説明

粘着材層を備えたフィルム材の切断方法、及びスリット装置

【課題】
粘着材層を備えたフィルム材を細幅に切断するに際し、粘着材層が基材から剥離してしまうのを有効に回避することができる粘着材層を備えたフィルム材の切断方法、及びスリット装置を提供する。
【解決手段】
連続的に繰り出される粘着材層を備えたフィルム材20を、切断刃ユニット30の直下に吹き出し口33aが位置するように設置された温風送風機33から温風を吹き付けて加温して、少なくとも粘着材層の基材との接触界面を軟化させた状態で切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着材層を備えたフィルム材を細幅に切断するに際し、粘着材層が基材から剥離してしまうことなく、高い幅精度で連続的に安定して切断することができる粘着材層を備えたフィルム材の切断方法、及びスリット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粘着テープなどのテープ状部材は、幅広のフィルム基材に粘着材層を塗工形成するなどした後に、これを細幅のテープ状に切断しながらロール状に巻き取ることによって製造されている。
また、このようにして粘着テープを製造するにあたり、フィルム材を細幅に切断するための装置としては、例えば、特許文献1などに開示されているようなスリット装置が知られている。
【0003】
特許文献1に開示されているスリット装置は、円盤状の上刃と上部スペーサーリングとを交互に軸に組み付けた上部ユニットと、円盤状の下刃と下部スペーサーリングとを交互に軸に組み付けた下部ユニットとからなるブロック刃方式のスリット装置において、上刃の周面と下刃の周面が対向し、斜向かいの上刃の切刃と下刃の切刃とが摺接し、かつ、隣り合う上刃同士の間隙又は隣り合う下刃同士の間隙を所定幅とすることにより、スリットした粘着テープの中央部と両縁部との厚みの差や、縁部の反りを低減することができるとしている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−326284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、特許文献1のようなスリット装置によって、粘着材層を備えたフィルム材を細幅に切断して粘着テープを製造するには、未だ改善すべき課題が残されており、その切断の際に、粘着材層が基材から剥離してしまう不具合があることを見出した。
【0006】
すなわち、近年にあっては、基材上に形成された粘着材層に導電性微粒子を含有させてなる異方導電性フィルムが、液晶ディスプレイなどの回路接続に多用されており、この種の異方導電性フィルムは、通常、上記したのと同様にしてテープ状に切断したものがリールに巻き取られて製造、供給されているが、このような異方導電性フィルムにあっては、粘着材層に含有される導電性微粒子などの添加剤が、粘着材層と基材との密着性を低下させてしまう傾向がある。
このため、粘着材層の配合組成によっては、異方導電性フィルムを細幅に切断する際に、粘着剤層と基材との界面に作用する応力によって、離型処理が施された基材から粘着材層が剥離してしまうという不具合が生じることがあった。
【0007】
本発明は、上記のような本発明者らの検討に基づいてなされたものであり、粘着材層を備えたフィルム材を細幅に切断するに際し、粘着材層が基材から剥離してしまうのを有効に回避することができる粘着材層を備えたフィルム材の切断方法、及びスリット装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明に係る粘着材層を備えたフィルム材の切断方法は、基材上に粘着材層を備えたフィルム材を連続的に繰り出しながら切断刃により細幅に切断するにあたり、前記フィルム材を加温して、少なくとも前記粘着材層の前記基材との接触界面を軟化させた状態で、前記フィルム材を切断する方法としてある。
【0009】
このような方法とすることにより、粘着材層と基材との密着性を高めるとともに、フィルム材を切断する際に、粘着剤層に作用する応力が吸収されるようにして、粘着材層の基材からの剥離を防止し、高い幅精度でフィルム材を連続的に安定して切断することができる。
【0010】
また、本発明に係る粘着材層を備えたフィルム材の切断方法は、前記フィルム材に温風を吹き付けて加温する方法とすることができるが、少なくとも粘着材層の基材との接触界面が軟化して、粘着材層と基材との密着性がよくなるとともに、粘着剤層に作用する応力が吸収されるように、前記温風の設定温度は、30〜60℃とするのが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る粘着材層を備えたフィルム材の切断方法では、塵埃の混入を避けるために、集塵フィルターを介して前記温風を送風するようにするのが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る粘着材層を備えたフィルム材の切断方法は、前記切断刃を予め加温しておく方法とするのが好ましく、このような方法とすれば、切断刃との接触によって加温されたフィルム材の温度が低下してしまったり、切断刃に粘着材が付着してしまったりするのを防止することができる。
【0013】
このような、本発明に係る粘着材層を備えたフィルム材の切断方法は、前記フィルム材が、異方導電性フィルムである場合に特に好適である。
【0014】
一方、本発明に係るスリット装置は、基材上に粘着材層を備えたフィルム材を連続的に繰り出しながら切断刃により細幅に切断するスリット装置であって、切断時に前記フィルム材を加温して、少なくとも前記粘着材層の前記基材との接触界面を軟化させるための加温装置を備えた構成としてあり、前記加温装置としては、フィルム材を加温する際の温度管理が容易などの理由から、温風送風機を用いるのが好ましい。
【0015】
このような構成とすることにより、フィルム材を切断するに際して、粘着材層が基材から剥離してしまうのを防止し、高い幅精度でフィルム材を連続的に切安定して切断することができる。
【0016】
また、本発明に係るスリット装置は、装置全体がフードで覆われている構成とすることができる。
このような構成とすれば、スリット装置の周囲の環境温度を一定にして、フィルム材を切断するとき以外に、フィルム材に応力が作用したとしても、粘着材層が基材から剥離してしまわないようにすることができる
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粘着材層を備えたフィルム材を細幅に切断するに際して、フィルム材を加温して、少なくとも粘着材層の基材との接触界面を軟化させることにより、粘着材層と基材との密着性を高めるとともに、粘着剤層に作用する応力が吸収されるようにすることができる。このため、フィルム材を切断する際に、粘着材層が基材から剥離したりすることなく、高い幅精度で連続的に安定して切断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、図1は、本発明に係るスリット装置の一例を示す概略図である。
【0019】
図1に示すスリット装置10において、巻出軸11には、粘着材層を備えたフィルム材20が巻き取られたロール21が取り付けられている。そして、フィルム材20は、ロール21から、送りローラ12を介して切断刃ユニット30に繰り出されるようになっている。
【0020】
本実施形態で切断する対象となる粘着材層を備えたフィルム材20としては、例えば、必要に応じて離型処理が施された、ポリエチレンテレフタレート,四フッ化エチレン,四フッ化エチレン−エチレン共重合体,ポリイミドなどからなる基材上に、エポキシ系樹脂,ウレタン系樹脂,アクリル系樹脂などを単独で、又は適宜混合するとともに、必要に応じて種々の添加剤を配合してなる粘着材を塗工してなるものが挙げられる。
【0021】
また、本実施形態において、切断刃ユニット30は、上刃連装体31と、下刃連装体32とを備えて構成されている。
図2に示すように、上刃連装体31には、先細り状とされた刃先部を周端に有する円板状の複数の上刃311が、スペーサ312を介して支持軸313に所定間隔で組み付けられている。一方、下刃連装体32には、軸心にほぼ平行な平坦面を周端に有する円板状の複数の下刃321が、スペーサ322を介して支持軸323に所定間隔で組み付けられている。そして、上刃連装体32に組み付けられた各上刃311の刃先部が、下刃連装体32に組み付けられた各下刃321の間に挿入され、それぞれの上刃311と、対応する下刃321とによってフィルム材20を切断することができるように、上刃連装体31と、下刃連装体32との軸心距離などの相対的な位置関係が調整されている。
【0022】
このような切断刃ユニット30において、上刃連装体31と、下刃連装体32とは、フィルム材20の繰り出しに同期して、図1中矢印方向に回転するように、図示しない駆動手段に接続されている。そして、上刃連装体31と、下刃連装体32との間にフィルム材20を挿通させることによって、挿通されたフィルム材20が所定幅のテープ状に切断されるが、このときの上刃311及び下刃321のそれぞれの組み付け間隔が、フィルム材20の切断幅になる。
本実施形態において、フィルム材20の切断幅は、好ましくは0.5〜4.0mmであり、より好ましくは1.0〜3.0mmである。
【0023】
本実施形態に用いる切断刃ユニット30としては、この種のスリット装置に従来から用いられている種々のものを利用することができるが、上記したような切断刃ユニット30を用いれば、下刃連装体32に組み付けられた下刃321の周端の平坦面にフィルム材20を支持した状態で、フィルム材20を切断することになり、切断時のフィルム材20の位置ずれなどを抑止して、フィルム材20の切断を精度よく行うことができるため好ましい。
【0024】
また、上記したような切断刃ユニット30によってフィルム材20を切断するにあたり、図示する例では、下刃連装体32にフィルム材20を巻き付けるようにフィルム材20を繰り出しているが、このとき、フィルム材20の基材側を下刃連装体32に対向させるのが好ましい。
このようにすれば、下刃連装体32にフィルム材20が巻き付いた状態において、粘着材層に作用する応力を相対的に低減させることができる。
【0025】
そして、本実施形態にあっては、上刃連装体31と、下刃連装体32との間にフィルム材20を挿通して切断するに際して、温風送風機33からフィルム材20に温風を吹き付けて加温することにより、少なくとも粘着材層の基材との接触界面を軟化させている。
これにより、粘着材層と基材との密着性を高めるとともに、フィルム材20を切断する際に、粘着剤層に作用する応力が吸収されるようにして、粘着材層が基材から剥離してしまうというような不具合を、有効に回避することができる。
【0026】
ここで、図1に示す例では、切断刃ユニット30の直下に吹き出し口33aが位置するように温風送風機33を設置し、切断刃ユニット30により切断される直前のフィルム材20を加温するようにしているが、スリット装置10の全体をフードで覆うとともに、好ましくは切断刃ユニット30の近傍から、フード内に温風が送風されるようにしてもよい。
【0027】
このようにすれば、スリット装置10の周囲の環境温度を一定にして、ロール21から繰り出されたフィルム材20が切断され、後述するようにリール50に巻き取られるまでの間のフィルム材20の温度変動を抑制することができる。
これにより、フィルム材20を切断するとき以外にも、送りローラ12などによってフィルム材20が曲げられたり、温度変化によって膨張・収縮したりするなどして、フィルム材20(粘着材層)に応力が作用したとしても、粘着材層が基材から剥離してしまわないようにすることができる。
【0028】
本実施形態において、フィルム材20に吹き付ける温風の設定温度は、粘着材層の配合組成にもよるが、少なくとも粘着材層の基材との接触界面が軟化して、粘着材層と基材との密着性がよくなるとともに、粘着剤層に作用する応力が吸収されるようにすればよく、好ましくは30〜60℃、より好ましくは35〜50℃であり、特に好ましくは35〜40℃である。
【0029】
また、温風送風機33からフィルム材20に温風を吹き付けるにあたり、塵埃の混入を避けるために、温風送風機33には集塵フィルターを設けておくのが好ましく、集塵フィルターとしては、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター、ULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルターなどを用いることができる。
【0030】
また、切断刃ユニット30との接触によって、加温されたフィルム材20の温度が低下してしまったり、切断刃ユニット30に粘着材が付着してしまったりするのを避けるために、上刃連装体31や、下刃連装体32には、ヒータを接続しておくなどして、予め加温しておくのが好ましい。
【0031】
このようにして切断刃ユニット30によって細幅に切断されたフィルム材20a,20bは、その送り方向が、幅方向に沿って交互に二方向に分けられ、一つおきに、第一の幅広げローラ40aと、第二の幅広げローラ40bへと、それぞれに送られる。そして、図3に示すように、隣り合うフィルム材20a(20b)との間隔が、各幅広げローラ40a(40b)によって広げられた、それぞれのフィルム材20a(20b)は、ラフガイド13と、巻取ガイド14とにより張力が調整されながら、巻取軸15に取り付けられたリール50に巻き取られていく。
なお、切断幅の調整などのために不要となるフィルム材20の両端部分は、フィルム材20を切断した後に、必要に応じて図示しない耳巻取機に巻き取るようにすることもできる。
【0032】
以上のような本実施形態によれば、粘着材層を備えたフィルム材20を細幅に切断するに際し、粘着材層が基材から剥離してしまうのを防止することができ、特に、粘着材層に含有される導電性微粒子などの添加剤が、粘着材層と基材との密着性を低下させてしまう傾向がある異方導電性フィルムを製造する過程において、このような異方導電性フィルムを所定の細幅に切断するのに好適である。
【0033】
また、粘着材層の剥離は、粘着材層の基材との剥離強度が低くなるほど発生しやすくなるが、粘着材層の剥離強度が0.1N/mm以下のときに本実施形態を適用すると、本実施形態の効果を顕著に得ることができ、より好適には0.05N/mm以下である。
なお、剥離強度は、基材に密着している粘着材層を、垂直に引き剥がすのに要する力を単位幅あたりに換算した数値である。
【実施例】
【0034】
次に、具体的な実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0035】
[実施例]
ポリエチレンテレフタレートからなる幅65mmの基材上に、アクリルゴムを主成分とする粘着材層が20μmの厚みで塗工形成されたフィルム材20をロール状に巻き取り、図1に示すスリット装置10の巻出軸11に取り付けた。
なお、粘着材層の剥離強度は0.02N/mmであった。
【0036】
次いで、フィルム材20に40℃に設定された温風を吹き付けつつ、基材側が下刃連装体32と対向するようにフィルム材20を繰り出して、フィルム材20を1.5mm幅に切断した。そして、不要となったフィルム材20の両端部分を耳巻取機に巻き取るとともに、切断されたフィルム材20a,20bをそれぞれリール50に巻き取ったところ、フィルム材20を切後してからリール50に巻き取るまでの間に、粘着材層の基材からの剥離は認められなかった。
【0037】
[比較例]
フィルム材20に温風を吹き付けなかった以外は、上記実施例と同様にして、フィルム材20を切断したところ、切断されたフィルム材の粘着材層が基材から剥離してしまい、フィルム材20の繰り出しを停止しなければならない不具合が頻繁に発生した。
【0038】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0039】
例えば、前述した実施形態では、フィルム材20に温風を吹き付けて加温しているが、フィルム材を加温する手段は、このようなものには限られない。
例えば、誘導加熱などで搬送ロール21自体を加温する方法や、赤外線などのふく射を利用して、フィルム材20を加温する方法などが考えられる。
また、スリット装置10に備える加温装置としても、フィルム材20を加温する際の温度管理が容易などの理由から、前述した実施形態のように、温風送風機33を用いるのが好ましいが、この他にも、例えば、ヒータ、電熱線、温水ジャケットなどの加温装置を用いることもできる。
【0040】
また、前述したように、切断刃としては、この種のスリット装置に用いられている種々のものを利用でき、そのような場合であっても、フィルム材20を加温して、少なくとも粘着材層の基材との接触界面を軟化させるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明は、粘着材層を備えたフィルム材を連続的に安定して細幅に切断する方法、及びスリッタ装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るスリット装置の一例を示す概略図である。
【図2】切断刃ユニットの一例を示す説明図である。
【図3】幅広げローラの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0043】
10 スリット装置
20 フィルム材
30 切断刃ユニット
33 温風送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に粘着材層を備えたフィルム材を連続的に繰り出しながら切断刃により細幅に切断するにあたり、
前記フィルム材を加温して、少なくとも前記粘着材層の前記基材との接触界面を軟化させた状態で、
前記フィルム材を切断することを特徴とする粘着材層を備えたフィルム材の切断方法。
【請求項2】
前記フィルム材に温風を吹き付けて加温する請求項1に記載の粘着材層を備えたフィルム材の切断方法。
【請求項3】
前記温風の設定温度が、30〜60℃である請求項2に記載の粘着材層を備えたフィルム材の切断方法。
【請求項4】
集塵フィルターを介して前記温風を送風する請求項2〜3のいずれか1項に記載の粘着材層を備えたフィルム材の切断方法。
【請求項5】
前記切断刃を予め加温しておく請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着材層を備えたフィルム材の切断方法。
【請求項6】
前記フィルム材が、異方導電性フィルムである請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘着材層を備えたフィルム材の切断方法。
【請求項7】
基材上に粘着材層を備えたフィルム材を連続的に繰り出しながら切断刃により細幅に切断するスリット装置であって、
切断時に前記フィルム材を加温して、少なくとも前記粘着材層の前記基材との接触界面を軟化させるための加温装置を備えたことを特徴とするスリット装置。
【請求項8】
前記加温装置が、温風送風機である請求項7に記載のスリット装置。
【請求項9】
装置全体がフードで覆われている請求項7〜8のいずれか1項に記載のスリット装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−90461(P2007−90461A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280488(P2005−280488)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】