説明

粘着剤層、粘着シート及び表装用シート

【課題】通気性、粘着性、塗工作業性に優れた粘着剤層を提供する。
【解決手段】粘着剤組成物に気体を混合分散して調製された、密度0.3〜0.97g/mlの気泡含有粘着剤組成物を、基材に塗工、乾燥することにより形成された粘着剤層。以下のマイクロスコープ測定により求められた気泡の粒の平均個数が5〜100個である。
<マイクロスコープ測定>
当該粘着剤層の表面をマイクロスコープ観察し、A4シートサイズの面積の中からランダムに採取した面積6mmのサンプル円内に存在する気泡の粒の個数を数え、5個のサンプル円内の気泡の粒の個数の平均値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着剤組成物を塗布、乾燥することにより形成された粘着剤層と、この粘着剤層を有する粘着シートと、この粘着シートを用いた表装用シートに関する。
詳しくは、本発明は、通気性に優れ、貼着対象への貼り合わせ時の気泡の混入を軽減ないしは解消することができる粘着剤層、粘着シート及び表装用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の壁や自動車等の内装部品に貼着する壁紙、カバー材等の表装用シートとして、紙、樹脂、布、皮、合成皮革等の表装材の裏面側に粘着剤層が形成され、この粘着剤層に剥離性シートが貼り合わされたものが提供されている。
このような表装用シートを使用する場合は、裏面の剥離性シートを取り去って粘着剤層を表出させ、表出した粘着剤層を貼着対象面に当接して表装材を貼着する。
【0003】
このようにして表装用シートを貼着対象に貼着する場合、表装用シートの粘着剤層側と貼着対象面との間に空気を巻き込むと、気泡の混入で貼着された表装材の表面が凹凸面となったり、皺がよったりして、美麗な表装面とならない。
粘着剤層の通気性が良好であれば、表装用シートの貼着後、表装材面側の表面を押圧しながら擦り、巻き込んだ気泡を押し出すようにすることにより、混入した気泡を粘着剤層を介して押し出すことができる。
【0004】
しかしながら、従来の一般的な粘着剤組成物を塗布、乾燥して形成される粘着剤層は、通気性が十分ではなく、上述のように、貼着後の調整で巻き込んだ気泡を押し出すことはできなかった。
このため、粘着剤組成物により形成される粘着剤層の通気性の改善が望まれる。
【0005】
なお、従来において、粘着剤組成物に気泡を混合して低密度化することは知られており、例えば、特開平7−48550号公報には、エマルジョン型アクリル系粘着剤組成物中に気泡を混合分散させて、密度0.3〜0.6g/mlの粘着剤組成物とし、これにより形成される粘着剤層に微細な孔を形成して粘着剤層の吸水性を向上させることが記載されている。
ただし、この特開平7−48550号公報では、気泡混合後の粘着剤組成物に更に架橋剤を添加しており、また、気泡混合後の粘着剤組成物の塗布乾燥による粘着剤層の形成までの時間や形成された粘着剤層の気泡の粒の数等と通気性との関係についての検討は全くなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−48550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、通気性、粘着性、塗工作業性に優れた粘着剤層を提供することを課題とする。本発明はまた、剥離性シート上にこの粘着剤層を形成した粘着シートと、この粘着シートを用いた表装用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、気体を混合分散させて得られた所定の密度の気泡含有粘着剤組成物を用いて形成された、表面に所定の個数の気泡の粒が観察される粘着剤層であれば、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 粘着剤組成物に気体を混合分散して調製された、密度0.3〜0.97g/mlの気泡含有粘着剤組成物を、基材に塗工して、乾燥することにより形成された粘着剤層であって、以下のマイクロスコープ測定により求められた気泡の粒の平均個数が5〜100個であることを特徴とする粘着剤層。
【0011】
<マイクロスコープ測定>
当該粘着剤層の表面をマイクロスコープ観察し、A4シートサイズの面積の中からランダムに採取した面積6mmのサンプル円内に存在する気泡の粒の個数を数え、5個のサンプル円内の気泡の粒の個数の平均値を算出する。
【0012】
[2] [1]において、前記気泡の粒の平均個数の算出で観測された気泡の粒の平均直径が50〜200μmであることを特徴とする粘着剤層。
【0013】
[3] [1]又は[2]において、前記気泡含有粘着剤組成物の密度が0.7〜0.97g/mlであることを特徴とする粘着剤層。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記気泡含有粘着剤組成物を調製後24時間以内に基材に塗工することにより形成されたことを特徴とする粘着剤層。
【0015】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記マイクロスコープ測定により求められた気泡の粒の平均個数が30〜60個であることを特徴とする粘着剤層。
【0016】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記気泡の粒の平均個数の算出で観測された気泡の粒の平均直径が100〜150μmであることを特徴とする粘着剤層。
【0017】
[7] 前記基材としての剥離性シート上に[1]ないし[6]のいずれかに記載の粘着剤層が形成された粘着シート。
【0018】
[8] [7]の粘着シートの前記粘着剤層側に表装材が貼着された表装用シート。
【発明の効果】
【0019】
本発明の粘着剤層は、粘着剤組成物本来の粘着性、塗工作業性を損なうことなく、通気性が十分に高められたものであるため、表装用シート等としての用途において、貼着対象面への貼着時に空気を巻き込んでも、巻き込んだ気泡を粘着剤層を介して押し出すことができ、表装用シートを良好な作業性のもとに貼着面に貼着して美麗な表装面を形成することができる。
【0020】
本発明は、住宅の壁材や自動車の内装材としての表装用シート用途に有用であるが、何らこれらに限定されるものではなく、粘着剤層を有する各種の材料に幅広く用いることができ、気泡の巻き込みによる問題を解消ないし軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例及び比較例における通気性評価方法を示す説明図であり、図1(a),(b)は斜視図、図1(c),(d)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
[粘着剤層]
{粘着剤組成物}
まず、本発明の粘着剤層を形成する粘着剤組成物について説明する。
【0024】
本発明で用いる粘着剤組成物については、特に制限はないが、アクリル系重合体を含有する水系エマルジョン系の粘着剤組成物が好ましい。以下に、このアクリル系重合体の水系エマルジョン系粘着剤組成物について説明する。
なお、以下において「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」を意味する。
【0025】
このアクリル系重合体エマルジヨンは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体を、乳化剤を安定剤として、水媒体中で乳化重合させることにより得られるものである。
【0026】
この乳化重合は、公知の方法に準じて行えばよく、一般の一括重合法、連続滴下重合法、分割滴下重合法などにより、通常30〜80℃の温度範囲で重合処理すればよい。これらの重合法や重合温度などの重合条件は、特に限定されない。反応系には、アクリル系重合体の分子量を調整するために、メルカプタンなどの連鎖移動剤を使用してもよい。
【0027】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニルなどの炭素数14個以下のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルや、上記同様のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、これらのエステルを主成分として、適宜の改質用単量体を併用してもよい。
改質用単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフエイト、2−ヒドロキシプロピルアクリロイルホスフエイト、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−3−モノモルホリン、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−1,3−オキサジン−2−オン、N−ビニル−3,5−モルホリンジオンなどがある。これらの改質用単量体は、単量体全体量に対して通常50重量%未満の割合で用いられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
乳化重合に際し、適宜の重合開始剤が用いられる。この重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムなどとのレドックス系開始剤などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
また、安定剤として用いられる乳化剤は、特に限定されないが、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエ―テル硫酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエ―テル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエ―テルなどのノニオン系乳化剤などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
また、乳化剤としては、反応性乳化剤を用いることもできる。
反応性乳化剤とは、親水基と疎水基を有する界面活性剤であって、分子中に炭素−炭素二重結合を有するものをいう。炭素−炭素二重結合としては、例えば、(メタ)アリル基、1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ビニル基、イソプロペニル基、(メタ)アクリロイル基等の官能基が挙げられる。反応性乳化剤の具体例としては、例えば、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルエーテル、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルエーテルのスルホコハク酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンフェニルエーテル、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンフェニルエーテルのスルホコハク酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンフェニルエーテルの硫酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのスルホコハク酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアラルキルフェニルエーテル、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアラルキルフェニルエーテルのスルホコハク酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアラルキルフェニルエーテルの硫酸エステル塩や、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのリン酸エステル塩、前記官能基を分子中に少なくとも1つ有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの脂肪族又は芳香族カルボン酸塩、酸性リン酸(メタ)アクリル酸エステル系乳化剤、ロジングリシジルエステルアクリレートの酸無水物変性物(特開平4−256429号参照)、特開昭63−23725号公報、特開昭63−240931号公報、特開昭62−104802号公報に記載の乳化剤等の各種のものが挙げられる。さらには前記反応性乳化剤中のポリオキシエチレンを、ポリオキシプロピレン又はポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンをブロック共重合もしくはランダム共重合したもの代えたものも挙げられる。本発明では、かかる反応性乳化剤の1種又は2種以上を特に限定なく使用できる。
【0032】
前記反応性乳化剤の市販品としては、例えば、(商品名KAYAMERPM−1、日本化薬(株)製)、(商品名KAYAMER PM−2、日本化薬(株)製)、(商品名KAYAMER PM−21、日本化薬(株)製)、(商品名SE−10N、旭電化工業(株)製)、(商品名NE−10、旭電化工業(株)製)、(商品名NE−20、旭電化工業(株)製)、(商品名NE−30、旭電化工業(株)製)、(商品名ニューフロンティアA229E、第一工業製薬(株)製)、(商品名ニューフロンティアN−117E、第一工業製薬(株)製)、(商品名ニューフロンティアN250Z、第一工業製薬(株)製)、(商品名アクアロンRN−10、第一工業製薬(株)製)、(商品名アクアロンRN−20、第一工業製薬(株)製)、(商品名アクアロンRN−50、第一工業製薬(株)製)、(商品名アクアロンHS−10、第一工業製薬(株)製)、(商品名エミノールJS−2、三洋化成(株)製)、(商品名ラテルムK−180、花王(株)製)等がその代表例として挙げられる。
【0033】
前記反応性乳化剤のなかでも、重合性、得られる高分子乳化剤の乳化性の点からポリオキシエチレンフェニルエーテル系のものがよく、市販品としては、(商品名アクアロンRN−10、第一工業製薬(株)製)、(商品名アクアロンRN−20、第一工業製薬(株)製)、(商品名アクアロンRN−50、第一工業製薬(株)製)が好ましい。
【0034】
また、必要に応じて粘着付与樹脂を添加することもできる。
【0035】
粘着付与樹脂は各種公知のものを使用できる。例えばロジン類、ロジン誘導体、石油系樹脂、テルペン系樹脂等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合物として使用できる。
【0036】
ロジン類としてはガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジンの原料ロジン又は前記原料ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジンや重合ロジン等が挙げられる。また、ロジン誘導体としてはロジンエステル類、ロジンフェノール類が挙げられる。ロジンエステル類としては前記ロジン類と多価アルコールとをエステル化反応させて得られたロジンエステル、原料ロジンを部分的にフマル化もしくはマレイン化し、次いでエステル化して得られる部分マレイン化もしくは部分フマル化ロジンの多価アルコールエステル、原料ロジンを部分的にフマル化もしくはマレイン化させた後、不均化し、次いでエステル化して得られる部分マレイン化もしくは部分フマル化不均化ロジンの多価アルコールエステル等をいう。また、ロジンフェノール類とはロジン類にフェノール類を付加させ熱重合したもの、又は次いでエステル化したものをいう。なお、前記エステル化に用いられる多価アルコールは、特に制限はされず、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール等の各種公知のものを例示できる。
【0037】
また、石油系樹脂とはC5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5−C9共重合系石油樹脂、クマロン樹脂、クマロン−インデン系樹脂、ピュアモノマー樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂及びこれらの水素化物等を例示でき、テルペン系樹脂としてはα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂や、α−ピネン、β−ピネン等のテルペン類とスチレン等の芳香族モノマーを共重合させた芳香族変性のテルペン系樹脂及びこれらの水素化物等を例示できる。
【0038】
これら粘着付与樹脂の軟化点は特に限定されず200℃以下の高軟化点のものから液状のものを、各種用途に応じて適宜選択して使用できる。
【0039】
粘着剤組成物には、その他、顔料、染料等の着色剤や、充填材、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を添加してもよい。
【0040】
このような気体の混合前の粘着剤組成物の密度には特に制限はないが、通常0.95〜1.1g/ml程度である。
【0041】
{気泡含有粘着剤組成物}
本発明においては、上述のような粘着剤組成物に気体を混合、分散させて気泡含有粘着剤組成物を調製する。
【0042】
粘着剤組成物への気体の混合、分散方法としては特に制限はなく、以下の(1)〜(4)の方法などを採用することができる。
これらの方法は2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(1) 粘着剤組成物をディスパーやホモジナイザー等で高速攪拌する
(2) 窒素ガス、炭酸ガス、空気等の気体を吹き込む
(3) 上記気体を吹き込みつつ高速攪拌する(メカニカルフロス)
(4) アゾジカーボンアミド等の発泡剤を粘着剤組成物中で発泡させる。この際、泡保持性の高い界面活性剤を添加すると、長期間安定的に気泡を維持することができる。
【0044】
本発明においては、所定の密度の気泡含有粘着剤組成物が調製されればよく、上記の粘着剤組成物への気体の混合、分散方法の処理条件(例えば攪拌時の回転数等)には特に制限はない。
【0045】
粘着剤組成物に気体を混合、分散させて得られる気泡含有粘着剤組成物の密度は0.3〜0.97g/ml、好ましくは0.7〜0.97g/mlである。この密度が上記下限よりも小さいと粘着剤組成物の流動性が悪くなることにより、塗工性が悪くなり、所謂糊切れといった塗工不良を起こす。気泡含有粘着剤組成物の密度が上記上限よりも大きいと、通気性に優れた粘着剤層を形成し得ない。
【0046】
{粘着剤層の形成}
本発明の粘着剤層は、上述の密度範囲の気泡含有粘着剤組成物を基材に塗工、乾燥することにより形成される。
【0047】
ここで、基材としては特に制限はないが、通常、後述の剥離性シートが用いられる。ただし、本発明の粘着剤層は、表装材等のシートに直接形成されてもよい。
【0048】
気泡含有粘着剤組成物の塗工、乾燥方法には特に制限はなく、常法に従って行うことができる。
【0049】
塗工方法としてはロールコータ、ダイコータなどを用いることができる。
また乾燥は、用いた粘着剤組成物の組成や形成される粘着剤層の厚さによっても異なるが、通常、60〜100℃で2〜10分程度行われる。
【0050】
{粘着剤層の厚さ}
本発明の粘着剤層の厚さは特に制限はなく、用途や要求される粘着性等に応じて適宜決定される。
一般的に、厚さが薄い方が通気性は高められるが粘着性が不足する傾向にあり、厚さが厚くなると、粘着性は増すが、材料使用量の増大、乾燥時間の増大でコスト面で不利である。通常、通気性の面では、厚さは薄い方が好ましいが、本発明の粘着剤層は通気性に優れるため、通気性の面からの厚さの上限は特に定めない。
【0051】
粘着剤層は、通常30〜100μm、好ましくは50〜80μm、特に好ましくは60〜70μmの厚さに形成される。
【0052】
{気泡の粒の平均個数}
本発明の粘着剤層は、以下のマイクロスコープ測定により観察された気泡の粒の平均個数が30〜100個、好ましくは30〜60個であることを特徴とする。
【0053】
<マイクロスコープ測定>
当該粘着剤層の表面をマイクロスコープ観察し、A4シートサイズの面積の中からランダムに採取した面積6mmのサンプル円内に存在する気泡の粒の個数を数え、5個のサンプル円内の気泡の粒の個数の平均値を算出する。
【0054】
この気泡の粒の平均個数が30個より少ないと、本発明で目的とする優れた通気性を得ることができない。
この気泡の粒の平均個数が多過ぎると糊切れが悪くなると共に、粘着性が損なわれる場合がある。即ち、気泡の粒が多いことにより通水性が大きくなり、表装用シートとした場合の耐水粘着性が劣る傾向があることから、この気泡の粒の平均個数は100個以下、好ましくは60個以下である。
【0055】
{気泡の粒の平均直径}
本発明の粘着剤層は、上述の気泡の粒の平均個数の算出で観測された気泡の粒の平均直径が50〜200μm、特に100〜150μmであることが好ましい。
気泡の粒の平均直径が大き過ぎると粘着性態が悪くなる恐れがあり、小さ過ぎると通気性が悪くなる。また、気泡の粒の平均直径が大き過ぎても小さ過ぎても、上述の平均個数の気泡分布とすることが難しい。
【0056】
{気泡の粒の平均個数調整のための工夫}
本発明においては、通気性、粘着性、塗工作業性をいずれも良好なものとするために、前述の密度の気泡含有粘着剤組成物を用いて、上述の気泡の粒の平均個数の粘着剤層を形成することに特徴を有するが、本発明に係る気泡の粒の平均個数の粘着剤層を形成するためには、粘着剤組成物に気体を混合、分散させて気泡含有粘着剤組成物を調製した後、この気泡含有粘着剤組成物を調製後24時間以内に塗工に供して粘着剤層を形成することが好ましい。
【0057】
即ち、密度0.3〜0.97g/mlの気泡含有粘着剤組成物であれば、前述の気泡の粒の平均個数を満たす粘着剤層を形成し得るが、この気泡含有粘着剤組成物を調製後、長期間保存した後塗工に供すると、気泡含有粘着剤組成物自体の密度には殆ど差異はないものの、保存中に、気泡含有粘着剤組成物内の気泡同士が会合して大きな気泡となり、この大きな気泡は、塗工工程でロールコータやダイコータによる塗工時に成膜面から押し出され、形成される粘着剤層中に存在しないものとなる。このため、たとえ密度調整された気泡含有粘着剤組成物を用いても、前述の気泡の粒の平均個数を満たす粘着剤層を形成し得なくなる。
このようなことから、本発明では、調製された気泡含有粘着剤組成物を調製後24時間以内、特に4時間以内に塗工に供することが好ましい。
なお、この気泡含有粘着剤組成物の調製後とは、粘着剤組成物に気体を混合、分散させる前述の(1)〜(4)の処理を終了した時点をさす。
【0058】
[粘着シート]
本発明の粘着シートは、上述のような本発明の粘着剤層を剥離性シートの剥離面に形成してなるものであり、従って、この粘着シートの剥離性シート上の粘着剤層の表面には、前述のように平均個数5〜100個の気泡の粒が形成されている。
【0059】
この粘着シートの粘着剤層側を、各種の表装材等に貼り合わせて表装用シートが製造される。
【0060】
[表装用シート]
本発明の表装用シートは、上述の本発明の粘着シートの粘着剤層側に表装材を貼着してなるものであり、剥離性シートを剥がして各種の貼着対象面に表装材を貼着する用途に用いられる。
この表装材としては、紙、布(織布、不織布)、樹脂シート、皮、合成皮革、セラミックシート、金属シート等、或いはこれらのシートの積層シート等が適用される。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0062】
以下の実施例及び比較例において、粘着剤組成物としては、積水化学工業(株)製アクリル系重合体水系エマルジョン「#7110」(密度1.05g/ml)を用いた。
また、粘着剤組成物への空気の混合、分散にはプライミクス(株)製ホモジナイザー「TOKオートミクサー40型」を用い、その処理時間を調整することにより、得られる粘着剤組成物の密度を調整した。
【0063】
[実施例1〜6、比較例1〜4]
粘着剤組成物に空気を混合、分散させて(ただし、比較例1では、空気を混合せず粘着剤組成物のまま)表1に示す密度の気泡含有粘着剤組成物を調製し、この気泡含有粘着剤組成物又は粘着剤組成物を表1に示す時間保存した後、剥離性シート(リンテック社製「SBK70J」)にバーコーターを用いて塗工し、80℃で5分間乾燥することにより、厚さ60〜80μmの粘着剤層を形成した。
【0064】
なお、実施例1〜6において、この粘着剤層形成時の気泡含有粘着剤組成物塗工時において、円滑に均一な厚さの粘着剤層を形成することができ塗工作業性良好であった。
【0065】
形成された粘着剤層について、以下の評価を行って、結果を表1に示した。
【0066】
{気泡の粒の平均個数・平均直径の測定}
前述のマイクロスコープ観察により平均個数と平均直径を求めた。
【0067】
{貼り合わせ性、通気性の評価}
<貼着試験>
剥離性シート上に形成された粘着剤層面に表装材(図1における表装材1)として(株)ブリヂストン製「エーテル系ウレタンFLG」を貼り付けて15cm×15cmの表装用シートを作製し、図1(a)に示すように、この表装用シートの剥離性シートを剥し取り、表出した粘着剤層2面にスポンジ(5cm×5cm×厚み3cm)3を貼り付けた試料シート4を、図1(b)のように貼着対象(ポリプロピレン板)面5に貼り付け、その後上方から押圧して試料シート4と貼着対象面5との間を空気を押し出した。空気が十分に押し出され、試料シート4面が図1(c)に示すように良好な平坦面となったものを通気性非常に良好「◎」とし、◎ほどでもないが、ほぼ平坦面になったものを通気性良好「○」とし、空気が抜けず、図1(d)に示すようにスポンジ3の凸部が残るものを通気性不良「×」とした。
【0068】
<通気量試験>
TEX TEST社製通気度試験機「FX3300型」を用いて測定した。
【0069】
これらの評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より、本発明の粘着剤層は通気性、粘着性、塗工作業性に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
1 表装材
2 粘着剤層
3 スポンジ
4 試料シート
5 貼着対象面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤組成物に気体を混合分散して調製された、密度0.3〜0.97g/mlの気泡含有粘着剤組成物を、基材に塗工して、乾燥することにより形成された粘着剤層であって、
以下のマイクロスコープ測定により求められた気泡の粒の平均個数が5〜100個であることを特徴とする粘着剤層。
<マイクロスコープ測定>
当該粘着剤層の表面をマイクロスコープ観察し、A4シートサイズの面積の中からランダムに採取した面積6mmのサンプル円内に存在する気泡の粒の個数を数え、5個のサンプル円内の気泡の粒の個数の平均値を算出する。
【請求項2】
請求項1において、前記気泡の粒の平均個数の算出で観測された気泡の粒の平均直径が50〜200μmであることを特徴とする粘着剤層。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記気泡含有粘着剤組成物の密度が0.7〜0.97g/mlであることを特徴とする粘着剤層。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記気泡含有粘着剤組成物を調製後24時間以内に基材に塗工することにより形成されたことを特徴とする粘着剤層。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記マイクロスコープ測定により求められた気泡の粒の平均個数が30〜60個であることを特徴とする粘着剤層。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記気泡の粒の平均個数の算出で観測された気泡の粒の平均直径が100〜150μmであることを特徴とする粘着剤層。
【請求項7】
前記基材としての剥離性シート上に請求項1ないし6のいずれか1項に記載の粘着剤層が形成された粘着シート。
【請求項8】
請求項7の粘着シートの前記粘着剤層側に表装材が貼着された表装用シート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−241358(P2011−241358A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117345(P2010−117345)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】