結して焼結薄層を形成し、焼結薄層を積層して3次元造形物を作製するため、焼結薄層と焼結されないで残った焼結薄層周囲の粉末材料とが造形用容器内に収納されることとなる。そして、造形物の反りを防止するため、および、造形に必要なレーザ出力を小さくするために、造形時に造形用容器などに設置された加熱手段により焼結直前の樹脂粉末の表面温度をその造形材料の融点から5〜15℃程度低い温度に予備加熱し、広い造形領域全体の表面が均一な温度となるように加熱することは困難である。
【0005】
しかしながら、一般的に、造形領域の中央部よりも周辺部で粉末材料の温度が低くなる傾向にある。
【0006】
そのため、造形領域の上方であって、レーザ光の通過領域の境界全周囲を囲むように加熱手段を設置する場合がある(特許文献1、2を参照)。
【特許文献1】特表平9−507882号公報(特許2847579)
【特許文献2】特表平11−508322号公報(特許3630678)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このように改良された装置でも、中央部の温度が高くなる傾向があり、造形領域の粉末材料の温度を十分に均一にすることが難しい。
【0008】
本発明は、上記の従来例の問題点に鑑みて創作されたものであり、粉末材料の薄層の形成から焼結薄層の形成まで、全造形領域にわたって粉末材料の薄層の表面の温度を均一にすることができる粉末焼結積層造形装置及び粉末焼結積層造形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1の発明は、粉末焼結積層造形装置に係り、レーザ光を照射して粉末材料の薄層を焼結させ、複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する粉末焼結積層造形装置であって、前記粉末材料の薄層を形成し、該粉末材料の薄層を選択的に焼結させて前記焼結薄層を形成する平面形状を有する造形領域を囲む造形用容器と、前記造形領域の左右両側のうち少なくとも一方の側方に設置され、前記造形領域に供給する粉末材料を貯留する粉末材料容器と、前記造形領域の周辺部の上方の少なくとも1箇所であって、前記造形領域の周縁に到達し得る前記レーザ光の通過領域の外側に設置された、前記造形領域を加熱する熱源と、前記造形領域の周辺部のうち、上方に前記熱源が設置されていない造形領域の周辺部への加熱を補助する熱線の反射板とを備えたことを特徴とし、
第2の発明は、第1の発明の粉末焼結積層造形装置に係り、前記造形領域は線対称の平面形状を有することを特徴とし、
第3の発明は、第2の発明の何れか一の粉末焼結積層造形装置に係り、前記熱源は細長い形状を有し、前記線対称の平面形状を有する造形領域の対称軸に関して対称な位置に複数設置され、前記反射板は前記熱源の長手方向の両側方に設置されていることを特徴とし、
第4の発明は、粉末焼結積層造形方法に係り、第3の発明の何れか一の粉末焼結積層造形装置を用い、前記造形領域において前記レーザ光を照射して粉末材料の薄層を焼結させ、複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する粉末焼結積層造形方法において、前記複数設置された熱源の発熱量とを独立に調整して前記造形領域内の粉末材料及び焼結薄層の温度を調整することを特徴とし、
第5の発明は、粉末焼結積層造形方法に係り、第3の発明の粉末焼結積層造形装置を用い、前記造形領域において前記レーザ光を照射して粉末材料の薄層を焼結させ、複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する粉末焼結積層造形方法において、前記粉末材料の薄層の形成から前記焼結薄層の形成まで、前記各設置箇所において高さ方向に複数設置された熱源の発熱量を独立に調整して前記造形領域内の粉末材料及び焼結薄層の温度を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、造形領域の周辺部の上方の少なくとも1箇所に設置された、造形領域を加熱する熱源と、造形領域の周辺部のうち上方に熱源が設置されていない周辺部への加熱を補助する熱線の反射板とを備えている。
【0011】
したがって、熱源の近くの造形領域の周辺部、及び、上方に熱源が設置されていない造形領域の周辺部の温度低下を抑制することができる。
【0012】
また、造形領域の周辺部の上方に熱源が設置されていない領域を有するので、過剰な加熱による中央部の温度上昇を抑制することができる。
【0013】
以上のように、本発明によれば、造形領域の中央部での温度上昇を抑制しつつ、全周辺部の造形領域での温度低下を抑制することができる。
【0014】
また、本願発明では、熱源の各設置箇所において高さ方向に複数の熱源が設置され、それらの複数の熱源の発熱量を独立に調整しているので、造形領域の中央部と周辺部とで温度がより一層均一化するように温度調整をより精密に行うことができる。
【0015】
また、本願発明では、熱源が線対称の平面形状を有する造形領域の対称軸に関して略対称な位置に複数設置されている。
【0016】
ところで、機械的構造の非対称性から、造形領域の前後で温度が不均一になり易い場合がある。
【0017】
このような場合、粉末材料容器が隣接していない造形領域の周辺部、例えば装置の造形領域の前側周辺部及び後側周辺部の上方にそれぞれ熱源が設置された装置を用いて、各設置箇所における熱源について独立に発熱量を調整する。これにより、造形領域の前側周辺部及び後側周辺部における温度の不均一を抑制することができる。結果として、未露光樹脂の温度を融点に近づけることができるようになる。
【0018】
なお、機械的構造が左右方向に非対称となっている場合に、造形領域の左側周辺部及び右側周辺部の上方に熱源を設置し、造形領域の前側周辺部及び後側周辺部の上方には熱源を設けないようにした粉末焼結積層造形装置を粉末焼結積層造形方法に適用してもよい。この場合も赤外線の反射板は、熱源の長手方向の側方に設置する。
【0019】
以上のように、本発明によれば、造形領域を予備加熱し、かつ造形領域全体において更なる温度の均一化を図ることができるので、より一層小さなレーザ出力で造形を可能にしつつ、より一層反りを抑制した3次元造形物を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
(粉末焼結積層造形装置の説明)
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る粉末焼結積層造形装置の構成を示す上面図であり、同図(b)は正面図である。この装置では、造形領域の前側周辺部及び後側周辺部の上方にそれぞれ熱源を設置し、熱源の長手方向の両側方にそれぞれ、熱源が設置されていない造形領域の周辺部への加熱を補助するミラー(赤外線の反射板)を設置している。
【0022】
図2は、図1の造形領域を前後に横切るI−I線に沿う断面図である。
【0023】
図3は、熱源の長手方向の両側方に設置したミラーの作用を説明する正面図である。
【0024】
この粉末焼結造形装置111は、図1(a)、(b)に示すように、レーザ光出射部111Aと、造形部111Bと、制御装置111Cとから構成されている。造形部101Bの粉末材料が飛び散って行かないように、造形部111Bの周囲は図示しない仕切り壁で囲まれている。そして、造形部111Bの前側には、作製された3次元造形物を取り出すための図示しない開閉扉などが設けられている。レーザ光出射部111Aもこの仕切り壁内に収納されている。
【0025】
レーザ光出射部111Aにおいては、レーザ光の光源とレーザ光の照射方向を制御するミラーとが設けられている。光源から出射したレーザ光はコンピュータによるミラー制御により、造形部111Bのパートシリンダ15上の粉末材料の薄層に選択的に照射されるようになっている。例えば、作製すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき、コンピュータによるミラー制御が行われる。レーザ光の光源とミラーとが加熱焼結手段を構成する。
【0026】
造形部111Bにおいては、図1(a)、(b)に示すように、レーザ光の照射により造形が行われて3次元造形物が作製される線対称の、例えば四角い平面形状を有する筒状の造形用容器13と、その左右両側に設置されて粉末材料を貯めておく線対称の、例えば四角い筒状の粉末材料容器14a、14bとを備えている。造形用容器13の内壁に囲まれた領域が造形領域13aであり、粉末材料容器14a、14bの内壁に囲まれた領域が粉末材料の収納領域14c、14dである。
【0027】
造形用容器13内には、3次元造形物となる積層された焼結薄層を載せて、内壁に沿って昇降可能なパートシリンダ15が設置され、パートシリンダ15のテーブル上で、順次粉末材料の薄層が形成され、粉末材料の薄層ごとに加熱され、焼結される。また、粉末材料容器14a、14b内には、粉末材料を載せて容器内壁に沿って昇降し、粉末材料を供給するテーブルを備えたフィードシリンダ16a、16bがそれぞれ設置されている。
【0028】
シリンダ15、16a、16bを容器13、14a、14b内にセットしたときに、シリンダ15、16a、16bと容器13、14a、14b内壁との間で隙間が生じて粉末材料が漏れることがないように、シリンダ15、16a、16bと容器13、14a、14b内壁との間の密着性を保つためテーブルの側面全体にわたってパッキング用のゴムなどが取り付けられている。
【0029】
更に、造形領域13a及び粉末材料の収納領域14c、14dの全領域に渡って回転しつつ移動するリコータ17が設けられている。リコータ17は、回転しつつ移動することにより、フィードシリンダ16b上に貯められた粉末材料をパートシリンダ15上に供給し、かつ粉末材料の表面を均してパートシリンダ15上に粉末材料の薄層を形成する機能を有する。従って、粉末材料の供給量はフィードシリンダ16bの上昇量で決まり、粉末材料の薄層の厚さはパートシリンダ15の降下量で決まる。粉末材料として、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマ(ABS)、エチレン・酢酸ビニルコポリマー(EVA)、スチレン・アクリロニトリルコポリマー(SAN)、及びポリカプロラクトンよりなる群から選ばれた少なくとも1種、または、金属粉末などを用いることができる。
【0030】
更に、この粉末焼結積層造形装置においては、造形用容器13の周囲に胴巻き状に設けられたヒータのほかに、造形用容器13上面の造形領域13a上であって、線対称を有する造形領域13aの対称軸に関して略対称な位置に、及び粉末材料容器14a、14bの粉末材料の収納領域14c、14d上であって、線対称を有する粉末材料の収納領域14c、14dの対称軸に関して略対称な位置に熱源としての細長い形状を有する赤外線ヒータ18a乃至18hが設置され、赤外線ヒータ18a乃至18hの長手方向の側方両側に赤外線を反射させるミラー(反射板)19a乃至19lが設置されている。
【0031】
赤外線ヒータ18a乃至18h及びミラー19a乃至19lの詳細な配置について図1(a)、(b)、図2を参照し、温度の均一化の効果について図3、図4(a)を参照して、以下に説明する。図4(a)は、ミラーの効果を説明する、造形領域の左右方向の温度分布を示すグラフである。
【0032】
造形領域13a上において、細長い形状の赤外線ヒータ18c乃至18fは、その長手方向が粉末材料容器14a、14bの方を向くように(造形領域の前後の縁にほぼ平行となるように)設置されている。また、細長い形状の赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)は、図2に示すように、造形領域13aの周縁に到達し得るレーザ光の通過領域の境界よりも外側の領域であって、対向する2箇所(前側及び後側)にそれぞれ、レーザ光の通過領域の境界に沿って高さ方向に2つずつ設置されている。さらに、図1(a)に示すように、粉末材料容器14a、14bに隣接する造形領域13a近傍の上方であって、赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の側方に、ミラー面を造形領域13a側に向けてミラー(19e、19f)、(19g、19h)が設置されている。ミラー面の角度は自在に調整可能なようになっている。
【0033】
このような赤外線ヒータ及びミラー配置により、ミラーに関して対称の位置にヒータの虚像を生じ、図3に示すように、赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の更に両側に赤外線ヒータが延在することと等価な加熱がなされるようになる。しかも、ミラー面の角度を自在に変えられるため、赤外線の反射方向を適切に調整することで、図4(a)に示すように、特に、赤外線ヒータが設置されていない、左右の造形領域13aでの温度低下を抑制することができる。また、造形領域13aの左側周辺部及び右側周辺部の上方には赤外線ヒータを設けていないので、これの影響による中央部の造形領域13aでの温度上昇を抑制することができる。
【0034】
また、粉末材料容器14a、14bの周囲に胴巻き状に設けられたヒータのほかに、粉末材料容器14a、14b上に熱源としての細長い形状を有する赤外線ヒータ(18a、18b)、(18g、18h)が設置されている。その長手方向は、造形領域13aの上方の赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の長手方向に交差する方向を向くように設置されている。さらに、赤外線ヒータ(18a、18b)、(18g、18h)の側方に、即ち粉末材料容器14a、14bの前側周辺部及び後側周辺部の上方にミラー面を粉末材料の収納領域14c、14d側に向けてミラー(19a、19c)、(19b、19d)、(19i、19k)、(19j、19l)が設置されている。
【0035】
このような赤外線ヒータ及びミラー配置により、造形領域13aの場合と同様に、粉末材料の収納領域14c、14d表面において中央部の温度上昇を抑制しつつ、周辺部での温度低下を抑制することができる。
【0036】
本実施形態では、上記のようなヒータ及びミラーの配置のみならず、複数の赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量の調整によっても造形領域13aでの温度の均一化を図ることができる。その方法及び効果について以下に説明する。図4(b)は、赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量の調整の効果を説明する造形領域の前後方向の温度分布を示すグラフである。
【0037】
赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量は印加する電力により調整可能である。そして、複数の赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量を、例えば、以下のように調整する。
【0038】
一つは、赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の各設置箇所において、高さ方向に設置された赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量を独立に調整する。例えば、高さ方向に設置された2つの赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)に、大きさの異なる電力を印加する。具体的には、上側の赤外線ヒータ18c、18eへの印加電力を大きく、下側の赤外線ヒータ18d、18fへの印加電力を小さくすることで、中央部と周辺部での温度分布を均一化することができる。
【0039】
他の一つは、造形領域13aの前側周辺部及び後側周辺部の上方にそれぞれ設置された赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)に対して独立に発熱量を調整する。例えば、対向する2つずつの赤外線ヒータ(18c、18e)、(18d、18f)のうち、対向する上側の赤外線ヒータ18c、18eにはともに同じ電力を印加し、対向する下側の赤外線ヒータ18d、18fには、大きさの異なる電力を印加する。具体的には、前側の赤外線ヒータ18dへの印加電力を大きく、後ろ側の赤外線ヒータ18fへの印加電力を小さくする。
【0040】
以上のように、複数の赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量を調整することで、図4(b)に示すように、周辺部と中央部の造形領域13aでの温度分布を均一化しつつ、造形領域13aの前後での温度分布を均一化することができる。
【0041】
なお、粉末材料の収納領域14c、14dにおいても、造形領域13aにおける調整と同様にして、赤外線ヒータ(18a、18b)、(18g、18h)の発熱量を調整し、粉末材料21の温度分布を均一化することができる。これにより、粉末材料の収納領域14c、14dから造形領域13aに粉末材料21を供給後、造形領域13aでの粉末材料21の薄層などの温度を迅速に上昇させて、温度の均一化を迅速に行うことができる。
【0042】
以上のような粉末焼結積層造形装置は、制御装置111Cによって、パートシリンダ15を薄層一層分降下させて、リコータ17によって粉末材料容器14a、14bからパートシリンダ15上に粉末材料を供給させ、かつパートシリンダ15上で粉末材料の薄層を形成させ、次いで、レーザ光及び制御ミラー(加熱焼結手段)によって作製すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき粉末材料の薄層を選択的に加熱して焼結させ、これらの動作を繰り返して、複数の焼結薄層を積層させ、3次元造形物を作製させる。なお、図1(b)において、制御装置111Cから装置の各構成要素に繋がる線はその構成要素が制御装置111Cにより制御されることを示している。
【0043】
本発明の実施の形態の粉末焼結積層造形装置によれば、造形領域を予備加熱し、かつ造形領域の中央部と全周辺部で更なる温度の均一化を図ることができるので、より一層小さなレーザ出力で造形を可能にしつつ、より一層反りを抑制した3次元造形物を作製することができる。
【0044】
(粉末焼結積層造形方法の説明)
次に、図5(a)、(b)乃至図6(a)、(b)を参照しながら上記造形装置を用いて造形を行う方法について説明する。
【0045】
図5(a)、(b)乃至図6(a)、(b)は装置正面図である。図5(a)、(b)乃至図6(a)、(b)においては、図を見やすくするため図1(b)と異なり、各容器の前壁は省略してある。
【0046】
まず、図5(a)に示すように、造形用容器13の内壁に沿って上下移動可能なように造形用容器13にパートシリンダ15を取り付け、造形用容器13の左右の粉末材料容器14a、14bの内壁に沿って上下移動可能なように、粉末材料容器14a、14bにフィードシリンダ16a、16bを取り付ける。
【0047】
次いで、造形部111Bにおいて、左右のフィードシリンダ16a、16bを降下させ、フィードシリンダ16a、16b上に粉末材料21を供給し、十分な量の粉末材料21を貯めておく。このとき、粉末材料容器14a、14bの周囲に胴巻き状に設けられたヒータで粉末材料21を加熱するほか、粉末材料の収納領域14c、14dの上方に設置された赤外線ヒータ18a乃至18b、18g乃至18h,及びミラー19a乃至19d、19i乃至19lにより、粉末材料21の表面を、粉末材料の融点よりも5〜15℃程度低い温度に予備加熱する。この場合、粉末材料の収納領域14c、14d上の赤外線ヒータ18a乃至18b、18g乃至18hの各設置箇所において独立に発熱量の調整を行い、粉末材料の収納領域14c、14dにおける粉末材料21の温度を均一化させる。
【0048】
次いで、パートシリンダ15を薄層一層分に相当する量だけ降下させる。次いで、右側のフィードシリンダ16bを上昇させて粉末材料21が平坦面から上に出てくるようにする。
【0049】
次いで、リコータ17を回転移動させて右側のフィードシリンダ16b上、平坦面から上に出ている粉末材料21を均しつつ造形用容器13内のパートシリンダ15上に移動させる。これにより、図5(b)に示すように、パートシリンダ15上に一層分の粉末材料の薄層21aが形成される。
【0050】
このとき、造形領域13aの周囲に胴巻き状に設けられたヒータで粉末材料21を加熱するほか、造形領域13aの上方に設置された赤外線ヒータ18c乃至18f、及びミラー19e乃至19hにより、粉末材料の薄層21aの表面を粉末材料の融点よりも5〜15℃程度低い温度に予備加熱する。
【0051】
この場合、造形領域13a上の赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の各設置箇所において高さ方向に設置された複数の赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量を独立に調整することにより、造形領域13aの中央部と周辺部とで温度がより一層均一化するように温度調整をより一層精密に行う。また、造形領域13aの前側周辺部及び後側周辺部にそれぞれ設置された赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量をそれぞれ独立に調整することにより、造形領域13aの前後における温度の不均一が抑制されるように温度調整をより一層精密に行う。この場合、粉末材料の収納領域14c、14dにおいて粉末材料21が既に予備加熱されているので、造形領域13a内の粉末材料21及び粉末材料の薄層21aの温度を均一に維持したまま、迅速に昇温することができる。
【0052】
次に、レーザ光出射部111Aの光源からレーザ光を出射させるとともに、作製すべき3次元造形物のスライスデータに基づき、コンピュータによりミラーを制御して、粉末材料の薄層21aに選択的にレーザ光を照射する。これにより、図6(a)に示すように、粉末材料の薄層21bが加熱されて焼結する。
【0053】
次に、図6(b)に示すように、パートシリンダ15を薄層一層分降下させるとともに、フィードシリンダ16bを上昇させる。以下、上記説明した方法と同様にして、新たな粉末材料21をパートシリンダ15上に供給し、焼結した薄層21b上に新たな粉末材料の薄層を形成する。次いで、加熱焼結→粉末材料の薄層の形成→加熱焼結→・・を繰り返す。この間、赤外線ヒータ18a乃至18h、及びミラー19a乃至19lにより、造形領域13a及び粉末材料の収納領域14c、14dを加熱する。
【0054】
このようにして、3次元造形物が完成する。そして、最後に予備加熱を止めて自然冷却を行い、常温付近になったら、造形用容器13から粉末材料21に埋もれた3次元造形物を取り出す。
【0055】
以上のように、本発明の実施の形態の粉末焼結積層造形方法によれば、赤外線ヒータ18c乃至18fの配置及びミラー19e乃至19hの設置により、図4(a)に示すように、造形領域13aの中央部での温度上昇を抑制しつつ、造形領域13aの全周辺部での温度低下を抑制することができる。
【0056】
さらに、赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の各設置箇所において、高さ方向に設置された赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)の発熱量を独立に調整しているので、造形領域13aの中央部と周辺部での温度の不均一を抑制することができる。また、造形領域13aの前側周辺部及び後側周辺部の上方にそれぞれ設置された赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)に対して独立に発熱量を調整しているので、装置の構造上、造形領域13aの前側及び後側において温度の不均一が生じ易い場合でも、造形領域13aの前側及び後側における温度の不均一を抑制することができる。これにより、図4(b)に示すように、造形領域13aの中央部と周辺部での温度分布を均一化しつつ、造形領域13aの前後での温度分布を均一化することができる。
【0057】
以上のように、本発明の実施の形態の粉末焼結積層造形方法によれば、赤外線ヒータ18c乃至18f及びミラー19e乃至19hにより、造形領域13aの粉末材料の薄層21aの表面、及び粉末材料21の表面を、粉末材料の融点よりも5〜15℃程度低い温度に予備加熱し、かつ造形領域13a全体に温度をより一層均一化させることができるので、より一層小さなレーザ出力での造形を可能にしつつ、より一層反りを抑制した3次元造形物を作製することができる。
【0058】
以上、実施の形態によりこの発明を詳細に説明したが、この発明の範囲は上記実施の形態に具体的に示した例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の上記実施の形態の変更はこの発明の範囲に含まれる。
【0059】
例えば、この実施の形態の粉末焼結造形装置においては、図1に示すように、赤外線ヒータ(18c、18d)、(18e、18f)が造形領域13aの前側周辺部及び後側周辺部の上方に設置されているが、場合により造形領域13aの前側周辺部及び後側周辺部の何れか一の上方に、或いは粉末材料容器14a、14bに隣接する造形領域13aの左側周辺部及び右側周辺部の少なくとも何れか一の上方に(造形領域の左右の縁にほぼ平行となるように)設置されてもよい。
【0060】
また、造形用容器13、粉末材料容器14a、14bの平面形状は、四角であるが、これに限られない。線対称であれば、円形や楕円、その他の曲線で囲まれた平面形状でもよく、また、四角以外の多角形でもよい。
【0061】
また、熱源として、赤外線ヒータ18a乃至18hを用いているが、赤外線を発する他のヒータその他を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態である粉末焼結積層造形装置の構成を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図である。
【図2】図1のI−I線に沿う断面図である。
【図3】本発明の実施の形態である粉末焼結積層造形装置における加熱手段の側方両側に設置したミラーの作用を説明する正面図である。
【図4】(a)は、加熱手段の側方両側に設置したミラーの効果を説明する、造形領域の左右方向の温度分布を示すグラフであり、(b)は加熱手段の発熱量の調整の効果を説明する造形領域の前後方向の温度分布を示すグラフである。
【図5】(a)、(b)は、本発明の実施の形態である粉末焼結積層造形装置を用いて3次元造形物を造形する方法について示す正面図(その1)である。
【図6】(a)、(b)は、本発明の実施の形態である粉末焼結積層造形装置を用いて3次元造形物を造形する方法について示す正面図(その2)である。
【符号の説明】
【0063】
13 造形用容器
13a 造形領域
14a、14b 粉末材料容器
14c、14d 粉末材料の収納領域
15 パートシリンダ
16a、16b フィードシリンダ
17 リコータ
18c乃至18f 赤外線ヒータ(熱源)
18a乃至18b、18g乃至18h 赤外線ヒータ
19a乃至19l ミラー(赤外線の反射板)
21 粉末材料
21a 粉末材料の薄層
21b 焼結した薄層
111A レーザ光出射部
111B 造形部
111C 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射して粉末材料の薄層を焼結させ、複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する粉末焼結積層造形装置であって、
前記粉末材料の薄層を形成し、該粉末材料の薄層を選択的に焼結させて前記焼結薄層を形成する平面形状を有する造形領域を囲む造形用容器と、
前記造形領域の左右両側のうち少なくとも一方の側方に設置され、前記造形領域に供給する粉末材料を貯留する粉末材料容器と、
前記造形領域の周辺部の上方の少なくとも1箇所であって、前記造形領域の周縁に到達し得る前記レーザ光の通過領域よりも外側に設置された、前記造形領域を加熱する熱源と、
前記造形領域の周辺部のうち、上方に前記熱源が設置されていない造形領域の周辺部への加熱を補助する熱線の反射板と
を備えたことを特徴とする粉末焼結積層造形装置。
【請求項2】
前記造形領域は線対称の平面形状を有することを特徴とする請求項1記載の粉末焼結積層造形装置。
【請求項3】
前記熱源は細長い形状を有し、前記線対称の平面形状を有する造形領域の対称軸に関して略対称な位置に複数設置され、前記反射板は前記熱源の長手方向の両側方に設置されていることを特徴とする請求項2記載の粉末焼結積層造形装置。
【請求項4】
請求項3記載の粉末焼結積層造形装置を用い、前記造形領域において前記レーザ光を照射して粉末材料の薄層を焼結させ、複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する粉末焼結積層造形方法において、
前記複数設置された熱源の発熱量を独立に調整して前記造形領域内の粉末材料及び焼結薄層の温度を調整することを特徴とする粉末焼結積層造形方法。
【請求項5】
請求項3記載の粉末焼結積層造形装置を用い、前記造形領域において前記レーザ光を照射して粉末材料の薄層を焼結させ、複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する粉末焼結積層造形方法において、
前記粉末材料の薄層の形成から前記焼結薄層の形成まで、前記各設置箇所において高さ方向に複数設置された熱源の発熱量を独立に調整して前記造形領域内の粉末材料及び焼結薄層の温度を調整することを特徴とする粉末焼結積層造形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−223192(P2007−223192A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47971(P2006−47971)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(398018962)株式会社アスペクト (12)
【出願人】(504061721)
【Fターム(参考)】