説明

粉末食用油の製造方法。

【課題】得られる粉末油の劣化乃至酸化を防止することができると共に、食感を損なうことなく、製造上の煩雑さがなく、環境に配慮されたかつ軽量で運搬し易い粉末食用油の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の粉末食用油の製造方法は、ジャケット付き蒸気温熱釜に注入された液状の食用油を前記蒸気温熱釜に温熱蒸気を導入し、その温熱雰囲気下で攪拌してペースト状乃至ゼリー状となし、ついで得られた生成物を粉末化する。温熱蒸気の温度が10℃〜30℃であり、また粉末食用油の粒子径が8〜30μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末食用油の製造方法に関し、更に詳しくは、本発明は、食用油の劣化乃至酸化を防止し得ると共に、食感を損なうことなく、製造上の煩雑さがなく、環境に配慮されかつ軽量で運搬し易い粉末食用油の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油脂を粉末化する技術は、種々あり、例えば、油脂を水中油型乳化液とし、これをスプレードライ等により水分を除去する方法で一般的には製造されている。通常、油脂として、大豆油、ナタネ油等が用いられ、これらは水溶性成分であるカゼイン、デキストリン等で被覆されて粉末化されている(例えば、特許文献1参照)。また油性成分をアラビアガムおよび糖類を含む水溶液に添加して乳化した後、この乳化液を粉末化する粉末油脂組成物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。更に粒子表面を予め被覆した粉末油脂や芯材を油脂被覆後に親水性素材で被覆する多重被覆方法(例えば、特許文献3参照)や油脂個化剤を含有する粉末油脂(例えば、特許文献1参照)などの製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−119688(特許請求の範囲、段落0002)
【特許文献2】特開2000−119686(請求項3)
【特許文献3】特開2001−17093(特許請求の範囲、段落0002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述の特許文献1に記載の段落0002に記載の如き粉末油脂の製造方法で得られた粉末油脂は、油脂表面が水溶性成分によって被覆されているため、コーティングされた粉末から液状油がしみ出しやすく、酸化劣化、流動性の低下等の品質低下の恐れがある。また油脂個化剤を含有するものにあっては、余分な成分(添加剤)が含まれる分、食感に影響する恐れがあり、また余分な工程による煩雑さ、更には経済的負担を有する点で好ましくない。また前記特許文献2に記載の油性成分をアラビアガムおよび糖類を含む水溶液に添加して乳化した後、この乳化液を粉末化する方法では、前記特許文献1と同様の問題点があることは免れない。更に、特許文献3に記載されている如き芯材を油脂被覆後に親水性素材で被覆する方法は、親水性被膜の形成工程により水に曝され、かつ乾燥処理されるため、油脂被覆によって付与された機能の中で、機能低下の恐れがあるばかりでなく、これらの粉末油脂は環境上も好ましくないという問題がある。
【0004】
そこで、本発明者は、前述のような酸化劣化、流動性の低下等の品質低下又は機能低下がなく、余分な成分の添加による食感への影響や余分な工程による煩雑さ、更には経済的負担のない食用油の粉末化を究明する中で、余分な成分を添加することなく、液状の食用油を温熱蒸気の雰囲気下で攪拌するだけで得られた粉末油の劣化乃至酸化を防止することができると共に、食感を損なうことなく、かつ軽量で運搬し易いかつ環境に配慮された粉末食用油が得られることを見出し、ここに本発明をなすに至った。したがって、本発明が解決しようとする課題は、得られる粉末油の劣化乃至酸化を防止することができると共に、食感を損なうことなく、製造上の煩雑さがなく、環境に配慮されたかつ軽量で運搬し易い粉末食用油の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、以下の各発明によってそれぞれ達成される。
(1)ジャケット付き蒸気温熱釜に注入された液状の食用油を前記蒸気温熱釜に温熱蒸気を導入し、その温熱雰囲気下で攪拌してペースト状乃至ゼリー状となし、ついで得られた生成物を粉末化することを特徴とする粉末食用油の製造方法。
(2)温熱蒸気の温度が10℃〜30℃であることを特徴とする前記第1項に記載の粉末食用油の製造方法。
(3)前記第1項又は第2項に記載の粉末食用油の粒子径が8〜30μmであることを特徴とする粉末食用油の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前記(1)項に記載の粉末食用油の製造方法は、原料の食用油に余分な成分を添加することなく、ジャケット付き蒸気温熱釜に注入された液状の食用油を前記蒸気温熱釜に温熱蒸気を導入し、その温熱雰囲気下で攪拌してペースト状乃至ゼリー状となし、ついで得られた生成物を粉末化することにより、得られた粉末油の劣化乃至酸化を防止することができると共に、余分な成分により食感を損なうことなく(味が低下がないばかりか変わらない)、かつ軽量で運搬し易い粉末食用油が得られるばかりでなく、食品の表面に施して使用するので、使用後でも、廃油が出ないので、環境にやさしいという格別顕著な効果を奏するものである。また前記(2)項に記載の発明は、前記第1項に記載の粉末食用油の製造方法において、温熱蒸気の温度が10℃〜30℃であることにより、得られた粉末油の劣化乃至酸化を防止することができると共に、食感を損なうことないという優れた効果を奏するものである。更に前記(3)項に記載の発明は、前記第1項又は第2項に記載の粉末食用油の製造方法において、得られた粉末食用油の粒子径が8〜30μmであることにより、軽量であるので、袋詰め等で運搬し易く、しかも粉末食用油を用いて得られた食品、特に揚げ物の表面が経時においてもべた付きがないという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の製造方法を図面をも含めて具体的に説明するが、本発明は、以下に説明する具体的事例に限定されるものではない。図1は、本発明の粉末食用油の製造工程を示すフローチャートである。図2は、粉末食用油の製造装置のゼリー状化装置を示す断面図である。図1において、本発明の粉末食用油の製造方法は、常温で液状の食用油を撹拌するが、ジャケット付き蒸気温熱釜(50)に温熱蒸気(3)を導入し、その温熱雰囲気下で液状食用油(1)を攪拌してペースト状乃至ゼリー状化(20)する。ついで、得られた生成物、即ちペースト状乃至ゼリー状化物(5)を粉末化することにより、粉末食用油(55)が得られる。この粉末化は、固形化加工(冷凍加工)51、粗砕加工52、一次粉末加工53、微粉末加工54を経て、粉末食用油を得ることができる。この低温蒸気(3)は、蒸気発生器7で製造された蒸気を蒸気冷却器4で温度制御(6)しながら製造し、ジャケット付き蒸気温熱釜50へ導入する。蒸気発生器31には、温度制御器8、圧力制御器9で所望の蒸気が得られるように制御される。
【0008】
図2において、ペースト状乃至ゼリー状化20は、蒸気発生機31と蒸気冷却装置50とジャケット付き蒸気温熱装置容器60からなり、蒸気発生機31は、熱源部(ヒーター)7、温度計及び温度調節器8、圧力計及び圧力調整弁9を備えているが、この他、図示されていないが、栓弁等の周知の構成部品を有しており、これらを調節して所望の蒸気を得る。熱源7としては、電磁誘導方式、ガスバーナー方式、電気ヒーター方式などの方式があり、これらのいずれの方式を採用してもよいが、好ましくは電磁誘導方式又は電気ヒーター方式がよい。また圧力制御は、圧力制御弁を用いて制御するが、好ましくは0.2〜0.3MPaに制御するのがよい。
【0009】
蒸気冷却装置50は、冷却器30とコンプレッサー35及びコンデンサー36を有しており、蒸気発生機31で得られた蒸気を10〜30℃に冷却する。更に、ジャケット付き蒸気温熱装置容器60は、2重釜に構成されている釜2からなり、2重釜間の空間21に複数のジャケット25を均等に配置し、更に該ジャケット面には透孔26が位置を変えて設けられている。この釜2に容器1をセットし、該容器1中に常温で液状の食用油10を入れた後、撹拌羽根、好ましくは多段羽根42を食用油中に沈めた状態に配置した撹拌機41を取り付ける。もちろん、釜2には常温で液状の食用油10を入れた容器1をセットしてもよい。一方、蒸気発生器31と冷却装置50の間は該蒸気発生器31から伸びたパイプで冷却器30に接続されて蒸気通路32を形成している。一方、冷却器30から出た蒸気通路43は、釜2の側壁22の下方に接続され、該通路の導入口33から温熱蒸気を導入して該釜2を温熱雰囲気に保つ。この釜2には圧力計23と温度センサー(図示せず)が設けられており、これら圧力計23と温度センサーで2重釜間の空間21の温度及び圧力をコントロールすることができる。また釜2の内部には、容器1をセットすると共に、該容器1中へ、前述の如く常温で液状の食用油10を注入した後、攪拌機41を有する蓋24をした後、攪拌する。本発明では、このようなジャケット付き蒸気温熱釜60に蒸気発生器31で得られた蒸気を冷却装置50を用いて冷却して温熱蒸気を生成させ、該温熱蒸気をジャケット付き蒸気温熱釜60に導入し、その温熱雰囲気下に保持しながら攪拌してペースト状乃至ゼリー状化し、更に後述する固形化加工51を経て粉末化する。このような製造工程を経て粉末化することにより、粉末油の劣化乃至酸化を防止することができると共に、余分な成分により食感を損なうことがないという格別に優れた効果を奏するものである。
本発明では、液状の食用油をペースト状乃至ゼリー状化して得られた生成物5を粉末化して粉末食用油を得る。この粉末化は、固形化加工(冷凍加工を含む)51により行われ、これらには噴霧乾燥、真空冷凍、低温冷風などがあるが、好ましくは真空冷凍が好ましい。これらの加工手段は公知であり、必要に応じて適宜組み合わせて使用することができる。固形化加工した固形物は、更に微粉末加工70が行われる。この微粉末加工70は、まず、生成物5を粗砕加工52に掛ける。この加工中における温度上昇を防止する手段を施すことが好ましい。ついで、一次粉末加工53により100〜300μmの粒状粉末に加工する。更に微粉末加工54、例えば、ジェットミルなどが用いられ、具体的にはジェットミル中にアルミナボールを入れ、更に前記で得られた粒状粉末を添加した後、該ジェットミルを回転し、振動・衝撃を与えて微粉砕することにより2時間〜3時間で8〜30μmの粉末食用油55を得る。
【0010】
本発明に用いられる液状食用油1としては、特に限定されるものではないが、ナタネ油、ゴマ油、大豆油、コーン油、綿実油、オリーブ油、ひまわり油、サラダ油等の食用油が挙げられる。液状の食用油1は、撹拌されるが、この撹拌は、この食用油1を温熱雰囲気下に保持するする低温蒸気は、蒸気発生器で得られた蒸気を冷却装置50によって冷却することによって製造される。得られた低温蒸気の温度は、10〜30℃であり、好ましくは10〜26℃であり、更に好ましくは15〜26℃である。いっそう好ましくは15〜18℃である。また20〜26℃の低温蒸気を用いることもできる。本発明では、常温で液状の食用油に、このような低温蒸気で冷却しながら撹拌することによって、食用油の劣化又は酸化を防ぐことができ、また食味の低下を防止することができる。また撹拌速度は、適宜決められるが、好ましくは2000〜10000rpmであり、更に好ましくは5000〜8000rpmである。撹拌時間は、任意であるが、好ましくは、加工量にもよるが、2時間〜15時間であり、更に好ましくは4〜12時間である。更には4〜8時間が好ましい。 更に、本発明では、撹拌によりペースト状になる時間は、2時間〜3時間弱であり、またゼリー状になる時間は、3〜5時間である。このように、上記の如き条件で撹拌してペースト状乃至ゼリー状となった食用油(生成物5)を前述の如き工程で、粉末化する。この粉末化した食用油の粒径は、8〜30μmが好ましいが、更に好ましくは、10〜20μmであり、更には10〜16μmが好ましい。
【実施例1】
【0011】
図2に示されるフローチャートに従い、かつ図2に示される装置を使用して、本発明の粉末食用油を製造する。ジャケット付き蒸気温熱釜2にセットされている50リットル入り容器1に、ナタネ油45リットルを注入した後、攪拌機41の付いた蓋24をすると共に、攪拌器を回転させ、低温蒸気で冷却する。低温蒸気の製造は、蒸気発生装置31で製造した蒸気を蒸気通路32を通して冷却装置50の冷却器30に導入し、コンプレッサー35とコンデンサー36によって冷却された冷媒が冷却管34中を循環して蒸気を冷却して10℃の低温蒸気とする。この低温蒸気は、蒸気通路43を通って蒸気温熱釜2へ該釜の側壁22の下方に設置された導入口33から導入される。この際、釜の温度・圧力は、圧力計23で制御される。撹拌機は5000rpmの回転速度で8時間撹拌した。得られたゼリー状物を取り出し、固形化加工して、平均粒径18μmの粉末化したナタネ油が得られた。
【実施例2】
【0012】
図2に示されるフローチャートに従い、かつ図2に示される装置を使用して、ゴマ油を使用して粉末食用油を製造する。ジャケット付き蒸気温熱釜2にセットされている50リットル入り容器1に、ゴマ油45リットルを注入した後、攪拌機41の付いた蓋24をすると共に、また蒸気温熱釜の温度を制御して得られた12℃の低温蒸気でゴマ油10を冷却しながら、攪拌器を2000rpmで回転させた。12℃の低温蒸気の製造は、実施例1と同様にして蒸気温熱釜の温度・圧力計を制御して行った。撹拌機は2000rpmの回転速度で15時間撹拌した。得られたゼリー状物を取り出し、固形化加工して、平均粒径10μmの粉末化したゴマ油が得られた。また同様にして16μmのゴマ油からなる粉末食用油を製造した。
【実施例3】
【0013】
実施例1で製造したナタネ油と実施例2で製造した粉末ゴマ油を用いて、海老の天ぷらを揚げた。小麦粉に1重量%の割合で粉末食用油を添加し、十分混合した。混合は粉末食用油の粒径がナタネ油の場合は18μmであり、ゴマ油の場合には10μmであるが、これらの粒径は、小麦粉の粒径に近似していることから均一な混合が容易であった。特に、18μmのナタネ油と16μmのゴマ油は、これらの粒径がほとんど同じであるので、均一な混合が容易であった。この混合小麦粉に海老を入れて海老の表面に均一に付着させた。得られた2種類の素材を電子レンジに入れた3分間加熱した。得られた天ぷらは、表面がカラットしており、べと付きはなかった。食感に変化はなかった。これを1昼夜放置しておいて表面を観察したところ、揚げ経てと同様にカラットしており、べと付きはなかった。また食感にも優れていた。
【実施例4】
【0014】
実施例1で製造したナタネ油と実施例2で製造した粉末ゴマ油を用いて、海老の天ぷらを揚げた。小麦粉に水を添加してペースト状とした(バッター液という。)。このバッター液に海老を入れて海老の表面に付着させた後、更に粉末ナタネ油で塗した。同様にして海老を粉末ゴマ油を塗した。得られた2種類の素材を電子レンジに入れた3分間加熱した。得られた天ぷらは、少量の粉末食用油を使用するのみで済み、したがって、低含油天ぷらが得られ、表面がカラットしており、べと付きはなかった。食感に変化はなかったばかりか食味をました。これを1昼夜放置しておいて表面を観察したところ、揚げたてと同様にカラットしており、べと付きはなかった。また食感にも変化はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の粉末食用油の製造方法により製造した粉末食用油は、食用品の製造に好ましく用いられ、揚げ物、例えば、天ぷら、とんかつ等に用途があるばかりでなく、揚げ菓子、揚げ饅頭等、広く食品分野において使用される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の粉末食用油の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明に用いられるペースト状乃至ゼリー状化装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 容器
2 蒸気温熱釜
3 温熱蒸気の導入
4 蒸気冷却器
5 ペースト状乃至ゼリー状物(生成物)
6、8 温度制御
7 熱源部(ヒーター)
9 圧力制御
10 液状食用油
20 ペースト状乃至ゼリー状化
21 真空(又は減圧)
22 容器の側壁
23 圧力計
24 蓋
25 ジャケット
26 透孔
30 冷却器
31 蒸気発生器
32、43 蒸気通路
33 導入口(低温蒸気)
34 冷却管
35 コンプレッサー
36 コンデンサー
37 ドライヤー
39 ファン
41 撹拌機
42 撹拌羽根(多段羽根)
50 冷却装置
55 粉末食用油
60 ジャケット付き蒸気温熱装置
70 微粉末加工

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャケット付き蒸気温熱釜に注入された液状の食用油を前記蒸気温熱釜に温熱蒸気を導入し、その温熱雰囲気下で攪拌してペースト状乃至ゼリー状となし、ついで得られた生成物を粉末化することを特徴とする粉末食用油の製造方法。
【請求項2】
温熱蒸気の温度が10℃〜30℃であることを特徴とする請求項1に記載の粉末食用油の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の粉末食用油の粒子径が8〜30μmであることを特徴とする粉末食用油の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−109731(P2006−109731A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298940(P2004−298940)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(504382305)株式会社エルアンドエス・インターナショナル (1)
【Fターム(参考)】