説明

粉末組成物の製造方法

【課題】
芯物質として香料の様な揮発性の高い物質を用いても揮散による散逸がなく、香料、甘味料、調味料、酸味料、機能性物質などの芯物質が完全に包接され、耐熱性および保存安定性に優れ、また、粉末の流動性が高く、高湿度環境下でもブロッキングを起こしにくく、さらには、チューインガムなどに配合した場合に、咀嚼による芯物質の放出が徐々に起こり、長時間持続する粉末組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】
粉末状の芯物質、および、粉末状またはフレーク状のシェラックを粉体状態で混合し、これらの混合物を加熱して溶融または半溶融状態とした後、冷却、固化し、粉砕することを特徴とする粉末組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にチューインガムなどの口腔用組成物に用いるための、香料、甘味料、調味料、酸味料または機能性物質を含有するマイクロカプセル化された粉末組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、香料、甘味料、調味料、酸味料または機能性物質の咀嚼による口腔内リリースが望ましいタイミングでおこり、かつ、長時間持続し、また、耐熱性、保存安定性に優れ、流動性に優れ、ブロッキングを起こしにくい粉末組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセル化技術は、従来より、芯物質の耐熱性付与、安定性向上、吸湿防止、徐放性や持続性の向上などの目的でさまざまな分野で用いられている。また、特に香料分野においては、香料の揮発性および不安定性に起因する問題を解決する方法として古くから盛んに研究が行われており、糖質、糖アルコール、その他の炭水化物などのマトリクス中に香料を封じ込める方法などが開発されている。
【0003】
特に、チューインガムに用いるための香料、甘味料、調味料、酸味料および機能性物質などにおいては、チューインガムが咀嚼されるに伴い、素早く望ましいタイミングで放出され、かつ、長時間持続するという両方の性質が求められる。したがって、マイクロカプセル化技術を用いて、香料などに徐放性を付与する技術が開発されている。
【0004】
このような技術としては、例えば、高分子量ポリ酢酸ビニルとトリグリセリドなどの疎水性可塑剤の混合物に活性成分を封入した封入組成物(特許文献1)、香料を水溶性壁材物質の水溶液および多価金属イオンとゲル形成能を有する化合物の存在下に乳化せしめ、これを噴霧乾燥して粉末とし、次いでこの粉末を多価金属塩によって不溶化せしめ、再度乾燥粉末化し、次いで溶融した動植物硬化油と混和した後冷却固化させ、粉砕することにより強固な皮膜の形成されたコーティング粉末香料(特許文献2)、0〜55重量%の高甘味度甘味料などの活性成分とポリ酢酸ビニルなどの壁材料成分を含む混合物を押し出すことにより形成された徐放性構造物(特許文献3)、第1のコアコーティング中にカプセル化された第1の強力甘味料、および第2の甘味料の第2のコーティングの溶解限度量までを含有する第2の外部親水性コーティングを含有するデリバリーシステム(特許文献4)、酵母などの菌体の内容成分を除去した後、菌体内に香料などを内包させ、さらにその表面に糖類、高甘味度甘味料、タンパク質類、多価アルコールなどを付着してなるマイクロカプセル(特許文献5)などが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および3に使用されているポリ酢酸ビニルは、(1)チューインガム基材としても用いられている成分であるため、チューインガムに配合した場合、咀嚼中に基材と混ざり合いやすく、持続性の観点から十分満足できるものとはいえない、(2)ポリ酢酸ビニルを溶融するための温度が高いため、香料を芯物質とした場合、揮散や劣化の問題がある、(3)ポリ酢酸ビニルは、日本における食品衛生法上、製剤中に含まれる場合も含めて、チューインガム基礎剤および果実または果菜の表皮の被膜剤以外の用途には使用することができない、などの欠点があった。また、特許文献2および4の方法では工程が非常に複雑であるという欠点を有する。また、特許文献5の酵母細胞壁を使用した方法においても、香味の持続性がいまだ十分とは言えなかった。
【0006】
一方、シェラックは、コーティング剤として知られており、従来より、つやのある被膜を形成する目的でアルコール溶液、あるいはアルカリ溶液に溶解して食品、医薬品等の表面に薄い被膜の形成に使用されてきた。これらの被膜はシェラックが耐水性、耐酸性を有することを利用して内容物を保護するか、あるいは光沢剤とすることが目的であり、さらに、咀嚼、あるいは周囲のpH変化等により、容易に物理的、化学的に被膜が壊れ、内部の食品の飲食あるいは医薬品の摂取を可能にするものであった。シェラックを用いたマイクロカプセル化の技術としては、例えば、可食性物質の乳化物、粉末香料、酸味料、甘味料などの被分散物質にpH6.0〜9.0であるシェラック水溶液を添加混合し、乾燥することにより、熱安定性の高い、優れた徐放性乾燥物を得る方法(特許文献6)、乳化製剤、粉末香料、酸味料、甘味料などの被分散物質および粉状シェラックにシェラックアルコール溶液を添加混合し、乾燥後、粉砕することにより、熱安定性の高い、優れた徐放性乾燥物を得る方法(特許文献7)などが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献6および7の方法は、エタノール溶液やアルカリ水溶液を用いて芯物質に薄い皮膜のカプセルを形成する方法であり、通常は、これらの方法で形成されたシェラックの皮膜は非常に薄く、また、もろさを有しているため、一度、膜が壊れると内容成分が外部に流出しやすく、十分な徐放性、持続性を有するとは言えなかった。また、これらの方法で厚くて丈夫なシェラック被膜を形成しようとすると、大量のシェラックのエタノール溶液やアルカリ水溶液を用意しなければならず、また、乾燥のために大量のエタノールや水を留去しなければならず、作業的、経済的に不利であるという欠点を有していた。
【0008】
したがって、簡便、容易に製造可能で、さらに持続性の高いマイクロカプセル化技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−215349号公報
【特許文献2】特開平4−293454号公報
【特許文献3】特開平5−292890号公報
【特許文献4】特開平6−14739号公報
【特許文献5】国際公開WO2003/041509号パンフレット
【特許文献6】特開2009−55850号公報
【特許文献7】特開2009−55851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、製造時において、芯物質として香料の様な揮発性の高い物質を用いても揮散による散逸がなく、香料、甘味料、調味料、酸味料、機能性物質などの芯物質が完全に包接され、耐熱性および保存安定性に優れ、また、粉末の流動性が高く、高湿度環境下でもブロッキングを起こしにくく、さらには、チューインガムなどに配合した場合に、咀嚼による芯物質の放出が徐々に起こり、長時間持続する粉末組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために、香料などを包接するための壁材の素材および包接方法について鋭意検討した。シェラックは、従来は前述の通り、アルコール溶液、あるいはアルカリ溶液に溶解してコーティングし、乾燥して皮膜を形成して用いられてきた。このものは前述の通り、皮膜が薄く、もろさを有しているため、一度、膜が壊れると内容成分が外部に流出しやすく、また、製造に手間とコストがかかるという欠点を有していた。ところが、シェラックを加熱して溶融または半溶融状態とした後、冷却固化したものは強度、弾力性共に非常に高く、マイクロカプセルの被覆材として、有用である可能性が予想された。そこで、本発明者らは粉末状の芯物質と粉末状またはフレーク状のシェラックを粉体状態で混合し、混合物を加熱溶融した後、冷却固化し、粉砕して粉末を得たところ、おどろくべきことに、芯物質の放出が極めてゆっくりであるマイクロカプセルが非常に簡便な方法により得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして、本発明は粉末状の芯物質、および、粉末状またはフレーク状のシェラックを粉体状態で混合し、これらの混合物を加熱して溶融または半溶融状態とした後、冷却、固化し、粉砕することを特徴とする粉末組成物の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は粉末状の芯物質が、粉末香料、粉末甘味料、粉末調味料、粉末酸味料および粉末機能性物質から選ばれる1種以上であることを特徴とする前記の粉末組成物の製造方法を提供するものである。
【0014】
さらに、本発明は、粉末状の芯物質の粒度が、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて乾式法により体積基準で測定した際の平均粒子径(メジアン径)として、10μm〜2000μmであることを特徴とする前記の粉末組成物の製造方法を提供するものである。
【0015】
さらにまた、本発明は、シェラックを、粉末組成物中に質量換算で5%〜70%含有することを特徴とする前記の粉末組成物の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、さらに本発明は、溶融または半溶融状態とするための加熱温度が50℃〜110℃であることを特徴とする、前記の粉末組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により得られた粉末組成物は、徐放性に優れており、チューインガムに配合した場合、芯物質である香料、甘味料、調味料、酸味料、機能性物質などの持続性が極めて高い。また、芯物質の粒度、または、シェラックに、さらに糖、糖アルコールなどの炭水化物系の素材を併用することにより、容易に徐放性を調整することができる。また、香料のような揮発しやすく劣化しやすい素材を芯物質としても、加熱溶融の温度が低いため、製造時に香気の揮散による散逸が少なく、オリジナルの香料の香気を良好に再現できる。また、加熱溶融後、再固化したシェラックは耐熱性が高いため、耐熱性を有しており、焼き菓子などに使用して、焼き上げた後でも芯物質が十分に残存する。さらに、包接が完全にされているため芯物質の保存安定性が良い。さらにまた、粉体の表面が固化したシェラックで被覆された状態となっているため、粉末としての流動性が高く、高湿度環境下でもブロッキングを起こしにくい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で、芯物質として使用可能な素材は、マイクロカプセル化により、徐放性を持たせようとする素材であれば、いかなる素材でも使用可能である。なお、これらの素材は、後の工程で、粉末またはフレーク状のシェラックと、一旦、粉体状態で混合するため、粉末状の素材である必要がある。これらの素材のうち特に好ましいものとして、粉末香料、粉末甘味料、粉末調味料、粉末酸味料および粉末機能性物質を例示することができる。
【0019】
本発明で用いる香料としては特に制限はなく、各種天然精油、エキストラクト、オレオレジン、レジノイドなどの天然の抽出物、合成香料化合物、またはこれらを調合した調合香料のいずれであっても使用することができる。天然精油としては、例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツなどの柑橘類精油、花精油、ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油などの植物精油が挙げられ、天然物の抽出物としては、例えば、コーラナッツエキストラクト、コーヒーエキストラクト、ワニラエキストラクト、ココアエキストラクト、紅茶エキストラクト、スパイス類エキストラクトなどの油性のエキストラクト、レジノイドおよびこれらのオレオレジン類などが挙げられ、合成香料化合物としては、例えば、“日本における食品香料化合物の使用実態調査”(平成12年度 厚生科学研究報告書;日本香料工業会 平成13年3月発行)、”合成香料 化学と商品知識”(2005年3月22日増補改訂版発行 印藤元一著 化学工業日報社)等に記載のエステル類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、フェノール類、エーテル類、ラクトン類、炭化水素類、含窒素及び/又は含硫化合物類、酸類の群から選ばれる少なくとも1種以上の合成香料などを例示することができる。
【0020】
本発明で用いることのできる甘味料としては特に制限はなく、例えば、アセスルファムK、スクラロース、アスパルテーム、ネオテーム、グリチルリチン酸二ナトリウム、ソーマチン、サッカリンおよびその塩、羅漢果抽出物、甘草抽出物、レバウディオサイウドA、ステビア抽出物、酵素処理ステビア抽出物、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンなどの高甘味度甘味料類;キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、パラチニット、還元水あめなどの糖アルコール類;砂糖、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、乳糖、ガラクトース、マルチトース、トレハロースなどの糖類などを例示することができる。
【0021】
本発明で用いることのできる調味料としては特に制限はなく、例えば、L−アスパラギン酸ナトリウム、DL−アラニン、グリシン、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、L−テアニン、5’−リボヌクレオチド二ナトリウム、5’−リボヌクレオチド二カルシウムなどのアミノ酸系または核酸系調味料を例示することができる。
【0022】
本発明で用いることのできる酸味料としては特に制限はなく、例えば、クエン酸、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、DL−酒石酸、L−酒石酸、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウムなどを例示することができる。
【0023】
本発明で用いることのできる機能性物質としては特に制限はなく、例えば、香辛料抽出物、カフェイン、キナ抽出物、ゲンチアナ抽出物、テオブロミン、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物、タンニンなどの苦味料類;β−カロテン、パプリカ色素、食用赤色2号、食用黄色5号、リボフラビン、アナトー色素、カカオ色素、クチナシ青色素、クチナシ黄色素、コチニール色素、クロロフィル、ビートレッド、ブドウ果皮色素、ベニバナ黄色素、マリーゴールド色素、ベニコウジ色素、ムラサキイモ色素、ラック色素、ルチンなどの天然色素類;肝油、ビタミンA、ビタミンA油、ビタミンD、ビタミンB12、リボフラビン酪酸エステル、天然ビタミンE混合物、コエンザイムQ10などの脂溶性ビタミン類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、葉酸、ニコチン酸、ビタミンC、ビタミンPなどの水溶性ビタミン類;大豆油、ナタネ油、コーン油、オリーブ油、ヤシ油、サフラワー油、ヒマワリ油、米油、牛脂、豚油、魚油などの動植物油脂類;ロジン、コーパル、ダンマル、エレミ、エステルガムなどの植物性樹脂類;炭素原子数6〜12の中鎖飽和脂肪酸トリグリセライドなどの加工食用油脂及びこれら可食性油性材料などを例示することができる。
【0024】
本発明では、芯物質として用いる物質であって、香料その他の脂溶性の物質などの脂溶性液状の芯物質は、あらかじめ噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの方法により粉末化することにより粉末状とすることができる。粉末状の芯物質の調製においては、前記の香料材料混合物や脂溶性の機能性物質などを、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、化工澱粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、デキストリン、単糖類、二糖類、ポリオール類などの、界面活性剤や適当な賦形剤などを用いて乳化し、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの乾燥法により乾燥することにより得ることができる。
【0025】
また、前述の芯物質のうち固体状の芯物質もまた、粉末状であることが好ましい。粉末状とするための方法としては、固体の芯物質の粒度が大きい場合は、ハンマーミル、フェザーミルなどの、食品製造で用いられる一般的な粉砕機を用いて粉砕することができる。
【0026】
粉砕後の粒度の調整は粉砕を行う乾燥物の状態、粉砕に用いる装置、粉砕時間を組み合わせて行うことができる。またさらに、粒径をそろえたい場合には振動篩等の分別装置を用い、所望の範囲の粒子を得ることも可能である。
【0027】
これらの粉末の粒度としては、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて乾式法により体積基準で測定した際の平均粒子径(メジアン径)として、10μm〜2000μm、好ましくは20μm〜1000μm、より好ましくは50μm〜500μmの範囲内を例示することができる。本発明においては、粉末状の芯物質は後の工程で粉末状またはフレーク状のシェラックと混合し、溶融、固化するが、このとき、粒度が2000μmよりも大きい場合、シェラックによる包接が均一に行われず、また、カプセルが崩壊して芯物質が溶出しやすく、持続性が悪くなってしまい、本発明の効果を示さない。また、粒度が10μmよりも小さい場合、包接は良好に行われるが、芯物質がいつまでも溶出せず、香味、呈味、機能などを発現しにくくなってしまう。
【0028】
次いで、粉末状の芯物質を粉末状またはフレーク状のシェラックと混合する。シェラックは、ラックカイガラムシが豆科や桑科などの樹木に寄生して、樹液を吸って体外に分泌した樹脂状物(スチックラック)を粉砕し、ふるい分けをして水洗し、虫殻や木質、水溶性色素などを除去してシードラックを得、次いで溶融または溶液状態とした後、濾過して精製して得られる天然の樹脂である。シェラックには、シェラックロウを除去していない含蝋品と除去した脱蝋品があり、また、シェラック元来の天然色素を漂白、あるいは脱色したものがある。漂白シェラックは、アルカリ水溶液にシードラックを溶解し、次亜塩素酸ナトリウムで漂白し、無機酸でアルカリを中和させてシェラックを沈殿させることによって、製造される。漂白脱蝋シェラックは製造過程の間で濾過によりワックスを除去して得ることができる。シェラックはFDA(米国食品医薬局)においてGRAS物質(一般に安全と認められる物質)として認められている。
【0029】
シェラックは常温でエタノールにゆっくりではあるがよく溶けるが、水に不溶であり、エタノール以外の有機溶剤にもほとんど不溶または膨潤するだけである。また、熱硬化性樹脂であり、熱により容易に溶融するが、一度熱硬化したあとは、熱や溶剤にも侵されにくいという特徴がある。
【0030】
本発明で使用することのできるシェラックは、精製シェラック、漂白シェラック、脱色シェラックなどのいずれでも使用することができる。また、市販のシェラックは粉末またはフレーク状で販売されているが、いずれの形状でも使用することができる。これらの市販のシェラックは、例えば、岐阜セラック(株)、日本シェラック工業(株)、興洋化学(株)などから入手することができる。
【0031】
本発明では、まず、粉末状の芯物質と粉末またはフレーク状のシェラックを粉体状態で混合する。混合に際しては、混合物全体に対する粉末またはフレーク状のシェラックの割合を質量換算で5%〜70%、好ましくは10%〜60%、より好ましくは20%〜50%とする。混合物全体に対する粉末またはフレーク状のシェラックの割合が5%を下回ると、芯物質のコーティングが不十分で、持続性が悪くなってしまい、本発明の効果を示さない。また、混合物全体に対する粉末またはフレーク状のシェラックの割合が70%を超えた場合、包接は良好に行われるが、芯物質がいつまでも溶出せず、香味、呈味、機能などを発現しにくくなってしまう。
【0032】
本発明では、粉末状の芯物質と粉末またはフレーク状のシェラックの粉体混合物に、本発明の効果を妨げない範囲で、さらに他の賦形剤を加えることもできる。他の賦形剤を加えることにより、徐放性をやや低下させたり、持続性を短縮するなどの、徐放性、持続性の調整を行うことができる。使用することができる賦形剤としては、例えば、デキストリン、化工澱粉、澱粉、アラビヤガム等の高分子賦形剤;砂糖、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、乳糖、ガラクトース、マルチトース、トレハロースなどの糖類;キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、パラチニット、還元水あめなどの糖アルコール類を例示することができる。
【0033】
これらの賦形剤の混合割合は、加熱溶融前の粉体混合物全体に対して質量換算で0%〜50%の範囲内で適宜、出来上がった粉末組成物の徐放性、持続性を調整しながら決定することができる。
【0034】
本発明では、次いで、前記粉末状の芯物質、前記粉末状またはフレーク状のシェラック、および、必要に応じて前記賦形剤を粉体状態で混合する。粉体状態で一旦混合することにより、後の工程における加熱による溶融または半溶融において、芯物質の周りを溶融または半溶融のシェラックが覆い囲む状態となり、冷却により、固化して芯物質が均一に包接されたカプセルが出来上がる。粉体状態での混合は、攪拌釜、ニーダー、ナウターミキサー、リボンミキサー、エクストルーダーなどの粉体混合機により行うことができる。
【0035】
本発明では、次いで、これらの粉体混合物を加熱して、シェラックおよび/または賦形剤を溶融または半溶融状態とする。この際の溶融または半溶融とするための温度は50℃〜110℃、好ましくは70℃〜110℃とすることができる。温度が50℃を下回る場合、シェラックが融解または半融解状態とならないため、均一なマトリクスを形成することができず好ましくない。また、温度が110℃を上回ってしまう場合、香料や機能性物質などの芯物質の熱劣化が起こる可能性があり好ましくない。
【0036】
これらの、混合物を加熱して糖質を溶融または半溶融状態とするための装置は、粉体混合機がジャケット等の加熱装置を有している場合は、そのまま加熱しても良いし、加温した二軸エクストルーダーに送り込んで加熱と押出を連続的に行っても良い。また、二軸エクストルーダーを使用する場合は、粉体の混合〜加熱による溶融または半溶融〜押しだしを連続的に行うこともできる。
【0037】
加熱による溶融または半溶融物は装置から抜き出した後、例えば、トレーなどに乗せ、薄膜状またはひも状とすることで固化させることができる。またこの際、トレーなどの裏側を冷却機で冷却することにより、効率よくマトリクスを固化させることができる。また、二軸エクストルーダーなどを用いて押出を行った場合は、冷却雰囲気下への押出、減圧雰囲気下への押出による気化熱を奪われることによる冷却などにより固化することができる。
【0038】
本発明では、次いで、得られた固化物を適当な粉砕機を用いて粉砕し粉末組成物を得る。粉砕する装置としては、例えば、振動ミル、ボールミル、フェザーミル、ハンマーミルなどの粉砕機が挙げられる。これらの粉砕機を用いて適当なメッシュサイズまたは目開き寸法の出口を通過させることにより、使用目的に応じた適当な粒径の粉末組成物を得ることができる。
【0039】
以上の本発明の方法により得られた粉末組成物は、製造時に芯物質の熱劣化が少なく、また、シェラックによる包接が完全にされているため徐放性、持続性に優れ、耐熱性、保存安定性が良く、粉末としての流動性が高く、高湿度環境下でもブロッキングを起こしにくい。
【0040】
本発明の粉末組成物を添加することのできる飲食品類としては、例えば、チューインガム、焼き菓子、錠菓、キャンディ、粉末スープ、スナック食品、食肉水産加工品、インスタント食品、レトルト食品、調理食品、嗜好飲食品など各種飲食品およびその他の飲食品などが挙げられ、これらの飲食品に、香料、甘味料、調味料、酸味料または機能性組成物として適当量を添加することにより、加工及び保存時にこれらの成分の変化が抑えられ、飲食時には徐放性、持続性を発揮することができ、満足感を得ることができる飲食品類を提供することができる。
【0041】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0042】
[参考例1]メントール粉末香料の調製
軟水1300gに化工澱粉(ピュリティガムBE:日本エヌエスシー社製)300gおよびデキストリン(パインデックス(登録商標)No.1:松谷化学工業社製)400gを溶解した後、メントール300gを添加し、ホモミキサーにて乳化粒子径0.5μm〜2μm程度に乳化を行い、O/Wエマルジョンを得た。このエマルジョンをモービルマイナー型スプレードライヤー(GAEプロセスエンジニアリング(株)社製)を使用して、熱風入り口温度150℃、排風温度80℃、アトマイザー回転数20000rpmにて噴霧乾燥を行い、メントールを30%含有する粉末香料1000gを得た(参考品1)。参考品1の粒度を、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて乾式法により体積基準で測定した結果、平均粒子径(メジアン径)は45.7μmであった。
【0043】
[実施例1]
参考品1(100g)と粉状シェラック100gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0044】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物200g(本発明品1:メントール15%、シェラック50%含有)を得た。
【0045】
[実施例2]
参考品1(70g)と粉状シェラック130gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0046】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物200g(本発明品2:メントール10.5%、シェラック65%含有)を得た。
【0047】
[実施例3]
参考品1(160g)と粉状シェラック40gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0048】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物200g(本発明品3:メントール24%、シェラック20%含有)を得た。
【0049】
[実施例4]
参考品1(180g)と粉状シェラック20gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0050】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物200g(本発明品4:メントール27%、シェラック10%含有)を得た。
【0051】
[実施例5]
参考品1(100g)、デキストリン(パインデックスNo.1:松谷化学工業社製)50gおよび粉状シェラック50gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0052】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物180g(本発明品5:メントール15%、シェラック25%含有)を得た。
【0053】
[比較例1]
参考品1(194g)と粉状シェラック6gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0054】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別してメントール含有粉末組成物180g(比較品1:メントール29.1、シェラック3%含有)を得た。
【0055】
[比較例2]
軟水1300gに化工澱粉(ピュリティガムBE:日本エヌエスシー社製)300gおよびデキストリン(パインデックスNo.1:松谷化学工業社製)400gを溶解した後、メントール300gを添加し、ホモミキサーにて乳化粒子径0.5μm〜2μm程度に乳化を行い、O/Wエマルジョンを得た。次いでこのO/WエマルジョンにpH7.0の25%シェラック水溶液400gを添加混合し、このエマルジョンをモービルマイナー型スプレードライヤー(GAEプロセスエンジニアリング(株)社製)を使用して、熱風入り口温度150℃、排風温度80℃、アトマイザー回転数20000rpmにて噴霧乾燥を行い乾燥物を得た。得られた乾燥物を30メッシュで篩別し、粉末香料1100gを得た(比較品2:メントール27.3%、シェラック9.1%含有)。
【0056】
[比較例3]
軟水1300gに化工澱粉(ピュリティガムBE:日本エヌエスシー社製)300gおよびデキストリン(パインデックスNo.1:松谷化学工業社製)400gを溶解した後、メントール300gを添加し、ホモミキサーにて乳化粒子径0.5μm〜2μm程度に乳化を行い、O/Wエマルジョンを得た。次いでこのO/WエマルジョンにpH7.0の25%シェラック水溶液1000gを添加混合し、このエマルジョンをモービルマイナー型スプレードライヤー(GAEプロセスエンジニアリング(株)社製)を使用して、熱風入り口温度150℃、排風温度80℃、アトマイザー回転数20000rpmにて噴霧乾燥を行い乾燥物を得た。得られた乾燥物を30メッシュで篩別し、粉末香料1250gを得た(比較品3:メントール24%、シェラック20%含有)。
【0057】
[比較例4]
参考品1(100g)に粉状シェラック41.5gをあらかじめ混合し、次いでシェラックを95%エタノールに質量換算で等量混合・溶解したシェラックエタノール溶液41.5gを混合した。混合品を押出造粒機バスケットリューザ(不二パウダル社製)を用い、スクリーン0.7mmで押出し、真空乾燥機で1Pa、60℃、15時間乾燥した。得られた乾燥物を30メッシュで篩別し、乾燥物162.25g(比較品4:メントール18.5%、シェラック38.4%含有)を得た。
【0058】
香味溶出試験1(チューインガムへの賦香試験および官能評価)
下記に示すチューインガム基材に参考品1、本発明品1〜5または比較品1〜4をチューインガム中のメントール含量として0.18%となるようにそれぞれ添加し、高せん断型ミキサーを用いて常法により約50℃で混合し、冷却後ロールにかけて圧展成型し、1枚3gのチューインガムを調製した。
【0059】
得られたチューインガムは10名の専門パネルによりチューインガムを噛んだときメントールの香気が持続する時間とその強さを官能的に評価した。その際、メントール感は噛んだ後も口内の感覚がある程度持続するので、ある時間噛み続けた後、咀嚼を中断しその時点での官能評価を行い、メントール感が消失した時点で咀嚼を再開し、次の時間の咀嚼の官能評価を行った。上記試験では7分間、5分間、3分間の3回、計15分間の咀嚼を行い、メントールの発現の持続性を比較した。また、それぞれの特徴および総合評価を記載した。その平均的な評価結果を表1に示す。
【0060】
チューインガム基材組成
原料 配合量
チューインガムベース 100質量部
砂糖 250
ブドウ糖 40
コーンシロップ(Bx85) 60
グリセリン 3
参考品1、本発明品または比較品 表1に記載の量
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示した通り、シェラックを全く含まない参考品1は約1分後にシャープな香味のピークが現れた後、急激に香味が減少して約5分後には香気が消失した。また、メントール特有の刺激感、苦味が感じられた。一方、本発明の方法により調製した本発明品1(シェラック50%含有)は香味のピークが5〜9分後に現れ、その後、なだらかに減少し15分以上香味が持続しており良好であった。また、メントール特有の刺激感、苦味が緩和され、力強くマイルドな香味となっていた。また、シェラック65%含有である本発明品2、シェラック20%含有である本発明品3は、いずれも、ピーク時間にやや違いがあるが、本発明品1と同様に、香味のなだらかなピークの後に、なだらかな減少を示し、15分以上香味が持続し、また、メントール特有の刺激感、苦味が緩和され、マイルドな香味となっていた。本発明品4(シェラック10%含有)では、咀嚼はじめからやや香味の発現がシャープであり、ピークの出現も本発明品1〜3と比べると早かったが、持続時間も長く、またメントール特有の刺激感、苦味が少なく良好であった。本発明品5はシェラックの他に賦形剤としてデキストリンを使用したものであるが、本発明品1と比べ、やや、ピークの出現が早かったが、それ以外は本発明品1とほぼ同様の香味発現を示した。したがって、シェラックの他に賦形剤を使用することにより、香味ピーク出現までの時間が早まることが判明した。
【0063】
一方、シェラック使用量を減らした比較品1(シェラック含量3%)は、香味の発現がシャープで、メントール特有の刺激感、苦味が感じられ、また、香味の消失も早く、7分経過後はほとんど香味が感じられなかった。
【0064】
比較品2(シェラック9.1含量%)は芯物質としてのメントール粉末香料の調製時、すなわち、メントールの乳化時にあらかじめシェラックアルカリ水溶液を添加してから噴霧乾燥により粉末を得た物であるが、香味の発現は弱く、また、比較的早く(3〜4分)にピークが感じられる。しかし、長続きせず、6分頃には消失した。比較品3(シェラック20%含有)は比較品2のシェラック使用量を増やしたものであるが、香味の発現は弱く、はっきりせず、8〜10分にピークがあるが、あまり目立たず、13分頃には消失した。比較品4(シェラック38.4%含有)は本発明の加熱溶融法に代えて、シェラックのエタノール溶液を用いてカプセル化したものであるが、香味の発現は弱く、はっきりせず、8〜10分にピークがあるが、あまり目立たず、12分頃には消失した。
【0065】
吸湿安定性に関する試験
参考品1、本発明品1〜5および比較品1〜4をシャーレにそれぞれ5gずつ採取し、粉末を均一に敷き詰めた後、温度40℃、相対湿度60%にて5時間の吸湿試験を行った。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示したとおり参考品1(メントールの粉末香料)はブロッキングはしていないが、流動性がやや低下しており、吸湿の影響が見られた。
【0068】
一方、本発明品1〜5は吸湿試験後も完全に良好な状態を維持しており、高湿度下での安定性が極めて良好であることが判明した。
【0069】
なお、シェラック使用量を減らした比較品1(シェラック含量3%)、メントールの乳化時にあらかじめシェラックアルカリ水溶液を添加してから噴霧乾燥により粉末を得た比較品2(シェラック9.1%含有)、比較品3(シェラック20%含有)および本発明の加熱溶融法に代えて、シェラックのエタノール溶液を用いてカプセル化した比較品4(シェラック38.4%含有)のいずれも吸湿試験後も完全に良好な状態を維持しており、高湿度下での安定性が極めて良好であった。
【0070】
[参考例2](レモン粉末香料の調製)
軟水1300gに化工澱粉300gおよびデキストリン400gを溶解した後、レモンオイル300gを添加し、ホモミキサーにて乳化粒子径0.5μm〜2μm程度に乳化を行い、O/Wエマルジョンを得た。このエマルジョンをモービルマイナー型スプレードライヤー(GAEプロセスエンジニアリング(株)社製)を使用して、熱風入り口温度150℃、排風温度80℃、アトマイザー回転数20000rpmにて噴霧乾燥を行い、レモンオイルを30%含有する粉末香料1000gを得た(参考品2)。参考品2の粒度を、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて乾式法により体積基準で測定した結果、平均粒子径(メジアン径)は60.4μmであった。
【0071】
[実施例6]
参考品2(100g)と粉状シェラック100gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0072】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物200g(本発明品6:レモンオイル15%、シェラック50%含有)を得た。
【0073】
[比較例5]
実施例6において、押出条件を下記の通りに変更する以外は、実施例6と全く同様の操作を行い、比較品5(レモンオイル15%、シェラック50%含有)200gを得た。
【0074】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:140℃
ダイ面の設定温度:127℃
ダイから押し出された時の品温:134℃
スクリュー回転数:60rpm
【0075】
[比較例6]
軟水1300gに化工澱粉(ピュリティガムBE:日本エヌエスシー社製)300gおよびデキストリン(パインデックスNo.1:松谷化学工業社製)400gを溶解した後、レモンオイル300gを添加し、ホモミキサーにて乳化粒子径0.5μm〜2μm程度に乳化を行い、O/Wエマルジョンを得た。次いでこのO/WエマルジョンにpH7.0の25%シェラック水溶液1000gを添加混合し、このエマルジョンをモービルマイナー型スプレードライヤー(GAEプロセスエンジニアリング(株)社製)を使用して、熱風入り口温度150℃、排風温度80℃、アトマイザー回転数20000rpmにて噴霧乾燥を行い乾燥物を得た。得られた乾燥物を30メッシュで篩別し、粉末香料1250gを得た(比較品6:レモンオイル24%、シェラック20%含有)。
【0076】
[比較例7]
参考品2(100g)に粉状シェラック41.5gをあらかじめ混合し、次いでシェラックを95%エタノールに質量換算で等量混合・溶解したシェラックエタノール溶液41.5gを混合した。混合品を押出造粒機バスケットリューザ(不二パウダル社製)を用い、スクリーン0.7mmで押出し、真空乾燥機で1Pa、60℃、15時間乾燥した。得られた乾燥物を30メッシュで篩別し、乾燥物162.25g(比較品7:レモンオイル18.5%、シェラック38.4%含有)を得た。
【0077】
香味溶出試験2(チューインガムへの賦香試験および官能評価)
香味溶出試験1と同じ基材に参考品2、本発明品6または比較品5〜7をチューインガム中のレモンオイル含量として0.18%となるようにそれぞれ添加し、高せん断型ミキサーを用いて常法により約50℃で混合し、冷却後ロールにかけて圧展成型し、1枚3gのチューインガムを調製した。
【0078】
得られたチューインガムは10名の専門パネルによりチューインガムを噛んだときレモンの香気が持続する時間とその強さを溶出試験1と同様の方法で官能的に評価した。その平均的な評価結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3に示した通り、シェラックを全く含まない参考品2は約1分後にはシャープな香味のピークが現れた後、急激に香味が減少して約5分後には香気が消失した。一方、本発明の方法により調製した本発明品6(シェラック50%含有)は香味のピークが5〜9分後に現れ、その後、なだらかに減少し15分以上香味が持続しており良好であった。また、レモンのフレッシュな香気、香味を有していた。加熱溶融温度を上げた比較品5は香気の発現は本発明品6と同様であるが、レモンのトップのフレッシュ感に乏しく、やや劣化臭を感じた。比較品6(シェラック20%含有)は芯物質としてのレモン粉末香料の調製時、すなわち、レモンオイルの乳化時にあらかじめシェラックアルカリ水溶液を添加してから噴霧乾燥により粉末を得た物であるが、香味の発現は弱く、はっきりせず、8〜10分にピークがあるが、あまり目立たず、13分頃には消失してしまった。比較品7(シェラック38.4%含有)は本発明の加熱溶融法に代えて、シェラックのエタノール溶液を用いてカプセル化したものであるが、香味の発現は弱く、はっきりせず、8〜10分にピークがあるが、あまり目立たず、12分頃には消失してしまった。
【0081】
保存安定性に関する試験
参考品2、本発明品6および比較品5〜7をそれぞれ30gづつ7cm×11cmのビニール袋に採取し、密閉し、40℃、暗所にて4週間保存試験を行った。保存後のサンプルは0.1%水に希釈し(参考品1のみ0.017%)、10名の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。10人の平均的な官能評価結果を表4示す。
【0082】
【表4】

【0083】
表4に示したとおり、参考品2(レモンオイルの粉末香料)は保存によりレモンの劣化臭が強くなってしまったが、本発明品6は保存試験後もレモンのフレッシュで良好な香味を維持し、劣化臭は全く感じられず、非常に保存安定性が良いことが判明した。一方、加熱溶融温度を上げた比較品5はレモンのフレッシュな香気が弱まるとともに、レモンの劣化臭も感じられた。また、比較品6(シェラック20%含有)は芯物質としてのレモン粉末香料の調製時、すなわち、レモンオイルの乳化時にあらかじめシェラックアルカリ水溶液を添加してから噴霧乾燥により粉末を得たものであるが、レモンのフレッシュな香気がやや弱まり、わずかに劣化臭が感じられた。さらにまた、比較品7(シェラック38.4%含有)は本発明の加熱溶融法に代えて、シェラックのエタノール溶液を用いてカプセル化したものであるが、やはり、レモンのフレッシュな香気がやや弱まり、わずかに劣化臭が感じられた。したがって、本発明により、芯物質とシェラックを粉体状態で混合し、加熱溶融後、冷却、固化し、粉砕して得た粉末組成物は、シェラックの溶液を用いてコーティングした粉末組成物よりも保存安定性が良いことが示された。
【0084】
[参考例3](バターフレーバー粉末香料の調製)
軟水1300gに化工澱粉300gおよびデキストリン400gを溶解した後、バターフレーバー(長谷川香料社製)300gを添加し、ホモミキサーにて乳化粒子径0.5μm〜2μm程度に乳化を行い、O/Wエマルジョンを得た。このエマルジョンをモービルマイナー型スプレードライヤー(GAEプロセスエンジニアリング(株)社製)を使用して、熱風入り口温度150℃、排風温度80℃、アトマイザー回転数20000rpmにて噴霧乾燥を行い、バターフレーバーを30%含有する粉末香料1000gを得た(参考品3)。参考品3の粒度を、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて乾式法により体積基準で測定した結果、平均粒子径(メジアン径)は64.8μmであった。
【0085】
[実施例7]
参考品3(100g)と粉状シェラック100gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0086】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:92℃
ダイ面の設定温度:70℃
ダイから押し出された時の品温:81℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物200g(本発明品7:バターフレーバー15%、シェラック50%含有)を得た。
【0087】
[比較例8]
軟水1300gに化工澱粉(ピュリティガムBE:日本エヌエスシー社製)300gおよびデキストリン(パインデックスNo.1:松谷化学工業社製)400gを溶解した後、バターフレーバー(長谷川香料社製)300gを添加し、ホモミキサーにて乳化粒子径0.5μm〜2μm程度に乳化を行い、O/Wエマルジョンを得た。次いでこのO/WエマルジョンにpH7.0の25%シェラック水溶液1000gを添加混合し、このエマルジョンをモービルマイナー型スプレードライヤー(GAEプロセスエンジニアリング(株)社製)を使用して、熱風入り口温度150℃、排風温度80℃、アトマイザー回転数20000rpmにて噴霧乾燥を行い乾燥物を得た。得られた乾燥物を30メッシュで篩別し、粉末香料1250gを得た(比較品8:バターフレーバー24%、シェラック20%含有)。
【0088】
[比較例9]
参考品3(100g)に粉状シェラック41.5gをあらかじめ混合し、次いでシェラックを95%エタノールに質量換算で等量混合・溶解したシェラックエタノール溶液41.5gを混合した。混合品を押出造粒機バスケットリューザ(不二パウダル社製)を用い、スクリーン0.7mmで押出し、真空乾燥機で1Pa、60℃、15時間乾燥した。得られた乾燥物を30メッシュで篩別し、乾燥物162.25g(比較品9:バターフレーバー18.5%、シェラック38.4%含有)を得た。
【0089】
官能評価(焼き菓子への配合)
下記処方により、クッキー生地を混合し、そこに参考品3、本発明品7、比較品8または比較品9をクッキー中のバターフレーバー含量として0.2%となるようにそれぞれ添加し、厚さ5mmにのばし、3cm×3cmのサイズにカットし、170℃に加温したオーブンで15分間焼き上げ、冷却してクッキーを調製した。
【0090】
得られたクッキーは10名の専門パネルにより官能評価を行った。その平均的な評価結果を表5に示す。
(クッキー生地配合例)
薄力粉 100.0質量部
粉糖 60.0
ショートニング 30.0
脱脂粉乳 5.0
食塩 1.0
重炭酸ナトリウム 0.8
重炭酸アンモニウム 1.0
水 18.0
香料組成物(参考品3、本発明品7、比較品8、比較品9)表5の添加量
【0091】
【表5】

【0092】
表5に示したとおり、シェラックを全く含まない参考品3はバターの香味はあるが、弱く、特徴があまり感じられなかった。しかしながら、本発明品7はバターのフレッシュで香ばしい特徴的な香りが口の中に広がり、良好であった。一方、芯物質としてのバターフレーバー粉末香料の調製時、すなわち、バターフレーバーの乳化時にあらかじめシェラックアルカリ水溶液を添加してから噴霧乾燥により粉末を得た比較品8、および、シェラックのエタノール溶液を用いてカプセル化した比較品9はいずれも、参考品3よりはバターの香味が強いが、あまり特徴が感じられず、フレッシュさ、口の中への広がりも不十分であった。したがって、加熱押出溶融によりシェラックをコーティングした本発明品は熱安定性が高いことが示された。
【0093】
[実施例8]
アスパルテーム100g(味の素社製:以下、参考品4とする)と粉状シェラック60gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0094】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:82℃
ダイ面の設定温度:60℃
ダイから押し出された時の品温:71℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物160g(本発明品8:アスパルテーム62.5%、シェラック37.5%含有)を得た。
【0095】
香味溶出試験3(チューインガムへの賦香試験および官能評価)
下記に示すチューインガム基材に参考品4(アスパルテーム)を0.75%または本発明品8を1.2%それぞれ添加し、高せん断型ミキサーを用いて常法により約50℃で混合し、冷却後ロールにかけて圧展成型し、1枚3gのチューインガムを調製した。
【0096】
得られたチューインガムは10名の専門パネルによりチューインガムを噛んだとき甘味が持続する時間とその強さを香味溶出試験1と同様の方法で官能的に評価した。その平均的な評価結果を表6に示す。
【0097】
チューインガム基材組成
原料 配合量
チューインガムベース 270質量部
ソルビトール 90
水素化パーム油 60
コーンシロップ(Bx85) 30
グリセリン 3
【0098】
【表6】

【0099】
表6に示したとおり、参考品4が1分で甘味のピークに達し、5分後にはほとんど甘味を感じなくなったのに対し、本発明品8は咀嚼開始直後の甘味のピークは低いが、咀嚼後15分経過後も甘味の持続が見られ、香味の持続性が高いことが確認された。
【0100】
[実施例9]
無水粉末クエン酸100g(磐田化学工業(株)製):以下、参考品5とする)と粉状シェラック60gをあらかじめ混合し、二軸エクストルーダーEA−20(スエヒロEPM社製)にて加熱して溶融し、スクリーン2mm×12穴のダイにて押出溶融成形を行った。
【0101】
押出条件:混合物を溶融した時の温度:82℃
ダイ面の設定温度:60℃
ダイから押し出された時の品温:71℃
スクリュー回転数:60rpm
押し出された混合物は、ステンレストレーに重なり合わないようにひも状に置き、送風して室温まで冷却し、固化させた後、得られた顆粒物を粉砕し、30メッシュにて篩別して粉末組成物160g(本発明品9:クエン酸62.5%、シェラック37.5%含有)を得た。
【0102】
香味溶出試験4(チューインガムへの賦香試験および官能評価)
香味溶出試験1と同じ基材に参考品5(無水粉末クエン酸)を0.75%または本発明品9を1.2%それぞれ添加し、高せん断型ミキサーを用いて常法により約50℃で混合し、冷却後ロールにかけて圧展成型し、1枚3gのチューインガムを調製した。
【0103】
得られたチューインガムは10名の専門パネルによりチューインガムを噛んだとき酸味が持続する時間とその強さを香味溶出試験1と同様の方法で官能的に評価した。その平均的な評価結果を表7に示す。
【0104】
【表7】

【0105】
表7に示したとおり、参考品5が1分で酸味のピークに達し、5分後にはほとんど酸味を感じなくなったのに対し、本発明品9は咀嚼開始直後の酸味のピークは低いが、咀嚼後15分経過後も酸味の持続が見られ、酸味の持続性が高いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の芯物質、および、粉末状またはフレーク状のシェラックを粉体状態で混合し、これらの混合物を加熱して溶融または半溶融状態とした後、冷却、固化し、粉砕することを特徴とする、粉末組成物の製造方法。
【請求項2】
粉末状の芯物質が、粉末香料、粉末甘味料、粉末調味料、粉末酸味料および粉末機能性物質から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の粉末組成物の製造方法。
【請求項3】
粉末状の芯物質の粒度が、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて乾式法により体積基準で測定した際の平均粒子径(メジアン径)として、10μm〜2000μmであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の粉末組成物の製造方法。
【請求項4】
シェラックを、粉末組成物中に質量換算で5%〜70%含有することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の粉末組成物の製造方法。
【請求項5】
溶融または半溶融状態とするための加熱温度が50℃〜110℃であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の粉末組成物の製造方法。