説明

粗ジフェニルメタンジイソシアネートの精製方法

【課題】
短時間で粗ジフェニルメタンジイソシアネート中の加水分解性塩素を0.03%以下なるまでに低減させる方法を提供する。
【解決手段】
温度150〜250℃、圧力5〜25kPaの条件下、加水分解性塩素含有量が0.05%以上の粗ジフェニルメタンジイソシアネート中に、金属酸化物の存在下、酸性ガス及び不活性ガスから選択されるガスを、粗ジフェニルメタンジイソシアネート1,000gに対して常圧換算で50〜250ml/分の流量で通気して、得られる精製ジフェニルメタンジイソシアネート中の加水分解性塩素含有量を0.03%以下にすることを特徴とする、粗ジフェニルメタンジイソシアネートの精製方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアニリンとホルムアルデヒドを縮合して得られるアミンのホスゲン化物、いわゆる粗ジフェニルメタンジイソシアネートの精製方法に関する。更に詳細には、加水分解性塩素含有量の少ない粗ジフェニルメタンジイソシアネートの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粗ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、粗MDIと略す)は、アニリンとホルムアルデヒドを縮合して得られるアミン混合物を不活性溶媒中でホスゲンと反応させて得られるものであることは公知であり、縮合度の異なる化合物の混合物である。上記方法で得られる粗MDIには、加水分解性塩素(以下、H−Clと略す)が通常0.05〜1%程度含まれる。このH−Clは,粗MDIを分離して得られる、いわゆるモノメリックMDI(ピュアMDI)及びポリメリックMDIのH−Cl含量に直接影響を与えることはいうまでもない。H−Cl成分の主なものはイソシアネートに塩酸が付加したカルバモイルクロライド化合物の塩素であり、カルバモイルクロライド化合物を含む有機イソシアネート化合物は、経時変化により色相が悪化し、これより得られる樹脂の色相をも悪化させる。更にカルバモイルクロライド化合物は活性水素化合物と反応し塩化水素を生じるが、この塩化水素も各種ポリウレタン製品の製造あるいは品質に悪影響を及ぼす。なお、本発明において、「ジフェニルメタンジイソシアネート」、「MDI」とは接頭語の有無に関わらず、アニリンとホルムアルデヒドを縮合して得られるアミン混合物のアミノ基をイソシアネート基に転化させた化合物全般を示すものであり、縮合度の大小にはこだわらない。
【0003】
例えば、ウレタン化反応の際に用いるジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート等の有機スズ化合物、酢酸マンガン、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛等の金属塩、ジアザビシクロウンデセン、トリエチルアミン、ジアザビシクロオクタン、ジエチルアミノエタノール等の三級アミン類のウレタン化触媒は塩化水素によって中和されるか分解する。従って、その分だけ過剰量の触媒を必要とする。また、加水分解性塩素の多い有機イソシアネート化合物を用いたウレタン塗装においては、金属素材の腐蝕を生じ易くなる。
【0004】
以上のように有機イソシアネート化合物のH−Clは種々の悪影響を与えるため、H−Clの低減が必要となっている。粗MDIに関しても、従来から種々の低減方法が提案されている。
【0005】
たとえば、粗MDIを常圧210℃加熱下、5質量%ホスゲンを含む窒素ガスを液相部に吹き込みH−Clを0.40%から0.28%に低減させる方法(特許文献1)、160〜200℃に予備加熱した粗MDIを180〜250℃/100〜300mmHgの条件に設定した充填塔の上部から連続的に流し、下部より窒素ガスを交流通気し、精製ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、精製MDIと略す)中のH−Clを0.3〜1.7%から0.1〜0.5%に低減させる方法(特許文献2)等が知られている。
【0006】
また、高温(80〜150℃)・減圧(0.1〜100mmHg(1.33×10-2〜1.33kPa))の条件下、不活性ガスを通気することでH−Clを0.1%程度まで低減させる方法(特許文献3)が提案されている。
【0007】
【特許文献1】旧東独国特許発明第271820号明細書
【特許文献2】独国特許発明第2237552号明細書
【特許文献3】特開平6−345707号公報
【0008】
しかしながら、常圧加熱下に不活性ガスで通気処理する方法は、H−Clを0.1%以下のレベルまで低減することは困難である。また蒸留精製によりH−Clを0.1%以下の低レベルまで低減させる方法では、長時間高温にさらされるため、精製中に粗MDIの重合等が起こり、品質の低下が大きく問題がある。
【0009】
高温・減圧下で不活性ガスを通気する方法では、処理時間が0.5〜24時間と長時間高温にさらされるため、MDIの重合等が起こるおそれがある。また、やはりH−Clを0.1%から大幅に下回ることは困難である。
【0010】
そこで、これらの問題を解決し、短時間でH−Clを0.03%以下になるまでに低減させる方法の開発が望まれていた。なお、有機イソシアネート化合物のH−Cl残存量が0.03%以下であれば、熱的安定性や経時安定性等が実用上問題ないことが分かっている。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0011】
高H−Cl含有粗MDIのH−Cl低減方法として、特定の温度、圧力の範囲において、金属酸化物の存在下、粗MDI中に酸性ガス及び不活性ガスから選択されるガスを通気する本発明方法は、従来の方法に比べ、粗MDIを劣化、変性させることなく、短時間で効率的にH−Clを低減することができ、工業的なH−Cl低減法として優れている。
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、短時間で粗MDI中のH−Clを0.03%以下なるまでに低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、粗MDI中のH−Clを効率よく低減する方法を鋭意検討し、特定範囲の温度と圧力の条件で金属酸化物の存在下、粗MDI中に特定ガスを特定流量で通気することにより、短時間で効率よく粗MDIのH−Clを低減できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(3)に示されるものである。
【0015】
(1)温度150〜250℃、圧力5〜25kPaの条件下、加水分解性塩素含有量が0.05%以上の粗MDI中に、金属酸化物の存在下、酸性ガス及び不活性ガスから選択されるガスを、粗MDIを1,000gに対して常圧換算で50〜250ml/分の流量で通気して、得られる精製MDI中の加水分解性塩素含有量を0.03%以下にすることを特徴とする、粗MDIの精製方法。
【0016】
(2)該不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、前記(1)の粗MDIの精製方法。
【0017】
(3)該酸性ガスが塩化水素ガス、臭化水素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスであることを特徴とする、前記(1)の粗MDIの精製方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の精製方法の特徴は、金属酸化物の存在下、減圧、加熱下で粗MDI化合物中に酸性ガス及び不活性ガスから選択されるガスを通気するもので、特に処理を5〜25kPaの低減圧下で行うことにより、短時間で効率的にH−Clを除去できる点である。
【0019】
本発明に用いられる金属酸化物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の酸化物が挙げられ、特に好ましい金属酸化物は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化カルシウムから選択される金属酸化物である。
【0020】
本発明において酸性ガスとは、水に溶解させたときに酸性を示す、常温常圧下で気体状態の物質をいい、具体的には塩化水素ガス、臭化水素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化硫黄ガス等が挙げられる。また、不活性ガスとは、常温条圧下では化学的に安定な気体であり、例えば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ネオンガス等が挙げられる。本発明において、好ましい通気ガスは、ガス回収の容易さや経済性を考慮すると、窒素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、塩化水素ガス、臭化水素ガスである。
【0021】
通気条件は、粗MDIに含まれるH−Cl濃度等によって異なるが、金属酸化物使用量:処理前の有機イソシアネート化合物の10〜60質量%、温度:150〜250℃、圧力:5〜25kPaの条件下、流量:粗MDI1,000gに対して常温常圧換算で50〜250ml/分であり、好ましくは、金属酸化物使用量:処理前の粗MDIの20〜50質量%、温度:180〜230℃、圧力:10〜20kPaの条件下、流量:粗MDI1,000gに対して常温常圧換算で80〜230ml/分である。
【0022】
金属酸化物が少なすぎる場合は、H−Clの低減速度が遅くなるため、通気処理時間が長くなる。通気処理は加熱するため、これに長時間かかると、得られる粗MDIが熱履歴のため、安定性が低下しやすくなる。多すぎる場合は、撹拌効率が低下し、また、粗MDIと金属酸化物の分離工程が困難になりやすくなる。
【0023】
温度が低すぎる場合は、カルバモイルクロライド化合物の熱分解速度が遅くなり、十分なH−Clの低減には長時間の処理が必要となり効率的でない。また温度が高すぎる場合は、熱履歴のため粗MDIの安定性が低下しやすくなる。
【0024】
また、圧力が低すぎる場合は、減圧装置の能力の問題より工業的方法としては難があり、圧力が高すぎる場合はカルバモイルクロライド化合物の熱分解により、生成した塩化水素を効率よく系外に除去することができず、十分なH−Cl低減はできない。
【0025】
ガスの流量が少なすぎる場合は、十分なH−Clの低減はできず、多すぎる場合は、工業的には減圧装置能力上、必要な減圧度を保つことが困難となり、H−Clの低減効果は不十分となる。
【0026】
ガス通気処理時間は、粗MDIのH−Clの含有量、ガス流量、処理温度及び圧力等によって異なるが、通常5〜20分、好ましくは10〜15分という短時間で処理が終了する。処理時間が短すぎる場合は十分なH−Cl低減はできず、長すぎる場合、熱劣化により有機イソシアネート化合物の変性等が起こりやすくなる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の方法を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお「%」は質量%を意味する。
【0028】
〔H−Clの高い有機イソシアネート化合物の合成〕
撹拌機、温度計、ガス導入管を備えた1Lの反応容器に、アニリンとホルマリンを縮重合させて得られたポリアミン重合混合物70g、クロロベンゼンを800g仕込み、均一にした。次いで、液温を50℃にして、ガス導入管からホスゲンガスを通気して、カルバミン酸クロライド化合物の溶液をえた。なお、ホスゲンガスの通気量は最終的には250gであった。また、このときのガス導入管におけるガス出口は液面より下になるように備えた。次いで、液温を120℃に徐々に加熱して、カルバミン酸クロライドをイソシアネートに転化させて、有機イソシアネート化合物の溶液を得た。その後、150℃、30kPaで蒸留して、クロロベンゼン及び過剰量のホスゲンを除去して、H−Clが0.12%の粗MDI(A−1)を得た。
【0029】
実施例1
撹拌機、温度計、ガス導入管を備えた0.1Lの反応容器に、A−1を50g、200メッシュの酸化アルミニウム粉20g仕込み、15kPa、200℃の条件下、窒素ガスを100ml/分(1,000g換算)にて10分間通気した。その後徐々に常圧に戻しながら50℃まで冷却した後濾過して、有機イソシアネート化合物AS−1を得た。AS−1のH−Clは0.025%であった。またアセトン200倍希釈溶液の色数は60APHAであった。
【0030】
実施例2〜6、比較例1〜6
表1に示す条件でA−1を通気処理し、実施例1と同様な手順で有機イソシアネート化合物AS−2〜6、AM−1〜6を得た。実施例を表1に、比較例を表2に示す。なお、金属酸化物は全て200メッシュである。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1から、本発明の精製方法は、短時間で有機イソシアネート化合物中のH−Clを低下させることができることが分かった。一方、表2からは、比較例の方法では効率的にH−Clを低下させることはできなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度150〜250℃、圧力5〜25kPaの条件下、加水分解性塩素含有量が0.05%以上の粗ジフェニルメタンジイソシアネート中に、金属酸化物の存在下、酸性ガス及び不活性ガスから選択されるガスを、粗ジフェニルメタンジイソシアネート1,000gに対して常圧換算で50〜250ml/分の流量で通気して、得られる精製ジフェニルメタンジイソシアネート中の加水分解性塩素含有量を0.03%以下にすることを特徴とする、粗ジフェニルメタンジイソシアネートの精製方法。
【請求項2】
該不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、請求項1記載の粗ジフェニルメタンジイソシアネートの精製方法。
【請求項3】
該酸性ガスが塩化水素ガス、臭化水素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスであることを特徴とする、請求項1に記載の粗ジフェニルメタンジイソシアネートの精製方法。