説明

粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法

【課題】変形時のひずみ量に基づいて粘弾性特性を修正し、精度の良いシミュレーション結果を得る。
【解決手段】粘弾性材料からなる製品を変形させるシミュレーション方法であって、前記製品を有限個の要素でモデル化して製品モデルを設定するステップと、前記製品モデルの各要素に初期の粘弾性特性を入力するステップと、前記製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップと、前記変形シミュレーションで得られた各要素のひずみ量に基づいて、製品モデルに入力された要素の前記初期の粘弾性特性を修正するステップと、前記粘弾性特性が修正された製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップとを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いた粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法に関し、詳しくは、シミュレーションを行う製品モデルの各要素に、変形時のひずみ量に対応した粘弾性特性を入力することにより、精度の良いシミュレーション結果を得ることができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムやエラストマーなどの高分子材料に代表される粘弾性材料は、乗物用タイヤ、スポーツ競技において使用される各種のボール、又は印刷機等に用いられるロールなど各種の製品に広く用いられている。近年、このような粘弾性材料からなる製品の試作のコストと時間とを節約するために、コンピュータによる変形シミュレーションを用いた開発が行われている。例えば、タイヤの走行性能を評価するための実車走行試験や、ゴルフボールの反発性能を評価するための打撃試験などが、コンピュータを用いたシミュレーションの中で擬似的に行われている。
【0003】
上記コンピュータによるシミュレーションでは、実際の具体的な連続対である製品を、有限個の小さな要素でモデル化(離散化)した製品モデルが設定され、これに所定の条件を適用して変形計算が行われる。また、計算精度を高めるために、各要素には、その要素が表現している製品の材料に見合った粘弾性特性が入力される。関連する文献としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−55034号公報
【特許文献2】特開2002−365205号公報
【特許文献3】特開2002−365207号公報
【特許文献4】特開2003−28788号公報
【特許文献5】特開2003−107637号公報
【特許文献6】特開2003−139668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らの種々の実験の結果、粘弾性材料の粘弾性特性は、ひずみ量に依存すること、即ち、ひずみ量依存性があることが分かった。即ち、同一の粘弾性材料であっても、変形時のひずみ量の大きさによって、応力とひずみとの関係が異なることが分かった。
【0006】
しかしながら、これまでのシミュレーションでは、このような特性を考慮することはなされておらず、上記製品モデルの各要素には、一律に、各材料毎に、同一のひずみ量で測定された粘弾性特性が入力されていた。従って、従来の方法では、シミュレーションの計算精度を高めるにはおのずと限界があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、粘弾性材料からなる製品の例えば実使用条件下での性能を、精度良くシミュレーションにより予測することを可能としうる粘弾性材料からなる製品のためのシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち請求項1記載の発明は、粘弾性材料からなる製品を変形させるシミュレーション方法であって、前記製品を有限個の要素でモデル化して製品モデルを設定するステップと、前記製品モデルの各要素に初期の粘弾性特性を入力するステップと、前記製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップと、前記変形シミュレーションで得られた各要素のひずみ量に基づいて、製品モデルに入力された要素の前記初期の粘弾性特性を修正するステップと、前記粘弾性特性が修正された製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
また請求項2記載の発明は、前記修正するステップは、予め前記粘弾性材料についてひずみ量を異ならせて複数の粘弾性特性が測定されるとともに、前記各要素の粘弾性特性は、前記測定された粘弾性特性の中から各要素のひずみ量に最も近いひずみ量の粘弾性特性に修正されることを特徴とする請求項1記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法である。
【0010】
また請求項3記載の発明は、前記修正するステップは、前記製品モデルの全要素を、そのひずみ量に基づいて少なくとも2つのグループに区分し、各グループに含まれる要素に、ひずみ量に対応する同一の粘弾性特性を入力することを特徴とする請求項1又は2記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法である。
【0011】
また請求項4記載の発明は、前記変形シミュレーションで得られた物理量と、その前に行われた変形シミュレーションで得られた物理量との差が予め定めた許容範囲になるまで、前記修正ステップと、前記変形シミュレーションを行うステップとを繰り返すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法である。
【0012】
また請求項5記載の発明は、前記ひずみ量が、変形1サイクル中の最大ひずみ量である請求項1乃至4のいずれかに記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法である。
【0013】
また請求項6記載の発明は、粘弾性材料からなる製品を変形させるシミュレーション方法であって、前記製品を有限個の要素でモデル化して製品モデルを設定するステップと、前記製品モデルの各要素に、前記変形の際に想定されるひずみ量で前記粘弾性材料から測定された粘弾性特性を入力するステップと、前記製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のうち第1の発明では、コンピュータを用いた粘弾性材料からなる製品を変形させるシミュレーション方法であって、前記製品を有限個の要素でモデル化して製品モデルを設定するステップと、前記製品モデルの各要素に初期の粘弾性特性を入力するステップと、前記製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップと、前記変形シミュレーションで得られた各要素のひずみ量に基づいて、製品モデルに入力された要素の前記初期の粘弾性特性を修正するステップと、前記粘弾性特性が修正された製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップとを含む。このような第2の発明では、変形シミュレーションで得られた各要素のひずみ量に基づき、各々の要素の粘弾性特性が修正されて再度変形シミュレーションが行われる。従って、粘弾性材料が有するひずみ量依存性を製品モデルの各要素の変形計算に取り込むことができ、精度の良いシミュレーションが可能になる。
【0015】
また、本発明のうち第2の発明では、コンピュータを用いた粘弾性材料からなる製品を変形させるシミュレーション方法であって、前記製品を有限個の要素でモデル化して製品モデルを設定するステップと、前記製品モデルの各要素に、前記変形の際に想定されるひずみ量で前記粘弾性材料から測定された粘弾性特性を入力するステップと、前記製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップとを含む。従って、第1の発明によれば、粘弾性材料が有するひずみ量依存性を製品モデルの各要素の変形計算に取り込むことができる。従って、精度の良いシミュレーションが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のシミュレーション方法を実施するためのコンピュータ装置の構成図である。
【図2】本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】製品モデルの一例を視覚化して示す斜視図である。
【図4】ひずみ量が異なる粘弾性特性の一例を示すグラフである。
【図5】(a)及び(b)は変形シミュレーションの一例を視覚化して示す断面図である。
【図6】製品モデルの各要素をひずみ量で色分けした視覚化した斜視図である。
【図7】ゴルフボールモデルのうちグループG1に属する要素を視覚化した斜視図である。
【図8】ゴルフボールモデルのうちグループG2に属する要素を視覚化した斜視図である。
【図9】ゴルフボールモデルのうちグループG3に属する要素を視覚化した斜視図である。
【図10】ゴルフボールモデルのうちグループG4に属する要素を視覚化した斜視図である。
【図11】ゴルフボールモデルのうちグループG5に属する要素を視覚化した斜視図である。
【図12】打出シミュレーションを視覚化して示す側面図である。
【図13】シミュレーションと実験結果との相関を示すグラフである。
【図14】シミュレーションと実験結果との相関を示すグラフである。
【図15】シミュレーションと実験結果との相関を示すグラフである。
【図16】シミュレーションと実験結果との相関を示すグラフである。
【図17】シミュレーションと実験結果との相関を示すグラフである。
【図18】シミュレーションと実験結果との相関を示すグラフである。
【図19】シミュレーションと実験結果との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のシミュレーション方法を実施するためのコンピュータ装置1が示されている。このコンピュータ装置1は、本体1aと、入力手段としてのキーボード1b、マウス1cと、出力手段としてのディスプレイ装置1dとを含んで構成されている。本体1aには、演算処理装置(CPU)、作業用メモリー及び磁気ディスクの他、CD−ROMやフレキシブルディスクのドライブ1a1、1a2などを適宜具えている。そして、前記磁気ディスクには本発明のシミュレーション方法を実行するためのプログラムが記憶されている。
【0018】
図2には、本発明のシミュレーション方法の処理手順の一例が示される。以下、順に説明する。
【0019】
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、製品モデルが設定される(ステップS1)。
【0020】
前記製品モデルは、本実施形態では、解析対象となる粘弾性材料からなる製品を有限個の要素でモデル化したものである。
【0021】
前記「粘弾性材料」としては、粘性と弾性とを具えるあらゆる材料が含まれ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、各種エラストマー、ゴム等が挙げられ、これらの単体、あるいは混合物を用いることができる。また、前記「製品」とは、形状が特定可能なあらゆるものを含む。例えば、製品には、需用者に提供される最終製品(例えばゴルフボール、ゴムローラー、タイヤ等)が含まれるのは当然であるが、それらの前の状態で形状を把握可能な中間製品(例えばゴルフボールのコア部等)をも含む概念である。
【0022】
図3には、本実施形態の製品モデル2を視覚化した斜視図が示される。該製品モデル2は、三次元の製品としてのゴルフボールをモデル化したゴルフボールモデル2aからなる。このゴルフボールモデル2aは、例えば有限要素法等の数値解析法で計算が可能なように、有限個の小さな要素eでモデル化(離散化)されている。本実施形態のゴルフボールモデル2aの各要素eには、変位を未知数とするラグランジェ(Lagrange)要素が用いられる。また、計算コストを低減するために、ゴルフボールモデル2aは、本実施形態のように、半球状でモデル化されても良い。
【0023】
前記製品モデル2は、コンピュータ装置1に入力されかつ記憶される。即ち、ゴルフボールモデル2aを構成している各要素eの要素番号及び節点座標値がコンピュータ装置1の記憶手段に数値データとして入力される。この作業は、前記入力手段を用いてオペレータにより行われる。
【0024】
本実施形態において、ゴルフボールモデル2aは、三次元の六面体要素からなる。各六面体要素は、例えば大部分の節点が互いに連結される。これにより、球形をなすゴルフボールが多面体の擬似球体として表現されている。なお、ゴルフボールモデル2aは、上記六面体要素以外の要素で設定されても良い。
【0025】
解析対象となるゴルフボールは、全てが粘弾性材料で構成されており、球形のコア部と、その回りを小厚さの層状で覆うカバー部とから構成されている。各部には、それぞれの機能に合致するように、異なる粘弾性材料が用いられている。
【0026】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、前記ゴルフボールモデル2aの各要素eに粘弾性特性(初期値)が入力される(ステップS2)。粘弾性特性は、図4に示されるように、少なくとも応力σとひずみεとの関係を特定するものである。図4は、ウレタンを主成分とする粘弾性材料について、スプリットホプキンソン棒試験から得られた粘弾性特性(応力−ひずみの関係)を示すグラフである。測定条件は、室温23℃、相対湿度50%とした。また、線種が異なっているのは、最大ひずみ量を異ならせた結果を示している。各曲線は、ループを描き、このループで囲まれる面積がヒステリシスロスとなる。このように、粘弾性材料は、同一の材料であっても、ひずみ量(最大ひずみ量)に応じて、応力とひずみとの関係及びヒステリシスロスが異なるひずみ量依存性を有することが分かる。
【0027】
次に、ゴルフボールモデル2aの各要素eにどのように粘弾性特性(初期値)を入力するかについて、その例を述べる。
【0028】
[方法1]
例えば、一つの方法として、解析対象となるゴルフボールの材料毎に、同一のひずみ量で測定された粘弾性特性がそれぞれ入力される。具体的には、ゴルフボールモデル2aのカバー部を構成している各要素には、このカバー部を構成する実際の粘弾性材料について、あるひずみ量xの条件で測定された粘弾性特性を入力することができる。同様に、コア部を構成している各要素には、このコア部を構成する実際の粘弾性材料について、カバー部で採用された同一のひずみ量xの条件で測定された粘弾性特性を入力することができる。この際、粘弾性材料の測定は、変形シミュレーションでの変形速度を考慮したひずみ速度で行われるのが望ましい。これにより、この粘弾性特性の初期値に、ひずみ速度依存性を導入することができる。
【0029】
[方法2]
また、他の方法として、ゴルフボールモデル2aの各要素に、後述の変形シミュレーションにおいて生じると想定されるひずみ量に対応した粘弾性特性を入力することもできる。即ち、変形シミュレーションが、例えばゴルフボールモデルをある打撃速度で物体に衝突させる反発性能シミュレーションである場合、過去の実験データから、大凡、ゴルフボールの各部のひずみ量は想定することができる。従って、粘弾性特性の初期値として、このような想定されるひずみ量の条件で測定されたゴルフボールの材料の粘弾性特性を入力することができる。
【0030】
以上のように、ゴルフボールモデル2aのコア部及びカバー部それぞれの要素に、粘弾性特性が定義されてコンピュータ装置1に入力される。これにより、製品モデルとしてのゴルフボールモデル2aが得られる。なお、前記粘弾性特性は、例えば、クリープ試験、動的粘弾性特性試験、スプリットホプキンソン棒試験機、応力緩和試験又は超音波試験など種々の公知の方法を用いて解析対象材料から測定することができる。
【0031】
次に、前記ゴルフボールモデル2aを変形させる変形シミュレーションが例えば有限要素法をベースに行われる(ステップS3)。変形シミュレーションには、種々の態様が含まれる。例えば、変形シミュレーションは、解析対象となるゴルフボールの反発性能を評価するための反発評価シミュレーションを含む。
【0032】
前記反発評価シミュレーションでは、図5(a)、(b)に示されるように、ゴルフボールモデル2aと、平らな打撃面3fを有した円筒状の打撃物モデル3とを、現実の打撃条件と近似した条件で衝突させることにより行われる。ただし、変形シミュレーションには、このような動的なシミュレーションのみならず、ゴルフボールモデル2aを所定の力で平面に押しつけるコンプレッション試験のような静的なシミュレーションも含まれるのは言うまでもない。
【0033】
変形シミュレーションでは、ゴルフボールモデル2aの衝突開始からの変形状態が微小時間きざみで逐次計算され、必要な物理量の変化の履歴がコンピュータ装置1に記憶される。各要素の粘弾性特性を変形計算の過程で再現するために、要素の変形計算には、例えば、粘弾性モデルが採用される。代表的な粘弾性モデルとして、例えば、Maxwellモデル、Kelvin-Voightモデル又は一般化Maxwellモデルなどが用いられる。このような変形シミュレーションは、例えば前記コンピュータ装置1で汎用陽解法ソフト(例えばLSTC社製の「LS−DYNA」等)を実行することで行うことができる。
【0034】
図5(b)は、ゴルフボールモデル2aと打撃物モデル3との衝突中のある時刻の状態を視覚化したものである。ひずみ量の大きさは、色彩の違いで表現されている。図5(b)から明らかなように、ゴルフボールモデル2aは、コア部及びカバー部それぞれにおいて、打撃物モデル3側ではひずみ量が大きくなるのに対して、ヘッドモデル3とは反対側の部分ではひずみ量が小さくなっている。従って、粘弾性材料のひずみ量依存性に鑑みれば、カバー部の各要素に一律に同じ粘弾性特性を入力することは、正確な計算結果を得るための適切な材料特性定義とは言えないことが理解される。コア部についても同様のことが言える。
【0035】
次に、本実施形態では、ゴルフボールモデル2aを構成している全ての要素が、ひずみ量の大きさに基づいて複数のグループに分けられる(ステップS4)。
【0036】
上記変形シミュレーションから、ゴルフボールモデル2aの各要素eについて、変形開始から変形がなくなるまでの変形1サイクル中のひずみ量が取得される。上記「ひずみ量の大きさ」については、種々の基準で決めることができるが、本実施形態では、各要素eの変形1サイクル中の「最大ひずみ量」が採用され、これに基づいてグループ分けされる。ただし、ひずみ量の大きさとしては、これ以外にも、例えば変形が開始されてから任意の時間が経過した「ある時刻のひずみ量の値」が採用されても良いし、変形1サイクル中の「平均ひずみ量の値」であっても良い。また、ひずみの方向についても、特に限定されることなく、引張、圧縮及び/又はせん断のいずれかを基準に定めれば良い。
【0037】
本実施形態では、各要素は、各々のひずみ量εの大きさに基づいて、下記の5つのグループG1乃至G5に区分される。この処理は、コンピュータ装置1によって自動で行われるのは言うまでもない。
[ひずみ量のグループ化]
グループG1: 0%≦ε<10%
グループG2:10%≦ε<20%
グループG3:20%≦ε<30%
グループG4:30%≦ε<40%
グループG5:40%≦ε<50%
【0038】
図6には、この5つのグループG1乃至G5に含まれる要素を同じ色で塗り分けて示している(なお、図5において左側が打撃物モデル3と衝突する側を示している。)。また、図7〜図11には、ゴルフボールモデル2aの各グループG1乃至G5が、それぞれ分解して示されている。
【0039】
次に、本実施形態では、上記変形シミュレーションで得られたゴルフボールモデル2aの各要素eのひずみ量に基づいて、ゴルフボールモデル2aに入力された要素の粘弾性特性が修正される(ステップS5)。つまり、各要素に入力されていた粘弾性特性(初期値)が、要素毎にそのひずみ量に応じた最適な値(ひずみ量依存性を考慮した値)に修正される。
【0040】
本実施形態では、各要素の粘弾性特性が、図4に示したように、予め解析対象の粘弾性材料についてひずみ量を異ならせて測定された複数のひずみ量−粘弾性特性の対応関係のなかから、要素のひずみ量に対応した粘弾性特性に修正される。この実施形態では、各グループG1乃至G5に含まれる要素に、それぞれ同一のひずみ量の粘弾性特性が入力される。本実施形態では、各グループに属する要素に、次の粘弾性特性が入力される。
[グループ化された粘弾性特性の修正]
グループG1: ひずみ量5%の粘弾性特性に修正
グループG2:ひずみ量15%の粘弾性特性に修正
グループG3:ひずみ量25%の粘弾性特性に修正
グループG4:ひずみ量35%の粘弾性特性に修正
グループG5:ひずみ量45%の粘弾性特性に修正
【0041】
各グループに属する要素は、それぞれひずみ量の範囲を持っているため、各グループに入力される粘弾性特性のひずみ量の条件は、その範囲の中間値が好ましい。例えばグループG1に属する要素は0〜10%のひずみ量のものが含まれるので、このグループG1には、その範囲の中間値である5%ひずみ量で測定された粘弾性特性が入力されるのが望ましい。他のグループについても同様である。
【0042】
また、各グループに属する要素は、全てが同一の材料を表現しているわけではない。例えば、グループG2には、コア部の要素とカバー部の要素とが含まれる場合がある。この場合には、グループG2のコア部の要素には、その材料について15%のひずみ量の条件で測定された粘弾性特性が、またカバー部の要素には、その材料について15%のひずみ量の条件で測定された粘弾性特性がそれぞれ入力されるのは言うまでもない。
【0043】
次に、本実施形態では、前記粘弾性特性が修正された新たなゴルフボールモデル2aを、先に行われた変形シミュレーションと同じ条件で再度変形シミュレーションが行われる(ステップS6)。この2回目以降の変形シミュレーションでは、ゴルフボールモデル2aの各要素の粘弾性特性が各々のひずみ量に基づいて修正されたものとなっているため、計算結果に粘弾性特性のひずみ量依存性が考慮される(この実施形態ではひずみ速度依存性も考慮されている)。従って、先に行われたステップS3の変形シミュレーションよりも、さらに正確な計算結果が得られる。
【0044】
特に好ましい実施形態としては、2回目以降の変形シミュレーションで得られた物理量(例えば、反発係数、コンプレッション等の性能指標又は各要素のひずみ量)と、その一つ前に行われた変形シミュレーションでの物理量との差が予め定めた許容値内になるまで、前記ステップS5及びステップS6を繰り返して収束計算させることが望ましい。これにより、最終的にさらに精度の良い計算結果を得ることができる。
【0045】
例えば、変形シミュレーションが反発係数を評価する反発評価シミュレーションである場合、先の反発評価シミュレーションでの反発係数と、粘弾性特性を修正した後の反発評価シミュレーションでの反発係数との差が例えば10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下になるまで前記ステップS5及びS6を繰り返すことが望ましい。また、他の方法として、先の反発評価シミュレーションでのひずみ量の分布と、粘弾性特性を修正した後の反発評価シミュレーションでのひずみ量の分布との差を比較し、その値が許容値以下になったときに収束計算を終わらせることもできる。
【0046】
また、各要素の粘弾性特性にひずみ量依存性をより的確に導入するためには、ひずみ量に基づいた前記グループの数を増やすことが望ましい。このような観点より、前記グループ化するときの区分数は少なくとも2つであるが、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上が望ましい。他方、グループの数が著しく多くなると、それに見合った解析対象材料の粘弾性特性の測定回数が増えるため、好ましくは20以下程度が望ましい。
【0047】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々の態様に変形して実施することができる。
【実施例】
【0048】
本発明の効果を確認するために、実施例、比較例ともに4種類の2ピースゴルフボールA乃至Dを解析対象(実験例)とし、これらについてそれぞれゴルフボールモデルが設定された。また、これらのゴルフボールモデルA乃至Dを用いて、反発評価シミュレーションと、スピン量・反発速度をシミュレートする打出シミュレーションがそれぞれ行われた。なお、反発評価シミュレーションでは、各ゴルフボールモデルA乃至Dそれぞれからカバー部を除去して純粋にコア部だけを用いて行われた。
【0049】
[ゴルフボールA乃至Dの仕様]
ゴルフボールの仕様は次の通りである。
<ゴルフボールA、B>
外径:42.7mm
コア部の外径:38.7mm
カバー部の厚さ:2.0mm
<ゴルフボールC、D>
外径:42.7mm
コア部の外径:39.9mm
カバー部の厚さ:1.4mm
<カバー部の材料>
ゴルフボールA乃至Dともに、同一のウレタン樹脂からなる。
<コア部の材料>
コア部の粘弾性材料の配合は、下記表1の通りである。
【0050】
【表1】

【0051】
また、各ゴルフボールA乃至Dにおいて、コアの中心からの硬度分布は、下記表2の通りである。なお、表2では、中心から0mm、5mm、10mm及び15mmの各位置でのJIS−C硬度が記載されているが、硬度は中心から外側に向かって滑らかに変化している。また、表2の”HS”は、スプリングハードネスを意味する。
【0052】
【表2】

【0053】
[1回目のシミュレーションの内容]
次に、前記ゴルフボールA乃至Dの内部構造に従って、ゴルフボールモデルA乃至Dが試作された。各ゴルフボールモデルは、図3に示したゴルフボールモデルの基本構成を具えるが、反発評価用のモデルは、図3、図6に示されるように、六面体ソリッド要素(要素数15200)で作られた1/2モデル(半球)とした。一方、打撃物モデル3は、四面体ソリッド要素で作成された(要素数39119)。
【0054】
また、ゴルフボールモデルのコア部の要素には、その要素が表現している粘弾性材料についてひずみ量15%の条件で測定された粘弾性特性(初期値)が一律に入力された。同様に、カバー部の要素には、その要素が表現している粘弾性材料についてひずみ量5%の条件で測定された粘弾性特性(初期値)が入力された。いずれも一般化Maxwellモデルが適用されている。また、各粘弾性材料は、同じ硬度の粘弾性材料で作成されたスラブを用いて応力緩和試験が行われ、その結果が用いられた。
【0055】
ゴルフボールの反発係数は、R&A初速測定機を用いて、198gのアルミニウム製円筒物を40m/sの速度でゴルフボールに衝突させ、衝突前後の円筒物及びゴルフボールの速度を測定し、ゴルフボールの反発係数が算出された。具体的には、図6に示したように、静止しているゴルフボールに、円柱型の金属製レジリエンスガンを速度40m/s(V1)で衝突させ、衝突後のボール速度(V2’)とレジリエンスガンの速度(V1’)から、以下のように計算することで、反発係数が求められた。反発評価シミュレーションでは、これと同じ試験条件で行われた。
反発係数(COR)=(V2’− V1’)/V1
【0056】
また、図12に示されるように、打出シミュレーション用のゴルフボールモデル2aは、六面体ソリッド要素(要素数30400)で作られた球状のフルモデルとした。クラブヘッドモデル4は、ドライバーの形をなし、四面体ソリッド要素で作成された(要素数84927)。そして、実際の実打テストを同一の試験条件でシミュレーションが行われた。
【0057】
実打試験は、golf laboratories社製のスイングロボットに、ドライバー(「XXIO4」(「XXIO」はSRIスポーツ株式会社の登録商標)、シャフトフレックスR、ロフト角11度)を取り付け、ヘッドスピード21m/s、40m/s及び50m/sに調整し、インパクト直後のボールのスピン量及び反発速度の計測が行われた。また、シミュレーションでのクラブヘッドモデル4の動きを得るために、インパクト直前のヘッドの運動情報(ブロー角・ロフト角・シャフト傾角)、および、フェース上におけるボールの打点位置についても計測が行われた。
【0058】
また、打出シミュレーションでは、クラブヘッドモデル4を、計測されたインパクト直前のヘッドの三次元的な挙動に従って移動させた。クラブヘッドモデル4とゴルフボールモデル2aとの摩擦係数は0.15とした。使用されたソルバーは、LS-DYNA ver971R4.2、計算機は、日本SGI社製 Altix XE340(CPU:インテル(R) Xeon(R)プロセッサー、Memory:16GB、2cpu並列)であり、計算時間は反発評価シミュレーションでは約20分、実打打出シミュレーションは、約100分であった。
【0059】
[2回目のシミュレーションの内容]
次に、実施例のみについて、前記シミュレーションからゴルフボールモデルの各要素のひずみ量の時刻歴が出力され、それぞれの要素の最大ひずみ量εmが記憶された。そして、最大ひずみ量εmによって、各要素がグループ化され、かつ、それらの粘弾性特性が修正された。詳細は、次の通りである。
<コア部>
0≦εm<7.5%のグループ :ひずみ量3%の粘弾性特性
7.5%≦εmのグループ :ひずみ量15%の粘弾性特性
<カバー部>
0%≦εm<2%のグループ :ひずみ量1%の粘弾性特性
2%≦εm<4%のグループ :ひずみ量3%の粘弾性特性
4%≦εm<6%のグループ :ひずみ量5%の粘弾性特性
6%≦εm<8%のグループ :ひずみ量7%の粘弾性特性
8%≦εm<10%のグループ :ひずみ量9%の粘弾性特性
【0060】
そして、1回目のシミュレーションと同一の試験条件で反発係数評価シミュレーション及び実打試験シミュレーションを行ない、その結果を実施例のテスト結果とした。テストの結果を表3乃至表9に示す。また、実施例及び比較例の実験例との相関係数のグラフを図13〜図19に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
【表9】

【0068】
テストの結果、実施例の方法では、反発係数、実打試験シミュレーションの双方において、実験値と同じ変化の傾向を示すとともに、比較例よりも高い相関係数を示すことが確認できた。製品開発目的のシミュレーションでは、実験例の特性をより定性的に把握できることがより重要であるが、実施例のものはそれが再現できることが確認できた。
【符号の説明】
【0069】
1 コンピュータ装置
2 製品モデル
2a ゴルフボールモデル
3 打撃物モデル
e 要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性材料からなる製品を変形させるシミュレーション方法であって、
前記製品を有限個の要素でモデル化して製品モデルを設定するステップと、
前記製品モデルの各要素に初期の粘弾性特性を入力するステップと、
前記製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップと、
前記変形シミュレーションで得られた各要素のひずみ量に基づいて、製品モデルに入力された要素の前記初期の粘弾性特性を修正するステップと、
前記粘弾性特性が修正された製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップとを含むことを特徴とする粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法。
【請求項2】
前記修正するステップは、予め前記粘弾性材料についてひずみ量を異ならせて複数の粘弾性特性が測定されるとともに、
前記各要素の粘弾性特性は、前記測定された粘弾性特性の中から各要素のひずみ量に最も近いひずみ量の粘弾性特性に修正されることを特徴とする請求項1記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記修正するステップは、前記製品モデルの全要素を、そのひずみ量に基づいて少なくとも2つのグループに区分し、
各グループに含まれる要素に、ひずみ量に対応する同一の粘弾性特性を入力することを特徴とする請求項1又は2記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記変形シミュレーションで得られた物理量と、その前に行われた変形シミュレーションで得られた物理量との差が予め定めた許容範囲になるまで、前記修正ステップと、前記変形シミュレーションを行うステップとを繰り返すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記ひずみ量が、変形1サイクル中の最大ひずみ量である請求項1乃至5のいずれかに記載の粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法。
【請求項6】
粘弾性材料からなる製品を変形させるシミュレーション方法であって、
前記製品を有限個の要素でモデル化して製品モデルを設定するステップと、
前記製品モデルの各要素に、前記変形の際に想定されるひずみ量で前記粘弾性材料から測定された粘弾性特性を入力するステップと、
前記製品モデルを変形させる変形シミュレーションを行うステップとを含むことを特徴とする粘弾性材料からなる製品のシミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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