説明

粉末状物質の固形物

【課題】本発明は、汎用の機器で粒状、板状その他の形状に常温常圧下で成形できる粉末状物質の固形物であって、この固形物を水に浸漬した時のpHが10以下であり、28日後の一軸圧縮強度の値が400kN/m以上の固形物を提供することを目的とする。
【解決手段】粘土、建設発生土、汚泥・生ごみ・産業廃棄物の焼却灰およびフライアッシュからなるグループのうち少なくとも1種類以上の粉末状物質に、常温常圧環境下で、マグネシア、塩化マグネシウムおよび鉱酸を所定の割合で混合した所定量の固化処理剤と所定の割合のパルプ固形分を含有する所定量の水を添加することにより固化成形することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土状物質などの建設発生土、汚泥・生ごみ・産業廃棄物の焼却灰およびフライアッシュ等の粉末状物質を再利用して、天然の良質な砂の代替等の広範囲の地盤材料等の建設用材料として使用できる粒状あるいは塊状の固形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘土状物質などの建設発生土、下水汚泥や一般ゴミ等の焼却灰、フライアッシュの様な粉末状物質を、ポルトランドセメント、生石灰などで固化処理して粒状物等を製造する処理方法が提案されている。
【0003】
たとえば、宇部興産株式会社が製造し販売するゼットサンド(登録商標)は、盛土、裏込め、埋戻し、土地造成等に使用される天然砂質土の代替材として開発されたものであるが、このゼットサンドは、フライアッシュをポルトランドセメントで粒状に固化させたものであり、実績を積んでいる。
また、日本国土開発株式会社等が開発した頑丈土破砕材(頑丈土は登録商標)は、フライアッシュにポルトランドセメントや石膏を混ぜてスラリー化し、貯蔵中に硬化させ、使用前に破砕して地盤材料として使用されている。
【0004】
しかしながら、上記のようなポルトランドセメントや生石灰により固化処理して生産される固形物は、
(1)固化処理剤の主成分である普通ポルトランドセメントや生石灰はアルカリ性の材料であるため、固化物からの浸漬水のpHが12以上を呈する強アルカリ性であり、そのままでは植物が育ち難く、更なる盛土等の処置を必要とする。また、河川、湖沼、海浜での使用も強アルカリ性のため、使用が制限される。
(2)埋戻し、盛土等の現場では、より高い強度のものが望まれているが、強度的に弱い。たとえば粒状成形物の場合、JISA1210(突固めによる締固め試験方法)に準拠した締固め試験において、締固めエネルギー(kJ/m)を1Ecおよび6Ecで行うと、試験後の75μm以下の細粒分含有量が6Ecでは極端に増え、1Ecの40%以上となる。
(3)頑丈土のように、スラリーを一度固めてから、再び破砕・粉砕したものは、破砕・粉砕の手間が掛かるほか、形状や大きさにばらつきがあることから、埋戻し、盛土以外の建設用材料として使用することは難しい。また、形状や大きさを揃えるとなると、手間と時間を要し、経済性の面での難点がある。
といった課題を有している。
【0005】
そのため、前記の粉末状物質をポルトランドセメントや生石灰により固化処理して再利用するには限界があり、別の固化処理方法も提案されている。
【0006】
たとえば、特開2004−161508号公報に開示の技術は、「廃プラスチックを主な材料として使用した適当な粒度を有する略球状の粒体の形態を有し、軽量性や断熱性に優れた細骨材や、吸水性や保水性に優れた土壌改良材として用いることができる軽量人工砂を提供する。」ことを課題とし、「軽量人工砂は、内部に空洞部分を有する発泡したポリエチレンテレフタレート系樹脂の粒体と、この粒体の表面に融着された鉱物質粉末とからなる。 軽量人工砂は、ロータリーキルンを用いて、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の小片と、鉱物質粉末とを撹拌しながら320〜500℃で所定時間、加熱することによって製造される。」ことにより、この課題の解決を図ったものである。
【0007】
また、特開平10−167783号公報に開示の技術は、「ごみ焼却灰や飛灰の溶融スラグから、無公害化されかつ緻密に再結晶化したコンクリート用人工骨材を製造すること。」を課題とし、「焼却灰と飛灰とを還元溶融する前に、溶融スラグ中のMgOが5%ないし20%の範囲内における目標含有率もしくはそれに極めて近似した含有率となるように、MgOを含む造滓材を添加する。調合された原料に微粉末およびプラスチック廃材を添加することにより、粉コークスを還元溶融することによって、原料中のFe系酸化物は還元して溶融銑鉄となる。他の重金属類および還元可能な酸化物を還元して生じた元素が、溶融銑鉄に溶解する。同時に、ガス含有率が低く重金属類等を含まない溶融スラグが生成される。溶融スラグを凝固し熱処理すると、再結晶化した緻密な組織の人工砂利となる。」ことによりこの課題の解決を図ったものである。
【特許文献1】特開2004−161508号公報
【特許文献2】特開平10−167783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開2004−161508号公報に開示の粉末状廃棄物などの鉱物質粉体と廃プラスチックとの複合人工砂は、プラスチックを300℃以上で溶融させて複合化させているが、その接着および強度が弱く、実際に使用した場合には自己荷重で破壊するおそれが高い。
【0009】
そして、特開平10−167783号公報に開示のごみ焼却灰や飛灰の溶融スラグから直接的に人工砂利や人工砂を製造する技術では、マグネシア等を用いて粉末状廃棄物を溶融化する際に320℃以上の高温で行うため、大掛かりな設備を要し、経済性の面で難点がある。
【0010】
なお、マグネシア(分子式:MgO)と塩化マグネシウムが反応して硬化するマグネシアセメントは、ポルトランドセメントに比較して、同じ比重なら強度が高く、また、pHも10以下という低アルカリ性を呈するというメリットを有するが、マグネシアが初期に水と反応して水酸化マグネシウムを生成する際のマグネシアの活性が硬化に大きく影響するというデメリットも有する。特に、マグネシアの反応活性が原料産地、粒度、メーカにより大きく影響されることは公知であり、たとえば、マグネシアを排煙脱硫で使用する場合には、出発原料の炭酸マグネシウムの純度、焼成温度、更には焼成後のマグネシア粒度など使用前に厳密に精査する必要があるという煩雑さも併せ持つ。
【0011】
そこで、本発明は、粉末状物質の固形物を汎用の機器で粒状、板状・円柱状その他所望の形状に常温常圧下で成型し、硬化物を水に浸漬した時のpHが10以下であり、強度も、スラリー状で成型する場合は、粉末状物質に6質量%を添加した組成で28日後の一軸圧縮強度の値が400kN/m以上、粒状に成形する場合は締固めエネルギー(kJ/m)が1Ecおよび6Ecでの締固め試験後の75μm以下の細粒分含有量の両者の差が10%以内の固形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願発明者らは、鋭意研究した結果、粉末状物質に対してマグネシアおよび塩化マグネシウムが所定量以上あり、適切なる両者の割合の範囲にあれば、水を添加して粉末状物質を常温常圧下で固化できることがわかった。
またこの系に鉱酸を加えると、鉱酸がマグネシアと反応することにより、マグネシア粒子の表面が安定的に活性化され、かつ、マグネシアと鉱酸の反応熱によりマグネシアと塩化マグネシウムとの反応が促進され、X線回折のASTMカードに記載されているMagnesium Chloride Hydroxide Hydrate類の水和物の生成を容易にし、粉末状物質の固形過程における初期反応が促進され、取扱いが容易になるという知見を得た。本願発明はこれらの知見に基づくものである。
【0013】
すなわち、本願請求項1に係る粉末状物質の固形物は、粘土、建設発生土、汚泥・生ごみ・産業廃棄物の焼却灰およびフライアッシュからなるグループのうち少なくとも1種類以上の粉末状物質に、常温常圧環境下で、マグネシアおよび塩化マグネシウムからなる所定量の固化処理剤と所定量の水が添加混合されて固化される、ことを特徴としている。
また、本願請求項2に係る粉末状物質の固形物は、粘土、建設発生土、汚泥・生ごみ・産業廃棄物の焼却灰およびフライアッシュからなるグループのうち少なくとも1種類以上の粉末状物質に、常温常圧環境下で、マグネシア、塩化マグネシウムおよび鉱酸からなる所定量の固化処理剤と所定量の水が添加混合されて固化される、ことを特徴としている。
そして、本願請求項3に係る粉末状物質の固形物は、請求項1または請求項2に記載の粉末状物質の固形物であって、前記マグネシアと前記塩化マグネシウムとの総量は前記粉末状物質に対し6質量%以上であり、前記マグネシアは前記塩化マグネシウム1モルに対し3〜7モルである、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項4に係る粉末状物質の固形物は、請求項2または請求項3に記載の粉末状物質の固形物であって、前記鉱酸は前記マグネシア1モルに対し0.05〜0.35モルである、ことを特徴としている。
また、本願請求項5に係る粉末状物質の固形物は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の粉末状物質の固形物であって、前記水はパルプ固形分が0.1〜2.0質量%になるようにパルプスラリーが添加されている、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項6に係る粉末状物質の固形物は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の粉末状物質の固形物であって、前記粉末状物質の固形物は粒状あるいは所望の形状に成形される、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1に係る発明では、常温常圧環境下で、マグネシアおよび塩化マグネシウムからなる固化処理剤で固化することとしている。この固化反応は、マグネシアと塩化マグネシウムの水和反応物を結合相として利用するものであり、この水和反応物は、ポルトランドセメントとその使用方法、硬化特性、硬化体の強度と多少似ているが、ポルトランドセメントに比較して同じ比重なら強度が高く、アルカリ性が低く有機物との接着性がよいという長所を有している。そのため、粉末状物質の固形物は、ポルトランドセメント系固化剤を使用したものと比較して、強度が高く、低アルカリ性を呈する。さらに、固化反応は、常温常圧環境下でおこなうことができるため、大規模な設備装置は不要である利点も有する。
【0015】
また、本願請求項2に係る発明では、固化処理剤としてマグネシアおよび塩化マグネシウムに鉱酸を加えた固化処理剤としている。従来、マグネシア系の材料で粉末状物質を固化処理する際の難しさの原因として、粉末状物質の品質のバラツキの他に、マグネシアの反応活性度のバラツキが大きいことが挙げられる。本発明では鉱酸を加えることにより、マグネシアの初期反応活性を付与すると共に、マグネシアの産地・製造方法によるバラツキを平準化する効果もあり、その結果Magnesium Chloride Hydroxide Hydrate類の水和物生成を安定的に促すことができ、固形処理が容易になる。
【0016】
そして、本願請求項3に係る発明では、マグネシアと塩化マグネシウムとの総量を粉末状物質に対し6質量%以上としている。マグネシアと塩化マグネシウムの総量が多いほどMagnesium Chloride Hydroxide Hydrate類の生成が多くなり粉末状物質の固化物の強度は高くなるが、マグネシアと塩化マグネシウムとの総量を粉末状物質の6質量%以上とすることにより、スラリー状で成型する場合は28日後の一軸圧縮強度の値が、400kN/m以上となる。粒状に成形する場合はJISA1210に準じた締固め試験において、締固めエネルギー(kJ/m)を1Ecおよび6Ecで締固めた後、JISA1204に準じて粒度分布を測定し、75μm以下の細粒分含有量の両者の差(以下、「細粒分含有量の差」と略称する。)をもって判断した。当然のことながら、細粒分含有量の差が小さい程、粒子強度は大きい。本発明では細粒分含有量の差が10%以内の固形物を得ることができ、用途に応じた最適な強度を有する固形物を得ることができる。
また、マグネシアと塩化マグネシウムとの総量は多い程、強度を高められるが、固化処理剤のコスト面からは、総量は多くとも40質量%以下であることが望ましい。
さらに、マグネシアと塩化マグネシウムとのモル比を変えることにより、水和生成物の種類や未反応マグネシア量の制御を適宜でき、塩化マグネシウム1モルに対しマグネシアを3〜7モルとすることにより、実用に適した粉末状物質の固形物を得ることができる。
【0017】
また、本願請求項4に係る発明では、鉱酸をマグネシア1モルに対して0.05〜0.35モルとしている。鉱酸のモル比が高い程、マグネシアの初期の水和反応での反応活性に寄与するが、0.35モルを超えるとマグネシアの量が不足してMagnesium Chloride Hydroxide Hydrate類の生成が阻害されると共に、酸の発煙が激しくなり作業が困難となる。また0.05モル未満だとマグネシアの活性化が不十分で、鉱酸添加による強度発現効果が低くなり、0.05モルが活性化のしきい値と考えられる。
【0018】
そして、本願請求項5に係る発明では、固化処理剤に添加される水にパルプ固形分が0.1〜2.0質量%になるようにパルプスラリーを添加することとしている。このパルプ原料は、たとえば、印刷媒体として使用された天然紙由来の古紙を使用することができ、古紙の再利用に貢献することとなる。パルプスラリーを添加することにより、パルプ繊維が粉末状物質の粒子間の空隙に充填されると共に、粒子同士を結合させるMagnesium Chloride Hydroxide Hydrate類の水和物相の補強効果によるものと推定されるが、特に造粒の場合に成形性が向上する。なお、パルプスラリー中のどの成分が、この成形性の向上に寄与するかについては未解明であり、目下研究中である。
【0019】
さらに、本願請求項6に係る発明では、粉末状物質の固形物を粒状あるいは所望の形状に成形することとしている。粒状の固形物は、後述するように、アイリッヒミキサーなどの市販の造粒器に粉末状物質とマグネシアとからなる混合粉末を入れ、攪拌しながら塩化マグネシウム水溶液ないしは鉱酸と塩化マグネシウム混合水溶液を滴下させることにより、得ることができる。また、所望の形状の固形物は、粉末状物質にマグネシア、塩化マグネシウム、水(鉱酸を含んでもよい)を添加混合し、所望の形状に成型した型枠に流し込むことにより得ることができる。
粒状の固形物とすることは、幾分手間が掛かるものの、粒度の揃った建設用材料としての人工砂を得ることができ、また、所望の形状の固形物とすることは、型枠に流し込むだけで得ることができる。さらにはスラリー状態よりも水量を減らし湿潤状態にして転圧施工することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態に係る実施例について説明するが、その前に、使用原料である粉末状物質やマグネシア等について検討したので、その検討経過および予備実験について説明する。
【0021】
(使用原料の検討)
使用原料のうち、
(1)粉末状物質については、品質が比較的安定しており、今後とも排出量の増加が見込まれるフライアッシュを使用することとし、その中でも比較的容易に入手できるコンクリート混和材として使用されているグレードを用いた。
(2)マグネシアは、市販の汎用のグレードのものでよく、ここでは工業用軽焼マグネシア粉末(純度92%、粒度:0.045mm以下が97%)を用いた。
(3)塩化マグネシウムは、取扱い性や経済性の観点から工業用塩化マグネシウム(6水塩、純度95%、顆粒状)を用いた。
(4)鉱酸は、濃硫酸(濃度98%)、濃塩酸(濃度36%)、濃硝酸(濃度61%)いずれの工業用のグレードでもよいが、コストメリットのある硫酸の場合、塩化マグネシウムと容易に反応し塩素ガスを発生するので取扱いが面倒であり、取扱いの容易性や経済性の観点から塩酸を用いることとした。
【0022】
(予備実験)
まず、粉末状物質が存在する条件下で生成される水和物を確認するため、上記原料を用いて予備実験した。予備実験は、所定量のフライアッシュ、塩化マグネシウムおよび水に対しマグネシアの質量を様々に変えて行った。結果を表1に示す。
【0023】
(表1)

【0024】
ここで、粉末X線回折について、図1を基に説明する。図1は、試料1−4の水和生成物の粉末X線回折とASTMカードでの関連データ図であり、図1の最上段から順に、フライアッシュが共存する場合のマグネシアと塩化マグネシウム(表1の試料1−4)の水和生成物の粉末X線回折図、2段目はASTMカード33−1161(シリカ)のX線回折図、3段目は同38−471(アルミノシリケート)のX線回折図、であり、4段目および5段目は水和生成物(Magnesium Chloride Hydroxide Hydrate)のASTMカード7−420のX線回折図および同7−412のX線回折図である。そして、X軸は回折角(2θ)であり、Y軸は最上段のみが回折線強度(cps)であって、2段目ないし5段目が相対強度である。なお、粉末X線回折は、理学電機株式会社製のRAD−IBシステムを用いて、Cu−Kαにて測定した。
2段目のシリカおよび3段目のアルミノシリケートは、フライアッシュに含まれていているものである。実験結果より、試料1−4にはASTMカード7−420および同7−412の水和物が生成されていることが判る。
【0025】
(実験例1:表1の試料No.1−1)
マグネシア、塩化マグネシウム6水塩、水道水を各100gずつ秤量して混合し、1ヶ月放置した。その後、硬化体を粉砕して粉末X線回折を測定した結果、ASTM Card 7−420のMagnesium Chloride Hydroxide Hydrateの水和生成物が認められた。
【0026】
(実験例2ないし実験例6:表1の試料No.1−2ないし試料No.1−6)
フライアッシュ600g、塩化マグネシウム100g、水道水100gおよびマグネシアをそれぞれ40g(実験例2)、同じく、フライアッシュ600g、塩化マグネシウム100g、水道水100gを同じにしてマグネシア量を60gにした(実験例3)、同様に105g(実験例4)、138g(実験例5)、200g(実験例6)を秤量し、混合した後、1ヶ月放置した。1ヶ月放置後、固形物を粉砕して粉末X線回折測定した。
実験例2では、ASTM Card 7−420の水和生成物が認められたもの、ASTM Card 7−412の水和生成物は認められなかった。
実験例3ないし実験例6では、ASTM Card 7−420の水和生成物およびASTM Card 7−412の水和生成物が認められた。さらに、実験例6では、未反応のマグネシアがわずかに認められた。
【0027】
(実験例1ないし実験例6の考察)
上記の実験から、マグネシアと塩化マグネシウムの水和反応系に、粉末状物質であるフライアッシュが共存すると、マグネシアと塩化マグネシウムのモル比が3以上で、新たにASTM Card 7−412のMagnesium Chloride Hydroxide Hydrateの生成も併せて起こる。ASTM Card 7−412の水和生成物は、図1に示す如く一旦生成するとASTM Card 7−420の水和生成物よりもピークの高さも高く、生成しやすい。これらの水和物は粉末状物質の固化処理を行う際、必須であることが判明した。
【0028】
また、塩化マグネシウムに対するマグネシアの割合が7を越えると、未反応のマグネシアが僅かに認められる。未反応のマグネシアは長期的には水酸化マグネシウムになり、その際、体積膨張の恐れも予測される。粉末状物質の安定した固化処理では、塩化マグネシウム1モルに対するマグネシアは、ASTM Card 7−412の水和物が生成される3〜7であることが好ましい。
【0029】
なお、マグネシアを水酸化マグネシウムに置き換えることも技術的には可能であるが、水酸化マグネシウムはマグネシアより価格が高く、置き換えることはコスト的に不利であり、またマグネシアが水との反応初期に水酸化マグネシウムを生成する際の反応熱もないため、初期硬化の観点からも不利となる。
【0030】
(実施例および比較例)
つぎに、本発明を実施するための最良の形態に係る実施例1ないし実施例3について表2に基づいて説明する。なお、表2は、実施例1ないし実施例3、比較例1および比較例2のそれぞれについて、組成、マグネシア/塩化マグネシウムのモル比、細粒分含有量の差(%)等を一覧表にまとめたものである。
【0031】
(表2)

【0032】
(実施例1)
フライアッシュ1,000g、マグネシア35gの混合粉体をアイリッヒミキサー(容積5L)に入れ、粉体を攪拌しながら、塩化マグネシウム(6水塩)26gを塩酸水溶液(市販の12規定濃塩酸14mlを水道水286gで希釈)300gに溶解した溶液を滴下し、50%平均粒径が1.5mmの粒子を成型し、28日間室温にて養生した。粒子をJISA1210に準じた締固め試験において、締固めエネルギー(kJ/m)で1Ecおよび6Ecでの締固めた後の75μm以下の細粒分含有量を測定し、その差が9%であった。
また28日養生後の粒子10gを蒸留水30gに入れ、マグネチックスタラーで10分間攪拌し、それを遠心分離機で固形分と溶液分を分けたのちpHを測定した結果、pHは8.5であった。よって中性に近い低アルカリ性のリサイクル建設材料として期待できることが判明した。
【0033】
(実施例2および実施例3)
フライアッシュ1000gとマグネシア180g(実施例2)あるいは230g(実施例3)を混合する。この混合粉体をアイリッヒミキサーに入れ、粉体を攪拌しながら、塩化マグネシウム(6水塩)150g(実施例2)あるいは170g(実施例3)を溶解させた希塩酸溶液(実施例2では市販の12規定濃塩酸74ml、実施例3では95mlを希釈)300gを順次滴下させて、造粒した。4週間室温養生後の細粒分含有量の差が4%(実施例2)、2%(実施例3)であり、pHは8.7(実施例2)、9.0(実施例3)であった。
なお、実施例2についてJISA1204に準じて粒度分布も測定した。その結果、最大粒径9.5mm、50%粒径が1.7mm、土粒子密度が2.248で通常の砂質土や粘性土に比べて軽量な人工砂の特性が得られた。
【0034】
(比較例1)
実施例1ないし実施例3と類似の方法で表2に掲げる比較例の実験をおこなった。比較例1に示す如くマグネシアと塩化マグネシウムとの総量が粉末状物質の3質量%では、細粒分含有量の差が40%となり、粒子強度が低い。
【0035】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態に係る実施例4ないし実施例8および比較例2について表3に基づいて説明する。なお、表3は、実施例4ないし実施例8および比較例2のそれぞれについて、組成、マグネシア/塩化マグネシウムのモル比、造粒1日後の粒子強度等を一覧表にまとめたものである。
【0036】
(表3)

【0037】
(実施例4ないし実施例6)
フライアッシュ1000gとマグネシア135gを混合する。この混合粉体をアイリッヒミキサーに入れ、粉体を攪拌しながら、塩化マグネシウム(6水塩)130gを溶解させた希塩酸溶液(実施例4では市販の12規定濃塩酸14ml、実施例5では53ml、実施例6では98mlを希釈)280gを順次滴下させて、造粒した。実施例4では2mm程度の大きさの粒は1日後には指で強く押さないと潰れず、実施例4ないし実施例6では指でかなり強く押しても潰れなかった。HCl/MgOのモル比が0.05以上あれば初期(造粒後1日)の強度発現が良好で、取り扱い面での利点がある。
【0038】
(比較例2)
実施例4に準じて比較例2の実験をおこなった。
その結果、塩酸を含まないマグネシアと塩化マグネシウムでは1日後の強度が弱く、広い保管場所が必要で取扱い上難しいことが判明した。
【0039】
(実施例7および実施例8)
実施例7では、実施例4における水266gにパルプ固形分が0.1質量%になるように、そして、実施例8では、2.0質量%になるように、新聞紙を切りきざんで、ジューサーミキサーにて攪拌しパルプスラリーを得た。このパルプスラリーを水の代わりに添加し、実施例7および実施例8に示すようにフライアッシュを造粒した。パルプスラリーが0.1質量%加わるだけで、1日後の2mm粒子の強度が向上した。パルプ固形分が3質量%を越すと、滴下がうまく行かず、所謂ボトボトと滴下するため、造粒物は不均一になり実験を中止した。
【0040】
(実施例9および実施例10)
粘土、焼却灰、フライアッシュのような粉末状物質の主要な用途として、埋立て材料としての使用が考えられる。本発明技術を転圧施工するための最良の形態に係る実施例9および実施例10について表4に基づいて説明する。表4に示す配合に基づき混合した。即ちフライアッシュとマグネシア粉末を混合し、これに塩化マグネシウムを水道水に溶解させた(実施例10では水道水に12規定塩酸を予め溶解)溶液を加え、汎用のミキサーで3分間混合した。混合したものは指で触るとパサパサした状態であった。これを直径5cm、高さ10cmの円筒状型枠に単位体積重量が一定となるように、締固めエネルギー(kJ/m)が1Ecで3層突き固めて成型した。その後20℃の室内で湿空養生し、7日と28日材令の一軸圧縮強度と28日材令のpH測定を行った。
【0041】
(表4)

【0042】
以上、実施例1ないし実施例10より、本発明に係る粉末状物質の固形物は、通常の転圧により低アルカリ性の埋立て材として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、試料1−4の水和生成物の粉末X線回折とASTMカードでの関連データ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土、建設発生土、汚泥・生ごみ・産業廃棄物の焼却灰およびフライアッシュからなるグループのうち少なくとも1種類以上の粉末状物質に、常温常圧環境下で、マグネシアおよび塩化マグネシウムからなる所定量の固化処理剤と所定量の水が添加混合されて固化される、ことを特徴とする粉末状物質の固形物。
【請求項2】
粘土、建設発生土、汚泥・生ごみ・産業廃棄物の焼却灰およびフライアッシュからなるグループのうち少なくとも1種類以上の粉末状物質に、常温常圧環境下で、マグネシア、塩化マグネシウムおよび鉱酸からなる所定量の固化処理剤と所定量の水が添加混合されて固化される、ことを特徴とする粉末状物質の固形物。
【請求項3】
前記マグネシアと前記塩化マグネシウムとの総量は前記粉末状物質に対し6質量%以上であり、前記マグネシアは前記塩化マグネシウム1モルに対し3〜7モルである、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の粉末状物質の固形物。
【請求項4】
前記鉱酸は前記マグネシア1モルに対し0.05〜0.35モルである、ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の粉末状物質の固形物。
【請求項5】
前記水はパルプ固形分が0.1〜2.0質量%になるようにパルプスラリーが添加されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の粉末状物質の固形物。
【請求項6】
前記粉末状物質の固形物は粒状あるいは所望の形状に成形される、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の粉末状物質の固形物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−269532(P2007−269532A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96171(P2006−96171)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(505115049)有限会社 笹野台テクノ (2)
【Fターム(参考)】