説明

粘接着剤組成物、粘接着シート、及び積層体

【課題】一液性エポキシ樹脂で、保存安定性が良好であり、かつ比較的低温で硬化性が良好で接着強度にも優れている熱硬化型粘接着剤組成物を提供する。
【解決手段】1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含むことを特徴とする粘接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化型の粘接着剤組成物、及びこれを用いた粘接着シート、並びに該粘接着シートをラミネートして得られる積層体を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、成形された被加飾物を加飾するための方法としては、例えば、塗装、クリアコート剤の塗布等による方法、装飾ラベルや種々の加飾用シートによって加飾することが行われている。塗装、クリアコート剤の塗布等による方法は、溶剤の使用による環境悪化の問題があり、装飾ラベルや金属蒸着シートの貼り付けによる方法は、複雑な形状の成形品に対しては部分的にしか加飾を行うことができない等の問題があった。
【0003】
この問題を解決するものとして、塗装によらない方法が求められており、例えば真空成形等による一体化成形が種々提案され、家電製品の表示板、車の内装などに幅広く用いられている。
しかし、一体化成形に熱可塑性樹脂からなる接着剤を使用する場合には、高温下で接着剤が可塑状態になり、接着強度が低下する性質があるため、高温環境下で使用される製品には適用できなかった。また、熱可塑性樹脂自体の接着強度がもともと低いという問題もあった。一方、一体化成形に熱硬化性樹脂を使用する場合には、高温下で長時間かけて硬化する必要があるので、熱硬化性樹脂と耐熱性の低い樹脂で成形された成形体とを接着させる場合には、該成形体が熱で変形する問題があった。
また、電離放射線等の照射により瞬時に硬化する電離放射線硬化型樹脂を使用した場合は、積層後に、電離放射線を照射せざるを得ず、物品および他物品のいずれかを電離放射線が透過できる材料にしなければならないという問題点があった。
【0004】
特許文献1には、真空成型フィルム用活性エネルギー線硬化型着色被覆組成物、該組成物から得られる真空成型フィルム、及び該フィルムを積層した真空成型物が開示されている。該真空成型フィルムは、それ自体粘着性がないので取り扱いが容易で、かつフィルムの熱軟化性により成型材に瞬間接着し、更に、該フィルムは活性エネルギー線によって硬化されるので短時間で真空成型物を成形できる。
また、特許文献2には、基体シート上に電離放射線硬化型接着剤層が形成された接着剤転写シートであって、該電離放射線接着剤層が電離放射線照射後であっても物品と他物品とを仮接着させることが可能であり、かつ仮接着時から一定時間経過後の物品と他物品との接着強度が、仮接着時の物品と他物品との接着強度より高い接着剤転写シートが開示されている。しかし、特許文献2に開示の真空成形による一体化成形品は積層後に電離放射線を照射する必要がある。
【0005】
特許文献3には、被加飾成形品の表面を加飾するために使用する成形品加飾用成形シート、及びその成形シートに用いるための接着剤が開示されている。加飾用成形シートは、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等の熱成形可能な透明なプラスチックフィルム、装飾層、及び接着剤層等からなるが、該接着剤層を形成する接着剤は、その軟化点が80〜180℃の範囲のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂等を使用するので高温下で接着剤が可塑状態になり、接着強度が低下する問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−100640号公報
【特許文献2】特開2004−175863号公報
【特許文献3】特開2007−70518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決して、硬化前は適度な粘弾性を有し、弱い圧力で圧着することができ、高温下で長時間かけて硬化する必要もなく、硬化後は高い凝集力を有する硬化型の粘接着剤組成物、及びこれを用いたシート、並びに該粘接着シートをラミネートして得られる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以上の事情を背景としてなされたもので、加熱時に粘着性を発現する脂肪族ポリアミド樹脂からなる熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂からなる硬化成分、柔軟性を発現するチオール系硬化剤、及びイオン性液体を含む粘接着剤組成物により、上記課題を解決が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)ないし(6)に記載する発明を要旨とする。
(1)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着剤組成物(以下、第1の態様と記載することがある)。
(2)前記粘接着剤組成物がエポキシ樹脂(A)の1エポキシ当量に対してチオール化合物(C)がその活性水素当量が0.7〜1.2当量となるように配合され、かつチオール化合物(C)100質量部に対してイオン性液体(D)が1〜10質量部配合されていることを特徴とする前記(1)に記載の粘接着剤組成物。
(3)前記チオール化合物(C)が
(i)トリアジン骨格を有するポリチオール
(ii)ポリオールとメルカプト有機酸のエステル化反応によって得られるチオール化合物、
(iii)アルキルポリチオール化合物、及び
(iv)末端チオール基含有ポリエーテル、
から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の粘接着剤組成物。
【0010】
(4)前記トリアジン骨格を有するポリチオールが
2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン(別名チオシアヌル酸)、
1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
2−アニリド−4,6−メルカプトトリアジン、及び
1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン
から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の粘接着剤組成物。
(5)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着組成物(H)からなる粘接着剤層(G)と該粘接着剤層(G)の片面、又は両面に剥離可能な保護フィルム層(P)を有する粘接着シート(S)(以下、第2の態様と記載することがある)。
(6)被着体である平面形状物、又は立体形状物上に、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着組成物(H)からなる粘接着剤層(G)が積層され、更に該粘接着剤層(G)上に少なくとも1の樹脂層(R)が積層された状態で、加熱硬化されてなる積層体(L)(以下、第3の態様と記載することがある)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粘接着組成物は、硬化前には適度な粘弾性を有するので、弱い圧力で圧着させることができ、且つ、高温下で長時間反応させることなく高い凝集力を示すので、被着対象の材質を問わず適用することができる。また、シート化適正にも優れる。
尚、シート化適性とは、剥離セパレーター/粘接着層/剥離セパレーターという形態において、セパレーターにハジキ等の問題がなく直接塗工可能であり、使用時(剥離セパレーターを剥がす時)に粘接着層の凝集破壊等が発生せずに、剥離セパレーターを剥がすことが可能なことを意味する。
そして、このような本発明の粘接着組成物からなる粘接着剤層を有する粘接着シートは、適度な粘接着性と良好な密着性とを有するので、積層体の物性の向上と、機能性付与に有用である。また、成形性に優れ、特に真空形成による一体成形法に好適に使用することができる。更に、該粘接着シートをラミネートして得られる積層体は意匠性、機械的強度、耐久性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の積層体を使用した成形体の形成例の一例を示す。
【図2】本願発明の積層体を使用した成形体の形成例の他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の(1)粘接着剤組成物(H)(第1の態様)、(2)粘接着シート(S)(第2の態様)、及び(3)積層体(L)(第3の態様)について説明する。
(1)粘接着剤組成物(H)(第1の態様)
本発明の第1の態様である「粘接着剤組成物(H)(以下、粘接着剤組成物(H)ということがある)」は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の粘接着剤組成物(H)によれば、被着対象の材質を問わず適用することができる。また、シート化適正にも優れている。更に、硬化前には適度な粘弾性を有するので、弱い圧力で圧着させることができ、且つ、硬化の際には高温下で長時間反応させることなく高い凝集力を示すので、特に、真空成形による一体成形法に好適に使用することができる。そして、熱硬化型の粘接着剤組成物(H)からなる粘接着剤層は、被着体に対して良好な接着性と密着性とを示し、また、耐久性に優れる。以下、粘接着剤組成物(H)に含まれる各成分について、具体的に説明する。
【0015】
(1−1)エポキシ樹脂(A)
本発明の粘接着剤組成物(H)に配合するエポキシ樹脂(A)は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であり、例えば、ビスフェノール型、エーテルエステル型、ノボラックエポキシ型、エステル型、脂肪族型、その他公知の変性エポキシ樹脂を用いることができる。本発明の粘接着剤組成物(H)では、保存安定性と硬化性の双方を満足するためには1分子中に2個エポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましいが、1分子中に1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂もエポキシ樹脂(A)中に10モル%を超えない量配合することが可能である。分子中のエポキシ基濃度が高いほど(エポキシ当量が低いほど)、硬化剤との反応確率が高く、一般的に反応速度が速くなり、またエポキシ基濃度が高いほどガラス転移温度は高くなる。貯蔵安定性と反応性が高く短時間での硬化性を考慮すると、エポキシ樹脂(A)中に、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が50モル%以上含有されることが好ましく、70モル%以上含有されることがより好ましく、80モル%以上含有されることが更に好ましい。
【0016】
また、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、100〜800g/eq.の範囲内であることが好ましい。上記エポキシ当量は、JIS K7236に準拠した方法により測定した1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数である。また、エポキシ樹脂(A)の質量平均分子量は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは300〜2000の範囲内である。そして、形成される粘接着剤層の接着力、耐久性等を向上させるためには、上記範囲内において高分子量のものを用いることがより好ましい。エポキシ樹脂(A)は固体状、液状のいずれのものでも使用することができる。
【0017】
エポキシ樹脂(A)には、上記以外の他のエポキシ樹脂(以下、エポキシ樹脂(R)ということがある)として、末端にエポキシ基を有する比較的高分子量の樹脂でエポキシ樹脂と反応して、熱硬化性樹脂として使用可能なフェノキシ樹脂等を配合することができる。フェノキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂、ビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂、ビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂、ビスフェノールM骨格(4,4’−(1,3−フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール骨格)を有するフェノキシ樹脂、ビスフェノールP(4,4’−(1,4)−フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール骨格)骨格を有するフェノキシ樹脂、ビスフェノールZ(4,4’−シクロヘキシィジエンビスフェノール骨格)骨格を有するフェノキシ樹脂等ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ノボラック骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノキシ樹脂、ノルボルネン骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するフェノキシ樹脂等を挙げることができる。前記フェノキシ樹脂の分子量は、特に限定されないが、重量平均分子量が5000〜100000であることが好ましい。さらに好ましくは10000〜70000である。重量平均分子量が前記下限値以上であれば、製膜性を向上させる効果を十分に得ることができる。一方、前記上限値以下であれば、溶解性を維持することができて好適である。
エポキシ樹脂(R)は、粘接着剤組成物(H)中でエポキシ樹脂(A)100質量部に対し、30質量部以下の割合で配合することができる。
【0018】
(1−2)熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)
本発明の粘接着剤組成物(H)は、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)(以下、脂肪族ポリアミド(Bということがある)を含有する。本発明の粘接着組成物(H)によれば、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)を含有するので、装飾フィルム等を加飾する製品に弱い圧力で圧着させることができる。粘接着剤組成物(H)では、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)は、特に限定されるものではなく、例えば、脂肪族ナイロン及びその共重合体が挙げられる。具体的には、ポリカプロアミド(ナイロン−6)、ポリアミノウンデカン酸(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンジアミノアジピン酸(ナイロン−66)、ポリヘキサメチレンジアミノセバシン酸(ナイロン−610)、ポリヘキサメチレンジアミノドデカン二酸(ナイロン−612)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン−6/11)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸共重合体(ナイロン−6/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/アミノドデカン二酸(ナイロン−6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウリルラクタム(ナイロン−6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸(ナイロン−6/66/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノドデカン二酸(ナイロン−6/66/612)等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
上記脂肪族ポリアミド(B)としては、例えば、質量平均分子量が1000〜200,000の範囲内のものが好適であり、形成される粘接着剤層の接着力、耐久性等を向上させるためには、上記範囲内において高分子量のものを用いることが好ましい。熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)の質量平均分子量が1000未満であると、硬化後の粘接着剤層の凝集力が十分ではなく、耐久性が劣る場合がある。また、200,000を超えると、十分な初期粘着力が得られない場合がある。なお、上記質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(カラム:東ソー(株)製、型式:TSKgel αM、測定温度:40℃、流速:0.5mL/min、溶媒:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)を用いて測定した際のポリスチレン換算の値である。
【0020】
上記脂肪族ポリアミド(B)の市販品としては、例えば、TPAE−826−4S(富士化成工業(株)製)、TAPE−826−5A(富士化成工業(株)製)、ニューマイド 515−ME(ハリマ化成(株)製)、ニューマイド 945(ハリマ化成(株)製)、ニューマイド 947(ハリマ化成(株)製)等が好適である。
本発明の粘接着剤組成物(H)における上記脂肪族ポリアミド(B)の含有量(固形分換算)は、10〜50質量%であることが好ましい。熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)の含有量が前記範囲の下限未満であると、硬化前の粘接着剤層の凝集力が十分ではなく、シート化が困難な場合がある。また、前記範囲の上限を超えると、十分な接着強度が得られない場合がある。かかる観点から粘接着剤組成物(H)における上記脂肪族ポリアミド(B)の含有量(固形分換算)は、15〜40質量%であることがより好ましく、15〜30質量%であることが更に好ましい。
【0021】
(1−3)メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)
本発明の粘接着剤組成物(H)には硬化剤として、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)が含まれる。該チオール化合物(C)は、常温において固体状又は液体上のいずれであってもよい。尚、該固体状とは、エポキシ樹脂(A)を硬化させる際の加熱温度条件を除く常温等において固体状であることを意味する。
固体状のメルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)をエポキシ樹脂(A)等の硬化剤として使用した場合、保存安定性は比較的良好なものの高温での硬化が必要になるという問題点があった。
本発明において、エポキシ樹脂(A)と硬化剤であるチオール化合物(C)に更に、イオン性液体(D)を配合した粘接着剤組成物(H)が高温に加熱しなくとも硬化性に優れている理由は定かではないが、各種材料に対して相溶性を有するイオン性液体(D)が、チオール化合物(C)に対していわゆる相溶化剤として機能することで、粘接着剤組成物(H)を高温に加熱しなくともチオール化合物(C)が硬化剤としての作用を発揮するようになると推定される。尚、該相溶性の発現は示差熱測定装置を利用して、チオール化合物(C)にイオン性液体(D)を添加した場合に融点が低下することで、上記効果が得られているが確認できる。
本発明の粘接着剤組成物(H)中における硬化剤としてチオール化合物(C)の配合量は、エポキシ樹脂(A)の1エポキシ当量に対して、その活性水素当量が0.7〜1.2当量となるように配合されることが好ましい。チオール化合物(C)の配合量が前記0.7当量以上で比較的低温でも硬化性が良好で硬化後の接着強度にも優れるという効果が顕著に発揮される。一方、チオール化合物(C)の配合量が前記1.2当量を超えると初期粘着性及び接着性の低下やコスト高という不都合を生ずるおそれがある。
【0022】
メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)としては、下記(i)〜(iv)に示すチオール化合物が例示できるが、本発明のチオール化合物(C)はこれらのものに限定されるものではない。
(i)トリアジン骨格を有するポリチオール
(ii)ポリオールとメルカプト有機酸のエステル化反応によって得られるチオール化合物、
(iii)アルキルポリチオール化合物、
(iv)末端チオール基含有ポリエーテル、
【0023】
上記「(i)トリアジン骨格を有するポリチオール」として、トリアジン骨格を有し、メルカプト基を2つ以上有する下記一般式(1)、(2)で示されるポリチオールが例示できる。
【化1】

但し、式(1)中、Rは水素原子、又は炭素原子数1〜5のアルキル基から選ばれる基を示す。
【化2】

但し、式(2)中、R、Rは、炭素原子数1〜5のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる基を示し、R、Rは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0024】
上記一般式(1)、及び(2)の固体状トリアジン誘導体には、少なくとも2個のチオール基が存在するので、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)と反応、硬化して高分子のエポキシ樹脂が容易に形成される。一般式(1)の固体状トリアジン誘導体中のRは水素原子、又は炭素原子数1〜5のアルキル基から選ばれる基であるので、物性が相互に類似しており、イオン性液体(D)との相溶性、及び、エポキシ樹脂(A)との反応性を有することになる。
上記炭素原子数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基類が挙げられる。
また、一般式(2)の固体状トリアジン誘導体の中のR、Rは、炭素原子数1〜5のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる基を示し、R、Rは、同一であっても、異なっていてもよい。
該R、Rは、炭素原子数1〜5のアルキル基から選ばれる基であるので、物性が相互に類似しており、イオン性液体(D)との相溶性、及び、エポキシ樹脂(A)との反応性を有することになる。R、Rの炭素原子数1〜5のアルキル基の具体例は、Rのアルキル基における記載内容と同様である。
【0025】
上記一般式(1)、(2)で表されるトリアジン骨格を有するポリチオールとして、下記ポリチオールが例示できる。
2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン(別名チオシアヌル酸)、
1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
2−アニリド−4,6−メルカプトトリアジン、
及び1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン
【0026】
前記(ii)「ポリオールとメルカプト有機酸のエステル化反応によって得られるチオール化合物」としては、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(βーチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(βーチオプロピオネート)、ジペンタエリスリトールポリ(βーチオプロピオネート)等が例示でき、
前記(iii)「アルキルポリチオール化合物」としては、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,10−デカンジチオール等が例示できる。
(iv)「末端チオール基含有ポリエーテル」としては、東レファインケミカル(株)製、チオコールLP−2、LP−3等が例示できる。
尚、本発明のチオール化合物(C)として、上記(i)〜(iv)に挙げるもの以外に、(v)末端チオール基含有ポリチオエーテル、(vi)エポキシ化合物と硫化水素の反応によって得られるチオール化合物、(vii)ポリチオールとエポキシ化合物との反応によって得られる末端チオール基を有するチオール化合物等を使用することが可能である。
【0027】
(1−4)イオン性液体(D)
「塩」は、通常、食塩のように常温下では固定であるが、塩を構成するイオンを比較的サイズの大きな(バルキーな)有機イオンに置換すると融点が低下して、常温付近でも液体状態で存在するものがあり、このような塩はイオン性液体(又はイオン液体)(ionic liquid)と呼ばれる。イオン性液体は、一般に、−30℃以上〜+300℃以下の温度範囲でも液体状を維持し、蒸気圧は極めて低い。また、イオン性液体は、一般に不揮発性であり、粘度が低い。
本発明で使用するイオン性液体(D)の陽イオンとしては、イミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類等のアンモニウム系、ホスホニウム系イオン等が挙げられる。また、陰イオンの例としては、トリフルオロスルホン酸(−CFSO)、トリフラート(−SOCF)などのハロゲン系、ヘキサフルオロホスフェート(−PF)などのリン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系等が挙げられる。
【0028】
本発明のイオン性液体(D)の陽イオンとしては、上記例示の中でもイミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類等のアンモニウム系が好ましく、陰イオンとしては、トリフルオロスルホン酸(−CFSO)、トリフラート(−SOCF)などのハロゲン系、ヘキサフルオロホスフェート(−PF)などのリン系が好ましい。
本発明の粘接着剤組成物(H)中におけるイオン性液体(D)の配合量は、チオール化合物(C)100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましい。
イオン性液体(D)の配合量が前記1質量部以上で比較的低温でも硬化性が良好で硬化後の接着強度にも優れるという効果が顕著に発揮される。一方イオン性液体(D)の配合量が前記10質量部を超えると可塑化作用により硬化時に液垂れが発生したり、コスト高になるという不都合を生ずるおそれがある。
【0029】
(1−5)硬化促進剤(E)
本発明においては、必要に応じて、硬化促進剤(E)を使用することができる。該硬化促進剤(E)としては、イミダゾール系、アミン類、リン系化合物硬化促進剤を例示することができる。イミダゾール系硬化促進剤としては例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−3,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0030】
アミン類としてはエポキシアダクト第3級アミン(市販品:味の素ファインテックノ(株)製、商品名:ajicure MY-H)、芳香族アミン(市販品:旭化成イーマテリアルズ(株)製、商品名:ノバキュア3721)、脂肪族ポリアミン(市販品:富士化成工業(株)製、商品名:フジキャアー1030)等が挙げられる。リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリo−トリルホスフィン、トリn−ブチルホスフィン、トリフェニルホスファイト等が挙げられる。
【0031】
通常、本発明の粘接着剤組成物(H)に用いうる硬化促進剤(E)の使用量は、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して0.1ないし10質量部である。硬化促進剤の使用量が前記範囲の下限以上で架橋反応が進行し易くなり、又、前記範囲の上限以下で経時安定性や硬化時の耐黄変性の低下を抑制する可能性がある。
【0032】
(1−6)硬化遅延剤
硬化遅延剤は粘接着剤組成物(H)がゲル化までの可使時間(ポットライフ)を長くするために必要に応じて使用することができる。硬化遅延剤を含有させることにより、得られる粘接着剤組成物(H)は可使時間が長くなり、塗布性が向上する。上記硬化遅延剤は特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル化合系物、サリチル酸、シュウ酸、テレフタル酸、リン酸、乳酸、トルエンスルホン酸、ホウ酸エステル類などを使用することができ、使用量は硬化剤であるチオール化合物(C)のモル当量を基準に0.1〜10モル当量が好ましく、0.5〜5モル当量がより好ましい。
【0033】
(1−7)溶剤(F)
溶剤(F)としては、特に限定されるものではないが、例えば、希釈溶剤としてトルエン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等、これらの混合溶液等を好適に使用することができる。また、溶剤(F)の使用量も特に限定されるものではなく、塗布方法に合せて適宜設定すればよい。ただし、残留溶媒量の観点から、溶剤(F)は粘接着剤組成物(H)中に10〜70質量%になるように配合されることが好ましい。
【0034】
(1−8)その他樹脂
本発明の粘接着剤組成物(H)には、熱硬化性樹脂であるポリイミド樹脂を含有させることができる。本発明の粘接着剤組成物(H)にポリイミド樹脂等の樹脂を含有させることにより、硬化前の凝集力付与によるシート形成能の向上と微粘着性(タック性)を向上することができるので各種被着体への仮固定が容易となる。
上記硬化を得るためには、ポリイミド樹脂等の樹脂は液状のものが好ましく、重量平均分子量は1万から50万の範囲のものが好ましく、また、後述する粘接着性シート(S)に使用する場合を考慮すると、柔軟性を向上させるためにはガラス転移温度は20℃以下であることが好ましい。
【0035】
(1−9)その他の成分
本発明の粘接着剤組成物(H)には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、各種添加剤を配合することができる。例えば、粘着性や密着性を向上するために、カップリング剤を配合することができ、粘着性を調整するために架橋剤を配合することができ、更に、酸化防止剤、顔料、染料、帯電防止剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0036】
(1−10)粘接着剤組成物(H)の特徴
(イ)粘着性
本発明の粘接着剤組成物(H)は粘着性に優れている。
本発明の粘接着剤組成物(H)は、厚さ15μmの粘接着剤層を形成した場合において、上記粘接着剤層のステンレス板に対する180度引き剥がし粘着力(JIS Z0237準拠)が、硬化前では0.5〜20N/25mmであることが好ましい。硬化前の粘着力が0.5N/25mm未満であると、被着体によっては初期粘着性が劣る場合があり、20N/25mmを超えると、初期粘着力としては強いため、被着体によっては作業性や再剥離性が劣る場合がある。
(ロ)硬化性
本発明の粘接着剤組成物(H)は硬化性に優れている。該組成物(H)の効果性は、硬化させる際の発熱量を示差走査熱量測定(DSC)により、発熱ピークの温度と発熱量により評価できる。発熱ピークの温度は低温側の方が低温硬化性に優れることになり、発熱量を示すDCS曲線はブロードよりは、鋭い方が一般に感温性が高く、固化性に優れるといえる。
【0037】
(2)粘接着シート(S)(第2の態様)
本発明の第2の態様である「粘接着シート(S)」は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着剤組成物(H)からなる粘接着剤層(G)と該層の片面、又は両面に剥離可能な保護フィルム層(P)を有することを特徴とする。
本発明の粘接着シート(S)における、粘接着剤組成物(H)からなる粘接着剤層(G)は、硬化前に適度な粘接着性と良好な密着性とを示す。
従って、粘接着シート(S)は、弱い圧力で被着体に圧着させることができ、且つ、高温下で長時間反応させることなく高い凝集力を示すので、被着体の表面材質を問わず適用することができ、また、シート適正にも優れる。
【0038】
(2−1)粘接着剤組成物(H)、及び粘接着剤層(G)
粘接着剤組成物(H)中に含まれる、エポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、チオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)は、第1の態様の「粘接着剤組成物(H)」における記載内容と同様である。また、粘接着剤組成物(H)に必要に応じて配合される、硬化促進剤(E)、溶剤(F)、及び効果遅延剤は、第1の態様の「粘接着剤組成物(H)」における記載内容と同様である。粘接着剤層(G)は、後述するように、保護フィルム(P)上に該粘接着剤組成物(H)を塗布後、溶剤(F)を蒸発して形成される。
【0039】
(2−2)保護フィルム(P)
粘接着シート(S)は、粘接着剤層(G)の片面又は両面に少なくとも剥離可能な保護フィルム層(P)を有している。
保護フィルム層(P)は、合成樹脂フィルムと該フィルム上に積層された剥離性を有する剥離部材とからなり、粘接着剤層の表面を保護する機能を有する。保護フィルム層(P)は、必要な強度や柔軟性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、一般的には、シリコーン離型処理した合成樹脂フィルムが用いられる。該合成フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂が好ましい。なお、保護フィルム層(P)の厚みは、特に限定されるものではないが、機械的強度の維持等の点から25〜100μmが好ましい。
【0040】
(2−3)粘接着シート(S)
粘接着シート(S)は、本発明の第3の態様の「粘接着シート(S)の製造方法」に記載の方法により製造することができる。
上記粘接着組成物からなる粘接着剤層の厚みは、特に限定されるものではなく、用途に応じて、適宜選択することができるが、通常、5〜500μmであり、好ましくは10〜50μmである。厚みが5μm未満であると、十分な接着強度が得られない場合があり、500μmを超えると、性能に対してコスト高となったり、また、加工条件によっては、十分な接着性を発現するための熱量や圧力が不足したりする可能性がある。
【0041】
(2−4)粘接着シート(S)の用途
本発明の粘接着シート(S)は、粘接着剤層を構成する粘接着組成物の硬化前においては、被着体に弱い圧力で圧着させることができ、その後の低温且つ短時間での硬化により、被着体の材質を問わず適用することができ、耐久性にも優れるので、例えば、自動車、鉄道等の車両、航空機、及び船舶の内装材や外装材、窓枠や扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、机、テーブル、本棚等の家具、テレビや空調機等の家電製品の筐体や容器、パソコン等のOA機器や携帯電話、電子書籍等の小型電子モバイルの筐体等にも適用することができる。
【0042】
(2−5)粘接着シート(S)の製造方法
本発明の第3の態様である粘接着シート(S)の製造は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法等を適用して、例えば粘接着剤組成物(H)を剥離可能な保護フィルム層(P)上に塗布後、該溶剤を蒸発除去することにより行われることができる。
例えば、エポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、チオール化合物(C)、イオン性液体(D)及び溶剤(F)と、更に必要に応じて、硬化促進剤(E)、硬化遅延剤、上記各種樹脂等を溶剤(F)に溶解、分散等させることにより、粘接着剤組成物(H)を得る。次いで、該組成物(H)を、剥離可能な保護フィルム層(P)の剥離処理面上に全面塗工し、粘接着剤層(G)の前駆体を形成する。その後、該前駆体から溶剤(F)を蒸発、乾燥させて粘接着剤層(G)とし、粘接着剤層(G)と該層の片面に剥離可能な保護フィルム層(P)を有する粘接着シート(S)を形成することができる。
剥離可能な保護フィルム層上に粘接着剤組成物(H)を塗工する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ダイコート法、コンマコート法等が挙げられる。
【0043】
また、更に必要に応じて粘接着剤層(G)の他方の面に剥離可能な保護フィルム層(P)をラミネートして、粘接着剤層(G)と該層の両面に剥離可能な保護フィルム層(P)を有する粘接着シート(S)を形成することができる。
本発明の粘接着剤層(G)の厚みは、特に限定されるものではないが、5〜250μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましい。上記範囲であれば、適度な柔軟性と粘着(接着)性を有するので、取り扱いが容易となる。
【0044】
(3)積層体(L)(第3の態様)
本発明の第3の態様である「積層体(L)」は、被着体である平面形状物、又は立体形状物上に、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着組成物(H)からなる粘接着剤層(G)が積層され、更に該粘接着剤層(G)上に少なくとも1の樹脂層(M)が積層された状態で、加熱硬化されてなることを特徴とする。
(3−1)粘接着剤層(G)
粘接着剤層は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着組成物からなる層である。該粘接着剤層(G)は、前記粘接着シート(S)から形成される層である。
【0045】
(3−2)樹脂層(M)
樹脂層(M)は特に制限されるものではないが、実用上、加飾された積層体(L)を形成するために、例えば、図1(C)に示すように表面ハードコート層/易成形基材/加飾印刷層、図2(E)に示すように表面ハードコート層/プライマー層/加飾印刷層等の層構成が例示できる。
上記易成形基材に加飾印刷層が印刷されたシート(以下、加飾シート(K)ということがある)は、立体形状の表面に対する追随性が良好であり、加飾された積層体(L)を形成するために用いる加飾シート(K)として好適である。
上記加飾印刷層としては、通常、易成形基材上に印刷インキで模様や文字がグラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷法により形成される。加飾印刷層の厚みは、特に限定されるものではなく、意匠性等の観点により適宜、選択することができる。
【0046】
易成形基材は、100〜140℃における貯蔵弾性率が1×10〜1×10Paであることが好ましい。貯蔵弾性率が上記範囲内であれば、曲面追従性が良好な加飾シートを得ることができる。なお、1×10Pa未満では、成形後のフィルム収縮等により外観不良となる可能性がある。なお、上記貯蔵弾性率は、樹脂の変形のしやすさ等を示すものであり、JIS K7244−1及びJIS K7244−4に準拠した方法にて測定することができる。具体的には、市販の粘弾性測定装置を用いて測定することができる。例えば、レオメトリックス社製の固体粘弾性アナライザーRSA−IIを用い、幅5mmのサンプルを引張りモードにて、つかみ間隔10mm、測定周波数1Hz、測定温度−50℃〜150℃、昇温速度5℃/分の条件下にて測定する。
【0047】
易成形基材としては、一般的に合成樹脂フィルムが用いられる。合成樹脂フィルムの材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、単層であってもよいし、2層以上の積層体であってもよい。機械的強度の観点から、1軸延伸や2軸延伸した延伸フィルムが好ましい。なお、本発明では、上記合成樹脂の中でも、耐熱性、寸法安定性、剛性、柔軟性、積層適性、価格等の観点から、ポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂が特に好ましい。
【0048】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等が挙げられるが、この中でも、取り扱い易さ、低価格等の観点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0049】
易成形基材の厚みは、特に限定されるものではなく、通常、12〜250μm程度であるが、好ましくは25〜250μmである。上記範囲であれば、機械的強度が十分であり、反り、弛み、破断等を生じ難く、作業性が良好であり、また、連続帯状で供給して加工することも可能である。なお、上記の厚さを超えると、過剰性能でコスト高になる場合がある。
基材の形成方法は、特に限定されず、例えば、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法等の従来公知の製膜方法を用いることができる。また、上記方法によりあらかじめフィルム状に製膜された市販の基材を使用してもよい。
基材には、濡れ性の向上のため、その片面又は両面に、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理等の公知の易接着処理を施してもよい。
【0050】
(3−3)他の樹脂層
(イ)表面ハードコート層
表面ハードコート層は、積層体(L)の最外層となり、光や薬品、摩耗からの劣化を抑制する層である。従って、耐擦傷性、耐薬品性、耐汚染性等の表面物性に優れるものが好ましい。具体的にはアクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好適に用いられる。また、その他の樹脂としては、熱硬化性樹脂組成物や電離放射線硬化性樹脂組成物を用いることもできる。熱硬化性樹脂組成物としては、フェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、汎用の2液硬化型アクリル樹脂(アクリルポリオール硬化物)などを例示することができる。
また、電離放射線硬化性樹脂組成物とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂組成物を指す。具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂組成物として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
なお、電離放射線硬化性樹脂組成物として紫外線硬化性樹脂組成物を用いる場合には、光重合用開始剤を樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。
さらに、表面ハードコート層を構成する樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有していることが好ましい。紫外線吸収剤を含有することにより、加飾成形品に耐候性を付与することができる。具体的には、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系等が挙げられる。紫外線吸収剤の含有量は、表面ハードコート層を構成する樹脂組成物中に0.1〜30質量%程度であることが好ましい。
【0051】
また、表面ハードコート層を構成する樹脂組成物には、表面の傷つき防止性を付与するために、ポリエチレンワックスを含有させてもよい。ポリエチレンワックスの含有量は、剥離層を構成する樹脂組成物中に0.1〜20質量%程度であることが好ましい。表面ハードコート層を形成する方法については特に制限はなく、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法等を挙げることができる。このような方法により塗工した後に、風乾もしくは100℃以下の温度で10秒以下程度乾燥させ、溶剤を蒸発させる。この条件であれば、基材フィルムが収縮することがなく好ましい。
また、表面ハードコート層の厚さは0.5〜30μmであることが好ましい。0.5μm以上であると十分な耐摩耗性、耐薬品性などの表面物性が得られ、30μm以下であれば、形状追従性などの成形性が得られるとともに、経済性の点からも有利である。以上の観点から、表面ハードコート層の厚さは1〜10μmの範囲がより好ましい。
上記電離放射線としては、紫外線、電子線、γ線等を挙げることができる。紫外線の場合のエネルギー源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極放電ランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等の紫外線ランプ類を挙げることができる。照射線量としては、50〜10000mJ/cmが好ましい。
また、電子線の場合は、電子線源として、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度、照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
【0052】
(ロ)プライマー層
プライマー層は、層間に介在し密着性を向上させるために、各層の間、或いは基材シートの積層体側に適宜設けるもので、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の塗工液を、グラビア印刷、ロールコート等の公知の印刷法或いは塗工法等で形成する。ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂は接着剤層で例示した樹脂が用いられる。又プライマー層を形成する代りに、公知の各種易接着処理を施しても良い。
(ハ)加飾印刷層
加飾印刷層は、加飾成形品に意匠性を付与するための層である。該印刷層は、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース系樹脂、アルキド系樹脂等の樹脂をバインダーとして、適切な色の顔料又は染料を着色剤として含有する着色インキ等による印刷によって形成することができる。
印刷の方法としては特に限定されず、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
【0053】
(ニ)その他
上記粘着剤層(G)、及び上記保護フィルム層を、公知の印刷、コーティング、又は各層を別途作製した後、ラミネートにより積層すればよい。
樹脂層(M)の成形方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。
上記易成形基材と加飾印刷層からなる加飾シート(K)上に、粘接着シート(S)の片面の粘接着剤層(G)を剥がして樹脂層(M)に貼付することができる。
【0054】
(3−4)被着体
本発明の粘接着シート(S)は、被着体の材質を問わず適用することができる。また、本発明の粘接着シート(S)を構成する粘接着剤層(G)は、被着体に対して良好な接着性及び密着性を示し、耐久性にも優れるので、例えば、被着体として、自動車、鉄道等の車両、航空機、及び船舶の内装材や外装材、窓枠や扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、机、テーブル、本棚等の家具、テレビや空調機等の家電製品の筐体や容器、パソコン等のOA機器や携帯電話、電子書籍等の小型電子モバイルの筐体等にも適用することができる。更に、本発明の粘接着シート(S)は、粘接着剤層(G)を構成する粘接着剤組成物(H)の硬化前においては、被着体に弱い圧力で圧着させることができ、その後の低温且つ短時間での硬化により、良好な接着性と密着性とを実現させることができるので、特に、真空形成による一体成形法に好適に使用することができる。
【0055】
(3−5)積層体(L)の製造方法
本発明の積層体(L)の製造に使用する粘接着シート(S)の粘接着剤層(G)は、成形された被着品に対して弱い圧力で圧着させることができ、且つ、高温下で長時間反応させることなく、上記加飾シート(K)に対しても適度な粘着性と良好な密着性とを示し、成形性も良い。積層体(L)の製造方法としては、成形後加飾方式である(i)水圧転写方式、(ii)真空成形方式等、また、成形同時加飾方式である(i)インサート方式、(ii)インモールド方式等が挙げられるが、本発明の粘接着シート(S)を用いる場合には、上記真空吸引によって加飾シートを成形品に貼着させる真空成形方式を採用した一体成形法が好適である。
例えば、図1(C)に示す加飾された積層体(L)を成形する場合には、図1(A)に示す、両面に剥離可能な保護フィルム層2と粘接着層1を有する粘接着シート9を使用し、片面の保護フィルム層2を剥離した後に、表面ハードコート層5、易成形基材4、及び加飾印刷層3からなる積層体の加飾印刷層3面に貼付させラミネートさせた積層物(図1(B))を形成した後、保護フィルム層2を更に剥離して、粘接着層1面と成形体11表面が圧着するように、真空成形機を用いて装置内を減圧し、加飾シートを成形可能な温度、例えば、100〜140℃にて10〜120秒間加熱しながら真空形成することで、積層体前駆体を得る。次に不要な部分をトリミングすることで、図1(C)に示す加飾された積層体(L)を得ることができる。
【0056】
また、図2(C)に示す層構成の加飾された積層体(L)を成形する場合には、図2(A)に示す、両面に剥離可能な保護フィルム層2と粘接着層1を有する粘接着シート9を使用し、片面の保護フィルム層2を剥離した後に、転写基材8、剥離層7、表面ハードコート層5、プライマー層6、加飾印刷層3からなる積層体の加飾印刷層3面に貼着して積層物(図2(B)を形成した後、保護フィルム層2を更に剥離して、粘接着層1面と成形体11表面が圧着するように、真空成形機を用いて装置内を減圧し、加飾シートを成形可能な温度、例えば、100〜140℃にて10〜120秒間加熱しながら真空形成することで、積層体前駆体を得る。次に、積層体前駆体から転写基材8と剥離層7からなる層を剥離することで、トリミングすることなく、図2(C)に示す層構成の加飾された積層体(L)を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は以下に記載する方法に限定されるものではない。以下に実施例、比較例で使用した原材料、評価方法を記載する。
(1)原材料
(1−1)エポキシ樹脂
(i)エポキシ樹脂1
固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名:jER1001)
エポキシ当量:450〜500
(ii)エポキシ樹脂2
ダイマー酸変性エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名:jER872)
エポキシ当量:600〜700
(iii)ポキシ樹脂3
NBR変性エポキシ樹脂(ADEKA(株)製、商品名:EPR−4030)
エポキシ当量:380
【0058】
(1−2)ベース樹脂
(i)ポリアミド樹脂
脂肪族ポリアミド(富士化成工業(株)製、商品名:TAPE−826−5A、重合脂肪酸系ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体、アミノ基含有)
(ii)ポリイミド樹脂
ポリイミド樹脂(商品名:ネオプリム、三菱ガス化学(株)製)
【0059】
(1−3)硬化剤
(i)硬化剤1
ポリメルカプタン系エポキシ硬化剤(三菱化学(株)製、商品名:エポメートQX40、メルカプタン当量133)
(ii)硬化剤2
前記一般式(1)のRがメチル基(−CH)であるトリアジン誘導体(川口化学(株)製、商品名:TSH)、活性水素当量:59、分子量:177、粉末、分解温度:300℃
(iii)硬化剤3
1,3,5-トリス(3-メルカブトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン
(昭和電工(株)製、商品名:カレンズMT NR1)
(iv)硬化剤4
ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)
(昭和電工(株)製、商品名:カレンズMT PE1)
(v)硬化剤5
包接イミダゾール(日本曹達(株)製、商品名:HIPA−2E4MZ、粉末)
【0060】
(1−4)イオン性液体
(i)イオン性液体1
1−ブチル−3−メチルピリジニウム(トリフルオロメタンスルホン酸)(日本カーリット(株)製、商品名:CIL313)
(ii)イオン性液体2
1−ブチル−3−メチルイミダゾリニウム六フッ化リン酸(日本合成(株)製、商品名:BMI-PF6)
(iii)イオン性液体3
1−ブチル−3−メチルイミダゾリニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(日本合成(株)製、商品名:BMI-TFSI)
【0061】
(1−5)硬化促進剤
(i)硬化促進剤1
エホ゜キシアタ゛クト第3級アミン(味の素ファインテックノ(株)製、商品名:ajicure MY-H、粉末)
(ii)硬化促進剤2
マイクロカプセル(芳香族アミン)(旭化成イーマテリアルズ(株)製、商品名:ノバキュア3721)
(iii)硬化促進剤3
1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7のフォスホネート塩(サンアプロ(株)製、商品名:U-CAT502)
【0062】
(1−6)硬化遅延剤
ほう酸n−トリブチル
(1−7)溶剤
トルエンとメチルエチルケトン(MEK)の等質量混合物
【0063】
(2)評価
(イ)粘着性
実施例及び比較例で得られた粘接着シートの剥離シート(SP−PET−01)を剥がし、基材シート(商品名:E5100、片面にコロナ処理が施されてなるPETフィルム、膜厚:38μm、東洋紡績(株)製)のコロナ処理面に貼付させた後、25mm×150mmに切断し、試験片を作製した。この試験片を、ステンレス板(SUS304)に2kgのローラーを用いてラミネートした。そして、引張試験機(A&D社製、製品名:RTF−1150H)を用いて、硬化前のステンレス板面に対する粘着力を測定(JIS Z0237準拠、速度:300mm/min、剥離距離:150mm、剥離角:180°)した。
評価は、実施例及び比較例でそれぞれ得られた粘接着シートを、(i)SUS304に貼付後(表1〜3中、「作製直後」と記載する)、(ii)前記貼付後120℃で2分間加熱後(表1〜3中、「加熱時」と記載する)、(iii)前記粘接着シートを40℃で120時間保管してから、SUS304に貼付して120℃×2minで加熱後(表1〜3中、「保管後の加熱時」と記載する)の粘着力をそれぞれ測定することにより行った。尚、表1〜3中に記載した「材破(PET)」は、粘接着シートと基材シート(PETフィルム)間で剥離せずに、基材シート(PETフィルム)に材料破壊が生じたことを意味する。
【0064】
(ロ)密着性
動的弾性率を有する基材シート(商品名:ソフトシャインA1597、ポリエステルフィルム、膜厚:50μm、東洋紡績(株)製)上に、アクリル系樹脂をバインダー樹脂とし、シリコーン系樹脂を離型性材料とする塗工液を塗工量4g/mでグラビア印刷を施し、剥離層を形成した。この剥離層上に、アクリル系印刷インキを用いて木目模様を、塗工量8g/mでグラビア印刷を施し、加飾印刷層を形成し、加飾シートを得た。そして、実施例及び比較例で得られた粘接着シートの剥離シート(SP−PET−01)を剥がし、常温でラミネーター(圧力2kg)にて、上記加飾シートの加飾印刷層と貼付させた。そのシートの剥離シート(SP−PET―03)を剥がし、粘接着層面と被着体ABS表面が圧着するように、真空成形機を用いて装置内を減圧し、加真空成形機を用いて装置内を減圧し、130℃にて30秒間加熱しながら真空形成を行った。温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下に30分放置した後、上記加飾シートの最表層の面に、2kgのローラーを用いて、長さ50mmのセロテープ(登録商標、型番:CT−15、ニチバン(株)製)を貼り付け、引張り試験機(製品名:RTF−1150H、A&D社製)を用いて、絵柄層の面からセロテープを剥がし(速度:2000mm/min、剥離角:180°)、剥がした後の表面を観察し、密着性を評価した。
尚、評価基準は次の通りである。
○:剥離無し、△:剥離割合が10%未満、×:剥離割合が10%以上。
【0065】
(ハ)耐久性
実施例及び比較例で得られた粘接着シートの剥離シート(SP−PET−01)を剥がし、上記と同様にサンプルを作製した。温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下に30分放置した。その後、80℃の雰囲気下の乾燥オーブンに、12時間放置し、放置後の試験片を目視にて観察し、耐久性を評価した。尚、評価基準は次の通りである。
○:膨れやクラックが認められない、×:膨れやクラックが認められる。
【0066】
(ニ)せん断強度
実施例及び比較例で得られた粘接着シートを25mm×10mmに切断し、剥離シート(SP−PET−01)を剥がし、アルコール洗浄された溶融亜鉛鍍金鋼板に圧着後、剥離シート(SP−PET−03)を剥がし、もう1つの試験片と圧着し、1kgの荷重を加えたまま各温度の送風式オーブンにて表1〜3に示す条件で加熱硬化させ、常温(23℃)にて放冷して、測定用試料を作製した。そして、引張試験機(製品名:RTA−1T、A&D社製を用いて、室温での引張剪断応力を測定(JIS K6850に準拠、引張り速度0.5mm/min)した。
【0067】
[実施例1〜6]
実施例1〜6において、粘接着剤組成物中にイオン性液体を配合すると密着性と初期粘着性が向上することの確認を行った。
(1)熱硬化型粘接着剤組成物の調製と評価
実施例1〜6において、表1に示すエポキシ樹脂1〜3(ビスフェノール型エポキシ樹脂)、硬化剤、溶剤、及びイオン性液体1をそれぞれ用いてディスパー(プライミクス(株)製分散機、型式:T.K.ホモディスパー2.5型)を用いて充分に撹拌した。その後、ポリアミド樹脂とポリイミド樹脂(固形分ベース)、溶剤を更に加え、ディスパーを用いて十分に撹拌した後、室温にて脱泡させ熱硬化型粘接着剤組成物を調製した。尚、撹拌条件は、1000rpmで15分である。得られた熱硬化型粘接着剤組成物について、保存安定性と、粘着性、及び硬化性の評価を行った。
【0068】
(2)粘接着シートの作製と評価
上記熱硬化型粘接着剤組成物を保護フィルム(片面にシリコーン系剥離剤による剥離処理が施されてなるポリエステルフィルム、商品名:S−PET−03、膜厚38μm、三井化学東セロ(株)製)の剥離処理面上に、乾燥後の膜厚が30μmとなるようにアプリケータで全面塗工し、粘接着剤層を形成した。
その後、乾燥オーブンにて80℃で、3分間乾燥させ、保護フィルム(商品名:S−PET−03、膜厚38μm、三井化学東セロ(株)製)の剥離面を粘接着シートにラミネートし、実施例1〜6の粘接着シートをそれぞれ作製した。得られた粘接着シートについて、積層体厚みの測定、粘着力、密着性、耐久性、せん断強度の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
[比較例1〜6]
比較例1〜6において、イオン性液体の代わりに表2に示す硬化促進剤を添加した以外は実施例1〜6にそれぞれ記載したと同様の成分を添加して、実施例1〜6に記載したと同様の攪拌を行い、熱硬化型粘接着剤組成物を調製した。次に得られた熱硬化型粘接着剤組成物を用いて、実施例1〜6に記載したと同様の方法でそれぞれ粘接着シートを作製した。得られた粘接着シートについて、実施例1〜6に記載したと同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
[比較例7]
比較例7において、硬化剤1の代わりに、表2に示す硬化剤2、4、5を添加し、硬化促進剤を添加しなかった以外は実施例1記載したと同様の成分を添加して、実施例1に記載したと同様の攪拌を行い、熱硬化型粘接着剤組成物を調製した。次に得られた熱硬化型粘接着剤組成物を用いて、実施例1に記載したと同様の方法でそれぞれ粘接着シートを作製した。得られた粘接着シートについて、実施例1に記載したと同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
[実施例7〜9]
実施例7〜9において、イオン性液体として表3に示すイオン性液体1〜3を使用した以外は実施例6に記載したと同様の成分を添加して、実施例1〜6に記載したと同様の攪拌を行い、熱硬化型粘接着剤組成物を調製した。次に得られた熱硬化型粘接着剤組成物を用いて、実施例1に記載したと同様の方法でそれぞれ粘接着シートを作製した。得られた粘接着シートについて、実施例1に記載したと同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。
尚、実施例7では、実施例6と同様のイオン性液体1を使用しているので、実施例6と7とは同一の実施例になるが、実施例8、9との対比を容易にするために表3に実施例7として記載した。
表3に示す評価結果から、実施例7〜9において、いずれも実施例1〜6で得られたと同様のイオン性液体の添加の効果が得られることが確認できた。
【0073】
[実施例10〜13]
実施例10〜13において、イオン性液体として表3に示すイオン性液体1を、その配合割合を変えて使用した以外は実施例6に記載したと同様の成分を添加して、実施例1〜6に記載したと同様の攪拌を行い、熱硬化型粘接着剤組成物を調製した。次に得られた熱硬化型粘接着剤組成物を用いて、実施例1に記載したと同様の方法でそれぞれ粘接着シートを作製した。得られた粘接着シートについて、実施例1に記載したと同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。
尚、実施例11では、実施例6と同じイオン性液体1を同じ量使用しているので、実施例6と11とは同一の実施例になるが、実施例10〜13との対比を容易にするために表3に実施例11として記載した。表3に示す評価結果から、実施例10〜13において、いずれも実施例1〜6で得られたと同様のイオン性液体の添加の効果が確認できた。
【0074】
【表3】

【符号の説明】
【0075】
1 粘接着剤層(G)
2 保護フィルム層(P)
3 加飾印刷層(K)
4 易成形基材
5 表面ハードコート層
6 プライマー層
7 剥離層
8 転写基材
9 粘接着シート(S)
11 成形体
12 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含むことを特徴とする粘接着剤組成物。
【請求項2】
前記粘接着剤組成物がエポキシ樹脂(A)の1エポキシ当量に対してチオール化合物(C)がその活性水素当量が0.7〜1.2当量となるように配合され、かつチオール化合物(C)100質量部に対してイオン性液体(D)が1〜10質量部配合されていることを特徴とする請求項1に記載の粘接着剤組成物。
【請求項3】
前記チオール化合物(C)が
(i)トリアジン骨格を有するポリチオール、
(ii)ポリオールとメルカプト有機酸のエステル化反応によって得られるチオール化合物、
(iii)アルキルポリチオール化合物、及び
(iv)末端チオール基含有ポリエーテル、
から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘接着剤組成物。
【請求項4】
前記トリアジン骨格を有するポリチオールが
2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、
1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、
2−アニリド−4,6−メルカプトトリアジン、及び
1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン
から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の粘接着剤組成物。
【請求項5】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着剤組成物(H)からなる粘接着剤層(G)と該層の片面、又は両面に剥離可能な保護フィルム層(P)を有する粘接着シート。
【請求項6】
被着体である平面形状物、又は立体形状物上に、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、熱可塑性脂肪族ポリアミド(B)、メルカプト基を2つ以上有するチオール化合物(C)、及びイオン性液体(D)を含む粘接着組成物(H)からなる粘接着剤層(G)が積層され、更に該粘接着剤層(G)上に少なくとも1の樹脂層(M)が積層された状態で、加熱硬化されてなる積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−14638(P2013−14638A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146261(P2011−146261)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】