説明

粒子線治療装置及び治療方法

【課題】荷電粒子ビームエネルギーの安定性を確保しつつ、治療実施時以外の電力消費を少なくし、トータルの運転コストを低くすることができる粒子線治療装置及び治療方法を提供する。
【解決手段】荷電粒子源5で発生した荷電粒子を加速器3に入射させる入射装置2と、加速空洞6及び複数の電磁石8を有し前記入射装置2から入射された荷電粒子ビームを加速する加速器3と、前記加速空洞6及び複数の電磁石8を駆動制御する電源と、前記加速器3から出射された荷電粒子ビームを照射室7へ輸送するビーム輸送系4と、を備え、前記加速器は治療実施時及び待機運転時に一定周期のパターン運転が行われる粒子線治療装置1において、前記待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間が治療実施時の運転パターンの加速時間及び減速時間よりも長くすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加速器としてシンクロトロン等を用いてパターン運転を行う粒子線治療装置及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置では荷電粒子の加速にシンクロトロン等の加速器が用いられている。図3は、シンクロトロン加速器を用いた粒子線治療装置1の全体構成図である。粒子線治療装置1は、荷電粒子源5で発生した荷電粒子を加速器3に入射させる入射装置2と、入射装置2から入射された荷電粒子ビームを所定のエネルギーとなるまで加速する加速器3と、この加速器3から出射された荷電粒子ビームを複数の照射室7へ輸送するビーム輸送系4とから構成されている。また、加速器3は荷電粒子ビームを偏向加速するための加速空洞6及び複数の電磁石8を有し、また、入射装置2及びビーム輸送系4も荷電粒子ビームを偏向させるための複数の電磁石9を有している。また、加速器3の加速空洞6及び電磁石8は、図4に示すように、それぞれ加速空洞電源、電磁石電源及び制御装置に接続されている。
【0003】
このように構成された粒子線治療装置1の運転において、加速器は、図5に示すように、「入射→ 加速→ 出射→ 減速」を1サイクルとして、複数回このサイクルを繰り返して運転し、このサイクルにしたがって設定された電磁石の励磁パターンにより電磁石を励磁するパターン運転が行われている。電磁石電源の出力電流は、「入射→ 加速→ 出射→ 減速」に応じて、フラットボトム部10、加速部11、フラットトップ部12、及び減速部13を形成している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−185400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の粒子線治療装置では、シンクロトロン加速器から取り出される荷電粒子ビームを治療に使う時間は極く短時間であるが、荷電粒子ビームエネルギーの安定性を確保するため、治療時間以外でも、図5に示す治療実施時と同じ周期のパターンで電磁石電源および加速空洞電源を運転して待機しており、その間の電力消費は非常に大きなものであった。
【0005】
特に、電磁石電源は、待機運転時も、治療実施時の条件と同じ速い繰返し周期でパターン運転されるため、パターン運転の加速部および減速部では電磁石のインダクタンス成分の影響による無効電力が発生し、大量の電力を消費していた。
【0006】
一方、この治療時間以外の電力消費をなくすために、治療時間以外は加速器のパターン運転を停止することも考えられるが、治療実施時に合わせて運転を開始すると、電磁石の温度変化が大きくなり、それによる寸法変化のため電磁石の作動が不安定となり、安定した治療が行えないという問題があった。
【0007】
これらの背景により粒子線治療装置の消費電力の削減は困難で、そのため運転コストが非常に大きなものとなっていた。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、荷電粒子ビームエネルギーの安定性を確保しつつ、治療実施時以外の電力消費を少なくし、トータルの運転コストを低くすることができる粒子線治療装置及び治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本件発明に係る粒子線治療装置は、荷電粒子源で発生した荷電粒子を加速器に入射させる入射装置と、加速空洞及び複数の電磁石を有し前記入射装置から入射された荷電粒子ビームを加速する加速器と、前記加速空洞及び複数の電磁石を駆動制御する電源と、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射室へ輸送するビーム輸送系と、を備え、前記加速器は治療実施時及び待機運転時に一定周期のパターン運転が行われる粒子線治療装置において、前記待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間が治療実施時の運転パターンの加速時間及び減速時間よりも長いことを特徴とする。
【0010】
また、本件発明に係る粒子線治療方法は、荷電粒子源で発生した荷電粒子を加速器に入射し、前記入射装置から入射された荷電粒子ビームを加速器により加速し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームをビーム輸送系により照射室へ輸送し粒子線治療を行うとともに、前記加速器は治療実施時及び待機運転時に一定周期のパターン運転が行われる粒子線治療方法において、前記待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間が治療実施時の運転パターンの加速時間及び減速時間よりも長いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間を治療実施時のときよりも長くすることにより、荷電粒子ビームエネルギーの安定性を確保しつつ、待機運転時の電力消費を大幅に減少させることができるので、低コストで安定した治療を行うことができる粒子線治療装置及び治療方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の粒子線治療装置及び治療方法の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る粒子線治療装置及び治療方法を、図1を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る待機運転時の運転パターンAと治療実施時の運転パターンBを重ねて表示した図である。
【0013】
図4に示すように、各電磁石8に対して励磁電流を出力する電磁石電源および加速空洞6に対して電力を入力する加速空洞電源は、制御装置からの指示に従って運転される。シンクロトロン加速器のように荷電粒子の入射時のエネルギーと出射時のエネルギーが異なる加速器の電磁石電源の出力電流は、治療実施時では、図1に示すような台形波の運転パターンBにしたがって制御される。
【0014】
この運転パターンBでは、出力電流一定のフラットボトム部10において荷電粒子が入射され、出力電流が立ち上がる加速部11において荷電粒子は加速されてエネルギーが増大し、出力電流一定のフラットトップ部12において荷電粒子が取り出され、出力電流が立ち下がる減速部13において荷電粒子は減速されてエネルギーが減少する。この加速部11と減速部13において、電磁石の持つ大きなインダクタンス成分により電圧が発生し、大量の無効電力を生じる。従来の待機運転時の運転パターンは、治療実施時の運転パターンBと同じ運転パターンで運転していることから、上述したように大きな無効電力が発生していた。
【0015】
これに対して、本第1の実施形態では、待機運転中の運転パターンを図1のAのように、フラットトップ部12aの出力電流値は治療実施時の出力電流値とほぼ同等であるが、加速部11aや減速部13aの立ち上がり及び立ち下がりの勾配を、治療実施時の運転パターンBの立ち上がり及び立ち下がりの勾配よりも緩やかに設定している。いいかえれば、待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間を、治療実施時の運転パターンの加速時間及び減速時間よりも長く設定している。
【0016】
一般に、電磁石のインダクタンス成分による電力損失は、この勾配(変化率)の大きさに比例する。したがって、待機運転パターンの立ち上がり及び立ち下がりの勾配を緩やかにすることにより、電磁石のインダクタンス成分による電力損失を低く抑えることができる。
【0017】
また、待機運転中の運転パターンAの加速部11aや減速部13aの立ち上がり及び立ち下がりの勾配を治療実施時のパターンよりも緩やかに設定したことにより、すなわち、待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間を、治療実施時の運転パターンよりも長く設定したことにより、待機運転時の運転パターンAの周期が長くなることになり、その結果、待機運転期間中のサイクル数も減少し、待機運転中の電磁石の電力損失を大幅に小さくすることができる。
【0018】
ところで、電磁石が発生する磁場の安定性に影響を与える要因として、温度変化による電磁石の寸法変化があげられる。そのため、治療実施時及び待機運転時において電磁石の温度変化が生じないように、待機運転時の運転パターンAを調整する。具体的には、待機運転時の運転パターンAの加速部11aや減速部13aの立ち上がり及び立ち下がりの勾配及びフラットトップ部12aの持続時間を適宜調整し、治療実施時及び待機運転時に電磁石に発生する熱負荷がほぼ同等になるように設定する。これにより、待機運転中及び治療実施時の電磁石の温度をほぼ一定に維持することができるので、電磁石の作動が安定となり、安定した治療を行うことができる。
【0019】
本第1の実施形態によれば、待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間を治療実施時の運転パターンよりも長くするとともに、待機運転時の運転サイクル数を少なくすることにより、荷電粒子ビームエネルギーの安定性を確保しつつ、電力消費を大幅に減少させることができるので、低コストで安定した治療を行うことができる粒子線治療装置を提供することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る粒子線治療装置及び治療方法を、図2を用いて説明する。
図2は本発明の第2の実施形態に係る待機運転時の運転パターンCと治療実施時の運転パターンBを重ねて表示した図である。
【0021】
本第2の実施形態では、待機運転時の運転パターンCのトップフラット部12cが治療実施時のパターンのトップフラット部12よりも大幅に長く設定されているとともに、その出力電流値も低く設定されている。また、待機運転時の運転パターンCの加速部11cや減速部13cの立ち上がり及び立ち下がりの勾配は、上記第1の実施形態と同様に、治療実施時の運転パターンAの立ち上がり及び立ち下がりの勾配よりも緩やかに設定されている。
【0022】
また、待機運転時の運転パターンCの加速部11cや減速部13cの立ち上がり及び立ち下がりの勾配及びフラットトップ部12cの時間及び出力電流値を適宜調整し、治療実施時及び待機運転時に電磁石に発生する熱負荷がほぼ同等となるように設定する。これにより、待機運転中及び治療実施時の電磁石の温度をほぼ一定に維持することができるので、電磁石の作動が安定となり、安定した治療を行うことができる。
これにより、待機運転時の運転サイクル数を、最低1サイクルまで大幅に少なくすることができる。
【0023】
本第2の実施形態によれば、待機運転時に使用される出力電流を小さくし、かつ、待機運転時の運転サイクル数を大幅に少なくすることにより、荷電粒子ビームエネルギーの安定性を確保しつつ、電力消費を大幅に減少させることができるので、低コストで安定した治療を行うことができる粒子線治療装置を提供することができる。
【0024】
また、上記第1及び第2の実施形態において、加速空洞及び電磁石の温度を制御するために、加速空洞及び電磁石に温度保持装置を設けてもよい(図示せず)。温度保持装置としては、温水又は電気ヒーター等による通常の加熱制御手段を用いることができる。この加熱保持手段を併用することにより、治療実施時及び待機運転時に電磁石に発生する熱負荷が同等となるように確実に制御することができる。
【0025】
なお、パターン運転の加速部および減速部で電磁石のインダクタンス成分の影響によって発生した無効電力を再生器(図示せず)に回収・蓄積し、無効電力が発生していない時の電源出力時に電力供給を行ってもよい。これにより電磁石の安定な運転を妨げることなく無効電力を有効に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る待機運転時の運転パターン図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る待機運転時の運転パターン図。
【図3】本発明に係る粒子線治療装置の全体構成図。
【図4】本発明に係る粒子線治療装置の電源系統の模式図。
【図5】治療実施時の運転パターン図。
【符号の説明】
【0027】
1…粒子線治療装置、2…入射装置、3…加速器、4…ビーム輸送系、5…荷電粒子源、6…加速空洞、7…照射室、8,9…電磁石、10…フラットボトム部、11,11a,11c…加速部、12,12a,12c…フラットトップ部、13,13a,13c…減速部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源で発生した荷電粒子を加速器に入射させる入射装置と、加速空洞及び複数の電磁石を有し前記入射装置から入射された荷電粒子ビームを加速する加速器と、前記加速空洞及び複数の電磁石を駆動制御する電源と、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射室へ輸送するビーム輸送系と、を備え、前記加速器は治療実施時及び待機運転時に一定周期のパターン運転が行われる粒子線治療装置において、
前記待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間が治療実施時の運転パターンの加速時間及び減速時間よりも長いことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
前記待機運転時の運転パターンの周期が前記治療実施時の運転パターンの周期よりも長いことを特徴とする請求項1記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
前記待機運転時の運転パターンのトップフラット部の電流値が、前記治療実施時の運転パターンのトップフラット部の電流値よりも低いことを特徴とする請求項2記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
前記加速空洞及び電磁石に温度保持装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
荷電粒子源で発生した荷電粒子を加速器に入射し、前記入射装置から入射された荷電粒子ビームを加速器により加速し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームをビーム輸送系により照射室へ輸送し粒子線治療を行うとともに、前記加速器は治療実施時及び待機運転時に一定周期のパターン運転が行われる粒子線治療方法において、
前記待機運転時の運転パターンの加速時間及び減速時間が治療実施時の運転パターンの加速時間及び減速時間よりも長いことを特徴とする粒子線治療方法。
【請求項6】
前記待機運転時の運転パターンの周期が前記治療実施時の運転パターンの周期よりも長いことを特徴とする請求項5記載の粒子線治療方法。
【請求項7】
前記待機運転時の運転パターンのトップフラット部の電流値が、前記治療実施時の運転パターンのトップフラット部の電流値よりも低いことを特徴とする請求項6記載の粒子線治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−157374(P2010−157374A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333619(P2008−333619)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】