説明

粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法

【課題】粒状・塊状Ca含有物を水中に安定的に設置することができる施工法を提供する。
【解決手段】粒状・塊状Ca含有物を主体とする材料を透水性がある容器に入れ、この容器を海水又は汽水中に置いて材料表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させる。好ましくは、容器内の材料表層に殻状皮膜が生成した後に、容器の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失させる。容器内の材料が殻状皮膜で覆われるので、材料を波浪などによる流出を生じることなく水中に安定的に設置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグなどのような粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法であって、粒状・塊状Ca含有物を用いて水中において構造体や基礎などを施工するのに好適な施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海岸保全(海岸侵食の防止)や浅場造成などを目的として、沿岸海域などの水底に潜堤が設置される。このような潜堤は、水底に捨石やコンクリートブロックを積み上げることにより構築されるのが一般的である。また、水底に捨石基礎を設置し、その上にコンクリートブロックなどを積み上げて潜堤を構築する場合もある。
【0003】
しかし、捨石として用いられる天然砕石は年々調達が難しくなっている。一般に、海域工事では波に対する抵抗の大きい大きな石が必要とされるが、このような天然石の調達は特に難しくなりつつある。さらに、最近では天然石の採取による自然破壊も問題視されるようになってきた。また、コンクリートブロックはコストが高い難点があり、さらに、ブロック表面が緻密で隙間がないため初期の生物親和性が劣り、このため一時的に設置海域の環境が劣化するという問題もある。
一方、従来、路盤材等の土木用資材として粒径が20〜50mm程度の塊状の製鋼スラグが製造されており、特許文献1には、このような塊状の製鋼スラグを用いて潜堤を構築することが示されている。製鋼スラグは鉄鋼製造プロセスで発生するスラグ(鉄鋼スラグ)であり、安価に且つ大量に調達できる利点がある。
【特許文献1】特開2002−238401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように潜堤材として粒径20〜50mm程度の塊状製鋼スラグを用いた場合、大きな波浪などによって潜堤材が流失し、潜堤が大きく損傷したり、酷い場合には潜堤そのものが崩壊・消失してしまう。すなわち、塊状の製鋼スラグで構築された潜堤は、波浪安定性が低いという問題がある。
また、例えば、護岸の構築や水底の基礎・基盤工事などにおいても塊状の製鋼スラグを使用することが考えられるが、この場合も上述した潜堤と同様に波浪安定性に大きな問題がある。
したがって本発明の目的は、鉄鋼スラグなどのような粒状・塊状Ca含有物を水中に安定的に設置することができ、これにより粒状・塊状Ca含有物を用いて高い波浪安定性を有する水中構造体や基礎・基盤などを容易に施工することができる施工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を行い、その結果、鉄鋼スラグなどのような粒状・塊状Ca含有物を主体とする材料を透水性がある容器に入れ、この容器を水中に置いて容器内の材料表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させ、この殻状皮膜で材料が覆われるようにすることにより、粒状・塊状Ca含有物を主体とする材料を波浪などによる流出を生じることなく水中に安定的に設置でき、これにより高い波浪安定性を有する構造体や基礎・基盤などを容易に施工できることが判った。また、好ましくは、容器として水中で経時的に分解又は腐蝕する容器を用い、容器内の材料表層に殻状皮膜が生成した後に容器を分解又は腐蝕により消失(自然消失)させることにより、容器がゴミ化するなどして環境汚染を生じさせることなく、また、施工された構造体等を生物の生息・生育に好適な環境とすることができることが判った。
【0006】
本発明は、以上述べたような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする材料(但し、粒状又は/及び塊状のCa含有物のみからなる材料の場合を含む)を透水性がある容器に入れ、該容器を海水又は汽水中に置いて材料表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させることを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
[2]上記[1]の施工方法において、粒状又は/及び塊状のCa含有物が鉄鋼製造プロセスで発生したスラグであることを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
[3]上記[1]又は[2]の施工方法において、容器が袋体であることを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの施工方法において、容器が水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する容器であり、容器内の材料表層に殻状皮膜が生成した後に、該容器の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失させることを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【0007】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの施工方法において、容器内の材料表層に生成した殻状皮膜の平均厚みが0.5mm以上であることを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの施工方法において、容器内の材料は、粒径2mm以下の製鋼スラグを10mass%以上含むことを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの施工方法において、容器内の材料は、粒径1mm以下の高炉水砕スラグを20mass%以上含むことを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかの施工方法において、材料を入れた容器により、少なくとも潜堤外層部の一部を構築することを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の施工方法によれば、材料表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させ、この殻状皮膜により材料が覆われるようにすることで、粒状・塊状Ca含有物を主体とする材料を、波浪などによる流出を生じることなく水中に安定的に設置することができる。このため、高い波浪安定性を有する水中構造体や基礎・基盤などを容易に施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の施工方法では、粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする材料(以下、材料Aという)を透水性のある容器に入れ、この容器を海水又は汽水中に置いて容器内の材料Aの表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させ、この殻状皮膜で材料が覆われるようにする。材料Aは容器に入れられているため波浪などで流出する恐れはなく、また、殻状皮膜が生成した後は容器が消失したとしても波浪などに対する高い安定性が得られる。
【0010】
ここで、容器内の材料Aの表層とは、容器に保持された材料の最外層(容器内面に接している最外層を含む)を指すが、本発明では、必ずしも材料Aの全表層に殻状皮膜が生成される(すなわち、材料A全体が殻状皮膜で覆われる)必要はなく、部分的に殻状皮膜が生成しない表層(例えば、容器どうしが接している部分における材料表層)があってもよい。
粒状又は/及び塊状のCa含有物としては、例えば、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(鉄鋼スラグ)や廃コンクリートなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
以下、粒状・塊状Ca含有物として鉄鋼スラグを用いる場合を例に、本発明を説明するが、以下の説明は鉄鋼スラグに代えて、或いは鉄鋼スラグとともに他の粒状・塊状Ca含有物(例えば、廃コンクリート等)を用いる場合にも妥当する。
【0011】
鉄鋼スラグを主体とする材料Aの表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜が生成する機構は、以下のとおりである。すなわち、鉄鋼スラグは比較的多量のCaOを含有しており、このような鉄鋼スラグを水中に置くとCaイオンが溶出して材料周囲の水のpHを上昇させる。このpH上昇により水のイオン溶解度が変化し、水中(海水又は汽水中)のMgイオンが水酸化物(水酸化マグネシウム)として材料Aの表層に析出し、比較的固い皮膜(析出物層)が生成される。また、このようにして水酸化マグネシウムが析出する際に、浮泥や堆積物(アルミナ、珪酸、有機物などを含んでいる)、スラグ粒子(材料Aの一部)などを巻き込む場合があり、この場合にはそれらも殻状皮膜の一部となる。さらに、材料Aの表層に水酸化マグネシウムが層状に析出して材料内の間隙水の海水交換が少なくなると、材料Aの間隙水のpHが上昇し、水酸化マグネシウム析出層の内側や同析出層内に形成された空洞部内面などに水酸化カルシウムが析出することがある。この場合には、水酸化カルシウムの析出物も殻状皮膜の一部となる。また、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム以外に、珪酸やアルミナなどを含む水和物が殻状皮膜の一部として少量析出する場合もある。したがって、容器内の材料Aの表層に生成する殻状皮膜とは、上記のようにして生成した水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とし(すなわち、これら析出物を50mass%以上含む)、場合により珪酸やアルミナを含む水和物の析出物、浮泥・堆積物、スラグ粒子(材料Aの一部)などに由来する成分の非析出物を含む皮膜である。
【0012】
水酸化マグネシウムは、最初に材料粒子間に析出した後、粒子間を埋めるように生成し、最終的に材料全体を覆うようにして殻状皮膜が形成される。図1は、この殻状皮膜の断面を模式的に示したものであり、xは殻状皮膜、yは材料粒子である。また、図2は、殻状皮膜の断面のSEM画像と、SEMを用いてMg及びCaの面分析を行った画像である。この各面分析画像において白っぽく写っているのが、それぞれMg主体の部位、Ca主体の部位である。この殻状皮膜は、製鋼スラグ(脱燐スラグ)と高炉水砕スラグを質量比7:3で混合した材料を海中に置いて1ヶ月間で生成したものである。
【0013】
上記殻状皮膜は、析出物主体で構成されるため、比較的緻密で固く且つある程度の強度を有しており、このような殻状皮膜で覆われた材料Aは波浪などの水流に対する高い安定性が得られる。
殻状皮膜は、材料Aを被覆してこれを一体的に保持できるような状態に生成すればよく、したがって皮膜の厚さなどに特別な制限はないが、厚さが薄いと波浪などの外力に対する強度が不足する場合があるので、平均厚みは0.5mm以上であることが好ましい。殻状皮膜の平均厚みtは、例えば、図6に示すように所定長さ範囲Lにおける厚み方向での皮膜断面積Sを測定し、[平均厚みt=皮膜断面積S/長さL]で求めることができる。一般に長さLは、300mm以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の施工方法では、材料Aの波浪などに対する安定性は、基本的には殻状皮膜で材料表層を覆うことによって確保されるが、鉄鋼スラグの種類や組成によっては、殻状皮膜の生成後、スラグの水硬作用により材料自体が固結する場合がある。すなわち、上述したような機構によって材料Aの表層に殻状皮膜が形成されると、材料内の間隙水の海水交換がなくなるためpHが上昇し、スラグ成分に由来してSiO−CaO−HOゲルが生成し、これが材料粒子間を埋めるため、材料全体が固結(水和硬化)する。このような水和硬化は特に高炉水砕スラグを含む場合に生じやすく、殻状皮膜の生成に加えて材料内部も固結するため、より高い波浪安定性が得られる。
【0015】
材料Aを構成する鉄鋼スラグとしては、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ(但し、この高炉徐冷スラグは水中でSが溶出しないようにするため、十分にエージング処理したものが好ましい)、製鋼スラグ、鉱石還元スラグなどの各種スラグを用いることができる。また、製鋼スラグとしては、脱燐スラグ・脱硫スラグ・脱珪スラグ等の溶銑予備処理スラグ、脱炭スラグ、鋳造スラグ、電気炉スラグ等が挙げられる。製鋼スラグとしては、特に脱炭スラグと脱燐スラグが好適である。
材料Aは、粒状又は/及び塊状の形態を有するものであり、粒度としては、通常100mm程度以下のものが使用可能である。通常使用する製鋼スラグの粒度は85mm以下、高炉水砕スラグの粒度は5mm以下であるが、既に固結しているような場合には、それ以上の粒度のものを用いることもできる。
【0016】
材料Aは、上記鉄鋼スラグのみで構成してもよいが、鉄鋼スラグ以外の粒状物や塊状物、例えば、天然砂、天然砕石、天然砕石を加工した人工砂等の1種以上を、スラグによる皮膜生成能を阻害しない範囲で含むことができる。但し、本発明は鉄鋼スラグからのCaイオンの溶出を利用して材料表層に殻状皮膜を生成させるものであるため、材料Aは鉄鋼スラグを主体とするものであること、すなわち鉄鋼スラグの割合が50mass%以上、好ましくは70mass%以上であることが必要である。
【0017】
殻状皮膜は、水中において比較的短期間に生成することが好ましく、例えば、容器を水中に設置してから6ヶ月以内、望ましくは3ヶ月以内に所定の厚さの殻状皮膜が形成されることが好ましい。
殻状皮膜を比較的短期間で適切に生成させるには、鉄鋼スラグからのCaイオンの溶出性が十分確保される必要がある。Caイオンの溶出性は鉄鋼スラグの種類や粒度によって異なり、スラグの粒径が小さいほどCaイオンは溶出しやすく、また、高炉水砕スラグに較べて製鋼スラグの方がCaイオンは溶出しやすい。このため、製鋼スラグを用いる場合には、材料Aは粒径2mm以下の製鋼スラグを10mass%以上含むことが好ましく、また、高炉水砕スラグを用いる場合には、材料Aは粒径1mm以下の高炉水砕スラグを20mass%以上含むことが好ましい。また、製鋼スラグと高炉水砕スラグを混合してもよく、この場合には、上記条件のいずれかを満足することが好ましい。
【0018】
容器内の材料Aの表層に殻状皮膜を生成させるには、材料表層にMgイオンが適切に供給されることが必要であり、このため容器は透水性(水浸透性)を有し、材料表層に対する海水交換が適切に行われることが必要である。ここで、透水性を有する容器とは、容器を構成する素材自体が透水性を有するものの他に、容器を構成する素材は非透水性であるが、容器内に水を浸透させることができる隙間や孔を有する容器も含まれる。このような容器は、上記隙間や孔から容器内に水が浸透する。
また、水底などの形状に合わせて容器を積み上げて構造体などを構築するためには、材料Aを入れた容器は変形できることが好ましく、この観点からは、容器は袋体であることが好ましいが、ある程度の剛性を有する容器(例えば、箱、篭など)であってもよい。
以上の点からして、容器としては植物繊維や合成樹脂繊維製の織布からなる布袋、植物繊維や合成樹脂繊維製の網袋などが特に好ましい。織布からなる布袋としては、例えば、一般にフレコンバッグ(好ましくは、防水処理を施していないもの)と呼ばれるものなどを利用できる。
【0019】
通常、容器内に材料Aを入れる作業は陸上又は船上で行われる。
容器は、スラグを水中に設置するための施工場所(例えば、構造体や基礎などの施工場所)以外の水中において中身の材料Aの表層に殻状皮膜を生成させた後、施工場所に移動させてもよいが、直接施工場所に設置した状態で容器内の材料A表層に殻状皮膜を生成させた方が、施工が容易であるため好ましい。
【0020】
本発明法では、容器として水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する容器を用い、容器内の材料A表層に殻状皮膜が生成した後に、容器の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失(自然消失)させるようにすることが特に好ましい。
図3は、この方法で潜堤を施工する場合の一実施形態(潜堤縦断面)を示しており、2は材料A(以下、潜堤材という)を入れた容器(袋体)である。この方法では、透水性があり且つ水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する容器2内に潜堤材を入れ、この容器2を積み上げることにより堤構造体1(潜堤)を構築する。
この方法のように容器2を水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する材料で構成し、最終的に自然消失させるのは、容器2がゴミ化するなどして環境汚染を生じさせるのを防止すること、潜堤などのような構造体を生物(水中動植物)の生息・生育に好適な環境とするには、構造体面に殻状皮膜で被覆された材料が露出した状態(岩肌の状態)となることが必要であること、などのためである。
【0021】
容器2の材料としては、例えば、生分解性プラスチック製のシートや網、植物又は植物繊維製のシートや網(例えば、筵、麻織布など)、鋼製などの金属箔、金属網などを用いることができるが、これに限定されるものではない。水中(特に海水中)において例えば数ヶ月〜1年位の間に、少なくとも主要な部分が徐々に分解又は/及び腐蝕して最終的に自然消失するものであって、且つその分解・腐蝕が水中の環境に悪影響を与えないようなものが好ましい。
また、先に述べたように、水底などの形状に合わせて容器2を積み上げて構造体などを構築するためには、容器2は上記材質などからなる袋体であることが好ましい。
また、容器2は、その内部の材料A表層に殻状皮膜が生成しないうちは消失せず、必要な流失防止機能を果たすようにするため、その種類・組成や厚さなどを選択すればよい。
【0022】
また、図4は、潜堤を施工する場合の他の実施形態(潜堤縦断面)を示しており、堤構造体1の外層部を潜堤材(材料A)を入れた容器2(特に袋体が好ましい)で構成し、内層部を潜堤材をそのまま積み上げて構成したものである。また、内層部には本発明が規定する材料A以外の潜堤材(例えば、建設残土、浚渫土、塊状製鋼スラグなどの1種)を用いてもよい。
また、図5は、傾斜護岸を施工する場合の一実施形態(護岸縦断面)を示しており、傾斜護岸3のアンコ材として材料Aを入れた容器2(特に袋体が好ましい)を設置し、その上に他の護岸材4を設置したものである。
【0023】
容器2に用いる生分解性プラスチックとは、土中または海水中などの環境に置かれた際に微生物により分解され、最終的に水と二酸化炭素になるプラスチックを指す。この種のプラスチックは、通常の使用状態では他の一般的なプラスチックと同等の機能(強度など)を有する。
使用する生分解性プラスチックの種類に特別な制限はないが、例えば、トウモロコシなどの植物性のデンプンを主原料としたポリ乳酸、微生物が作るPHB、バクテリアセルロースなどを用いることができる。また、これらを用いる場合、例えば、分解速度が速いバクテリアセルロースと分解速度が遅いポリ乳酸を混合し、それらの混合率を調整することにより容器2の分解速度を調整することができる。
【0024】
生分解性プラスチック製の容器2は、水中に置かれた後、水中の微生物により経時的に分解され、最終的に消失するが、生分解性プラスチックの種類・組成や被覆の厚さなどを選択することにより、水中での分解・消失期間を設定することができる。
生分解性プラスチックは分解してCOと水になるため、自然環境に悪影響を与える恐れは全くない。
【0025】
また、生分解性プラスチック製の容器2には、全てが生分解性プラスチックで構成されるもの以外に、一部に生分解性プラスチック以外の物質を混合し或いは物理的に組み合わせたもの(すなわち、生分解性プラスチックを主体とした被覆体や容器)も含まれる。要は、主たる構成物質または構成部材である生分解性プラスチックが経時的に分解・消失することで、容器2の主要部が消失できるものであればよい。
本発明法は、例えば、潜堤や護岸などの構造体の施工、水底での各種基礎・基盤の施工などに好適であるが、これらに限らず、鉄鋼スラグを水中設置するためのあらゆる施工工事に適用できる。また、適用される水域も、港湾や内海などの沿岸海域だけでなく、汽水域の河川、河口、湖沼なども含まれる。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
粒度の異なる3種類の製鋼スラグ(脱燐スラグ)と海砂を用い、製鋼スラグ単独材、製鋼スラグ+海砂の混合材、海砂単独材(いずれも、各500kg)からなる各供試体を、透水性を有する袋体(通称フレコンバッグ)に入れて沿岸海域の水深約10mの海底に設置した。1ヵ月後に袋体の口を空けて、各供試体表層に生成した殻状皮膜の厚さを複数箇所で調べ、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0027】
なお、殻状皮膜の平均厚みtは、図6に示すように所定長さ範囲Lにおける厚み方向での皮膜断面積Sを測定し、[平均厚みt=皮膜断面積S/長さL]で求めた。すなわち、供試体の複数箇所から採取した試料の殻状皮膜断面を研磨し、任意に選択した約500mm〜800mmの長さ範囲Lでの皮膜断面積Sを測定した。この皮膜断面積Sの測定では、10倍に拡大した画像に1mmの方眼トレース紙を当てて殻状皮膜部が含まれる方眼のマス目をカウントし、その数から皮膜断面積Sを求めた。なお、殻状皮膜部とそれ以外部分を含むマス目については1/2個としてカウントした。また、殻状皮膜部中に含まれるスラグ粒子などの非析出物も皮膜の一部としてカウントした(但し、空洞部はカウントせず)。
【0028】
【表1】

【0029】
[実施例2]
粒度の異なる3種類の高炉水砕スラグと海砂を用い、高炉水砕スラグ単独材、高炉水砕スラグ+海砂の混合材、海砂単独材(いずれも、各500kg)からなる各供試体を、透水性を有する袋体(通称フレコンバッグ)に入れて沿岸海域の水深約10mの海底に設置した。1ヵ月後に袋体の口を空けて、各供試体表層に生成した殻状皮膜の厚さを複数箇所で調べ、その平均値を求めた。その結果を表2に示す。なお、殻状皮膜の平均厚みは、実施例1と同じ手法で求めた。
【0030】
【表2】

【0031】
[実施例3]
製鋼スラグ+高炉水砕スラグの混合材、製鋼スラグ+高炉水砕スラグ+海砂の混合材(いずれも、各500kg)からなる各供試体を、透水性を有する袋体(通称フレコンバッグ)に入れて沿岸海域の水深約10mの海底に設置した。1ヵ月後に袋体の口を空けて、各供試体表層に生成した殻状皮膜の厚さを複数箇所で調べ、その平均値を求めた。その結果を表3に示す。なお、殻状皮膜の平均厚みは、実施例1と同じ手法で求めた。
【0032】
【表3】

【0033】
[実施例4]
製鋼スラグ単独材からなる供試体を透水性を有する麻袋に入れ、沿岸海域の水深約10mの海底に複数個設置した。4年半経過した後に設置状態を調査したが、スラグを入れた麻袋は、波に流されることなくほぼ設置ままの状態を維持し、且つ内部のスラグが固結したような状態で保形していた。
一部の麻袋の口を空けて内部を確認したところ、供試体(スラグ)表層に比較的厚い殻状皮膜(数mm以上)が生成し、且つこの殻状皮膜の内側のスラグが約20cm程度の厚さで固結していた。この殻状皮膜+スラグ固結部(20cm×10cm×30cm)を圧縮試験用試料として採取し、一軸圧縮強度の測定を行い、その結果に基づき粘着力を評価した。
【0034】
粘着力は、一般には、三軸圧縮試験(例えば、地盤工学会基準JGS0524)により求めるが、一軸圧縮試験(JIS−A−1216)により求まる圧縮強度の1/4〜1/5相当の値を用いてもよい。本発明者らは、予め実験を行い、この粘着力(一軸圧縮強度の1/4〜1/5相当の値)が20kN/m以上、好ましくは35kN/m以上あれば高い波浪安定性が得られ、潜堤として十分に機能することを確認した。
圧縮試験の結果、上記試料の一軸圧縮強度は390kN/mであった。この結果から、粘着力は約80〜100kN/mであることが推定され、潜堤に適用した場合に高い波浪安定性が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の施工方法により材料表層に生成する殻状皮膜の断面を模式的に示す説明図
【図2】本発明の施工方法により材料表層に生成した殻状皮膜断面のSEM画像と、SEMを用いたMg及びCaの面分析画像
【図3】本発明法を潜堤の施工に適用した場合の一実施形態(潜堤縦断面)を示す説明図
【図4】本発明法を潜堤の施工に適用した場合の他の実施形態(潜堤縦断面)を示す説明図
【図5】本発明法を傾斜護岸の施工に適用した場合の一実施形態(護岸縦断面)を示す説明図
【図6】本発明法において生成した殻状皮膜の厚み方向断面を模式的に示す説明図
【符号の説明】
【0036】
1 堤構造体
2 容器
3 傾斜護岸
4 護岸材
x 殻状皮膜
y 材料粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする材料(但し、粒状又は/及び塊状のCa含有物のみからなる材料の場合を含む)を透水性がある容器に入れ、該容器を海水又は汽水中に置いて材料表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させることを特徴とする、粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【請求項2】
粒状又は/及び塊状のCa含有物が鉄鋼製造プロセスで発生したスラグであることを特徴とする、請求項1に記載の粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【請求項3】
容器が袋体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【請求項4】
容器が水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する容器であり、容器内の材料表層に殻状皮膜が生成した後に、該容器の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【請求項5】
容器内の材料表層に生成した殻状皮膜の平均厚みが0.5mm以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【請求項6】
容器内の材料は、粒径2mm以下の製鋼スラグを10mass%以上含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【請求項7】
容器内の材料は、粒径1mm以下の高炉水砕スラグを20mass%以上含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。
【請求項8】
材料を入れた容器により、少なくとも潜堤外層部の一部を構築することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−154650(P2007−154650A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303002(P2006−303002)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】