説明

粘着シート用下塗剤組成物並びにそれを用いた粘着シート

【課題】 トルエン、MEK、酢酸エチル等の有機溶剤及びハロゲン元素を含まない下塗剤層を設けることにより、粘着剤層と基材との密着性を強固にした粘着テープを提供する。
【解決手段】 アミノ基含有シランカップリング剤並びに、水及び/又はアルコールを必須成分として含有することを特徴とする、粘着シート用の下塗剤組成物、及び基材上に該下塗剤組成物層と粘着剤層を有する片面若しくは両面粘着シートを提供する。粘着剤としては、ゴム系粘着剤が好ましく、その好適な例としては、エラストマー成分中50%以上が天然ゴムであるものがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材シート又はテープに粘着剤を塗布する際に使用される下塗剤と、それを用いてなる粘着シート又は粘着テープに関するものである(以下、本明細書においては、「粘着テープ」、「粘着シート」及び「粘着フィルム」のいずれかを称して、単に「粘着テープ」ともいう。)
【背景技術】
【0002】
粘着シートや粘着テープに使用される粘着剤としては、天然ゴム等を主成分としたゴム系粘着剤が古くから汎用されている。ゴム系粘着剤の中でも特にホットメルト系粘着剤や固型粘着剤は、有機溶剤を使用せずに基材への塗布が可能であることから、環境問題がクローズアップされている昨今においては、溶剤規制対策の観点から特に重要視されるようになってきている。
【0003】
一方、粘着剤層を支持する基材としては、粘着シートや粘着テープの用途に応じた各種基材が採用されているが、そのなかでも合成樹脂製のもの、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂系基材はポリエステル等のエンプラ系フィルムに比べ安価であることに加え、力学的強度、耐薬品性、絶縁性、被着体に対する追従性等に優れることから古くから幅広い用途に用いられている。
【0004】
しかしながら、このポリオレフィン樹脂系基材は、ゴム系粘着剤、特に有機溶剤を使用せずに基材へ塗布される上記粘着剤の濡れ性が乏しいために、粘着剤の配合処方や基材構成等によっては、粘着テープを巻き戻す際に次層の基材背面側に粘着剤が移行する等の問題が発生することがあった。また、養生用テープやマスキング用テープなどに用いる場合、不要になって再剥離させる際に被着体に糊残りが生じて、被着体を汚染する等の問題が発生することがあった。
【0005】
これらの問題点を解決するために、基材に対する接着性を高める試みがなされている。例えば、上記固型粘着剤を有機溶剤等に溶解させることにより基材との濡れ性を高める方法等が例示できるが、かかる手法を用いた場合には環境汚染の原因となりうる有機溶剤を使用するため環境衛生上の立場からは好ましいとはいえない上、必ずしも十分な塗れ性が得られていないのが実情である。このような問題を回避するために、基材の粘着剤が塗布される面に、コロナ放電処理を行ったり、基材及び粘着剤双方との接着性が高い組成物を下塗剤として用いたりして密着性を向上させる手法をとるのが一般的である。下塗剤の種類としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステルグラフト化ゴム(特許文献1)やポリウレタン系材料(特許文献2)を主成分とした組成物が挙げられるが、基材の種類によっては密着効果が十分でない場合もあり、また、粘着剤の配合処方により密着効果が大きく異なる下塗剤もあり、理想的なものものが無い状況にあった。
【0006】
また、基材の粘着剤が塗布される面に基材との親和性に優れる下塗剤と粘着剤との親和性に優れる下塗剤を二層設ける方法(特許文献3)等が行われてきたが、下塗剤塗布作業が2工程必要である点で工程の増加を避けることができず、汎用性に欠ける面があった。
【0007】
更に、従来の下塗剤のなかには、ポリ塩化ビニリデン共重合体(特許文献4)、ポリクロロプレン(特許文献5)、塩素化ポリプロピレン(特許文献6)等を利用したハロゲン元素を含む下塗剤も用いられてきたが、使用済みの粘着テープを焼却する際に、ダイオキシンなど環境に有害な物質を排出するという問題点も存在していた。
【0008】
以上に挙げた従来の下塗剤組成物は、基材表面上に均一に塗布される必要性があることから、殆どの場合トルエン等の有機溶剤を介して調製されるものであるが、先述の如く有機溶剤の有害性も近年指摘されるようになってきており、また、該有機溶剤が火災等事故の原因にもなりうることから、有機溶剤の使用は従来から問題視されていた。
そのような問題を回避するため、SBRラテックス変成物をベースとした水系下塗剤(特許文献7)等が提案されているが、ラテックスやエマルジョンを下塗剤として用いた場合には、ポリマー粒子を水中で安定化させるための乳化剤等が必須成分となり、用いるラテックスやエマルジョンの組成によっては該乳化剤が基材との接着性を阻害することも懸念事項として挙げられる。
【0009】
【特許文献1】特公昭40−9734号公報
【特許文献2】特開昭61−152784号公報
【特許文献3】米国特許第3197326号明細書
【特許文献4】特開昭48−30741号公報
【特許文献5】特開昭50−117830号公報
【特許文献6】特開昭56−55251号公報
【特許文献7】特開平10−158603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、理想的な下塗剤層を求めて探求した結果、ハロゲン元素やトルエン等有機溶剤を含まず、しかも乳化剤等を使用しない水系下塗剤層を一層のみ設けることにより、ゴム系粘着剤、特に有機溶剤を用いずに製造される固型粘着剤とポリオレフィン系基材等との密着性を強固にした粘着テープもしくは粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討を行った結果、下塗剤層として水及び/又はアルコールに溶解したアミノ基含有シランカップリング剤をコロナ放電処理を施した基材に塗布・乾燥することにより形成し、さらに該下塗剤層上に天然ゴムを主体とした粘着剤層を設けることにより、アミノ基含有シランカップリング剤からなる下塗剤層が天然ゴムを主体とした粘着剤層と基材の両方と反応することにより粘着剤層と基材の密着性を強固にすることができ、上記目的が達成されることを見出して本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、以下の各発明を包含する。
なお、本発明において、「粘着シート」という用語は、特にシート体、フィルム体又はテープ体であると明記されていない限り、粘着シート、粘着フィルム及び粘着テープと称されているものを全て包含する用語として使用されている。
【0013】
(1)シランカップリング剤並びに、水及び/又はアルコールからなることを特徴とする、粘着シート用の下塗剤組成物。
【0014】
(2)前記シランカップリング剤が、少なくとも構造中にアミノ基を有するシラン化合物から選ばれることを特徴とする、(1)に記載の粘着シート用下塗剤組成物。
【0015】
(3)前記アミノ基を含有するシランカップリング剤は、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランから選ばれることを特徴とする(1)又は(2)に記載の粘着シート用下塗剤組成物。
【0016】
(4)前記シランカップリング剤と、水及び/又はアルコールとの混合割合が、質量比0.5〜10:100であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の粘着シート用下塗剤組成物。
【0017】
(5)基材と(1)〜(4)のいずれか1項に記載の粘着シート用下塗剤組成物から形成されている下塗剤層と、該下塗剤層上に形成されている粘着剤層からなる粘着シート。
【0018】
(6)前記該下塗剤層上に形成されている粘着剤が、ゴム系粘着剤であることを特徴とする(5)に記載の粘着シート。
【0019】
(7)(6)に記載のゴム系粘着剤が、エラストマー成分中50%以上が天然ゴムであることを特徴とする(5)又は(6)に記載の粘着シート。
(8)前記下塗剤上に形成される基材が、コロナ放電処理を施された基材からなることを特徴とした(5)〜(7)のいずれか1項に記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、自然環境や作業環境に配慮がなされた下塗剤組成物を用い、該下塗剤の主成分であるシランカップリング剤は、コロナ放電処理を施された基材と粘着剤双方との親和性及び反応性を有することから、基材と粘着剤との密着性を強固にし、粘着テープを巻き戻す際に背面に粘着剤が残ったり、不要になって剥離する際に被着体に糊が残ったりすることを防止する効果を有する。本発明の下塗剤組成物は、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の有機溶剤を使用することなく水及び/又はアルコールで希釈して用いるものであるので、自然環境、人体、火災等の災害に対して考慮がなされたものである。本発明は、下塗剤として前記アミノ基含有シランカップリング剤を水及び/又はアルコールで希釈するのみの状態で用いることが可能であること、また、該下塗剤層を一層設けるのみで高い下塗効果が発現することが可能となることから、下塗剤の配合作業や該組成物の塗布作業が容易であるという特徴も有する。また、本発明の下塗剤組成物は、人体や環境に悪影響があると指摘されているハロゲン元素を含むものではないので、粘着シートが不要になって焼却する際に有害な含ハロゲンガスを発生することがない。更に、前記アミノ基含有シランカップリング剤は、水やアルコールに対する溶解性があることから、乳化剤、界面活性剤、分散剤等使用する必要がなく、該乳化剤等が基材に対する粘着剤層の密着効果を損ねることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の粘着シートは、基材/前記特定の組成物からなる下塗剤層/粘着剤層の三層構造を有している。本発明は、このような三層構造を基本とするが、本発明には、基材背面に離型剤層を形成したものや、粘着剤層側にライナーを有するもの、基材の両面に本発明の下塗剤を用いた両面粘着シート、基材の片面のみに該下塗剤を用いた両面粘着シートも包含している。
【0022】
下塗剤層を形成する下塗剤組成物は、シランカップリング剤を水及び/又はアルコールで希釈して製造する。尚、作業環境や安全衛生上は水を用いることが好ましいが、基材への濡れを向上させる目的や下塗剤組成物の安定性を増す目的等で、アルコール類単独で希釈したりアルコールを水と併せて用いたりすることができる。
また、水及び/又はアルコールの代わりにトルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の有機溶剤で希釈して用いても同様の基材密着性向上効果が得られるが、環境に対する有害性の面から該有機溶剤を用いることは好ましくない。
【0023】
本発明の下塗剤組成物に使用されるシランカップリング剤は、少なくとも構造中にアミノ基を含む下式で示されるシラン化合物であり、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランから選ばれる。これらのシランカップリング剤は一種単独又は二種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0024】
2N−C24−NH−C36−SiCH3(OCH32
2N−C24−NH−C36−Si(OCH33
2N−C24−NH−C36−Si(OC253
2N−C36−Si(OCH33
2N−C36−Si(OC253
【0025】
上記下塗剤組成物に用いられるシランカップリング剤と、水及び/又はアルコールとの混合割合は質量比通常0.5〜10:100であり、10部超ではシランカップリング剤の濃度が高くなりすぎ、該下塗剤組成物の保存安定性が低下したり基材への均一塗工性が失われたりする可能性がある。また、0.5部未満だとシランカップリング剤の濃度が低くなりすぎ、基材への密着効果が低下する可能性があるので、好ましくは1〜5:100、更に好ましくは2〜3:100である。
【0026】
下塗剤組成物は、基材への密着性や粘着剤との密着性を向上させる等の目的で、上記アミノ基以外の官能基を有するシランカップリング剤やその他のシラン化合物、硬化剤、触媒、樹脂類、安定剤等の添加剤を混合することができる。但し、これらの添加剤は、水及び/又はアルコールに可溶又は分散可能であり、且つ上記シランカップリング剤の機能を低下させたり組成物溶液をゲル化させたりしないものが選ばれる。
【0027】
本発明の下塗剤は上記に示した配合処方で調製された後、例えばグラビアコーター、キスコータ一、スプレーコーター等で、下塗層の厚みが一般的には0.01〜2μm程度となるように塗布されるが、塗工方法や塗布厚さに関しては特に限定されるものではない。
【0028】
本発明の粘着シートには、従来用いられている基材を用いる。例えばポリエステル、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルム又はこれらの発泡体、スフ、綿、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン等のクロス基材、レーヨン、ポリエステル、ポリアミド等の不織布基材など公知の基材が挙げられ、これらの単独又は複合体を用いることができる。
【0029】
これらの中でも特に、粘着剤との親和性が一般的に低いポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系基材に対して本発明の下塗剤は有効性が高い。これらの基材の厚さは特に限定されるものではないが、薄すぎるとその用途に適した強度を付与することが困難となる可能性があり、厚すぎるとテープとしての柔軟性が失われるため、各基材とも通常2〜300μm程度であるが、好ましくは10〜100μm程度が一般的である。
【0030】
基材は、以下の前処理が必要となる。即ち、下塗剤が塗布される面に、基材の表面にコロナ放電処理やプラズマ放電処理等を施すと、水及び/又はアルコールに希釈されたシランカップリング剤を含む下塗剤組成物の基材に対する塗れ性が高くなり均一に塗布することができ、また乾燥時間の短縮化に寄与することができる。
また、コロナ放電処理やプラズマ放電処理等がなされることにより、基材表面上に水酸基、カルボキシル基が生成し、シランカップリング剤とより高い接着効果が得られる点で好ましい。コロナ放電処理としては、市販のコロナ放電処理機を用い、発生させたコロナ雰囲気の下に被処理面を通過する方法が挙げられる。この場合、コロナ放電処理の雰囲気は大気下であってもよく、また、不活性ガス(例えば窒素)等で調整された雰囲気下であってもよい。コロナ放電処理条件としては、通常0.8〜1kW程度の放電強度が一般的である。
【0031】
本発明の粘着シートに用いられる粘着剤は、公知のゴム系粘着剤から選ばれる。例えば、基材との密着性に関してしばしば問題となる固型系粘着剤や、本発明の下塗剤中のシランカップリング剤との反応が可能な官能基を付与したゴム系粘着剤が挙げられる。それらの中でも天然ゴムを主体としたゴム系粘着剤やカルボキシル基を有する合成ゴムを用いることが、製造される粘着シートの汎用性や密着効果の観点から有効性が高く好ましい。
【0032】
本発明の粘着シートに用いられるゴム系粘着剤中のゴム成分は、下塗剤として用いられるアミノ基含有シランカップリング剤との作用の観点から天然ゴムを50質量%以上含むことが好ましい。天然ゴム以外のエラストマー成分としては、例えば、合成イソプレンゴム、カルボキシル化イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム及びスチレン・イソプレンブロックコポリマー等の合成ゴムを用いる。これらの合成ゴムは天然ゴム及びカルボキシル基含有合成ゴム等の配合量が50%以下とならない範囲内で単独又は2種以上の混合物として使用してもよい。これらの合成ゴムの中でも、カルボキシル化や酸無水物で変成した合成ゴムがアミノ基含有シランカップリング剤との反応性を有することから好ましいが、多用するとコストが上がり天然ゴム系粘着シートの汎用性が失われる可能性もあり好ましくない。
【0033】
本発明のゴム系粘着剤には、天然ゴムを含めたゴム成分100質量部に対して少なくとも粘着付与樹脂が20〜200質量部の範囲で含まれることが望ましく、特に50〜150質量部含まれていることが好ましい。粘着付与樹脂の添加量が20質量部未満の時は粘着テープとしての粘着力が不足し、200質量部超のときには粘着剤としての柔軟性が不足する。粘着付与樹脂の種類としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環属系石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、ピュア・モノマー系樹脂等の重合系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等の縮合系樹脂等があり、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
上記ゴム系粘着剤は、必要に応じて、パラフィン系プロセスオイル等の鉱油、ポリエステル系可塑剤、植物性油等を含む軟化剤や、芳香族第二級アミン系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系、ベンゾイミダゾール系、亜燐酸系等の老化防止剤を1種又は2種以上を併用して使用してもよい。軟化剤の使用により初期粘着性を向上させることができ、老化防止剤により熱劣化、酸化劣化を防止することができる。また、シリカ、水酸化金属など種類によっては粘着層の補強性向上に効果が望めるものもあるので、シランカップリング剤との作用が期待できるシリカ、アルミナ、クレー、水酸化金属などの充填剤を単独又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0035】
上記ゴム系粘着剤は、使用に際して反応性フェノール樹脂、硫黄、チウラム類等の硫黄化合物、マレイミド等の加硫剤で加硫して用いることも可能である。加硫して用いた方が、再剥離用途や耐熱クリープ性が要求される用途に対しては好ましいが、これらの使用に関しては任意であり限定されるものではない。
【0036】
また、下塗剤の主成分であるアミノ基含有シランカップリング剤との接着性を向上させる目的で、上記ゴム系粘着剤には、各種シランカップリング剤類を混合して用いても構わない。粘着剤中にシランカップリング剤を含有させることにより、粘着剤中のシランカップリング剤と下塗剤層を形成する前記アミノ基含有シランカップリング剤との間に反応が生じ、より接着性が向上する効果を有するので好ましい。
【0037】
本発明の粘着シートに用いるゴム系粘着剤の調製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、適当な可塑度に素練りした天然ゴムや合成ゴム、又は必要に応じて無機充填剤等を混練した混合物をトルエンなどの有機溶剤に溶解して、粘着付与樹脂を加え、場合により、加硫剤、無機充填剤、老化防止剤、軟化剤等を加えて攪拌し、これらを溶解・分散して調製する方法が挙げられる。また、バンバリー型ミキサーや加圧式ニーダー内等のバッチ式混合装置内で天然ゴムを素練りし、粘着付与樹脂や必要に応じて加硫剤、無機充填剤、老化防止剤、軟化剤等をバッチ式混合装置内に加える方法や、二軸押出機を代表とする混練押出機を用いて調製される方法等も挙げられるが、バッチ式混合装置や混練押出機を用いた有機溶剤を用いない方法が環境への配慮の観点から好ましい。
【0038】
このようにして調製されたゴム系粘着剤の塗工方法は、特に限定されるものではないが、溶剤系粘着剤の場合には、例えば、ロールコーターやリバースコーター等で、本発明の下塗剤組成物が塗布された基材面に粘着剤を塗布し、加熱して溶剤を揮発させることにより本発明の粘着シートが得られる。また、前述の環境上好ましい固型粘着剤のような有機溶剤を用いない粘着剤の場合には、Tダイ式押出機やカレンダーロール等を用いて、基材上の本発明の下塗剤が塗布された面に塗布することにより、本発明の粘着シートが得られる。粘着剤層の厚みは、通常5〜150μmであるが、通常は10〜100μm、好ましくは40〜70μm程度が一般的な粘着テープや粘着シートとしては望ましい。
【0039】
本発明の粘着シートは、基材に対する粘着剤層の密着性が高いものであるため、使用後に再剥離させる用途、例えば、床、壁、タイル等の養生用粘着シート、塗装、鍍金、半田等のマスキング用粘着シート、ガラス窓、液晶パネル、各種表示装置等の表面保護用粘着シート等の用途に好適であるほか、各種工程用の仮止め、仮固定用テープ等に用いることができる。
【0040】
以下に本発明を実施例で更に具体的に説明する。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中において「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を示すものである。
【実施例1】
【0041】
下塗剤組成物の調製について
イオン交換水100部に対してアミノ基含有シランカップリング剤〔信越化学工業(株)製「KBM603」〕を2部添加し、攪拌することにより下塗剤とした。
【0042】
基材への下塗剤の塗布について
基材として、予め出力400W、ライン速度10m/分の条件でコロナ放電処理を行ったポリエチレンフィルムを用い、その片面にグラビアコーターにより上記下塗剤の乾燥後の塗布厚さが0.01〜2μm程度となるように塗布し、90℃の温度で1分間乾燥を行った。該下塗剤を塗工した基材への粘着剤塗布は、配合当日に塗布を行った。
【0043】
粘着テープの調製について
天然ゴム(ムーニー粘度60)100部、石油系粘着付与樹脂〔日本ゼオン(株)製、「クイントンR100」〕100部、プロセスオイル30部、炭酸カルシウム200部を100℃に加熱した3リットルのニーダー中に投入して、約20分間混練した。その後、ニーダーから取り出して固型タイプの天然ゴム系粘着剤を作製した。
この固型タイプの天然ゴム系粘着剤を、3本カレンダーロールを用いて上記基材の下塗剤層が形成された面に、糊厚が60μmとなるように100℃で加熱塗工し、巻取ることにより目的の粘着テープを調製した。
【実施例2】
【0044】
天然ゴム(ムーニー粘度60)65部、カルボキシル基を含有しない合成ポリイソプレンゴム(JSR株式会社製 JSR 2200)35部を用いた以外は実施例1と同様に粘着剤を調製し、実施例1と同様に粘着テープを調製した。
【実施例3】
【0045】
実施例1で作製した天然ゴム系粘着剤をトルエンに溶解、分散して溶剤ゴム系粘着剤を調製し、上記基材の下塗剤層が形成された面に、ロールコーターで乾燥後の厚みが30μmになるように塗布し、70℃×2分乾燥の後、巻取ることにより目的の粘着テープを調製した。
【実施例4】
【0046】
実施例2で作製した天然ゴム系粘着剤をトルエンに溶解、分散して溶剤ゴム系粘着剤を調製し、上記基材の下塗剤層が形成された面に、ロールコーターで乾燥後の厚みが30μmになるように塗布し、70℃×2分乾燥の後、巻取ることにより目的の粘着テープを調製した。
【0047】
比較例1
実施例1と同様の基材を用いて、基材をコロナ放電処理せずに使用し、下塗剤を用いない以外は実施例1と同様の方法を用いて粘着テープを製造した。
【0048】
比較例2
実施例1と同様の基材をコロナ放電処理して使用し、下塗剤を用いない以外は実施例1と同様の方法を用いて粘着テープを製造した。
【0049】
比較例3
実施例1と同様の基材をコロナ放電処理せずに使用し、下塗剤を用いる以外は実施例1と同様の粘着剤、塗工方法を用いて粘着テープを製造した。
【0050】
比較例4
実施例1の天然ゴム(ムーニー粘度60)100部の代わりに、合成ポリイソプレンゴム〔日本ゼオン(株)製 ニポールIR 2200〕100部を用いた以外は実施例1と同様の粘着剤、塗工方法を用いて粘着テープを製造した。
【0051】
比較例5
比較例4で作製した合成ゴム系粘着剤をトルエンに溶解、分散して溶剤ゴム系粘着剤を調整し、前記基材に下塗剤層が形成された面に、ロールコーターで乾燥後の厚みが30μmになるように塗布し、70℃×2分乾燥の後、巻取ることにより目的の粘着テープを調製した。
【0052】
次に、本発明の下塗剤を使用した粘着テープの有効性を示すため、上記各実施例及び比較例で調製した粘着テープを、温度60℃において3日間保存した後、基材と粘着剤層との密着性の評価を行った。
【0053】
(基材と粘着剤層との密着性評価=下塗効果)
試験方法としては、調製した粘着テープ試料を各サンプルにつき2片準備し、それぞれの粘着面同士を接着させて離す操作を、2回/1秒の間隔で繰り返し、基材からの粘着剤層の剥がれ具合を観察することにより評価を行い、粘着力測定時の糊残り性との照合を行った。
【0054】
○:極めて密着性がよく、10回以上行っても粘着剤層が殆どめくれない
△:5回以上行って多少粘着剤層が基材から剥がれるが、大きくはめくれない
×:5回未満の操作で、基材から粘着剤層が大きく取られる
【0055】
【表1】

【0056】
以上の結果から、本発明の粘着テープもしくは粘着シートは、基材から粘着剤層が剥がれにくい強固な密着性を示していることがわかる。また、再剥離時に糊残りが生じにくい粘着テープ又は粘着シートとすることが可能となり、粘着テープ又は粘着シートの用途範囲を拡大させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤並びに、水及び/又はアルコールからなることを特徴とする、粘着シート用の下塗剤組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤が、少なくとも構造中にアミノ基を有するシラン化合物から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の粘着シート用下塗剤組成物。
【請求項3】
前記アミノ基を含有するシランカップリング剤は、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランから選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘着シート用下塗剤組成物。
【請求項4】
前記シランカップリング剤と、水及び/又はアルコールとの混合割合が、質量比0.5〜10:100であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着シート用下塗剤組成物。
【請求項5】
基材と請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着シート用下塗剤組成物から形成されている下塗剤層と、該下塗剤層上に形成されている粘着剤層からなる粘着シート。
【請求項6】
前記該下塗剤層上に形成されている粘着剤が、ゴム系粘着剤であることを特徴とした請求項5に記載の粘着シート。
【請求項7】
請求項6記載のゴム系粘着剤が、エラストマー成分中50%以上が天然ゴムであることを特徴とした請求項5又は6に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記下塗剤上に形成される基材が、コロナ放電処理を施された基材からなることを特徴とした請求項5〜7のいずれか1項に記載の粘着シート。

【公開番号】特開2007−254662(P2007−254662A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83117(P2006−83117)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000145079)株式会社寺岡製作所 (23)
【Fターム(参考)】