説明

粒子状物質浄化用触媒及びそれを用いた粒子状物質浄化方法

【課題】粒子状物質の酸化性能に優れ、十分に高度な粒子状物質浄化性能を有する粒子状物質浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】内燃機関からの排ガスに含まれる粒子状物質を酸化して浄化する粒子状物質浄化用触媒であって、
亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物からなる担体と、前記担体に担持されたセシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム及びリチウムからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ金属と、前記担体に担持された銀とを備えることを特徴とする粒子状物質浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質浄化用触媒並びにそれを用いた粒子状物質浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排ガスには、燃焼により生じた煤及びその他の炭素粒子状物質等を含む粒子状物質(PM)が含まれている。このような粒子状物質は動植物に悪影響を及ぼす大気汚染物質として知られている。そのため、排ガス中から粒子状物質を低減させるために様々な粒子状物質浄化用触媒が用いられてきた。
【0003】
このような粒子状物質浄化用触媒としては、例えば、特開2007−252995号公報(特許文献1)に記載のような、亜鉛アルミニウム複合酸化物を含む多孔質酸化物と、前記多孔質酸化物に担持されたアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一つの助触媒と、前記多孔質酸化物に担持された貴金属とを備える触媒が知られている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来の粒子状物質浄化用触媒においては、粒子状物質浄化性能が必ずしも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2007−252995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、粒子状物質の酸化性能に優れ、十分に高度な粒子状物質浄化性能を有する粒子状物質浄化用触媒、並びに、その粒子状物質浄化用触媒を用いた粒子状物質浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物からなる担体と、前記担体に担持されたセシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム及びリチウムからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ金属と、前記担体に担持された銀とを備えることにより、粒子状物質の酸化性能に優れ、排ガスに含まれる粒子状物質を十分に浄化することが可能な粒子状物質浄化用触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の粒子状物質浄化用触媒は、内燃機関からの排ガスに含まれる粒子状物質を酸化して浄化する粒子状物質浄化用触媒であって、
亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物からなる担体と、前記担体に担持されたセシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム及びリチウムからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ金属と、前記担体に担持された銀とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
上記本発明にかかる複合酸化物としては、組成式:ZnAl1.5n+1(式中、nは0.5〜4.0の範囲の値を表す。)により表される複合酸化物が好ましく、組成式:ZnAlで表される複合酸化物が特に好ましい。
【0008】
また、上記本発明の粒子状物質浄化用触媒においては、前記アルカリ金属の担持量が前記担体100gに対して0.05〜1モルの範囲にあることが好ましい。
【0009】
さらに、上記本発明の粒子状物質浄化用触媒においては、前記銀の担持量が前記触媒100gに対して1〜20gの範囲にあることが好ましい。
【0010】
また、本発明の粒子状物質浄化方法は、上記本発明の粒子状物質浄化用触媒に排ガスを接触させて、前記排ガスに含まれる粒子状物質を酸化して浄化することを特徴とする方法である。
【0011】
なお、本発明の粒子状物質浄化用触媒及び粒子状物質浄化方法によって、粒子状物質の酸化性能に優れ、排ガスに含まれる粒子状物質を十分に浄化することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明者らが上記従来の粒子状物質浄化用触媒について検討したところ、従来の粒子状物質浄化用触媒においては、その使用時に貴金属により排ガス中のSOが酸化されてSO(触媒により付着し易い状態)になるため触媒に硫黄成分が付着し易くなるとともに、このような硫黄成分の付着によって触媒活性が低下し、粒子状物質浄化性能が必ずしも十分とならなかったということを見出した。そして、このようなSOの酸化性能に着目したところ、従来の粒子状物質浄化用触媒において好適に用いられている白金(貴金属)はSOの酸化性能が高くSOを比較的生成しやすい成分であるのに対して、銀は貴金属の中でもSOの酸化を比較的起こし難い成分であるということを見出した。そこで、本発明においては、前記担体に銀を担持させている。このように銀を前記担体に担持させることで、硫黄成分の触媒への付着を十分に抑制して触媒活性の低下を十分に防止することが可能となる。そのため、本発明の粒子状物質浄化用触媒においては十分に高度な粒子状物質浄化性能を発揮させることが可能となるものと推察される。なお、担体に担持された銀は、吸着している酸素を十分に活性化し、活性な超酸化セシウム(CsO)等のアルカリ金属の超酸化物の生成を促進し、担体の表面上やその近傍に存在する粒子状物質を効率よく酸化することを可能とするものである。また、従来、粒子状物質浄化用触媒に好適に用いられてきた白金よりも銀は安価であることから、担体に担持する成分として銀を用いることは触媒の製造コストの低減といった点においても利点がある。
【0012】
また、本発明の粒子状物質浄化用触媒の活性種は超酸化セシウム(CsO)等のアルカリ金属の超酸化物であると考えられる。こうした超酸化物においては、アルカリ金属は高原子価状態にある。そのため、アルミナ等の酸性質を有する担体上では超酸化物の生成は困難である。なぜなら、酸性質を有する担体上ではアルカリ金属から担体に電子が吸引され、アルカリ金属が高原子価状態を保持することが困難なためである。そこで、本発明の粒子状物質浄化用触媒においては、アルミナの酸性質を緩和するため、担体として亜鉛とアルミニウムとを含む複合酸化物を用いている。このような複合酸化物からなる担体を用いることによって、高原子価状態にあるアルカリ金属から担体に電子が引き寄せられ難くなり、アルカリ金属が高原子価状態を保持し易くなり、超酸化物の生成が促進され、十分に高度な粒子状物質浄化性能を発揮できるものと推察される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粒子状物質の酸化性能に優れ、十分に高度な粒子状物質浄化性能を有する粒子状物質浄化用触媒、並びに、その粒子状物質浄化用触媒を用いた粒子状物質浄化方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明の粒子状物質浄化用触媒について説明する。すなわち、本発明の粒子状物質浄化用触媒は、内燃機関からの排ガスに含まれる粒子状物質を酸化して浄化する粒子状物質浄化用触媒であって、
亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物からなる担体と、前記担体に担持されたセシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム及びリチウムからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ金属と、前記担体に担持された銀とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
このような担体は、亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物(以下、場合により「亜鉛アルミニウム複合酸化物」という。)からなるものである。このような亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物を用いることにより、担体に担持されたアルカリ金属が高原子価状態を保持し易くなり、排ガス中に含まれる粒子状物質を効率よく酸化して浄化することが可能となるものと推察される。
【0017】
また、このような亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物としては、組成式:ZnAl1.5n+1(式中、nは0.5〜4.0の範囲の値を表す。)により表される複合酸化物が好ましい。また、このような組成式におけるアルミニウムの原子比、すなわちnは1.0〜3.0の範囲の値であることがより好ましい。このようなnの値が前記下限未満では、アルミニウムの添加効果が少ないため、触媒を構成した場合に活性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると酸化アルミニウムとしての性質が顕著に現れるため活性が若干低下する傾向にある。さらに、このような複合酸化物の中でも、より高度な触媒活性が得られるという理由から、前記nの値を2.0とした複合酸化物、すなわち、組成式:ZnAlで表される複合酸化物を用いることが特に好ましい。また、このような組成式:ZnAlで表される複合酸化物には、その結晶構造がスピネル構造であるものの他、アモルファス構造のものやZnOとAlとの混合物等、種々の態様のものが含まれる。また、このような組成式:ZnAlで表される複合酸化物の中でも、特に触媒活性が高いという理由から、結晶構造がスピネル構造であるものを用いることが好ましい。
【0018】
また、このような亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物は、単位質量当たりの表面積が大きいという理由から微粒子状粉末であることが好ましい。このような亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物の結晶子径、すなわち、所定の測定方向における結晶子の大きさは特に限定されるものではないが、高温域において使用しても焼結し難いという観点から、亜鉛アルミニウム複合酸化物の平均結晶子径を2nm以上とすることが好ましく、5nm以上とすることがより好ましい。また、比表面積を大きくするという観点から、平均結晶子径を20nm以下とすることが好ましく、10nm以下とすることがより好ましい。なお、このような亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物の平均結晶子径を求める方法は、特に限定されるものではなく、例えば、粉末X線回折法による解析により求める方法、透過型電子顕微鏡(TEM)を利用して求める方法を挙げることができる。例えば、粉末X線回折法では、粉末状の亜鉛アルミニウム複合酸化物を粉末X線回折法により分析し、得られた回折パターンから所定の結晶面(hkl)回折線の半値幅Bhkl(ラジアン)を求める。そして、シェラーの式:Dhkl=Kλ/Bhklcosθhklにより、亜鉛アルミニウム複合酸化物の粒子の(hKl)結晶面に垂直な方向の結晶子径の平均値Dhkl(nm)を算出することができる。前記シェラーの式中、定数Kは0.89であり、λはX線の波長(nm)であり、θhklは回折角(゜)である。また、本明細書において「平均結晶子径」とは、上記粉末X線回折法により求められる値であって且つ(311)面に垂直な方向の結晶子径の平均値D311(nm)をいう。
【0019】
また、このような担体は、上述のような亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物を含むものであればよく、他の成分としてアルミナ、ゼオライト、ジルコニア等が更に含まれていてもよい。その場合、このような亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物の比率が50質量%以上であることが好ましい。
【0020】
なお、このような担体の製造方法は、特に制限されず、例えば以下のような方法を採用することができる。すなわち、前記亜鉛アルミニウム複合酸化物の原料となる亜鉛及びアルミニウムの塩(例えば、硝酸塩)と、更に必要に応じて界面活性剤(例えば、ノニオン系界面活性剤)とを含有する水溶液から、アンモニアの存在下で亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物の共沈殿物を生成せしめ、得られた共沈殿物を濾過、洗浄した後に乾燥し、更に焼成することによって担体を得る方法を採用することができる。
【0021】
また、本発明の粒子状物質浄化用触媒においては、前記担体にアルカリ金属が担持されている。このようなアルカリ金属は、セシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム及びリチウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属である。このようなアルカリ金属は、高原子価状態とすることにより排ガス中の粒子状物質(PM)を十分に酸化させる能力(PM酸化性能)を有するものとなると推察される。このようなアルカリ金属としては、比較的高原子価状態となりやすいという観点から、セシウム、カリウムのうちの少なくとも1種を用いることが更に好ましく、セシウムを用いることが特に好ましい。なお、これらのアルカリ金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
さらに、このようなアルカリ金属の担持量としては特に制限されないが、前記担体100gに対して0.05〜1モルの範囲にあることが好ましく、0.1〜0.5モルの範囲にあることがより好ましい。このようなアルカリ金属の担持量が前記下限未満では、十分な触媒活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、高温条件下で過剰量のアルカリ金属が蒸散し易くなる傾向にある。また、このようなアルカリ金属を前記担体に担持させる方法としては特に制限されず、担体にアルカリ金属を担持することが可能な公知の方法を適宜採用でき、例えば、アルカリ金属の塩を含有する水溶液を前記担体に接触させた後に乾燥し、焼成する方法を採用してもよい。
【0023】
また、本発明の粒子状物質浄化用触媒においては、前記担体に銀が担持されている。このような担体に担持された銀は、十分に高い粒子状物質酸化能を有しつつSOの酸化性能が他の貴金属(白金、ロジウム、パラジウム等)よりも比較的低い成分である。そのため、銀を担体に担持することにより、SOの生成を抑制して触媒に硫黄成分が付着することを十分に抑制することが可能となり、これによって触媒活性の低下を抑制できるとともに、十分な粒子状物質浄化性能が得られる。
【0024】
また、このような銀の担持量としては、前記担体100gに対して1〜20gの範囲にあることが好ましく、1〜10gの範囲にあることがより好ましい。このような銀の担持量が前記下限未満では、超酸化セシウム等のアルカリ金属の超酸化物の生成を促進する効果が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担体に担持されずに析出するため、それ以上の効果が得られなくなる傾向にある。なお、このような銀を前記担体に担持せしめる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、銀の塩(例えば、硝酸塩)を含有する水溶液を前記担体に接触させた後に乾燥し、更に焼成する方法が挙げられる。
【0025】
また、本発明の粒子状物質浄化用触媒の形態は特に制限されず、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒等の形態とすることができる。ここで用いられる基材も特に制限されず、得られる触媒の用途等に応じて適宜選択されるが、ディーセルパティキュレートフィルター基材(DPF基材)、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等が好適に採用される。また、このような基材の材質も特に制限されないが、コーディエライト、炭化ケイ素、ムライト、チタン酸アルミニウム等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。さらに、このような触媒を製造する方法も特に制限されず、例えば、モノリス触媒を製造する場合は、コーディエライトや金属箔から形成されたDPF基材に、前述の担体からなるコート層を形成し、それに前述の銀を担持せしめ、その後、前述のアルカリ金属を担持せしめる方法が好適に採用される。また、基材にコートする担体の量は特に制限されず、用いる基材や得られる触媒の用途等に応じて適宜調整されるが、基材体積1リットルに対する前記担体の量が30〜300gとなる量であることが好ましい。さらに、本発明において、前記担体を基材等に形成せしめる具体的な方法は特に制限されず、例えば、前記担体を含有するスラリに基材を浸漬する方法が好適に用いられる。なお、このような粒子状物質浄化用触媒においては、本発明の効果を損なわない範囲で粒子状物質浄化用触媒に用いることが可能な他の成分を前記担体に担持してもよい。
【0026】
以上、本発明の粒子状物質浄化用触媒について説明したが、以下、本発明の粒子状物質浄化方法について説明する。すなわち、本発明の粒子状物質浄化方法は、上記本発明の粒子状物質浄化用触媒を排ガスと接触させて、排ガスに含まれる粒子状物質を酸化して浄化することを特徴とする方法である。このような本発明の粒子状物質浄化方法においては、上記本発明の粒子状物質浄化用触媒を排ガスと接触させる方法は特に制限されず、例えば、排ガス管内のガス流路中に上記本発明の粒子状物質浄化用触媒を配置し、内燃機関から排出される排ガスを前記排ガス管内に供給することにより粒子状物質浄化用触媒を排ガスと接触させてもよい。このような本発明の粒子状物質浄化方法は、上記本発明の粒子状物質浄化用触媒を用いているため、粒子状物質を十分に浄化することが可能な方法である。
【0027】
また、本発明の粒子状物質浄化方法においては、前記粒子状物質浄化用触媒に、酸素濃度1%未満の排ガス雰囲気の排ガスと、酸素濃度1%以上の排ガス雰囲気の排ガスとを交互に流通させつつ、前記排ガスを浄化することによって排ガス中のパティキュレート(粒子状物質)をより効率よく酸化させることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
以下のようにしてZnAlからなる担体にセシウム(Cs)と銀(Ag)とが担持された粒子状物質浄化用触媒(Cs/Ag/ZnAl触媒)を製造した。すなわち、先ず、前記担体(ZnAl)100gに対するAgの担持量が5.25gになるように、ZnAlの粉末(高純度化学研究所製)28.5gと、AgNO(和光純薬工業製)2.36gと、イオン交換水200gとを混合して第一混合液を得た。次に、前記第一混合液を80℃の温度条件で3時間加熱して蒸発乾固させて銀担持担体の前駆体を得た。次いで、前記銀担持担体の前駆体を、空気中110℃の温度条件で12時間乾燥した後、空気中750℃の温度条件で5時間焼成して、銀担持担体(Ag/ZnAl)を得た。
【0030】
次に、前記担体(ZnAl)100gに対するCsの担持量が0.14molとなるように、前記銀担持担体(Ag/ZnAl)30.00gと、CsOH(和光純薬工業製)6.00gと、イオン交換水200gとを混合して第二混合液を得た。次に、前記第二混合液を80℃の温度条件で3時間加熱して蒸発乾固させて触媒前駆体を得た。次いで、前記触媒前駆体を、空気中110℃の温度条件で12時間乾燥した後、空気中750℃の温度条件で5時間焼成して、粒子状物質浄化用触媒(Cs/Ag/ZnAl触媒)を得た。なお、このようにして得られたCs/Ag/ZnAl触媒は、圧粉成型により粉砕してペレット状触媒(粒径150〜250μm)とした。
【0031】
(比較例1)
前記銀担持担体(Ag/ZnAl)を製造せず、前記銀担持担体の代わりに白金担持担体(Pt/ZnAl)を用いた以外は実施例1と同様にして、ZnAlからなる担体にセシウム(Cs)と白金(Pt)とが担持された比較のための粒子状物質浄化用触媒(Cs/Pt/ZnAl触媒)を製造した。なお、このようにして得られたCs/Pt/ZnAl触媒は、圧粉成型により粉砕してペレット状触媒(粒径150〜250μm)とした。
【0032】
また、前記白金担持担体は、以下のようにして製造した。すなわち、先ず、前記担体100gに対するPtの担持量が5.25gになるように、ZnAlの粉末(高純度化学研究所製)28.5gと、ジニトロジアンミンPt水溶液(田中貴金属工業製、Pt濃度4.545wt%)33.0gと、イオン交換水200gとを混合して混合液を得た。次に、前記混合液を80℃の温度条件で3時間加熱して蒸発乾固させて白金担持担体の前駆体を得た。次いで、前記白金担持担体の前駆体を、空気中110℃の温度条件で12時間乾燥した後、空気中750℃の温度条件で5時間焼成し、白金担持担体(Pt/ZnAl)を得た。
【0033】
(比較例2)
前記銀担持担体を製造し、Csを担持しなかった以外は実施例1と同様の方法を採用して、ZnAlからなる担体に銀が担持された比較のための粒子状物質浄化用触媒(Ag/ZnAl触媒:前記銀担持担体と同様のもの)を得た。なお、このようにして得られたAg/ZnAl触媒は、圧粉成型により粉砕してペレット状触媒(粒径150〜250μm)とした。
【0034】
[実施例1及び比較例1〜2で得られた粒子状物質浄化用触媒の性能評価]
実施例1及び比較例1〜2で得られた粒子状物質浄化用触媒(ペレット状触媒)をそれぞれ用い、以下に示す粒子状物質酸化活性の評価試験を実施した。すなわち、先ず、円筒状サンプル管瓶内に、ペレット状触媒0.475gと模擬粒子状物質としてのカーボンブラック(東海カーボン製)0.025gとを添加した。次に、円筒状サンプル管瓶を6時間回転させて、前記ペレット状触媒と前記カーボンブラックとを撹拌し、前記ペレット状触媒の外表面にカーボンブラックを付着させて試料を得た。次に、得られた試料0.5gを直径30mm、長さ300mmの石英管内に充填した後、前記石英管の入口からSO(100ppm)/O(10容量%)/HO(10容量%)/N(残部)からなる第一混合ガスを、ガス温度300℃、流量30L/分の条件で30分間供給した。次いで、供給するガス(入りガス)の種類を変更して、前記石英管の入口からO(10容量%)/HO(10容量%)/N(残部)からなる第二混合ガスを流量30L/分の条件で、ガス温度を300℃から20℃/分の昇温速度で昇温しながら供給した。そして、前記第二混合ガスを300℃から720℃まで昇温する間、前記石英管の出口から排出される出ガス中のCO及びCOの濃度の変化を測定した。このようにして実施例1及び比較例1〜2で得られた粒子状物質浄化用触媒(ペレット状触媒)をそれぞれ用いて測定された、出ガス中のCO及びCOの濃度と入りガス温度との関係を示すグラフを、それぞれ図1(実施例1)、図2(比較例1)、図3(比較例2)に示す。
【0035】
また、前記出ガス中のCO及びCOの濃度を測定した結果から、300℃から所定温度まで昇温する間の粒子状物質の酸化率(以下、「PM酸化率」と示す。)を算出した。なお、このようなPM酸化率は、下記式:
[PM酸化率]=([所定温度までのPM酸化量]/[PM添加量])×100
を計算することにより求めた。上記式中の[PM添加量]は、前記試料を製造する際に添加したカーボンブラックの量を示す。また、上記式中の[所定温度までのPM酸化量]は、前記混合ガスを300℃から所定の温度(上限値)まで昇温する間に酸化された粒子状物質(カーボンブラック)の量を示す(以下、所定温度までのPM酸化量を単に「PM酸化量」という。)。なお、このようなPM酸化量を算出する際の前記所定の温度(上限値)としては、500℃、550℃、600℃又は650℃をそれぞれ採用した。また、このようなPM酸化量は前記出ガス中のCO及びCOの濃度を測定した結果から、前記混合ガスを300℃から前記上限値まで昇温する間に酸化された炭素の量をそれぞれ算出することにより求めた。このような温度(上限値)と実施例1及び比較例1〜2で得られた粒子状物質浄化用触媒のPM酸化率との関係を示すグラフを図4に示す。
【0036】
なお、このようなPM酸化量を算出する際の混合ガスの温度の上限値をそれぞれ500℃、550℃、600℃、650℃に設定した理由は以下の通りである。すなわち、ディーゼルエンジンから排出される排ガスを浄化する際には、通常、粒子状物質浄化用触媒とNOx吸蔵還元型触媒とを併用する場合が多い。このようなNOx吸蔵還元型触媒は、使用時に硫黄被毒により次第に性能が低下する傾向にある。そして、このような硫黄被毒からNOx吸蔵還元型触媒を再生させるためには、触媒を650℃程度まで昇温させるのが一般的である。一方、粒子状物質浄化用触媒は、一般にDPF等の基材に触媒を担持させて用いられるため、使用により粒子状物質(PM)が堆積して圧損が上昇する傾向にある。そして、このような圧損が上昇した状態から粒子状物質浄化用触媒を再生するためには、触媒を600℃以上に昇温してPMを燃焼させる再生処理(PM再生処理)を施すのが一般的である。このようなPM再生処理の際に粒子状物質浄化用触媒を650℃以上の温度に昇温すると、併用したNOx吸蔵還元型触媒が熱劣化する傾向にある。従って、実際にPM再生処理を施す場合には、NOx吸蔵還元型触媒の熱劣化を防止するために650℃程度の温度を上限として触媒を昇温させる必要がある。そのため、上記PM酸化量を算出する際の前記所定の温度(上限値)は、最大値を650℃以下とし、更に粒子状物質浄化用触媒が一般的に使用される温度条件に合わせて500℃、550℃、600℃、650℃とした。
【0037】
図4に示す結果からも明らかなように、本発明の粒子状物質浄化用触媒(実施例1)は、比較のための粒子状物質浄化用触媒(比較例1〜2)よりもPM酸化率が高く、十分に高い粒子状物質の酸化活性を有し、十分に高い粒子状物質浄化性能を発揮できることが分かった。また、図4に示す結果からも明らかなように、PM酸化率に対する寄与という観点から、触媒の序列は:
Cs/Ag/ZnAl(実施例1)>Cs/Pt/ZnAl(比較例1)>Ag/ZnAl(比較例2)
であった。このような結果から、アルカリ金属が担持されている場合と担持されていない場合とを比較(実施例1と比較例2とを比較)すると、アルカリ金属を担持した場合(実施例1)に十分に高度な触媒活性が得られることが分かった。また、アルカリ金属以外の担持成分が銀の場合と白金の場合とで比較すると、銀を担持した場合(実施例1)に十分に高度な触媒活性が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、粒子状物質の酸化性能に優れ、十分に高度な粒子状物質浄化性能を有する粒子状物質浄化用触媒、並びに、その粒子状物質浄化用触媒を用いた粒子状物質浄化方法を提供することが可能となる。
【0039】
したがって、本発明の粒子状物質浄化用触媒は、粒子状物質の浄化性能に優れるため、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスに含まれる粒子状物質を浄化するための触媒として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1で得られたペレット触媒(粒子状物質浄化用触媒)を用いて測定された、出ガス中のCO濃度及びCO濃度と入りガスの温度との関係を示すグラフである。
【図2】比較例1で得られたペレット触媒(粒子状物質浄化用触媒)を用いて測定された、出ガス中のCO濃度及びCO濃度と入りガスの温度との関係を示すグラフである。
【図3】比較例2で得られたペレット触媒(粒子状物質浄化用触媒)を用いて測定された、出ガス中のCO濃度及びCO濃度と入りガスの温度との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1及び比較例1〜2で得られた粒子状物質浄化用触媒のPM酸化率とPM酸化率を求める際に上限とした温度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排ガスに含まれる粒子状物質を酸化して浄化する粒子状物質浄化用触媒であって、
亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物からなる担体と、前記担体に担持されたセシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム及びリチウムからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ金属と、前記担体に担持された銀とを備えることを特徴とする粒子状物質浄化用触媒。
【請求項2】
前記複合酸化物が、組成式:ZnAl1.5n+1(式中、nは0.5〜4.0の範囲の値を表す。)により表される複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の粒子状物質浄化用触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物が、組成式:ZnAlで表される複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子状物質浄化用触媒。
【請求項4】
前記アルカリ金属の担持量が前記担体100gに対して0.05〜1モルの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の粒子状物質浄化用触媒。
【請求項5】
前記銀の担持量が前記担体100gに対して1〜20gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の粒子状物質浄化用触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の粒子状物質浄化用触媒に排ガスを接触させて、前記排ガスに含まれる粒子状物質を酸化して浄化することを特徴とする粒子状物質浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−233602(P2009−233602A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84463(P2008−84463)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】