説明

粉末経鼻投与製剤

本発明によれば、生理活性物質と共に、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末並びに、粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2を含有する粉末経鼻投与製剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、粉末経鼻投与製剤に関するものであり、生理活性物質と共に、非吸水性かつ難水溶性粉末並びに、粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2を含有する、鼻粘膜での生理活性物質の吸収が促進された粉末経鼻投与製剤に関する。
【背景技術】
ホルモン、サイトカイン等の生理活性ペプチドは生体内で重要な役割を担っており、生理活性ペプチド自体を大量生産して医薬品として使用すること、生理活性ペプチドを遺伝子工学、タンパク合成の手法によって構造変化、修飾したものを医薬品として使用することが頻繁に行なわれるようになってきている。
しかし、生理活性ペプチドは、経口投与すると消化管内・消化管壁の消化液、酵素により、分解される危険性があり、また、消化管から吸収された場合にも、吸収後最初に肝臓を通過した後、全身に循環するため、肝臓で分解される危険性がある(肝臓による初回通過効果)と共に、親水性の高い生理活性ペプチドは高分子で極性が高いため、消化管粘膜からは通常殆ど吸収されないという問題がある。
このため、生理活性ペプチドは充分な薬効が得られるよう、通常、経口投与ではなく、注射の形態で、皮内や筋肉内或いは直接的に血液循環に生理活性ペプチドを導入することとしているが、注射剤による投与は患者の通院を必要とし、苦痛を伴うことから、在宅投与、無痛投与できる形態が望まれている。
このような形態の1つとして、粘液で覆われた繊毛をもつ上皮細胞及び基底膜からなり、下部に血管系が発達した鼻腔粘膜(とりわけ、上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介の粘膜)を経由する経鼻投与が提案されているが、上皮細胞は接合帯で密に結合しているため、分子量の大きな生理活性ペプチド等の透過性は低く、透過性を向上させるために種々の製剤が提案されている。
例えば、特公昭62−42888号公報には、生理活性を有するポリペプチド類と、水吸収性でかつ水難溶性の基剤(結晶セルロース等)からなる粉末経鼻投与用組成物が記載されており、特開平8−27031号公報には、分子量40000以下の生理活性物質を平均粒子径250μm以下の粉末ないし結晶状の多価金属化合物キャリヤ(アルミニウム化合物、カルシウム化合物等)に均一に分散、付着結合させた経鼻吸収用組成物が開示されている。
日本薬学会第27回製剤セミナー要旨集第19−20頁には、分子量1000以上の水溶性化合物について、薬物担体として、炭酸カルシウム、エチルセルロース、タルク、硫酸バリウムなどの難溶性粉末を用いた場合、経鼻投与におけるバイオアベイラビリティの向上が見られたことが報告されている。
また、特開平11−322582号公報には、表面に多数の空隙を有する一次造粒微細結晶等(炭酸カルシウム粉末等)のキャリヤに薬物を均一に分散・吸着させた経鼻投与用組成物が開示されている。
更に、特開2002−128704号公報には、生理活性物質、キャリヤ及び生体内吸収促進剤(高置換度ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース)を含む経鼻投与型製剤が記載されており、キャリヤとしては、水溶性高分子化合物(結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体)があげられている。
また、特開昭59−130820号公報には、カルシトニンに、酢酸、酢酸ナトリウムと共に、非イオン性界面活性剤であるポリソルベイト80を加えて、精製水に溶解した経鼻投与用水溶液が開示されている。
ファーマシューティカルリサーチ(Pharmaceutical Research)第7巻、第7号第772−776頁(1990年)には、ヒト成長ホルモンの水性緩衝液に高濃度でN−アセチル−L−システイン等を添加し、ラットに経鼻投与するとバイオアベイラビリティが若干向上することが報告されている。
しかしながら、これら経鼻投与製剤は吸収の向上が充分でないという問題があった。
【発明の開示】
本発明は、生理活性物質、非吸水性かつ難水溶性粉末と共に、粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2を含有する粉末経鼻投与製剤を提供するものであり、その経鼻投与により、生理活性物質が生体内で活性を示すのに充分な血中濃度を達成することができる。
本発明者らは、生理活性物質に、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末並びに、粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2を添加して経鼻投与すれば、生理活性物質の経鼻吸収を著しく向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、生理活性物質、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末並びに、粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2を含有する粉末経鼻投与製剤に関する。
本発明の粉末経鼻投与製剤は、鼻腔内に噴霧/吸入された際、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の存在により、生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤が鼻腔粘膜に付着して滞留し、しかも非吸水性かつ難水溶性物質の粉末が鼻粘膜の粘液を吸収しないため、生理活性物質及び粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤が微量の粘液に溶解し、生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤が局所的高濃度溶液を生じることになる。この状態で、生理活性物質の濃度勾配を利用し、かつ、高濃度に溶解した粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤の作用によって、局所的に鼻粘膜の吸収性自体を向上させて、効率よく生理活性物質を鼻粘膜からその下部に存在する血管系に到達させることができ、生理活性物質の経鼻吸収を促進することができる。
また、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末が、鼻腔内で溶解した薬物を自身で吸い込むことがないため、薬物の利用率を低下させることがない。
しかも、本発明の粉末経鼻投与製剤は、局所点在的に鼻粘膜に作用するため、液状の経鼻投与製剤のように鼻粘膜全体に作用することがなく、鼻粘膜に対する悪影響が少ない。
【図面の簡単な説明】
第1図は、サケカルシトニン(以下SCT)、N−アセチル−L−システイン(以下NAC)及びエチルセルロース(以下EC)含有投与粉末をラットに経鼻投与した場合の血漿SCT濃度の経時変化を示す。
第2図は、SCT、NAC及び酢酸セルロース含有投与粉末をラットに経鼻投与した場合の血漿SCT濃度の経時変化を示す。
第3図は、SCT含有比較粉末(2種)をラットに経鼻投与した場合の血漿SCT濃度の経時変化を示す。
第4図は、SCT含有比較溶液(2種)をラットに経鼻投与した場合の血漿SCT濃度の経時変化を示す。
第5図は、ヒトインシュリンナトリウム塩(以下INS)、NAC及びEC含有投与粉末、INS含有比較溶液をそれぞれラットに経鼻投与した場合の血漿INS濃度の経時変化を示す。
第6図は、ヒト副甲状腺ホルモン1−34(以下PTH)、NAC及びEC含有投与粉末、PTH含有比較溶液をそれぞれラットに経鼻投与した場合の血漿PTH濃度の経時変化を示す。
第7図は、SCT、NAC及びEC含有投与粉末、SCT含有比較溶液をそれぞれイヌに経鼻投与した場合の血漿SCT濃度の経時変化を示す。
第8図は、ウシインシュリン(以下BINS)、NAC及びEC含有投与粉末、BINS含有比較溶液をそれぞれイヌに経鼻投与した場合の血漿BINS濃度の経時変化を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の粉末経鼻投与製剤に用いられる非吸水性かつ難水溶性物質の粉末において、非吸水性かつ難水溶性物質としては、好ましくは吸水速度が5mm/分以下であり、水に対する溶解度(25℃、以下同様)が100mg/L以下の物質、より好ましくは吸水速度が1mm/分以下であり、水に対する溶解度が50mg/L以下の物質、最も好ましくは吸水速度が0.5mm/分以下であり、水に対する溶解度が20mg/L以下の物質をあげることができる。
吸水速度とは、第16回製剤と粒子設計シンポジウム要旨集(1999年)、第163〜167頁に記載された方法に従い、内径2.1cmのガラス筒に粉末を詰め、ガラス筒を鉛直に保ったまま、下端を純水につけ、ガラス筒の下端側から上方に吸水された水上端のガラス筒下端からの距離を測定したものである。
また、本発明の粉末経鼻投与製剤は気体を用いて鼻腔内に噴霧することによって投与することになるため、全体として粉末状の形態をとるものであり、水等の溶媒を極力含まないものが好ましい。
非吸水性かつ難水溶性物質の具体例としては、非吸水性かつ難水溶性のセルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、セルローストリアセテート、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート・サクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース等)、非吸水性かつ難水溶性の高級脂肪酸及びそのエステルもしくは塩(硬化油、水素添加大豆油、カルナウバロウ、サラシミツロウ、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸の塩等)、非吸水性かつ難水溶性の生体内分解性ポリマー(ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体等)、非吸水性かつ難水溶性の合成ポリマー(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等)、非吸水性かつ難水溶性の多価金属塩(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ヒドロキシアパタイト等)、非吸水性かつ難水溶性の金属酸化物(タルク、二酸化ケイ素、酸化チタン等)各種のものを使用することができるが、非吸水性かつ難水溶性のセルロース誘導体を用いるのが好ましく、とりわけ、エチルセルロース、酢酸セルロースを用いるのが好ましく、特に、非吸水性の点では高置換度のエチルセルロース、酢酸セルロースが好ましい。
ここに、高置換度とは、セルロース分子を構成するL−グルコースの水酸基のうち、L−グルコース同士の結合に使用されていない水酸基の水素原子が置換基で平均70%以上、好ましくは平均80%以上、とりわけ好ましくは平均85%以上が置換されているものである。
また、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末としては、粉末粒子の表面に鼻粘膜粘液等が付着しにくい方がよいため、粉末粒子の表面に多数の空隙を有していないものが好ましく、粉末の平均粒子径は、粉末経鼻投与製剤に含まれる生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤の種類、使用の形態等にもよるが、通常、5〜200μmの範囲であればよく、20〜150μmの範囲であるのが好ましく、30〜120μmの範囲であるのが更に好ましく、40〜100μmの範囲であるのが最も好ましい。
非吸水性かつ難水溶性物質の粉末は、市販されている粉末製品をそのまま使用してもよいが、固形の非吸水性かつ難水溶性物質を加工し又は市販の粉末製品を更に加工して、所望の粒子径、形状として使用することもできる。 また、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末は、1つの非吸水性かつ難水溶性物質の粉末であっても、複数の非吸水性かつ難水溶性物質の粉末であってもよい。
非吸水性かつ難水溶性物質を加工する方法としては、慣用の微粒子形成法を適宜使用することができ、例えば、ジェットミル粉砕、ハンマーミル粉砕、回転型ボールミル粉砕、振動ボールミル粉砕、ビーズミル粉砕、シェーカーミル粉砕、ロッドミル粉砕、チューブミル粉砕等により物理的に粉砕する方法;非吸水性かつ難水溶性物質を一旦溶媒に溶解後、温度変化、溶媒組成の変更等を行なって晶析させ、遠心分離或いはろ過等の方法で回収する晶析法;非吸水性かつ難水溶性物質を一旦溶媒に溶解後、スプレーノズルを用いてスプレードライヤーの乾燥室内に噴霧し、短時間に噴霧液内の溶媒を揮発させるスプレードライ法等が採用される。
また、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末は、粒子径のバラツキを抑えるために、篩過、重力沈降式分級、遠心力分級、気流の流れによる慣性力式分級等の方法で粒子径が一定範囲になるように、処理を行なってもよい。
粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2とは、(a)粘液溶解剤、(b)非イオン性界面活性剤並びに(c)粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤のいずれかであることを表し、(a)〜(c)のいずれにおいても、粘液溶解剤、非イオン性界面活性剤は、それぞれ、1つの成分のみからなるものであっても、複数の成分からなるものであってもよい。
粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤としては、生理活性物質の粘膜吸収を促進させるものであればよいが、鼻粘膜への刺激性等の悪影響が少なく、少量で鼻粘膜からの吸収を著しく向上させるものが好ましく、粘液溶解剤単独、又は粘液溶解剤と非イオン性界面活性剤との組合せを使用するのがより好ましく、鼻粘膜への刺激性の点からは粘液溶解剤を使用するのが最も好ましい。
粘液溶解剤の好ましい例としては、システイン誘導体、活性SH基含有アルコールがあげられる。システイン誘導体としては、例えば、N−アセチルシステイン等のN−(C2〜5アルカノイル)システイン、S−メチルシステイン、S−エチルシステイン等のS−(C1〜4アルキル)システイン、S−カルボキシメチルシステイン等のS−(C2〜5カルボキシアルキル)システインがあげられる。
また、システイン誘導体としては、システイン含有ペプチドも含まれ、例えば、トリペプチドの1種であるグルタチオン類があげられる。グルタチオン類の具体例としては、グルタチオンのほか、グルタチオンC1〜8アルキルエステル等のグルタチオンエステル類(米国特許第4784685号参照)があげられる。
これらシステイン誘導体におけるシステインには、DL体、L体、D体が含まれるが、特に、L−システインが好ましい。
活性SH基含有アルコールとしては、C3〜6の活性SH基含有アルコール、より具体的には1,4−ジチオスレイトールがあげられる。
非イオン性界面活性剤としては、タンパク変性能が小さく、膜可溶化能が小さい非イオン性界面活性剤が好ましい。
そのような非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン−C10〜14アルキルエーテル、ポリオキシエチレン−(C6〜10アルキル−フェニル)エーテル、C6〜10アルキル−グルコースエーテル及びN−(C6〜10アルキル)カルバモイル−C1〜4アルキル−グルコースエーテル等があげられる。
ポリオキシエチレン−C10〜14アルキルエーテル及びポリオキシエチレン−(C6〜10アルキル−フェニル)エーテルとしては、ポリオキシエチレン部分が全体の65〜90重量%の範囲のものが好ましく、具体的には平均分子量が560〜1300であるポリオキシエチレン−ラウリルエーテル[例えば、ニッコール製BL−9:ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル;BL−25:ポリオキシエチレン(25)ラウリルエーテル];平均分子量が600〜800であるポリオキシエチレン−オクチルフェニルエーテル、特に、平均分子量が600〜800であるポリオキシエチレン−tert−オクチルフェニルエーテル[例えば、ナカライ製トリトンX−100:ポリオキシエチレン(9−10)p−tert−オクチルフェニルエーテル、トリトンX−102:ポリオキシエチレン(12−13)p−tert−オクチルフェニルエーテル];平均分子量が600〜700であるポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル、特に、平均分子量が600〜700であるポリオキシエチレン−n−ノニルフェニルエーテル[例えば、ニッコール製NP−10:ポリオキシエチレン(10)p−n−ノニルフェニルエーテル]をあげることができる。
6〜10アルキル−グルコースエーテル及びN−(C6〜10アルキル)カルバモイル−C1〜4アルキル−グルコースエーテルとしては、グルコース部分が全体の50〜65重量%の範囲のものが好ましく、具体的には、1−O−オクチル−β−D−グルコピラノシド、特に、1−O−n−オクチル−β−D−グルコピラノシド;6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)メチル−α−D−グルコピラノシド、特に、6−O−(N−n−ヘプチルカルバモイル)メチル−α−D−グルコピラノシドをあげることができる。
更に、非イオン性界面活性剤としては、50%の赤血球を溶血させる水溶液における非イオン性界面活性剤の濃度が1重量%以上、とりわけ、5重量%以上であるようなものが、鼻粘膜への悪影響が少ない点で好ましい。
ここに、50%の赤血球を溶血させる水溶液における非イオン性界面活性剤の濃度は、様々な濃度に調整した非イオン性界面活性剤の生理食塩水溶液に、赤血球を0.2重量%の割合で加え、37°Cで10分間放置後に、上清におけるヘモグロビンの吸光度(540nm)を測定し、精製水に赤血球を同割合で添加して完全に溶血させた場合の吸光度を100%として、各非イオン性界面活性剤濃度での赤血球の溶血率を算出し、内挿法により、50%の溶血率となる非イオン性界面活性剤の濃度を推定したものである。
生理活性物質としては、鼻粘膜に対する刺激が少ない薬物であれば、特に制限はないが、経鼻投与によっては大量の製剤を投与することができないため、少量で薬効を発現する生理活性物質が好ましい。また、本発明の粉末経鼻投与製剤は経鼻吸収されにくい生理活性物質に適用した場合、生理活性物質の経鼻吸収の向上が顕著となるため、生理活性物質として親水性難吸収性物質を使用するのが好ましい。
なお、難吸収性とは生理活性物質の水溶液を噴霧により、ヒトに経鼻投与した場合には、その5%以下しか経鼻吸収されないことをいう。
かかる生理活性物質としては、抗生物質、増血剤、感染症治療剤、抗痴呆剤、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤、解熱剤、鎮痛剤、消炎剤、抗潰瘍剤、抗アレルギー剤、向精神薬、強心剤、不整脈治療剤、血管拡張剤、降圧剤、糖尿病治療剤、抗凝血剤、コレステロール低下剤、骨粗しょう症治療剤、ホルモン剤、ワクチン等として用いられるものがあげられる。
これらには低分子生理活性物質と共に、ペプチド性生理活性物質、多糖類系生理活性物質等が含まれるが、本発明の粉末経鼻投与製剤はペプチド性生理活性物質、多糖類系生理活性物質に適用する場合に顕著な効果を示し、とりわけ、ペプチド性生理活性物質に適用するのが好ましい。
ペプチド性生理活性物質としては、アンタゴニスト、アゴニスト又はこれらの可溶性レセプター及びこれらの誘導体もあげられ、また、糖鎖を有するものについてはその構造が異なるものも含まれる。場合によっては、ポリエチレングリコール等の合成ポリマー、ヒアルロン酸等の天然ポリマーで修飾されていてもよく、ガラクトース、マンノース等の任意の糖、或いは糖鎖又は非ペプチド性化合物で修飾されていてもよい。またリン脂質、脂肪酸等のペプチド性生理活性物質に脂溶性を付加するものでもよい。これらペプチド性生理活性物質は、分子量200〜200000、好ましくは分子量200〜50000、更に好ましくは分子量200〜25000、最も好ましくは分子量200〜10000のものである。
好ましいペプチド性生理活性物質としては、サイトカイン、ペプチドホルモン、成長因子、心臓血管系に作用する因子、中枢及び末梢神経系に作用する因子等が含まれ、具体例としては次のものがあげられる。
サイトカインとしては、インターフェロン類(例えば、インターフェロン−α、−β、−γ)、インターロイキン類(例えば、インターロイキン−1〜11)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF−α、−β)、悪性白血病阻止因子(LIF)、造血因子[例えば、エリスロポエチン、スロンボポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)]等があげられる。
ペプチドホルモンとしては、インシュリン、成長ホルモン、性腺刺激ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、黄体刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)及びその誘導体(ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリン)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)及びその誘導体(タルチレリン)、カルシトニン等があげられる。
成長因子としては、神経成長因子類(例えば、NGF、NGF−2/NT−3)、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF)、血小板由来細胞成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)等があげられる。
心臓血管系に作用する因子としては、エンドセリン、エンドセリンインヒビター、エンドセリンアンタゴニスト、エンドセリン生成酵素阻害剤、デスモプレッシン、レニン、アンジオテンシンI〜III、心房ナトリウム利尿ペプチド(ANP)等があげられる。
中枢及び末梢神経系に作用する因子としては、エンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィン、ネオエンドルフィン等があげられる。
これらのペプチド性生理活性物質には、ポリペプチドの可溶性レセプターをその概念に含む。これらのペプチド性生理活性物質にはそれぞれポリエチレングリコールのようなポリマー、あるいはコンドロイチン、多糖類のような天然ポリマー、又は非ペプチド性物質で化学的に修飾されたものを含んでもよい。ここでいう非ペプチド性物質はレセプターに対するリガンドでもよいし、抗体に対する抗原でもよい。更に、上記ペプチド性生理活性物質は複数のペプチドが化学的な方法又は遺伝子組み換え技術により結合されたものを含んでもよい。
多糖類系整理活性物質としては、低分子ヘパリン、ヘパリン類似物質等をあげることができる。
また、本発明の粉末経鼻投与製剤は、投与後直ぐに生理活性物質が鼻腔粘膜下の血管系から体内に取り込まれ、投与から薬効発現迄の時間が短いため、オンセット時間(薬物を投与後、薬効が発現するまでの時間)が短いことが治療上有用である生理活性物質にも好適に使用することができる。
このため、本発明の粉末経鼻投与製剤は、例えば、麻薬性鎮痛薬(例えば、アルカロイド系麻薬)、片頭痛治療薬[例えば、5−ヒドロキシトリプタミン(HT)1受容体アゴニスト、ニューロキニン(NK)1受容体拮抗薬、iGluR5受容体拮抗薬、βアドレナリン遮断薬]、乗り物酔い薬[例えば、中枢性抗コリン作動薬、抗ヒスタミン薬、5−ヒドロキシトリプタミン(HT)1受容体アゴニスト]、制吐剤[例えば、ニューロキニン(NK)1受容体拮抗薬、5−ヒドロキシトリプタミン(HT)3受容体拮抗薬]、性機能改善薬[例えば、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬、α−メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)アナログ、ドーパミンD2受容体アゴニスト、非ステロイド性アンドロゲン受容体調節薬]、糖尿病薬(例えば、インシュリン)、低血糖時の救急処置薬(例えばグルカゴン)等の生理活性物質にも好適に適用することができる。
本発明の粉末経鼻投与製剤における配合比率は、生理活性物質の種類、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤の種類、これらの使用形態等様々な要因にもよるが、生理活性物質が全体の0.1〜80重量%、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末が全体の15〜99.4重量%、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤が全体の0.5〜5重量%の範囲で使用することができる。
本発明の粉末経鼻投与製剤の投与(噴霧/吸入)量は通常3〜50mg/回、好ましくは5〜20mg/回とするのが好ましいが、このような少ない投与(噴霧/吸入)量でも、本発明の粉末経鼻投与製剤は少量の非吸水性かつ難水溶性物質の粉末、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤を使用するだけで優れた経鼻吸収促進作用が得られるため、生理活性作用を発現させるために比較的大きな体内吸収量(1mg/人/回程度)が必要な生理活性物質迄も経鼻吸収させることができる。
また、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末はそれ自体鼻粘膜で生理活性作用を示さないため、小さな投与(噴霧/吸入)量で充分に生理活性作用を示す生理活性物質を経鼻吸収させる場合には、1回の噴霧/吸入で投与される生理活性物質の量のバラツキを抑制するために、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末を意図的に増量することもできる。
本発明の粉末経鼻投与製剤に含まれる生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤は、粉末状態で非吸水性かつ難水溶性物質の粉末と混合して本発明の粉末経鼻投与製剤とすることができ、そのまま使用することができるが、この場合には鼻腔内に投与する際、各成分が噴霧/吸入によって分離してしまわないように、粉末粒子の密度、粒子径を調整するのが好ましい。
例えば、生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤の外形から計算される密度が、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の外形から計算される密度の0.7〜1.5倍、好ましくは0.8〜1.3倍の範囲内であり、生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤の粉末の粒子径が非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の0.3〜1.2倍、好ましくは0.4〜1.1倍の範囲となるようにするのが好ましい。
生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤も、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末を形成する際に使用する手法を使用して粉末化、粒子径調整をすることができるが、生理活性物質がペプチド性のものである場合には、ペプチド性生理活性物質及びポリエチレングリコールの混合水溶液を凍結乾燥し、得られた固形物に、ポリペプチドは溶解しないがポリエチレングリコールを溶解する有機溶媒を添加するか(特開平11−302156号)、ペプチド性生理活性物質及び相分離誘起剤を含有する水溶液の凍結物に、ペプチド非溶解性の水混和性有機溶媒を添加し(WO02/30449)、生成する懸濁液からペプチド性生理活性物質の粉末を回収することにより、生理活性を保持したまま、粉末化を行なうことができる。
また、生理活性物質及び/又は粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤は、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の表面に固定して本発明の粉末経鼻投与製剤とすることもでき、この形で使用することもできる。
例えば、生理活性物質及び/又は粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤を水性溶媒(例えば、水、水性エタノール、水性アセトン、水性メタノール、水性アセトニトリル)に溶解し、この溶液を非吸水性かつ難水溶性物質の粉末に添加し、減圧乾燥、常温乾燥、凍結乾燥等の方法で乾燥させ、必要に応じて篩過することによって、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の表面に、生理活性物質及び/又は粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤を固定することができる。
また、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末、生理活性物質及び/又は粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤の混合物に水性溶媒(例えば、水、水性エタノール、水性アセトン、水性メタノール、水性アセトニトリル)を添加して練合し、乾燥後に再度所望の粒子径になるよう粉砕、篩過することにより、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末に、生理活性物質及び/又は粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤を固定して本発明の粉末経鼻投与製剤とすることもできる。
なお、本発明の粉末経鼻投与製剤は、乾燥状態で投与されるものであり、溶媒は一切添加しないが、他の粉末固形成分は鼻粘膜に悪影響がなく、かつ、経鼻吸収を妨げないものであれば、生理活性物質の1回の投与(噴霧/吸入)量が一定となるように増量し、生理活性物質の安定性を向上させるために、他の添成分を少量添加することもできる。
かかる少量添加成分としては、例えば、滑沢剤[タルク、ステアリン酸およびその塩(ナトリウム塩、カルシウム塩)、カープレックス等]、結合剤(デンプン、デキストリン等)、pH調節剤(クエン酸、グリシン等)、保存剤(アスコルビン酸等)、防腐剤(パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クロロブタノール等)、矯臭剤(メントール、カンキツ香料等)をあげることができる。
本発明の粉末経鼻投与製剤は、鼻腔内に噴霧することによって投与することができ、所定量を空気又は人体に悪影響のないガス(空気、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス、代替フロンガス等)で粉末経鼻投与製剤を鼻腔内に噴霧すればよい。
噴霧する方法としては、慣用の経鼻投与用器具を何れも使用することができ、例えば、定量噴射式の加圧投与用器具に本発明の粉末経鼻投与製剤を充填し、定量ずつ鼻腔内に噴霧する方法、本発明の粉末経鼻投与製剤を一定量ずつカプセル等に充填し、必要時に、そのまま加圧投与用器具に装着し、穿孔等により粉末経鼻投与製剤を噴霧できるようにした上で、空気又は人体に悪影響のないガスで鼻腔内に噴霧する方法等が考えられる。
また、噴霧する際の空気又は人体に悪影響のないガスの噴出速度は、粉末経鼻投与製剤の構成成分が、鼻腔粘膜のうち、最も吸収効率がよい上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介の粘膜に大部分が到達するように、調節するのが好ましく、ガスの噴出速度と共に、経鼻投与される患者が投与時に鼻から吸引するタイミングに合せて噴霧することにより、より効率的に粉末経鼻投与製剤を吸収部位に到達させることができる。
更に、本発明の粉末経鼻投与製剤は、鼻腔内に噴霧することなく、吸引のみにより、経鼻吸収することも可能であり、本発明の粉末経鼻投与製剤を一定量ずつブリスターパック等に充填し、必要時に、そのまま吸引器具に装着し、加圧等により粉末経鼻投与製剤を取り出すことができるようにした上で、吸引することにより、鼻腔内に粉末経鼻投与製剤を到達させることもできる。
なお、本発明の粉末経鼻投与製剤は、経肺投与、経咽頭粘膜投与等にも使用することもでき、投与方法に応じた慣用の投与器具(経肺投与用噴霧/吸入器具、経咽頭粘膜投与用噴霧器具等)を用いて、患者に投与することができる。
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
サケカルシトニン(分子量3431.9、BACHEM社製、平均粒子径36.6μm、以下、SCT)1.0mg、N−アセチル−L−システイン(フルカ製、平均粒子径45.8μm、以下、NAC)1.5mg及びエチルセルロース(ダウケミカル製、エトセル#10、平均粒子径81.4μm、エチル化度87〜90%、以下EC)27.5mgをよく混合し、投与粉末を得た。
【実施例2】
SCT1.0mg、NAC1.5mg及び酢酸セルロース(片山化学製、平均粒子径88.0μm、アセチル化度53〜56%、以下同様)27.5mgをよく混合し、投与粉末を得た。
【実施例3】
ヒトインシュリンナトリウム塩(分子量5749.5、シグマ製、以下、INS)10mgを30%エタノール水溶液0.3mlに溶解し、この溶液をEC90mgに添加し、室温にて一夜減圧乾燥することにより、INS及びECの混合粉末を得た。こうして得られたINS及びECの混合粉末10mg、NAC1.5mg及びEC18.5mgをよく混合し、投与粉末を得た。
【実施例4】
ヒト副甲状腺ホルモン1−34(分子量4117.8、BACHEM社製、以下、PTH)5mgを30%エタノール水溶液0.3mlに溶解し、この溶液をEC45mgに添加し、室温にて一夜減圧乾燥することにより、PTH及びECの混合粉末を得た。こうして得られたPTH及びECの混合粉末10mg、NAC1.5mg及びEC18.5mgをよく混合し、投与粉末を得た。
【実施例5】
SCT10mgを30%エタノール水溶液0.3mlに溶解し、この溶液をEC90mgに添加し、室温にて一夜減圧乾燥することにより、SCT及びECの混合粉末を得た。こうして得られたSCT及びECの混合粉末30mg、NAC1.5mg及びEC68.5mgをよく混合し、投与粉末を得た。
【実施例6】
ウシインシュリン(分子量5800、シグマ製、以下、BINS)3gを0.1N−HClを含む20%エタノール水溶液60gに溶解し、この溶液をEC97gに添加し、小型ハイスピードミキサーにて攪拌・混合した後、50℃にて4時間乾燥することにより、BINS及びECの混合粉末を得た。同様にNAC1.5gを20%エタノール水溶液60gに溶解し、この溶液をEC98.5gに添加し、小型ハイスピードミキサーにて攪拌・混合した後、50℃にて4時間乾燥することにより、NAC及びECの混合粉末を得た。こうして得られたBINS及びECの混合粉末とNAC及びECの混合粉末を等量ずつよく混合し、投与粉末を得た。
製造例1
ディスポーザブルチップ(ニチリョー製、200μl用)、三方コック(テルモ製)及び1ml注射筒(テルモ製)をこの順序で接続し、粉末経鼻投与用のデバイスを作成した。
このデバイスのディスポーザブルチップの先端部に、投与粉末を充填し、注射筒より空気を送り込むことによって、投与粉末を鼻腔内に噴霧することとした。
比較例1〜2
SCT1.0mg、NAC1.5mg及び次の第1表に示す成分27.5mgをよく混合し、比較粉末を得た。

比較例3
SCT1.0mgを注射用生理食塩水(大塚製薬製、以下、同様)0.05mlに溶解し、比較溶液を得た。
比較例4
SCT1.0mg及びNAC2.5mgを注射用生理食塩水0.05mlに溶解し、比較溶液を得た。
比較例5
INS1.0mgを注射用生理食塩水0.05mlに溶解し、比較溶液を得た。
比較例6
PTH1.0mgを注射用生理食塩水0.05mlに溶解し、比較溶液を得た。
比較例7
SCT3.0mgを注射用生理食塩水1.0mlに溶解し、比較溶液を得た。
比較例8
BINS3.0mgを注射用生理食塩水1.0mlに溶解し、比較溶液を得た。
実験例1
(1) ウイスター系雄性ラット(9〜11週齢、体重:190〜260g、日本SLC)を12時間照明、室温23±2°C、自由摂水・摂餌の条件で1週間馴化させた。その後、実験前約20時間絶食させ、ペントバルビタール(ナカライ製)50mg/kgで麻酔後、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティックス(International Journal of Pharmaceutics)、第7巻、317〜325頁(1981年)に記載の方法に従い、経鼻投与のための手術を施した。
(2) 手術を施したラットに、製造例1で作成した粉末経鼻投与用デバイスを用い、検体投与群のラットには、ラットの片方の鼻腔内に、実施例1又は2で調製した投与粉末をSCT投与量が0.1mg/ラットとなるよう噴霧投与した。
一方、比較群には、ラットの片方の鼻腔内に、比較例1又は2で調製した比較粉末をSCT投与量が0.1mg/ラットとなるよう噴霧投与した。或いは比較例3又は4で調製した比較溶液をSCT投与量が0.1mg/ラットとなるようマイクロピペットを用いてラットの片方の鼻腔内に投与した。
(3) 噴霧投与後、5、10、20、30、45、60、90及び120分後に頚静脈よりヘパリン(持田製薬製)で処理した注射筒(テルモ製、25G)で血液を0.1mlずつサンプリングし、遠心分離(12000rpm、3分)して血漿を得た。血漿のSCT濃度をSCT測定用エンザイムイムノアッセイキット(Peninsula Laboratories製)を用いて測定した。
実施例1及び2の投与粉末についてのSCT血漿中濃度測定の結果をそれぞれ第1図及び第2図に示し、比較例1及び2の比較粉末並びに比較例3及び4の比較溶液についてのSCT血漿中濃度測定の結果をそれぞれ第3図及び第4図に示す。
これらの図において、ポイントは3〜5例の平均値を、バーは標準偏差を示す。
また、これらの図において、常法により、AUC(Area Under Curve)を算出し、別途、SCTを0.1mg/ラットに静脈注射(500μg/mlのSCT注射用生理食塩水溶液を使用)した場合のSCT血漿中濃度測定結果から算出したAUCとの対比により、経鼻投与時のBA(Bioavailability)を算出した。結果を次の第2表に示す。

実験例2
(1) 実験例1(1)で得られたラットに、製造例1で作成した粉末経鼻投与用デバイスを用い、検体投与群のラットには、ラットの片方の鼻腔内に、実施例3で調製した投与粉末をINS投与量が0.1mg/ラットとなるよう噴霧投与した。
一方、比較群には、ラットの片方の鼻腔内に、マイクロピペットを用い、比較例5の比較溶液をINS投与量が0.1mg/ラットとなるよう投与した。
(2) 噴霧投与後、5、10、20、30、45、60、90及び120分後に頚静脈よりヘパリン(持田製薬製)で処理した注射筒(テルモ製、25G)で血液を0.1mlずつサンプリングし、遠心分離(12000rpm、3分)して血漿を得た。血漿の総インシュリン(INS及びラットインシュリン)濃度をインシュリン測定用エンザイムイムノアッセイキット(和光純薬製)を用いて測定した。なお、各測定ポイントのINS血漿中濃度は、各測定値から投与前のラットインシュリン血漿中濃度を差引いた値として表した。
実施例3の投与粉末並びに比較例5の比較溶液についてのINS血漿中濃度測定の結果を第5図に示す。
これらの図において、ポイントは5又は7例の平均値を、バーは標準偏差を示す。
また、これらの図において、常法により、AUC(Area Under Curve)を算出し、別途、INSを0.01mg/ラットに静脈注射(200μg/mlのINS注射用生理食塩水溶液を使用)した場合のINS血漿中濃度測定結果から算出したAUCとの対比により、経鼻投与時のBA(Bioavailability)を算出した。結果を次の第3表に示す。

実験例3
(1) 実験例1(1)で得られたラットに、製造例1で作成した粉末経鼻投与用デバイスを用い、検体投与群のラットには、ラットの片方の鼻腔内に、実施例4で調製した投与粉末をPTH投与量が0.1mg/ラットとなるよう噴霧投与した。
一方、比較群には、ラットの片方の鼻腔内に、マイクロピペットを用い、比較例6の比較溶液をPTH投与量が0.1mg/ラットとなるよう投与した。
(2) 噴霧投与後、5、10、20、30、45、60、90及び120分後に頚静脈よりヘパリン(持田製薬製)で処理した注射筒(テルモ製、25G)で血液を0.1mlずつサンプリングし、遠心分離(12000rpm、3分)して血漿を得た。血漿のPTH濃度をPTH測定用エンザイムイムノアッセイキット(Peninsula Laboratories製)を用いて測定した。
実施例4の投与粉末並びに比較例6の比較溶液についてのPTH血漿中濃度測定の結果を第6図に示す。
これらの図において、ポイントは7例の平均値を、バーは標準偏差を示す。
また、これらの図において、常法により、AUC(Area Under Curve)を算出し、別途、PTHを0.01mg/ラットに静脈注射(200μg/mlのPTH注射用生理食塩水溶液を使用)した場合のPTH血漿中濃度測定結果から算出したAUCとの対比により、経鼻投与時のBA(Bioavailability)を算出した。結果を次の第4表に示す。

実験例4
(1) 雄性ビーグル犬(2歳、体重12.2〜15.1kg、北山ラベス)を実験前約20時間絶食させ、ペントバルビタール(ナカライ製)40mg/kgで麻酔後、粉末経鼻投与用デバイス(Bi−Dose Nasal Powder device,Pfeiffer社製)を用い、検体投与群のイヌには、イヌの片方の鼻腔内に、実施例5で調製した投与粉末をSCT投与量が0.3mg/イヌとなるよう投与した。
一方、比較群には、イヌの片方の鼻腔内に、比較例7で調製した比較溶液をSCT投与量が0.3mg/イヌとなるようマイクロピペットを用いてイヌの片方の鼻腔内に投与した。
(3) 噴霧投与後、5、10、20、30、45、60、90及び120分後に前肢静脈よりヘパリン(持田製薬製)で処理した注射筒(テルモ製、25G)で血液を1mlずつサンプリングし、遠心分離(12000rpm、3分)して血漿を得た。血漿のSCT濃度をSCT測定用エンザイムイムノアッセイキット(Peninsula Laboratories製)を用いて測定した。
実施例5の投与粉末及び比較例7の比較溶液についてのSCT血漿中濃度測定の結果を第7図に示す。
これらの図において、ポイントは5例の平均値を、バーは標準偏差を示す。
また、これらの図において、常法により、AUC(Area Under Curve)を算出し、別途、SCTを5mg/イヌに静脈注射(2.5mg/mlのSCT注射用生理食塩水溶液を使用)した場合のSCT血漿中濃度測定結果から算出したAUCとの対比により、経鼻投与時のBA(Bioavailability)を算出した。結果を次の第5表に示す。

実験例5
(1) 雄性ビーグル犬(3歳、体重11.3〜16.2kg、北山ラベス)を実験前約20時間絶食させ、ペントバルビタール(ナカライ製)40mg/kgで麻酔後、粉末経鼻投与用デバイス(Bi−Dose Nasal Powder device,Pfeiffer社製)を用い、検体投与群のイヌには、イヌの片方の鼻腔内に、実施例6で調製した投与粉末をBINS投与量が0.3mg/イヌとなるよう投与した。
一方、比較群には、イヌの片方の鼻腔内に、比較例8で調製した比較溶液をBINS投与量が0.3mg/イヌとなるようマイクロピペットを用いてイヌの片方の鼻腔内に投与した。
(2) 噴霧投与前、投与後、5、10、15、20、30、45、60、90及び120分後に前肢静脈よりヘパリン(持田製薬製)で処理した注射筒(テルモ製、25G)で血液を1mlずつサンプリングし、遠心分離(12000rpm、3分)して血漿を得た。血漿の総インシュリン(BINS及びイヌインシュリン)濃度をインシュリン測定用エンザイムイムノアッセイキット(和光純薬製)を用いて測定した。なお、各測定ポイントのBINS血漿中濃度は、各測定値から投与前のイヌインシュリン血漿中濃度を差し引いた値として表した。
実施例6の投与粉末及び比較例8の比較溶液についてのBINS血漿中濃度測定の結果を第8図に示す。
これらの図において、ポイントは3又は4例の平均値を、バーは標準偏差を示す。
また、これらの図において、常法により、AUC(Area Under Curve)を算出し、別途、BINSを0.3mg/イヌに静脈注射(0.3mg/mlのBINS注射用生理食塩水溶液を使用)した場合のBINS血漿中濃度測定結果から算出したAUCとの対比により、経鼻投与時のBA(Bioavailability)を算出した。結果を次の第6表に示す。

参考例
粉体工学会第16回製剤と粒子設計シンポジウム要旨集(1999年)第163〜167頁記載の方法に従い、次の方法でEC、酢酸セルロース及び結晶セルロースの吸水性を検討した。
即ち、下端をろ紙で蓋をした崩壊試験用ガラス筒(内径2.1cm、長さ7.8cm)に、それぞれ、EC、酢酸セルロース及び結晶セルロースを10gずつ入れ、他端を下にしてタッピング後、鉛直に保ったまま、深さ10mmに純水をはった容器に、室温で1分間放置した。
1分後にガラス筒を取り出し、下端から、ガラス筒内容物が水を吸収した上端の部分迄の距離を測定し、吸水性の指標である1分当たりの吸水距離とした。結果を次の第7表に示す。

【産業上の利用可能性】
本発明の粉末経鼻投与製剤は、鼻腔内に噴霧/吸入された際、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の存在により、生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤が鼻腔粘膜に付着して滞留し、しかも非吸水性かつ難水溶性物質の粉末が鼻粘膜の粘液を吸収しないため、生理活性物質及び粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤が微量の粘液に溶解し、生理活性物質、粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤が局所的高濃度溶液を生じることになる。この状態で、生理活性物質の濃度勾配を利用し、かつ、高濃度に溶解した粘液溶解剤・非イオン性界面活性剤の作用によって、局所的に鼻粘膜の吸収性自体を向上させて、効率よく生理活性物質を鼻粘膜からその下部に存在する血管系に到達させることができ、生理活性物質の経鼻吸収を促進することができる。
また、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末が、鼻腔内で溶解した薬物を自身で吸い込むことがないため、薬物の利用率を低下させることがない。
しかも、本発明の粉末経鼻投与製剤は、局所点在的に鼻粘膜に作用するため、液状の経鼻投与製剤のように鼻粘膜全体に作用することがなく、鼻粘膜に対する悪影響が少ない。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末並びに、粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2を含有する粉末経鼻投与製剤。
【請求項2】
非吸水性かつ難水溶性物質が、吸水速度が5mm/分以下であり、水に対する溶解度が100mg/L(25℃)以下の物質である請求の範囲第1項記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項3】
非吸水性かつ難水溶性物質が、吸水速度が1mm/分以下であり、水に対する溶解度が50mg/L(25℃)以下の物質である請求の範囲第2項記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項4】
生理活性物質、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末と共に、粘液溶解剤又は粘液溶解剤と非イオン性界面活性剤との組合せを含有する請求の範囲第1〜3項のいずれか1つに記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項5】
生理活性物質、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末と共に、粘液溶解剤を含有する請求の範囲第4項記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項6】
生理活性物質が親水性難吸収性物質である請求の範囲第1〜5項のいずれか1つに記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項7】
生理活性物質が、オンセット時間が短いことが治療上有用である生理活性物質である請求の範囲第1〜5項のいずれか1つに記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項8】
非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の平均粒子径が5〜200μmの範囲であり、生理活性物質の粉末並びに粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2の粉末が、噴霧/吸引時の飛散状態が非吸水性かつ難水溶性物質の粉末と同じになるように、これらの密度及び粒子径が調整されている請求の範囲第1項、第2項、第3項、第6項又は第7項に記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項9】
非吸水性かつ難水溶性物質の粉末の平均粒子径が5〜200μmの範囲であり、その表面に生理活性物質並びに/或いは粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2が固定されている請求の範囲第1項、第2項、第3項、第6項又は第7項に記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項10】
生理活性物質が全体の0.1〜80重量%、非吸水性かつ難水溶性物質の粉末が全体の15〜99.4重量%、粘液溶解剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1又は2が全体の0.5〜5重量%である請求の範囲第1〜9項のいずれか1つに記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項11】
非吸水性かつ難水溶性物質が、非吸水性かつ難水溶性セルロース誘導体である請求の範囲第2項記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項12】
粘液溶解剤がシステイン誘導体又は活性SH基含有アルコールである請求の範囲第1〜11項のいずれか1つに記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項13】
システイン誘導体がN−(C2−5アルカノイル)システイン、S−(C1−4アルキル)システイン、S−(C2−5カルボキシアルキル)システイン及びグルタチオン類からなる群より選ばれる少なくとも1である請求の範囲第12項記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項14】
粘液溶解剤がN−アセチル−L−システイン、S−メチル−L−システイン、S−エチル−L−システイン、S−カルボキシメチル−L−システイン及び1,4−ジチオスレイトールからなる群より選ばれる少なくとも1である請求の範囲第12項記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項15】
非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレン−C10−14アルキルエーテル、ポリオキシエチレン−(C6−10アルキル−フェニル)エーテル、C6−1アルキル−グルコースエーテル及びN−(C6−10アルキル)カルバモイル−C1−4アルキル−グルコースエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1である請求の範囲第1〜4項、及び第6〜14項のいずれか1つに記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項16】
非イオン性界面活性剤が、赤血球を50%溶血させる濃度が1重量%以上である非イオン性界面活性剤である請求の範囲第15項記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項17】
生理活性物質がペプチド性生理活性物質又は多糖類系生理活性物質である請求の範囲第1〜16項のいずれか1つに記載の粉末経鼻投与製剤。
【請求項18】
生理活性物質、非吸水性かつ難水溶性のエチルセルロース粉末又は酢酸セルロース粉末及びN−アセチル−L−システインを含有する粉末経鼻投与製剤。
【請求項19】
生理活性物質及び/又はN−アセチル−L−システインが、非吸水性かつ難水溶性のエチルセルロース粉末又は酢酸セルロース粉末の表面に固定されている請求の範囲第18項記載の粉末経鼻投与製剤。

【国際公開番号】WO2004/078211
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503109(P2005−503109)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002765
【国際出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(000002956)田辺製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】