説明

粘着付与樹脂エマルジョン、接着剤組成物および床材用接着剤組成物

【課題】 初期接着性が良好であり、塗工性、貯蔵安定性も良好な接着剤組成物(特に、床材用接着剤組成物)を提供することができる粘着付与樹脂エマルジョンを提供すること。
【解決手段】 (a−1)ロジン類もしくは不飽和カルボン酸変性ロジン、および/または(a−2)ロジンエステルもしくは不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを含有する粘着付与樹脂(A)を、(b−1)(メタ)アクリルアミド50〜90モル%および(b−2)イオン性モノマー1〜40モル%を重合させて得られる(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)を分散剤として用いて乳化させることにより得られる粘着付与樹脂エマルジョンを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着付与樹脂エマルジョン、接着剤組成物および床材用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、その優れた性能の点から、溶剤型接着剤が各分野において広く用いられていた。しかし、近年、大気汚染がないことや、各種製品に残留する溶剤の毒性等が注目されるようになり、溶剤型接着剤から水系接着剤への移行が進められている。
【0003】
水系接着剤としては、アクリル系共重合体エマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、天然ゴムラテックス、クロロプレンラテックス等をベースポリマーとし、接着力などの粘・接着特性を付与するために、これにロジン類、ロジン誘導体、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂等の粘着付与樹脂エマルジョンを配合してなる水系接着剤組成物が知られている。通常、かかる粘着付与樹脂エマルジョンには、ベースポリマーとの相溶性や、接着物性が良好なことから、ロジン類やロジン誘導体等のロジン系樹脂のエマルジョンが広く使用されている。
【0004】
しかし、これらロジン系樹脂のエマルジョンを使用した場合も、水系接着剤において特に必要とされる初期接着性や塗工性が不十分であり、これらを向上させ得る水系接着剤が求められている。
【0005】
そこで、本出願人は、初期接着性や塗工性に優れる床材用接着剤組成物を提案している。(特許文献1)当該床材用接着剤組成物は、初期接着性、貯蔵安定性等に優れるものであった。しかし、近年、さらなる初期接着性、塗工性の向上が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−224916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、初期接着性が良好であり、塗工性、貯蔵安定性も良好な接着剤組成物(特に、床材用接着剤組成物)を提供することができる粘着付与樹脂エマルジョンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定のロジン類と特定の分散剤を用いることにより、前記課題を解決することができるということを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、(a−1)ロジン類もしくは不飽和カルボン酸変性ロジン、および/または(a−2)ロジンエステルもしくは不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを含有する粘着付与樹脂(A)を、(b−1)(メタ)アクリルアミド50〜90モル%および(b−2)イオン性モノマー1〜40モル%を重合させて得られる(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)を分散剤として用いて乳化させることにより得られる粘着付与樹脂エマルジョン;(a−1)ロジン類もしくは不飽和カルボン酸変性ロジン、および/または(a−2)ロジンエステルもしくは不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを含有する粘着付与樹脂(A)を、(b−1)(メタ)アクリルアミド50〜90モル%、(b−2)イオン性モノマー1〜40モル%および(b−3)疎水性モノマー1〜25モル%を重合させて得られる(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)を分散剤として用いて乳化させることにより得られる粘着付与樹脂エマルジョン;当該粘着付与樹脂エマルジョンを含有する接着剤組成物;当該粘着付与樹脂エマルジョンを含有する床材用接着剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、貯蔵安定性が良好であり、また、当該粘着付与樹脂エマルジョンを用いて得られる接着剤組成物は、特に初期接着性や塗工性が良好であるため好ましい。また、特に初期接着性および塗工性の要求が高い床材用接着剤に、好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンの分散相は、(a−1)ロジン類もしくは不飽和カルボン酸変性ロジン(以下、(a−1)成分という。)、および/または(a−2)ロジンエステルもしくは不飽和カルボン酸変性ロジンエステル(以下、(a−2)成分という。)を含有する粘着付与樹脂(A)(以下、(A)成分という。)を主成分として形成されている。
【0012】
(a−1)成分であるロジン類とはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等をいう。ロジン類には、これらの変性物である水素化ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、アルデヒド変性ロジン等を一部併用してもよい。
【0013】
また、不飽和カルボン酸変性ロジンとは、前記ロジン類の一部をα,β−不飽和カルボン酸等で変性したものをいう。したがって、不飽和カルボン酸変性ロジン中にはα,β−不飽和カルボン酸変性ロジンの他に、未反応のロジン類が含まれる。α,β−不飽和カルボン酸等としては、無水マレイン酸、マレイン酸、炭素数1〜4程度の低級アルコールと無水マレイン酸から得られるマレイン酸モノエステル類またはマレイン酸ジエステル類、フマール酸、N−アルキルマレイミド類、イタコン酸、イタコン酸無水物、アクリル酸等を例示できる。これらのなかでも無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル類、フマール酸、イタコン酸、イタコン酸無水物が好ましい。α,β−不飽和カルボン酸の使用量は、通常、ロジン類1モル部に対して1モル部以下、好ましくは0.05〜0.75モル部程度、特に好ましくは0.10〜0.70モル部程度である。変性反応は通常、温度150〜300℃程度で、0.5〜24時間程度行う。
【0014】
(a−2)成分であるロジンエステルとは、ロジン類と多価アルコールとを公知のエステル化法によりエステル化させて得られるものをいう。通常は、ロジン類と多価アルコールを仕込んだ後、多価アルコールの沸点に応じて常圧、減圧又は加圧下に、温度150〜300℃程度で、3〜40時間程度攪拌しながら脱水縮合を行う。また、反応に際して必要に応じて、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶剤を使用して、共沸下に脱水縮合させても良い。多価アルコールとしては各種公知のものを使用できるが、3価または4価アルコールが好ましい。3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール等があげられ、4価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等があげられる。また、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミノアルコール等を使用することもできる。これら多価アルコールは一種または二種以上を使用できる。なお、ロジン類と多価アルコールの仕込割合は、ロジン類のカルボキシル基に対する多価アルコールの水酸基の当量比[−OH(eq)/−COOH(eq)]が、通常0.1〜1.5、好ましくは0.1〜1.0になる範囲とされ、ロジンエステルとして完全エステル化物を製造できる他、未反応ロジン類を含むロジンエステルを製造することもできる。当量比が0.1未満の場合にはロジンエステルの割合が少なくなり、接着剤として用いた場合に接着性が低下する場合がある。また、当量比が1.5を超える場合には、生成するロジンエステルに遊離の水酸基が多量に残存するため、接着剤として用いた場合に残存水酸基に起因して、接着性が低下する場合がある。
【0015】
また、不飽和カルボン酸変性ロジンエステルとは、ロジン類に多価アルコールとα,β−不飽和カルボン酸等とを順次又は同時に反応させることにより得られるものをいう。不飽和カルボン酸変性ロジンエステルとは、ロジン類に多価アルコールとα,β−不飽和カルボン酸等とを順次に反応させる場合には、ロジン類に多価アルコールを反応させた後にα,β−不飽和カルボン酸等を反応させてもよいし、ロジン類にα,β−不飽和カルボン酸等を反応させた後に多価アルコールを反応させてもよい。多価アルコールとのエステル化反応、α,β−不飽和カルボン酸等との変性反応は前記と同様に行えばよい。
【0016】
本発明の粘着付与樹脂は、前記(a−2)成分を含有すること、特に(a−1)成分および(a−2)成分ロジンエステルまたは不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを併用することによりエマルジョン安定性および初期接着性を向上させることができる。そのため、(A)成分中における(a−2)成分の含有量は20〜90重量%とすることが好ましい。(a−2)の含有量を20重量%以上とすることにより、初期接着性を向上させることができ、90重量%を超える場合には初期接着性の向上が十分でなくなる傾向がある。
【0017】
なお、本発明の(A)成分において(a−1)成分および(a−2)成分を併用する場合は、(a−1)成分と(a−2)成分を、それぞれ別々に製造した後に、これらを混合してもよく、(a−2)成分を製造した結果、得られる反応生成物中に前記(a−1)と(a−2)を含有するようにエステル化反応の進行を調節したものであれば、その反応生成物をそのまま使用することもできる。たとえば、(a−2)成分としてロジンエステルを製造した結果、反応生成物中にロジンエステルの他に、未反応のロジン類を所定量含有していれば、当該反応生成物を本発明の(a−1)成分および(a−2)成分からなる(A)成分として使用できる。
【0018】
本発明においては、上記所定の(A)成分である限り、これをそのままエマルジョンの分散相として用いることができる。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、C5留分やC9留分を重合して得られる石油樹脂、炭素数12〜18のオレフィンオリゴマー、ロジン金属石鹸、ロジンフェノール樹脂、フェノール樹脂変性不飽和カルボン酸変性ロジン、テルペン系樹脂、マレイン化石油樹脂、マレイン化オレフィンオリゴマー、パラフィンワックスからなる群から選ばれるいずれか少なくとも1種の疎水性物質を、前記(A)成分100重量部に対して45重量部以下、好ましくは25重量部以下を分散相に加えることができる。
【0019】
本発明おいては、上記所定のロジン物質の分散剤として(b−1)(メタ)アクリルアミド(以下、(b−1)成分という。)50〜90モル%、(b−2)イオン性モノマー(以下、(b−2)成分という。)1〜40モル%および(b−3)疎水性モノマー(以下、(b−3)成分という。)1〜25モル%を重合させて得られる(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)(以下、(B)成分という。)を分散剤として使用する。
【0020】
(b−1)成分とは、アクリルアミド及び/又はメタアクリルアミドのことをいう(以下、(メタ)とは同様の意味である)。当該(b−1)成分は、分散剤に親水性を付与するために使用され、その使用量は、分散剤である(B)成分を構成する単量体の総モル和の50〜90モル%程度、好ましくは50〜70モル%である。70モル%を超える場合にはエマルジョン粒子の微細化が困難となり、90モル%以上では乳化できなくなる。
【0021】
(b−2)成分とは、イオン性の官能基を有するモノマーであれば特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、(b−2)成分としては、アニオン性官能基を有するアニオン性モノマー、カチオン性官能基を有するカチオン性モノマーが挙げられる。アニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有するビニルモノマー、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸スルホエチル、(メタ)アクリル酸スルホプロピル、(メタ)アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの有機スルホン酸基を有するモノマー、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のリン酸基を有するモノマーおよびこれらモノマーのナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
【0022】
カチオン性モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミンなどの第三級アミノ基を有するモノマーまたはそれらの塩酸、硫酸、酢酸などの無機酸もしくは有機酸の塩類、または該第三級アミノ基含有ビニルモノマ−とメチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリンなどの四級化剤との反応によって得られる第四級アンモニウム塩を含有するビニルモノマ−などがあげられる。
【0023】
これらアニオン性モノマー、カチオン性モノマーは一種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。乳化性の点よりアニオン性モノマーを用いることが好ましい。
【0024】
(b−2)成分は、分散剤に親水性、乳化性を付与するために使用される。(b−2)成分を用いる際の使用量は、(B)成分を構成する単量体の総モル和の1〜40モル%程度、好ましくは、5〜35モル%を用いることが好ましい。
なお、(B)成分に疎水性を付与し安定性を調節するために(b−3)成分を用いても良い。
【0025】
(b−3)成分としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(炭素数が1〜20のアルキル基であるものが好ましい)、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類や、これらスチレン類の芳香環に炭素数1〜4のアルキル基を有するスチレン系化合物のスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、炭素数6〜22のα−オレフィン、炭素数1〜22のアルキルビニルエーテル、ビニルピロリドン等を例示できる。これらのなかでも、特に(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系単量体、カルボン酸ビニルエステル等が乳化性の点で好ましい。
【0026】
(b−3)成分の使用量は、(B)成分を構成する単量体の総モル和の1〜25モル%、下限としては好ましくは5モル%、上限としては好ましくは20モル%である。1モル%に満たない場合、及び25モル%を超える場合には乳化が著しく困難となり、いずれの場合も好ましくない。
【0027】
(B)成分の製造方法としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の各種公知の方法を採用でき、前記モノマーを共重合させることにより容易に収得しうる。溶液重合による場合には、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルイソブチルケトン等の溶媒を使用できる。乳化重合方法で使用する乳化剤としては特に制限はされず各種の界面活性剤を使用でき、アニオン性界面活性剤としては、たとえばジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等を例示でき、ノニオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びこれら界面活性剤にビニル基またはアリル基、プロペニル基を導入した反応性界面活性剤等を例示できる。これら界面活性剤は1種または2種以上を適宜選択して使用することができ、その使用量は全仕込単量体に対して通常は0.1〜10重量%程度とされる。また、前記重合で使用する重合開始剤としては特に限定はされず、過硫酸塩類、過酸化物、アゾ化合物、レドックス系開始剤などの各種のものを使用でき、分子量を調節するために公知の連鎖移動剤であるイソプロピルアルコール、四塩化炭素、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、クメン、チオグリコール酸エステル、アルキルメルカプタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等を適宜使用することもできる。
【0028】
得られた分散剤たる共重合体の分子量は、(A)成分の分散能と直接相関するため通常は重量平均分子量が1000〜200000、好ましくは1000〜100000である。1000未満ではエマルジョンの初期接着性が悪くなり、200000を超える場合には製品粘度が高くなる傾向がある。なお、該共重合体は通常は水溶性であるが、分散性であってもさしつかえない。
【0029】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは(A)成分を(B)成分を分散剤として用いて乳化させることにより得られるが、(A)成分と(B)成分の使用量は、通常、(A)成分に対して1〜30重量%程度であり、好ましくは、2〜20重量%程度である。
【0030】
なお、(A)成分を乳化する際、必要に応じて(B)成分の他に、(B)成分以外の重量平均分子量が10万以下、好ましくは5万以下の各種公知のアニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤を単独でまたは数種を併用してもよい。重量平均分子量を10万以下とすることにより乳化能の低下を防ぐことができ、また製品粘度が高くなりすぎないため好ましい。当該乳化剤の具体例としては、α−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアラルキルフェニルエーテルのスルホコハク酸のハーフエステル塩、アルキルサルコシネート、ロジン石鹸等のアニオン系乳化剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系乳化剤を例示でき、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用できるが、環境ホルモン問題の懸念がなく、乳化能に優れる点で、アルキルサルフェートやアルキルサルコシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系が好ましい。
【0031】
乳化剤を使用する場合の使用量は、通常、(A)成分100重量部に対し、固形分換算で1〜10重量部程度、好ましくは1〜5重量部である。
【0032】
本発明で(A)成分を(B)成分を用いてエマルジョン化する際、乳化方法については、特に限定はなく、公知の乳化方法である高圧乳化法、反転乳化法、超音波乳化法、溶剤乳化法などのいずれの方法を採用してもよいが、環境問題を考慮する場合は、溶剤を使用しない無溶剤系反転乳化法を採用するのが好ましい。無溶剤系反転乳化法の場合は、前記粘着付与樹脂を軟化点以上で溶融し、常圧もしくは加圧下でこれに乳化剤を練り込んでいき、次いで水を添加して転相させてエマルジョンを得ることができる。
【0033】
このようにして得られた粘着付与樹脂エマルジョンの固形分濃度は特に限定されないが、通常20〜70重量%程度となるように適宜に調整して用いる。また、得られたエマルジョンの平均粒子径は、通常0.1〜2μm程度であり、大部分は1μm以下の粒子として均一に分散している。また、該エマルジョンは白色ないし乳白色の外観を呈し、pH値は2〜9程度で、粘度は通常10〜1000mPa・s程度である。
【0034】
本発明の接着剤組成物は、アクリル系重合体エマルジョン、ゴム系ラテックスおよび合成樹脂系エマルジョンからなる群より選ばれる少なくとも一種のベースポリマーに、前記粘着付与樹脂エマルジョンを配合してなるものである。
【0035】
前記粘着付与樹脂エマルジョンと併用するアクリル系重合体エマルジョンとしては、特に限定はなく、各種公知のものを使用できる。当該アクリル系重合体エマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルを一括仕込み重合法、モノマー逐次添加重合法、乳化モノマー逐次添加重合法、シード重合法等の公知の乳化重合法により容易に製造することができる。
【0036】
使用される(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等をあげることができ、これらを単独または2種以上を混合して用いる。また、得られるアクリル系重合体エマルジョンに貯蔵安定性を付与するため、前記(メタ)アクリル酸エステルに換えて(メタ)アクリル酸を少量使用してもよい。さらに所望により(メタ)アクリル酸エステル重合体の接着特性を損なわない程度で、たとえば、酢酸ビニル、スチレン等の共重合可能なモノマーを併用できる。なお、アクリル系重合体エマルジョンに用いられる乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、部分ケン化ポリビニルアルコール等の各種公知のものを使用でき、その使用量は重合体100重量部に対して0.1〜5重量部程度、好ましくは0.5〜3重量部である。
【0037】
アクリル系重合体エマルジョンと粘着付与樹脂エマルジョンとの使用割合は、アクリル系重合体エマルジョン100重量部(固形分換算)に対して、(A)成分が合計で10〜200重量部程度(固形分換算)含有されるように配合することが好ましい。(A)成分の合計量が10重量部に満たない場合には、(A)成分を添加することによる改質効果がほとんど認められない場合があり、また200重量部を越える場合には凝集力が低下する傾向にある。
【0038】
また、ゴム系ラテックスとしては、水系接着剤組成物に用いられる各種公知のものを使用できる。例えば天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス等があげられる。
【0039】
ゴム系ラテックスと粘着付与樹脂エマルジョンとの配合割合は、ゴム系ラテックス100重量部(固形分換算)に対して、(A)成分を合計で10〜300重量部程度(固形分換算)含有させるように配合させることが好ましい。(A)成分の合計量が10重量部に満たない場合は、(A)成分を添加することによる改質効果がほとんど認められない場合があり、また300重量部を越える場合には凝集力が低下する傾向にある。
【0040】
さらに、合成樹脂系エマルジョンとしては、水系接着剤組成物に用いられる各種公知のものを使用でき、例えば酢酸ビニル系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、ウレタン系エマルジョン等の合成樹脂エマルジョンがあげられる。
【0041】
合成樹脂系エマルジョンと(A)成分との配合割合は、合成樹脂系エマルジョン100重量部(固形分換算)に対して、(A)成分を合計で10〜200重量部程度(固形分換算)含有させるように配合することが好ましい。(A)成分の合計量が10重量部に満たない場合には、(A)成分を添加することによる改質がほとんど認めらない場合があり、また200重量部を越える場合には凝集力が低下する傾向にある。
【0042】
本発明の水系接着剤組成物は、ベースポリマー、粘着付与樹脂エマルジョンおよび水を必須成分として構成されるが、これらのほかに必要に応じて、充填剤、消泡剤、増粘剤、酸化防止剤、防腐剤などを添加することができ、更に環境問題に懸念の無い範囲で、高沸点の溶剤や可塑剤、保水剤、成膜助剤などを添加することもできる。例えば、本発明で使用される充填剤としては、特に制限されないが、好ましいものとして、重質炭酸カルシウムや珪砂などが挙げられ、これらを単独でも併用してもよい。充填剤の配合割合は、ベースポリマー100重量部(固形分換算)に対して、通常は200〜500重量部程度である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。各例中、部及び%は特記しない限り重量基準である。
【0044】
製造例1(不飽和カルボン酸変性ロジンの製造)
攪拌機、温度計、窒素導入管、分水器及び冷却器を備えた1リットル容のフラスコに、酸価170のガムロジン100部を仕込み、窒素気流下に160℃まで加熱した後、フマール酸20部を加え、210℃で3時間加熱保温した。得られた反応生成物の軟化点(SP)は125℃、酸価(AV)は303であった。
【0045】
製造例2(ロジンエステルの製造)
製造例1と同様の反応装置に、酸価170のガムロジン100部とグリセリン9.3部(仕込当量比(−OH/−COOH)=1.00) を仕込み、窒素気流下に250℃まで加熱し、同温度で8時間エステル化させ軟化点84℃、酸価6のロジンエステルを得た。
【0046】
製造例3(不飽和カルボン酸変性ロジンエステルの製造)
製造例2で得たロジンエステルを160℃に加熱した後、無水マレイン酸8.2部を加え、210℃で2時間加熱保温し、軟化点102℃、酸価183の不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを含む反応生成物を得た。
【0047】
製造例4(ロジンエステルの製造)
製造例2において、グリセリン9.3部に代えてペンタエリスリトール10.3部(仕込当量比=1.00)
を使用した以外は、製造例2と同様にして軟化点105℃、酸価15のロジンエステルを得た。
【0048】
製造例5(ロジンエステルの製造)
製造例2において、グリセリンの使用量を6部(仕込当量比(−OH/−COOH)=0.65)
に代えた他は、製造例2と同様にして軟化点85℃、酸価59のロジンエステルを得た。
【0049】
製造例6(分散剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却器を備えた反応装置に、アクリルアミド57.7部(単量体の総モル和の73モル%、以下同様)、イタコン酸21.7部(15モル%)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸9.2部(4モル%)、アクリル酸n−ブチル11.4部(8モル%)、ラウリルメルカプタン5部、ポリオキシエチレン(n=13)ドデシルフェニルエーテル硫酸エステルのナトリウム塩5部、ポリオキシエチレン(n=9)オレイルエーテル2部、過硫酸アンモニウム5部及びイオン交換水400部を混合し、加熱し、80℃で5時間反応を行い共重合体の水溶液を得た。その後、冷却し、60℃で2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と等モルの水酸化ナトリウムを加えて1時間攪拌して、濃度15%、重量平均分子量40000の共重合体の水溶液を得た。
【0050】
製造例7(分散剤の製造)
製造例6において、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に代えて、同モル%のメタクリル酸ヒドロキシプロピル硫酸エステルのアンモニウム塩を用いた以外は、製造例6と同様に反応を行い、濃度15%、重量平均分子量20000の共重合体の水溶液を得た。
【0051】
製造例8(分散剤の製造)
製造例6において、不飽和単量体として、アクリルアミド52.3部(70モル%)、イタコン酸26.0部(19モル%)、メタクリル酸ヒドロキシプロピル硫酸エステルのアンモニウム塩10.1部(4モル%)、及びアクリル酸2−エチルヘキシル11.6部(6モル%)を用いた以外は、製造例6と同様に反応を行い、濃度15%、重量平均分子量30000の共重合体の水溶液を得た。
【0052】
製造例9(分散剤の製造)
製造例6において、不飽和単量体として、アクリルアミド57.4部(70モル%)、スチレンスルホン酸ナトリウム塩7.1部(3モル%)、スチレン20.4部(17モル%)及びイタコン酸15部(10モル%)を用いた以外は、製造例6と同様に反応を行い、濃度15%、重量平均分子量30000の共重合体の水溶液を得た。
【0053】
製造例10(分散剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却器を備えた反応装置に、イオン交換水300部及びポリオキシエチレン(n=13)ドデシルフェニルエーテル硫酸エステルのナトリウム塩5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌した。その後、アクリルアミド44.3部(63モル%)、アリルスルホン酸ナトリウム塩13.7部(8モル%)、イタコン酸28.3部(22モル%)、メタクリル酸2−エチルヘキシル13.7部(7モル%)及びラウリルメルカブタン5部の混合液と過硫酸カリウム3部をイオン交換水50部に溶解した水溶液を別々に80℃で3時間かけて滴下して反応を行い、イタコン酸の半分のモル量の水酸化ナトリウムを加えて、濃度20%、重量平均分子量35000の共重合体の水溶液を得た。
【0054】
製造例11(分散剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却器を備えた反応装置に、エチルアルコール230部、アクリルアミド51.1部(75モル%)、イタコン酸20.0部(16モル%)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステルのアンモニウム塩(第一工業製薬(株)製、商品名「アクアロンHS−10」)22.9部(3モル%)、スチレン6部(6モル%)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌した。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル3部を加え80℃まで昇温し4時間保持し、さらにアゾビスイソブチロニトリル1部を追加し、3時間同温度に保持した後、イオン交換水150部を加えてエチルアルコールを留去した。留去終了後、冷却し、60℃でイタコン酸と当モル量の水酸化カリウムを加えて1時間攪拌し、濃度20%、重量平均分子量60000の共重合体の水溶液を得た。
【0055】
製造例12(分散剤の製造)
製造例11において、スチレンに代えて、同モル%の酢酸ビニルを用いた以外は、製造例11と同様に反応を行い、濃度20%、重量平均分子量45000の共重合体の水溶液を得た。
【0056】
製造例13(比較用分散剤の製造)
製造例6において、アクリルアミド21.9部(35モル%)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸18.2部(10モル%)、イタコン酸34.3%(30モル%)、アクリル酸3.1部(5モル%)、及びアクリル酸n−ブチル22.5部(20モル%)を用いた以外は、製造例6と同様に反応を行い、濃度15%、重量平均分子量20000の共重合体の水溶液を得た。
【0057】
製造例14(比較用分散剤の製造)
製造例6において、不飽和単量体として、メタクリルアミド26.1部(40モル%)、イタコン酸59.8部(50モル%)、スチレンスルホン酸ナトリウム9.5部(5モル%)、及びメタクリル酸メチル4.6部(5モル%)を用いたこと以外は、製造例6と同様に反応を行った。その後、冷却し濃度15%、重量平均分子量15000の共重合体の分散液を得た。
【0058】
製造例15(比較用分散剤の製造)
製造例6において、不飽和単量体として、アクリルアミド30.8部(35モル%)、スチレンスルホン酸ナトリウム塩7.6部(3モル%)、スチレン12.9部(10モル%)、メタクリル酸メチル8.7部(7モル%)及びアクリル酸40.1部(45モル%)を用いたこと以外は、製造例6と同様に反応を行った。その後、冷却し、60℃でアクリル酸と等モルの水酸化カリウムを加えて1時間攪拌し、濃度15%、重量平均分子量80000の共重合体の水溶液を得た。
【0059】
製造例16(比較用分散剤の製造例)
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却器を備えた反応装置に、イソプロピルアルコール150部、イオン交換水100部、スチレン27.4部(40モル%)、イタコン酸21.5部(25モル%)、メタクリル酸メチル6.6部(10モル%)スチレンスルホン酸ソーダ27.2部(20モル%)、及びメタクリ酸ポリエチレンオキサイド付加物(n=10)17.3部(5モル%)、ラウリルメルカプタン2部を加えて、窒素ガス雰囲気下で攪拌した。その後、60℃まで加熱し過硫酸アンモニウム5部を加え、80℃まで昇温し3時間保持後、イオン交換水200部を追加しイソプロピルアルコールを留去した。イソプロピルアルコール留去後、イタコン酸のモル量の半分となる水酸化ナトリウムとイオン交換水300部を加えて1時間攪拌し、濃度20%、重量平均分子量100000の共重合体の水溶液を得た。
【0060】
実施例1(粘着付与樹脂エマルジョンの製造)
製造例1で得られた樹脂70重量部と製造例2で得られた樹脂30重量部を、160℃に加熱溶融し、攪拌しながら参考例6で得られた共重合体150部を添加した。さらに攪拌しながら熱水を添加し転相させ水中油型エマルジョンとし、さらに熱水で希釈して濃度50%の粘着付与樹脂エマルジョンを調製した。
【0061】
実施例2〜8および比較例1〜7
用いた樹脂および分散剤を表1のように変更した他は同様にして粘着付与樹脂エマルジョンを調製した。
【0062】
エマルジョンの貯蔵安定性評価
得られた樹脂エマルジョンを25℃で10日間放置し、沈降物の有無を目視判定した。
○:良好 △:少し沈降物あり ×:沈降物あり
【0063】
評価例1(水系接着剤の調製)
アクリル系重合エマルジョン100部(固形部)(モビニール490、クラリアントジャパン製)、実施例1で得られた粘着付与樹脂エマルジョン70部(固形部)、炭酸カルシウム200部(エスカロン#100、三共製粉製)、トリプロピレングリコール10部、造膜助剤(SP−23、三光製)30部を均一に攪拌混合して水系接着剤を調製した。
【0064】
評価例2〜8および比較評価例1〜7
評価例1において、粘着付与樹脂エマルジョンを表2に示すように変更した他は同様にして水系接着剤を調製した。
【0065】
塗工性
評価例1〜8および比較評価例1〜7で得られた水系接着剤を繊維強化セメント板(JIS A5430)にくし目ごてで塗工し、塗工状態を目視判定した。結果を表2に示す。
○:良好 △:若干不良(塗工時にたれ少しあり) ×:不良(塗工時にたれあり)
【0066】
初期接着性
塗工性の評価にて作成した試験片を、20分のオープンタイム後、塩化ビニル床シート((株)サンゲツ製)をハンドローラーで圧着し、すぐに90゜剥離し、初期接着強度を測定した。結果を表2に示す。
【0067】
【表1】

表中、粘着付与樹脂組成物の量は重量部を示す。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a−1)ロジン類もしくは不飽和カルボン酸変性ロジン、および/または(a−2)ロジンエステルもしくは不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを含有する粘着付与樹脂(A)を、(b−1)(メタ)アクリルアミド50〜90モル%および(b−2)イオン性モノマー1〜40モル%を重合させて得られる(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)を分散剤として用いて乳化させることにより得られる粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項2】
(a−1)ロジン類もしくは不飽和カルボン酸変性ロジン、および/または(a−2)ロジンエステルもしくは不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを含有する粘着付与樹脂(A)を、(b−1)(メタ)アクリルアミド50〜90モル%、(b−2)イオン性モノマー1〜40モル%および(b−3)疎水性モノマー1〜25モル%を重合させて得られる(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)を分散剤として用いて乳化させることにより得られる粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項3】
(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)の重量平均分子量が1000〜200000である請求項1または2に記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項4】
粘着付与樹脂(A)中に、(a−2)ロジンエステルまたは不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを20〜90重量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項5】
(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)の含有量が、粘着付与樹脂(A)を含有する分散相全体の固形分換算で1〜30重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョンを含有する接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョンを含有する床材用接着剤組成物。

【公開番号】特開2006−182827(P2006−182827A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375484(P2004−375484)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】