説明

粉末状或いは顆粒状の飲料

【課題】 本発明は、水、温水、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難い粉末状或いは顆粒状の飲料を提供する。
【解決手段】 水系媒体に分散又は溶解して用いる粉末状或いは顆粒状の飲料において、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする粉末状或いは顆粒状の飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類を用いることにより、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難い粉末状或いは顆粒状の飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解して飲用に供する粉末状或いは顆粒状の飲料、例えばコーヒー、ココア、ジュース、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの粉末状或いは顆粒状の飲料は、保存が容易であり、かつ水又は湯などさえあれば場所を選ばずどこでも飲用に供することができることから数多く開発されている。
【0003】
しかしながら、これら粉末状或いは顆粒状の飲料などは、水又は湯などで溶いた後にいわゆる「ままこ(以下、ダマという。)」と呼ばれる塊が残ってしまうという問題がある。特に、冷えた水などを粉末状或いは顆粒状の飲料に注いだ場合についてはダマが発生するという問題が顕著に表れることから、かかる問題を抑える要望は多い。そのためこれら粉末状或いは顆粒状の飲料に水又は湯などを注いでもダマが生じないようにするために、予め少量の水又は湯で練った後、かき混ぜながら水又は湯を注ぎ込まなければならないという不便さがあった。
【0004】
そこで、このダマの発生を抑える方法として、溶解性を向上させるために炭酸水素ナトリウム及び有機酸、或いはカルシウムイオンなどのイオン物質をままこ防止剤として加える方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、これらのままこ防止剤を水に投入すると直ちに当該物質が溶解してしまうためか、その他のスープ又はソース原料がダマとなることの防止効果は十分とは言い難いものであった。
【0005】
また、このダマの発生を抑える方法として、卵殻粉などの水不溶性カルシウム含有材料粉末を加える方法が提案されている(特許文献2)。確かに上記水溶性物質よりも当該水不溶性物質を加える方がダマの防止効果が高いものの完全な解決には至っていないのが実状である。
【0006】
一方、水不溶性物質として、植物ステロールがある。その植物ステロールは、血中の総コレステロール濃度及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させる機能を有することが知られているが、植物由来の食材には、極僅かしか含有していないことから、食品原料としての利用が期待されている。
【0007】
本発明者らは、上記植物ステロールを用いてダマの発生を防止できるならば、生理機能を併せ持つこととなり商品価値として有用なものとなると考え、まず、単に植物ステロールを粉末状或いは顆粒状のスープなどに用いることを試みた。しかしながら、このように単に植物ステロールを含有する粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースでは、お湯を注いだ後に攪拌してもダマの発生を防止することができず満足できるものとは言い難いものであった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−104912号公報
【特許文献2】特開2005−304378号公報
【特許文献3】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、植物ステロール類を用いることにより、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難い粉末状或いは顆粒状の飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、粉末状或いは顆粒状の飲料に植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を含有するならば、意外にもダマが生じ難くなることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)水系媒体に分散又は溶解して用いる粉末状或いは顆粒状の飲料において、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする粉末状或いは顆粒状の飲料、
(2)前記植物ステロール類と前記卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)記載の粉末状或いは顆粒状の飲料、
(3)前記複合体の含有量が、製品に対し0.01〜10%である(1)又は(2)記載の粉末状或いは顆粒状の飲料、
である。
【0012】
なお、本出願人は、既に植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を出願しており(特許文献3)、確かに前記複合体は以前から知られている。しかしながら、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を顆粒状或いは粉末状飲料に含有することにより、いわゆるダマという問題点が解決されるか否かについては全く示唆されていない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難いことから、より一層品位が向上し、粉末状或いは顆粒状の飲料の需要を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0015】
本発明の粉末状或いは顆粒状の飲料とは、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解して飲用に供する、飲料を粉末状或いは顆粒状とした食品をいう。このような本発明の粉末状或いは顆粒状の飲料としては、特に限定するものではないが、例えば、コーヒー抽出液などのコーヒー原料を用いた、粉末ブラックコーヒー、粉末フレーバーコーヒー、粉末ミルクコーヒーなどの即席コーヒー飲料、ココアパウダーなどのココア原料を用いた粉末ミルクココアなどの即席ココア飲料、茶抽出物や粉末茶葉などの茶原料を用いた、粉末緑茶、抹茶ミルク、粉末麦茶、粉末ほうじ茶、粉末ウーロン茶、粉末ストレートティー、粉末レモンティー、粉末フレーバーティ、粉末ブレンド茶などの即席茶飲料、粉乳などの乳原料を用いた、粉ミルク、粉末ミルクシェーキなどの即席乳飲料、あるいは、果汁や野菜の搾汁液、濃縮液、ピューレ、ペーストなどの野菜・果汁原料を用いた、粉末レモンジュース、粉末オレンジジュース、粉末グレープフルーツジュース、粉末アップルジュース、粉末フルーツミックスジュース、粉末プルーンジュース、粉末トマトジュース、粉末キャロットジュース、粉末野菜ミックスジュースなどの即席野菜・果汁飲料などの一般的な粉末状或いは顆粒状の飲料である。
【0016】
本発明の粉末状或いは顆粒状の飲料は、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする。前記構成を有する本発明の粉末状或いは顆粒状の飲料は、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなる。これに対し後述の比較例に示すように、前記複合体を含まない場合や植物ステロール類をそのまま含む場合は、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解してもダマが生じてしまうものとなる。
【0017】
本発明の卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩若又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0018】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物に脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0019】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:特殊機化工業社製等)を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなる。
【0020】
本発明の飲料に含有する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に糖液等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(特殊機化工業社製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0021】
本発明で用いる複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述で示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成しているところ、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、一方、前記範囲より多いと水分散性を有した複合体が得られない。したがって、後述に示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成していることから、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存して飲料の風味が卵黄風味により損なわれる場合がある。また前記範囲より多いと植物ステロール類が水分散性を有した複合体を形成し難くなって本発明の効果が得られ難くなる。
【0022】
本発明の複合体の含有量は、ダマを防止する効果がそれに比例して増大するわけではなく、粉末状或いは顆粒状の飲料の美味しさが損なわれる場合があることから、製品に対して0.01〜10%とすることが好ましく、0.1〜5%とすることがより好ましい。
【0023】
前記複合体を粉末状或いは顆粒状の飲料に含有させる方法として特に制限はなく、例えば、
1)上記複合体と、前記粉末状或いは顆粒状の飲料に含有する他の原料などとを粉体混合する方法、
2)上記複合体と前記粉末状或いは顆粒状の飲料に含有する他の原料などを水などに分散或いは溶解させた液を噴霧乾燥し、粉末などにする方法、
3)上記複合体と前記粉末状或いは顆粒状の飲料に含有する他の原料などを混合し、流動層造粒乾燥機、或いは攪拌式混合・造粒機などで造粒する方法、
などが挙げられる。
【0024】
尚、本発明の粉末状或いは顆粒状飲料には、本発明の効果を損なわない範囲で、デキストリン、乳糖等の賦形剤、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤等の種々の添加材を含んでいてもよい。
【0025】
このように植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が含有された粉末状或いは顆粒状の飲料について、ダマと呼ばれる塊が抑制される理由は明確ではないが、以下のように考えられる。即ち、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を含有する粉末状或いは顆粒状の飲料に水又は湯などを注ぐと、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が比較的ゆっくりと水に濡れ沈降していくので、飲料原料の粉末などが凝集し難くなり、結果的に容易且つ簡便に粉末状或いは顆粒状の飲料を水などに分散又は溶解させることができるためダマが発生することを防止することができる、と考えられる。
【0026】
以下、本発明の粉末状或いは顆粒状の飲料について、実施例、比較例及び試験例に基づき、具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定するものではない。
【実施例】
【0027】
[調製例1]:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0028】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0029】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0030】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0031】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0032】
【表1】



【0033】
【表2】

【0034】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0035】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0036】
[調製例2]:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0037】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0038】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0039】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0040】
【表3】





【0041】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0042】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0043】
[調製例3]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を得た。なお、複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部である。また、複合体の植物ステロール含有量は92%である。
【0044】
[実施例1]粉末状コーヒー
表4に示す組成で、各原料の粉体をV型混合機にて混合し、粉末状コーヒーを得た。得られた粉末状コーヒーの複合体含有量は製品に対して2%である。
【0045】
【表4】



【0046】
[比較例1]
実施例1において乾燥複合体を配合しない他は、実施例1と同じ配合と製法で粉末状コーヒーを作製した。
【0047】
[比較例2]
実施例1において乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例1と同じ配合と製法で粉末状コーヒーを作製した。
【0048】
[試験例1]
実施例1、比較例1及び2で得られた粉末状コーヒーを各々20gずつカップに入れ、98℃の湯150mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、3種類のコーヒーを作製した。
【0049】
得られた3種類のコーヒーにダマが発生しているか否かを評価したところ、比較例1で得られたコーヒーにはダマが発生し、また比較例2で得られたコーヒーはダマが発生するだけでなく、植物ステロールの一部が前記コーヒーの表面に浮き上がって外観を損なうものとなった。これに対し、実施例1で得られたコーヒーにダマは発生していなかった。さらに、湯の替わりに同量の牛乳(90℃)を用いても同様の結果となった。
以上から、本発明の複合体を含む実施例1の粉末状コーヒーは、複合体を含まない比較例1及び植物ステロールをそのまま含む比較例2に比べて、湯に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなることが理解できる。尚、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0050】
[実施例2]顆粒状ミルク入りココア
表5に示す組成で、各原料の粉体をV型混合機にて混合した後、押出造粒機で造粒し、顆粒状ミルク入りココアを得た。得られた顆粒状ミルク入りココアの複合体含有量は製品に対して2%である。
【0051】
【表5】




【0052】
[比較例3]
実施例2において乾燥複合体を配合しない他は、実施例2と同じ配合と製法で顆粒状ミルク入りココアを作製した。
【0053】
[比較例4]
実施例2において乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例2と同じ配合と製法で顆粒状ミルク入りココアを作製した。
【0054】
[試験例2]
実施例2、比較例3及び4で得られた顆粒状ミルク入りココアを各々20gずつカップに入れ、98℃の湯150mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、3種類のミルク入りココアを作製した。
【0055】
得られた3種類のミルク入りココアにダマが発生しているか否かを評価したところ、比較例3で得られたミルク入りココアにはダマが発生し、また比較例4で得られたミルク入りココアはダマが発生するだけでなく、植物ステロールの一部が前記ミルク入りココアの表面に浮き上がって外観を損なうものとなった。これに対し、実施例2で得られたミルク入りココアにダマは発生していなかった。
以上から、本発明の複合体を含む実施例2の顆粒状ミルク入りココアは、複合体を含まない比較例3及び植物ステロールをそのまま含む比較例4に比べて、湯に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなることが理解できる。尚、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0056】
[実施例3]粉末状オレンジジュース
表6に示す組成で、各原料の粉体をV型混合機にて混合し、粉末状オレンジジュースを得た。得られた粉末状オレンジジュースの複合体含有量は製品に対して2%である。
【0057】
【表6】



【0058】
[比較例5]
実施例3において乾燥複合体を配合しない他は、実施例3と同じ配合と製法で粉末状オレンジジュースを作製した。
【0059】
[比較例6]
実施例3において乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例3と同じ配合と製法で粉末状オレンジジュースを作製した。
【0060】
[試験例3]
実施例3、比較例5及び6で得られた粉末状オレンジジュースを各々20gずつカップに入れ、10℃の冷水150mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、3種類のオレンジジュースを作製した。
【0061】
得られた3種類のオレンジジュースにダマが発生しているか否かを評価したところ、比較例5で得られたオレンジジュースにはダマが発生し、また比較例6で得られたオレンジジュースはダマが発生するだけでなく、植物ステロールの一部が前記オレンジジュースの表面に浮き上がって外観を損なうものとなった。これに対し、実施例3で得られたオレンジジュースにダマは発生していなかった。
以上から、本発明の複合体を含む実施例3の粉末状オレンジジュースは、複合体を含まない比較例5及び植物ステロールをそのまま含む比較例6に比べて、湯に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなることが理解できる。尚、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0062】
[実施例4]粉末状紅茶
表7に示す組成で、各原料の粉体をV型混合機にて混合し、粉末状紅茶を得た。得られた粉末状紅茶の複合体含有量は製品に対して2%である。
【0063】
【表7】

【0064】
[比較例7]
実施例4において乾燥複合体を配合しない他は、実施例4と同じ配合と製法で粉末状紅茶を作製した。
【0065】
[比較例8]
実施例4において乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例4と同じ配合と製法で粉末状紅茶を作製した。
【0066】
[試験例4]
実施例4、比較例7及び8で得られた粉末状紅茶を各々20gずつカップに入れ、98℃の湯150mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、3種類の紅茶を作製した。
【0067】
得られた3種類の紅茶にダマが発生しているか否かを評価したところ、比較例7で得られた紅茶にはダマが発生し、また比較例8で得られた紅茶はダマが発生するだけでなく、植物ステロールの一部が前記紅茶の表面に浮き上がって外観を損なうものとなった。これに対し、実施例4で得られた紅茶にダマは発生していなかった。
以上から、本発明の複合体を含む実施例4の粉末状紅茶は、複合体を含まない比較例7及び植物ステロールをそのまま含む比較例8に比べて、湯に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなることが理解できる。尚、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体に分散又は溶解して用いる粉末状或いは顆粒状の飲料において、
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする粉末状或いは顆粒状の飲料。
【請求項2】
前記植物ステロール類と前記卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載の粉末状或いは顆粒状の飲料。
【請求項3】
前記複合体の含有量が、製品に対し0.01〜10%である請求項1又は2記載の粉末状或いは顆粒状の飲料。


【公開番号】特開2007−259827(P2007−259827A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92665(P2006−92665)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】