説明

粒子線照射システム及び粒子線照射方法

【課題】取り出される荷電粒子ビームの線量を一定に保つことが可能な粒子線照射システムを提供する。
【解決手段】粒子線照射システム1Aにおいて、シンクロトロン40を駆動制御する加速器制御部71及びRF−KO電極駆動装置80Aは、RF−KO電極45の駆動を停止したまま、シンクロトロン40を駆動し、続いて、RF−KO電極45に対して、第一のRF−KO信号をRF−KO電圧として印加し、続いて、RF−KO電極45に対して、第一のRF−KO信号と、第二のRF−KO信号と、をRF−KO電圧として印加するとともに、シンクロトロン40から取り出された荷電粒子ビームの線量に基づくRF−KO電圧に関するフィードバック制御を開始し、当該フィードバック制御のゲインをゼロから所定値まで連続的に上昇させ、続いて、RF−KO電圧に関するフィードバック制御を、当該フィードバック制御のゲインを所定値としたまま行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を照射する粒子線照射システム及び粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線でがんの治療を行う場合、がんの種類や進み具合によって放射線を使い分けることが必要である。重粒子線(荷電粒子線)は、X線、γ線や陽子線に比較し、この治療効果が大きい。
この炭素、ネオン等の重粒子線をがんを患う患者の患部に照射し、治療を行う場合、如何にゆらぎを小さくして一定の線量を患者に照射するかが必要とされる。
そのため、患者の患部に照射する重粒子線を線量計で測定し、この線量信号を一定に保つように、フィードバック制御が行われている。
【0003】
特許文献1には、シンクロトロン(加速器)内に設置されているRF−KO電極により、重粒子線のビームの進行方向に対して垂直方向に印加するRF−KO電圧を、オン/オフすることにより、シンクロトロン(加速器)内から取り出される重粒子線のビーム(荷電粒子ビーム)をオン/オフする装置が記載されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−198397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術においては、RF−KO電極に対してフィードバック制御が行われているが、シンクロトロンから荷電粒子ビームを取り出す機構は複雑であり、単純なフィードバック制御では、取り出される荷電粒子ビームの線量を一定に保つことは困難であった。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みて創案されたものであり、取り出される荷電粒子ビームの線量を一定に保つことが可能な粒子線照射システム及び粒子線照射方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、加速器内で加速され当該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、当該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線照射システムであって、前記加速器を駆動制御する駆動制御装置は、前記RF−KO電極の駆動を停止したまま、前記加速器を駆動し、続いて、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅を増大させ、続いて、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号と、前記第一の周波数成分よりもベータトロン振幅の大きい粒子に共鳴する第二の周波数成分を有する第二のRF−KO信号と、を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅をさらに増大させるとともに、前記加速器から取り出された荷電粒子ビームの線量をモニタリングする線量モニタリング装置の検出結果に基づく前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を開始し、当該フィードバック制御のゲインをゼロから所定値まで連続的に上昇させ、続いて、前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を、当該フィードバック制御のゲインを所定値としたまま行うことを特徴とする。
【0008】
前記駆動制御装置は、前記第一のRF−KO信号を発生する第一のRF−KO信号発生部と、前記第二のRF−KO信号を発生する第二のRF−KO信号発生部と、前記第一のRF−KO信号を増幅する第一の増幅部と、前記第二のRF−KO信号を増幅する第二の増幅部と、増幅された前記第一のRF−KO信号及び増幅された前記第二のRF−KO信号を加算し、増幅されて加算された前記第一のRF−KO信号及び前記第二のRF−KO信号を前記RF−KO電圧として前記RF−KO電極へ出力する加算部と、前記第一の増幅部及び前記第二の増幅部におけるフィードバック制御のゲインを調整するゲイン調整部と、を備える構成であってもよい。
【0009】
また、前記課題を解決するため、本発明は、加速器内で加速され当該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、当該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線照射方法であって、前記加速器を駆動制御する駆動制御装置が、前記RF−KO電極の駆動を停止したまま、前記加速器を駆動する第一ステップと、前記駆動制御装置が、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅を増大させる第二ステップと、前記駆動制御装置が、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号と、前記第一の周波数成分よりもベータトロン振幅の大きい粒子に共鳴する第二の周波数成分を有する第二のRF−KO信号と、を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅をさらに増大させるとともに、前記加速器から取り出された荷電粒子ビームの線量をモニタリングする線量モニタリング装置の検出結果に基づく前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を開始し、当該フィードバック制御のゲインをゼロから所定値まで連続的に上昇させる第三ステップと、前記駆動制御装置が、前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を、当該フィードバック制御のゲインを所定値としたまま行う第四ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取り出される荷電粒子ビームの線量を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る荷電粒子線照射システムの全体構成を示す模式図である。
【図2】図1のA−A線断面概念図であり、シンクロトロン内の周回軌道を加速されて廻る取り出し前のビームと、取り出し中のビームの水平方向位置とそのビーム強度、及びデフレクタ電極との位置関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制御装置及びRF−KO電極駆動装置を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る粒子線照射システムの動作例を示す図であり、線量モニタリング装置によってモニタリングされた線量、フィードバック制御のゲイン、RF−KO電圧の出力、第一のRF−KO電圧の出力、及び、第二のRF−KO電圧の出力の経時変化を示すグラフである。
【図5】(a)は、第一ステップ終了時点におけるベータトロン振幅とベータトロン振動数との関係を示すグラフであり、(b)は、第一ステップ終了時点におけるベータトロン振幅と周回ビームの粒子密度分布との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は、第四ステップにおけるベータトロン振幅とベータトロン振動数との関係を示すグラフであり、(b)は、第四ステップにおけるベータトロン振幅と周回ビームの粒子密度分布との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、本発明をがんを患う患者の患部(照射対象)に炭素、ネオン等の電子を除いた粒子(原子核)の放射線である荷電粒子ビームを照射するシステムに適用した場合を例にとり、添付図面を参照して説明する。
【0013】
<粒子線照射システム>
図1は、本発明の実施形態に係る粒子線照射システムの全体構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の第一の実施形態に係る粒子線照射システム1は、炭素等の原子から一部の電子を取り除くイオン源10,10と、該一部の電子が取り除かれた粒子の初段の加速を行う線形加速器20と、該粒子の残りの電子を取り除くストリッパ30と、当該粒子が患者の体の奥深くまで到着できるエネルギまで加速する環状のシンクロトロン40と、輸送系50と、加速された当該粒子を治療室(図示せず)の患者に照射するための照射系60とを含んで構成される。
なお、イオン源10,10から照射系60に至るまでの荷電粒子ビームの輸送管は、高真空に保たれている。
【0014】
粒子線照射システム1における各装置は、制御装置70(図3参照)で制御され、前記したように、荷電粒子ビームを患者の患部に(患者の体の奥深くまで)到達するのに必要なエネルギまで加速して、照射系60を用いて患者の患部に照射する。
図1に示すイオン源10,10には、PIG(Penning Ionization Gauge)型イオン源、あるいはECR(Electron Cyclotron Resonance)を利用してプラズマイオンを発生させるECR型イオン源等、公知のイオン源を用いることができる。例えば、炭素イオンC6+の重粒子を生成させる場合は、まずCO2等の希薄なガスに電子ビームを当て、炭素分子から電子をたたき出すことにより共有結合を切り、炭素原子又は電子が1個剥がれたC1+を生成させる。
【0015】
これにより、電子とイオンが混在するプラズマが形成される。この炭素原子又は1価イオンに、引き続き電子ビームを当てC2+からC3+、C4+へと次第に多価イオンに変化させてゆく。
このプラズマにスリット付の負電極(−20kV程度)を近づけると、C4+イオンはプラズマから引き出され、線形加速器3で加速される。加速によりエネルギーが6MeV/核子になった時点で、C4+をストリッパ30に通過させる。これによりC4+に残っている2つの電子が剥ぎとられて炭素原子核だけのC6+となる。
線形加速器20で6MeV/核子まで加速されたC6+は、負の高電圧が印加されているインフレクタ41によりシンクロトロン40の周回軌道に入射される。
【0016】
≪シンクロトロン40≫
図1に示すシンクロトロン40は、加速高周波の周期を粒子回転周期に同期させることにより、炭素の原子核等の荷電粒子(重粒子)を高エネルギまで加速する環状の装置であり、「加速器」に相当するものである。
【0017】
シンクロトロン40は、主要構成機器として、インフレクタ41と、シンクロトロン5内を進む荷電粒子ビームを周回軌道に保つための複数の偏向電磁石42と、周回軌道上における荷電粒子ビームの広がりを収束又は拡散させる作用を有する複数の四極電磁石43と、荷電粒子ビームの加速を行う高周波加速空洞44と、荷電粒子線を治療室の照射系60に向けて出射するときにRF−KO(Radio Frequency - Knock Out)電圧を印加するRF−KO電極45と、RF−KO電圧による電場により広げられた荷電粒子線をシンクロトロン40から治療室の照射系60へ向けて出射するデフレクタ電極46と、ベータトロン振動の三次共鳴によって、荷電粒子ビームにおける安定周回領域と共鳴領域とを分割・生成する六極電磁石47と、を備えている。
【0018】
RF−KO電極45は、シンクロトロン40の荷電粒子ビームの周回軌道(図2に示す取り出し前ビームb1、取り出し中のビームb2が相当)を挟んで平行方向(図1の紙面方向)に配置される電極である。
なお、図2は、シンクロトロン(加速器)40内の周回軌道を加速されて廻る照射系60への取り出し前のビームb1と、照射系60へ取り出し中のビームb2の水平方向位置(横軸x)とそのビーム強度(縦軸y)、及びデフレクタ電極46(二点鎖線で示す)との位置関係を示す図1のA−A線断面概念図であり、シンクロトロン40の水平方向の中心を原点として横軸に水平方向の位置をとり、縦軸に水平方向の位置のビーム強度をとっている。
【0019】
<シンクロトロン40からの荷電粒子線の取り出し>
図1に示すシンクロトロン40内の周回軌道を周回している多数の荷電粒子は、水平方向(図1の紙面に平行方向)又は鉛直方向(図1の紙面に垂直方向)に振動しながら周回している(図2に示す符号b1参照)。この振動をベータトロン振動といい、ベータトロン振動の周回軌道一周あたりの振動数をチューンと称する。チューンは、図1に示す偏向電磁石42、四極電磁石43等により制御することができる。
【0020】
このシンクロトロン40によって加速されベータトロン振動を行っている荷電粒子ビームは、そのサイズが小さく、図2の符号b1に示すように、シンクロトロン(加速器)40の中心付近に分布している。
ビームb1は、例えば、10〜1010個の炭素粒子であり、この炭素粒子は、横断面が楕円状を呈してシンクロトロン(加速器)40内の軌道を回転している。各炭素粒子に着目すると、この軌道に沿って、各炭素粒子が蛇行しながら、言い換えると、軌道に対する横断面でみると振動しながら、シンクロトロン40内の軌道に沿って廻っている。
【0021】
そして、荷電粒子が高周波加速空洞44(図1参照)によって加速され最大エネルギに達した後、周回している多数の荷電粒子の一部を、荷電粒子ビームにRF−KO電極45でRF−KO電圧による電場を印加し、デフレクタ電極46を介して、治療室の照射系60へ向けて出射する。
すなわち、シンクロトロン40内の荷電粒子ビームをシンクロトロン40の外の照射系60に向けて取り出すためには、中心付近に分布する荷電粒子ビーム(図2の符号b1参照)に、周回軌道に対して垂直に水平方向にRF−KO電極45で挟んでRF−KO電圧による電場を印加し、荷電粒子ビームサイズを広げる(図2の符号b2参照)。
この荷電粒子の出射は、シンクロトロン40内の周回軌道を進む荷電粒子のベータトロン振動の共鳴を利用して行う。
【0022】
具体的には、図1に示すRF−KO電極45は、照射系60への取り出し前の周回軌道を加速されて進むビームb1に対して、周回軌道に垂直な方向(図1の紙面に平行方向)に、ベータトロン振動に共鳴する周波数変調及び振幅変調されたRF−KO電圧による電場を印加し、周回軌道を進む荷電粒子ビームを、照射系60への図2の取り出し前ビームb1から図2の取り出し中のビームb2に幅を広げることにより、荷電粒子ビームの一部b3(図2参照)をデフレクタ電極46の2枚の電極の中に入れる。デフレクタ電極46の2枚の電極の中にビームb3が入ると、デフレクタ電極46内の電場によって、荷電粒子ビームb3は外側に蹴りだされ、照射系60に向けて取り出されていく。
なお、RF−KO電圧がオフのときには、この荷電粒子ビームのサイズの増加がとまるために、荷電粒子ビームがデフレクタ電極13から取り出されなくなるので、照射を止めることが可能となる。
【0023】
ここで、中心付近にいるベータトロン振幅の小さなビームの、ベータトロン振動数(周波数)の帯域をfとすると、シンクロトロン40には六極電磁石47(図1参照)が存在するため、ベータトロン振幅が大きくなったビームは、帯域fよりもベータトロン振幅の大きい粒子に共鳴する周波数fで、ベータトロン振動をする。RF−KO電圧の周波数成分とこのベータトロン振動の周波数成分が一致したとき、共振がおこりベータトロン振幅は増大する。
【0024】
つまり、RF−KO電極45で印加するRF−KO電圧の周波数成分fとこの荷電粒子ビームのベータトロン振動の周波数成分が一致したとき、共振が起こり、図2の符号b1に示す状態から符号b2に示す状態へと、荷電粒子ビームの軌道振幅は増大する。
さらに、RF−KO電極45により周波数成分fをもった高周波電圧を印加することにより、符号b2に示す状態の荷電粒子ビームの振動を、図2の符号b3に示す状態のように、選択的にさらに増大させることができる。
【0025】
続いて、本発明の第一の実施形態に係る粒子線照射システム1における、RF−KO電極45を駆動制御する構成について、図3を参照して説明する。図3は、本発明の実施形態に係る制御装置及びRF−KO電極駆動装置を示すブロック図である。
【0026】
図3に示すように、本発明の実施形態に係る粒子線照射システム1は、制御装置70と、RF−KO電極駆動装置80と、を備える。
【0027】
制御装置70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory、ROM(Read-Only Memory)及び入出力回路から構成されており、機能部として、線形加速器20及びシンクロトロン40を制御する加速器制御部71と、輸送系50を制御する輸送系制御部72と、照射系60を制御する照射系制御部73と、を備える。ここで、照射系60は、デフレクタ電極46を介して取り出された荷電粒子ビームの線量をモニタリングする線量モニタリング装置61を備える。線量モニタリング装置61によってモニタリングされた線量のデータは、制御装置70のRF−KO電極制御部71aへ出力される。
【0028】
加速器制御部71は、シンクロトロン40内の電磁石、電極等を制御するものであり、RF−KO電極駆動装置80を作動させることによってRF−KO電極45の駆動を制御するRF−KO電極制御部71aを備える。
【0029】
RF−KO電極駆動装置80は、RF−KO電極制御部71aの制御によってRF−KO電圧を発生してRF−KO電極に印加する装置であり、第一のRF−KO信号発生器81と、第二のRF−KO信号発生器82と、第一の増幅器83と、第二の増幅器84と、加算器85と、を備える。
【0030】
第一のRF−KO信号発生器81は、ベータトロン振幅の小さい粒子に共鳴する周波数帯域を有するRF信号を発生するファンクションジェネレータと、シンクロトロンマスタトリガ信号、要求強度信号及び取り出しゲート信号を入力としてAMパターンを生成するAMパターン生成器と、当該ファンクションジェネレータ及び当該AMパターン生成器からの出力信号が入力される電圧制御増幅器と、を備えて構成されている。かかる第一のRF−KO信号発生器81は、粒子密度が高く、ベータトロン振幅が小さい荷電粒子ビームに対して、ベータトロン振動を共振させて荷電粒子ビームのベータトロン振幅を増大させるための第一のRF−KO信号を発生する。かかる第一のRF−KO信号は、第一の周波数成分fを有する交流電圧信号であり、第一の増幅器83へ出力される。
【0031】
第二のRF−KO信号発生器82は、ベータトロン振幅の大きい粒子に共鳴する周波数帯域を有するRF信号を発生するファンクションジェネレータと、シンクロトロンマスタトリガ信号、要求強度信号及び取り出しゲート信号を入力としてAMパターンを生成するAMパターン生成器と、当該ファンクションジェネレータ及び当該AMパターン生成器からの出力信号が入力される電圧制御増幅器と、を備えて構成されている。かかる第二のRF−KO信号発生器82は、粒子密度が小さく、ベータトロン振幅が大きい荷電粒子ビームに対して、ベータトロン振動を共振させて荷電粒子ビームのベータトロン振幅を増大させるための第二のRF−KO信号を発生する。かかる第二のRF−KO信号は、第二の周波数成分fを有する交流電圧信号であり、第二の増幅器84へ出力される。
【0032】
第一の増幅器83は、第一のRF−KO信号発生器81から入力された第一のRF−KO信号を増幅する。増幅された第一のRF−KO信号は、加算器85へ出力される。
【0033】
第二の増幅器84は、第二のRF−KO信号発生器82から入力された第二のRF−KO信号を増幅する。増幅された第二のRF−KO信号は、加算器85へ出力される。
【0034】
加算器85は、第一の増幅器83から入力された第一のRF−KO信号と、第二の増幅器84から入力された第二のRF−KO信号と、を加算する。加算された第一のRF−KO信号及び第二のRF−KO信号は、RF−KO電圧としてRF−KO電極45へ印加される。
【0035】
前記したRF−KO電極制御部71aは、第一のRF−KO信号発生器81及び第二のRF−KO信号発生器82の駆動を制御するとともに、線量モニタリング装置61によってモニタリングされた線量のデータに基づいて、第一の増幅器83及び第二の増幅器84における出力である第一のRF−KO信号及び第二のRF−KO信号に対するフィードバック制御(例えば、PID(Proportional Integral Differentiate)制御)をそれぞれ行うとともに、第一の増幅器83及び第二の増幅器84のフィードバック制御のゲインを調整する。
【0036】
<動作例>
続いて、本発明の実施形態に係る粒子線照射システム1の動作例について、図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施形態に係る粒子線照射システムの動作例を示す図であり、線量モニタリング装置によってモニタリングされた線量、増幅器のゲイン、RF−KO電圧の出力、第一のRF−KO電圧の出力、及び、第二のRF−KO電圧の出力の経時変化を示すグラフである。
【0037】
≪第一ステップ≫
まず、加速器制御部71は、線形加速器20の駆動を開始するとともに、シンクロトロン40のRF−KO電極45以外の電磁石、電極等の駆動を開始する。第一ステップは、所定時間経過後に第二ステップに移行する。図5(a)は、第一ステップ終了時点におけるベータトロン振幅とベータトロン振動数との関係を示すグラフであり、図5(b)は、第一ステップ終了時点におけるベータトロン振幅と周回ビーム(シンクロトロン内を周回する荷電粒子ビーム)の粒子密度分布との関係を示すグラフである。図5(a)(b)に示すように、第一ステップの終了時点では、第二のRF−KO信号の周波数fと共振する荷電粒子は少ない。かかる第一ステップは、荷電粒子ビームの加速後、RF−KO電極以外の電磁石、電極(デフレクタ電極46や六極電磁石47等)等が出射(荷電粒子ビームの取り出し)準備完了状態になるまで行われる。
【0038】
≪第二ステップ≫
続いて、加速器制御部71のRF−KO電極制御部71aは、第一のRF−KO信号発生器81の駆動を開始し、RF−KO電極45に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号をRF−KO電圧として印加する。第二ステップにおいて第二のRF−KO信号を発生せず、フィードバック制御を行わないのは、シンクロトロン40のRF−KO電圧45にRF−KO電圧が印加されても、位相空間における荷電粒子ビームの分布は定常状態とはならず過渡状態にあるため、フィードバック制御が安定しないためである。かかる第二ステップは、実験、シミュレーション等によって決められた所定時間(荷電粒子ビームの線量がおおよそ目標値に達する時間)経過後に、第三ステップに移行する。
【0039】
≪第三ステップ≫
続いて、RF−KO電極制御部71aは、第二のRF−KO信号発生器82の駆動を開始し、RF−KO電極45に対して、RF−KO信号に第二の周波数成分を有する第二のRF−KO信号が加算された信号をRF−KO電圧として印加する。同時に、RF−KO電極制御部71aは、第一の増幅部83及び第二の増幅部84におけるフィードバック制御を開始し、フィードバック制御のゲインをゼロから所定値まで連続的に上昇させる。第三ステップにおいてフィードバック制御のゲインを連続的に上昇させるのは、位相空間における荷電粒子ビームの分布は過渡状態から定常状態への遷移期にあるため、ゲインを一気に所定値まで上げるとフィードバック制御が安定しないためである。
【0040】
≪第四ステップ≫
続いて、RF−KO電極制御部71aは、第一の増幅部83及び第二の増幅部84におけるフィードバック制御を、ゲインを所定値としたまま継続する。図6(a)は、第四ステップにおけるベータトロン振幅とベータトロン振動数との関係を示すグラフであり、図6(b)は、第四ステップにおけるベータトロン振幅と荷電粒子ビームの線量との関係を示すグラフである。図6(a)(b)に示すように、第四ステップでは、第二のRF−KO信号の周波数fと共振する荷電粒子がデフレクタ電極46によって取り出される。
【0041】
従来の粒子線照射システムは、前記した第二ステップ及び第三ステップを行わず、第一ステップから第四ステップへと直接移行する動作を行うものであったため、フィードバック制御が安定せず、取り出される荷電粒子ビームの線量を一定に保つことが困難であった。これに対し、本発明の実施形態に係る粒子線照射システム1は、四段階に分けてシンクロトロン40の駆動を制御することによって、取り出される荷電粒子ビームの線量を一定に保つことができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。例えば、本発明の粒子線照射システム及び粒子線照射方法は、医療以外の分野にも適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 粒子線照射システム
40 シンクロトロン(加速器)
45 RF−KO電極
46 デフレクタ電極
70 制御装置
71 加速器制御部(駆動制御装置)
71a RF−KO電極制御部(ゲイン調整部)
80 RF−KO電極駆動装置(駆動制御装置)
81 第一のRF−KO信号発生器
82 第二のRF−KO信号発生器
83 第一の増幅器
84 第二の増幅器
85 加算器
86 増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器内で加速され当該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、当該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線照射システムであって、
前記加速器を駆動制御する駆動制御装置は、
前記RF−KO電極の駆動を停止したまま、前記加速器を駆動し、
続いて、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅を増大させ、
続いて、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号と、前記第一の周波数成分よりもベータトロン振幅の大きい粒子に共鳴する第二の周波数数成分を有する第二のRF−KO信号と、を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅をさらに増大させるとともに、前記加速器から取り出された荷電粒子ビームの線量をモニタリングする線量モニタリング装置の検出結果に基づく前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を開始し、当該フィードバック制御のゲインをゼロから所定値まで連続的に上昇させ、
続いて、前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を、当該フィードバック制御のゲインを所定値としたまま行う
ことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
前記駆動制御装置は、
前記第一のRF−KO信号を発生する第一のRF−KO信号発生部と、
前記第二のRF−KO信号を発生する第二のRF−KO信号発生部と、
前記第一のRF−KO信号を増幅する第一の増幅部と、
前記第二のRF−KO信号を増幅する第二の増幅部と、
増幅された前記第一のRF−KO信号及び増幅された前記第二のRF−KO信号を加算し、増幅されて加算された前記第一のRF−KO信号及び前記第二のRF−KO信号を前記RF−KO電圧として前記RF−KO電極へ出力する加算部と、
前記第一の増幅部及び前記第二の増幅部におけるフィードバック制御のゲインを調整するゲイン調整部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
加速器内で加速され当該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、当該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線照射方法であって、
前記加速器を駆動制御する駆動制御装置が、前記RF−KO電極の駆動を停止したまま、前記加速器を駆動する第一ステップと、
前記駆動制御装置が、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅を増大させる第二ステップと、
前記駆動制御装置が、前記RF−KO電極に対して、第一の周波数成分を有する第一のRF−KO信号と、前記第一の周波数成分よりもベータトロン振幅の大きい粒子に共鳴する第二の周波数成分を有する第二のRF−KO信号と、を前記RF−KO電圧として印加することによって、ベータトロン振動を共振させて前記荷電粒子ビームのベータトロン振幅をさらに増大させるとともに、前記加速器から取り出された荷電粒子ビームの線量をモニタリングする線量モニタリング装置の検出結果に基づく前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を開始し、当該フィードバック制御のゲインをゼロから所定値まで連続的に上昇させる第三ステップと、
前記駆動制御装置が、前記RF−KO電圧に関するフィードバック制御を、当該フィードバック制御のゲインを所定値としたまま行う第四ステップと、
を含むことを特徴とする粒子線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−212113(P2011−212113A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81372(P2010−81372)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】