説明

粘着性固定冶具

【課題】 取り外しの際に、被固定物に無理な力を加えることがなく、被固定物に損傷を与えることがない、粘着性固定冶具を提供する。
【解決手段】 少なくとも上面が粘着性を有する柱状の粘着部1aが、一方の主面に複数形成された粘着性シート1と、粘着部1aに対応する数、および形状の開口2aが形成された剛性板2とを備え、粘着部1aの上面を開口2aから露出させて、粘着性シート1と剛性板2とを重ね合わせ、剛性板2上に配置された被固定物を粘着部1の上面により粘着固定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性固定冶具に関し、さらに詳しくは、被固定物に無理な力を加えることなく、被固定物を取り外すことができる粘着性固定冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器などの製造工程において、被加工物を固定冶具に固定したうえで、加工を施したり、搬送したりすることがおこなわれている。これは、被加工物が壊れやすい場合や、小さい場合、あるいは可撓性を有する場合などに、被加工物を保護したり、取扱いを容易にしたり、形状を維持したりするなどのためにおこなわれるものである。
【0003】
たとえば、電子機器の製造工程において、セラミック基板や、フレキシブルプリント基板を、固定冶具に固定したうえで、それらの基板に、コンデンサ、抵抗、コイル、ICなどの電子部品をはんだ付けなどにより実装することがおこなわれている。
【0004】
そのような固定冶具として、特許文献1(特開平7−22795号公報)に開示された、粘着性を有する部分で被固定物を粘着固定する粘着性固定冶具がある。図6に、特許文献1に開示された粘着性固定冶具500を示す。粘着性固定冶具500は、SUSなどの金属からなる剛性板501の表面に、シリコーンゴムなどの粘着性を有する粘着層502を形成したものであり、粘着層502の粘着性により被固定物(図示せず)を粘着固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7―22795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に開示された粘着性固定冶具500は、剛性を有する剛性板501に粘着層502を形成したものであり、全体としても剛性を有している。
そして、被固定物(図示せず)を粘着性固定冶具500から取り外す際には、被固定物と粘着性固定冶具500とに、相互に引き離す方向に力を加えなければならないが、粘着性固定冶具500は剛性を有しており壊れにくいため、被固定物が薄板状であるなど壊れやすいものである場合や、被固定物が必要以上に強固に固定されてしまった場合や、引き離す力が被固定物の特定個所に集中してしまった場合などには、被固定物に損傷が生じてしまう場合があった。たとえば、被固定物がセラミック基板である場合には、セラミック基板に割れや、カケが生じてしまったり、セラミック基板にたわみ応力がかかり、実装した電子部品がセラミック基板から外れてしまう場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した従来の粘着性固定冶具の有する問題を解決するためになされたものであり、その手段として本発明の粘着性固定冶具は、少なくとも上面が粘着性を有する柱状の粘着部が、一方の主面に複数形成された粘着性シートと、粘着部に対応する数、および形状の開口が形成された剛性板とを備え、粘着部の上面を開口から露出させて、粘着性シートと剛性板とを重ね合わせ、剛性板上に配置された被固定物を、開口から露出された粘着部の上面により粘着固定するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘着性固定冶具は、上述の構成からなるため、被固定物を剛性板で支えたまま、粘着性シートを被固定物および剛性板から徐々に引き離すことにより、被固定物に無理な力を加えることなく、各粘着部を被固定物の裏面から徐々に引き離し、被固定物を粘着性固定冶具から取り外すことができる。したがって、被固定物に損傷が生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる粘着性固定冶具100を示す斜視図である。なお、図1(A)は粘着性シート1と剛性板2とを分離させた状態を示し、図1(B)は粘着性シート1と剛性板2とを重ね合わせた状態を示す。
【図2】図1に示した粘着性固定冶具100の使用方法を示す断面図である。なお、図2は、図1(B)の鎖線Y−Y部分を示している。
【図3】図2の続きであり、図1に示した粘着性固定冶具100の使用方法を示す断面図である。なお、図3は、図1(B)の鎖線Y−Y部分を示している。
【図4】本発明の第2の実施形態にかかる粘着性固定冶具200、および第3の実施形態にかかる粘着性固定冶具300を示す平面図である。なお、図4(A)が粘着性固定冶具200を、図4(B)が粘着性固定冶具300を示す。
【図5】本発明の第4の実施形態にかかる粘着性固定冶具400を示す断面図である。
【図6】従来の粘着性固定冶具500を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
図1(A)および(B)に、本発明の第1の実施形態にかかる粘着性固定冶具100を示す。なお、図1(A)は粘着性シート1と剛性板2とを分離させた状態、図1(B)は粘着性シート1と剛性板2とを重ね合わせた状態を示す斜視図である。
【0012】
粘着性固定冶具100は、粘着性シート1を備える。
【0013】
粘着性シート1の上側の主面には、少なくとも上面が粘着性を有する、柱状の粘着部1aが複数形成されている。本実施形態では、粘着性シート1に、円柱の粘着部1aが5個形成されている。ただし、粘着部1aは円柱に限られず、四角柱などの多角柱であっても良い。また、粘着部1aの個数は、複数であれば良く、5個には限られない。
【0014】
粘着性シート1は、後述する剛性板2と重ね合わせた場合に、剛性板2と重なり合わない把持部1bを有する。把持部1bは、この粘着性固定冶具100を使用する際に、チャックなどの把持手段で把持するための部分である。
【0015】
粘着性シート1には、たとえば、粘着性を有するシリコンなどの樹脂を用いることができる。そして、この場合、粘着性シート1は、粘着部1aとともに、成形により、一体的に形成することができる。ただし、粘着部1aは、必ずしも粘着性シート1と一体的に形成される必要はなく、別体の粘着部1aを、粘着性シート1に取り付けるようにしても良い。
【0016】
なお、粘着性シート1は、少なくとも、粘着部1aの上面が粘着性を有していれば良い。また、粘着性シート1の、剛性板2と接する面が粘着性を有していても良い。
【0017】
粘着性シート1は、たとえば、縦200mm、横200mm、厚み0.8mmの寸法からなる(ただし、把持部1bを除いた寸法である)。また、粘着部1aは、たとえば、直径8mm、高さ1.05mmの寸法からなる。
【0018】
粘着性固定冶具100は、剛性板2を備える。
【0019】
剛性板2には、粘着性シート1の粘着部1aに対応した数および形状の開口2aが形成されている。すなわち、本実施形態においては、剛性板2に、円形の開口2aが5個形成されている。
【0020】
剛性板2には、剛性を有する材質、たとえば金属が用いられる。剛性板2に、マグネシウムを主成分とする金属を用いれば、加工が容易であるため好ましい。
【0021】
剛性板2は、たとえば、縦200mm、横200mm、厚み1mmの寸法からなる。また、開口2aは、たとえば、直径10mmの寸法からなる。
【0022】
粘着性固定冶具100は、図1(B)に示すように、粘着部1aの上面を開口2aから露出させて、粘着性シート1と剛性板2とを重ね合わせた状態で使用される。本実施形態においては、粘着部1aの高さが1.05mm、剛性板2の厚みが1mmであるので、粘着部1aの上面は、剛性板2の上側の表面よりもわずかに突出した状態となる。すなわち、粘着性固定冶具100は、剛性板2の開口2aからわずかに突出した、粘着性を有する粘着部1aの上面に、被固定物を粘着固定して使用される。
【0023】
以下、図2(A)〜図3(F)を参照しながら、粘着性固定冶具100の使用方法を、さらに詳しく説明する。なお図2(A)〜図3(F)の各図は、使用方法の各ステップを示す断面図である。
【0024】
まず、図2(A)に示すように、粘着性シート1を準備する。
【0025】
次に、図2(B)に示すように、粘着性シート1上に、剛性板2を重ね合わせる。このとき、粘着部1aの上面を開口2aから露出させておく。
【0026】
次に、図2(C)に示すように、被固定物として、たとえば、表面に複数の電極3aが形成されたセラミック基板3を、剛性板2上に配置する。この結果、セラミック基板3の底面が、開口2aから露出した粘着部1aの上面と当接し、粘着部1aの粘着性により、セラミック基板3が粘着性固定冶具100に粘着固定される。
【0027】
セラミック基板3は、粘着性固定冶具100に粘着固定された状態で、加工や搬送がなされる。たとえば、図3(D)に示すように、セラミック基板3の電極3aに、リフローによるはんだ付けなどにより電子部品4が実装される。
【0028】
次に、加工ないし搬送が終了したセラミック基板3の、粘着性固定冶具100からの取り外し方法について説明する。
【0029】
まず、図3(E)に示すように、3層に重ねられた、粘着性シート1、剛性板2、セラミック基板3の一方端(図面における左端)をチャック5aで把持するとともに、粘着性シート1の把持部1bをチャック5bで把持し、チャック5bを剛性板2およびセラミック基板3から離れる方向に引き下げ、粘着性シート1の粘着部1aをセラミック基板3の底面から徐々に引き離す。
【0030】
次に、図3(F)に示すように、2層に重ねられた、剛性板2とセラミック基板3の他方端(図面における右端)をチャック5cで把持したうえで、反対側のチャック5aによる把持を開放し、さらにチャック5bを剛性板2およびセラミック基板3から離れる方向に引き下げ、粘着性シート1の粘着部1aをセラミック基板3の底面から完全に引き離す。この結果、粘着性シート1は、セラミック基板3および剛性板2から取り外され、剛性板2とセラミック基板3とは、粘着力なく単に重なった状態となる。最後に、チャック5cの把持を開放したうえで、セラミック基板3を剛性板2の上から取り出すことにより、セラミック基板3の粘着性固定冶具100からの取り外しが完了する。
【0031】
粘着性固定冶具100により粘着固定され、加工や搬送されたセラミック基板3は、取り外しの際にも無理な力が加えられないので、割れやカケが発生することがなく、またセラミック基板3から実装された電子部品4が外れてしまうこともない。
【0032】
なお、使用後の粘着性シート1や剛性板2は、再利用が可能である。汚れなどが生じた場合には、溶剤などで洗浄することもできる。
【0033】
以上、第1の実施形態にかかる粘着性固定冶具100、およびその使用方法の一例について説明した。しかしながら、本発明が上記の内容に限定されことはなく、発明の主旨に沿って、種々の変更を加えることができる。たとえば、粘着性シート1に形成される粘着部1a、および、これに対応して剛性板2に形成される開口2aの、個数、大きさ、位置などは任意であり、被固定物の粘着固定に求められる粘着強度などに応じて変更することができる。また、被固定物も、セラミック基板3のような電子機器に関連するものには限定されず、他の分野の製品であっても良い。
【0034】
[第2の実施形態]
図4(A)に、本発明の第2の実施形態にかかる粘着性固定冶具200を示す。なお、図4(A)は平面図である。
【0035】
粘着性固定冶具200は、粘着性シート11に形成される粘着部11a、および、これに対応して剛性板12に形成される開口12aの個数を、5行、5列の25個に増やした。開口12aから露出される粘着部11aの上面の総面積が、第1の実施形態よりも広くなっているため、第1の実施形態よりも被固定物の粘着固定力が向上している。粘着性固定冶具200は、粘着性固定冶具100よりも、強固に被固定物を粘着固定することができる。
【0036】
[第3の実施形態]
図4(B)に、本発明の第3の実施形態にかかる粘着性固定冶具300を示す。なお、図4(B)は平面図である。
【0037】
粘着性固定冶具300は、粘着性シート21に形成される粘着部21a、および、これに対応して剛性板22に形成される開口22aを千鳥状に配置した。粘着性固定冶具300は、第2の実施形態にかかる粘着性固定冶具200と、粘着部21aおよび開口22aの個数は同じであるが、千鳥状に配置することにより、被固定物を取り外す際に被固定物に加えられる力を分散させることができ、粘着性固定冶具200に比べて、取り外しの際の被固定物へのストレスを小さくすることができる。
【0038】
[第4の実施形態]
図5に、本発明の第4の実施形態にかかる粘着性固定冶具400を示す。なお、図5は断面図である。
【0039】
粘着性固定冶具400は、粘着部31aが形成された粘着性シート31と、開口32aが形成された剛性板32とに加えて、さらに、粘着性シート31を敷くための敷板36を備えている。敷板36の上側の主面には、複数個の突起36aが形成されている。また、剛性板32には、敷板36の突起36aに対応する位置に、突起36aを嵌合するための貫通孔32cが形成されている。
【0040】
なお、敷板36にも、剛性を有する材質を用いる。たとえば、剛性板32と同様に、マグネシウムを主成分とする金属を用いることができる。
【0041】
粘着性固定冶具400においては、敷板36の上側の主面に粘着性シート31を敷いたうえで、その上に剛性板32を重ね合わせ、突起36aを貫通孔32aに嵌合させ、粘着性シート31を、敷板36と剛性板32との間に保持する。粘着性固定冶具400においては、剛性板32と粘着性シート31とが確実に密着するため、剛性板32上に被固定物を配置した際に、被固定物によって、開口32aから露出した粘着部31aが下側に押されてしまうことがなく、被固定物を粘着性固定冶具400に、確実に粘着固定することができる。
【符号の説明】
【0042】
1、11、21、31:粘着性シート
1a、11a、21a、31a:粘着部
1b、11b、21b:把持部
2、21、22、32:剛性板
2a、21a、22a、32a:開口
3:セラミック基板(被固定物)
4:電子部品
5a、5b、5c:チャック(把持手段)
36:敷板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも上面が粘着性を有する柱状の粘着部が、一方の主面に複数形成された粘着性シートと、
前記粘着部に対応する数、および形状の開口が形成された剛性板とを備え、
前記粘着部の上面を前記開口から露出させて、前記粘着性シートと前記剛性板とを重ね合わせ、前記剛性板上に配置された被固定物を、前記開口から露出された前記粘着部の上面により粘着固定するようにしたことを特徴とする粘着性固定冶具。
【請求項2】
前記粘着性シートの少なくとも1辺に、当該粘着性シートの前記粘着部を前記被固定物から引き離す際に用いる把持部が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載された粘着性固定冶具。
【請求項3】
前記粘着部が、粘着性を有する樹脂からなることを特徴とする、請求項1または2に記載された粘着性固定冶具。
【請求項4】
前記粘着性シートが樹脂からなり、前記粘着部と前記粘着性シートとが同一の樹脂から一体的に形成されていることを特徴とする、請求項3に記載された粘着性固定冶具。
【請求項5】
前記剛性板が金属からなることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載された粘着性固定冶具。
【請求項6】
前記金属がマグネシウムを主成分とすることを特徴とする、請求項5に記載された粘着性固定冶具。
【請求項7】
前記開口が円形であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載された粘着性固定冶具。
【請求項8】
前記被固定物が電子機器の基板であることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載された粘着性固定冶具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−151124(P2011−151124A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10094(P2010−10094)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】