説明

粘着剤用樹脂組成物水性分散体及び粘着剤組成物

【課題】 本発明の課題は、重合安定性および重合物の安定性に優れ、かつ良好な耐水性を有する粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用樹脂組成物水性分散体を提供する事である。
【解決手段】 ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体、好ましくはラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤が、0.05〜5重量部用いられる事を特徴とする上記発明に記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着剤用樹脂組成物水性分散体に関するものである。詳しくは重合安定性および重合物の安定性に優れ、かつ耐水白化性に優れており特に意匠性が高度に要求されるラベル用途やオーバーラミネート用途など透明なフィルム基材に対しても好んで用いる事ができる粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用樹脂組成物水性分散体に関する。さらに詳しくは重合時に乳化剤として分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する化合物を使用する事により上記のような効果を奏する粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用樹脂組成物水性分散体に関するものである。
さらに、本発明は、上記粘着剤用樹脂組成物水性分散体を含有する水性粘着剤組成物に関する。
また、本発明は、上記粘着剤用樹脂組成物水性分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年安全衛生および環境問題に対する配慮から脱溶剤化が進行し、粘着剤においても溶剤型から水性型への移行が進行しつつある。しかしながら水性粘着剤においては、エマルジョン重合時に使用される乳化剤の影響、または粘着剤塗装時に塗膜のハジキを防止し、平滑性を確保する目的で添加されるレベリング剤等の影響により水性粘着剤の乾燥塗膜の耐水性は溶剤型粘着剤に比べて劣るという欠点を有していた。
【0003】
この欠点を改善するため、従来よりエマルジョン重合時に使用する乳化剤の総量を低減したり、イオン性である物に比べて水に対する親和性の弱い非イオン性の乳化剤を使用するなどして耐水性を向上する試みがなされて来ている。しかしながら重合時に凝集物が多量に発生したり、重合物の安定性が乏しいなどの欠点が生じ、実用化は困難であった。
また乳化剤の構造中にビニル基やアリル基等の重合性基を導入し、重合時に粘着剤用樹脂組成物の主たる構成成分であるエチレン性不飽和単量体と共重合せしめ、重合後に遊離残存する乳化剤量を低減させることにより耐水性を向上する試みもなされて来ているが、未だ実用に供せられるまでに至っていないのが現状である。
一方、使用するエチレン性不飽和単量体の選択という観点から、水に対する親和性を付与するために併用されるアクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基を含有する単量体の量を低減する事により耐水性を向上する試みもなされて来ているものの、重合時に凝集物が多量に発生したり、重合物の安定性が乏しいなどの欠点が生じ、実用化は困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、重合安定性および重合物の安定性に優れ、かつ良好な耐水性を有する粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用樹脂組成物水性分散体を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体に関し、
第2の発明は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤が、0.05〜5重量部用いられる事を特徴とする上記発明に記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体に関し、
第3の発明は、分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤が、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上である事を特徴とする上記いずれかの発明に記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体に関する。
【0006】
第4の発明は、上記いずれかの発明に記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を含有する事を特徴とする水性粘着剤組成物に関する。
【0007】
第5の発明は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合する事を特徴とする粘着剤用樹脂組成物水性分散体の製造方法に関し、
第6の発明は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤が、0.05〜5重量部用いられる事を特徴とする上記第5の発明に記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体の製造方法に関し、
第7の発明は、分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤が、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上である事を特徴とする上記第5又は第6の発明に記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘着剤用組成物水性分散体は、重合時の安定性や重合物の安定性を損なう事なく良好な耐水性を有する粘着剤組成物を提供できる。そのため、特に意匠性が高度に要求されるラベル用途やオーバーラミネート用途などのような透明なフィルム基材に対して適用される場合でも好んで用いる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、(a)アルキル基の炭素数が1〜14であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(a)アルキル基の炭素数が1〜14であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、[メチルアクリレートとメチルメタクリレートを併せてメチル(メタ)アクリレートと表記する。以下同様。]、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどの直鎖または分岐脂肪族アルコールのアクリル酸エステル及び対応するメタクリル酸エステルなどが例示できる。なかでも、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられる。これらは、エチレン性不飽和単量体100重量%中、70〜99.5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いることができる。
【0010】
上記単量体(a)は、(b)カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体と共重合する事が好ましい。
(b)カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが例示できる。これらは、エチレン性不飽和単量体全100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いることができる。
【0011】
(a)、(b)以外の単量体としては、必要に応じて配合する架橋剤の種類に応じて、(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能な(メタ)アクリル単量体や(d)カルボニル基を有する共重合可能な(メタ)アクリル単量体が用いられる。
(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能なアクリル単量体としては、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらは、エチレン性不飽和単量体全100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いることができる。
(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能なアクリル単量体を使用する場合に、粘着剤組成物を得る際に配合し得る架橋剤としては、イソシアネート化合物、チタンやジルコニウムなどの金属のアルコキシド化合物等が挙げられる。
【0012】
(d)カルボニル基を有する共重合可能なアクリル単量体としては、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロール、好ましくは4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトンなど)、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−(メタ)アクリレート−アセチルアセテート等が例示できる。
これらは、エチレン性不飽和単量体全100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いることができる。
(d)カルボニル基を有する共重合可能なアクリル単量体を使用する場合に、粘着剤組成物を得る際に配合し得る架橋剤としては、アミン類、ヒドラジド化合物等が挙げられる。
【0013】
その他の単量体としては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ−(2−ヒドロキシルエチル−α−クロロ(メタ)アクリレート)アシッドホスフェート、ビニルブロックトイソシアネート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−トリブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルエステル、ビニルピリジン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレンなどが例示できる。これらは必要に応じて、30重量%以下で含有することができ、単独であるいは2種類以上併用して用いることができる。
【0014】
さらに、本発明の粘着剤用樹脂組成物水性分散体中の分散粒子は、粒子内架橋構造を有していてもよい。
粒子内架橋剤としては、フタル酸のジアリルエステルや多官能アクリル系単量体等の各種多官能単量体を用いることができる。
フタル酸のジアリルエステルとしては、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のジアリルエステルが、
また、多官能アクリル系単量体としては、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらはエチレン性不飽和単量体全100重量%中、0.1〜3重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いることもできる。
【0015】
本発明に用いられる、分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤として、モノエステル及びジエステルのどちらも使用する事ができる。モノエステルとしては、スルホコハク酸ラウリル−2ナトリウム、スルホコハク酸ラウレス−2ナトリウム、スルホコハク酸(C12−14)パレス−2ナトリウム、スルホコハク酸シトステレス−14−2ナトリウムなどが例示できる。
ジエステルとしては、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジペンチルスルホコハク酸ナトリウム、 ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウムなどが例示できる。
【0016】
本発明に用いられる、分子中にコハク酸アミド構造を有する乳化剤としては、N−オクタデシルスルホコハク酸アミド−2ナトリウムなどが例示できる。
【0017】
また本発明に用いられるコハク酸化合物は、分子中にエステルおよびアミド構造の両方を有していてもよく、このような化合物としてはスルホコハク酸ラウラミドMEA−2ナトリウム(「MEA」はモノエタノールアミド構造を表す。以下同様。)、スルホコハク酸ステアラミドMEA−2ナトリウム、スルホコハク酸オレアミドMEA−2ナトリウム、スルホコハク酸PEG−5ラウラミド−2ナトリウム(「PEG」はポリオキシエチレン構造を表す。以下同様。)、スルホコハク酸PEG−2オレアミド−2ナトリウム、スルホコハク酸PEG−4ココイルイソプロパノールアミド−2ナトリウムなど例示できる。
これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用しても良く、さらにコハク酸エステル構造及びコハク酸アミド構造のどちらも有さない乳化剤と併用使用しても良い。
【0018】
本発明の粘着剤用樹脂組成物水性分散体は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤の存在下に重合してなるものであり、当該乳化剤はエチレン性不飽和単量体100重量部に対して0.05〜5重量部用いられる事が好ましく、0.1〜3重量部用いられる事がより好ましい。
分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤の量が少ないと耐水白化性の向上効果が不十分となり、また量を多くしてもさらなる耐水白化性の向上効果は得られなくなるばかりでなく、コスト的に不経済となる。
従って上記したように、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤はエチレン性不飽和単量体100重量部に対して0.05〜5重量部用いられる事が好ましい。
【0019】
本発明の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得る際に、分子中にコハク酸エステル構造及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤と共に併用する事のできる乳化剤としては、反応性乳化剤、非反応性乳化剤などが、単独であるいは2種類以上併用して用いることができる。

反応性乳化剤としては以下の化合物を例示することができる。アニオン系乳化剤としてはノニルフェニル骨格の旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSE−10N」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンHS−10、HS−20」等、長鎖アルキル骨格の第一工業製薬株式会社製「アクアロンKH−05、KH−10」、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSR−10N」等、燐酸エステル骨格の日本化薬株式会社製「KAYARAD」等が例示できる。
ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類等の分子末端あるいは中間部に不飽和二重結合を有し、単量体と共重合するものであり、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープNE−10」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンRN−10、RN−20、RN−50」、日本乳化剤株式会社製「アントックスNA−16」等が例示できる。
また非反応性乳化剤としては、以下の化合物を例示する事ができる。アニオン系乳化剤としてはステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類等が例示できる。
ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノステアレート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類等が例示できる。
【0020】
本発明に用いられる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩またはアゾビス系カチオン塩または水酸基付加物質などの水溶性の熱分解型重合触媒、またはレドックス系重合触媒を用いることができる。レドックス系重合触媒としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物とロンガリット、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤との組み合わせ、または過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムとロンガリット、チオ硫酸ナトリウムなどの組み合わせ、過酸化水素水とアスコルビン酸の組み合わせなどが挙げられる。
【0021】
本発明の粘着剤用樹脂組成物水性分散体は、エチレン性不飽和単量体を重合する際に、分子量や分子量分布を制御するための連鎖移動剤として、メルカプタン系、チオグリコール系、βメルカプトプロピオン酸などのチオール系化合物や、アリル水素を有するロジン系化合物やテルペン系化合物などを用いることができる。添加量は、エチレン性不飽和単量体の総量100重量部に対して0.01〜10.0重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましい。
【0022】
次に、本発明の粘着剤組成物について説明する。
本発明の粘着剤組成物は、上記粘着剤用樹脂組成物水性分散体を主たる成分とするものであり、この粘着剤用樹脂組成物水性分散体に必要に応じて粘着力調整のために、適当な粘着付与剤、例えば、ロジン樹脂、フェノール樹脂、ポリテルペン、アセチレン樹脂、石油系炭化水素樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、合成ゴム、天然ゴム等を適当量添加することができる。さらに架橋剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、中和剤、着色剤、シランカップリング剤、防腐剤なども添加しても良い。
【0023】
本発明の粘着剤組成物を、コンマコーター、リバースコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアチャンバーコーター、カーテンコーター等の各種コーティング装置により、紙またはフィルム基材、もしくは剥離性シート上に塗布し、乾燥することによって、粘着シート、粘着ラベル等の各種粘着塗工物を得ることができる。紙等に粘着剤組成物を塗布した後、80℃〜120℃で乾燥することが好ましい。乾燥温度が80℃以下では乾燥しにくく、乾燥に長時間を要する。他方、120℃よりも高温で乾燥すると、基材または剥離性シートの熱劣化を生じ、好ましくない。
紙またはフィルム基材上に粘着剤組成物を塗布した場合は、乾燥後に剥離性シートと貼り合わせることにより、また剥離性シート上に粘着剤組成物を塗布した場合は、乾燥後に紙またはフィルム基材と貼りあわせることにより、どちらの手法によっても各種粘着塗工物を得ることができる。
剥離性シートは、セパレーターとも称されるものであり、紙やプラスチックフィルムの少なくとも一方の面が剥離処理されてなるものである。剥離処理剤としては従来公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例によって本発明を説明するが、これに限定されるものではない。実施例中にある部とは重量部を、%とは重量%をそれぞれ示す。
(実施例−1)
2−エチルヘキシルアクリレート91.8部、メチルメタクリレート7部、アクリル酸1部、ジアセトンアクリルアミド0.2部、これら全エチレン性不飽和単量体100部に対して、分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤として三井化学ファイン(株)製「エアロゾルMA−80」(ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムの80%溶液)を有効成分として0.3部、および反応性アンモニア中和型アニオン性乳化剤として第一工業製薬(株)製「アクアロンKH−10」2部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加えて攪拌して乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計および上記滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、脱イオン水を43.9部、アクアロンKH−10を0.1部仕込み、フラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温し、3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.15部添加した。5分後、上記滴下ロートから上記乳化物の滴下を開始し、これと並行して3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.45部を別の滴下口から3時間かけて滴下した。
内温を80℃に保ったまま、上記乳化物および3%過硫酸カリウム水溶液滴下終了30分後に、3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.06部を2回に分けて30分おきに添加した。
さらに撹拌しながら80℃にて2時間熟成した後冷却し、アンモニア水にて中和し、固形分51%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得た。
得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、消泡剤、レベリング剤、防腐剤を加え、さらにアンモニア水でpH=7.5〜8に調整し、ロジン系粘着付与樹脂として荒川化学(株)製「スーパーエステルE−720」(固形分50%)を固形分として20部、および架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加え、さらに粘度調整剤で3000mPa・s(BL型粘度計、#4ローター使用、60rpmにて測定)に調整し、水性粘着剤組成物を得た。
これをコンマコーターで剥離紙上に乾燥塗膜量が20g/m2になるように塗工し、100℃の乾燥オーブンで40秒間乾燥させ、厚さ50μmのPETフィルムとラミネートして巻き取り、粘着剤塗工物を得た。
【0025】
(実施例−2)
実施例−1において用いた「エアロゾルMA−80」の代わりに、分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤として花王(株)製「ペレックスOT−P」(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの70%溶液)を有効成分として0.3部用いた以外は実施例−1と同様にして固形分51%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得、実施例−1と同様にして水性粘着剤組成物および粘着剤塗工物を得た。
【0026】
(実施例−3)
ブチルアクリレート92.8部、メチルメタクリレート6部、アクリル酸1部、ジアセトンアクリルアミド0.2部、これら全エチレン性不飽和単量体100部に対して分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤として三井化学ファイン(株)製「エアロゾルTR−70」(ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウムの70%溶液)を有効成分として0.5部、および「アクアロンKH−10」2部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加えて攪拌して乳化物を得た。以下、実施例−1と同様にして固形分51%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得、実施例−1と同様にして水性粘着剤組成物および粘着剤塗工物を得た。
【0027】
(比較例−1)
実施例−1において分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤である「エアロゾルMA−80」を用いなかった以外は実施例−1と同様にして固形分51%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得、実施例−1と同様にして水性粘着剤組成物および粘着剤塗工物を得た。
【0028】
(比較例−2)
2−エチルヘキシルアクリレート91.8部、メチルメタクリレート7部、アクリル酸1部、ジアセトンアクリルアミド0.2部、これら全エチレン性不飽和単量体100部に対して「アクアロンKH−10」2.5部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加えて攪拌して乳化物を得た。以下、実施例−1と同様にして固形分51%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得、実施例−1と同様にして水性粘着剤組成物および粘着剤塗工物を得た。
【0029】
(比較例−3)
比較例−2において、「アクアロンKH−10」の総量を0.6部とした以外は比較例−2と同様にして固形分51%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得、比較例−2と同様にして水性粘着剤組成物および粘着剤塗工物を得た。
【0030】
(比較例−4)
2−エチルヘキシルアクリレート92.4部、メチルメタクリレート7部、アクリル酸0.4部、ジアセトンアクリルアミド0.2部、これら全エチレン性不飽和単量体100部に対して「アクアロンKH−10」2部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加えて攪拌して乳化物を得た。以下、実施例−1と同様にして固形分51%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得、実施例−1と同様にして水性粘着剤組成物および粘着剤塗工物を得た。
【0031】
[試験方法]
1)重合安定性
各実施例および比較例において得られた水性粘着剤組成物を反応容器から取り出した際の、容器内壁および攪拌羽根に付着している凝集物の量を目視評価にて判定した。
○・・・凝集物がほとんどない。
△・・・反応容器内壁に一部凝集物が見られ、また攪拌羽根にも付着が見られる。
×・・・反応容器内壁のほぼ全面および攪拌羽根にも多量の凝集物が付着している。
【0032】
2)機械的安定性試験
各実施例および比較例において得られた水性粘着剤組成物50gに水を5g添加して希釈し、その内の50gを試験試料とした。マーロン式機械的安定性試験機を用いて、荷重15kg、10分間の条件にて試料に機械的負荷を与えた後、300メッシュの金網でろ過し、乾燥後の金網上に残留した凝固物の重量を測定し、次式により凝固率(%)を算出した。
凝固率(%)=凝固物の重量/試験試料の重量×100
凝固率の高い方が粘着剤組成物の機械的安定性に劣る事を意味する。
【0033】
3)耐水白化性測定
粘着剤塗工物の剥離紙を剥がして、両面がアルミ蒸着されたPETフィルムとラミネートし、水に浸して60℃雰囲気下で72時間放置した。所定時間経過後取り出し、水を拭き取って分光測色計を使用し、反射法により粘着剤層の存在する側の面のL値を測定する事により、膜の白さを評価した。数値が高いほど白化が進行しており、外観が劣る事を意味する。
表1に重合安定性、機械的安定性、耐水白化性測定の評価結果を示した。
【0034】
【表1】

【0035】
比較例−1に示されるように、分子中にコハク酸エステル及び/またはアミド構造を有する乳化剤を用いなかった場合、実施例に対して乳化剤の総量は減じられているのにも関わらず耐水白化性が極めて劣っている。さらに比較例−2においては、分子中にコハク酸エステル構造及びコハク酸アミド構造のどちらも有さない乳化剤を増量して乳化剤の総量を実施例−3と同等とした場合、耐水白化性はむしろ低下する事が認められており、この事からも分子中にコハク酸エステル及び/またはアミド構造を有する乳化剤を使用する事により特徴的に耐水白化性が著しく向上するという事実が裏付けられる。また比較例−3および比較例−4に示されるように、それぞれ比較例−1に対し重合時に使用する乳化剤の量を3分の1まで減量した場合、あるいは重合物に水親和性を付与するための成分であるアクリル酸の使用量を半量以下まで減量すると、耐水白化性はやや向上する傾向にはあるが、依然として本発明の実施例における測定値にはおよばず、さらには重合安定性や機械的安定性が著しく悪化し、工業的に収率の低下やろ過性の悪化を引き起こし不経済であるばかりか、粘着剤の塗装時に塗装装置から受ける機械的な剪断力により凝集物が発生しやすくなり、塗装表面の面荒れや配管詰まりなどの不具合を引き起こす危険性が高くなる。
これに対し実施例に示されるように、分子中にコハク酸エステル及び/またはアミド構造を有する乳化剤を使用する事により耐水白化性は極めて良好となり、特に意匠性が求められるラベル用途やオーバーラミネート用途に好んで用いる事ができ、粘着剤が塗布されている基材が透明で粘着剤層が外側から見える場合、その表面が水に浸されたり、高湿度下に暴露されたとしても粘着剤層が白化しにくいため、外観を損なう事がなく意匠性を維持できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体。
【請求項2】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤が、0.05〜5重量部用いられる事を特徴とする請求項1記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体。
【請求項3】
分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤が、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上である事を特徴とする請求項1又は2記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を含有する事を特徴とする水性粘着剤組成物。
【請求項5】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合する事を特徴とする粘着剤用樹脂組成物水性分散体の製造方法。
【請求項6】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、分子中にコハク酸エステル及び/またはコハク酸アミド構造を有する乳化剤が、0.05〜5重量部用いられる事を特徴とする請求項5記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体の製造方法。
【請求項7】
分子中にコハク酸エステル構造を有する乳化剤が、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上である事を特徴とする請求項5又は6記載の粘着剤用樹脂組成物水性分散体の製造方法。


【公開番号】特開2006−8834(P2006−8834A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187459(P2004−187459)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】