説明

粒子線治療装置

【課題】本発明の目的は、小型かつ調整容易なビーム輸送装置を備える粒子線治療装置を提供することにある。
【解決手段】粒子線治療装置100はシンクロトロン300と固定ビーム輸送装置400と回転ガントリー500と照射装置520を備え、固定ビーム輸送装置400に偏向電磁石430が設置され、固定ビーム輸送装置400は偏向電磁石430によって分割された二つの直線部410,420を持つ。上流の第一直線部410には3台の四極電磁石441〜443とプロファイルモニタ451、下流の第二直線部420には4台の四極電磁石444〜447と2台のプロファイルモニタ452,453、2台のステアリング電磁石463,464が設置され、これらの電磁石の励磁量を調整しビームのTwissパラメータと分散関数を回転ガントリー500との接続点530においてビームの進行方向を軸とした回転に対して不変となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陽子線または炭素イオン線等の重イオン線の照射によって、がんなどの腫瘍を治療する粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療法の一つとして、患部に陽子あるいは炭素イオン等のイオンビームを照射する粒子線治療が知られている。陽子や炭素イオン等のイオンを高エネルギーで物質に入射すると、飛程の終端で多くのエネルギーを失う。粒子線治療では、この性質を利用し、がん細胞で多くのエネルギーを失うように、イオンビームを患者に照射する。すると、周囲の健康な組織に損傷を与えることなく、がん細胞を破壊できる。粒子線治療ではイオンビームの空間的な広がりとエネルギーを調整し、患部の形状に合わせた線量分布を形成する。
【0003】
粒子線治療に用いる粒子線治療装置は、イオン源、イオン源で発生したイオンを加速する加速器、加速器から出射したイオンビームを輸送するビーム輸送装置、所望の線量分布で患部にビームを照射する照射装置からなる。
【0004】
粒子線治療装置で用いられる加速器には、シンクロトロンやサイクロトロン等が挙げられる。どちらの加速器も入射したイオンを所定のエネルギーまで加速し、イオンビームとして出射する機能は共通である。
【0005】
加速器から出射されたイオンビームはビーム輸送装置によって照射装置まで輸送される。ビーム輸送装置にはイオンビームの進行方向を大きく変える偏向電磁石と、ビームの進行方向を微調整するステアリング電磁石,イオンビームに収束,発散の作用を与える四極電磁石が備えられており、これらの電磁石の励磁量を適切に調整することで照射装置に適切なサイズ,位置のビームが輸送される。
【0006】
患部に複数方向からビームを照射するために、回転ガントリーに、ビーム輸送装置と照射装置を設置することもある。回転ガントリーを持つ粒子線治療装置のビーム輸送装置は回転ガントリーに設置される回転ビーム輸送装置と、建屋に設置・固定される固定ビーム輸送装置に大別できる。
【0007】
ビーム輸送装置では「Twissパラメータ」と「分散関数」と呼ばれるビームの光学的パラメータを調整する。調整するTwissパラメータは、ビームの進行方向に対して垂直な平面内の互いに直交する二方向に対して、それぞれαとβの二種がある。通常は、水平方向をx、鉛直方向をyとしてαx,βx,αy,βyが調整パラメータとして選ばれる。βはビームの空間的な分布の大きさを表すパラメータであり、αはビームの進行方向に対するβの変化率を表わしている。分散関数はビームを構成する各イオン粒子のエネルギーのバラつきと、位置及び軌道の傾きの相関を示す指標である。通常の輸送系では水平方向の分散関数を調整する。それぞれηx,η′xと表わす。分散関数ηx,η′xはともに0の状態で偏向電磁石を通過すると発生する。また、特定の分散関数の値で偏向電磁石を通過すると、通過後ともに0になる性質がある。また、ηx,η′xがともに0となった状態で四極電磁石とドリフトスペースからなる直線状のビーム輸送装置に入射すると、その直線状ビーム輸送装置の至る所でηx,η′xは0のままである。一般に、照射装置ではビームの空間的広がりを小さくする必要がある。分散関数はその絶対値が大きいほどビームの広がりが大きくなるため、照射装置ではビームサイズを小さくする際には分散関数ηx,η′xを0にしたうえでさらにβを小さくし、αを0にする。また、ビームを損失なく照射点まで輸送するには、ビーム輸送装置内にある偏向電磁石や四極電磁石等の通過時に、その電磁石の磁極ギャップよりもビームサイズを小さくする必要がある。
【0008】
回転ガントリーに照射装置が設置されている場合は、照射方向の変更時に電磁石の再励磁が不要となるように、全ての照射角度で同一の四極電磁石の励磁量でビームを輸送する。より具体的には、回転ガントリーに設置された回転ビーム輸送装置と建屋に固定された固定ビーム輸送装置の境界でビームのTwissパラメータが水平と鉛直で同一の値を持つように四極電磁石を調整している。すると、照射方向によらず、照射点でのTwissパラメータが一定となる。
【0009】
さらに、ビーム輸送装置ではビームを照射する位置とビーム軌道の勾配を調整する必要もある。ビーム位置と軌道の勾配はビーム輸送装置内のステアリング電磁石と呼ばれる電磁石で調整する。水平方向の位置をx、軌道勾配をx′、鉛直方向位置をy、軌道勾配をy′と表わす。これら4つのパラメータを調整するために、水平ステアリング電磁石と垂直ステアリング電磁石がそれぞれ2台以上必要である。
【0010】
また、ビーム輸送装置にはビームの照射制御のために高速キッカが設置されることがある。高速キッカは立ち上がりの早い電磁石が用いられる。高速キッカが磁場を励起すると、キックを受けたビームが軌道を外れ、下流のビームダンパに衝突する。これによってビームの照射と停止の制御を行う。このときは、キッカとダンパの間に、数m程度の距離をとる必要がある。この体系でビームの輸送経路を短くする手法として特許文献1が挙げられる。
【0011】
照射装置では、患部形状に合わせたイオンビームの照射野を形成する。照射野形成では、患部深さ方向を照射するイオンビームのエネルギーにより制御し、患部形状に合わせたビーム形状をコリメータなどで形成することで実現する。照射装置での照射野形成の方法には、散乱体によって、輸送装置から輸送されたビームを広げる散乱体照射法と、輸送された細いビームを走査電磁石によって患部形状に合わせて走査するスキャニング照射法がある。
【0012】
散乱体照射法では、イオンビームを患部形状に広げる散乱体と、体表面からの患部深さに合わせてイオンビームの飛程を制御する飛程変調手段が照射装置に備えられている。散乱体照射法の一例として、回転型飛程変調装置を用いた方法を説明する。この方法では、照射装置内に、ビームの進行方向と平行な軸を回転軸として回転するプロペラの形状をした飛程変調装置と、密度の異なる金属を同心円状に組み合わせた第二散乱体がビームの経路の上流から設置されている。回転型飛程変調装置は、ビームの照射中に常に回転している。また、回転型飛程変調装置は回転の周方向に対して、厚みが変化している。そのため、回転型飛程変調装置をビームが通過するタイミングによって、ビームが失うエネルギーを制御し、ひいてはイオンビームの飛程を制御できる。この原理を用いて、加速器からのイオンビームの出射タイミングを制御し、照射する患部の形状に合わせたビームエネルギーの分散を形成できる。
【0013】
スキャニング照射法の一例として、スポットスキャニング照射法の説明をする。スキャニング照射法の照射装置にはビームを走査する走査電磁石が2台備えられている。患部ののみにビームが照射されるように、これらの走査電磁石で照射装置内にビームをビームの進行方向に対して垂直な平面内で走査する。また、患部形状に一致した照射野を形成するために、加速器から出射されるビームのエネルギーを変更するか、あるいはビーム輸送装置に配置されたエネルギー吸収体の厚みを変えることで、照射装置に輸送されるビームのエネルギーを変更する。すると、ビームのエネルギーによってブラッグピークの位置が変わり、患部形状に合わせた照射野を形成できる。これら照射法のより詳細な説明は非特許文献1に詳しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−279045号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Alfred Smith他「The M. D. Anderson proton therapy system」Medical Physics 36(9),2009年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の粒子線治療装置でのビーム輸送装置では前述の通り、αx,βx,αy,βy,ηx,η′xの6パラメータが四極電磁石で調整する。また、ビーム位置と軌道勾配x,x′,y,y′の4パラメータをステアリング電磁石によって調整する。よって、ビーム輸送装置には少なくとも1台の偏向電磁石と6台の四極電磁石、水平軌道調整用と鉛直軌道調整用についてそれぞれ2台のステアリング電磁石が必要である。電磁石で各パラメータを限られた励磁電流で調整するには電磁石の下流に続くビーム軌道長を長くとる必要があり、小型のビーム輸送装置を実現するには電磁石電源容量の増強が必須であり、コスト高となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明における粒子線治療装置では固定ビーム輸送装置に1台の偏向電磁石を持ち、その偏向電磁石によって分割された二つの直線部をもつ。この偏向電磁石よりも荷電粒子ビームのビーム進行方向の上流側に位置する第1の直線状ビーム輸送装置には、3台の四極電磁石を配置し、偏向電磁石よりも荷電粒子ビームの進行方向の下流側に位置する第2の直線状ビーム輸送装置には、4台の四極電磁石を配置する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも輸送経路の短いビーム輸送装置を実現することができ、小型の粒子線治療装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態の粒子線治療装置の全体構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の粒子線治療装置の全体構成図である。
【図3】本発明の第3の実施形態の粒子線治療装置の全体構成図である。
【図4】本発明の第4の実施形態の粒子線治療装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しつつ本発明の第1の実施形態を説明する。
【0021】
本発明の第一の実施形態を図1に示す。図1は本実施形態の粒子線治療装置100の全体構成である。粒子線治療装置100は前段加速器200,シンクロトロン300,ビーム輸送装置,回転ガントリー500から構成される。
【0022】
ビーム輸送装置は、粒子線治療装置100の建屋に固定された固定ビーム輸送装置400と、この固定ビーム輸送装置400に接続されて回転可能な構成を有する回転ビーム輸送装置510を有する。荷電粒子ビーム(以下、ビーム)の進行方向に対して上流側に固定ビーム輸送装置400が位置し、下流側に回転ビーム輸送装置510が位置する。回転ガントリー500には回転ビーム輸送装置510と照射装置520が接続されている。回転ビーム輸送装置510と固定ビーム輸送装置400は接続点530で接続されている。回転ガントリー500は接続点530を中心に固定ビーム輸送装置400の第二直線部420の回転軸の方向540を軸として回転する。回転ガントリー500を回転させることで、照射点550にある患部へのビームの照射方向を調節できる。また、シンクロトロン300,固定ビーム輸送装置400,回転ビーム輸送装置510に設置された各機器には電源600が接続されており、電源600は制御装置700を通して調整者用端末800からの指令に基づき制御される。電源600は、出射用高周波電源610,偏向電磁石電源620,四極電磁石電源630,ステアリング電磁石電源640,高速キッカ電源650,出射用セプタム電磁石660を備える。調整者用端末800からの指令信号に基づいて、制御装置700は、電源600を制御してシンクロトロン300,回転ビーム輸送装置400,回転ビーム輸送装置510を構成する各機器を制御する。
【0023】
本粒子線治療装置では、ライナックである前段加速器200で予備加速したビームをシンクロトロン300で指定したエネルギーまで加速する。加速されたビームは出射用セプタム電磁石310を通して固定ビーム輸送装置400に出射される。固定ビーム輸送装置400によって、ビームは接続点530まで輸送され、その後回転ビーム輸送装置510に入る。最終的にビームは照射装置520を通過し、照射点550に、所望のビームサイズとビーム位置で輸送される。
【0024】
シンクロトロン300にはビームの入射時に用いる入射用セプタム電磁石320,ビーム軌道を偏向する偏向電磁石330,ビームを加速する高周波加速空胴340,ビームを安定に周回させるための四極電磁石350,ビームの出射時に安定領域を狭めるために励磁する六極電磁石360、周回するビームを安定領域外に蹴りだす出射用高周波電極370、出射ビームを固定ビーム輸送装置400に導く出射用セプタム電磁石310が設置されている。加速中にビームはシンクロトロン300の内部を周回している。ビームが周回する周波数に一致させた高周波電場が高周波加速空胴340内に励起されている。ビームがシンクロトロン300内部を周回すると高周波電場によって、ビームは加速される。加速中に、ビーム軌道が一定となるように、ビームのエネルギーに合わせてシンクロトロン300の偏向電磁石330の磁場を増加させる。また、ビームが加速するにつれ、シンクロトロン300を周回する時間も短くなるので、高周波加速空胴340内に励起する高周波電場の周波数も上げていく。指定したエネルギーまでビームが加速されると、高周波加速空胴340内に励起する高周波電場の周波数と偏向電磁石330の磁場を一定に保つ。
その状態から、六極電磁石360を励磁し、出射用高周波電極370に高周波電場を励起する。六極電磁石360が励磁されると、ビームを構成する粒子の水平方向の位置と勾配変位によっては、シンクロトロン300内を安定に周回せず、出射用セプタム電磁石310の位置に達する。安定に周回する粒子も、出射用高周波電極370に発生する高周波電場からのキックによって、時間経過とともに水平方向の位置と勾配変位が大きくなり、安定に周回できなくなり、出射用セプタム電磁石310に達する。この方法でシンクロトロン300からビームが取り出すと、電力を供給する出射用高周波電源610のON/OFF制御によってビームの出射と停止を制御できる。
【0025】
固定ビーム輸送装置400には偏向電磁石430が1台設置されている。この偏向電磁石430によって、固定ビーム輸送装置400は二つの直線状ビーム輸送装置に分割される。固定ビーム輸送装置400は、偏向電磁石430よりもビーム進行方向の上流側に位置する第1の直線状ビーム輸送装置(第一直線部)410と、偏向電磁石430よりもビーム進行方向の下流側に位置する第2の直線状ビーム輸送装置(第二直線部)420を備える。第一直線部410は、一方が出射用セプタム電磁石310に接続され、他方が第二直線部420に接続される。第二直線部420は、一方が第一直線部410に接続され、他方が回転ビーム輸送装置510に接続される。第一直線部410には3台の四極電磁石441〜443、1台のプロファイルモニタ451、2台のステアリング電磁石461,462,高速キッカ470が配置されている。第一直線部410のビーム軌道上に、ビーム進行方向の上流側から順に、ステアリング電磁石461,四極電磁石441,四極電磁石442,ステアリング電磁石462,高速キッカ電磁石470,四極電磁石443,プロファイルモニタ451が配置される。第二直線部420には4台の四極電磁石444〜447、2台のプロファイルモニタ452,453、1台のステアリング電磁石463が配置されている。第二直線部420のビーム軌道上に、ビーム進行方向の上流側から順に、ステアリング電磁石463,四極電磁石444,四極電磁石445,四極電磁石447,四極電磁石446,プロファイルモニタ453,プロファイルモニタ452が配置される。偏向電磁石430にはダンパ480が設置されており、高速キッカ470によってキックされたビームはダンパ480に衝突し、遮断される。
【0026】
偏向電磁石430は偏向電磁石電源620から電流を供給される。同様に各四極電磁石441〜447,ステアリング電磁石461〜463,高速キッカ470はそれぞれ四極電磁石電源630,ステアリング電磁石電源640,高速キッカ電源650から電流を供給される。これらの電源610,620,630,640は制御装置700によって出力電流を制御される。それぞれの電磁石の励磁電流は調整者用端末800を通した調整者の指示によって個別に設定できる。
【0027】
プロファイルモニタ451〜453はマルチワイヤドリフトチェンバーを用いたビームの位置とビームのサイズを測定する荷電粒子ビーム計測装置である。プロファイルモニタ451〜453は通過するビームの水平方向と垂直方向の分布を測定できる。プロファイルモニタ451〜453の出力信号はプロファイルモニタ信号処理装置710によって処理され、ビームサイズとビームの位置が計算される。その後、制御装置700を通して調整者用端末800にビームサイズとビーム位置の結果を表示する。
【0028】
ステアリング電磁石461〜463は鉛直方向と水平方向に独立に磁場を励起することができる。そのため各電磁石1台で水平方向と鉛直方向に独立にビームを偏向できる。
【0029】
回転ビーム輸送装置510には偏向電磁石3台と四極電磁石6台が設置されており、各電磁石は固定ビーム輸送装置400に設置された電磁石と同様に電源(図示せず)から励磁電流を供給される。また、回転ビーム輸送装置510にはプロファイルモニタ(図示せず)が設置されており、固定ビーム輸送装置400のプロファイルモニタ451〜453同様、ビームサイズを測定できる。
【0030】
本実施例の照射装置520は、スキャニング照射法に対応した照射装置であり、ビームを走査するためのスキャニング電磁石(図示せず)とプロファイルモニタ(図示せず)が設置されている。次に、固定ビーム輸送装置400に設置された四極電磁石441〜447とステアリング電磁石461〜463の励磁量の調整手法を説明する。
【0031】
固定ビーム輸送装置400の調整によって、接続点530においてビームの進行方向を回転ガントリー500の回転軸に一致させ、かつビームのTwissパラメータをそれぞれ予め定めた目標値(例えばαx=αy=0,βx=βy=6m)に一致させる。
【0032】
まず、出射用セプタム電磁石310から出射されるビームのパラメータを測定する。TwissパラメータとエミッタンスはQスキャン法と呼ばれる手法で測定する。第一直線部410のステアリング電磁石461,462の励磁量を調整し、ビームの中心軌道が偏向電磁石430の設計軌道と一致させる。次に、四極電磁石441〜443を所定の励磁量の範囲で変化させ、プロファイルモニタ451でのビームサイズ変化を測定する。各四極電磁石441〜443の励磁量とプロファイルモニタ451でのビームサイズの振る舞いから、出射用セプタム電磁石310でのTwissパラメータとエミッタンスを測定できる。分散関数の測定はシンクロトロン300から出射されるビームのエネルギーを微小に変化させ、そのエネルギー変化に応じたプロファイルモニタ451での位置の変化から測定できる。ここでも、第一直線部410の各四極電磁石441〜443の励磁量を所定の範囲で変化させ、プロファイルモニタでのビーム位置を測定する。そのエネルギー変化に伴う位置の変化の振る舞いから、出射用セプタム電磁石310での分散関数を求めることができる。
【0033】
以上の測定から偏向電磁石430の出口、すなわち第二直線部420において分散関数ηx,η′xをともに0にし、かつ偏向電磁石430をビームの損失なく通過できる四極電磁石の励磁量を求めることができる。さらに、固定ビーム輸送装置400のステアリング電磁石462,463で第二直線部420に設置された2台のプロファイルモニタ452,453の測定結果から回転ガントリー500の回転軸の方向540とビームの進行方向が一致させる。また、Twissパラメータの測定結果から、接続点530でのTwissパラメータを目標値に一致させる第二直線部420の四極電磁石560の励磁量を求めることができる。以上の手順によって、固定ビーム輸送装置400の四極電磁石441〜447とステアリング電磁石461〜463の調整が完了する。
【0034】
本実施形態のビーム輸送装置ではステアリング電磁石462および463の間には四極電磁石443と偏向電磁石430が配置されている。四極電磁石443はビームに対し水平方向に発散、鉛直方向に収束の作用をする電磁石であり、偏向電磁石430はその磁極端面がビームの進行方向に対して垂直から一定の角度をつけられている。すると、偏向電磁石430はビームの水平方向に対して収束・発散の作用をせず、鉛直方向に対して収束作用を与える。ステアリング電磁石462と463の間に収束・発散の作用がある機器を本実施形態のように配置し、ステアリング電磁石463以降の四極電磁石の配置を本実施形態で示した配置にすることで、ステアリング電磁石462および463の単位偏向量あたりの接続点530での軌道変位と勾配変位で作るベクトルが互いに直交する。これにより、補正できる軌道ずれの範囲を広くとることができる。すなわち、本実施形態で示したような短いビーム輸送装置少ない電流値でビーム位置の調整が可能とすることができる。
【0035】
回転ビーム輸送装置510には偏向電磁石3台と四極電磁石6台が設置されており、回転ビーム輸送装置510中の四極電磁石の励磁量を適切に定めることで照射点550でのαx,αyをともに0にし、分散関数ηx,η′xも0とし、βx,βyを所定の値にすることができる。接続点530でTwissパラメータとビーム軌道を調整できれば、照射点550でのビームのTwissパラメータと分散関数は回転ガントリー500の回転角に依らず一定とでき、患部への照射方向を変えてビームを照射する際も固定ビーム輸送装置400の四極電磁石441〜447と回転ビーム輸送装置510の四極電磁石560の励磁量を変化させずに、同じビーム条件で患部に照射することができる。
【0036】
これにより、複数方向から患部に照射する際に、照射方向の切り替え時間を短く保ったまま、より設置面積の小さい粒子線治療装置が実現できる。
【0037】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しつつ本発明の第2の実施形態を説明する。ここでは第1の実施形態と異なる箇所のみ説明する。図2は本実施形態の粒子線治療装置100の全体構成である。第2の実施形態では第1の実施形態におけるビーム輸送装置の下流の第二直線部420にステアリング電磁石464が設置されている。本実施例の第二直線部420には、ビーム軌道に沿ってビーム進行方向の上流側から順に、ステアリング電磁石463,四極電磁石444,四極電磁石445,ステアリング電磁石464,四極電磁石447,四極電磁石446,プロファイルモニタ453,プロファイルモニタ452が配置される。本実施例のステアリング電磁石464は、四極電磁石445と四極電磁石446の間に配置される。
【0038】
本実施形態では接続点530でのビーム軌道の調整はステアリング電磁石462〜464で実施する。ステアリング電磁石462と463の間には2台の四極電磁石444と445が設置されており、第1の実施形態で説明したような、ステアリング電磁石での単位偏向量当たりに接続点530で生じるビーム位置変位と勾配変位からなるベクトルがほぼ直交する関係となっている。さらに、ステアリング電磁石462とステアリング電磁石463の間には第1の実施例と同様四極電磁石と偏向電磁石があるため、四極電磁石の励磁量によっては、ステアリング電磁石462もビーム軌道の調整に加えることでさらに調整可能なビーム軌道変位を広げることができる。
【0039】
(第3の実施形態)
以下、図面を参照しつつ本発明の第3の実施形態を説明する。ここでは第2の実施形態と異なる箇所のみ説明する。図3は本実施形態の粒子線治療装置100の全体構成である。第2の実施形態での機器配置と比べ四極電磁石447とステアリング電磁石464の位置が交換されている。つまり、本実施例の第二直線部420には、ビーム軌道に沿ってビーム進行方向の上流側から順に、ステアリング電磁石463,四極電磁石444,四極電磁石445,四極電磁石447,ステアリング電磁石464,四極電磁石446,プロファイルモニタ453,プロファイルモニタ452が配置される。この配置でも、第1の実施例と第2の実施例で述べた効果が得られ、少ないステアリング電磁石励磁量で広い範囲でのビーム軌道調整が可能となる。
【0040】
(第4の実施形態)
以下、図面を参照しつつ本発明の第4の実施形態を説明する。ここでは第1の実施形態と異なる箇所のみ説明する。本発明の第4の実施形態を図4に示す。図4は本実施形態の粒子線治療装置の機器構成である。本装置は前段加速器200,シンクロトロン300,固定ビーム輸送装置400,二つの回転ガントリー501〜502から構成される。回転ガントリー501及び502にはそれぞれ、ビームを照射対象に照射する照射装置が備えられる。
【0041】
固定ビーム輸送装置400には、選択されたいずれか一つの照射装置にビームを輸送するための偏向電磁石(コース切替電磁石)431,432が設置されている。この偏向電磁石431,432によって、固定ビーム輸送装置400は四つの第一直線部411,第二直線部412,第三直線部421,第四直線部422に分割されている。偏向電磁石431が、出射用セプタム電磁石310に最も近く、ビーム進行方向の最も上流側に配置されるコース切替電磁石である。第一直線部411が、この偏向電磁石431と出射用セプタム電磁石310の間に位置する第1の直線状ビーム輸送装置である。一方が回転ビーム輸送装置531に接続されて他方が偏向電磁石431に接続される第三直線部421、及び一方が回転輸送装置532に接続されて他方が偏向電磁石432に接続される第四直線部422が第2の直線状ビーム輸送装置である。
【0042】
偏向電磁石431,432の励磁状態によってビームが輸送される照射装置が異なる。偏向電磁石431が励磁されている場合は、偏向電磁石431でビームは偏向されて第三直線部421を通過して照射点551へ輸送される。一方、偏向電磁石431が励磁されていない場合は、ビームは第二直線部412へ輸送される。この場合、偏向電磁石432が励磁されており、第二直線部412に輸送されたビームは、この偏向電磁石432で偏向され第四直線部422を通過して照射点552へ輸送される。
【0043】
第一の直線部411には3台の四極電磁石440,1台のプロファイルモニタ450、2台のステアリング電磁石460,高速キッカ470が配置されている。第二の直線部412には3台の四極電磁石440,1台のプロファイルモニタ450,2台のステアリング電磁石460が配置されている。第三の直線部421と第四の直線部422の機器配置は同一であり、それぞれ4台の四極電磁石440,2台のプロファイルモニタ450,2台のステアリング電磁石460が配置されている。
【0044】
第1の実施形態と同様の手法により、固定ビーム輸送装置400の四極電磁石440とステアリング電磁石460の調整によって、接続点531,532においてビームの進行方向を回転ガントリー501,502の回転軸541,542に一致させ、分散関数ηx,η′xを0にし、かつビームのTwissパラメータをそれぞれ予め定めた目標値(例えばαx=αy=0,βx=βy=6m)に一致させる。この調整により回転ガントリー501,502の回転角に依らず、ビームパラメータが不変となる。
【0045】
これにより、設置面積の小さい粒子線治療装置が実現できる。
【符号の説明】
【0046】
100 粒子線治療装置
200 前段加速器
300 シンクロトロン
310 出射用セプタム電磁石
320 入射用セプタム電磁石
330,430〜432 偏向電磁石
340 高周波加速空胴
350,440〜447,560 四極電磁石
360 六極電磁石
370 出射用高周波電極
400 固定ビーム輸送装置
410,411 第一直線部
412,420 第二直線部
421 第三直線部
422 第四直線部
450〜453 プロファイルモニタ
460〜464 ステアリング電磁石
470 高速キッカ
480 ダンパ
500〜502 回転ガントリー
510 回転ビーム輸送装置
520 照射装置
530〜532 接続点
540〜542 回転軸
550〜552 照射点
600 電源
610 出射用高周波電源
620 偏向電磁石電源
630 四極電磁石電源
640 ステアリング電磁石電源
650 高速キッカ電源
700 制御装置
710 プロファイルモニタ信号処理装置
800 調整者用端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射装置まで輸送するビーム輸送装置を備え、
前記加速器は前記荷電粒子ビームを取り出す際に前記荷電粒子ビームを前記ビーム輸送装置に導く出射用ビーム偏向装置を備え、
前記ビーム輸送装置は建屋に対して固定された固定ビーム輸送装置と、前記固定ビーム輸送装置に接続され、前記荷電粒子ビームを照射する照射方向に応じて回転する回転ビーム輸送装置を有し、
前記固定ビーム輸送装置は前記荷電粒子ビームを偏向する偏向電磁石と、前記偏向電磁石よりもビーム進行方向の上流側に位置する第1の直線状ビーム輸送装置に配置される3台の四極電磁石と、前記偏向電磁石よりも前記ビーム進行方向の下流側に位置する第2の直線状ビーム輸送装置に配置される4台の四極電磁石を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子線治療装置において、
当該第1の直線状ビーム輸送装置は前記加速器の前記出射用ビーム偏向装置に接続され、
当該第2の直線状ビーム輸送装置は前記回転ビーム輸送装置に接続され、
当該第1及び第2の直線状ビーム輸送装置は、前記荷電粒子ビームの位置と広がりを計測する荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項3】
請求項2に記載の粒子線治療装置において、
前記第1の直線状ビーム輸送装置に配置される前記3台の四極電磁石のうち2台の四極電磁石は極性が互いに異なる四極電磁石であり、
前記第2の直線状ビーム輸送装置に配置される前記4台の四極電磁石のうち少なくとも2台の四極電磁石は極性が互いに異なる四極電磁石であることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項4】
請求項3に記載の粒子線治療装置において、
前記第1の直線状ビーム輸送装置には、2台の前記四極電磁石の下流側に少なくとも1台の前記荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項5】
請求項3に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置には、2台の前記四極電磁石の下流側に少なくとも2台の前記荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項6】
請求項4に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置には、2台の前記四極電磁石の下流側に少なくとも2台の前記荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項7】
請求項5に記載の粒子線治療装置において、
前記固定ビーム輸送装置には、ビーム軌道を調整するためのビーム軌道補正用電磁石を少なくとも2台備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項8】
請求項7に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置には、ビーム軌道補正用電磁石を少なくとも1台備え、
当該ビーム軌道補正用電磁石は前記下流の直線状ビーム輸送装置が備える少なくとも2台の前記荷電粒子ビーム計測装置の上流に備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項9】
請求項8に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置に2台の前記ビーム軌道補正用電磁石を備えていることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項10】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記荷電粒子ビームを照射対象に出射する複数の照射装置と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子ビームをいずれか一つの前記照射装置まで輸送するビーム輸送装置を備え、
前記加速器は前記荷電粒子ビームを取り出す際に、前記荷電粒子ビームを前記ビーム輸送装置に導く出射用ビーム偏向装置を備え、
前記ビーム輸送装置は建屋に対して固定された固定ビーム輸送装置と、前記荷電粒子ビームを照射する照射方向に応じて回転する複数の回転ビーム輸送装置を有し、
前記固定ビーム輸送装置は、選択されたいずれか一つの前記照射装置に前記荷電粒子ビームを輸送するための複数のコース切替電磁石と、最も上流側に位置する前記コース切替電磁石と前記出射用ビーム偏向装置の間に形成される第1の直線状ビーム輸送装置と、前記第1の直線状ビーム輸送装置よりもビーム進行方向の下流側に形成され、いずれか一つの前記回転ビーム輸送装置に接続される第2の直線状ビーム輸送装置を有し、
前記第1の直線ビーム輸送装置は3台の四極電磁石を有し、
前記第2の直線ビーム輸送装置は4台の四極電磁石を有することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項11】
請求項10に記載の粒子線治療装置において、
前記第1及び第2の直線状ビーム輸送装置は、前記荷電粒子ビームの位置と広がりを計測する荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項12】
請求項11に記載の粒子線治療装置において、
前記直線状ビーム輸送装置には極性が互いに異なる四極電磁石2台を含む少なくとも2台の四極電磁石を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項13】
請求項11に記載の粒子線治療装置において、
前記第1の直線状ビーム輸送装置に配置される前記3台の四極電磁石のうち2台の四極電磁石は互いに極性が異なる四極電磁石であり、
前記第1の直線状ビーム輸送装置に配置される2台の前記四極電磁石の下流側に少なくとも1台の前記荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項14】
請求項11に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置に配置される前記4台の四極電磁石の少なくとも2台の四極電磁石は互いに極性が異なる四極電磁石であり、
前記第2の直線状ビーム輸送装置に配置される2台の前記四極電磁石の下流側に少なくとも2台の前記荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項15】
請求項13に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置には、2台の前記四極電磁石の下流側に少なくとも2台の前記荷電粒子ビーム計測装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項16】
請求項14に記載の粒子線治療装置において、
前記ビーム輸送装置には、ビーム軌道を調整するためのビーム軌道補正用電磁石を少なくとも2台備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項17】
請求項16に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置には、ビーム軌道補正用電磁石を少なくとも1台備え、
当該ビーム軌道補正用電磁石は前記第2の直線状ビーム輸送装置が備える少なくとも2台の前記荷電粒子ビーム計測装置の上流に備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項18】
請求項17に記載の粒子線治療装置において、
前記第2の直線状ビーム輸送装置に2台の前記ビーム軌道補正用電磁石を備えていることを特徴とする粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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