説明

粉末状化合物、その製造方法並びにリチウム二次電池におけるその使用

本発明は、式NiaM1bM2c(O)x(OH)yの粉末状化合物、その製造方法並びにリチウム二次電池における使用のためのリチウム化合物を製造するための前駆物質としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式NiaM1bM2cx(OH)yの粉末状化合物、その製造方法並びにリチウム二次電池における使用のためのリチウム化合物の製造のための前駆物質としてのその使用に関する。
【0002】
JP10027611Aは、少なくとも2つの金属ニッケル及びコバルトを含み、しかし、これらには限定されていない共沈混合水酸化物の合成を開示する。該共沈混合水酸化物は、リチウム二次電池のための活性材料としてリチウム混合金属酸化物に更に処理される。前駆物質の段階での元素の共沈によって、リチウム混合金属酸化物が作製され得、それはリチウム二次電池における使用に際して電気化学サイクル挙動の改善をもたらす。リチウムを除いた金属元素に対する、リチウム混合金属酸化物中のニッケルのモル割合は、その際、少なくとも70%に達する。
【0003】
JP11−317224Aは、マンガンドープ及びコバルトドープされたニッケル水酸化物の共沈による合成を記載する。該合成は、二価金属の酸化を防止するために、還元もしくは不活性条件下で行われる。材料は、高いタップ密度(>1.7g/cm3)によって特徴付けられ、且つアルカリ二次電池のための活性材料として使用される。
【0004】
US2002/0053663A1には、少なくとも1.5g/cm3のタップ密度を有する、共沈ニッケル−コバルト−マンガン−水酸化物が特許保護を請求される。該共沈混合水酸化物は、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン−酸化物(LNCMO)の合成のための前駆物質として用いられる。該特許において"慣例のもの"として記載される処理により、高いタップ密度の混合水酸化物は製造され得ない。該混合水酸化物の高いタップ密度は非常に重要である。何故なら、それは最終生成物のタップ密度に良い効果を及ぼし、該最終生成物のタップ密度は、他方でリチウム二次電池における体積エネルギー密度に影響を及ぼすからである。実施例には、そのタップ密度が1.71〜1.91g/cm3の間の値を有する粉末が開示される。該粉末の平均粒度は、その際、5〜20μmである。
【0005】
高いタップ密度を有する混合水酸化物は、US2002/0053663A1において、該沈殿を不活性条件下又はそれどころか還元条件下のいずれかで実施することによって達成され得ていた。
【0006】
US2003/0054251A1は、リチウム二次電池における陰極活性材料のための前駆物質としてニッケル−及びマンガン含有の混合酸化物もしくは混合水酸化物の合成のための最適な方法行程を記載する。この発明の主たる思想は、既に該文献中に言及される共沈混合水酸化物(例えば金属Ni、Co、Mn)を、本来のオーブン処理前に300〜500℃にて熱的に前処理し、いわゆる"乾燥前駆体"を得ることである。この"乾燥前駆体"に、次いでリチウム成分が混ぜられ、且つ焼きなましによってLNCMOに反応される。(乾燥させてない)混合水酸化物の代わりに、記載される乾燥された前駆物質が使用される場合、この文献によれば、乾燥させてない混合水酸化物を使用した材料より高い生成物安定性によって特徴付けられる最終生成物が得られる。材料の生成物安定性は、各材料を用いて、そのつど20個の電池を作製し、且つこれらの20個の電池に関して、3回〜3百回の電気化学サイクルの間の容量減少の変化値を求めることによって測定されていた。
【0007】
同様に、WO2004/092073A1は、LNCMO材料のための混合金属−前駆物質を扱う。US2003/0054251においてと同じように、この場合、LNCMO'sの合成のための理想的な前駆物質が探求される。US2003/0054251は、該文献中で、中でも先行技術として挙げられる。該前駆物質の熱処理は、US2003/0054251に記載されるように非常に煩雑であるので、代替的に、共沈Ni−Co−Mn−水酸化物を酸化させてNi/Co/Mn−オキシ水酸化物を得ることが提案される。
【0008】
WO2007/019986は、部分酸化されたニッケル−混合金属水酸化物(NCMO)、その製造方法、並びにリチウム二次電池における陰極材料の製造のための前駆物質としてのその使用に関する。
ニッケル混合金属水酸化物は、それが1.7g/cm3より大きい、有利には1.9g/cm3より大きいタップ密度及び2〜30μmの二次粒子の平均粒度を有する。該粒度分布の規格化された幅は1.8より小さい。
その際、該NCMOは、アルカリ液を用いた金属塩からの沈殿及び更なる反応器中での引き続く部分酸化によって製造される。これによって、部分酸化されたNCMOの高いタップ密度が達成されることになる。
【0009】
引用される先行技術に従って製造されたニッケル−混合金属水酸化物は、リチウム二次電池の製造のための出発材料として使用される。このような二次電池は、ハイブリッド−及び電気自動車における使用に限ってのみ適している。
【0010】
2つのタイプの自動車には、高い加速を達成できるようにするために、且つ自動車に制動をかける際に、この運動エネルギーを可能な限り小さい熱損失で電気エネルギーに変換し戻すために、電池の高速放電及び充電が必要とされる。一定の加速−又は制動プロセスにおける固定のエネルギーの場合、±Δ総容量/Δtで表される、必要な放電/充電比率は、電池の総容量が高ければ高いほど、それだけ一層小さくなる。スペース的及びコスト的な理由のみならず、電気的な理由からも、電池に可能な限り高い体積容量を持たせることに努められる。その上、純粋な電気自動車の場合、このことは、該容量が当然の事ながら作動範囲を決定し、且つこれが、そのような自動車の市場性に絶対的に重要なことだけで既に、必然的に不可欠である。
【0011】
従って、本発明の課題は、ずっと高い体積容量及び高い電力を有する、リチウム二次電池における使用のためのリチウム混合メタレート(Lithiummischmetallaten)の製造のための出発材料を提供することである。更なる課題は、非常に強く重要性を増すハイブリッド自動車及び電気自動車(Electric Vehicles、EVs、ハイブリッド乗用車、ハイブリッドトラック、ハイブリッド機関車、ハイブリッド自転車)の分野において、高い加速値にも関わらず大きな走行距離をこれらの自動車に可能にする電池を構築することができる材料を提供するということであった。本発明の課題はまた、リチウム混合メタレートの製造のための出発材料の製造方法を供給することである。
【0012】
該課題は、ASTM B 527に従って測定されたタップ密度対ASTM B 822に従って測定された粒度分布のD50値の比率が少なくとも0.2g/cm3・μmであることを特徴とする、式NiaM1bM2cx(OH)y(後で、NM1M2OOH、ニッケル混合金属水酸化物又はニッケル混合金属オキシ水酸化物とも称される)、その際、M1は、Fe、Co、Zn、Cuから成る群から選択された少なくとも1つの元素及び/又はそれらの混合物、M2は、Mn、Al、Cr、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Siの群から選択された少なくとも1つの元素及び/又はそれらの混合物を意味し、0.3≦a≦0.83、0.1≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0.01≦x≦0.99及び1.01≦y≦1.99である、の粉末状化合物によって解決される。
【0013】
好ましい粉末状化合物は、0.1≦x≦0.8、特に有利には0.2≦x≦0.7である、ニッケル混合金属水酸化物である。
【0014】
本発明の一部である粉末状化合物は、以下の表1に挙げられる。
【0015】
【表1】

【0016】
本発明による粉末状化合物は、有利には、少なくとも0.25g/cm3・μm、有利には少なくとも0.3g/cm3・μm、特に有利には少なくとも0.4g/cm3・μm及び殊に有利には少なくとも0.5g/cm3・μmのタップ密度対粒度分布のD50値の比率を有する。
【0017】
本発明による粉末状ニッケル混合金属水酸化物は、10μmより小さい、有利には9μmより小さいその低いD50値によって特徴付けられる。
【0018】
意想外にも、且つ先行技術に比べて、本発明による粉末状化合物のタップ密度は、低いD50値にも関わらず非常に高い値に達することが見出された(図2)。当然の事ながら、該タップ密度は、該粉末のD50値が下がるにつれて単調に減少する。
【0019】
ASTM B 527に従って測定された、本発明による粉末状化合物のタップ密度は、≧2.0g/cm3、有利には≧2.1g/cm3、特に有利には≧2.2g/cm3及び殊に有利には≧2.3g/cm3である。特に有利な粉末状化合物は、≧2.4g/cm3の更に高いタップ密度によって特徴付けられる。
【0020】
この場合、特に重要であるのは、マンガン含有のニッケル混合金属水酸化物である。≧2.0g/cm3のタップ密度を有するマンガン含有のニッケル混合水酸化物は、完全に新規な物質カテゴリーである。ずっと高いD50値を有するマンガン含有の粉末の場合ですら、先行技術及び表1における比較例から見て取ることができるような、より小さいタップ密度が得られる。
【0021】
本発明による有利な粉末状化合物は、特に、そのBET表面積によって特徴付けられる。好ましくは、本発明による混合金属水酸化物は、ASTM D 3663に従って測定された、9m2/gより小さい、有利には8m2/gより小さい、特に有利には7m2/gより小さいBET表面積を有する。
【0022】
本発明による混合金属水酸化物は、特に、式
【数1】

[式中、Dは、≦1.3、有利には≦1.2、特に有利には≦1.0の粉末粒子の直径を意味する]に従って定義される、粒度分布の規格化された幅によって特徴付けられる。
【0023】
本発明による有利な粉末状化合物は、その形状係数が、≧0.8、有利には≧0.9、特に有利には≧0.95の値を有する粒子の球状形によって特徴付けられる。粒子の形状係数は、US5476530、第7欄及び第8欄及び図5に挙げられた方法に従って測定され得る。この方法は、粒子の球形度の基準である粒子の形状係数を突きとめる。粒子の形状係数は、材料の走査電子顕微鏡写真からも測定され得る。形状係数は、粒子周囲長並びに粒子面積を求め、且つそれぞれの数値から導き出される直径を測定することによって測定される。上述の直径は、
【数2】

から出される。
【0024】
粒子の形状係数fは、下記式:
【数3】

により、粒子周囲長U及び粒子表面積Aから導き出される。
【0025】
理想的な球状粒子の場合、dAおよびduは同じ大きさであり、且つ正確に1の形状係数が出される。
【0026】
図5及び6は、例示的に、実施例1及び2により製造されたニッケル混合金属水酸化物の走査電子顕微鏡(REM)を用いて撮影された写真を示す。
【0027】
本発明による粉末状化合物の形状係数は≧0.8の値を有し、材料は<10μmのD50値を有する粒度分布を有するとの事実に鑑みて、著しく高い。
【0028】
表1及び図5及び6から、本発明によるニッケル混合金属水酸化物の比較的狭い粒度分布を読み取ることができ、該粒度分布は、<1.2の値を有し、次式
【数4】

によって定義され規格化された粒度分布に関して、これまで公知のものより明らかに小さい。ニッケル水素電池における使用のための又はリチウムイオン電池の陰極活性材料のための前駆物質としての使用のための球状のニッケル水酸化物又はニッケルオキシ水酸化物の製造に際して、装置パラメータ及び通常の範囲内でのその変化値とは実際に無関係に、粒度分布の規格化された幅が1.4〜最大1.6の間の値をとることは久しく公知である。達成されるタップ密度は、材料の物理的密度の最大60%である。この値は、一様な大きさの球における74%の理論充填密度を明らかに下回る。その値が顕著に、すなわち少なくとも20%が1.5から逸脱する、規格化された粒度分布により、場合によっては、より高い充填密度、ひいては物理的密度の60%より大きいタップ密度も達成され得ることが予測できる。
【0029】
更に本発明は、以下の工程から成る粉末状化合物の新規の製造方法に関する:
a)少なくとも第一の及び第二の出発溶液を準備する工程、
b)少なくとも第一の及び第二の出発溶液を反応器中で合一し、且つ少なくとも2ワット/リットルの機械的な入力電力密度(spezifischen mechanischen Leistungseintrag)により均一に混合される反応帯域を生成し、且つ不溶性生成物及びアルカリ液過剰量の調整によって過飽和された10〜12のpH値を有する母液とから成る生成物懸濁液を生成する工程、
c)懸濁液中で少なくとも150g/リットルの固体含有量を調整するために、清浄エレメント(Klaerelemente)及び/又はフィルターエレメントによって、沈殿した生成物から母液を部分的に分離する工程、
d)反応器から生成物懸濁液を取り出す工程。
【0030】
有利には、本発明による方法は、少なくとも3W/l、特に有利には少なくとも4W/lの入力電力密度(spezifischen Leistungseintrag)にて実施される。本発明による方法に従って、金属、例えばFe、Co、Zn、Cu、Mn、Al、Cr、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Siの群からのニッケル混合金属水酸化物が製造され得る。その際、前述の金属及び/又はそれらの混合物の、鉱酸、例えば硫酸、塩酸又は硝酸の水溶性塩からの出発溶液から出発される。
【0031】
該出発溶液は、適切な金属塩化物、金属硫酸塩又は金属硝酸塩を水に溶解し、又は該金属を相応する鉱酸に溶解することによって製造され得る。アルカリ液は、所望の濃度において水溶液として提供される。
【0032】
本方法は、有利には、本発明によるニッケル混合金属水酸化物の製造に適している。前駆物質として、水溶性金属塩、例えばニッケル硫酸塩、ニッケル硝酸塩、ニッケルハロゲン化物、例えば塩化物及び/又はそれらの混合物が使用され得る。
【0033】
該ニッケル混合金属水酸化物は、球状のみならず、非球状の粒子形においても製造され得、その際、該球状粒子の製造は、アンモニア及びアンモニウム塩の存在下で実施される。本発明によるニッケル水酸化物の製造は、有利には、図1で表示される反応器(1)中で、10〜12、有利には11〜12のpH値にて、ニッケル塩水溶液からの沈殿結晶化によって、アルカリ金属水酸化物溶液及び場合によってはアンモニアの供給によって、ガス状で又は水溶液として実施される。アルカリ金属水酸化物溶液として、有利には水酸化ナトリウム、並びに水酸化カリウムが使用される。該沈殿結晶化は、バッチ式又は半連続式に行われ得るにも関わらず、これは、好ましくは連続式に実施される。連続法の場合、金属塩溶液、アルカリ金属水酸化物溶液及びアンモニア溶液が反応器に同時に供給され、且つ生成物懸濁液が自由越流又はポンプにより連続的に取り出される。
【0034】
非常に微細であり、且つ特に高いタップ密度を有する有利な粉末状化合物は、懸濁液中の固体濃度が、有利には少なくとも200g/l、特に有利には少なくとも300g/l及び殊に有利には少なくとも400g/lである場合に得られる。極めて高いタップ密度は、懸濁液中の固体濃度が少なくとも500g/lである場合に達成される。
【0035】
球状材料にて高いタップ密度を得るために、特定の生成物特性が最適化されなければならない。まず第一に、個々の粒子は緻密に構築されていなくてはならず、すなわち、それらは高すぎる多孔度を有してはならない。しかしながら、これだけでは高いタップ密度のためになお十分ではない。それと言うのも、これはそれ以外に、達成し得る充填密度に依存するからである。最終的に、タッピングによって達成され得る充填密度は、粒度分布の表面粗さ及び粒子の球形度にもなお依存する。
【0036】
有利な粉末状化合物は、高いタップ密度にて、粒度分布の小さいD50値によって特徴付けられる。
【0037】
そのため、平均粒度を調整することができる多数の方法パラメータが存在する。非常に重要なことは、例えば、相応する金属イオンによる母液の過飽和である。本発明によるニッケル混合金属水酸化物の場合、これは母液中の水酸化物イオン濃度及び錯化剤アンモニアの濃度に依存する。母液中のアルカリ金属濃度が高く、且つアンモニア濃度が低い場合、当該金属の溶解度は非常に低く、過飽和度は相応して非常に高く、且つ主要な均一核生成は非常に顕著である。この場合、つまり非常に多くの粒子が成長し、且つ達成し得る平均粒度は比較的小さくあり続ける。生成物の組成に応じて、温度、水酸化物イオン濃度及び錯化剤濃度の複雑な依存性が生じる。
【0038】
更に本発明によるニッケル混合金属水酸化物の沈殿において重要な役割を担うのは攪拌回転数であり、それは十分な混合の要因であることが明らかとなる。
【0039】
上記の高い過飽和度で処理される場合、典型的に100g/lの固体濃度を有する先行技術による方法において、攪拌回転数の強く顕著な影響は見られない。非常に小さい過飽和度(その時、これは可能である。なぜなら、微結晶構造に関する副次的条件、例えば小さいクリスタリットサイズへの要求条件がこれを妨げないからである)で進められる場合、主要な均一核生成はずっと小さくなるので、平均粒径は強く増加する。次いで、これらの条件下で、攪拌回転数の影響が強いことが明らかとなる。
【0040】
本発明による有利なマンガン含有の粉末状化合物の製造に際して、水酸化物イオンの最適な濃度が1g/lより小さいことが見出された。これはマンガン(II)イオンの高い過飽和に拠る。なぜなら、それらの溶解度は、アンモニアを有する比較的少ない錯化剤に基づき、ニッケル及びコバルトに対して明らかに低いからである。本発明によるマンガン含有の混合金属水酸化物の合成が、NaOH 0.1〜0.2g/l;NH3 6〜12g/lの濃度にて、40〜60℃の温度にて、良好な均一化に十分な平均攪拌速度及び先行技術による80〜120g/lの通常の固体濃度にて実施される場合、確かに、高い形状係数を有する球状粒子(図7、比較例1)が得られる。しかしながら、表2から読み取ることができるような、必要な≧2g/cm3のタップ密度には達しない。
【0041】
本発明によるニッケル混合金属水酸化物は、有利には、図1で表示される装置中で製造され得る。以下で、本発明による方法は、図1を手がかりにして、いくらか詳細に説明される。
【0042】
攪拌機(2)、サーモスタット(3)及び循環式ポンプ(4)が備え付けられた反応器(1)に、先ず、既に後の定常状態の塩濃度、NaOH濃度及びNH3濃度を有する母液が充填される。攪拌機、トレース加熱及び循環式ポンプの運転開始後、定量ポンプ(5)、(6)、(7)及び(8)により、金属硫酸塩溶液、苛性ソーダ液、アンモニア及び水が供給される。生じる生成物懸濁液は、充填レベルに制御されて、(9)ポンプにより反応器から取り出される。更に該反応器には浸漬チューブ(Tauchrohr)(10)が備え付けられており、それは円錐形の受口の端部に濾板(11)を有する。ポンプ(12)により、このフィルターエレメントを介して母液が反応器から取り出され得る。これによって生成物懸濁液の固体含有量が、母液中の出発濃度及び塩濃度とは無関係に調整され得る。殊に、これによって化学量論濃度の数倍である非常に高い固体濃度を得ることができる。フィルターエレメントを有する浸漬チューブの代わりに、母液は、ハイドロサイクロン又はクロスフロー濾過により反応器から分離され得る。更にポンプ(8)を介する水添加のオプションによって、方法パラメータの固体濃度及び中性塩濃度の完全な分離も可能である。
【0043】
そのつど材料は、定常状態で、6〜7つの滞留時間後に24時間の継続期間にわたって収集され、ヌッチェ濾過器で濾過され、1kg当たり5リットルの水で洗浄される。引き続き、該材料は、乾燥炉内で90℃までの温度にて乾燥される。本発明によるニッケル混合金属水酸化物は、30〜95℃、好ましくは40〜60℃の温度にて製造される。反応器中で均一に混合される反応帯域を獲得するために、全ての慣例の攪拌機型を使用してよい。特に良好な結果は、プロペラ型攪拌機又はディスク型攪拌機を用いて達成され得る。比較例1(表2、図7)から、19Wh/l(作製される懸濁液1リットル当たりのワット時)の小さい入力エネルギー密度、並びに攪拌容器への0.94W/l(1リットル当たりのワット数)の入力電力及び88g/lの固体濃度の場合、確かに、16.1μmの粒度分布の高いD50値が達成されるが、しかしながら、1.6g/cm3のタップ密度は小さすぎる。
【0044】
反応器への入力電力密度は、攪拌機によって懸濁液に伝達される、時間及び単位体積当たりのエネルギーによって定義される。
【0045】
入力エネルギー密度は、攪拌機から懸濁液の単位体積に伝達されるエネルギーとして定義される。
【0046】
図7から明白であるように、粒度分布の幅は1.36の通常の範囲内にあり、比表面積は14.2m2/gの比較的高い値を有する。
【0047】
この開始点から出発して、比較例2において、攪拌機回転数を600rpmから1100rpmに上げ、且つ相応して作製される懸濁液1リットル当たりの入力エネルギー密度を62Whに高めた。攪拌容器への入力電力を3.11W/lに高めた。確かに、D50値の12.1μmへの減少による明らかな効果が示されたが、その際、タップ密度は1.8g/cm3であった。最終的に、比較例3において、固体含有量を150g/lに高めるために、本発明による方法を用いた。攪拌機回転数を600rpmに調整し、正に第一の比較例と同じように、作製される懸濁液1リットル当たり19Whの入力エネルギー密度及び0.97W/lの反応器への入力電力が生じるようにした。表2から、この場合、第二の比較例と似ていることを見て取ることができる。タップ密度は1.9g/cm3である。作製される懸濁液1リットル当たりの高い入力エネルギー密度及び高い固体濃度との組み合わせによって初めて、本発明による粉末状化合物の特性が達成され得た。
【0048】
作製される懸濁液1リットル当たりの単位エネルギー(Wh)を有する入力エネルギー密度は、攪拌力の他に、単位時間当たりに形成される懸濁液体積、ひいては間接的に滞留時間に依存する。それ故、長い滞留時間が、先ず原則的に好ましい。他方で、工業プロセスにおいて、経済的な理由から、可能な限り高い空時収量で、すなわち可能な限り短い滞留時間で処理されなければならない。長い滞留時間の場合、原則的に、少なくとも一次微結晶の粗大化、しかし、また再結晶化もしくはオストワルト成長による凝集のリスクも存在する。非常に短い滞留時間の場合、多孔度は、最小の可能な大きさには減少されず、このことはタップ密度に不所望な効果を直接及ぼす。最も好ましくは、該タップ密度は、有利な、且つ特に有利な滞留時間の範囲内で最大化され得る。該滞留時間は、2〜30時間、好ましくは4〜25時間、特に有利には6〜20h及び殊に有利には6〜15時間であってよい。
【0049】
本発明による実施例1及び2において、懸濁液1リットル当たり65もしくは68Whの入力エネルギー密度で処理し、且つ、その際、該懸濁液の固体含有量は150g/lもしくは250g/lであった。意想外にも、粒度分布のD50値は<10μmに下がるのみならず、むしろ粒度分布は狭くなっている。それは、実施例1及び2において0.92もしくは0.94である。この狭い粒度分布は、少なくとも2.2〜2,4g/cm3の特に高いタップ密度を有する粒子の高い充填密度をもたらす(図5及び6)。
【0050】
ハイブリッド自動車及び電気自動車のために並びに電動工具のために殊に重要な高速充電及び高速放電は、タップ密度対D50値の比率で現される。この特性値は、本発明による生成物において、少なくとも0.2g/cm3・μmである(図3および4)。図3及び4は、先行技術の粉末と比較して、本発明による粉末状化合物の固有の特徴を示す。
【0051】
本発明による粉末状化合物は、二次電池の製造のための前駆物質として適している。殊に、該粉末状化合物は、リチウムイオンセルもしくはリチウムポリマーセル中で使用される。本発明による粉末を含有する二次電池は、特に、ハイブリッド自動車、電気自動車、太陽電池自動車における並びに燃料電池で駆動される自動車における使用のために適している。
【0052】
更に本発明は、以下の実施例及び比較例によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明によるニッケル混合金属水酸化物を製造するための装置を示す図
【図2】本発明及び比較例による粉末状化合物のタップ密度を示す図
【図3】本発明及び比較例による粉末状化合物のタップ密度/D50値の比率を示す図
【図4】本発明及び比較例による粉末状化合物のタップ密度/D50値の比率を示す図
【図5】実施例1により製造されたニッケル混合金属水酸化物を走査電子顕微鏡(REM)で撮影した写真を示す図
【図6】実施例2により製造されたニッケル混合金属水酸化物を走査電子顕微鏡(REM)で撮影した写真を示す図
【図7】比較例1により製造されたマンガン含有の混合金属水酸化物を走査電子顕微鏡(REM)で撮影した写真を示す図
【0054】
実施例
全ての実施例及び比較例は、図1に記載の反応器中で実施している。下記において、該実施例を実施するための概要を示す。
【0055】
概要
先ず、反応器(1)に、それぞれ反応器の定常状態のNa2SO4濃度;NaOH濃度、並びにNH3濃度を有する母液を充填する。次いで、攪拌機(2);サーモスタット加熱装置(3)及び循環式ポンプ(4)を作動させる。それぞれの反応温度に達した後、重量測定制御ポンプ(5)〜(8)を作動させる。ポンプ(5)は金属塩溶液を、ポンプ(6)は苛性ソーダ液を、ポンプ(7)はアンモニア溶液を、且つポンプ(8)は完全脱イオン(VE)水を反応器中に輸送する。引き続き、ポンプ(9)を始動させ、該ポンプ(9)は、生じる生成物懸濁液を、連続的に、充填レベルに制御して反応器から輸送する。次いで、必要な量の母液を反応器系から取り出し、且つそのつど所望される懸濁液の固体含有量を調整するために、重量測定により制御される、その上部に濾板(11)が配置されている浸漬チューブ(10)の上に配置されている自給式ポンプ(12)を作動させる。
【0056】
実施例1
反応器(1)に、Na2SO4 140g/l、NaOH 0.1g/l及びNH3 10g/lを含有する母液を充填し、且つ攪拌機(2)を1100rpmで、並びに循環式ポンプ(4)を10m3/hで作動させた。引き続き、サーモスタット加熱装置により50℃に加熱した。目標温度の到達後、重量測定により制御して、ポンプ(5)により金属硫酸塩溶液(Ni 34.02g/l、Co 34.16g/l、Mn 31.85g/l)11132g/hを、ポンプ(6)により苛性ソーダ液(NaOH 200g/l)7384g/hを、且つポンプ(7)によりアンモニア溶液(NH3 225g/l)642g/hを反応器中に輸送した。ポンプ(12)により、フィルターエレメント(11)を有する浸漬チューブ(10)を介して母液7384g/hを反応器から取り出した。ポンプ(9)は、充填レベルに制御して、懸濁液11592g/hを反応器から輸送した。120時間後、反応器はその定常状態に達し、且つこの時点より反応器から輸送された懸濁液を、24hの時間にわたって貯蔵容器中で収集し、引き続き、ヌッチェ濾過器に排出し、且つ濾過した。フィルターケークを、VE水170リットルで洗浄し、引き続き、乾燥炉内の薄板トレー上で85℃にて24hにわたって乾燥した。以下の特性を有する乾燥生成物34.3kgを得た:
Ni 21.4%、Co 21.5%、Mn 20.1%
粒度分布(D10:5.0μm、D50:8.7μm、D90:13.0μm)、(D90〜D10)/D50:0.92
タップ密度(KD):2.17g/cm3
KD/D50:0.249g/cm3・μm
BET:7.8m2/g
比較例1
反応器(1)に、Na2SO4 140g/l、NaOH 0.1g/l及びNH3 10g/lを含有する母液を充填し、且つ攪拌機(2)を600rpmで、並びに循環式ポンプ(4)を10m3/hで作動させた。引き続き、サーモスタット加熱装置により50℃に加熱した。目標温度の到達後、重量測定により制御して、ポンプ(5)により金属硫酸塩溶液(Ni 34.02g/l、Co 34.16g/l、Mn 31.85g/l)6494g/hを、ポンプ(6)により苛性ソーダ液(NaOH 200g/l)4307g/hを、且つポンプ(7)によりアンモニア溶液(NH3 225g/l)374g/hを反応器中に輸送した。実施例1とは対照的に、母液は、ポンプ(12)を用いて反応器から取り出さなかった。ポンプ(9)は、充填レベルに制御して、懸濁液11175g/hを反応器から輸送した。120時間後、反応器はその定常状態に達し、且つこの時点より反応器から輸送された懸濁液を、24hの時間にわたって貯蔵容器中で収集し、引き続き、ヌッチェ濾過器に排出し、且つ濾過した。フィルターケークを、VE水100リットルで洗浄し、引き続き、乾燥炉内の薄板トレー上で85℃にて24hにわたって乾燥した。以下の特性を有する乾燥生成物20.0kgを得た:
Ni 21.2%、Co 21.5%、Mn 20.1%
粒度分布(D10:8,6μm、D50:16.1μm、D90:30.6μm)、(D90〜D10)/D50:1.36
タップ密度(KD):1.56g/cm3
KD/D50:0.097g/cm3・μm
BET:14.2m2/g
下記の表2で、実施例1及び比較例1並びに更なる実施例及び比較例からの得られた生成物の反応器パラメータ及び特性をまとめて示している。
【0057】
【表2】

【符号の説明】
【0058】
1 反応器、 2 攪拌機、 3 サーモスタット加熱装置、 4 循環式ポンプ、 5 ポンプ、 6 ポンプ、 7 ポンプ、 8 ポンプ、 9 ポンプ、 10 浸漬チューブ、 11 濾板、 12 自給式ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式NiaM1bM2cx(OH)yの粉末状化合物であって、その際、M1は、Fe、Co、Zn、Cuから成る群から選択された少なくとも1つの元素及び/又はそれらの混合物、M2は、Mn、Al、Cr、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Siの群から選択された少なくとも1つの元素及び/又はそれらの混合物を意味し、0.3≦a≦0.83、0.1≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0.01≦x≦0.99及び1.01≦y≦1.99である、前記式NiaM1bM2cx(OH)yの粉末状化合物において、ASTM B 527に従って測定されたタップ密度対ASTM B 822に従って測定された粒度分布のD50値の比率が少なくとも0.2g/cm3・μmであることを特徴とする、式NiaM1bM2cx(OH)yの粉末状化合物。
【請求項2】
タップ密度対粒度分布のD50値の比率が少なくとも0.4g/cm3・μmであることを特徴とする、請求項1記載の粉末状化合物。
【請求項3】
タップ密度対粒度分布のD50値の比率が少なくとも0.5g/cm3・μmであることを特徴とする、請求項1記載の粉末状化合物。
【請求項4】
ASTM D 3663に従って測定されたBET表面積が9m2/gより小さいことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の粉末状化合物。
【請求項5】
ASTM D 3663に従って測定されたBET表面積が7m2/gより小さいことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の粉末状化合物。
【請求項6】
式(1)
【数1】

[式中、Dは、粉末粒子の直径を意味する]に従って定義された、粒度分布の規格化された幅が≦1.3であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の粉末状化合物。
【請求項7】
式(1)
【数2】

[式中、Dは、粉末粒子の直径を意味する]に従って定義された、粒度分布の規格化された幅が≦1.0であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の粉末状化合物。
【請求項8】
前記粒子が球状形を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の粉末状化合物。
【請求項9】
前記粒子が≧0.8の形状係数を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の粉末状化合物。
【請求項10】
前記粒子が≧0.9の形状係数を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の粉末状化合物。
【請求項11】
以下の工程:
a)少なくとも第一の及び第二の出発溶液を準備する工程
b)少なくとも第一の及び第二の出発溶液を反応器中で合一し、少なくとも2ワット/リットルの機械的な入力電力密度により均一に混合される反応帯域を生成し、且つ不溶性生成物及びアルカリ液過剰量の調整によって過飽和された10〜12のpH値を有する母液とから成る生成物懸濁液を生成する工程、
c)懸濁液中で少なくとも150g/リットルの固体含有量を調整するために、清浄エレメント又はフィルターエレメントによって、沈殿した生成物から母液を部分的に分離する工程から成る、請求項1から10までのいずれか1項記載の粉末状化合物の製造方法。
【請求項12】
懸濁液中の固体含有量が少なくとも300g/lであることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
懸濁液中の固体含有量が少なくとも500g/lであることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項14】
機械的な入力電力密度が少なくとも4W/lであることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項15】
リチウム二次電池のためのリチウム化合物を製造するための前駆物質としての、請求項1から10までのいずれか1項記載の粉末状化合物の使用。
【請求項16】
ハイブリッド自動車及び電気自動車、太陽電池自動車のために並びに燃料電池で駆動される自動車において用いるための、リチウム二次電池のためのリチウム化合物を製造するための前駆物質としての、請求項1から10までのいずれか1項記載の粉末状化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−536697(P2010−536697A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521374(P2010−521374)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059649
【国際公開番号】WO2009/024424
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(507239651)ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (59)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】