説明

粉砕ウコン末およびそれを用いた飲食物

【課題】ウコンの食感や摂取時の残留感を改善すると共に、苦味を低減し、食味が改善された粉砕ウコン末及びそれを含有する摂取しやすい飲食物を提供する。
【解決手段】粉砕ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.5%未満、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.5%未満、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.7%未満含有する粉砕ウコン末、その粉砕ウコン末を添加した飲食物及びそのウコン末を添加することによるウコン含有飲料の呈味改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物に用いることができるウコン独特の臭いや味が抑えられた粉砕ウコン末及びそれを用いた飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウコンはショウガ科の植物で、古くから肝機能改善や健康維持などのために用いられてきた生薬である。特に最近では、肝臓病の他に、高血圧、高脂血症、糖尿病などの症状を改善する作用や、老化防止、整腸作用等を有するとして注目され、健康食品としての要望が高まっている。このように粉砕ウコン末は種々の機能性を有する生薬素材であるが、植物組織の粉砕物であるため食感が悪く、また独特の臭いと味のために服用が困難であり、食品に添加する場合に香味に悪影響を与え、食品として継続的に摂取することは困難であった。
【0003】
このような問題を克服するために、従来からウコンに関する呈味改善の試みがなされてきた。例えば特許文献1(特開2004−161679)は、カラメルを添加することによりウコン等の生薬の苦味をマスキングしているが、この方法では余分な物質を添加するものである。特許文献2(特開2000−228966)はウコンを有機溶媒で抽出することにより、ウコンの有する苦味を低減させているが、これはウコンの全成分を摂取するものではなく、前述のウコンの機能性を十分に享受できるものではない。特許文献3〜7(特開2007−191905、特開平11−299444、特開平10−295324、特開平10−084908及び特開平08−214825)はウコンを発酵させることによりウコンの有する苦味を低減させているが、これらの処理は発酵が完了するまで時間を要する。
【0004】
このように、従来の苦味改善技術では、別途抽出用原料が必要であったり、食品への応用時に制限を設けてしまう例や、発酵工程を必要とするため時間を要するものが多かった。そのため、より簡便で種々の食品に応用が可能な粉砕ウコン末の製造方法及び当該製造方法により製造される粉砕ウコン末が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2004−161679号公報
【特許文献2】特開2000−228966号公報
【特許文献3】特開2007−191905号公報
【特許文献4】特開平11−299444号公報
【特許文献5】特開平10−295324号公報
【特許文献6】特開平10−084908号公報
【特許文献7】特開平08−214825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、簡便で種々の食品に応用が可能であり、良好な食感を有し、呈味が改善された粉砕ウコン末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、粉砕ウコン末の粒子径を特定範囲に調整することにより、ウコンの食感や摂取時の残留感を改善すると共に、苦味を低減し食味を改善した粉砕ウコン末が得られることを見出し、本発明を完成した。
より具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0008】
1.ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.5%未満、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.5%未満、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.7%未満含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
2.ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.4%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.0%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.5%以下含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
3.ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.3%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を0.5%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.0%以下含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
4.ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.25%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を0.25%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.0%以下含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
5.温度条件が40〜210℃で粉砕される1〜4のいずれかに記載の粉砕ウコン末。
6.1〜5のいずれかに記載の粉砕ウコン末を添加する飲食物。
7.1〜5のいずれかに記載の粉砕ウコン末を添加することを特徴とするウコン含有飲料の呈味改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉砕ウコン末およびそれを用いた飲食物は、ウコンの食感や摂取時の残留感を改善すると共に、苦味を低減し食味を改善するため、摂取しやすい飲食物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1.ウコン
本発明の組成物の原料はショウガ科ウコン属の多年生植物で、特に通常ターメリックやアキウコンとも呼ばれるウコン(学名:Curcuma longa L.)が好ましい。使用可能な植物部位としては根茎を使用することが好ましい。本発明の組成物に用いるウコンの形態は、生のウコンを乾燥させ、粉砕した形態のウコン末である。乾燥方法は天日乾燥等の一般的な手法が用いられるが、食品素材用、あるいは医薬品・医薬部外品原料用等に流通されている乾燥状のウコン(塊、粉末等)をそのまま、あるいは適宜加工の上用いるのが最も簡便である。
【0011】
2.粉砕ウコン末の製造方法
本発明の粉砕ウコン末は、前述の乾燥したウコン原料に粉砕工程を施すことにより得ることができる。粉砕手段は特に制限するものではなく、気流粉砕、ジェットミルのような移動体を媒体として素材同士を衝撃させることによるもの、凍結粉砕のような素材を物性変化させて行うもの、ボールミル、ピンミル、超音波粉砕、臼等の機械的手法によるものが挙げられる。粉砕条件は機械毎に設定が異なるため適宜調整する必要がある。粉砕の結果得られる粉末の径は、後述される粒子径測定法により用手的かつ簡便に測定できるため、本法にて確認しながら条件を設定することが可能である。
一方、粉砕時の温度条件は40〜210℃、好ましくは40〜180℃、更に好ましくは50〜180℃、最も好ましくは60〜170℃の環境下で行う。この温度範囲とすることにより、粉砕ウコン末の劣化を抑えると共に、ウコン特有の臭気成分を低減させることができる。粉砕時に上記温度条件にするためには、粉砕工程において素材あるいは機器間の衝撃・摩擦により発生する摩擦熱等を利用するのが最も簡便であることから、本粉末を得るための粉砕手法としては石臼、気流粉砕又はジェットミル等の機械的手法が望ましい。
【0012】
3.所望の粒子径を有する粉砕ウコン末を得る方法
本発明の粉砕ウコン末は、ウコン末の各微粒子の粒子径が180μmを越える微粒子を0.5%未満、好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.3%以下、最も好ましくは0.25%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.5%未満、好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.25%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.7%未満、好ましくは4.5%以下、更に好ましくは4.0%以下含有する粉砕ウコン末とすることを特徴とする。ここで、「粒子径180μmを越える微粒子」とは、具体的には80メッシュの篩(例えば飯田製作所製のJIS Z8801 TEST SIEVE φ50mm)に投入した際に通過しない微粒子をいう。同様に「粒子径106μmを越え、180μm以下の微粒子」とは、80メッシュの篩を通過するが150メッシュの篩を通過しない微粒子をいう。さらに「粒子径75μmを越え、106μm以下の微粒子」とは、150メッシュの篩を通過するが200メッシュの前記篩を通過しない微粒子をいう。
このような粒子径の構成を有する粉砕ウコン末は、飲食物に添加した場合にウコン特有の苦味渋味及び残留感が低減され、飲食物内での沈殿が抑制されて適度に分散し、かつ鮮やかなウコンの色調を保持することができる。また、平均粒子径を22μm以上にすることで、飲料の長期保管後の再分散性を良好に保つとともに、飲料の色調をウコン本来のものと相違なく調製することが可能となる。このような構成の粒子径を有する粉砕ウコン末を得る方法としては、特に限定されないが、例えば篩を用いた方法が考えられる。所望の粒子径の上限値と下限値の目の篩(例えばJIS Z8801−1に規定されているような篩)を用意し、下から目の細かい順に連結させ、受器及び蓋を重ね合わせる。粉砕ウコン末を正確に秤量して最上部に載せて蓋をした後、震盪させることにより所望の粒子径を有する粉砕ウコン末を得る。その他の所望の粒子径を有する粉砕ウコン末を得る方法としては、例えばレーザー回折式による乾式粒度測定機を使用し、確認しながら粉砕する方法等があるが、測定については乾式である限り特に制限しない。通常粉砕後、ターボストレーナーなどを用いて106μm以上の粒子を除去し、一定粒子径以下に制限するなどの方法もある。これらの方法により得られた各粒子径の粉砕ウコン末を必要に応じてブレンドすることにより、本発明の粉砕ウコン末を得ることができる。
このような構成の粉砕ウコン末とすることにより、服用時の呈味を改善し、摂取時の残留感のみならず苦味を低減することができる。さらに分散性も良好に保つことが可能になる。
【0013】
本発明の粉砕ウコン末を飲食物として用いる場合は、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品や飲料としての使用が挙げられる。具体的には、本発明の粉砕ウコン末を含有したサプリメント、ソース類、スープ類、ドレッシング類、マヨネーズ類等の調味料:牛乳、ヨーグルト、クリーム類等の乳製品;あるいは緑茶、紅茶、烏龍茶、麦茶、雑穀茶、果汁、野菜、乳飲料、清涼飲料、及び炭酸飲料等の飲料等が挙げられる。
【0014】
本発明の粉砕ウコン末は、果汁・果実飲料、コーヒー飲料、烏龍茶飲料、緑茶飲料、紅茶飲料、麦茶飲料、野菜飲料、雑穀茶飲料等の他の飲料と組み合わせることで、幅広い範囲の飲料を提供することが可能である。例えばソフトドリンクである炭酸飲料、果実エキス入り飲料、野菜エキス入りジュースや、ニアウオーター、スポーツ飲料、ダイエット飲料等に適宜添加することもできる。また消費者の嗜好にあわせて茶葉の微粉末のような不溶性化合物をあえて懸濁させた形態も使用できる。さらに、該成分の摂取について携帯性、保存性を考慮に入れた場合、該当粉末を含有させた粉末飲料や、該当粉末を利用者自らの操作による分散、混和により飲用が可能となるような食品とすることもできる。
【0015】
添加時の安定性等を考慮すると、飲料において特にウコンをそのままの形態で利用する場合は、沈殿等の恐れがある。したがって、飲用時の外観が嗜好性等に与える影響を考慮すると、沈殿を防ぐためにある程度の粘稠性を有する組成のものを用いることが望ましい。粘稠性を有する組成のものとしては、果実、野菜等のピューレ等を用いる方法や増粘多糖類、糊料を添加する等の方法が挙げられる。
【0016】
飲料には、処方上添加して良い成分として、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独、又は併用して配合しても良い。
【0017】
飲料を容器詰飲料にする場合、使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0018】
また、容器詰飲料は、例えば、金属缶のように容器内を完全に液で満たすか、脱気、窒素置換又はその両方を行った後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。更に、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻す等の操作も可能である。
【0019】
以下に、本発明の実施の態様について実施例をあげて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
各粒子径粉砕ウコン末の製造方法
粉砕したウコン原末(Curcuma longa L.、日本粉末薬品社製)5gを、表1に示した80〜250メッシュの篩JIS Z8801 TEST SIEVE φ75mm(飯田製作所製)に投入し、数回振盪させることにより、粒子径180μm未満の粉砕ウコン末(比較品1)、粒子径150μm未満の粉砕ウコン末(比較品2)、粒子径125μm未満の粉砕ウコン末(比較品3)、粒子径106μm未満の粉砕ウコン末(実施品1)、粒子径90μm未満の粉砕ウコン末(実施品2)、粒子径75μm未満の粉砕ウコン末(実施品3)及び粒子径63μm未満の粉砕ウコン末(実施品4)の7種類の各粒子径粉砕ウコン末を作製した。
最も小さい粒径を有する比較品4は、ウコン末(原末)を臼挽き粉砕法によって、粒度分布測定を行って粒子径を確認しながら粉砕することによって得た。この処理により、原末の平均粒子径は63.51μmであったのに対し、比較品4の平均粒子径は21.82μmとなった。平均粒子径はレーザー回折散乱法により、粒度分布測定装置(LS−13−320、ベックマンコールター社製)を用い、乾式法にて粒度分布を測定した。
【0021】
【表1】

【0022】
(実施例1)分級した各粒子径ウコンの分散性試験 (物理的性状試験)
粘稠性を有する水溶液中に先に作製した各粒子径粉砕ウコン末を分散させ、濁度(660nmにおける透過光量)を測定することにより、各粒子径粉砕ウコン末の分散性を比較した。
先に作製した比較品1〜実施品4の各粒子径粉砕ウコン末250mgを50mL容ポリエチレン製試験管に採取し、1mLの蒸留水で湿潤させ、次いで5%メチルセルロース水溶液(CP15)20mLを加えて、転倒混和させて分散させ、更に残りのメチルセルロース水溶液30mLを加えて閉栓し、同様に転倒混和させた。試験管底に固形物が存在せず、懸濁液中に均一に各粒子径ウコンが分散していることを目視で確認した後、静置した。静置16時間後、静かに試験管を開栓し、メスピペットにて、液面より10乃至20mmの範囲にピペット先端が位置するようにしながら上澄みを3mL採取し、1cm角ガラスセルに入れて660nmでの透過度(%T)を測定した。分級前のウコン末(原末)に対し分散性が増加した分(透過度が減少した分)が20%未満を△、20%以上40%未満を○、40%以上を◎とした。
【0023】
【表2】

【0024】
以上より、粒子径106μm未満まで小さくした実施品1〜4及び比較品4の粉砕ウコン末(大粒子除去品)は、透過度を減少させ、すなわち粘稠性溶液中での分散性を向上させることがわかった。さらに粒子径63μm未満まで小さくした実施品4及び比較品4の粉砕ウコン末(大粒子除去品)は、分散性の向上が顕著だった。分散性が向上することにより、液中での粉砕ウコン末の分散時間を長くし、沈殿を抑制すると同時に、飲用時の口腔内で粉砕ウコン末が沈殿することに伴う残留感を軽減することができる。
【0025】
(実施例2)分級した各粒子径ウコンの呈味性試験(官能試験)
各粒子径に分級した粉砕ウコン末、および分級前のウコン末(原末)を其々5g秤量し、ニンジン、リンゴ及びレモン等を含有する野菜・果実混合飲料495gに混和してホットパック充填し、各粒子径粉砕ウコン末を1重量%含有する容器詰飲料とした。冷却後、一部を官能試験、および一部を機器分析に供した。
官能試験は各飲料をプラスチック製カップに取り分け、原末添加飲料を基準として、其々の飲料の呈味性を8人の試験者が直接飲用して評価した。評価内容は、原末添加飲料と比較して苦味・残留感が緩和した場合(改善)には(+1)、増強された場合(悪化)には(−1)、変わらない(不変)または不明の場合には(0)とした。総合評価は、点数の合計点が1以下の場合を△、2以上3以下の場合を○、4以上の場合を◎とした。結果を表3及び図1に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
比較品1〜3の106μmを越える粒子径の粉砕ウコン末を混和した飲料では、苦味・残留感が「緩和した」と回答した試験者と「増強された」と回答した試験者とが拮抗していたが、実施品1〜4の粒子径106μm未満の粉砕ウコン末を混和した飲料では苦味・残留感が「緩和した」と回答した試験者が多数を占め、さらに実施品2〜4の粒子径90μm未満の粉砕ウコン末を混和した飲料では「増強された」と回答した試験者は0名であった。
以上より、粉砕ウコン末の呈味性を改善するための臨界点は、粉砕ウコン末の粒子径が106μmと考えられ、106μmを越える粒子径の微粒子の含量を低減させることが粉砕ウコン末の呈味性改善に有効であることが明らかとなった。
一方、粉砕ウコン末の粒子径を180μm未満に限定するのみでも苦味・残留感が「緩和した」と回答した試験者が2名いたことから、粉砕ウコン末の粒子径が106μm未満で現れるような顕著な効果は無いにせよ、粒子径をある程度小さく制限することにより一定の苦味・残留感改善効果が得られることがわかった。
【0028】
(実施例3)味覚センサーによる分級した各粒子径ウコンの呈味性試験(化学的性質試験/官能試験)
味認識装置SA402B(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー社製)を用いて、実施例2で作製した各粒子径粉砕ウコン末を1重量%含有する容器詰飲料について該装置の操作説明書にしたがって呈味の測定を行い、ウェーバーの法則に基づいてヒトが感じる味強度の違いを推定し、得られた推定値を味要素の数値とした。
【0029】
図2は味認識装置SA402Bで各呈味を調べるセンサーが示した数値を表したものであり、ウコン原末を1重量%含有する容器詰飲料で得られた数値を0としたときの各粒子径粉砕ウコン末を含有する容器詰飲料での呈味性の強弱を示している。値が大きいほどその呈味が強く感じられることを意味する。
【0030】
ウコン原末を含有する容器詰飲料で得られた数値を0とした時に、苦味(食品系)は粒子径75μm未満の粉砕ウコン末を含有する容器詰飲料、苦味(薬品系)は粒子径106μm未満の粉砕ウコン末を含有する容器詰飲料の場合に、その味強度が下回り、其々の味が軽減したことを示した。また渋味に関しては、同様に粒子径90μm未満の粉砕ウコン末を含有する容器詰飲料の場合に大幅に軽減しており、苦味と相乗して摂取が困難となる呈味性を改善しているものと考えられた。
味認識装置は、味覚センサーに取り付けた膜に、呈味物質が吸着または相互反応することで変化する膜電位を検出して数値化する装置であるから、その数値は溶存物質の量に影響されるものと考えられる。一方、通常、生薬等から水溶性物質を抽出するには、抽出効率を高めるために原料をより細かく粉砕して効率的に抽出を行うことから、添加原料の粒子径が細かいほど、液中への水溶性物質の溶出は促進されると考えられる。したがって、粉砕ウコン末においても、粒子径を小さくするに従って、苦味呈味物質の液中への溶出が促され、苦味も増強されると通常考えられるが、今回の結果は予想外にも、粉砕ウコン末粒径が小さい方が味覚センサーの数値は小さい、つまり苦味や渋味が低減するという結果を得た。大粒子を除去することによる何らかの作用により、飲用時の苦味の低減がなされたと考えられる。
【0031】
(実施例4)再分散性
(1)沈殿層の作成
15mL容ポリエチレン製遠沈管に各粒子径に分級した粉砕ウコン末200mgを秤量して入れ、これに蒸留水10mLを加えてよく攪拌した。これを、3000rpmで10分間遠心分離し、試験管底部に沈殿層を形成させた。
(2)再分散性の評価
沈殿層が形成された試験管を倒立させ、沈殿層が崩れないことを確認した後、倒立→90度横転→再倒立を1回として、1回/1秒の速度にて手動にて転倒を繰り返し、沈殿層が崩壊し完全に消失するまでの回数を計測した。30回の転倒までに完全に再分散する場合を◎、50回までに再分散する場合を○とし、60回までに再分散する場合を△とし、70回転倒を終了した時点で沈殿層が残留している場合を×と評価した。
【0032】
【表4】

【0033】
以上のように、粒子径が小さいものの占める割合が多くなるほど、沈殿消失に要する転倒の回数は増加した。平均粒子径22μm未満の比較品4では、沈殿消失までに粒子径106μm未満の2倍の回数を要した。したがって、再分散性の良好なウコン含有飲料とするためには、平均粒子径を22μm以上にするとよいと考えられる。
【0034】
(実施例5)微細粉末混和時の色調
固形物を粉末化すると、表面積の変化により色調に影響が及ぶ場合がある。粉砕ウコン末は独特な黄橙色を有するが、粉砕ウコン末の粒子径により色調に差が生じるかを調査した。各粒子径の粉砕ウコン末の0.2%懸濁液を調製し、色彩計を用いてL*a*b*を測定した。
【0035】
【表5】

【0036】
平均粒子径22μm未満の比較品4にて全ての数値、特にa値の増大(10以上)が見られ、本来の粉砕ウコン末の色調とは異なる色調になることが分かった。従って、平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末を使用すると、色調が本来の粉砕ウコン末と変わらない粉砕ウコン末添加食品を製造することができる。
【0037】
以上の実施例の結果を表6に示す。粉砕ウコン末の分散性、呈味改善性(苦味・渋味の低減)、再分散性及び色調のいずれにおいても良好であり、総合評価が「可」となった粒子径粉砕ウコン末は、粒子径106μm未満、90μm未満、75μm未満及び63μm未満の実施品1〜4であった。以上より、粉砕ウコン末においては、粒子径106μm以上の比較的大きい微粒子は苦味や渋味等の呈味性を低減させず、残留感が残り、分散性も低下するために低減させることが好ましいことが分かった。一方で全ての微粒子を平均粒子径22μm未満の比較的小さい微粒子にすると、再分散性の低下や色調の変化を生じるために好ましくないことが分かった。以上より、飲食物に添加する場合には、粒子径106μmを越える微粒子が少なく、平均粒子径22μm以上である粉砕ウコン末が好ましいことが分かった。
【0038】
【表6】

【0039】
(実施例6)粒径分布測定と粉砕ウコン末含有飲料の製造
以下の比較品及び実施品につき、粒径分布を測定し、それらを含有させた容器詰飲料を作製し、呈味性試験を行った。
比較品5:日本粉末薬品社製ウコン原末1(ロット番号:060512KS)
比較品6:日本粉末薬品社製ウコン原末2(ロット番号:030609KS)
比較品7:栃本天海堂社製ウコン原末(ロット番号:050709)
実施品5:日本粉末薬品社製ウコン塊を、粉砕処理及びターボストレーナーによる分級により粒子径106μm以下にして得たもの。
実施品6:日本粉末薬品社製ウコン塊を、気流粉砕法にて粒度分布測定を行って粒子径を確認しながら処理して得たもの。
【0040】
粒径分布測定
粒径分布の測定方法は日本薬局方の散剤の評価に用いられる篩による分級定量方法を改変して行った。器具は目のサイズが180μm、106μm及び75μmの内径75mmの篩(JIS Z8801−1)を下から目の細かい順に連結させたものに、受器及び蓋を取り付けたものを用いた。これら各篩の重量を測定し、2gの粉砕ウコン末を正確に秤量して一番上の篩に載せて蓋をした後、振幅幅15〜25cm程度で、2.5〜3回/秒程度の速度で激しく振盪して分級した。2分間置きに各篩に残留する粉砕ウコン末の量を秤量した。秤量直前には各篩を木槌で数回叩き、壁に付着した粉砕ウコン末を落としてから秤量した。n回目の測定において、各篩におけるn回目の測定値と(n−1)回目の測定値との重量差が0.001g以下となったときの重量を、それぞれの粒子径での実測重量とした。各比較品及び実施品の粒径分布測定結果を以下に示す。
【0041】
【表7】

【0042】
其々の比較品及び実施品を750mg秤量して前述の野菜・果実混合飲料125gに混和し、加熱殺菌後缶に封入して35度まで冷却して各粉砕ウコン末を0.6重量%含有する容器詰飲料とした。其々の飲料の呈味性を8人の試験者が直接飲用して以下の評価方法に基づいて評価し、最も多かった評価を記載した。結果を以下に示す。
<評価>
残留感:1:ある、2:ややある、3:気にならない
苦味:1:ある、2:ややある、3:気にならない
総合評価:1:飲みづらい、2:やや飲みづらい、3:飲みやすい
【0043】
【表8】

【0044】
以上のとおり、実施品は比較品と比較して、苦味、残留感とも改善された飲料であった。比較例は、飲用後に苦味が後を引き、残留感が顕著で飲みづらい飲料であった。実施品と比較品の粉砕ウコン末微粒子の粒子径分布を比較すると図3のようになる。黒い矢印が黒矢印が既存品(比較例)の分布幅を示し、白い矢印が大粒子を除去した本発明の実施例を示す。
またグラフ上の斜線部分は、既存品の粒子分布範囲と思われる部分を示している。比較品は180μmを越える微粒子を0.5%以上、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.5%以上、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.7%以上含有している一方で、実施例は180μmを越える微粒子を0.25%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を0.25%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.0%以下含有し、その分布に明確な違いがあった。したがって、ウコンの食感や摂取時の残留感を改善し、苦味を低減して摂取しやすい飲食物とするには、180μmを越える微粒子を0.5%未満、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.5%未満、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.7%未満含有する粉砕ウコン末を使用するとよいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の粉砕ウコン末およびそれを用いた飲食物は、ウコンの食感や摂取時の残留感を改善すると共に、苦味を低減し食味を改善するため、摂取しやすい飲食物として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】各粒子径に分級した粉砕ウコン末及び分級前の粉砕ウコン末(原末)を混和した容器詰飲料を官能試験した際の試験者評価を示す図である。
【図2】味測定器におけるウコン原末に対する各粒子径に分級した粉砕ウコン末の呈味相対値を示す図である。
【図3】比較品と実施品の各粒子径の分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.5%未満、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.5%未満、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.7%未満含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
【請求項2】
ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.4%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を1.0%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.5%以下含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
【請求項3】
ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.3%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を0.5%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.0%以下含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
【請求項4】
ウコン末の粒子径が180μmを越える微粒子を0.25%以下、106μmを越え、180μm以下である微粒子を0.25%以下、75μmを越え、106μm以下である微粒子を4.0%以下含有する平均粒子径22μm以上の粉砕ウコン末。
【請求項5】
温度条件が40〜210℃で粉砕される請求項1〜4のいずれか一項に記載の粉砕ウコン末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の粉砕ウコン末を添加する飲食物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の粉砕ウコン末を添加することを特徴とするウコン含有飲料の呈味改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−247283(P2009−247283A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99558(P2008−99558)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】