説明

粘着性物質による障害作用抑制剤および粘着性物質による障害作用抑制方法

【課題】 製紙における粘着性を有する疎水的な成分による障害を防止するための薬剤を提供することであり、特にドライヤーの各表面への再付着を防止する薬剤を提供することである。
【解決手段】 (メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸で中和するとともに加熱処理することによって製造可能なアミジン構造単位を有する水溶性高分子からなる粘着性物質による障害作用抑制剤を抄紙前の製紙原料中に添加し、製紙原料あるいは白水を処理することによって達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤に関する。詳しくは(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸で中和するとともに加熱処理することによって生成した主としてアミジン構造単位から構成される水溶性高分子を抄紙前の製紙原料中に添加し、製紙原料あるいは白水中に存在する粘着性物質による障害作用を抑制するための薬剤に関し、またその薬剤を使用した粘着性物質による障害作用抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用水中には種々の溶存物質あるいは微細な粒子状物質が存在している。これらの物質は、パルプ製造時に由来するものと、古紙製造時に由来するものとがある。すなわちパルプ製造時に由来するものとしては、リグニンスルホネート、リグニン分解生成物、木材抽出物、セルロース誘導体(例えば、ヘミセルロース)などである。また古紙製造時に由来するものとしては、
サイジング剤、分散剤、染料、蛍光漂白剤、コーティングバインダー、湿潤剤、珪酸ナトリウムなどである。さらに導入する工業用水などにもフミン酸やカルシウム成分なども混入する。
【0003】
このうちアニオントラッシュと呼ばれる溶存性あるいは親水性のアニオン性成分、すなわちホワイト顔料、分散剤、改質でんぷん、カルボキシメチルセルロース、リグニンスルホネート、リグニン分解生成物、ヘミセルロースなどは、一般的な低分子量カチオン性水溶性高分子物質により処理することによって歩留率や濾水性はかなりの程度改善される。しかし水に溶解しない疎水的な成分、すなわちは木材抽出物、サイジング剤、あるいはコーティングバインダーなどは、微細なコロイド粒子として製紙原料中に分散している場合は、悪影響は少ない。しかしこれらのコロイドは表面電荷が低く、アニオン性に弱く解離している場合、あるいは解離もしていない場合もあり、基本的に不安定な物質である。したがって温度、シェア、pH、あるいはピッチ障害を抑制するために添加される有機や無機のカチオン性物質などによってコロイドが破壊され粗大化する。その結果、表面が粘着性を帯びているため電荷を調節しただけでは、それらが紙中に抄きこまれた場合、またワイヤー、フェルト、ローラーあるいはドライヤーの各表面に再付着し、一定以上の大きさに成長すると製造中の成紙に付着し、欠点などの障害を引き起こす。またこれら疎水的な成分は、カチオン性水溶性高分子物質により処理し、粒子系を粗大化させてしまうこともある。そうすると上記の障害はより顕著に発生し、カチオン性水溶性高分子物質などの処理剤が逆効果になる場合もあるので注意を要する。
【0004】
上記の疎水的な成分による障害を防止するための薬剤も種々提案はされている。例えば特許文献1は、天然ピッチトラブル抑制のためジメチルジアリルアンモニウム塩化物/アクリル酸/(場合によっては、アクリル酸アルキルエステル類)共重合物を抄紙系のウェットエンドに添加する方法が開示されている。また、パルプ製造の漂白工程アルカリ抽出において、原料木材に由来するパルプ中のピッチを除去する方法として、水溶性の不飽和カルボン酸と疎水性単量体との共重合体を、漂白後のパルプスラリ−が次ぎのアルカリ抽出塔に入る前に添加することを開示している(特許文献2)。さらに木材あるいは古紙由来の種々のピッチに起因するトラブル防止方法として、ポリスチレンスルホン酸(塩)やポリイソプレンスルホン酸(塩)を、ピッチが付着し易い個所へのシャワ−水中に溶解し、専用のシャワ−や噴射ノズル、あるいは水ドクタ−などで供給することが記載されている(特許文献3)。またジアルキルアミノアルキレンアミンとエピハロヒドリン縮合物(特許文献4)などもピッチに起因するトラブル防止剤として開示されている。さらにアミジン構造単位を有する水溶性高分子としては、Nービニルホルムアミドとアクリロニトリル共重合物より合成される製造方法が特許文献5に開示されている。
しかしこれらの薬剤は、粘着性を有する疎水的な成分による障害を防止するためには、十分ではなく、特にワイヤー、フェルト、ローラーあるいはドライヤーの各表面に再付着に関し検討を要する問題を残している。
【0005】
「ピッチ」という用語は、低分子量及び中分子量の様々な天然の疎水性有機樹脂類を指し、またこれらの樹脂類が原因となるパルプ製造と製紙処理工程の際の析出物を指す。ピッチは、脂肪酸、樹脂酸、それらの不溶性の塩類、及び脂肪酸とグリセロール(トリグリセリド類の如きもの)やステロール類とのエステルなどをさす。また古紙製造時に由来するサイジング剤、ワックス類やコーティングバインダーなどの疎水的微細粒子は、「ステイッキー」と呼ばれているが、「ピッチ」と区別しないで使用される場合もある。これらの化合物は特徴を示す程度の、温度に依存する粘度、粘着性、及び凝集強さを示す。それらは単独で、あるいは不溶性の無機塩類、充填材、繊維、脱泡剤成分、被覆用結合剤、その他同様のものと一緒に析出することがある。
【特許文献1】特開平4−241184号公報
【特許文献2】特開平11−256490号公報
【特許文献3】特開平11−189987号公報
【特許文献4】特開平11−43895号公報
【特許文献5】特開平5―192513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記「ピッチ」や「ステイッキー」と呼ばれる粘着性を有する疎水的な成分による障害を防止するための薬剤を提供することであり、特にドライヤー表面への再付着を防止する薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、以下に述べるような製造方法を発見した。すなわち本発明の請求項1の発明は、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸で中和するとともに加熱処理することからなる、下記式(1)および/または式(2)で表される繰り返し単位を5〜67モル%、下記式(3)で表される繰り返し単位を0〜85モル%、下記式(4)で表される繰り返し単位を5〜35モル%および下記式(5)で表される繰り返し単位を0〜55モル%含有する水溶性高分子からなる製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤である。
【化1】

式中R1 ,R2 は水素原子またはメチル基を、X- は陰イオンを表わす。
【0008】
請求項2の発明は、前記(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物が、(メタ)アクリルアミド60〜90モル%、(メタ)アクリロニトリル40〜10モル%からなることを特徴とする請求項1に記載の水溶性高分子からなる製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤である。
【0009】
請求項3の発明は、前記酸が、塩酸であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤である。
【0010】
請求項4は、前記中和をpH0.5〜4の範囲で実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤である。
【0011】
請求項5の発明は、前記粘着性物質が、水に溶解しない疎水的な成分であることを特徴とする請求項1に記載の製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤である。
【0012】
請求項6の発明は、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸で中和するとともに加熱処理することからなる、下記式(1)および/または式(2)で表される繰り返し単位を5〜67モル%、下記式(3)で表される繰り返し単位を0〜85モル%、下記式(4)で表される繰り返し単位を5〜35モル%および下記式(5)で表される繰り返し単位を0〜55モル%から構成される水溶性高分子からなる障害作用抑制剤を、抄紙前の製紙原料中に添加することを特徴とする製紙における粘着性物質による障害作用抑制方法である。
【化1】

式中R1 ,R2 は水素原子またはメチル基を、X- は陰イオンを表わす。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水溶性高分子は、アミジン構造単位を5〜67モル%、酸アミド基構造0〜85モル%、シアノ基構造単位を5〜35モル%および一級アミン塩基構造単位を0〜55モル%含有することを特徴とするポリアミジン系高分子からなる粘着性物質による障害抑制剤である。この水溶性高分子は、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸で中和するとともに加熱処理して製造することができる。また好ましくは、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物が、(メタ)アクリルアミド60〜90モル%、(メタ)アクリロニトリル40〜10モル%からなる。さらに前記酸が、塩酸であることを特徴とする。さらに前記中和をpH0.5〜4の範囲で行うことを特徴とする。また本発明は、粘着性物質による障害抑制方法であり、上記水溶性高分子を抄紙前の製紙原料中に添加することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用する水溶性高分子は、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸性雰囲気中で加熱処理することにより製造することを特徴とする。
【0015】
初めに(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物に関し説明する。(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合比としては、アクリルアミド60〜90モル%、(メタ)アクリロニトリル10〜40モル%であり、好ましくはアクリルアミド60〜80モル%、(メタ)アクリロニトリル20〜40モル%である。またポリアミジン化反応に影響がない範囲で他の共重合可能な単量体を共重合することができる。さらにホフマン反応は強アルカリ性領域で実施するので、共重合体中に耐アルカリ加水分解性がなければ成らない。そのような単量体の例としては、エチレン、スチレン、(メタ)アクリル酸、イタコン酸あるいはマレイン酸などである。従ってそのような単量体の範囲としては、0〜10モル%である。
【0016】
ホフマン反応前の共重合体の重合方法は、既知の重合法である水溶液重合法、油中水型エマルジョン重合法、油中水型分散重合法、塩水溶液中分散重合法などにより合成することができる。そのため重合濃度としては、5〜60重量%までの範囲実施が可能であり、好ましくは20〜50重量%で行うのが適当である。また、反応の温度としては、10〜100℃の範囲で行うことができる。
【0017】
ホフマン反応前の共重合体の重合を開始させるラジカル重合開始剤はアゾ系、過酸化物系、レドックス系いずれでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオネ−ト)などがあげられ、水混溶性溶剤に溶解し添加する。水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などがあげられる。またレドックス系の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムあるいはカリウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどとの組み合わせがあげられる。さらに過酸化物の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエ−トなどをあげることができる。これら開始剤で最も好ましいものは、水溶性のアゾ系開始剤である2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物などである。
【0018】
ホフマン反応前のポリアクリルアミド系共重合体の重量平均分子量は、用途により任意に調節することが可能であり、約10万〜1500万であり、好ましくは10万〜1000万であり、この範囲であれば製造上の問題はない。
【0019】
次ぎにホフマン反応の条件について説明する。使用する次亜ハロゲン酸の例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素ナトリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜ヨウ素酸ナトリウム、次亜ヨウ素酸カリウムなどである。共存させるアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどである。次亜ハロゲン酸の添加量は、対アミド基10モル%〜150モル%であり、好ましくは20基%〜120モル%である。また、共存させるアルカリの量としては、アミド基に対し10〜250モル%である。反応後は溶液pHを0.5〜6.0の範囲に中和する。これは、次工程のアミジン化反応を考慮してのpH範囲である。
【0020】
ホフマン反応の反応温度は、0〜50℃の範囲の中から選択可能であるが、0〜30℃である方がより好ましい。反応時間は、反応温度、および反応溶液中のポリマー濃度に依存するため一概には言えないが、例えばポリマー濃度が10重量%の場合、5℃では数十分以内、20℃では数分以内で十分である。さらにポリマー濃度が高くなれば、反応時間はより短くてすむ。次に上記した条件でホフマン反応を行った後、副反応の進行を抑制するために反応を停止することが望ましい。ただし、反応後直ちに使用する場合には反応停止を行わなくともよい場合がある。反応停止の方法としては、(1)還元剤を添加する、(2)冷却する、(3)溶液のpHを酸添加により低下させる、等の方法を単独あるいは組み合わせて用いることができる。(1)は残存する次亜ハロゲン酸塩等を還元剤との反応により失活させる方法である。使用する還元剤の具体例として、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、マロン酸エチル、チオグリセロール、トリエチルアミン等が挙げられる。その還元剤の使用量は、通常反応に使用された次亜ハロゲン酸塩に対して、0.005〜0.15倍モル、好ましくは0.01〜0.10倍モルである。(2)は冷却により反応進行を抑える方法であり、その方法としては、熱交換器を用いて冷却する、または冷水で希釈する等の方法が挙げられる。そのときの温度は、通常50℃以下、好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。(3)は、通常pH12〜13のアルカリ性を示す反応終了液を、酸を用いてpHを下げることによりホフマン反応を停止させ、同時に加水分解の進行を抑制する方法である。そのときのpHは中性以下であればよくpH0.5〜6の範囲であればよいが、後のアミジン化反応を考慮するとpH0.5〜4であることが好ましい。pH調整で使用する酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の鉱酸、あるいはギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸があげられる。また最も好ましい酸は、塩酸である。
【0021】
ホフマン反応後高分子中の一級アミノ基の含有量としては、5モル%〜60モル%であり、好ましくは10モル%〜50モル%である。5モル%未満であると、アミジン化反応が進行し難くなり好ましくない。また、50モル%より高く一級アミノ基を導入しようとすると、(メタ)アクリルアミドの共重合比を増加しなくてはならず、その結果(メタ)アクリロニトリルの共重合比が低下する。
【0022】
ホフマン反応の後、反応溶液を酸性にしてアミジン化反応を行う。この条件として温度を20〜100℃、好ましくは30〜80℃、pH0.5〜6、好ましくはpH0.5〜4の範囲に反応物を保持することによりアミジン化反応を行うことができる。使用する酸は、塩酸、硝酸、スルファミン酸などの強酸が好ましく、塩酸であることが最も好ましい。具体的条件としては、例えば、共重合物中の置換アミノ基に対して通常0.7〜5.0倍、好ましくは1.0〜2.5倍当量の強酸を加え、通常20〜100℃、好ましくは30〜80℃の温度で、通常0.5〜20時間加熱することによりアミジン単位を有するカチオン化高分子とすることができる。これは側鎖官能基である一級アミノ基とシアノ基が反応しイミノ基となりアミジン化することによる。一般に置換アミノ基に対する強酸の当量比が大きいほど、かつ、反応温度は比較的高いほうがアミジン化は進行する。また、アミジン化に際しては反応に供する共重合体に対し、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上の水を反応系内に存在させるとよい。
【0023】
繰り返し単位(4)の水溶性高分子としての性能に及ぼす影響は明らかでないが、悪影響はないと考えられる。繰り返し単位(4)は水溶性高分子中に5〜35モル%存在するが、ニトリルは安価なモノマーなので、繰り返し単位(4)の存在は、凝集剤の製造コストを低下させ、コストに対する性能の優位性を向上させるのに有効である。繰り返し単位(4)の好適な存在比率は5〜30モル%、特に5〜20モル%である。
【0024】
本発明に係る凝集剤において、繰り返し単位(4)とアミジン単位とのモル比〔(1)+(2)/(4)〕は一般に0.14〜13の範囲にある。好ましくは、このモル比は0.5〜5.0の範囲にあるべきである。というのはアミジン単位の多い方が水溶性高分子として用途が広がるからである。繰り返し単位(5)はカチオン性であり、アミジン単位と同じく凝集剤としての性能に有効に寄与していると考えられる。繰り返し単位(5)は凝集剤中に0〜55モル%、好ましくは5〜50モル%存在する。繰り返し単位(1)及び(2)はいずれも繰り返し単位(4)及び(5)から誘導されるものである。従って一般的に言ってできるだけ多くの繰り返し単位(4)が、繰り返し単位(1)及び(2)に転換されているのが好ましい。なお、本発明の水溶性高分子において繰り返し単位(5)とアミジン単位とのモル比〔(5)/(1)+(2)〕は、一般に0〜15の範囲にある。繰り返し単位(5)の水溶性高分子中での作用に関しては不明であるが、繰り返し単位(5)が多すぎるとポリアミジンとしての性能に影響を与える恐れがあり、多くする必要はない。従って繰り返し単位(5)とアミジン単位とのモル比〔(5)/(1)+(2)〕は、0〜4の範囲にあることが好ましい。
【0025】
本発明に係る水溶性高分子には、前述の繰り返し単位の外に更に他の繰り返し単位が含まれていてもよい。しかし、前述の繰り返し単位(1)〜(5)の合計が90モル%以上、好ましくは95モル%以上を占めるべきである。本発明に係る水溶性高分子中に通常含まれ得る他の繰り返し単位としては下記の(6)〜(8)のようなものがあげられる。
【0026】
【化2】

【0027】
(式中R1 、R2 は水素原子またはメチル基を、M+ は陽イオンを表わす。)繰り返し単位(6)は繰り返し単位(3)と繰り返し単位(4)の加水分解により生成する。すなわちニトリル類と(メタ)アクリルアミドの共重合体を強酸と水の存在下に加熱してアミジン構造を形成させる際に、共重合体中のシアノ基と酸アミド基の一部が加水分解して繰り返し単位(6)のカルボキシル基が生成する。
【0028】
繰り返し単位(6)(カルボキシル基単位)が水溶性高分子の性能にどのような影響を及ぼすかは、用途によるものと考えられるので結論できないが、一定程度のモル%では問題ないと推定される。従って水溶性高分子中の繰り返し単位(6)の比率は通常0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%の範囲にある。
【0029】
繰り返し単位(7)および/または(8)(ラクタム単位)は繰り返し単位(3)と(5)とから生成すると推定される。ラクタム単位の水溶性高分子の性能に及ぼす影響は不明であるが、その比率は一般に0〜5モル%、特に0〜2モル%の範囲にある。
【0030】
本発明の水溶性高分子の分子量は、前述の理由により重量平均分子量で1万〜500万の範囲にある。重量平均分子量が1万未満では、粘着性物質への吸着性が低下し、500万より高くなると凝集性が勝り本発明の目的には適さない。
【0031】
本発明の水溶性高分子は、先に述べたパルプ製造と製紙処理工程の際発生する粘着性析出物、すなわちピッチ、あるいは古紙製造時に由来するサイジング剤、ワックス類やコーティングバインダーなどの疎水的微細粒子であるステイッキーなど粘着性物質のドライヤーへの紙の付着、あるいは乾燥後成紙表面上の欠点(粘着性物質の凝集物による汚点)を減少させる作用に優れている。粘着性物質はもともと疎水性物質であるため、本発明による水溶性高分子中のアミジン構造単位が吸着しやすく、障害作用の防止に効果があると考えられる。また分子中にビニルアミン構造単位に起因する水素結合も優れた吸着作用を促進していると考えられる。
【0032】
製紙原料への添加量としては、乾燥製紙原料換算により0.005〜0.2質量%であり、好ましくは0.01〜0.1質量%である。添加方法は、抄紙前の製紙原料スラリーに添加することが好ましい。また配合前の製紙原料、すなわち最も汚れの原因となる原料パルプに直接添加したほうが顕著な効果を発現するため、個々の機械パルプあるいは脱墨パルプに加えることがより好ましい。従って添加場所の例として、種々のパルプが混合される混合チェストより、処理を目的とする原料パルプチェストに直接あるいは原料パルプチェスト配管出口などが上げられる。
【0033】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
【0034】
(合成例)撹拌機、窒素導入管、冷却管を備えた500mlの四つ口フラスコに、表−1に示すモル分率のアクリロニトリルを含有する、アクリロニトリルとアクリルアミドの混合物60.0gおよび240.0gの脱塩水を入れた。窒素ガス気流中、撹拌しつつ30℃に昇温したのち、1%の2,2′−アゾビス−2−アミジノプロパン・2塩酸塩水溶液0.3gを添加した。30℃で4時間、撹拌保持した後、50℃に昇温し、更に3時間保持し、水中に重合体が析出した懸濁物を得た。該懸濁物に水を20g添加し、次いで、重合体中のホルミル基に対して1.5当量の濃塩酸を添加して撹拌しつつ85℃に4時間保持し、重合体をアミジン化した。得られた重合体の溶液をアセトン中に添加し、析出せしめ、これを真空乾燥して試作―1〜試作―4を得た。
【0035】
試作―1〜試作―4につき、以下に示す方法により組成と重量平均分子量を測定した。結果を表−1に示す。
【0036】
アミジン化を行う前の各原料重合体の組成は、13C−NMRスペクトル(13C−該磁気共鳴スペクトル)の各モノマー単位に対応した吸収ピークの積分値より算出した。アミジン化後の重合体A〜Eの組成は、13C−NMRスペクトルの各繰り返し単位に対応した吸収ピークの積分値より算出した。なお、繰り返し単位(1)と(2)は区別することなく、その総量として求めた。繰り返し単位(7)と(8)も区別することなく、その総量として求めた。
【0037】
また、繰り返し単位(1)と(2)、(3)及び(7)と(8)の吸収ピークは170〜185ppm付近の非常に近接した位置に認められるため、以下のような方法により各吸収ピークに対応する構造を帰属した。即ち、重合体の元素分析、水分量の測定により質量収支を確認し、更に、重合体の13C−NMRスペクトルの他にIRスペクトルも測定し、重合体のスペクトルとアミジン基、アミド基及びラクタム基等を有する既知化合物でのスペクトルとを詳細に比較検討する方法を採用したものである。
【0038】
試作―1〜試作―4につき、1規定の食塩水中0.1g/dlの溶液として静的光散乱法による分子量測定器(大塚電子製DLS−7000)によって重量平均分子量を測定した。
【0039】
(表1)

AAM;アクリルアミド、AN;アクリロニトリル、1+2;アミジン、3;酸アミド、4;ニトリル基、5;一級アミノ基、6;カルボキシル基、7+8;ラクタム基、
【実施例1】
【0040】
試験用の製紙原料として、ライナー原紙用製紙原料(ダンボール古紙を主体としたもの)、新聞用紙用製紙原料(新聞古紙を主体としたもの)、および比較のためCSF=400mLに叩解した広葉樹晒クラフトパルプを用いた。
【0041】
(薬剤の添加とウェットシートの作成)対象原料に本発明で使用する水溶性高分子、試作―1〜試作―4を対製紙原料乾燥分0.03%となるように添加し、1分間攪拌した。その後、直径90mmの円形ろ紙(ワットマンNo.41 20〜25μm以上の粒子保持)で5分間濾過し、濾過後の原料から濾紙を剥がし、剥がしたウェットシートを使用する。測定面は、剥がしたウェットシートの濾紙に面していない側の面とする。濾過量は、直径90mmの大きさで坪量150g/m2になるように、対象原料の濃度を計算して採取する。このウェットシートを濾紙に面していない側を測定面とし、SUS板に張り合わせ、上の粘着物を媒体に転写する。この際、ウェットシートのSUS板(厚さ0.1mm)に張り付けた面と反対面に厚手の濾紙を合わせ、プレス機にセットし、410KPa、5分間加圧する。
【0042】
次にウェットシートを張り付けたSUS板をロータリードライヤーにセットし、105℃で6分間加熱する。この際、ロータリードライヤーのシリンダー側にSUS板を、フェルト側は転写されたウェットシート側をセットする。
【0043】
(転写された粘着物の総量と総数のカウント)加熱後、SUS板上のウェットシートからの付着面(直径90mm)中の任意の箇所20箇所を選択し、実体顕微鏡を用いてデジタルカメラで撮影し、画像としてコンピュータに保存する。その後、画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc. IMAGE−PRO PLUS Ver.5.0) を用い、RGB値のレンジ設定を調整することにより、目的とする粒子を抽出した。抽出した付着物の中から、大きさ、長短半径比、穴数、穴面積の最適条件下で再度抽出し、繊維分や他の付着物と、粘着性ピッチを判別する。その抽出した粒子について、粘着性ピッチ総面積、総個数を測定し、1mあたりに換算した。結果を表2に示す。
【0044】
(比較例)アクリル系重合系高分子(メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド単独重合体)、重量平均分子量40万(比較―1)、ジメチルアミン/ポリアミン/エピクロロヒドリン縮合物、重量平均分子量約6,000(比較―2)に関して試験を行った。結果を表2に示す。
【0045】
表2の数値をみて分かるように、アクリル系重合系高分子(比較品―1)は、粒子の捕捉能力に優れ、濁度、カチオン要求量が低下する結果が得られたが、熱転写法での粗大粘着性ピッチの測定では、本発明の水溶性高分子より低減効果が劣る結果であった。それに較べ本発明の水溶性高分子は、粘着性ピッチ数、粘着性ピッチ総面積とも低減していて、粗大粘着性ピッチ低減効果が高いことが分かる。










【0046】
(表2)ダンボール古紙を主体とした製紙原料の評価試験

























【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸で中和するとともに加熱処理することからなる、下記式(1)および/または式(2)で表される繰り返し単位を5〜67モル%、下記式(3)で表される繰り返し単位を0〜85モル%、下記式(4)で表される繰り返し単位を5〜35モル%および下記式(5)で表される繰り返し単位を0〜55モル%から構成される製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤。
【化1】

式中R1 ,R2 は水素原子またはメチル基を、X- は陰イオンを表わす。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物が(メタ)アクリルアミド60〜90モル%、(メタ)アクリロニトリル40〜10モル%からなることを特徴とする請求項1に記載の製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤。
【請求項3】
前記酸が、塩酸であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤。
【請求項4】
前記中和をpH0.5〜4の範囲で実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤。
【請求項5】
前記粘着性物質が、水に溶解しない疎水的な成分であることを特徴とする請求項1に記載の製紙における粘着性物質による障害作用抑制剤。
【請求項6】
(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、酸で中和するとともに加熱処理することからなる、下記式(1)および/または式(2)で表される繰り返し単位を5〜67モル%、下記式(3)で表される繰り返し単位を0〜85モル%、下記式(4)で表される繰り返し単位を5〜35モル%および下記式(5)で表される繰り返し単位を0〜55モル%から構成される水溶性高分子からなる障害作用抑制剤を、抄紙前の製紙原料中に添加することを特徴とする製紙における粘着性物質による障害作用抑制方法。
【化1】

式中R1 ,R2 は水素原子またはメチル基を、X- は陰イオンを表わす。












【公開番号】特開2009−120966(P2009−120966A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292682(P2007−292682)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】