説明

粘着剤および粘着シート

【課題】結露または湿潤した被着体に対する粘着性に優れ、さらに機械安定性(高速塗工安定性)に優れた粘着剤および同粘着剤を使用した粘着シートを提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびカルボキシル基含有不飽和単量体から本質的になる不飽和単量体混合物(カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量0.3〜0.8質量%)100質量部当たり界面活性剤0.4〜1.2質量部存在下、乳化重合させて得られたアクリル系エマルション[A]と、前記不飽和単量体混合物100質量部当たりアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[B]を0.05〜0.9質量部含む水性エマルション型粘着剤であって、マーロン試験による残渣が1g以下であることを特徴とする水性エマルション型粘着剤および同粘着剤を基材に塗布して粘着剤層を設けてなる粘着シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の被着体、特に結露または湿潤した被着体に対する粘着性に優れ、さらに機械安定性(高速塗工安定性)に優れた水性エマルション型粘着剤および同粘着剤を使用した粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘着シートは、通常の接着剤のように実用的な接着力を得る場合でも高い圧力又はエネルギーを必要とせず、指圧程度の圧力で貼り合わせると直ちに実用に耐える接着力を発揮するという使用上の簡便さや、使用に当たり良好な作業性を有することから、近年、多くの分野において用いられている。
この粘着シートの用途としては、例えば包装・結束用、事務・家庭用、接合用、塗装マスキング用、表面保護用、防食・装飾用、ラベル用などを挙げることができる。
この粘着シートは、一般に基材シートとその表面に形成された粘着剤層と、必要に応じて粘着剤層上に設けられる剥離シートから構成されており、使用に際しては、剥離シートが設けられている場合には、該剥離シートを剥がし、粘着剤層を被着体に当接させて貼付することが行われている。前記粘着剤層を構成する粘着剤としては、例えばアクリル系、ウレタン系、ゴム系、シリコーン系などがあるが、これらの中で、粘着力、保持力、耐候性、耐熱性などの性能および経済性の点から、アクリル系粘着剤が多用されている。このアクリル系粘着剤としては、従来、溶剤型のものが主として用いられてきたが、近年、粘着剤層形成時における有機溶剤の揮発が環境衛生や安全面で問題となっており、また、粘着シートにした場合でも、粘着剤層には僅かながら有機溶剤が残存しており、それが使用中に徐々に揮発し、環境衛生面で問題となっていた。
これに対し、水系のエマルション型粘着剤は、環境衛生、安全面については特に問題はなく、又高濃度化による高速塗工及び有機溶剤を使用しないことによる低コスト化が可能であることから、最近では、溶剤型に代えて、水系のエマルション型のものが使用されるようになってきた。特に、食品関係に使用されるラベルには、無溶剤型の粘着剤を用いたラベルが好んで使用されている。
しかしながら、水系のエマルション型粘着剤においては、乳化剤などの親水性成分が多く含まれているため、結露または湿潤した被着体への粘着力や耐水粘着力に乏しいという問題があった。例えば、水系のエマルション型粘着剤を用いて作製された粘着シートを結露または湿潤した状態の被着体に貼付した場合、あるいは該粘着シート貼付後に水などに浸漬した場合に、粘着シートの浮きや剥れが生じたり、基材シートと粘着剤層との界面で剥がれが生じたりしていた。結露面や湿潤面への粘着力や耐水粘着力を重視し、乳化剤などの親水性成分の使用量を少なくしたエマルション型粘着剤は、エマルション粒子の粒子安定性が劣るものとなり、高い剪断力のかかる環境下ではエマルション粒子の凝集が起こりやすい。
一方、耐水性に優れた水系のアクリル系エマルション型粘着剤としては、特定の単量体を、反応性ノニオン乳化剤の存在下に乳化重合してなる粘着剤が開示(例えば、特許文献1、2参照)されており、また、結露面や湿潤面に対する良好な初期粘着力を発現する水分散型粘着剤組成物として、アクリル系又はゴム系の水分散型粘着剤と、重量平均分子量20,000〜5,000,000のポリアルキレングリコールとを特定の割合で含む組成物(例えば、特許文献3参照)、特定の軟化温度を有するロジンを添加した組成物(例えば、特許文献4参照)、親水性ポリマーを含有させた組成物(例えば、特許文献5参照)等が開示されている。
しかしながら、これらの粘着剤や粘着剤組成物は、低温粘着力、結露面または湿潤面粘着力、耐水粘着力及び粘着シートに用いた場合の曲面貼付性のすべてを十分に満足し得るものではない上、機械的安定性の点でも十分ではない。
一般的に、界面活性剤などの親水性成分の添加量が少ないエマルション粒子は粒子安定性が低く、親水性成分の添加量が多い粘着剤は、結露面または湿潤面への粘着力が低い。
【0003】
【特許文献1】特開平9-143444号公報
【特許文献2】特開2003-64338号公報
【特許文献3】特開2003-313525号公報
【特許文献4】特開2005-220295号公報
【特許文献5】特開2006-283034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような背景の下、共重合させる際のカルボキシル基含有不飽和単量体の含有量及び界面活性剤の含有量、アルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションの添加量を最適化することにより、粒子安定性、すなわち、機械安定性(高速塗工安定性)と、結露面または湿潤面に対する粘着力の両立を図った粘着剤およびそれを使用した粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、カルボキシル基含有不飽和単量体単位を少量含む多量のアクリル系エマルションとカルボキシル基含有不飽和単量体単位を多量に含む少量のアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションを成分として用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記
(1)(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびカルボキシル基含有不飽和単量体から本質的になる不飽和単量体混合物(カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量0.3〜0.8質量%)100質量部当たり界面活性剤0.4〜1.2質量部存在下、乳化重合させて得られたアクリル系エマルション[A]と、前記不飽和単量体混合物100質量部当たりアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[B]を0.05〜0.9質量部含む水性エマルション型粘着剤であって、マーロン試験による残渣が1g以下であることを特徴とする水性エマルション型粘着剤、
(2)アルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[B]がアクリル酸エチルおよび(メタ)アクリル酸を共重合したエマルションである上記(1)記載の水性エマルション型粘着剤、
(3)前記アルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[B]が10〜30質量%のカルボキシル基含有不飽和単量体単位を含むポリマーエマルションである上記(1)または(2)に記載の水性エマルション型粘着剤、
(4)前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが2−エチルヘキシルアクリレートおよびブチルアクリレートからなるものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤、
(5)さらにタッキファイヤーを含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤、
(6)固形分含有量が45〜65質量%である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤、
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤を基材に塗布して粘着剤層を設けてなる粘着シートおよび
(8)結露面または湿潤面貼付用である上記(7)に記載の粘着シートを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性エマルション型粘着剤を使用した粘着シートは、各種の被着体、特に結露または湿潤した被着体に対する粘着性に優れ、さらに、高速度(150〜500m/分程度)で塗工した場合でも、塗工欠陥が少なく、機械安定性(高速塗工安定性)に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の水性エマルション型粘着剤および粘着シートについて詳細に説明する。
まず、[A]成分であるアクリル系エマルションについて説明する。
本発明の水性エマルション型粘着剤を構成する[A]成分における不飽和単量体混合物中の(メタ)アクリル酸エステルとしては、エステル部分のアルキル基としてメチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基等、炭素数1〜20程度のアルキル基を有するアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルである。
これらの中でも、炭素数4〜12のものが好ましく、炭素数4〜8のものがさらに好ましい。具体的には、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等である。これらの(メタ)アクリル酸エステルは単独または2種以上の混合物として用いてもよいが、性能の観点からアクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルの組み合わせが好ましい。
【0009】
不飽和単量体混合物中のカルボキシル基含有不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、入手の容易さ、重合性等の観点からアクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
不飽和単量体混合物(100質量%)中、カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量は0.3〜0.8質量%であり、好ましくは0.35〜0.75質量%である。
カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量が0.3質量%未満では機械安定性、結露面または湿潤面への粘着力および塗工性に劣り、0.8質量%を超えると機械安定性および塗工性には優れているが、結露面または湿潤面への粘着力が低下する。
なお、本発明における結露面または湿潤面粘着力というのは、0℃環境下に放置したポリエチレン被着体を23℃、50%RH環境下に30秒放置後、同環境下にて被着体にサンプルを2kgのロールを1往復させて押圧して貼付し、貼付直後にJIS Z−0237の180°引き剥がし粘着力測定法に準じて測定したものである。
【0010】
不飽和単量体混合物には、必要に応じて、上記以外に(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのような(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等の水酸基含有単量体、酢酸ビニル、スチレン等を1種以上使用することができる。
【0011】
本発明の水性エマルション型粘着剤においては、前記不飽和単量体混合物をその100質量部に対して0.4〜1.2質量部、好ましくは0.4〜1.0質量部の界面活性剤存在下、水系溶媒中で乳化重合させることにより[A]成分のアクリル系エマルションが得られる。
界面活性剤の量が0.4質量部未満では、結露面または湿潤面への粘着力には優れているが、機械安定性および塗工性に劣る。1.2質量部を超えると機械安定性および塗工性には優れているが、結露面または湿潤面への粘着力が低下する。
【0012】
使用し得る界面活性剤としては、アニオン系やノニオン系乳化剤が挙げられる。アニオン系乳化剤としては、具体的にラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエ―テル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエ―テル硫酸ナトリウム等が挙げられる。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエ―テル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエ―テル等が挙げられる。また、プロペニル基、アクリロイル基等を導入したラジカル重合性の反応性乳化剤も使用することができる。これらの乳化剤を単独又は併用して使用することもできる。
反応性乳化剤としては、反応性を有する乳化剤であれば特に限定されないが、例えば、アニオン型、ノニオン型の反応性乳化剤が使用される。具体的には、アニオン型反応性乳化剤として「アデカリアソープSE−20N」、「アデカリアソープSE−10N」、「アデカリアソープPP−70」、「アデカリアソープPP−710」、「アデカリアソープSR−10」、「アデカリアソープSR−20」〔以上、旭電化工業社製〕、「エレミノールJS−2」、「エレミノールRS−30」〔以上、三洋化成工業社製〕、「ラテムルE−118B」、「ラテムルS−180A」、「ラテムルS−180」、「ラテムルPD−104」〔以上、花王社製〕、「アクアロンBC−05」、「アクアロンBC−10」、「アクアロンBC−20」、「アクアロンHS−05」、「アクアロンHS−10」、「アクアロンHS−20」、「ニューフロンティアS−510」、「アクアロンKH−05」、「アクアロンKH−10」〔以上、第一工業製薬社製〕、「フォスフィノ−ルTX」〔東邦化学工業社製〕、ノニオン型反応性乳化剤として「アデカリアソープNE−10」、「アデカリアソープNE−20」、「アデカリアソープNE−30」、「アデカリアソープNE−40」、「アデカリアソープER−10」、「アデカリアソープER−20」、「アデカリアソープER−30」、「アデカリアソープER−40」〔以上、旭電化工業社製〕、「アクアロンRN−10」、「アクアロンRN−20」、「アクアロンRN−30」、「アクアロンRN−50」〔以上、第一工業製薬社製〕等の市販品が挙げられる。
【0013】
アクリル系エマルション[A]の乳化重合の条件としては、特に限定されず、通常の乳化重合で適用される条件をそのまま適用することができる。一般的には、反応器内を不活性ガスで置換した後、還流下撹拌しながら昇温を開始し40〜100℃程度の温度範囲で昇温開始後1〜8時間程度重合を行う。
【0014】
アクリル系エマルション[A]を乳化重合法で調製する際、通常、重合開始剤が用いられる。重合開始剤として、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等のアゾ系、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパ―オキサイド、t−ブチルハイドロパ―オキサイド、過酸化水素等の過酸化物を使用することができる。又過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせや過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等からなるレドックス開始剤も使用することができる。これらの重合開始剤は、通常は、乳化重合の各段階ごとに所定量を添加して、重合反応を行わせるようにすればよい。
【0015】
アクリル系エマルション[A]を乳化重合法で調製する際、さらに、タッキファイヤー(粘着付与剤)を使用してもよい。タッキファイヤーを使用することにより、結露面または湿潤面への粘着力が優れた粘着剤が得られる。
タッキファイヤーの使用量は、不飽和単量体混合物100質量部に対して1〜15質量部(固形分換算)程度、好ましくは3〜10質量部(同)である。タッキファイヤーの使用量1質量部未満では結露面または湿潤面への粘着力が劣り、15質量部を超える量使用すると高速塗工安定性が劣るようになる。
タッキファイヤーとしては、ロジン系樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、アルキルフェノール樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、キシレン樹脂等が用いられる。
ロジン系樹脂とは、ロジンとロジン誘導体をいう。ロジンはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンである。ロジン誘導体としては、重合ロジン、不均化ロジン、水素化ロジン、強化ロジン、ロジンエステル、重合ロジンエステル、ロジンフェノールの形態が挙げられ、エステル化に使用する多価アルコールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等が使用できる。
石油系樹脂としては、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5−C9共重合系石油樹脂、クマロン樹脂、クマロン−インデン系樹脂、ピュアモノマー樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂およびこれらの水素化物等が挙げられる。
テルペン系樹脂としては、テルペン重合体、β−ピネン重合体、テルペンフェノール樹脂及び芳香族変性テルペン重合体等が挙げられる。アルキルフェノール樹脂およびキシレン樹脂としては、アルキルフェノール変性キシレン樹脂、ロジン変性キシレン樹脂等が挙げられる。
【0016】
次に、本発明の水性エマルション型粘着剤中の[B]成分であるアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションについて説明する。
[B]成分は、カルボキシル基を多量に有するポリマーを含有するエマルションで、水に分散されているポリマー粒子が、アンモニア水のようなアルカリの添加により溶解または膨潤して著しく増粘するため、一般的には水系の塗料、紙の塗工液、水性インク等の用途に粘性改良剤、ゲル化剤、チクソトロピー添加剤等として利用されている。
本発明の水性エマルション型粘着剤においては、このアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションを従来のような粘性改良剤として用いるのではなく、エマルション粒子の安定性向上を目的として用いる。
この[B]成分であるアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションは、一般に(メタ)アクリル酸エチルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これにアクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸のようなカルボキシル基を有する単量体を多量に加え、さらに、必要に応じて多官能性単量体のようなモノマーを少量加えて乳化重合により製造することができる。
多官能性単量体としては、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、1,6−ヘキサンジオ―ルジ(メタ)アクリレート、トリメチロ―ルプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の多官能性単量体が挙げられ、これらの群より選ばれる1種以上を使用することができる。多官能性単量体由来の単位の含有量は、[B]成分を構成する全単量体単位中0〜2質量%がよい。その含有量が2質量%を超える場合には、結露面または湿潤面への粘着力が低下する。
【0017】
また、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の会合性モノマーを乳化共重合する場合もある。(メタ)アクリル酸のようなカルボキシル基を有する単量体と(メタ)アクリル酸エチルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とすることは、乳化重合時の安定性とエマルションポリマーのアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型とが優れるためで、乳化重合の工程としては、重合性単量体滴下やプレエマルション滴下法により、有効成分20〜40質量%程度のものが製造され販売されている。(メタ)アクリル酸のようなカルボキシル基を有する単量体の使用量は10〜30質量%、好ましくは20質量%前後である。10質量%未満であると、重合安定性は向上するが、得られるカルボキシル基を多く持つポリマーのアルカリ可溶性またはアルカリ膨潤性が低下するおそれがある。30質量%を超えると、重合安定性が低下すると共に、アルカリ環境下において粘度上昇が大きくなるので好ましくない。
このアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションは、多官能性単量体の量や種類、得られるポリマーの分子量、会合性モノマーの種類によって、架橋性を調整することができ、それによって目的とする機械安定性や結露面または湿潤面への粘着力を調製することができる。
[B]成分であるアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションは市販されており、例えば、東亜合成(株)製「アロンB−300K」、同「アロンA−7075」、ローム・アンド・ハース(株)製「プライマルTT−615」等が挙げられる。
【0018】
本発明の水性エマルション型粘着剤においては、[A]成分と[B]成分の配合割合は、[A]成分中の不飽和単量体混合物100質量部当たり[B]成分が0.05〜0.9質量部である。
[B]成分の配合量が0.05質量部未満および0.9質量部を超える場合は、いずれも結露面または湿潤面への粘着力には優れているが、機械安定性および塗工性が低下する。
【0019】
本発明の水性エマルション型粘着剤はマーロン試験による残渣が1g以下であることを特徴としている。
前記のように、高速度(150〜500m/分程度)で塗工した場合でも、マーロン試験による残渣が1g以下であれば凝集物発生による塗工筋の発生が減少し、塗工機の機械安定性が良好であると判断することができる。
本発明におけるマーロン試験は、マーロン型機械安定性試験機〔テスター産業(株)社製〕により、水性エマルション型粘着剤50gを試料とし、荷重294N(30kg)、回転数1000rpm、シェア印加時間30分の条件にて行う機械安定性試験であり、試験後に凝集物を300メッシュのSUSフィルターで濾別し、残渣の乾燥(105℃で60分間)重量を測ることにより求めた量(g)である。
【0020】
本発明の水性エマルション型粘着剤においては、必要に応じて本発明の効果に影響しない範囲で、各種の添加剤、例えば、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料、老化防止剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤等を配合することができる。
【0021】
また、本発明の水性エマルション型粘着剤においては、固形分濃度は、好ましくは45〜65質量%、より好ましくは50〜60質量%である。
また、粘度は50〜5,000mPa・s、好ましくは100〜2,000mPa・s(BM型粘度計、60回転、25℃)である。さらに、pHは7.2〜9.0の範囲にある。
【0022】
次に、本発明の粘着シートにおける基材について詳細に説明する。
基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアラミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(4−メチルペンテン−1)等の樹脂製のシートやフィルム、上質紙、コート紙、グラシン紙、ラミネート紙等の紙基材等が用いられる。
基材の厚さは、使用する材料によって多少異なるが、通常は、5〜300μm程度であり、好ましくは、10〜100μm程度である。
【0023】
水性エマルション型粘着剤を基材または後記する剥離シートに塗布するには、同粘着剤のエマルションを調製して、それを、通常行われているグラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、リップコート法、カーテンコート法等を用いて行うことができる。
【0024】
基材上に形成させる粘着剤層の乾燥・硬化後の厚さは通常は、3〜50μm程度、好ましくは、5〜40μm程度である。粘着剤層の厚さを3μm以上とすることにより、本発明の粘着シートに必要な結露または湿潤粘着力を確保することができ、50μm以下とすることにより、コストアップを防ぐとともに、粘着剤層が端部からはみ出すのを防止する。
【0025】
次に、剥離シートについて詳細に説明する。
基材上に形成された粘着剤層の保護用の剥離シートとしては、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤をコーティングしたポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂フィルムや上質紙、グラシン紙、ラミネート紙等の紙基材に上記剥離剤をコーティングした剥離シートを用いることができる。剥離シートの厚さは使用する材料によって多少異なるが、通常は、10〜250μm、好ましくは、20〜200μmである。剥離剤層の厚さは、通常は、0.1〜5μm、好ましくは、0.5〜2μm程度である。
【0026】
本発明の粘着シートは、通常の感圧性接着シ―ト類の製造方法にしたがって、前記の基材上に水性エマルション型粘着剤を直接塗工後乾燥することにより、あるいは前記の剥離シートの剥離剤層上に塗工後乾燥したのち、前記の基材上に転写することにより粘着剤層を形成させ、シ―ト状やテ―プ状等のロールや積層体、または単葉で剥離シートと貼付された形態とされた粘着シ―ト類とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、以下において、単に部あるいは%とある場合はすべて質量部あるいは質量%を意味するものである。
【0028】
<実施例1〜8>
(1)粘着剤の調製
2−エチルヘキシルアクリレート(表中の略号2−EHA)40質量部、ブチルアクリレート(表中の略号BA)60質量部、表1に記載した各部数のアクリル酸(カルボキシル基含有不飽和単量体、表中の略号AA)からなる不飽和単量体混合物にタッキファイアー(表中の略号TF)であるテルペンフェノール樹脂[荒川化学工業社製、商品名「タマノル901」]6質量部を攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートを有する反応容器に投入して約30℃に保ちながら、30分間攪拌し溶解させた。
上記成分を均質に溶解させた後、同温度で表1に記載した部数のアニオン系界面活性剤[第一工業製薬社製、商品名「ニューフロンティアA−229E」]をイオン交換水57質量部に分散させた分散液を加え、30分間攪拌して不飽和単量体混合物等を含む乳化物を作製した。
別途、攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを備えた反応容器に脱イオン水40部を投入し、窒素を流入させながら、反応容器内の温度を80℃まで昇温させ、濃度が5質量%になるように過硫酸カリウム4部を仕込んで溶解させた。この中に予め調製した前記不飽和単量体混合物等を含む溶液を約80℃に保ちながら3時間かけて滴下した。
乳化物の滴下と並行して濃度5質量%の過硫酸カリウム水溶液4部を滴下して反応容器内の温度を80〜83℃に保持しながら3時間攪拌して乳化重合を行なった。
滴下終了後、1時間目および2時間目に、それぞれ過硫酸カリウム1質量部ずつ添加して重合を完結させ、同温度で3時間熟成した後室温に冷却して[A]成分であるアクリル系エマルションを調製した。
次いで、pHが8.0になるように25質量%アンモニア水を加えて調整し、さらに表1に記載した部数の[B]成分であるアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[アクリル酸エチル100質量部およびメタクリル酸20質量部をドデシルメルカプタン0.2質量部存在下で乳化共重合したもの、固形分濃度25質量%]を添加して水性エマルション型粘着剤(固形分濃度55質量%)を得た。
【0029】
(2)粘着シートの製造および粘着剤面の観察
幅1mのグラシン紙の片面にシリコーン系剥離剤で表面処理された剥離シート(長さ5000m)上に、上記実施例で得られた水性エマルション型粘着剤および下記比較例で得られた比較用の水性エマルション型粘着剤を乾燥後の厚さが20μmになるようにグラビアコーターを用いて塗工速度250m/分で塗工し、100℃で乾燥後、基材として坪量55g/m2の上質紙に貼り合わせ、形成された粘着剤層を上質紙側に転写させ粘着シートを製造した。製造された粘着シート(10m)の剥離シートを剥離して上質紙側に転写された粘着剤層面の状態を観察した。
表1における粘着剤層面の状態(高速塗工性)の評価基準は以下の通りである。
○:塗工筋が観察されない。
△:塗工筋が1m幅に1〜3本観察される。
×:塗工筋が1m幅に4本以上観察される。
【0030】
〔比較例1〜6〕
表1に示す量のアクリル酸およびアニオン系乳化剤を不飽和単量体混合物に混合して乳化重合し、乳化重合後、表1に示す量のアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルションを添加した以外は実施例と同様に行い、比較用の水性エマルション型粘着剤を得た。
比較用の水性エマルション型粘着剤及び粘着シートの性能評価結果を併せて表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1中の[A]を除く成分量の数値は[A]の単量体成分合計100質量部に対する有効成分量を示す。
使用した[A]成分における略号は下記の通りである。
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
BA:n−ブチルアクリレート
MAA:メタクリル酸
【0033】
表1から以下のことが明らかである。
(1)実施例1〜9における水性エマルション型粘着剤は機械安定性が高く塗工性が良好であり、結露(湿潤)面に対する粘着力も高い。
(2)比較例1では[A]成分中のアクリル酸の量が少ないため、水性エマルション型粘着剤の機械安定性が低く、凝集物の発生量が多い。しかも、結露(湿潤)面に対する粘着力も低い。
(3)比較例2では[A]成分中のアクリル酸の量が多いため、水性エマルション型粘着剤の機械安定性は良いが、結露(湿潤)面に対する粘着力が低い。
(4)比較例3では[A]成分中の乳化剤の使用量が少ないため、結露(湿潤)面に対する粘着力は実施例並みであるが、機械安定性が低く凝集物の発生量が多い。
(5)比較例4では[A]成分中の乳化剤の使用量が多いため、機械安定性が高く凝集物の発生量が少ないが、結露(湿潤)面に対する粘着力は低い。
(6)比較例5では[B]成分の使用量が0のため、結露(湿潤)面に対する粘着力は実施例並みであるが、機械安定性が低く凝集物の発生量が多い。
(7)比較例6では[B]成分の使用量が多いため、結露(湿潤)面に対する粘着力は実施例並みであるが、機械安定性は低く凝集物の発生量が多い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびカルボキシル基含有不飽和単量体から本質的になる不飽和単量体混合物(カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量0.3〜0.8質量%)100質量部当たり界面活性剤0.4〜1.2質量部存在下、乳化重合させて得られたアクリル系エマルション[A]と、前記不飽和単量体混合物100質量部当たりアルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[B]を0.05〜0.9質量部含む水性エマルション型粘着剤であって、マーロン試験による残渣が1g以下であることを特徴とする水性エマルション型粘着剤。
【請求項2】
アルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[B]がアクリル酸エチルおよび(メタ)アクリル酸を共重合したエマルションである請求項1記載の水性エマルション型粘着剤。
【請求項3】
前記アルカリ可溶型またはアルカリ膨潤型エマルション[B]が10〜30質量%のカルボキシル基含有不飽和単量体単位を含むポリマーエマルションである請求項1または2記載の水性エマルション型粘着剤。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが2−エチルヘキシルアクリレートおよびブチルアクリレートからなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤。
【請求項5】
さらにタッキファイヤーを含む請求項1〜4のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤。
【請求項6】
固形分含有量が45〜65質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性エマルション型粘着剤を基材に塗布して粘着剤層を設けてなる粘着シート。
【請求項8】
結露面または湿潤面貼付用である請求項7に記載の粘着シート。

【公開番号】特開2009−173707(P2009−173707A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11475(P2008−11475)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】