説明

粒子画像流速測定装置におけるトレーサ粒子発生装置

【課題】 粒径が適切で均一なトレーサ粒子を発生可能な粒子画像流速測定装置用のトレーサ粒子発生装置を提供する。
【解決手段】 トレーサ粒子供給手段13が、オイルが噴出するオイル噴出口43の周囲を空気が噴出する空気噴出口44で囲んだ2個の噴霧ノズル41の軸線を相互に交差させた衝突噴流式ノズル42を備えており、圧縮空気供給源45から第1空気通路47を介してオイルタンク46に圧縮空気を供給してオイルを加圧し、そのオイルをオイル通路48を介して衝突噴流式ノズル42の二つのオイル噴出口43に供給し、かつ圧縮空気供給源45から第2空気通路52を介して衝突噴流式ノズル42の二つの空気噴出口44に圧縮空気を供給するので、粒径が適切で均一なトレーサ粒子を発生することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の周囲の流れ場にトレーサ粒子供給手段から液体微粒子よりなるトレーサ粒子を供給し、トレーサ粒子にレーザー光を照射して反射光を撮像手段で撮像し、得られたトレーサ粒子の画像に基づいて流れ場の状態を測定する粒子画像流速測定装置におけるトレーサ粒子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トレーサ粒子が含まれる流体の流れ場に2次元状のレーザーシートを微小な時間差を有する2時刻において照射し、各々の時刻におけるレーザーシート内のトレーサ粒子の画像をカメラで撮像し、それらの2時刻の画像に基づいて流れ場の状態を測定する粒子画像流速測定法(PIV:Particle Image Velocimetry)が知られている。
【0003】
かかる粒子画像流速測定装置のトレーサ粒子発生装置としてラスキンノズルを用いたものが、下記非特許文献1により公知である。このトレーサ粒子発生装置は、圧力容器に貯留したオイル中に配置したラスキンノズルに圧縮空気を供給して油滴を含む気泡を発生させ、この気泡がオイルの液面で破裂して発生した油滴を衝突板に衝突させて粒径を均一に揃えた後に、トレーサ粒子として供給するようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】PIVハンドブック 可視化情報学会編 森北出版株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トレーサ粒子の鮮明な画像を得るには、シグナルであるトレーサ粒子の反射光強度と、ノイズである背景の反射光強度との比(S/N比)を大きくする必要があり、そのためにはトレーサ粒子の粒径は均一で大きい方が望ましい。しかしながら、トレーサ粒子の粒径が過大になると、その重量が大きくなることで重力の影響や慣性力の影響を強く受け易くなり、トレーサ粒子の流れ場に対する追従性が低下する問題がある。
【0006】
上記非特許文献1に記載されたものは、トレーサ粒子の平均粒径(算術平均)が最適値よりも小さい1μm程度にしかならず、トレーサ粒子からの反射光強度が不足してS/N比が小さくなる問題がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、粒径が適切で均一なトレーサ粒子を発生可能な粒子画像流速測定装置用のトレーサ粒子発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、物体の周囲の流れ場にトレーサ粒子供給手段からオイル微粒子よりなるトレーサ粒子を供給し、トレーサ粒子にレーザー光を照射して反射光を撮像手段で撮像し、得られたトレーサ粒子の画像に基づいて流れ場の状態を測定する粒子画像流速測定方装置おいて、前記トレーサ粒子供給手段は、オイルが噴出するオイル噴出口の周囲を空気が噴出する空気噴出口で囲んだ2個の噴霧ノズルの軸線を相互に交差させた衝突噴流式ノズルと、圧縮空気を供給する圧縮空気供給源と、オイルを貯留するオイルタンクと、前記圧縮空気供給源の空気を前記オイルタンクに供給してオイルを加圧する第1空気通路と、前記オイルタンクの加圧されたオイルを前記衝突噴流式ノズルの二つのオイル噴出口に供給するオイル通路と、前記圧縮空気供給源の空気を前記衝突噴流式ノズルの二つの空気噴出口に供給する第2空気通路と備えることを特徴とする、粒子画像流速測定装置におけるトレーサ粒子発生装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1空気通路および前記オイル通路の少なくとも一方に設けられた第1圧力調整手段と、前記第1圧力調整手段の下流に設けられた第1圧力センサと、前記第2空気通路に設けられた第2圧力調整手段と、前記第2圧力調整手段の下流に設けられた第2圧力センサと、前記第1圧力センサで検出した圧力に基づいて前記第1圧力調整手段を制御するとともに、前記第2圧力センサで検出した圧力に基づいて前記第2圧力調整手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする粒子画像流速測定装置におけるトレーサ粒子発生装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の第1、第2第1CCDカメラ32A,32Bは本発明の撮像手段に対応し、実施の形態の電子制御ユニット54は本発明の制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、トレーサ粒子供給手段が、オイルが噴出するオイル噴出口の周囲を空気が噴出する空気噴出口で囲んだ2個の噴霧ノズルの軸線を相互に交差させた衝突噴流式ノズルを備えており、圧縮空気供給手段から第1空気通路を介してオイルタンクに圧縮空気を供給してオイルを加圧し、そのオイルをオイル通路を介して衝突噴流式ノズルの二つのオイル噴出口に供給し、かつ圧縮空気供給手段から第2空気通路を介して衝突噴流式ノズルの二つの空気噴出口に圧縮空気を供給するので、粒径が適切で均一なトレーサ粒子を発生することができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、第1空気通路またはオイル通路に第1圧力調整手段を設けるとともに、その下流側に第1圧力センサを設け、かつ第2空気通路の上流側および下流側にそれぞれ第2圧力調整手段および第2圧力センサを設け、制御手段が第1圧力センサで検出した圧力に基づいて第1圧力調整手段を制御するとともに、第2圧力センサで検出した圧力に基づいて第2圧力調整手段を制御するので、衝突噴流式ノズルのオイル噴出口および空気噴出口にそれぞれオイルおよび空気を任意の圧力で供給してトレーサ粒子の粒径を任意に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】風洞に設けられた粒子画像流速測定装置の全体平面図。
【図2】図1の2部拡大図。
【図3】図2の3−3線拡大断面図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】レーザーシートおよびCCDカメラのZ軸方向の移動の説明図。
【図6】第1、第2時刻の画像からピークレシオを算出する過程の説明図。
【図7】第1、第2ピークのレシオと誤ベクトルの数との関係を示す図。
【図8】トレーサ粒子供給手段の構造を示す図。
【図9】トレーサ粒子の粒径からオイル圧および圧縮空気圧を検索するマップを示す図。
【図10】各種のトレーサ粒子供給手段のトレーサ粒子の粒径およびその含有率を示すグラフ。
【図11】実施の形態および従来例のトレーサ粒子供給手段の粒径を比較する図。
【図12】実施の形態および従来例のレーザー強度に対するピークレシオの関係を比較する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図12に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1に示すように、所定の流速の空気の一様流が供給される風洞11の内部に例えば自動車車体の模型のような物体12が置かれており、その上流側に設置されたトレーサ粒子供給手段13から直径が数μmの微小な油滴(トレーサ粒子)が一様流中に供給される。一様流は物体12の表面に沿って流れの向きを変え、3次元の速度場を形成する。風洞11の壁面の少なくとも一部には透明な観測窓14が設けられており、この観測窓14を挟んで物体12に臨む位置に粒子画像流速測定装置15が配置される。
【0016】
図2〜図4に示すように、粒子画像流速測定装置15は風洞11の軸線と平行に配置された主ガイドレール21と、主ガイドレール21と平行に配置された副ガイドレール22と、主ガイドレール21に移動自在に支持された主トラバーサ23と副ガイドレール22に移動自在に支持された一対の第1、第2副トラバーサ24A,24Bと、主トラバーサ23および第1副トラバーサ24Aを連結する第1連結ロッド25Aと、主トラバーサ23および第2副トラバーサ24Bを連結する第2連結ロッド25Bとを備えており、第1、第2連結ロッド25A,25Bは同じ長さを有している。
【0017】
主ガイドレール21の両端に設けられた駆動スプロケット26および従動スプロケット27に無端のタイミングベルト28が巻き掛けられており、その一方の弦部は主トラバーサ23の一方の貫通孔23a(図4参照)に相対移動不能に係合し、その他方の弦部は主トラバーサ23の他方の貫通孔23b(図4参照)を非係合で通過する。駆動スプロケット26をモータ29(図3および図4参照)で駆動すると、従動スプロケット27との間に巻き掛けたタイミングベルト28が回転し、主トラバーサ23は主ガイドレール21に沿って移動する。主トラバーサ23が移動すると、それに第1、第2連結ロッド25A,25Bを介して連結された第1、第2副トラバーサ24A,24Bが副ガイドレール22に沿って移動する。
【0018】
主ガイドレール21の延長線上にレーザヘッド30が設けられており、レーザヘッド30は主ガイドレール21に沿ってレーザービームLbを照射する。主トラバーサ23の上面にミラーおよびシリンドリカルレンズよりなるレーザーシート照射手段31が設けられており、レーザーシート照射手段31はレーザービームLbをそれに直交する平面を照射するレーザーシートLsに変換する。レーザービームLbおよび風洞11の軸線はZ軸方向に延び、レーザーシートLsはZ軸方向に対して直交するX軸およびY軸方向に延びている。
【0019】
第1、第2副トラバーサ24A,24Bの上面にそれぞれ第1、第2CCDカメラ32A,32Bが設けられており、第1、第2CCDカメラ32A,32BはレーザーシートLsに対して鏡面対称な位置に配置されて該レーザーシートLs上の一点を指向している。第1、第2CCDカメラ32A,32Bは物体12の近傍のレーザーシートLsの所定領域を撮像するものであり、その撮像領域の全域でピントが合うように第1、第2CCDカメラ32A,32Bにはシャインフルーグアダプタが設けられる。レーザーシート照射手段31を搭載した主トラバーサ23と、第1、第2CCDカメラ32A,32Bを搭載した第1、第2副トラバーサ24A,24Bとは一定の位置関係を保ってZ軸方向に移動するため、レーザーシートLsと第1、第2CCDカメラ32A,32Bとは一定の位置関係を保ってZ軸方向に移動する。
【0020】
主トラバーサ23および第1、第2副トラバーサ24A,24BはZ軸方向に所定距離ずつ間欠的に移動し、停止する度にレーザーシートLsが短い時間間隔Δtで2回照射される。実施の形態ではZ軸方向の1mの距離を10cm間隔で間欠的に移動する(図5参照)。前記時間間隔Δtは風洞11内の一様流の流速が高いほど小さく設定されるもので、その間のトレーサ粒子のZ軸方向の移動距離が測定に適した大きさになるように調整される。また前記時間間隔Δtにおけるトレーサ粒子のZ軸方向の移動距離は、レーザーシートLsのZ軸方向の厚さを超えないように設定される。
【0021】
風洞11内を流れる一様流は物体12の周囲で方向を変えて3次元流となり、そこに含まれるトレーサ粒子も空気の流線に沿って移動する。時刻t1における1回目の照射に同期して第1、第2CCDカメラ32A,32BがレーザーシートLsに照射されたトレーサ粒子を撮像することで、照射面内に分布するトレーサ粒子の2方向からの2枚の画像を取得する。同様にして、時刻t1′=t1+Δtにおける2回目の照射に同期して第1、第2CCDカメラ32A,32BがレーザーシートLsに照射されたトレーサ粒子を撮像することで、照射面内に分布するトレーサ粒子の2方向からの2枚の画像を取得する。
【0022】
本実施の形態では、PIVの種々の手法のうち、2時刻t1,t1′において取得した二つの画像の輝度パターンを比較してトレーサ粒子群の移動ベクトルを求める「画像相関法」を採用する。
【0023】
図6には、例えば第1CCDカメラ32Aで2時刻において取得した二つの画像が示される。第1CCDカメラ32Aの軸線はレーザーシートLsの照射面に対して傾斜しているため、その画像のx−y平面はレーザーシートLsの照射面のX−Y座標に対して傾いている。四角い枠は、第1CCDカメラ32Aの画像を碁盤目状に分割した検査領域の一つであり、各々の検査領域においてトレーサ粒子群のx−y平面内の移動ベクトルが算出される。即ち、時刻t1に取得した第1画像の所定の検査領域におけるトレーサ粒子群の輝度パターンが、時刻t1′に取得した第2画像の所定の検査領域のどの位置に移動したかを相互相関値C(Δx,Δy)を用いて検出し、その移動ベクトルを時間Δtで除算したものを該検査領域における2成分速度ベクトルとする。以下、その2成分速度ベクトルの算出過程を説明する。
【0024】
先ず、第1ピーク値fpおよび第2ピーク値spの初期値を共に0に設定する。
【0025】
fp←0
sp←0
続いて、次式で定義される相互相関値C(Δx,Δy)を算出する。
【0026】
【数1】

【0027】
ここで、f(x,y)は第1画像の輝度パターンから求めた輝度関数であり、g(x,y)は第2画像の輝度パターンから求めた輝度関数である。よって、g(x+Δx,y+Δy)は、g(x,y)の輝度分布をx軸方向に−Δxだけ移動させ、y軸方向に−Δyだけ移動させたものに相当する。従って、Δx,Δyは時間間隔Δtにおける輝度パターンの移動量に対応する。
【0028】
各検査領域は、一辺の長さがpの正方形のピクセルがx軸方向にn個、y軸方向にn個集合したものであり、Δxをpからnpまで掃引し、かつΔyをpからnpまで掃引しながら、相互相関値C(Δx,Δy)を算出する。そして相互相関値C(Δx,Δy)が現第1ピーク値fpを超える度に、相互相関値C(Δx,Δy)を新第1ピーク値fpとし、現第1ピーク値fpを新第2ピーク値spとする。
【0029】
このようにしてΔxおよびΔyの全ての値について相互相関値C(Δx,Δy)を算出したとき、最終的な第1ピーク値fpが得られたΔxおよびΔyの値を第1画像から第2画像への輝度パターンの移動量とする。そしてΔx,Δyを第1、第2画像が取得された時間間隔Δtで除算したものが、その検査領域における2成分速度ベクトルのx成分およびy成分であるvx,vyとなる。
【0030】
このとき、第1画像と第2画像との相関度が高い場合には、第1ピーク値fpは突出して大きくなり、第2ピーク値spは第1ピーク値fpに対して遥かに小さくなるが、第1画像と第2画像との相関度が低い場合には、第1ピーク値fpおよび第2ピーク値spの差は小さくなる、このような場合にはΔxおよびΔyに基づいて求めた2成分速度ベクトルの信頼性が低くなる。
【0031】
そこで本実施の形態では、第1ピーク値fpおよび第2ピーク値spの比であるピークレシオfp/spを算出し、ピークレシオfp/spが閾値1.2以上の場合、つまり第1ピーク値fpが第2ピーク値spに対して1.2倍以上であれば、2成分速度ベクトルの信頼性が高いと判断し、逆に第1ピーク値fpが第2ピーク値spに対して1.2倍未満であれば、2成分速度ベクトルの信頼性が低いと判断し、その2成分速度ベクトルを誤ベクトルとして削除する。
【0032】
図7の横軸はピークレシオであり、縦軸は誤ベクトルの数である。このグラフから、ピークレシオが1.2以上の領域で誤ベクトルの数が極めて少なく、ピークレシオが1.2未満の領域で誤ベクトルの数が急激に増加することが分かる。
【0033】
以上、第1CCDカメラ32Aで2時刻t1,t1′において取得した二つの画像から各検査領域における2成分速度ベクトルを算出する手法を説明したが、同様にして、第2CCDカメラ32Bで2時刻t1,t1′において取得した二つの画像を比較することで、各検査領域における3成分速度ベクトルを算出することができる。
【0034】
第1CCDカメラ32Aの画像から得られた検査領域の2成分速度ベクトルと、第2CCDカメラ32Bの画像から得られた該検査領域の2成分速度ベクトルとは、第1、第2CCDカメラ32A,32Bの撮像方向が異なっていることにより、つまり実際の3成分速度ベクトルを異なる方向から見た視差により異なったものとなる。
【0035】
よって前記二つの2成分速度ベクトルと、レーザーシートLsに対する第1、第2CCDカメラ32A,32Bの相対的な位置関係とから、キャリブレーション(校正)によりレーザーシートLsの面内速度(X軸方向の速度VxおよびY軸方向の速度Vy)と、面外速度(Z軸方向の速度Vz)とよりなる3成分速度ベクトルを、照射面の各位置に対応して算出することができる。
【0036】
以上のようにしてレーザーシートLsの照射面内における3成分速度ベクトルが算出されると、主トラバーサ23および第1、第2副トラバーサ24A,24Bを一定の位置関係を保ってZ軸方向に移動させることで、つまりレーザーシートLsおよび第1、第2CCDカメラ32A,32Bを一定の位置関係を保ってZ軸方向に移動させることで、レーザーシートLsでZ軸方向にずれた照射面を照射し、その新たな照射面の各位置における3成分速度ベクトルを算出する。図1には、粒子画像流速測定装置15の照射面が物体12の前端(上流端)側の位置にある状態が実線で示され、物体12の後端(下流端)側の位置にある状態が鎖線で示される。
【0037】
この操作をZ軸方向に所定距離ずつ離間する複数の照射面について実行した結果をZ軸方向に積み重ねることで、物体12の周囲の3次元空間の全ての3成分速度ベクトルを測定することができ、これより物体12の周囲に形成される速度場を詳細に測定することができる。
【0038】
尚、レーザーシートLsの位置を軸線Z方向に移動させながら照射面に分布するトレーサ粒子の画像を順次取得するため、各画像が取得された時刻は異なったものとなるが、物体の周囲の流れを定常流として計測するため、前記時刻のずれは問題とはならない。
【0039】
ところで、仮に第1、第2CCDカメラ32A,32Bの位置を固定し、レーザーシート照射手段31だけをZ軸方向に移動させた場合、レーザーシート照射手段31の移動に伴って第1、第2CCDカメラ32A,32Bとの相対的な位置関係が変化するため、第1、第2CCDカメラ32A,32Bの画像から得られた二つの2成分速度ベクトルから3成分速度ベクトルを算出する際のキャリブレーションがレーザーシートLsの位置を移動させる毎に異なってしまい、そのキャリブレーション工数が増加する問題がある。
【0040】
しかしながら本実施の形態によれば、レーザーシート照射手段31および第1、第2CCDカメラ32A,32Bが一定の位置関係を保ってZ軸方向に移動するため、レーザーシートLsの位置が移動する度にキャリブレーションを実行する必要をなくしてキャリブレーション工数を軽減することができる。
【0041】
次に、図8に基づいてトレーサ粒子供給手段13の構造を説明する。
【0042】
トレーサ粒子供給手段13は2個の噴霧ノズル41,41を組み合わせた衝突噴流式ノズル42を備える。2個の噴霧ノズル41,41は実質的に同一構造であって、中心のオイル噴出口43と、オイル噴出口43の周囲を囲む環状の空気噴出口44とを備えており、各々の軸線が鈍角で交差するように配置される。
【0043】
圧縮空気を供給する圧縮空気供給源45とオイル(DOS)を貯留するオイルタンク46とが第1空気通路47で接続されており、オイルタンク46と2個の噴霧ノズル41,41のオイル噴出口43,43とがオイル通路48で接続される。また圧縮空気供給源45と2個の噴霧ノズル41,41の空気噴出口44,44とが第2空気通路49で接続される。オイルタンク46には第1圧力センサ50が設けられるとともに、その上流の第1空気通路47に可変圧力制御弁よりなる第1圧力調整手段51が設けられる。また第2空気通路49には第2圧力センサ52が設けられるとともに、その上流に第2圧力調整手段53が設けられる。
【0044】
電子制御ユニット54は、第1圧力センサ50および第2圧力センサ52からの圧力信号に基づいて、第1圧力調整手段51および第2圧力調整手段53の作動を制御する。
【0045】
図9は、衝突噴流式ノズル42に供給される圧縮空気の圧力(縦軸)と、衝突噴流式ノズル42に供給されるオイルの圧力(5本の特性ライン参照)と、オイルの流量(横軸)と、トレーサ粒子の粒径(各特性ライン上の数字参照)との関係を示すマップである。このマップを用いると、所望の粒径のトレーサ粒子を得るための圧縮空気の圧力と、オイルの圧力とを知ることができる。
【0046】
例えば、トレーサ粒子の粒径を3.6μmにしたいとき、圧縮空気の圧力を0.4MPaにし、オイルの圧力0.05MPaにすれば良く、そのときのオイルの流量は毎時32リットルとなる。あるいは圧縮空気の圧力を0.2MPaにし、オイルの圧力0.01MPaにしても、トレーサ粒子の粒径を3.6μmにすることができ、そのときのオイルの流量は毎時19リットルに減少する。
【0047】
以上のようにして、図9のマップからトレーサ粒子の目標粒径を得るための圧縮空気の圧力およびオイルの圧力をが検索されると、図8の電子制御ユニット54により、第1圧力センサ50で検出したオイルの圧力が前記マップ値に一致するように第1圧力調整手段51の作動をフィードバック制御するとともに、第2圧力センサ52で検出した空気の圧力が前記マップ値に一致するように第2圧力調整手段53の作動をフィードバック制御することで、衝突噴流式ノズル42から目標粒径のトレーサ粒子を安定して発生させることができる。
【0048】
図10に示すように、ラスキンノズルによるトレーサ粒子は粒径は均一であるが粒径が小さいという問題があり、グリコール気化器によるトレーサ粒子は粒子寿命が小さく粒子濃度の管理が困難であるという問題があり、超音波霧化器によるトレーサ粒子は粒径が大きくて均一であるがオイル(DOS)を使用することができずに粒子寿命が短いという問題がある。
【0049】
それに対して本実施の形態によれば、オイル(DOS)を用いてトレーサ粒子発生させることができ、しかもトレーサ粒子は粒径が大きく、かつ大きすぎて物体12の表面に付着する問題もない。また空気圧およびオイル圧を変化させることで粒径を容易に制御することができる。
【0050】
図11はトレーサ粒子の粒径と、その粒径のトレーサ粒子の体積比との関係を示すもので、本実施の形態によれば、従来例に比べて粒径の大きいトレーサ粒子の比率が増加していることが分かる。
【0051】
【表1】

【0052】
また表1にはラスキンノズルによるトレーサ粒子の粒径(液圧:NA、気圧:0.2MPa)と、液圧および気圧を種々に異ならせた本実施の形態によるトレーサ粒子の粒径とを、算術平均(D10)およびザウター平均(D32)により算出した結果を示すものである。表1からも、本実施の形態によるトレーサ粒子の粒径がラスキンノズルによるトレーサ粒子の粒径を上回っていることが分かる。
【0053】
図12はレーザー光の強度とピークレシオとの関係を示すもので、レーザー光の強度が低い領域でも、本実施の形態のピークレシオが従来例のピークレシオ約3割上回っていることが分かる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0055】
例えば、実施の形態では第1、第2圧力調整手段51,53を可変圧力制御弁で構成しているが、それを上流側のレギュレータと下流側の開閉弁との組合せで構成することができる。
【0056】
また実施の形態では第1空気通路47に第1圧力調整手段51を設けているが、それをオイル通路48に設けても良く、その場合には第1圧力センサ50はオイル通路48における第1圧力調整手段51の下流側に設けられる。
【符号の説明】
【0057】
12 物体
13 トレーサ粒子供給手段
32A 第1CCDカメラ(撮像手段)
32B 第3CCDカメラ(撮像手段)
41 噴霧ノズル
42 衝突噴流式ノズル
43 オイル噴出口
44 空気噴出口
45 圧縮空気供給源
46 オイルタンク
47 第1空気通路
48 オイル通路
49 第2空気通路
50 第1圧力センサ
51 第1圧力調整手段
52 第2圧力センサ
53 第2圧力調整手段
54 電子制御ユニット(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体(12)の周囲の流れ場にトレーサ粒子供給手段(13)からオイル微粒子よりなるトレーサ粒子を供給し、トレーサ粒子にレーザー光を照射して反射光を撮像手段(32A,32B)で撮像し、得られたトレーサ粒子の画像に基づいて流れ場の状態を測定する粒子画像流速測定装置において、
前記トレーサ粒子供給手段(13)は、
オイルが噴出するオイル噴出口(43)の周囲を空気が噴出する空気噴出口(44)で囲んだ2個の噴霧ノズル(41)の軸線を相互に交差させた衝突噴流式ノズル(42)と、
圧縮空気を供給する圧縮空気供給源(45)と、
オイルを貯留するオイルタンク(46)と、
前記圧縮空気供給源(45)の空気を前記オイルタンク(46)に供給してオイルを加圧する第1空気通路(47)と、
前記オイルタンク(46)の加圧されたオイルを前記衝突噴流式ノズル(42)の二つのオイル噴出口(43)に供給するオイル通路(48)と、
前記圧縮空気供給源(45)の空気を前記衝突噴流式ノズル(42)の二つの空気噴出口(44)に供給する第2空気通路(49)と備えることを特徴とする、粒子画像流速測定装置におけるトレーサ粒子発生装置。
【請求項2】
前記第1空気通路(47)および前記オイル通路(48)の少なくとも一方に設けられた第1圧力調整手段(51)と、
前記第1圧力調整手段(51)の下流に設けられた第1圧力センサ(50)と、
前記第2空気通路(49)に設けられた第2圧力調整手段(53)と、
前記第2圧力調整手段(53)の下流に設けられた第2圧力センサ(52)と、
前記第1圧力センサ(50)で検出した圧力に基づいて前記第1圧力調整手段(51)を制御するとともに、前記第2圧力センサ(52)で検出した圧力に基づいて前記第2圧力調整手段(53)を制御する制御手段(54)とを備えることを特徴とする、請求項1に記載の粒子画像流速測定装置におけるトレーサ粒子発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−17602(P2011−17602A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162116(P2009−162116)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】